female Buccaneers7ヨーロッパ

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/06〜12/10

●本文

『female Buccaneers 〜 海を彩る美しき女海賊たち 〜』

 一艘の木造船が沖を滑るように進んでいく。その旅立ちを真っ青な空も海も祝福しているようだ。
 風を孕み脹れる真っ白な帆。高々と立てられたマストに真っ赤なジョリー・ロジャー(海賊旗)がはためく。
 そこに映し出された金色の飾り文字『female Buccaneers 〜海を彩る美しき女海賊たち〜』とこのドラマのタイトルが流れ消えた。

 サンド・ドミグが率いる軍艦を打ち負かし、新たなる旅の幕開けとなったジョリー・ルージュ号。彼女達の勝利を祝福し、そして己の在処を導く様にロードストーンから放たれるまばゆい光は、一直線に水平線の向こうを示している。
 一方、彼女らと同じ宝『紺碧の心臓』を狙うプライベーティア号は密かに鍵を手に入れ、ジョリー・ルージュ号を水先案内人としてゆったりとその後を追っていく。
 そんな彼らの船に一羽の鳩が降りた。足には小さく丸められた羊皮紙を携えている。甲板員は脅かさない様、丁寧に足から手紙を抜き取り開いた。垂らされた真っ赤な蝋に刻まれる刻印からそれは判断できる。王室からのものだ。
「もうサンドの旦那の話は届いているようだな。早いところジョリー・ルージュの船長を捕らえ、紺碧の心臓を手に入れて来いだとさ。まったく国王様も‥‥。まぁ言うだけ無駄か‥‥ってうわっ! な、なんだあれは?!」
 船長室に届いた手紙を届けようとする甲板員は飛び立った鳩を一瞥しつつ驚愕した。なんとフードを深く被った男が波間に馬を走らせ、船と併走しているのだ。
 大慌てで船長室に走り、知らせようとする甲板員の耳に見張り台から凄まじい警鐘が響く。
「前方! ジョリー・ルージュの前に島が出現!」
 海を走る謎の男はプライベーティアの甲板員をにんやりと見やると更に馬を加速させ、ジョリー・ルージュ号に追いつき彼女達を先導する様に島を出現させた。
 彼ら二隻の前に突如現れた島は地図には載っていない。しかしジョリー・ルージュに乗るロード・ストーンの光が男の導きに応える様に宝の在処を指し示している。
「ここに宝が‥‥あるのか? と、取り敢えず船長に報告だ!」
 大慌てで甲板員は船長室へと走っていった。

 謎の男の案内と光に導かれるままに錨を降ろし島に上陸を果たすジョリー・ルージュ号の面々。砂は異様に柔らかくまるで雲の上を歩いているようだ。一同、恐る恐る足下を確かめる様に進んでいく。
 馬に乗った男はそのまま真っ直ぐに洞窟の中へ消えていった。ロード・ストーンの光は男を追う様に洞窟の入り口を照らす。不可思議な男とこの入り口に顔を見合わせる一同。船長は腕を組み思案する。
「ロード・ストーンはこの中に宝があると示している。しかしあの男、気になるな‥‥」
「そうね。けどここで悩んでいても仕方ないかも知れない。進んでみたら?」
 一人が颯爽と提案し意見に頷く乗組員達。船長も納得顔で頷くと、一歩中へ踏み込む。
 彼女達をまず包んだのは闇。そして生暖かい空気に含まれた異臭が鼻につく。ぐっと耐え、足を進めるも下からガリゴリっと異様な音に不快感を露わにする。
「どうにも足下が悪すぎるね。誰か松明を付けてくれないか?」
 マッチが擦れる音と共に松明が灯された。足下を照らせば、なんと白い塊がゴロゴロと落ちている。
 更に近づけ照らし出し、よく見ればそれは人骨。
 誰もが喉を引きつらせ飛び退きたい衝動に駆られるが、生憎、辺りに一面敷き詰められ土が見えている箇所がなかった。
 戦く彼女達の背後で重々しく石が擦れ合う音が響く。
 ズゴゴゴゴ‥‥ガコンッ!
「し、しまった! 入り口が?!」
 慌てる面々に男の声が木霊した。
「くははっ! 引っ掛かったな女海賊達よ、ようこそ我が島へ。探している宝は確かに洞窟のどこかにある。しかしながら残念だ。この島、洞窟は普通のモノではない。そう我がペットのレヴィヤタンなのだ。そしてお前達は餌」
 島に上陸したと思ったのは海に棲む強大生物の体。そして洞窟の中は胃袋へ続く食道だったのだ。
「ちぃ、図られた。まぁ良い事と言えばロード・ストーンの示すのはあっていた事ぐらいか。それよりもお前は何者だ」
「我は海に棲む悪魔ダゴン。こうして宝を欲するモノを捕まえては餌にしておるのじゃよ。では余興の時間だ。お前達が宝を見つけるのが早いか、それとも消化されるのが早いか掛けといこう。尤も足下に転がるモノを見れば結果が分かることだがな」
 どこから聞こえるのか見当も付かない声に苛立つ彼女達。解っているのか楽しげに声は更に追い打ちを掛けた。
「さぁ、もう一隻、お前達の後を追っていた船もくるやもしれない。仲良く探索でもするか? 尤もこのレヴヤタンの胃は一つではなく幾つもあるから会うのは難しいだろうがね、くはははは!」
 巨大生物に飲み込まれてしまったジョリー・ルージュの面々を嘲笑うかの様にダゴンの声が響く。もうすぐプライベーティアもこの島の幻を見つけ、行動を開始するだろう。


■参加者を募集します。
 ヨーロッパ発の海を渡る冒険活劇『female Buccaneers』に出てくださる出演者を募集してます。
 女性海賊達が乗り込むジョリールージュはなるべく女性の船員が好ましいと考えており、またプライベーティアの方は王室から許可書を得た私掠船。こちらは男性の乗組員で構成をして頂きたいと考えております。
 そして配役は二つの船の船長以外、まだきちんと決まっておりません。この二つの役が重ならない限り、皆様の演じたい役のご希望を頂ければ嬉しく、また添えるよう努力させて頂きます。ただしこのドラマに沿った役でお願いします。
 
 ジョリー・ルージュの船長 腕っ節と機転の良く利く女船長。
 プライベーティアの船長  明晰な頭脳と繊細な神経の持ち主だが、土壇場に強い男
 操舵手
 帆手
 甲板長
 砲手
 調理長など船に関わる仕事など。

 使用できる武器等。
ピストル:原始的なフリントロック式。殺傷能力は高いが一発撃ったら再装填しなければならない。また潮風で火薬が湿気り不発もしばしば。そのため何丁も肩帯から提げることがある。
マスケット銃:銃身の長いフリントロック式の銃。殴り合いの時でも使われる。
カトラス:海賊が用いた片刃の小剣。船など狭い場所で戦う時に威力を発揮した。

 悪魔・生物情報
悪魔魚人ダゴン: 元々は漁師の神であった者だが、ある事件を境に悪魔に落ちてしまった。下半身は魚。上半身は神官の姿をしている。
巨大生物レヴィヤタン: 水中に生息する怪物。鰐の様な鱗は強靱でどんな武器の攻撃も通さない。固い頭で船を攻撃し破壊する事もある。
またその体内は迷路の様で、幻惑を見せたりと様々な仕掛けがあるようだ。

●今回の参加者

 fa1737 Chizuru(50歳・♀・亀)
 fa1761 AAA(35歳・♂・猿)
 fa3293 Even(22歳・♂・狐)
 fa3325 マーシャ・イェリーツァ(23歳・♀・兎)
 fa3797 四條 キリエ(26歳・♀・アライグマ)
 fa4123 豊浦 まつり(24歳・♀・猫)
 fa4611 ブラウネ・スターン(24歳・♀・豹)
 fa5199 ロッソ(26歳・♂・鷹)

●リプレイ本文


 飽きるほど浴びていた潮風が恋しくなる程、薄気味悪い妖気が漂う巨大生物レヴィヤタンの内部。脈打つように動く壁や天井の間をジョリー・ルージュの一行が歩いていく。
「昔、ばあやからお伽噺で海の悪魔ダゴンと巨大生物レヴィヤタンの事を聞いたわ。漁師の神でありながら王の船を沈め海の宝を持ち去り、その罰に悪魔に堕とされてしまったって。その宝が『紺碧の心臓』だったのね‥‥。てっきり子供を脅かすお伽噺と思っていたけれど、今はその生き物のお腹の中。こんな気持ちの悪いところに入れば納得だわ。けれどこんな時もロードストーンは『紺碧の心臓』を示すのね。いいわ、罠でも折角のご招待だもの。戻るより前に進むことを考えましょう」
「こんなに化け物に出会すなんて‥‥。神とラム酒の力を借りなければ、やってられないわ! こう見えても迷信深いんだよ私は」
 先頭の船長に続く操舵手のメアリー・ショウ(マーシャ・イェリーツァ(fa3325))は、襲撃とドレスが汚れないよう注意を払いながら、愛用のレイピアでのたうつ壁を突いては変化がないか確かめ進む。その後ろを戦闘隊長のマルコ・ロッソ(ブラウネ・スターン(fa4611) )が酒瓶を数本抱え十字を切りながらラッパ飲みをしていく。
「光に沿って歩くうちに宝や脱出手段が得られるかもしれませんね。ねぇメアリー、生物の体内を突くともしかしたら消化反応があるかもしれませんわ。迂闊に触れない方が良いです。あぁ‥‥それよりも今日の洗濯物が取り込めませんわ。気になります」
「確かにノートの言う通りかも知れない。悪魔ダゴンが仕掛けた罠だ。何かあるかもしれないね」
 薬草と水の収集に出ていた際に巻き込まれた看護師兼雑用係を勤めるノート(Chizuru(fa1737))が、慎重な意見を述べる。しかし最後に気の抜ける一言を呟いた。聞いたサイリーン(豊浦 まつり(fa4123))はダイスを掌で遊ばせながらメアリーに視線を送る。受けた彼女も頷くとレイピアを鞘に戻した。
「この手の怪物に対抗するなら、金銀財宝から銀だけ取り銃に込めぶっ放す! 流石に腹の中からじゃ弱いはずでしょ。あとはイタリア名物の大蒜! 昔から魔除けの力があるって聞くわ。食べないで投げるのよ」
 千鳥足のマルコは愛用の銃と大蒜を掲げ、既に恐いモノ知らずの海賊ならぬ、酔っぱらいとして出来上がっていた。


 ジョリー・ルージュを追うプライベーティア号もレヴィヤタンを探索していた。
「随分と捌き甲斐のある食材だな、こりゃ」
 豪快に言い放つ調理長兼下っ端雑用全般の統括役のクライド(四條 キリエ(fa3797))が、松明を手に先に進む。
 本来なら船長、キャプテン・ホーキンス(AAA(fa1761))の役だが、漂う醜悪と匂いにあてられて、足下がおぼつかない程具合が悪そうである。ハンカチを口にあて青白い顔でようやく付いていく。
「船長、大丈夫か? ‥‥そういやぁ俺が乗船許可されてるってことは‥‥船長の美的許容範囲ってこと?」
「こほ‥‥ギリギリと言っておきますか? クライド。冗談ですよ」
 ホーキンスの身体を気遣うクライドは、気分を紛らわせようと軽口を叩く。彼の言葉にホーキンスも珍しく冗談で返答。またもクライドは豪快に笑い飛ばすが、すぐ真顔へ変わる。
「さて、冗談はここまでだ‥‥。ちぃまた同じ場所だな」
 積まれた骨を見るクライドは、分岐毎に解りやすく動かし印を付けていた。しかし通った道と解り舌打ちをする。
 それを聞いたホーキンスはサンドから奪った鍵を握り、唇を小さく動かす。応呼するように遠くで扉の開く音が響いた。
「‥‥道はこちらのようですよ、ジル‥‥あっと彼は船でしたね。行きましょうクライド」
「そうそう。ジルは俺達が帰るまで船を守るってさ」
 クライドを先頭に男達と音のした方に向かった。

「‥‥くっゅん。誰ですかね、僕の噂をしているのは? 出所はクライドでしょうけど」
「案外、ジョリー・ルージュかもしれないですよ」
「そうでしたら嬉しいですね。結局の所、彼女達が好きなんですよ。僕も、船長も。色恋ではなくて船乗りとしてね」
 青い海に響くジル(Even(fa3293))のくしゃみ。少し先に停泊するジョリー・ルージュ号にあまり関心を見せない素振りで見張りをしつつ、ロッソ(ロッソ(fa5199))と談笑を楽しんでいた。
「確かに。海賊の中の海賊ですからね」
「そうなのですが、けれど女性としても魅力的なんですけどね〜。誰もが狙う『紺碧の心臓』と同じで手に入らない華です」
 ジルはそう言うと彼女達と自分の仲間がいる島を眺めた。


 白骨化した海賊達の間から帯状の煙が上がり、ノートを取り巻いていく。
「私達だけなのかしら、不気味だわ‥‥。けれど我らには神がついてます! ほらあそこにも」
 彼女は妙なテンションで空間を指さすと、今度は海賊達の間で歌われる『勇ましく歩め! 我が宝を目指して』を陽気に歌声を響かせずんずんと突き進んでいく。
「ちょっとノート大丈夫? な、なに‥‥これ‥‥」
 サイリーンはノートの腕を掴み止めに入る。その時、彼女の周りを漂う煙に気付いた。それはサイリーンにも襲いかかる。すぐに夢心地に運ばれるも、一瞬で終わり、代わりに劈く爆撃音が響き追う様に人々の悲鳴。故郷のマルティンクの活気溢れる街を廃墟へと導くあの夜の出来事。親しい酒場の女主人や妹の最悪の事態が、脳裏を掠め彼女を苦しめる。
 端で見ていた船長とマルコは、藻掻くサイリーンを脱出させようと思案していると、そこにメアリーが力を込めた張り手を飛ばす。
「しっかりなさい、サイリーン。幻覚よ!」
 ばしぃぃん!
 音だけで我に返ったノート。なぜか痛そうに顔を歪める船長にマルコも同じように顔が引きつり酔いが醒めてしまった。
 サイリーンは友の呼ぶ声と痛み、衝撃に襲われるが、まだ目覚めない。そこに崩れた酒場から妹が微笑み、何かを訴えると歌い出す。それは昔、よく聞いたあの歌。澄んだ歌声が響き、ふっと息を抜いたサイリーンの頬に再度鋭い痛みが走る。
「痛っぅ! そんな叩かなくても起きるわよ、メアリー」
「おはよう! 手が腫れる前に起きてくれてよかったわ。それにしてもこの幻覚‥‥トラップも油断できないわね。掛からなかったのは十字架のお陰かしら?」
「そのようだ。神よ感謝します」
 腫れた頬を押さえ目覚めたサイリーンに皆、安堵するとノートは湿布を取り頬の手当を行う。
 メアリーは幻覚について思案しているところに、マルコは首に下る十字架に色々と感謝の意を込めた。


 フラフラと付くホーキンスだが実はこっそりと彼らを導き、察知していたトラップを避けたり撃破をしていた。
 クライドは船長が僅かに使う気に対して、安心と際どさを感じながらも仲間と一緒に足を進めてる。
「道が変わった‥‥よし」
 新しい道に骨を組み替えたクライドが突如、倒れた。そこには幻覚を見せる煙が立ちこめている。助けようとする水夫達を払い、クライドは必死に幻惑と戦う。その様子をホーキンスは静かに傍観する。彼が幻惑に勝つのを待っていた。
 クライドの幻惑は幼い頃の思いで。代々続く船乗りの家系で育った彼は幼少より海に親しんでいた。ある日彼の父はいつものように彼の頭を撫で、航海へ行った。父の帰りを待ち、毎日港に佇んでいたクライドの胸にはあの寂しさと不安が刺さっている。つい幻惑に飲まれそうになった瞬間、自ら短剣を振りかぶり足に突き刺した。激痛で冷や汗が吹き出るが堪え
「生憎と、何時迄も子供じゃないんでな‥‥」
 骨が積まれる中で呟く。そんな彼の視線が一つの銃の上で止まった。覚えのある銃は父のカトラスだ。長い年月が過ぎているが錆び一つ浮かんでいない。恐る恐る手に取った。
「‥‥父さんはこいつに飲み込まれちまったのか‥‥。待ってろ! 俺がこの銃で仇を取ってやる」
「クライド、正気に返ったようですね‥‥。では足を処置し、先を急ぎましょう」
「船長! 向こうの方から足音が聞こえてきます」
 銃をグッと握りしめ誓うクライドにホーキンスは声を掛けた。そこに見張り役の水夫が警戒を出す。松明を翳してみれば、現れたのはジョリー・ルージュ達。
「あら灯り? 他にも誰かって、プライベーティア!?」
 咄嗟に剣と銃を抜き、構えるメアリーとマルコ。しかしサイリーンは悠長な姿勢をとっている。
「誰かと思えば、ご機嫌よう皆さん。なんたる奇遇。宜しかったらここは一時休戦し、共に先に行きませんか?」
「‥‥出来るわけないでしょう!」
「なら、ここで餌の運命だ。お互いそうはなりたくないだろう」
 ホーキンスの申し出の裏を探りながら剣を翳すメアリー。当然マルコもである。だがサイリーンは申し出に満更でもない様子だ。
 睨み合う両者にクライドは正論の悪態を一つ。彼の足の傷を目に留めたノートは敵味方関係なく、手際よくナイフと清潔な布を使い、包帯を作り彼の足にきつく巻き付けた。
 ジョリー・ルージュの船長は顎に手を当て思案をしサイリーンと同意見をだすと、やもなくマルコとメアリーは聞きいれた。
「分かりましたわ。そう仰るなら‥‥」
「‥‥これも神の思し召しだ」
 メアリーは些か不満げに剣を仕舞うが警戒心はそのままだ。マルコは酒を煽り一睨みを効かせる。ホーキンスは苦笑いを浮かべ、ロードストーンの光を追うよう促す。が、頼りの光は途切れていた。困り果てた面々に、サイリーンが愛用のルビーのダイスを振った。
「考えるより行動! 勇気を出して飛び込めば幸運の女神は微笑むってね、それは吉と出るか凶と出るかは賽の目次第って事で」
 小気味いい音を立てダイスは止まれと指した。不思議がる彼らの元に不気味な声が響く。
「ようこそ我が僕・レヴィヤタンの胃袋へ! 餌に釣られよくぞ参った。お前達の欲する宝はこの近くにある。しかし溶解液に飲まれるのが早いか見物だ」
「そんな事はさせない、これでどう!?」
 靄から現れたのは半身半漁の神官の姿をした悪魔ダゴンだ。指を鳴らすと溶解液が流れ込んだ。慌てて骨の山へ逃れる彼らに更に不気味に笑うダゴンの声が響く。
 意を決したメアリーが剣先にぶら下げた十字架でダゴンに振り翳す。怯んだところにマルコの指示の元、両船員は素速く銀だけを拾い集めマスケット銃に詰め込み引き金を引きぶっ放していく。
「こちとら天下無敵の酔っぱらい! 何しでかすか解らないわよー」
 それは散弾銃宜しく当たりに銀が飛び散る。レヴィヤタンの内壁を傷つけ激痛に襲われのたうつ。マルコはバランスを取りながら再度引き金を引いていった。
 そんな中、ホーキンスは骨の中から一つの木箱を見つけた。サイリーンやクライド、ノートも戦いに夢中で気付かない。彼は素速く胸元から鍵を取りだし穴に差し込み箱を開けた。
 まばゆく輝く蒼く脈打つ宝石現れた。ホーキンスは手に取ると今までの不快が嘘のように抜け、力が漲るのを感じた。
「見つけてしまったかっ。返せ! それはワシのだ」
「そうでしょうか? 今は私のもの‥‥お消えなさい! 私は美しく無い物を目にするのは耐えられないのです」
 ホーキンスがにやりと口元を歪め手を掲げた。グゥンと空気が波動で揺れてダゴンにぶつかる。あまりの強い衝撃にダゴンは為す術無く吹き飛ばされた。そこにクライドがダゴンの額目掛けて弾を一発発射。更に加速が増し、ダゴンは腹を突き破り海へと落ちた。
「ついに手にしました『紺碧の心臓』を。ではみなさんご機嫌よう!」
「なんですって?! お待ちなさいホーキンス船長!」
 間髪入れずにメアリーが引き留めよう剣を振るうが遅い。ホーキンスは開いた穴から海へ飛び込む。その後をクライドやプライベーティアの面々も続いた。
「うぃっく、終わったな!」
「ま、仕方がない。今回は運があっちにあっただけ。次はこっちだ」
 怪物を倒し満足げのマルコとダイスを手の中で転がすサイリーン。彼らの追うように青い海へと身を躍らせた。


 ロッソと会話をしていたジルは、異変に気付いた。島だと思ってたのはレヴィヤタンだったのだ。混乱した怪物は身体を捩りのたうちながら襲ってくる。
「あはは、そう来ましたか‥‥。錨を上げて! 迎え撃つ準備です」
 この状況にジルは苦笑するしかないといった感じだだが、そうはしていられない。錨を上げさせ、駆け足で操舵室に入る。
 ソッロは飛ぶように移動し砲撃の準備に掛かった。
「船長達が帰ってくるまで、船を守るのが副長と水夫の職務ですからね! 砲撃開始」
 ドォォン! ドーン!
 変わらない笑顔で適切な指示を次々出し、命令を聞いたロッソが大砲を放つ。空を切る音の後、着弾した海に柱が上がった。
 ジルは怪物の攻撃をさりげなくジョリー・ルージュ号から引き離そうと試みている。そのおかげでレヴィヤタンは彼らの船に向かって体当たりを繰り出した。
 船が大きく傾き、よろけるロッソは慌てて窓枠に捕まり転ぶのを防ぐ。
「打ち方、もう一度! 狙うのは怪物の頭部、浮上してきたところを撃て」
 砲撃命令に再度、ロッソは機会を窺う。すると飛沫を上げレヴィヤタンの蛇にも似た頭部が出てきた。
 ドォォン!
 弾が見事命中。凄まじい咆哮を上げレヴィヤタンは最後のあがきに尾を振り上げプライベーティア号を真っ二つに破壊した。
 咄嗟に海に飛び込んだジルとロッソは渦に揉まれながら、腹と頭に傷を負い沈んでいく怪物を見、空気のある海面へ急いだ。