鈴音的声音道士 3アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 易しい
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/23〜04/27

●本文

 ――それは昔‥‥神も人も、そして妖怪もがひとつの地で共存をしていた時代の話。
 ゆったりとした口調のナレーションにあわせて、墨で描かれた絵が映し出される。描かれているのは昔の中国風の画。
 人と神が繊細なタッチで描き込まれ、どこか神秘的な雰囲気を出している。
 画に被さるようにじわりと浮き出した縦書きの書体テロップもナレーションを追うように左から右へ流れては消えていく。
 ――空には美しい天女が舞い踊り、実り豊かな地上を四神が静かに見守る。人は神に恩恵の念を抱きながら暮らしていたが、異形の妖怪達は忌み嫌われ避けられていた。妖怪達もまたその鬱憤を晴らすべく人を苦しめ始め、時に殺めて喰らい始めた――。

 画面は切り替わり、夜半過ぎ。夜明けまではまだ遠い時刻の画が映し出される。
 誰もが眠りにつく静かな夜。濃紺一色の闇の空を滑るように飛ぶ一羽の鳥の姿があった。否、鳥にしては大きいうえ、このような夜遅くに飛ぶ事などおかしい。しかし間違いなく何かが飛んでいた。
 姑獲鳥だ。
 女の顔をした不気味な鳥が、失せ物でも捜するように屋根をスレスレに低空飛行で干されていた洗濯物を見回してる。
「――! 」
 その中から一枚、小さな子供のシャツを見つけだした。それには肩口にぽつりと赤い染みが付いている。それは姑獲鳥が昼間に目星い子供を見つけ、そっと洗濯物に付けていたのだ。
 姑獲鳥は嬉々として窓を覗き、シャツの持ち主である子供が眠っている部屋を探り当てるとそこへ降り立った。
 ばさり、羽毛を脱ぐと一人の美しい女へと変わり、窓を小さく軋ませ子供部屋へと足を踏み入れた。
 小さなベッドの上に健やかな寝息を立てる子供がいた。近づき、愛おしむようにその柔らかい髪を撫で、甘い匂いのする頬に鼻を寄せた。眠っている子供は妖術にでも掛かっているのだろう起きる気配は微塵もない。ひとしきり楽しむと姑獲鳥は妖しく微笑み、子供を抱き上げ入ってきた窓に向かう。
 一旦下ろし、羽毛を纏うと人面鳥へと変わり、かぎ爪で子供を抱え上げた。
 ばさり――
 夜が白々とするのを忌々しげに急ぎ自分の巣穴へ帰っていった。


〜出演者を募集〜
 中国ドラマ「鈴音的声音道士」は、四神と麒麟の法力の宿る鈴に選ばれた道士になりきって妖怪を封じてください。
 また妖怪側の役、カメラマンや妖怪を動かす技術スタッフ等の裏方さんも同時に募集しております。
 

〜道士の法力選択〜
 ・青い鈴
 青龍
 春と東の守護神 水 守備型
 武器 龍笛&方位計  龍笛で睡眠誘発や能力を激減させることができ、また方位計により妖怪や仲間の居場所を知る事が出来る。
 玄武の結界と組むことで守備能力が倍増。

 ・赤い鈴
 朱雀
 夏と南の守護神。炎 攻撃型
 武器 桃の法剣&法術 桃の法剣は妖怪を討ち取る際に使われる。白虎の詠唱で力が倍増する。

 ・白い鈴
 白虎
 秋と西の守護神。森または道 攻撃型
 武器 召還&詠唱 様々な式神を呼ぶ事ができ、詠唱で攻撃が出来る。

 ・黒い鈴
 玄武 
 冬と北の守護神。山 守備型
 武器 天鏡&棒術 天鏡で結界を作り、棒術によって敵を薙ぐ。

 ・黄色い鈴
 麒麟 
 ? 中央の守護神。生命ある獣の支配者。
 武器 ?

 なお、詠唱、技の名前や攻撃の方法は鈴を手にした方が決める事が出来ます。麒麟の場合のみ設定、武器など一から決める事が出来ます。
 ただ、詠唱が長すぎたり、技の設定が複雑ですと割愛させていただきますのでご了承ください。
 鈴は一人、ひとつです。この五つは必ず埋めて下さい。


妖怪情報:
 姑獲鳥(こかくちょう)鬼神の種類で夜行性。普段羽毛を付け空を飛んでいるが、それを脱ぐと美しい人の女性となる。
 昼間、目を付けた子供の服に自分の血を付け、夜、攫いに訪れどこかへ隠す。

●今回の参加者

 fa0522 犬神・かぐや(14歳・♀・狼)
 fa1170 小鳥遊真白(20歳・♀・鴉)
 fa2986 朝葉 水蓮(22歳・♀・狐)
 fa3262 基町・走華(14歳・♀・ハムスター)
 fa3298 御崎伊庵(25歳・♂・狐)
 fa3364 蘭々(9歳・♀・パンダ)
 fa3369 桜 美琴(30歳・♀・猫)
 fa3489 森木 久美(18歳・♀・熊)

●リプレイ本文


 中国風のセットの横に設えた休憩所。そこでは古参の道士役と仇の妖怪兄妹役を演じる出演者達がドラマにはない和気藹々した雰囲気で、お茶を飲みながら台本を確認していた。
 その隣で初参加の森木 久美(fa3489)が足を引っ張らないようにと懸命に殺陣の先生に棒術の指南を受けている。
「桜さんのメイク終了です」
 前回の猫鬼役に続いて、姑獲鳥役を申し出た桜 美琴(fa3369)は雰囲気を変えるため、羽毛やメイクを駆使し別の妖怪としてスタジオ入りした。出演者達が揃うとスタッフと監督に緊張が走る。なぜなら今回、ひとつの山場を迎えるこのドラマだから。
 緊張の中、撮影が開始された。


「ちぃ、街に出て人の姿を取ったのが裏目に出たのようじゃ。我が妹妹‥‥蘭々、いずこじゃ?」
 人々が寝静まる時刻に青隼(御崎伊庵(fa3298))が、昼間の人当たりの良い兄の顔から元の妖狐へと転じ、攫われた妹の蘭々(fa3364)の行方を追っていた。
 怪我で衰弱していく蘭々に魂魄を与え続けるため、住処を街に移し年の離れた兄妹として潜伏していたのだ。今宵も入手して戻ってみれば、寝台に寝ているはずの蘭々がいなかった。道士達を疑ったが、残っていた気は妖怪のモノ。辿るべく姿を変え追っている最中である。
「これ以上、ワシは失う事に我慢が出来ぬ」
 呟く言葉は苦渋を秘め、月明かりに晒される眉間には深い皺が寄っていた。


 人を攫う妖怪の噂を聞きつけ街の中央にある広場に、前回に続く白鈴の道士・美蓮(朝葉 水蓮(fa2986))と青鈴の道士・風華(基町・走華(fa3262))。そしてこの街に着く前にたまたま看取った僧侶から、赤の鈴を託された良月(小鳥遊真白(fa1170))がいた。
 その三人の前に先ほどから村娘姿の小鈴(森木 久美(fa3489))が、攫われた妹を取り返すべく彼女らに取りすがっていた。
「鈴の道士様、この町に姑獲鳥がいると聞いたんです。何処ですか?! 妖怪から‥‥妹妹を‥‥幼い妹妹を取り返したいんです!」
「あのな、私はこの鈴を託されただけだ。それに私が調査した結果から言えば、相手の妖怪は武器や妖力を使う。何も持たないあんたには無理だ」
「まぁ、そう強く言うものでない。妹や身内を心配する気持ちは誰も一緒じゃ。ここはうちらに道士に任せるのじゃ」
「人を攫うなんて、姑獲鳥にもなんか理由があるはずや。ん?」
 小鈴を宥める三人の頭上に鳥の羽音と黒い影が掠める、驚き見上げればまさに話していた妖怪、姑獲鳥が頭上を通過する所だった。その足に一人の子供が大切そうに掴まれていた。
「あれは人の姿をしておるが、この前の妖怪ではないのか?」
「蘭々や! 妖怪やいうたかて、あの子もまだ子供やし。助けたらな‥‥」
「小鈴、あんたはここで待ってな、妹を取り返して来るからさ」
 元々、気の良い良月は小鈴の肩を叩き、安心させ姑獲鳥の追跡に駆けだした。何も言えず彼女達を見送る小鈴。だが少しの間、悩むが意を決したように道士の後を急いで辿った。
 ‥‥そんな小鈴の背中に黒い鈴が空を漂いながら後を追っている。


「良い子達ねぇ」
 姑獲鳥の巣穴。子供達が、人の姿となった彼女、月(桜 美琴(fa3369))の帰りを待っていた。どの子も女の子ばかりあるが、肌つやも元気よく、月がきちんと世話をしていることが伺えた。今日、攫ってきたばかりの蘭々を新しい褥にそっと置いた。
 他の子供と違い、ぐったりしている蘭々に月は不安を覚えた。以前、人との間に出来た男の子は後継者と成らないため、幼く虚弱で具合が悪かったが連れて行かれてしまった。泣き叫んでも返しては貰えず、その子の安否さえ今は解らない。
「おいしーご飯‥‥食べたいってカンジぃ」
 月の妖気に当てられ衰弱が進む蘭々は朦朧とした意識の中、兄の青隼と間違え月に縋り我が侭を言う。月は母親が我が子を心配げにみる慈しみの瞳で静かに見守った。


 黄色の鈴の道士、麗鈴(犬神・かぐや(fa0522))は、他の道士と同様に蘭々を抱えた姑獲鳥が飛んでいくのも目撃し、追わせた動物達と共に姑獲鳥の巣穴の前にいた。
 なぜ妖怪と人は仲良く出来ずにいるか? また道士達が敵を倒す事だけ考えているように思えてならない麗鈴は、他の道士達とは少し間を置き中立を保つ為、一人別に行動を取っていた。が、やはり相手は妖怪、説得する術を考えているその時、人の大きさほどもある狐、妖狐の青隼が現れた。咄嗟に身構えるが彼は麗鈴を見てもフンとひとつ鼻を鳴らし、
「今はヌシに相手をする暇などないわ」
 巣穴に入ろうとする。しかし麗鈴はその尾をぐっと引き留めた。
「お聞きしたい事があります。あなたはなぜ、そんなに人を憎むのです? 仲良く出来ないのですか?」
 道士らしからぬ麗鈴の言葉に驚く青隼。
「ワシは、かつて人間と恋に落ち共に暮らしたがのぅ、伴侶は同族の人間によって殺されたのじゃ。人が人を殺す‥‥何とも惨い事‥‥もう人なぞ信じぬ。今は可愛い妹妹、蘭々が全てじゃ。もしあれに何かあったら許しはせぬぞ、道士」
 初めて青隼の悲しい過去に触れ、麗鈴は戸惑う。言葉を紡ぐ事を忘れ立ち竦んだ。
「方位計は北を示しとる。姑獲鳥はこの辺におるで。皆、行くで!」
 森の向こうから追いついた道士達が姿を現した。


 巣穴の入り口の騒がしさに美しい女性の人型を取った月が姿を現した。
「騒がしい、誰ぞ?」
「お前が姑獲鳥だな、妹を返せ!」
「な、なんや! 付いてきてしもうたんか? あ、危ない!!」
 こっそり後を付いてきた小鈴が、落ちていた棒を拾うと振りかぶり、道士達が止める間もなく突進。だがそう易々とやられる姑獲鳥ではない。ばさりと飛び立ち小鈴の手から棒を奪うと、鋭い足の爪を浴びせようとした。
「邪魔だ! 来るなと行っただろう! 道士でも危ないのにお前が来る所ではない」
「でも、でもすみません‥‥」
 咄嗟に良月が盾がわりの鍋を背にした身体で小鈴の上に被さった。
「お前達は、また私から子供を奪いに来たのか!」
 目が血走る月。子供を奪われる事への恐怖で怒り身を翻し姿を変える。それは人の身の丈ほどもある猛禽類。だが首から上はあの美女のままだ。羽ばたきと鋭いかぎ爪で幾度も攻撃を仕掛ける。風華はすぐさま、龍笛で攻撃力を軽減させる『沈静の奏』を吹き始め、攻撃を鈍くする。
「白き鈴音の響きに応えよ――光鴉ッ!! 白蛇!!」
 白鈴の音が凛と響き、美蓮は折り鶴と髪を結う紐を媒体にした光鴉と白蛇を召還する。すぐに月を光鴉で翻弄し白蛇で身体を縛り封じ込めた。
「同情するが他人の子を攫ったり、そのため人を殺すのは納得できない。そんな代替行為で満足できる筈が無いだろう」
「そうじゃ、子供を愛おしむ気持ちはわかる。じゃが‥‥やり方があろう?」
 白蛇の呪縛を振り払おうともがく月に良月と美蓮が穏やかに問いかける。すかさず風華が龍笛を取り出し、
「その子らがあんたの子やないことくらい分かっとるのやろ? 改心して大人しゅうしぃや‥‥」
 青鈴と共に風華が『鎮心の奏』を奏で姑獲鳥を宥めだす。徐々に冷静を取り戻す月の顔。皆一応に安心する中、気付かれないように素速く青隼が、巣穴に入り込み蘭々を抱え連れ出そうとする。
「阿哥? 阿哥‥‥苦しぃよう。鈴の音‥‥もぅ聞きたくなぃ‥‥助け‥‥て‥‥」
 蘭々の小さな身体にもう力は残されていなかった。姑獲鳥の妖気や道士達の持つ鈴の神気に当てられ衰弱が増し、苦しそうに呻くと青隼の長い毛を掴んだ手が空へ落ちた。
 妖狐の悲痛な叫びが鋭く空気を裂き、外の道士達の鼓膜に突き刺さる。
「な、なんだ? 耳が裂けそう!」
「ぐ、ちゃんと抑えるのじゃ、さもなくば本当に裂けるわ」
「あれは‥‥妖狐さん‥‥」
 全員、耳を押さえ伏した。麗鈴は妖狐の叫びに蘭々の身に何かあったのだと感じた。
 ぐったりとした蘭々の身体を大切そうにくわえ外に出てきた妖狐は、怒りとも悲しみともつかない表情。蘭々の身体を置くと、道士達めがけて狐火を繰り出し襲いかかった。
「‥‥五行の鈴よ、ヌシらに問おうぞ。ワシや姑獲鳥の所業は誤りだと言えるかえ? そして使役された人よ。ヌシらは今またワシから大切な者を奪いおったわ!」
「ふん、八つ当りだな。それなら他を当たれ!」
「ダメだ! 間に合わない!!」
 『鎮守の奏』で風の防御壁を張るが、狐火は風を突き破り道士達に降り注ぐ。良月は悪態をつきながら背負った鍋や近くに落ちている大木を上手い具合に使い道士や小鈴を匿う。  
「駄目‥‥目を閉じては駄目よ、死なないで‥‥」
 月はにじり寄り蘭々を抱きしめ必死に起こそうとする。が、もう蘭々の可愛らしい大きな瞳が開く事はなかった。
「おのれ‥‥私の大事な子を!」
 美蓮の白蛇を鎌鼬で裂き、誘眠効果のある鳴き声を発する。
「説得してもあかんかったか‥‥、せやったら心を鬼にして戦うわ。うちら道士を甘くみたらあかんで!」
「同じ子を持つ母。その気持ちは分かるが‥‥すまぬ!! 白き鈴音の響きに応えよ――白虎ッ!!」
「私は全てを平等に見すえ、見極める者。彼らを消滅するというのなら私が相手になろう」
 牙を剥く白い雷の虎が現れ、月を地面へと押さえつけ電撃を放とうとするが、彼らを倒そうとする道士に怒り麗鈴が、身を呈して立ちはだかる。このままでは月と一緒に電撃を受けてしまう。良月が庇おうと駆けだすが間に合わない。
「いけない! あの道士様を守らなきゃ!」
 小鈴の強い思いに背後にいた黒鈴が応えた。りーんと彼女に存在を知らしめるとその手に降り立つ。彼女は何をすべきかをすぐに悟り、鈴と一緒に手のひらに収まる程の天鏡を翳し祝言を唱える。
「我、天の力以ちて魔を弾く障壁を作らん!」
 ごうと響き麗鈴が立つ地面に結界が現れた。間一髪、電撃は麗鈴を避けた。直撃を受けた月は、跳ね上がり地面に叩きつけられた。それでもなお、よろけながら立ち上がり道士達に挑む。
「妖怪だからとて、むやみに封じる気は無いが、向かって来るなら別だ」
「森羅万象の詔持ちて赤き鈴に白き鈴音を!!」
 良月は法剣に付けられた赤い鈴を手に取りぐっと握る。鈴が手中でりりーんと響くのが分かり、拳が真っ赤な炎を纏う。だが、それだけでは力が弱く封じられない。美蓮が強化詠唱を唱え、白鈴も赤鈴の音に応えると良月の拳が更に赤を増していき、白熱の炎に包まれた。
「どんな奴でも弱点は目と目の間、さ」
 電撃で素速く動く事の出来ない月の眉間に狙いを定め拳を放つ! が、当たったのは月の額ではなく割って入った妖狐の顔面。
「なんでも殺せば済むと思うとる‥‥げに恐ろしきは人じゃよ」
 青隼の目元に凄絶な憎しみの色で良月を睨み付け、そのままゆっくり崩れ落ちた。
「‥‥ぐっワシはもぅ疲れたわい‥‥」
「妖狐、死んで楽になれると思うな。確かにあなたの大切な人を奪った人の行いも悪い。けれど貴方達も同様。生きて罪を償わなければならないわ」
「もうワシはむ、無理じゃよ‥‥。ヌシの力を使っても‥‥だったら石となり‥‥ここで償いをしようぞ‥‥」
「駄目じゃ! 生きられるのであれば生きて償え! 」
「私は止めはしてやらん。お前が消えてゆくのを眺める事にするよ。その時間をお前とその妹への黙祷に充ててやる」
 青隼は駆け寄った麗鈴に助け起こされる。が、いくら麗鈴が力を使っても青隼の意志が強くその身体は徐々に石化していった。止める美蓮、冷めた目で見る良月に意味深げににやりと笑う。
「願いが‥‥ある。そこにいる蘭々と姑獲鳥を今度こ‥‥そ幸せに生きられるようにしてくれ‥‥」
 最期、一言終えるが早いか青隼は大きな石の塊となった。麗鈴は青隼の言葉を聞き入れるべく立ち上がり、黄色の鈴を天へ掲げる。
「我は生命ある獣の長、麒麟の鈴を持つ中立なる者。この世に生きる生命ある者達よ。この者達に生きて罪を償わせる為、生命を光輝かせる力を我に貸したまえ」
 麗鈴の金糸雀声に黄色の鈴が力強く鳴り、応えると辺りの木、草花から小さい光がフワフワと浮き出す。小さな魂の欠片だ。その数は徐々に増え大きくなり、麗鈴が示す月と蘭々の身体に取り込まれていった。
 月の傷が塞がりだし、大きな鳥の身体が人へと代わりだす。それは蘭々も同様。小さな身体に生気が吹き込まれ、あどけない顔は人の子のように血色が良くなり、歪められた眉間に穏やかさが現れだした。


「今までの罪は、人としてちゃんと償わなあかんで。うちが言えるんはこれだけや」
 風華は眠る蘭々の頭を軽く撫でた。姑獲鳥だった女性――月に抱かれる蘭々は、まだ眠りから覚める気配はない。
 麗鈴は自分の生命力と引き替えに、大術により人の子として彼女達を生まれ変わらせたのだ。当の麗鈴は力の使いすぎで倒れ、宿屋で安静を取っている。
「母が心配していると思うので、そろそろ村に帰ります。皆さんありがとうございました」
 小鈴は無事に取り戻した妹をおぶり、深々と礼を済ますと街を後にした。見送った道士達も皆それぞれの行く方向の道を歩き出す。
 今回の役目を終え、彼らからこっそり抜け出した鈴達は新たに現れる妖怪に立ち向かうべき道士を捜しに青い空を元気よく飛んでいった。