female Buccaneers8ヨーロッパ

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/20〜12/24

●本文

『female Buccaneers 〜 海を彩る美しき女海賊たち 〜』

 一艘の木造船が沖を滑るように進んでいく。その旅立ちを真っ青な空も海も祝福しているようだ。
 風を孕み脹れる真っ白な帆。高々と立てられたマストに真っ赤なジョリー・ロジャー(海賊旗)がはためく。
 そこに映し出された金色の飾り文字『female Buccaneers 〜海を彩る美しき女海賊たち〜』とこのドラマのタイトルが流れ消えた。
 ズォォォォォンッ!! 
 突如、巨大生物レヴィヤタンが渾身の力で高々と振り上げた尾が海面もろともプライベーティア号の船体に当たり、真っ二つに破壊した。
 澄んだ青い空に凄まじい轟音と水柱を上げる海水に混じり船の破片が飛び散る。
 咄嗟に海に飛び込んだ船員達と副船長。船もろとも藻屑になるのは免れるも、次なる脅威が彼らを待ち受けていた。それは反動で出来た強力な渦。全員夢中で海面に浮かび上がり、呑まれまいと力一杯手足を動かす。
 彼らが目指すはジョリー・ルージュ号。彼らは救援要請をするのではなく、船を奪う目的なのだ。
 船体にたどり着くと錨を繋ぐロープを登り、窓を一つ割り船内へ侵入する。
 中ではリンゴを囓り、破壊されたプライベーティア号を傍観する船員の姿があった。乗り込んだ彼らは素速く当て身を喰らわせ、気を失わせる。倒れる彼女をゆっくりと床に寝かせ、プライベーティアの船員達は無言で合図を送りながら甲板目掛け歩みを進めた。
 異変に気付いた彼女達は、突如現れた男に次々と斬り掛かるも、彼らは容易くさっきと同じように当て身を喰らわせ、静かにさせていく。なんとも手慣れた動きだ。
 さらに足を進め、甲板へ出ると、素速く舵を強奪し船を乗っ取ってしまった。これが王国屈指の私掠船プライベーティアと言うべき圧倒的な力。呆気なくジョリールージュ号を鎮圧してしまった。
「僕たちの船はあの通り木っ端微塵になってしまいましたので、貴女達の船をお借りしますね。このまま僕達と仲良く英国へ向かい、裁判をしましょう。あっとその前にうちの船長と船員。そして貴女方の船長達を乗せなくてはね。‥‥あぁ良いところにお帰りなさい。お迎えに上がろうかと思ってましたよ。ではお嬢さん方、申し訳ないのですがこれを付けて貰いましょうか」
 舵を握る副船長はくすくすと笑いながら、帰還した己の船長とそしてジョリー・ルージュのメンバーに挨拶をすると、他のプライベーティアの男たちが素速くジョリー・ルージュの乗組員達の手をロープで縛る。
「お遊びはここまで。どうやら船長が宝を手に入れたようですし、貴女方を捕らえる事が出来ました。さっそく国へ急ぎましょう」
 副船長が舵を握り、船を進めようとしたその時、ヒューンッと青い空を切り砲丸の弾が船の側面に直撃した。揺れる船で転げる者、持ち堪える者、そして配置に着こうと慌ただしく動き回る者で入り乱れた。
 そこで望遠鏡を覗きこむプライベーティアの見張り役の口から、
「船長! 海軍がそこまで迫っており砲撃しています」
 そう、海軍が追いつき、攻撃を開始し始めたのだ。徐々に大きくなる船体を前に手を振って合図を出すも気付いてはくれない。
「困ったことになりましたね。国王に攻撃されるとは‥‥考えても見なかったですぜ。そうだ、さっき頂戴してきたお宝の力を試してみる絶好の機会ではないですか? 船長!」
 船長の傍にいた船乗りの一人はやや困った口調ではあるが、顔に浮かぶ表情は違っていた。船長の手に握られた宝に目を移し、口角を上げ一つ策をその唇に乗せた。


■参加者を募集します。
 ヨーロッパ発の海を渡る冒険活劇『female Buccaneers』に出てくださる出演者を募集してます。
 女性海賊達が乗り込むジョリールージュはなるべく女性の船員が好ましいと考えており、またプライベーティアの方は王室から許可書を得た私掠船。こちらは男性の乗組員で構成をして頂きたいと考えております。
 そして配役は二つの船の船長以外、まだきちんと決まっておりません。この二つの役が重ならない限り、皆様の演じたい役のご希望を頂ければ嬉しく、また添えるよう努力させて頂きます。ただしこのドラマに沿った役でお願いします。
 
 ジョリー・ルージュの船長 腕っ節と機転の良く利く女船長。
 プライベーティアの船長  明晰な頭脳と繊細な神経の持ち主だが、土壇場に強い男
 操舵手
 帆手
 甲板長
 砲手
 調理長など船に関わる仕事など。

 使用できる武器等。
ピストル:原始的なフリントロック式。殺傷能力は高いが一発撃ったら再装填しなければならない。また潮風で火薬が湿気り不発もしばしば。そのため何丁も肩帯から提げることがある。
マスケット銃:銃身の長いフリントロック式の銃。殴り合いの時でも使われる。
カトラス:海賊が用いた片刃の小剣。船など狭い場所で戦う時に威力を発揮した。

 情報
海の宝『紺碧の心臓』を巨大生物レヴィヤタンの第一心臓で海の悪魔ダゴンが宝として大切にしていた物。これを手にした者は、海に関するあらゆる力を収める事が出来るが、同時に強い海の呪いも掛けられてしまうようです。ですが伝説にもなる程、誰もが欲する海の宝である事は間違いありません。

●今回の参加者

 fa1761 AAA(35歳・♂・猿)
 fa3293 Even(22歳・♂・狐)
 fa3325 マーシャ・イェリーツァ(23歳・♀・兎)
 fa4123 豊浦 まつり(24歳・♀・猫)
 fa4478 加羅(23歳・♂・猫)
 fa4611 ブラウネ・スターン(24歳・♀・豹)
 fa4713 グリモア(29歳・♂・豹)
 fa4832 那由他(37歳・♀・猫)

●リプレイ本文


 私掠船プライベーティア号の船長キャプテン・ホーキンス(AAA(fa1761))の手には欲していた海の宝石、この世で一番美しく全ての海域の実権を握れるという巨大生物レヴィヤタンの心臓『紺碧の心臓』が握られていた。
 蒼く煌めく宝に魅せられ恍惚とした表情の彼の瞳は次第に怪しさを増す。だが、プライベーティアの船員達はジョリー・ルージュのクルー達を拘束する事に夢中で気付かなかった。
 舵を握りながらこっそりと見ていたジル(Even(fa3293))、一人を除いては。
「いきなり押し入ってこの狼藉、許しませんわよ! それにわたくしの可愛いジョリー・ルージュの舵を男が握るだなんて‥‥。冒涜の他にないですわ」
「メアリーお嬢さんのご意見はご尤も。確かに女性のお宅に押し入るなんて、失礼極まりないとは思います。しかし事情が事情ですのでご容赦を」
 甲板で両手を縛られているジョリー・ルージュ号のクルー達の中でメアリー・ショウ(マーシャ・イェリーツァ(fa3325))は、気丈にも文句を並べていく。しかし彼女の育ちの所為かどこか品良く丁寧だ。聞いたジルはいつものような笑みで謝罪の言葉を述べる。しかしそれはどこか真剣みは薄い。
 その間にマルコ・ロッソ(ブラウネ・スターン(fa4611))は、ブーツの踵に仕込んでいた火薬を取り出そうと、器用に身体を折り曲げ奮闘している。銃器を取り扱う者の嗜みと普段から豪語する通り、床板に打ち付けぱっくりと割れた踵から、油紙に包まれた鉄の小物入れが出てくる。しかし両手の自由が利かない為、蓋を開ける事がままならなかった。
 隣でも縄と格闘するサイリーン(豊浦 まつり(fa4123))。彼女の視線の先にある床板が小さく開き、中からアン(那由他(fa4832))のボサボサ頭が突きでた。
 普段船底で研究に没頭している彼女が、上の騒ぎを聞きつけ見に来たらしい。そんなアンをプライベーティアの面々は見過ごしたらしい。自由の身の仲間がいるのは幸いな事だ。
 サイリーンは少し離れたところで監視をするニルス(加羅(fa4478))が空を見上げているのを確認し、口パクと視線で合図を送った。アンは解ったという返事の代わりに小さな蝋燭を転がし、また床下に消える。
 甲板を滑る蝋燭を手に入れたサイリーンは、注意深くロープに塗っていく。結び目の滑りを良くして幾度か手首を捻ってみた。
 上手い具合に結び目を解く事に成功すると、次のメアリーへ蝋を後ろ手に渡す。
「相変わらず詰めが甘いねジル‥‥私を捕まえるのに縄なんかじゃね‥‥」
 サイリーンは小さく笑うと、不審な動きを目にしたジョアン(グリモア(fa4713))が訝しげな顔でジロリと睨み付ける。が、そこに運良くというべきか、風を裂く音が響いたかと思うと、弾が当たる。船体の一部を吹き飛ばし激しく揺すった。
 攻撃を仕掛けたのは重装備な軍艦。幾つもある大砲の一つから火薬の匂いの混じる煙を吐き出し、真っ青な海と空を汚していく。
「ホーキンス船長! 軍艦が俺達に気付かず攻撃を仕掛けてきています、どうします?」
「‥‥あれは私達と『紺碧の心臓』がここにある事を承知の上です。こんなにも綺麗な大海原に不躾な煙を立てるとは‥‥海に人の存在は似つかわしくない、そう思いませんか?」
 近付いている軍艦について報告をするニルスに、品良く眉を器用に上げたホーキンスは嫌悪も露わに軍艦を睨み付けた。と、同時に右腕をおもむろに上げるとグンッと空気を揺らし大きな波動を放つ。
 ドォン!!
 空気の弾は、巨大な海蛇が波間をうねり滑るように進み、軍艦目掛けて突進し容易く沈めてしまった。
 轟音と飛沫を立て沈む船を満足げに見やるホーキンス。ニルスは純粋に見てみたいと思っていた『紺碧の心臓』の威力を知る事が出来、関心と脅威の表情を浮かべ傍観している。
 だが突然、船長の乱心とも思える行動に驚いたジルは駆け寄り抗議をする。
「せ、船長! なんて事をするのです、国王の艦隊を沈める必要はないのでは?」
「あ‥‥副長、いけませんっ駄目です!」
 真剣な表情で沈む船を眺める上司の背中に訴える。が、ホーキンスは無言で振り向き様、愛用の宝剣を閃かす。
 薄々、ホーキンスの危険を察知していたニルス以外、この場にいた者には何が起きたのか理解出来なかった。しかし肩から血を噴き出し、崩れるジルを見て誰もが息を呑む。
「ジ、ジル!!」
「‥‥な?! 仲間を斬るってどういうことですの?」
「酷い‥‥」
 サイリーンは咄嗟に駆け寄ろうとするが思い止まり、衝撃に声を荒げレイピアを抜こうとするメアリーを押さえる。甲板を汚す血を見てマルコは小さく呟いた。
 こんな行動は普段の彼からは考えられない。だが『紺碧の心臓』を手にしたホーキンスの瞳は、爛々と赤く狂気に似た色を宿らせ見る者を凍りつかす。
 息も絶え絶えに不思議そうな表情を浮かべるジルにホーキンスは冷ややかな視線を送った。
「あなたは気付いていたのでしょう? ジル。私が普通の人間ではない事を。そう、私はバルバドスの末裔、悪魔の血を引く者。以前より力を使う所を見られてましたものね」
 突き刺さる事実。そこにいるホーキンスは以前の彼ではなく悪魔だ。
「せ、船長! こりゃどういうことなんっスか? あれほど楽しくやってきたのに‥‥」
「おやおやジョアン。今も十分に楽しいでしょう? 私に楯突く軍艦を沈めるのですよ。海を我が物にし、汚そうとする人間を叩く。それだけの事です」
 ホーキンスの狂気に駆られた言葉は質実剛健のジョアンには想像がつかない。倒れるジルに駆け寄り助け起こしながら船長を睨みつけ、その手に握られている『紺碧の心臓』の所為だと悟ると剣を抜いた。
 斬り掛かってくる彼にホーキンスは口角を捻るように上げ迎え撃つ。
 幾度と斬り結びながらも必死に宝を奪おうとするジョアン。敵わないと知りながら剣を振るう彼に誰もが固唾を呑んで見守った。が、その時。
 ドォォン!
 またも砲撃が襲った。身を屈めるサイリーンやメアリー達に倒れるジルを庇うニルス。爆発音で僅かに隙を見せてたジョアンをホーキンスは斬り付けた。右肩口から胸に掛けて走る鋭い痛みを覚え、ジル同様に甲板に倒れる。
「もうお仕舞いですか? ジョアン」
「キャプテン・ホーキンス! 仲間を斬るあなたは、もう彼らの船長ではありませんわね。許せない!」
「いつの間に縄を解いたのですか、まったく油断ならない」
 仲間である二人の船員を傷つけたホーキンスに、怒り覚えたメアリーがレイピアを突き付けた。だが対峙して彼が正気でない事に長いドレスの中の足が竦む。
 ふっと鼻で笑うホーキンスに水の入った木樽が勢いよく転がりぶつかってきた。避ける間もなく弾かれるも転ぶ事は何とか免れ怒りに駆られ真っ赤になる瞳で辺りを見回すと、アンがこっそりと用意していた幾つもの樽を転がす。
「くっ! まだ残っていたのですか? 私にそのような事を仕掛けるとは許しません‥‥」
 言うが早いかホーキンスは、飛ぶようにアンの前に立ちはだかり、剣で喉元を狙う。しかし彼女は床板を思いっきり踏みしめ、そのまま下に落ちた。彼女が前もって準備していた陽動作戦だ。ホーキンスもその穴へ潜り込もうとした。
 その間にサイリーンの誘導の元、マルコとニルスはジルとジョアンを抱え後方をメアリーが剣で守りながら安全な場所へ移動する。
 ドドォン!
 またも砲撃。今度は二発がジョリー・ルージュの間近に着弾した。船は大きく揺れ爆発で作られた波に翻弄される。
「あぁ‥‥煩い。まずはあの軍艦を消滅させてきましょう、あなたたちはそれからです」
 苛立つホーキンスはアンを追うのを止め、海に降りると波の上を滑るように歩く。それも『紺碧の心臓』がなせる技らしい。
 歩きながら剣と『紺碧の心臓』を掲げると、軍艦達は暗雲と大きな渦の中に翻弄され為す術もなく飲まれていく。
「船を取り戻せたわね、さぁ行くよ! マルコとアン、帆を張るのを手伝って! メアリー舵をお願い!」
「えぇ、解ったわ。『紺碧の心臓』には悪い噂も色々聞いたけど、その伝承は本当だったみたいね」
 ホーキンスが作り出す嵐の余波を、ようやく舵を握る事の出来たメアリーは沈められないよう巧みに操る。サイリーンも帆を張るよう大声を上げて指示し始め、アンはこっくりと頷くとロープを手に『紺碧の心臓』にまつわる話に一人納得顔をした。
 轟音を立てて海の中に消えていく軍艦達。うっとりとした表情で眺めるホーキンスは、一時退却をしていくかのようにみえるジョリー・ルージュに目をやるとうっすら微笑み、
「おっと、逃がしはしませんよ」
 ザバァァア!
 また『紺碧の心臓』を掲げると沈んだはずの軍艦を水飛沫と共に引き上げ、ジョリー・ルージュ号と併走するように位置付ける。
 スッと軍艦に乗ったホーキンスは彼女達を追いながらもまたも『紺碧の心臓』を使い彼女達の前に大きな渦を出現させた。
「ま、不味いわ! このままだと呑まれてしまう。お願いよ、あと少しだけ頑張って頂戴、ジョリー・ルージュ!」
「風の動きが定まらないからどうしょうもない‥‥」
 ミシミシと軋む音を立て出す船を宥めながら必死に舵を取るメアリー。
 慌ただしい船内の中でようやく意識を取り戻したジルは虚ろな目でプライベーティアの面々に指示を出す。
「お嬢さん達がお困りなのに、何をしているのです? は、早く‥‥各員、彼女達に協力をしてあの軍艦を沈めなさい」
「で、でもあそこには船長が‥‥」
 同じく傷を押しながら立ち上がるジョアンは目前の船の甲板にいるホーキンスを見やり言う。それを観たジルはゆっくりと首を振り、
「せ、船長は今不在です。ふ、不在の場合は僕の指揮が最優先‥‥です、‥‥繰り返します、船長は‥‥不在‥‥です」
「ジルの言う通り、ここで死んでしまっては、元も子もありません。船を安定させます。その間にジョリー・ルージュの方、攻撃をお願いしますよ」
「その言葉、今だけは信じましょう。サイリーン、帆をお願い。マルコ達も位置について。渦を避けて出来るだけ近づきますわよ!」
 痛みを堪え浅い息を繰り返しながらも微笑み再度、指示を出すジルに深く頷き航海士の本領を発揮するニルス。今は切り抜ける事を考え、メアリーは意見に従う。サイリーンやマルコ、アンも黙って帆を引き持ち場に着いた。
 男手も加わり、帆はみるみるうちに荒々しい風を掴み渦の傍で速度を落として軍艦を追いつかせた。ホーキンスの顔がすぐそこまで見える。メアリーは舵をニルスに任せドレスを翻し飛び移った。
「さぁ再々戦ですわ、キャプテン・ホーキンス! レネ島での借りを此処で返させて貰います」
 電光石火の勢いでレイピアを突きだした。ホーキンスも素速く受け流す。激しくぶつかり合う金属音。斬り結ぶ二人だが僅かにメアリーの方が分が悪い。
「メアリー、左だ! 左に回れ。船長は左から振り上げる時、右よりも遅れるんだ! 船長を止めてくれ‥‥」
 ジョリー・ルージュ号の甲板から剣を杖代わりにして立ち上がるジョアンが怒鳴る。聞いたメアリーは頷くと左へ移動し後ろへと誘い込む。
「ジョアン、私の弱点を言ったところで、もう勝敗は決まってるのですよ。これでお仕舞いにしましょう!」
「まぁ決まってるですって? この勝負は、貴方でなくわたくし『達』の勝ちですわ」
 一瞬の隙をつきメアリーは素速く身を屈めた。当てを失ったホーキンスは虚を突かれ怯む。そこに一発の銃声が木霊する。
 ズバァン!
 一瞬、ホーキンスは何が起きたのか理解できなかった。だがマルコの手に持つマスケット銃の銃口から一筋の煙で事が解った。
「な、なにぃ?」
 溢れ出す血と砕けた『紺碧の心臓』を交互に見やるホーキンス。驚愕の表情が次第に穏やかな、普段の顔に戻り小さく何かを呟く。それは離れているジルやジョアン、ニルスの耳に届いた。「よくやった‥‥」という呟き。
 がくりと身体を前につんのめらせたホーキンスは、あの上品な笑顔を浮かべ海の中へ砕けた『紺碧の心臓』と共に沈んでいった。
「終わった‥‥ね、ジル」
 沈むホーキンスを見、戦いの終わりを感じたサイリーンは倒れるジルをそっと抱えた。彼女の肩に捕まりジルは顔を反らし涙を拭うと、
「ふふ‥‥このまま死んぢゃいたいくらいですね‥‥」
 いつものようにのたまわった。


 時が過ぎた。青い空とそして同色の海。心地よい潮風が波の背を渡る。サイリーンとメアリーが操るジョリー・ルージュ号に併走するプライベーティア号。
 あの時、助かったジルが船長に就任していた。
「やぁ、お嬢さん達。今度はどちらまで?」
 拡声器を手に問いかけるジルにメアリーとサイリーンは顔を見合わせ笑い合うと、
「あの時だけよ手を結んだのは、気安く声を掛けないで頂戴な。ジル」
「そうだよ、私達ジョリー・ルージュはお宝のあるところ目指して風任せ、運任せの海路なのさ。さぁ行こう、相棒」
 グンッと帆を張るサイリーンにメアリーは大きく頷き舵を切った。船は大きく右に逸れる。残念そうに手を振るジルに笑いながら手を振り返す彼女達。
 プライベーティアの甲板の上では、怪我が治り相変わらず剣に勤しむジョアンとぼんやりと海と空の間を見つめるニルスがいる。
 彼が見つめる先には半透明なセント・エルモの火‥‥幽霊船が一隻、波間に漂っていた。
 楽しげな彼らを眺める髭を綺麗に揃えた優美な伊達男と、右目に眼帯を付けた威厳のある女船長が微笑みながら彼らを見送っていた。