スノービート☆アワーアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや易
報酬 2.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/13〜12/15

●本文

 珈琲の入ったマグを手に、PCを見つめている一人のディレクター。
 彼の視線が一心に注がれているのは、画面から飛び出さんばかりに楽しさが溢れるライヴ映像。そう彼の好きなDSを再現し実演された『ビートヒート☆アワー』だ。
 梅雨明けに行われたライヴから数ヶ月。
 あの時の眩しく輝いた夏の日差しは、既に淡い蜂蜜色へ姿を変え優しく会議室へ降り注ぎ、透明な硝子の向こうに広がる薄水色の空は一段と高さを増し冬の訪れを感じずにはいられない。
「はぁ、あれから数ヶ月か‥‥。そろそろ聞きたくなってきたね、GS」
 誰に言うでもなく、ディレクターは小さく溜め息を付き、珈琲を啜る。それを聞いていたスタッフの一人が、
「でしたらやりましょうよ! そうだな場所は開演したばかりのスキー場でどうでしょ? ちょっとレトロでお洒落なGSを聞きながら初滑りなんて良いかも知れませんよ」
「お、名案だね。タイトルは白銀の世界にGS旋風! スノービート☆アワーといこう。君は出演して下さる方を手配してくれ、僕は借りられるスキー場とロッヂを探すよ」
 出された案に嬉しげに頷くディレクターは、さっそく珈琲を机に置き、代わりに電話帳と受話器を手にした。


〜〜スノービート☆アワーの出演者募集〜〜
 スタッフが提案してくれたおかげでディレクターの夢が叶いました。
 今回の会場はスキー場(群馬県内)です。
 GSとは今の若者には少しばかり馴染みの薄いかもしれません。音楽的な特徴は洋楽の要素を取り入れながらも、独自方向で展開した日本発のポップス。
 ノスタルジックな曲が多いのですが、名前も知らない人でもちょっと聞けばなんとなく懐かしさを覚える歌やルックス、揃いの衣装が印象にあると思います。
 どうぞ皆様で楽しいスノーライヴを仕上げてください。
 グループサウンズと言っていますが、歌手さまお一人での参加も大丈夫です。
 また司会者、演出家、衣装担当、大道具を担当の方も同時に募集しておりますので、奮ってご参加下さいませ。

 ライヴのテーマ:スノー。冬に因んだ淡い恋の歌や青春を謳歌した曲を歌ってください。

●今回の参加者

 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2847 柊ラキア(25歳・♂・鴉)
 fa2870 UN(36歳・♂・竜)
 fa2899 文月 舵(26歳・♀・狸)
 fa3092 阿野次 のもじ(15歳・♀・猫)
 fa3461 美日郷 司(27歳・♂・蝙蝠)
 fa4371 雅楽川 陽向(15歳・♀・犬)

●リプレイ本文


 ライヴ当日の朝日。ディレクターの前にあるのは、真新しい光に反射する雪の粒に祝福されたステージ。急拵えのモノであるが、なかなかの出来映えだ。ぶつかる光りが楽しいと踊り跳ねる。しかしその感情は彼らばかりのものではないらしい。
「ディレクターさん、今回もとってもありがとう! スキー場なんて素敵すぎっイェーイ!」
 大はしゃぎでバスから降りてきた柊ラキア(fa2847)は両手を広げ熱烈な挨拶をする。ハグをされたディレクターは驚くも、笑顔で返した。
「こうして集まれるのを楽しみにしてました。ディレクターはん、おおきに。ええライブにするために気張りましょう。ほんで、楽しみましょうね」
「GS‥‥独特な分野やけど聴いたら面白いし、スキー場が会場って嬉しいな。‥‥もし時間があって鬼ごっこ出来るんだったら、私は完全獣化すれば見付からんやろう。白いから保護色になるし」
「待っていたよ、柊君。お久しぶりだね文月さん。来てくれて有難う! 勿論、会場のファンより僕が楽しんでしまう気がするよ。‥‥雅楽川さんもありがとう。遊ぶのはいいけれど、普通の人もいるので獣人は駄目だよ」
 ステップを降りて来た文月 舵(fa2899)は滑らかな京都弁と笑顔を向ける。後に続く雅楽川 陽向(fa4371)は一面の雪景色に嬉しくなり遊びを提案するが、ディレクターにやんわりと注意された。
「初回以来だな、宜しく頼む。何度かやっているのを見て思ったのが、こうして続ければ『懐かし』より、新しい流行になりそうだよな」
「UNさん、宜しくお願いしますね。え‥‥そうだね、新しい流行にしてみよう!」
「パパーー!!」
 別のバスで到着したUN(fa2870)が声を掛る。嬉しげな声を上げたディレクターにUNは返答しようとするが、殺気に似た気を感じ咄嗟にその場を飛び退く。
 気の出所は柊だ。満面の笑みで猛ダッシュし、UNに飛びつこうとしたが一回は避けられる。が、すぐに軌道修正し、ドゥッと雪の上に押し倒した。
「舵ー、今の見てたー? あー楽しかった」
「文月、笑ってないで止めてくれ」
 それはぶつかると言うよりも撥ねられるが正しいとUNは倒れながら思う。雪まみれの二人を笑う文月とディレクターに月見里 神楽(fa2122)が屋外舞台を見て、
「うわぁ、大きくって素敵な舞台‥‥。こんなに大きいのなら、他にも何か出来そうですよね」
「でしたらメンバーに似せた雪ダルマを記念に作ってみません? 力仕事に強い人もいますし」
「いいんじゃなーい! 楽しそーう」
 文月が意見を一つ。阿野次 のもじ(fa3092)は賛成と共に雪に手を突っ込み作り出すと、朝早いためやや寝ぼけ眼の富士川・千春(fa0847)も一緒に手を動かし始めた。見ていた他の共演者達もヨシっと雪を丸めだす。
「寒いよね、防寒と指先をしっかり守って、ゴーグルしなきゃ! あ、舵ー雪だるま一緒に作るよ! 寒かったら言ってねー。ぎゅーってするからー。てか、月見里さん、キーボード引くから指先冷やしちゃダメだよ」
 ハァっと手に息を吹きかけ温める柊は、一人黙々と雪兎ならぬ干支の雪猪を作る文月の傍に行く。おもむろに彼女をギュッと抱きしめて暖めた。しかしどちらが暖を取っているのか解らない。
 雪だるまを作る他の出演者達は、だんだんと遊びの方へ向かいだす。深い雪の中に埋まったり、雪飛礫を投げたりに興じ、ゲレンデに愛らしい嬌声を響かせた。
「これこれ、遊ぶのもいいけれど雪だるまを作ろうね。でないと、がおー! おじさんは熊になっちゃうぞ☆」
「きゃっ 怒っちゃ駄目ですよーっ! なんてね」
 雪飛礫の一つがディレクターに当たると、彼は月見里を窘めながらも熊の真似をして、的あて役をする。月見里は笑顔でややゆるい玉をお腹に向けて一つ二つ投げると、アクティブな彼らを遠巻きに雪だるまをコツコツと作っていた美日郷 司(fa3461)の手伝いを始めた。
 数十分後、八体の雪だるまと雪猪が無事に完成。出演者達はライヴの準備をするべく控え室に入り、スタッフ達は彼らが作った雪だるまを丁寧に舞台の上にあるクリスマスツリーの隣にセッティングしていく。
 見ていたディレクターは一つ頷き、開演の合図を観に来た観客と共に待っていた。


「ウィンターエンター‥‥エンタケナワー☆ やってきましたロマンスの女神様の季節。雪がこんこん霰がひゅひゅー燃え上がれ恋のトリプルボギー。ということで今回のスノービート☆ アワー、雪萌スキー場特設会場より司会進行役、阿野次のもじでお送りします。それじゃ皆揃って、ひゃういゴウ! 始まりはどっからみても可愛さ百花繚乱! 二人は雪の妖精☆ もって帰りたいsnow fairyさんで曲も素敵な妖精さん白い物語!」
 雪国っぽく、何故かお札の貼り付く衣装で舞台に登場した阿野次は、元気一杯に話し出す。
 どうもGSを違う略と勘違いしているらしい。それに合わせているような衣装から憶測すれば東北の山に住む霊と交信の出来る女性を意識しているようだ。その影響か言っている事は少々解りづらい。がこれはご愛敬と言う事で。
 阿野次が最初のバンドを紹介すると、舞台中央に置かれたリース飾りの付いた木のドアのセットの向こうから、アコースティックギターの音色が聞こえる。それはややスローなポップス。
 きぃっとドアが開き、雅楽川がソプラノよりもやや低めの声で歌いながら入ってきた。追うようにアコースティックギターを爪弾く月見里もドアを潜ると用意されていた丸椅子に座る。

『白い物語』 雅楽川 陽向
「 舞い降りた雪は白い、白いときめきに 広がる大地染めて行く
  囁く言葉は甘い思い出 もみの木の下で笑う妖精
  救い上げた白いときめきは 雪玉になって追い掛けて来た

  街を歩けば光り輝くイルミネーション並んで眺める
  週末の予定確かめあって指切りをして別れた笑顔

  whate time(白い時間)
  tremble with joy(胸ときめかせて)
  広がる大地 思いで染めて行く

  white heart(白い心)
  a fantastic story(夢物語)
  その続きは 二人だけが知る 」

 揃いの白いダウンのジャケットに青いデニム。そして足下も愛らしい白いシープブーツを履いた彼女達。
 歌の途中から照明が下がり、後ろにある背丈ほどのツリーのライトが赤、黄、青と小さく星のように点滅し始める。雅楽川はゆっくりとした足取りでツリーまで移動し、約束という歌詞の部分で右手の小指を顔の近くで立てる。白いリボンでツインテールに結んだ髪が合わせて揺れた。
 また歩き出し、月見里の元へいく。曲はサビに近付き、段々と盛り上がる。
 雪が舞うかのように美しい旋律を紡ぐ月見里に雅楽川は寄り添うと、コーラス部分を共に歌い上げた。
 合わさる少女の声が、可憐でいて歌詞のように切なげに響き、会場を包んだ。
 雅楽川が歌い終えると、やがて顔に掛からないよう揃いの白いリボンで横の髪を結い上げた月見里も情感たっぷりにアコースティックギターを弾き終えた。


 二人の演奏が終わっても照明は更に落とされたままだ。そこに阿野次の声が会場に響く。
「さぁお次は、合言葉はリバティー! ビート☆ アワーには欠すことの出来ない御馴染みで素敵なバンド、柊ラキアと文月舵に野生派アーティストUNがドッキング! 新生バンド『Un‐titlE』の登場だ。曲は『雪花』」
 僅かな音が響き、その中に儚い雪を拾うような柊の優しい声と、それを支えるUNの深く低い声が、歌うというより語り風で重なる。

『雪花』 UN

「 蒼穹のコントラスト 眩しい銀世界
  吐息を躍らせ 舞い降る雪花に手を伸ばす
  淡く溶けていく一片 その儚さが何より綺麗

  冬は星がよく見える 冴えた空気が空を高く振るわせるから
  SNOW SHINE 白く白く 光るカケラ達のカレイドスコープ

  願うように握り締めた 君の手の温もりだけを感じる
  花が降る 雪が咲く 星が流れる

  静かに募る あたたかな愛しさ重ねながら〜〜‥‥ 」

 徐々に明るくなる舞台にスポットライトの小さな光りの粒が、キラキラと柊とUNに降り注ぎ彼らを照らし出す。途中、曲調は変化を迎え紅一点、白いウエア姿の文月が叩くドラムが歯切れ良くテンポを上げてく。共に声を合わせるボーカルの二人だが、柊は途中、UNに任せ、手にしたギターでメロディラインを奏でる。
 ノリ出した観客達に手拍子を誘うUNと柊。黒いウエアの彼らは舞台狭しと走り盛り上げていく。柊は胸元で飛び踊る愛用のゴーグルを避けながらギターを元気よく弾き更に観客達が盛り上がりをみせた。
 途中、間奏ではUNがギターとドラムのテンポに合わせて口笛でメロディを追い、雪花形や星形に変化する万華鏡のようなスポットライトが彼らを包んでいく。
 最後に差し掛かった頃、舞台真ん中で背中合わせになる二人。歌詞の心を込めてグンッと伸びていく柊の声とそのラインを支える低重のUNの声が一色の音色となって、聞く人の心に問うように語りかけた。
 徐々にドラムやギター、そしてボーカルもフェードアウトしていき最後にメロディライン辿るUNの口笛の音だけ残り、そして静かに消えていった。
 二曲続いた演奏で、寒かったはずのロッジは夏のような熱気に包まれた。


「みんな、熱くなったね! 最後は、雪の特設会場で盛り上がろう! ユニットはマルチ演奏家と超演歌アイドルのコラボ。この出会いはGS黄金時代復活の架け橋なるか? 春よ恋、郷に来い! 千春& 美日郷司『SnowBATS』曲は『東京駅』
 司会を務める阿野次はゲレンデに設置した特設会場へと観客を促す。ワラワラと向かう客をディレクターとスタッフ達は手際よく誘導し、熱気を冷まさないうちに次のユニットへ。
 先程の似顔絵ならぬ似雪だるまが飾られた舞台の上で、白のジャケットコートに衿にさりげなくラビットファーとボーダーのマフラーをゆったり絡ませた富士川とスリムな白いロングコートに白いデニム。そしてインナーには青いタートルネックで決めた美日郷が富士川と揃いの青と白のボーダーマフラーを柔らかに巻いている。
 ステージ前が観客で埋まったのを確認すると、富士川がリズムを取るとギターを弾き出し、合わせて美日郷が歌い出した。

『東京駅』 富士川・千春

「 買ったばかりのコートを着て電車に乗り込んだ 通いなれた赤れんがの駅
  この土地に来たあの日を思い出す
  東京の雪は思ったよりも繊細で 触れるだけで全て溶けていった
  きっとあなたが待つ街でも雪は降ってるでしょう 」

 ギターのみのシンプルな出だしから、徐々に美日郷のベースや特別参加の月見里のパーカッション的なキーボード。そして音を紡ぎ出す文月のドラムが加わり、多彩な音色を出した。最後のフレーズでは全員が声をハモらせる。

「 車内は暑く 着ていたコートを脱いで膝の上へ 少しだけ大人になったかな?
  服とか化粧とか髪型とか‥‥
  トンネルを抜けたら外は真っ白 あなたに伝えたい事 雪に綴ったLetter
  あの懐かしいホームにあなたがいますように 」

 次は富士川の番。伸びのある声に甘い響きを乗せミドルテンポの曲に合わせて情緒的に歌う。美日郷の時と同じようにギター、ベース。そしてキーボードとドラムがボーカルを追い、トンネルを〜の歌詞で、用意していた人工雪を降らせる機械が稼働し、フワフワとステージに雪が舞い落ちる。最後のフレーズはステージにいる全員で視線を合わせ、コーラスを雪の中から響かせた。
 間奏に入り、やや曲調がアップテンポになっていくが、決して急ぐ事はない。この地にあやかった曲調はどこまでも落ち着いている。

「 あなたに歌いたい歌 譜面に綴られた 全ては雪の様に
  東京の雪は思ったよりも繊細で 触れるだけで全て溶けていった
  空に返せば届くかなって思ってたあの頃 ボタン雪となり心に降り積もってゆく‥‥」

 最後は美日郷と富士川のユニゾン。二人の声がしっとりとした歌の世界を作り聞く人々と一緒にその中へディレクターも引き込まれた。
 静かなコーラスとキーボードの旋律の後、富士川がギターを高いキーで爪弾く。それはまるで雪の残像を表現し、フワフワと飛ばされたシャボンと人工雪がその演出を更に強めた。


「最後の曲はディレクターのリクエストと決まってるのがビートアワーの習わし! 聞いてね『雪降りを待つ僕』

「 夢の中 淡雪と遊ぶ君を見て感じた事 好きだという気持ち
  銀の世界 僕が辿り着いた真実を今すぐ伝えたい
  ねぇ君よ 寒さで薔薇色に頬を染める愛らしい君よ 待っていてね
  雪がもっと降ったら会いに行くから 二人を導く白い世界 」
  
 先程に引き続きベースとドラムの美日郷と文月が作り出す音に彩りを添えるギターの富士川とキーボードの月見里。UNと柊が肩を組み歌う中、雅楽川と阿野次が愛らしく客席に手を振りながらコーラスをする。
 ステージにいる皆も歌を聴く観客も誰もが楽しそうだ。ディレクターは嬉しげに頷き曲を聴き終えた。
 そして最後に雪祭りとしてファンと交流を深め雪遊びに興じる出演者達。
 直滑降でノンストップ、スピードに乗って降りてくる文月と月見里。ステージでは阿野次が催する似雪だるまクイズ大会に参加する富士川と雅楽川、柊。
 ひと息吐き楽しんでいる彼らを美日郷が淹れてくれた美味い珈琲を啜りながら、ディレクターとUNは見守っていた。