とにかく捕まえろ! 5アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
極楽寺遊丸
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや易
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報酬 |
1.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
11/24〜11/26
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●本文
「いやいや〜、最近はめっきり寒くなってきたねぇA君よ。人肌をもの凄く恋しく感じるよ」
「あっそ。僕は恋人のミカちゃんとラヴラヴですので、まーったくそれは感じませんよ」
自分の座る椅子をズリズリと動かし、スタッフA君ににじり寄るのは毎度お騒がせディレクターT氏。
ちょっとばかり悲しげな声でA君に甘え訴えるも、さらりと流されてしまう。二人の間の僅か三十センチにも満たない空間には見えない鉄の壁でもあるかのようだ。
「あぁ‥‥俺の心が伝わらず、キャッチしてくれないなんて‥‥。秋風が吹き抜けていくよA君。隣の君は何をする人ぞ」
「季節は既に晩秋で、もうすぐ冬です。心は仮に間違えてキャッチをしてしまったとしても、しっかりリリース(放流)しますね。そろそろ僕を含めて色々な人が迷惑している事を自覚し、心を入れ替えてから言って下さい」
A君はPCの画面からまったく視線を外さず、キッパリサッパリ木枯らしの如く痛烈な言葉で答えた。
あまりの仕打ちにT氏は机に突っ伏し、よよよっと泣き真似をする。近くに置かれた飲み物の入る紙コップに指を突っ込み、中の液体を頬に塗りつけ涙と見せかけるが、いかんせんそれは炭酸飲料。頬がシュワシュワするだけで同情は買えなかった。
仕方なくティッシュで顔を拭いポツリと呟く。
「うぅぅ‥‥。せっかく良い企画が思いついたのに‥‥」
「ど〜せ、くだらないモノでしょう。却下です! 却下」
A君は画面から視線を外さず、まるで塵でも払うように手の甲で払う仕草。取り付く島もないとはこの事だ。塩に揉まれるキュウリの如く、気持ちが萎えたT氏は取り出した箱を再度、ボストンバッグに仕舞い込む。とっても残念そうな表情だが、心の奥底はどうも違うらしい。唇の端がやや引きつり上がっている。
「さっきこれ‥‥『高級国産松茸数十本、かぼす入り』の桐箱を拾ったんだよねー。これを使って番組が出来ないものかって考えたんだけど。仕方ない。持ち帰って食べるか‥‥」
「チエストォ〜〜!!」
ごげしっ!!
若い世代にはかなり解り辛い時代掛かった声と共に、A君の鋭い横蹴りが飛んだ。まともに受けたT氏は勢いあまって無様に吹っ飛ぶ。
その手から離れた桐箱をヒーローさながらにポーズを決め、A君が素速くキャッチ。
「拾って来ただと? これはHスタジオ『高級素材でレッツ☆ お料理』で使われる予定の松茸で、一時間前からスタッフ達が必死に探しまくっていたモノじゃないか! 収録出来ずご立腹している出演者達を宥めている間、新たに番組企画を急遽捻っていた俺の横で、貴様ぁぁ〜〜っ!」
「そ、そうだったの? 局内散歩をしていたら、たまたま入ったHスタジオの隅のテーブルの上に落ちてたんだよね。誰も気付かない様子だったから拾って来ちゃった」
「☆♀雑$#§★!」
ぶちっ!
床に転げたT氏は、素で大馬鹿発言ぶちかます。A君は極度の怒りのため、人語を超えた言葉を発し、頭から紐が切れる鈍い音を響かせ蟹のように泡を吹きだし白目を剥いて、ぶっ倒れた。
「わあ、A君。大丈夫?! この松茸は君が最後に持っていたモノとして、俺が大切に胃袋の中に仕舞っておくよ。さらば」
そんな彼を心配する素振りでまんまとT氏は桐箱を強奪し猛ダッシュ。
意外に逃げ足の早いT氏。部屋にいたスタッフ達の介護でA君が意識を取り戻した時には、T氏は部屋を後にしたところだった。
A君は地獄の底から響くような唸り声を上げ、
「親父のコネの分際でやりたい放題、番組を幾つクラッシュさせれば気が済むんだぁ〜。今度こそ許さねぇ‥‥封印したかったあの番組『とにかく捕まえろ!』を急遽企画する! ヤツはまだ近くにいるハズだ。全員、フロアの階段やエレベータを塞げ! 同時にいつものように出演者者さんに捕獲道具の手配だ!」
「あ、あいあいさー!」
と携帯を取りだし、ガードマンからT氏が外に出ていない事を確認したA君。素速い指示の下、小道具に使われる刺す股や取り餅、はたまた鞭や一斗缶にスリッパ、ハリセンなど段ボールに入った捕獲道具が次々と運び込まれ、あの企画が発動した!
揃った道具を見たA君は、
「うまく捕獲して高級松茸(ふぐ刺し付き)のフルコースをご馳走になる予定だ。皆‥‥あまり痛めつけず、なるべく生け捕りで行こう」
「お〜〜!」
それを聞いた途端、誰もがやる気を見せたのは言うまでない。
■出演者募集
怒りに駆られたA君が急遽、企画した『とにかく捕まえろっ! 5』。T氏生け捕り大作戦を決行します。
天然ボケの一風変わったT氏に負けない勇者(猛者)さん方を大募集。ただし子供も視聴している事がありますので、色々と(←強調)やりすぎないようにお願いします。
我こそは! と思われる腕自慢のあーた! どうぞ奮ってご参加を下さい。お待ちしております。
申し忘れておりましたが、彼らに同行してくださるカメラマンさん数名を含む撮影クルーも同時に募集しております。
どうぞ奮ってご参加ください。
■内緒の注意事項
沢山の人間が出入りするTV局での撮影のため、獣人は禁止。半獣人になられる場合、ばれないようにしてください。
■捕獲ターゲットファイル
T氏 番組ディレクター(?) 本名は槌田馨 三十五歳。 妻子有り。
どうやら御曹司らしいが、やるこなす事無茶苦茶な男。スタイル抜群の美麗な女性、青年に滅法弱い。只今、高級松茸を手にフロアを遁走している。
要注意する点は、大学時代アメフト部でランニングバックも勤めていたらしく、交わし上手と言う事。攻撃はどんな手を使ってくるかは今のところ予測不可能? 美麗の方が相手の場合、いきなり抱きついたりする恐れがあるのでかなり警戒が必要。
またA君を囮に使う事も可能だが、怒りに駆られた彼が何をしでかすか解らないのでリーサルウエポンのみで使うのが得策かと思われる。
●リプレイ本文
●
毎度の会議室。集結した七名の勇者が不気味なオーラを放つスタッフA君に引きつつも、今回の標的である高級松茸を手に逃走しているディレクターT氏捕獲(ボコリ)作戦会議を開いていた。
「‥‥で、どこまで絞り込めてるんだ?」
「一応、フロアにある階段、エレベータ等はスタッフを配備して規制してあります。まず他へ逃げ込むのは難しいでしょう」
用意されたフロアの地図を眺めながらブリッツ・アスカ(fa2321)は、図面の部屋の配置や逃げ込まれそうな箇所を頭に叩き込む。
「ねぇ、T氏って大学時代にアメフトをしてたって事だけど、体力は底無しって事は無いよね? 三十歳過ぎるガタが来るって聞いた事あるし」
「けど今も走り回ってるわけでしょ? スゴい人だよね。ボクの技を試すのにこんなにピッタリな人は滅多にいないかも! 実験台にしちゃうのが楽しみ☆」
三十路のスタッフの痛い所を抉る姫乃 唯(fa1463)と楽しそうな進藤・悠希(fa5072)。両者可愛らしい顔に似合わない爆弾発言を炸裂させた。
「俺にはT氏って人物がどういう器なのか知らねーけど、聞く限り相当な我侭さんとしか思えない。逃げ込んでいると考える資材室や物置を闇雲に探すのも手間が掛かりそうだし、仮に走り回っていたとしても追いかけるのも大変そうだ。万が一そうだとして、こっちが単独で行動すればなんらかの悪戯を仕掛けてくる気がするし、他番組の出演者やスタッフにも迷惑が掛けるかもしれない。だから危険な行動はなるべく避けていかないか?」
「そうだね。だったらT氏をよく知るA君に守衛室に行って貰い、防犯カメラを使って居場所を携帯などで連絡して貰うってどうかな? それだと逐一互いの状況が解りあえるし」
「OKOK、了解した。バカ捕獲には携帯使って居所突き止める、得策じゃない? 勿論その時は手加減抜きだね! けど全員で走るより指示された場所に囮役を待機させ、釣ってフクロがいいんじゃないかな? どうも美麗に弱いみたいだしさ」
ふむっと腕を組み思案する葛城・郁海(fa4807)にブリッツが彼の言葉で閃いた作戦を口にする。一同、その案に身を乗り出した。
そこにMAKOTO(fa0295)が姫乃に続く爆弾発言と補足を加えると、しゅたっと手を上げ囮役を買って出てる二人の人物。
「ふっ、ではトップバッター見目麗しい囮役その1に立候補です」
「なら俺も続いて囮役その2に立候補! 儚い少女の次はクールで知的な人物、しかも皆から愛されるネコ耳付きで。松茸を食べられるのなら俺はマジで行きますよ!」
「お、良いですね。お願いします! ‥‥ところで忍さん、頭に付くネコ耳は一体?」
フリルがたっぷり付いた衣装がよく似合う可憐な阿野次 のもじ(fa3092)と、きめ細かい肌に薄化粧を施し、身体にフィットしたスーツを着込む忍(fa4769)だ。だが彼はクールな恰好とは不釣り合いに思えるネコ耳を付けている。A君の突っ込みが入るとすかさず、
「今度の撮影の衣装合わせ中だったんです。まぁ気にせず捕獲作戦と行きましょう!」
ここ最近、半獣化で撮影が多く、あっさりと答えると腕を振り上げ扉に向かった。松茸が賭かる彼に色々な意味で恐いモノは無さそうである。
●
会議室から離れたT路地のどんつき部分。
「もうすぐここを通過するそうだ。用意!」
高機能双眼鏡と携帯を手にする葛城は、守衛室に入ったA君の指示を受け、囮一号の阿野次と進藤に促す。その直後、猛進してくるT氏に素速く身を隠した葛城。
阿野次は床に倒れ込み、
「野麦峠で捕まえて! のもじが峠でデビルマックスパワーメイクアップで3匹が切るの巻。‥‥こほんこほん、あぁ持病の癪が」
「ん? お嬢ちゃん。そんなところに座っちゃ通行の邪魔だよ。なに具合が悪いの? ならおトイレに行けばいい。君、可愛いけど俺の好みはボンッキューッキューなんだw チェンジー」
ぴょょん!
潤んだ瞳でT氏を見るも彼は瞬時に彼女の身体を眺め、いとも容易くスルーし飛び越えていく。ぽつーんと阿野次は廊下に残され、あんまりな言葉に呆然としてしまった。
そこに二陣の進藤。
「あ、あの‥‥TV局広くて道に迷っちゃったんです、スタジオまで連れて行ってくれませんか‥‥」
こちらも目を潤ませ、T氏の上着の裾を掴み愛らしく首を傾げる。それは無償の優しさを与えたくなる様な可憐な仕草。思わず足を止めた彼に、進藤はそれを見逃さず素速く押し倒し得意の寝技キャメルクラッチに持っていく。
「やったー。捕獲、この技どうかな? そう簡単に死にそうにないよね‥‥って、きゃぁ?!」
んべろんっ!
「このシュチュはグだけど、どうも萌えないねぇ。けどネタは次に制作するドラマに使わせて貰うよ、じゃねー」
「どうせ、ボクは幼児体型ですよーだ!」
何をしでかすか解らないのがこのT氏。技の実験とはいえ、やや手加減をした彼女の手を最大限伸ばした舌でべろりと舐める。生暖かい感触に堪らず進藤は離してしまった。T氏は機会を見逃さず素速く身体を起こし、スタコラサッサ逃げていく。転げた彼女は悔しさを押さえ後を追いかけた。
「こちら葛城。第一作戦失敗。T氏は右に曲がり逃走。俺も跡追う」
「了解。‥‥ブリッツさん、MAKOTOさん方面だな! 合流を宜しく」
守衛室のモニターを確認したA君が、葛城の報告を受けすぐに指示を出した。
●
何も知らず非常口から逃げようとするT氏。だが、扉が押さえられている事に気付き、再び他を見つけに走る。
しかし角を曲がった途端にブリッツとMAKOTOが立っていた。
「見つけたよT氏! 観念しろっ」
「ブリッツちゃん、久し振りって‥‥な、なんか恐いよっ」
「アメフトをしていた相手とはいえ、武器や凶器等の玩具は不要。素人相手ならこの身と会得した技術だけで充分!」
A君に負けない凄まじい気迫を背負ったブリッツと不敵な笑みを浮かべるMAKOTOが迫る。パワフルな二人に怯むT氏。
あと数歩まで追い詰めるも突然、某害虫がみせる捨て身の特攻宜しく彼女達に向かっていった。
驚き咄嗟に足を振り上げたブリッツにT氏は吸い込まれる様に顔が入り、見事ハイキックが決った。それは無意識の境地、修行の成果だ。
しかし受けた方は堪らない。低く唸り声を上げ、べしょっ床に突っ伏する。そこにMAKOTOが捕らえようと手を伸ばした。
だがすぐに目を覚ましたT氏は桐箱を抱えゴロゴロっと回転しながら難を逃れる。ある程度転がり、安全を確かめるとすぐにロケットダッシュ。
「むほほ、目が回った‥‥ぜ。取り敢えずさらばだ!」
「ちぃ、ほんと逃げ足が早いね!」
MAKOTOは一歩及ばずスカッた手を握りブリッツと共に走る。そこに追いついた葛城が携帯を取りだし、
「こちら葛城。またも逃げた。角を曲がられ見失いそうだ。連絡を頼む」
「了解。‥‥そのまま直進で逃走している模様」
「解った。真っ直ぐだな」
葛城と同じように携帯を繋いでいたブリッツは、大きく息を吸い込みぐんと足を速めた。
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「ひぃーあいつらマジだな、堪らないね!」
「ちょっと退いて! 怪我してもこれはT氏の責任だから、治療費はあいつに請求して!」
「T氏、こっちです、早く!」
「よく解らないけどサンキュー」
桐箱を抱え猛ダッシュのT氏を般若の様な気迫で追うブリッツとすれ違う人々を猛牛の如く弾き飛ばすMAKOTO。あまりの凄さに驚きながらも更に加速する彼にタイミングよく扉を開け姫乃がT氏を手招きする。彼は天の助けとばかりに滑り込んだ。すぐに締めた扉の向こうから凄い足音が響き、息を殺し過ぎるのを待つ。
「助かったー」
「そうですね、けどここも安全ではないです。早く移動しましょう!」
A君との連絡をこっそりとし、疑わせない様配慮した姫乃は、反対側の扉を開けて脱出を促すと、T氏はあっさりと付いて共に走る。
新たに出た廊下に寝ぼけ眼を擦りながら出社してきた鮎川 雪(fa3702)がいた。
「うー撮影始まっちゃったかな? それより朝ご飯抜いちゃったからお腹空いたー」
横を過ぎ去るT氏をサクッとスルー。それも当然、彼女は遅刻をしてしまい撮影する当番組の趣旨を聞かされていなかったのだ。勿論、彼が標的だなんて解っていない。
「ん? お腹空いてるのお嬢ちゃん。若い者はちゃんと食べないといかんよー、ほら」
「わー、おじちゃんありがとう」
T氏は彼女を振り返り、携帯栄養食を投げ渡す。
鮎川は嬉しげに受け取り包みを剥くとその場にちゃんと座り食べ出す。お行儀が良いのか悪いのかイマイチ解りずらい。
そこにA君の指示で先回りしてきた葛城が現れた。
「君は出演予定の鮎川さん‥‥だよね? 撮影はもう始まっていて、標的はそのT氏なんだ。彼を捕まえ桐箱を取り戻すのが、趣旨らしい。さぁ、一緒に追いかけよう」
「でも、あのおじちゃん、携帯栄養食をくれたんだよね」
手短に説明する葛城に、一食の恩を感じで納得いかない顔の鮎川。葛城はさらに言葉を紡ぐ。
「そうか、けれどあの桐箱の中は高級松茸だそうだ、T氏を捕まえれば松茸フルコースだけど、どうする?」
「そうなの?! よしっ待て、おじちゃん!」
彼の一言に鮎川はあっさり狩人に転向する。あまりの切り返しの速さに葛城は苦笑いを浮かべつつ、A君との連絡用の携帯を投げ渡した。
●
姫乃の案内でT氏はフロアを駆け逃げていく。しかしそれはA君と共に姫乃が仕組んだ事。次の囮のところまで疲れさせながらも誘導していった。
廊下を行く人々の中で待ちかまえていたのは見目麗しい忍。流石は元ランニングバックだけの事がありスルスルと人を避け、忍の横を過ぎようとした瞬間、上手い具合にタイミングを計りゆっくりと振り返る忍は、神秘的な笑みを浮かべてT氏と視線を合わせる。
「うほーっ美麗なお姉さんだー」
むんずっ!
好みに合っていた忍の身体に勢いよく抱きつく。普通の女性と言わず、一般人であれば悲鳴を上げて引きはがそうとするところだが、松茸が掛かっている忍はグッと堪え、彼を確保すべくしがみつき返した。
逆に驚いたのはT氏の方。彼の衣装から滑り落ちた携帯から発されたA君の声に追っ手だと気づき、慌てて走り出そうとする。が、忍も根性で離れない。
「はがっA君?! 俺は浮気してないぞー。君だけだ」
「なにいってるんだか‥‥。こっちは松茸が掛かっているんだっ離してたまるか! ふぅー」
忍は果敢にもT氏の耳元に息を吹きかけた。途端に腰が砕けるT氏。これは意外に効果覿面。あと一歩で落ちるその時、追いついた阿野次が仁王立ちし、これまた恐い顔で机の上からT氏を睨んでいる。どうも先程の言葉を恨んでいる様だ。その手にはアメフトボールが握られ、
「我が一撃食らうがいい!」
どこからか調達したアメフトのボールをT氏目掛けてシュッと投擲。昔取った杵ずかで反射的にキャッチした彼は手がべたつくのに驚いた。
「このボール‥‥と、とりもち付き!?」
彼女の策通り動きが奪われてしまったT氏。絶体絶命だ! 忍も殺気だった阿野次に任せる様に手を離し落ちた桐箱を拾い上げススッと後ろに下がる。
「阿野次のこの手がいっちゃん光る! T氏をシバけと轟き叫ぶ! ひっさつー! シャャイニんんグっグロォォーブ!」
闘牛並みの直進でT氏の顔面がぐわしっと鷲掴みすると、そのまま壁を押し付けダッシュしようとしたが、
「なんのどっこい!」
するりと身を下げ代わりに両手を上げる。彼女は怒りに駆られているせいかそれに気付かず、ボールを掴みそれを顔面壁こすりの刑に処した。
「むははー、時に応用は必要! って‥‥ぐほっ」
「けどこれはどうかな? 今度こそ逃がさないよ!」
回り道で追いついたブリッツとMAKOTO、そして進藤。三人が組み、裂けたボールを手に笑うT氏に向かってジャンピングニーを決めた。
堪らず壁に激突する彼にMAKOTOがむんずと抱き起こし、
「僕のやる事は一つ! 力一杯抱きしめるだ! 耐えてみろ」
言うなり、ベアハッグやネックブリーカー、ギロチンチョークの華麗な連続技を披露する。やられているはずのT氏は、痛みに耐えながらのにんまりと笑い、
「やっぱり大人の女性が良いよねー。堪りませーんっ」
なんとも際どい事をのたまわう。呆れた鮎川は空いている足に関節技を掛けていき、姫乃はどこからかハリセンを取りだし一撃。最後の最後で痛い思いをしつつ良い思いをしたようなT氏はガックリと技に落ちた。
●
「今回は有難うございましたー。という事でガンガン食べちゃってくださいね」
にこやかに笑い皆にフルコースを振る舞うA君。しかしこの代金はT氏が持っているモノだ。事務椅子に縛り付けられた彼は文句を言おうとするが、にこやかに土瓶蒸しを食すMAKOTOの手によって掛けられた技で顔が鬱血し上手く話せない。
忍は松茸の香りを楽しみながら満面の笑顔で口に運ぶ。阿野次もT氏に手を合わせているのかはたまた美味しく頂いた料理に合わせているのか解らないが嬉しそうだ。ブリッツや進藤も松茸ご飯を頬張っていく。
繋がれたT氏を不憫に思った鮎川と姫乃が、それぞれ料理を一品持ちお裾分けで食べさせて上げている。なんとも優しい娘さん達だ。
「‥‥ま、これも舞台で踊らされる役職の仕事、ってトコかな」
T氏に振り回された番組は、お吸い物を啜る葛城の一言で締められた。