鈴音的声音道士 18アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや易
報酬 2.8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/03〜12/07

●本文

 ――それは昔‥‥神も人も、そして妖怪もがひとつの地で共存をしていた時代の話。
 ゆったりとした口調のナレーションにあわせて、墨で描かれた絵が映し出される。描かれているのは昔の中国風の画。
 人と神が繊細なタッチで描き込まれ、どこか神秘的な雰囲気を出している。
 画に被さるようにじわりと浮き出した縦書きの書体テロップもナレーションを追うように左から右へ流れては消えていく。
 ――空には美しい天女が舞い踊り、実り豊かな地上を四神が静かに見守る。人は神に恩恵の念を抱きながら暮らしていたが、異形の妖怪達は忌み嫌われ避けられていた。妖怪達もまたその鬱憤を晴らすべく人を苦しめ始め、時に殺めて喰らい始めた――。

 画面は切り替わり、靄で出来た幾つもの帯の向こうに見える羅豊の門。
 半分程開かれた扉から悪意と残虐に満ちた障気が長いひも状の靄となって夜の冷気に混じり、空気を鋭利な刃の様に研ぎ澄まさせていく。
 そんな障気を潜り抜け黒い影が音もなく現れると、扉の前で静かに膝をつき一礼し声を掛けた。
「主‥‥ヨ。鍵ヲ連レテ参リマシタ」
 真っ黒な影はすぃっと胸元から小さな娘を慇懃に差しだす。愛らしい衣服に収まる胸が僅かに上下しているところを見ると、まだ息はあるようだ。
「よぅやった、我が影よ。早くここを開けるのだ」
「‥‥ハッ!!」
 扉の向こうから地を這う様な嗄れた声が嬉々として命じる。影は応える様に一つ頭を下げ、娘を抱き寄せると手を翳し振り下ろした。
 瞬時に小さな人差し指は傷つき、ぷっくりと赤い玉を見た影はにたりと不気味に笑いを浮かべると、その血を使い門に印を書き付けてく。
 その姿は手習いを始めた娘に父者が筆を持たせ、書き付けているようにも思える。が、しかし当の娘は目を覚ます事もなく、されるがままだ。
 この異様な風景は影が彼女の血を使い門一杯に呪を描き込むまで続いた。一筆線が描かれる度に辺りの障気が濃くなりだす。
「駮様‥‥御出ニナル時ガ来マシタ。――我ガ主ノ目覚メル時ガココニ来タ。封ジル扉ヨ、神ノ子ノ血ヲモッテ開クガイイ!」
 ドドン!
 ようやく最後の一筆を描き終えた影は、高らかに呪を詠唱する。その声に応えるように重々しい音を立て扉が大きく開け放たれた。
 耳を劈く様な太鼓の音と共に空気に含む水分を凍らす程の凄まじい冷気が勢いよく門から溢れ出た。その後にゆったりと姿を見せたのは、白い馬のようではあるが禍々しい障気を纏う妖怪――駮。
 鋭い爪を携えた足で地を確かめる様に歩き、爛々と輝く真っ赤な瞳で影を捕らえると、大きな口を歪ませ嗄れた声で彼を労う。
「流石は我が影。さぁお前の役目はこれで仕舞いじゃ。よぅやった。我に戻り力となれ‥‥。そうじゃ、その娘も一緒に我の中に取り込め! 神の血を引く子の力‥‥さぞや役に立つじゃろうのぅ‥‥」
 影は満足げな笑みを浮かべると抱えた小さな娘と共にスゥと駮の中に取り込まれてた。駮の体が不気味な光を帯びたかと思うと一回り、いや、二回りも巨大と化し、グンッと音を立て額に携える肉角が更に太く伸びていった。
「くははっは‥‥! さあ参るがよいぞ、鈴の同士達よ。後は主らが持つ、勾玉に封印されたし我の意識の一部を取り戻し、この世界を手中に収めて進ぜようぞ! さぁ我の傍で集う妖怪達‥‥今こそ戦の時ぞ‥‥ここに集結致せ!」
 太鼓の音に似た鳴き声を発しながら、駮が天を仰ぐ。それに合わせる様に帯状の障気が、形を成し始め様々な妖怪へと転じていった。

〜出演者募集〜
 中国ドラマ「鈴音的声音道士」では、四神と麒麟の法力の宿る鈴に選ばれた道士になりきって妖怪を封じてください。
 また妖怪側の役、カメラマンや妖怪を動かす技術スタッフ等の裏方さんも同時に募集しております。
 

〜道士の法力選択〜
 ・青い鈴 
 青龍
 春と東の守護神 
 能力:水 守備型
 武器 龍笛&方位計  龍笛で睡眠誘発や能力を激減させることができ、また方位計により妖怪や仲間の居場所を知る事が出来る。
 玄武の結界と組むことで守備能力が倍増。

 ・赤い鈴
 朱雀
 夏と南の守護神
 能力:炎 攻撃型
 武器 桃の法剣&法術 桃の法剣は妖怪を討ち取る際に使われる。白虎の詠唱で力が倍増する。

 ・白い鈴
 白虎
 秋と西の守護神
 能力:森または道 攻撃型
 武器 召還&詠唱 様々な式神を呼ぶ事ができ、詠唱で攻撃が出来る。

 ・黒い鈴
 玄武 
 冬と北の守護神
 能力:山 守備型
 武器 天鏡&棒術 天鏡で結界を作り、棒術によって敵を薙ぐ。

 ・黄色い鈴
 麒麟 
 ? 中央の守護神。生命ある獣の支配者。
 能力:?
 武器 ?

 なお詠唱、技の名前や攻撃の方法は鈴を手にした方が決める事が出来ます。麒麟の場合のみ設定、能力、武器など一から決める事が出来ます。
 ただ、詠唱が長すぎたり、技の設定が複雑ですと割愛させていただきますのでご了承ください。
 鈴は玄武、麒麟に限り二つに分けることが出来ます。しかし力は半分となってしまいます。また能力に適した技以外の力は、使えないことがあります。
 この五つ鈴は必ず埋めて下さい。
 

妖怪情報:
 駮:影と神の血を引く娘によって甦った羅豊の支配者。禍々しいほどの赤い瞳に額には大きな肉角が生えている。体つきは馬の様だが、鋸を思わす歯と虎のように頑丈で鋭い爪を持ち、黒い尾を一振りすれば帯状の障気を召喚し鋭く尖らせ攻撃を仕掛ける。
 しかし勾玉に封印された力を手に入れていないため、未だその力は十分ではない。障気で幾つかの妖怪を目覚めさせた模様。
 妖怪:駮によって目覚めた妖怪。(妖怪の役を取った方、どうぞご自由にお決め下さい)
 ※華蓮ちゃんはただ取り込まれているだけで、駮の中でまだ息はあります。しかし障気に飲み込まれつつあるので、かなり危険な状態です。

●今回の参加者

 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2986 朝葉 水蓮(22歳・♀・狐)
 fa3262 基町・走華(14歳・♀・ハムスター)
 fa3369 桜 美琴(30歳・♀・猫)
 fa3578 星辰(11歳・♀・リス)
 fa3656 藤宮 誠士郎(37歳・♂・蝙蝠)
 fa3739 レイリン・ホンフゥ(15歳・♀・猿)
 fa4619 桃音(15歳・♀・猫)

●リプレイ本文


 流れ出す障気は幾分薄れてはいるが、依然息苦しさは変わらない羅豊の森の中。
 小さな気の緩みで鍵とされる人物、華蓮を奪われてしまった道士達はそぞれぞれの反応を見せていた。一番混乱をしているのは母の美蓮(朝葉 水蓮(fa2986))だ。魂が抜けてしまったように呆然と佇んでいる。
「うちが情けないばかりに‥‥守れぬとは‥‥華蓮‥‥母を許してくれ‥‥」
「美蓮さん、しっかりして! お母さんでしょ」
 頬を濡らす美蓮の肩を正気に返そうと強く揺する小風(基町・走華(fa3262))。一見すれば少女の様に可憐で高い声の彼だが、いつになく強い力で揺すり続けた。
 強い励ましに美蓮の瞳に生気が戻り始めた。ただ静かに見守っていた春霞(月見里 神楽(fa2122))と星麟(星辰(fa3578))は小さく安堵の息を付く。
 少し外れたところから傍観していた天曹(藤宮 誠士郎(fa3656))はそれを期に心を更に固め、乱暴に酒を煽ると黙って歩き出す。
 そんな天曹を他の道士達が黙して後を追う。
 闇雲に歩いても迷うばかりと考えた小風は袋から青龍の方位計を取りだし、方位を見るが、針は頼りなさげに揺れるばかりで位置が定まらない。溜め息をつくと、傍にいた春霞はいつになく力強い口調で、
「あちらから禍々しい気配がしますわ‥‥行ってみましょう!」
 足取りも強く歩みを進める。それは神の一族の血を垣間見たようでもあり、また長旅で彼女自身も何かを得た様にも見えた。


 羅豊の門前に真っ赤な瞳に憎悪を滾らせた駮が居た。囲む妖達を一瞥し、指示を与えている。
 その様子を麗君(桜 美琴(fa3369))は影で伺っていた。彼女は傷の治療と再封印の調査の為、気配を消し城内を捜索していたのだ。
 無論、影が連れてきた美蓮の娘、華蓮が駮の身体に取り込まれたのもここで傍観していた。
 衝撃的な出来事に些か言葉を失うが、不意に我に返り一つの論を考え込む。そう、華蓮の命と世界の重さについて。
 しかし幾ら答えを導き出そうとしても出来なかった。
 身を隠し思案する麗君の肩を背後から叩く者がいた。驚く彼女は赤い髪を揺らし、術の召喚を小さく唱えたが、途中で止める。それは見知った顔、西王母の娘の一人の太真王夫人こと太真(桃音(fa4619))であったからだ。
 麗君は息を漏らし、やや呆れた風な表情で声を細くして太真に話しかける。
「‥‥太真、なぜこのような所に? 道士達と一緒に行動してのでは」
「えぇ‥‥そうでしたが、はぐれてしまいまして皆さんを追いかけながら、母の行方を探しておりましたの」
 髪を二つに結い上げ、ゆったりとした男物の道士服を着用する勇ましい姿の太真は、外見とは裏腹におっとりとした口調で答えると、おもむろに帯に挟んでいた小袋から赤い勾玉を取り出す。
 それは空に晒されると、漂う妖気に応え一瞬、不気味な色へと変貌しまた元に戻った。
「‥‥私も先程から見ていました。駮のことですから身体に取り込んだ娘と、雷后の気が入る勾玉を交換条件に復活を遂げようと考えがあるかもしれません。ここで一案がありますの。勾玉に神気を流し込んでおくのはどうでしょう?」
「なら我も神気を送らせてもらうぞ。これもやらねばならぬ事‥‥封印せねば‥‥」
 掌に乗せた勾玉に神気を送る太真に便乗し、麗君も彼女の手を通して柔らかい光の気を送り込んでいく。
 そこに駮の太鼓を打つ音に近い声が聞こえた。
「道士達がそこまで迫っている! あれらを討ち取るのじゃ」
 これから始まる戦を前に嘶きを上げ、大きな爪で地を蹴る駮が妖を率いて走り出した。


 方位計の針が目まぐるしく回り、小風の顔に困惑の色が浮かぶ。だがそんな顔をするのは彼だけではない。
 道士達は肌を刺す妖の気配を察し、互いの背を合わせ武器を身構えた。緊張で早くなる呼吸音と心音が煩く感じるほど不気味な静けさに辺りは支配されている。
 ズサササッ!
 突如、緊張が呼ぶ静けさを破って布が摩擦する音が響き、あっという間に地面に落ちる星麟と春霞の影に黒い帯が巻きつき彼らを引きずった。
「な、なに‥‥アル?!」
「く、苦しい」
 影と同じに二人の身体は見えない力に拘束された。振りほどこうと藻掻くも更に強い力で締め上げられてしまう。
「我ラガコノ地ノ支配者トナル番ダ! 決シテ邪魔ハサセヌ!」
 黒い靄の中から馬の姿をした駮の影(レイリン・ホンフゥ(fa3739))が現れた。背後にいる妖達が捕まった道士を嘲る。
「くっ‥‥二人から離れろっ鬱陶しい! それにそこの雑魚もだ!」
 二人に絡む術を解こうと天曹は護符を取りだし、揃えた指で軽く表面をなぞり印を書き込む。それは即席で作った魂縛りの術。
 駮の影が繰り出す影縛を術返しでの応酬を試みるのだ。
 天曹の指の動きに合わせ小風が龍笛で『武神の奏』『鎮守の奏』を立て続けに青鈴と共に響かせる。
 青鈴の音と笛の調べを聞いた黒鈴が共鳴していく。術を完成させた天曹が地に護符を押しつけ発動させる。強い光を放ちながら『戮魂符』の術は星麟と春霞を縛る駮の影へ走り動きを封じこんだ。
 妖の技が弱まるも未だ縛られる二人に白鈴と音と強い意志の見える声が轟く。
「この身がどうなろうとも華蓮もそして仲間も助けるぞ! 駮よ、覚悟するのじゃ‥‥。白き鈴音の響きに応えよ――白鴉ッ!」
 動きを封じられ凄まじい怒気を孕む駮の影と、縛られた道士の間を折り紙の鶴が変貌した鴉が駆け抜け技を断ち切った。
 解放された春霞と星麟は素速く身構える。
「ヌヌヌ‥‥許サヌ! 者共ヨ行ケ、道士達ヲ倒スノダ」
 縛られても尚、無理矢理、長い角を一振りさせ黒い気を放つ駮の影は天曹の技を打ち破り妖を嗾けた。
「先程は苦しかったですのよ。お返しをさせて頂きますわ‥‥天射光!」
 春霞はふらつく足下をモノともせず愛らしい瞳に強い光を宿らせ、黄鈴の音に合わせ琵琶を奏でる。
 空から凄まじい数の光りの矢が出現し襲いかかる妖目掛けて降り注ぐ。
 その中を天曹は得意の酔拳で上手くかわしながら、白澤から借りた崑崙山の宝、宝貝・金棍を振るい妖を薙ぎ倒していく。
 次々倒される妖を見ているだけの駮の影ではない。素速く動き光の矢の間をくぐり抜け道士達に攻撃を仕掛けようとする。
「駮! おいらが相手をするよ」
「うぬ、小風。ではうちも加勢しよするのじゃ! 響くは鈴音、吼えるは雷鳴、白き雷の猛虎よ来たれぇ!」
 気付いた小風が龍笛を唇に当て『幻鏡の奏』を青鈴と共に奏で、襲い来る駮の影の前に鏡の盾を作り出し攻撃を防ぐ。美蓮は彼に一声掛け、牙の腕輪から白虎を召喚。向かってくる妖達を白熱の閃光の中に消し去っていった。
「麒麟の戯画の出来損ないみたいな駮にやられるなんて‥‥迂闊だったアル! 今度はこっちから‥‥根元から絶たないと妖が増えるばかりアル! 医者見習いだから攻撃は仕掛けないと見くびっては駄目アルヨ!」
「〜〜!」
 鏡の盾を踏み台に宙へと舞い上がり駮の影の頭上に近接した星麟は、身体を弓の様に深く撓らせ限界まで振り切った三節棍を大きな角を目掛けて振り下ろす。駮の影も宙にいる星麟を串刺しにせんばかりに角を突きだす。
 砕ける音が響き根本から折られた角。それは鏡の盾にぶつかるが一度目を耐える。駮の影は迸る怒りも露わに地鳴りの様な威嚇の唸りを発しながら、地に着地し体勢を整えようとする星麟に襲いかかった。
 バキィィン!
 あまりの強い攻撃に耐えきれず鏡が二度目、三度を待たずに割れてしまった。光の破片をまき散らし駮の影を襲う。避ける間もなく硝子を浴びた駮の影に破片が突き刺さりながらも耐えている。
「クゥゥ‥‥! 許サヌゾ‥‥喰ロウテヤル」
 牙を剥き、罵声と共に爆発したような妖力が放たれた。鎌の刃に似た影が地の上をまるで空に飛ぶかの様に滑る。星麟は咄嗟に木に飛び上がり難を避けるが、それは真っ先に刃の届いた木の影を切り裂き、同時に本体も一緒の姿となる。
「な、何アル?! その技‥‥」
「ククク‥‥コレガ我ノ力ナリ! 今度ハ避ケサセヌ!」
「以水気氷雪嵐成! お主とも有ろう者が‥‥人の子一人抱えて居らねば安心できぬとはのぅ」
 ザザザ!
 麗君が空中の水気を使い氷雪の嵐と成す技を放つ。駮の影は背後からの攻撃をモロに受け怒りを露わに振り返った。
「ホゥ、オ前カ。我ノ体中二居ル気ヲ感ジ取ッタカ」
「なにぃ?! 駮、お前まさか?」
「娘‥‥取り込んだのか?! 返すのじゃ‥‥行けぇ白虎ッ!」
 駮の影の言葉に天曹は護符を掲げ小さく呪を呟き、愕然とする。そう言う通り体内から僅かにだが神気が呼吸しているのを感じたのだ。
 それを聞いた美蓮は慌てて駆け寄り先程放った白虎を嗾けるも、あえなく駮の影が剥いた牙の餌食となり掻き消えた。
「クックク‥‥神気ノ力モ入レバ容易イ。サテココデ交換条件ヲ出ソウ。娘ヲ返シテ欲シクバ、雷后ヲ封印ノシタモノヲ出セ」
「我は知らぬ‥‥好きにせよ」
「麗君、お前‥‥アレを渡したら世界が闇に飲まれちまう」
「酷いアル!」
 あまりの条件に呆然とする道士達。だが麗君だけはふいっとそっぽを向き春霞の傍に寄り、そっと彼女に小さな呟きを掛けた。
 無言で春霞は頷く。太真も姿を見せ意味ありげな視線を送り、小風にそっと雷后が封印されている勾玉を見せた。それを見て意を決した小風が駮の影に向かって問う。
「勾玉を渡したら‥‥華蓮ちゃんを返してくれるんだね? 太真さん勾玉を」
「ソウ素直ニ従ウノハ得策ダ」
 口元を歪め笑う駮の影に太真は勾玉を渡すフリをして、いきなり斬りつけた。戦いに加わっていなかった分力強い。咄嗟にかわした駮の影は鋭い爪を用いて攻撃をする。
「これ以上攻撃はさせないぜ、混世魔王! 見せてやる玄北一門秘術が一つ‥‥結界之縛・長虹縛妖陣!」
 それを合図に天曹が黒鈴を手に幾つもの印を結び上げ、大技‥‥結界内の対象を七色の光で捕縛し動きを封じる技を完成させた。
 強力な結界内に妖怪を捕らえると、駮の影の口に含まれた勾玉が結界に反応し神気を発させた。強い力で弾かれた駮の影は戦き、逃れようと目を走らす。しかしその隙を逃さない太真は鋭い一撃を浴びせかかる。
「春霞さん、今よ!」
 促された春霞は琵琶の弦を弾き『麒麟の奏』を奏でた。合わせて星麟の持つ黄鈴と共に黄金に輝く麒麟を召喚し太真の付けた傷に鋭い体当たりを浴びせる。
「ウガァァ?!」
 のたうつ駮の影の傷が広がり、小さな娘が転がり出た。
 すぐに美蓮が駆け寄り、地に落ちる前に素速く抱き寄せ安全な場所へ運ぶ。星麟も傍に控え瞬時に異常を調べ鈴を掲げた。
「少し弱っているアル! 全ての生あるものは大地の精もて健全に復すべし、快功治癒、急々如々!」
「華蓮ちゃんはオイラ達が守るから、みんなは駮を倒して!」
 弱々しい華蓮に黄鈴の音と共に術を施す。落ち着いたのを確認した小風が優しく青鈴を一定の音で鳴らし龍笛で『夢見の奏』を奏で、眠りを促す。
「脅しなんてらしくねぇ事はするもんじゃねぇぜ」
「クックック‥‥ソレハドッチカノゥ。ヨク見ロ!」
「な、なにぃ?!」
 鼻で笑う天曹に対して返す駮の影。言葉に道士達は助け出した華蓮を見る。それを待っていたのか、小風の腕の中にいる華蓮の身体は黒い靄に包まれ姿をタダの丸太へと変貌させた。あまりの事に驚愕する。
「ククク‥‥ドウモ気付イテイナカッタヨウダガ。我ハ主デアル駮サマノ精密ナ影ゾ。ツメガ甘カッタナ。コノ勾玉ハ貰ッテイク」
「‥‥なんて卑劣な! させませんっ」
 起きあがった駮の影は勾玉を口にくわえ、遁走を図る。その前に立ちふさがる太真。鋭い剣技を繰り出し行く手を阻む。
「許さぬ!! 太真よ、行くぞ森羅万象の詔持ちて赤き鈴の法剣に白き鈴音を!」
 娘が攫われたままだと知った美蓮は全身全霊の力を放ち、赤鈴の太真の持つ桃の法剣に力を与える。応えるように太真は渾身の力を込め駮の影目掛けて振り下ろした。
「ハ、駮サ‥‥我ガ主ヨ!!」
 大きく身を捩り断末魔の叫びを上げると身体を四散させた。その後には勾玉が残されまたも不気味な光を一瞬だけ放ち静かになった。


 ようやく戦いを終えた道士達。星麟と春霞は手当に翻弄している。そこに太鼓音のような声が聞こえた。駮本体の声だ。
「くっくく‥‥我が分身にて僕の影を倒すとはな、侮る無かれだ。道士達! さぁ我の元へ来い、新しい世界の門出に心おきなく血祭りにしてやるぞ」  
「おっと出来るのか、駮? 影も倒され本来の力が出せない今、頼るのは地上の邪気だけだろ?」
「駮、お主は封印はされぬとたかを括っているようだが再封印は可能ぞ?」
 ギリリと空に向かって天曹は悪態を吐く。だが確かにその通だ。押し黙る駮に更なる追い打ちを掛ける麗君。
「ほぅ、過剰な自信じゃな。なれば我から参るぞ」
 耳鳴りを起こすほど低く地を這う太鼓の音鳴り響き突如、大きな扉が出現した。驚く道士達を前に扉はゆっくりと開き、中から駮。そう本物の駮が障気を纏い赤い目に凄まじい気を迸らせながら場に現れる。
「華蓮ちゃんは文字通り『封印の扉』を開けるための鍵でしたのね‥‥」
 春霞は小さく呟いた。


 撮影終了後、CGとボイスチェンジャーを活用し駮の影役を務めたレイリン手作りの特製肉まんが、出演者やスタッフに振る舞われる。
 寒さで震える撮影の中、誰もが歓喜の声を上げ、かぶりついたのを監督のユウ氏は嬉しげに見ていた。