とにかく捕まえろっ!6アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 極楽寺遊丸
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 不明
参加人数 10人
サポート 0人
期間 12/26〜12/28

●本文

 前回の教訓でここ数日大人しいディレクターのT氏。それはA君にとって有り難い事でもあったが、その静けさが不気味な恐怖を感じさせていた。
 いつもの会議室で企画書を捻り出すためPCの前に座るA君は、目の前でほわ〜〜んとした表情を浮かべて、宙を見つめるディレクターにこっそりと視線を送った。
 なにやら目に見えない素敵な方とT氏は交信中のようだ。一人勝手に頷き会話を進めている。
 それを見、溜め息を交えヤレヤレと言った風で首を横に振るA君は、またPCの画面へと視線を戻した、その時。いきなりT氏が立ち上がったかと思うと、おもむろにA君の傍に来て、
「今、企画の神様からお告げがあったよ! 今回もビックな名案だ」
「なんですか、その胡散臭い神様は? そんなモンと交信してたのですか。そしてビックな名案って、いつもやる事はでたらめだと言うのに」
 眉を顰めT氏のこれまた焦くさーい話に突っ込みを入れ、A君は無視を決め込もうとするが、T氏は情熱的に彼の肩を強く握り案を勝手に話し出した。
「それはお年玉争奪バトルロワイアルだ! またもこのフロアを使いチームが二手に分かれてお年玉を争奪しあうんだ。どうだ、面白いだろ!!」
「またこのフロアを使うんですかっ! いい加減にして下さいよ。他の企画室からも苦情の嵐なんですからね! 却下ですよ、却下!! 
‥‥くぉらぁぁ! 人の話を聞けぇぇ、馬鹿ディレクター!! ま。通るわけ無いかw」
 T氏はフンッと鼻息荒く語るが、げんなり顔のA君は、0.3秒で企画を破棄する。
 彼が悪行の限りを尽くしたため、ここに参加するA君を含むスタッフ達は肩身が蟻の肩幅よりも狭い。だが、そんな言葉にめげず、T氏はA君の却下の言葉を待たずして、企画案を告げるだけ告げて上司に報告しに行ってしまっていた。
 虚しく怒鳴り声を会議室に響かせたA君だったが、瞬時に思い直してPCに向かった。

 だが数十分後、A君の予想だにしなかった結果となってしまった。
 そう、企画があっさりと通ってしまったのだ。
「オッケーだってよ。以前からのこの『つかまえろっ』シリーズが面白いって言ってくれる部長さんが応対してくれたんだよ。それと、はい企画書。このフロアの廊下と幾つかの部屋は使っていいと許可も貰っておいたよ」
「だぉぉぉおぉ〜〜、どいつもこいつも!! フロアを破壊することしかないのかぁぁ〜〜」
 T氏手書きの企画書には煌々と上司の印鑑がある。頭を掻きむしったA君は、諦めモードで出された企画書に目を通した。そして‥‥
「な、なんじゃこりゃぁぁぁ〜〜っ」
 昔流行った白スーツにもじゃもじゃ頭の刑事よろしく、胃の部分を押さえ声を上げた。
 そう、書かれていたのは――

■出演者を募集します。
 毎度お馴染み『とにかく捕まえろっ!』ではA君と一緒に、お年玉争奪バトルロワイアルに参加して下さる方を募集しております。
 チームはA君と三名の『時期はずれサンタさんチーム』を追う『新春だったら七福神チーム』に別れて頂き、A君達が持つズタ袋を番組終了30分間でゲットしてください。
 勿論、A君チームは逃げ切れば、そのお年玉がゲットできます。
 おーし、新春早々運と腕試しを行いたい強者の皆様、どうぞ奮ってご参加下さい。
 なお、武器は怪我がしないよう、ラバー性の物とさせて頂き、七福神に変装される方はそれに似合った物をお取り下さい。

 ――っと書かれていた。
「なんで、俺が参加してるんっすかーっ!! なに無茶苦茶な事を企画に入れてんだっ」
 読み終えたA君は、T氏の胸倉を掴みゆっさゆっさと揺らし問いただす。
「あぁ〜〜脳味噌が揺れるからヤメテ! だってさっきお告げで言われたし、それに前回は俺が出たじゃん。これでおあいこだ」
「何がおあいこぢゃー、あんたのは自分が悪いじゃないかっ! 企画を取り消してこい」
「あーもう無理。時間がないから、もう募集の配布しちゃったんだよね。ま、がむばってね」
 するりとA君の手を抜け出した。T氏は満面の悪魔チックな笑顔で凍りついた彼に手を振った。

■再度出演者募集
 いつものように、T氏のむちゃくちゃを売りにしている『とにかく捕まえろ!』では、A君と一緒に番組に出て下さる方を募集しております。
 今回は追う側は七福神の仮装。追われる側はサンタ&トナカイです。A君は皆様の意見によって司令塔であるサンタにも当て馬覚悟のトナカイでもなれます。A君側で参加される方三名まで。プレゼントの入っていたズタ袋を守死してください。
 また七福神で参加される方はがっつり変装を宜しくお願いします。
 新年早々にフロアを破壊する事は、あまり思わしくありません。出来れば壊さずに。あまりに酷いようでしたらゲットしたお年玉からお支払い頂く場合があります。

■情報
 A君 本名 会田健児 23歳 可愛い彼女がいるらしいが、クリスマス前に何かをしくじりサヨナラした模様。特技はバスケ。ただ、選手としての身長に恵まれず引退をし、今は休みの日になるとストリートバスケに出て遊んでいる。

七福神
 恵比寿  鯛と竿を持つ福を呼ぶ神様
 大黒天  小槌を持つ財の神様
 毘沙門天 甲冑を付け三叉戟を手にした戦いの神様?
 寿老人  酒好きで杖を持つ道教の神様
 福禄寿  寿老人同様に杖を持ち経を巻いた神様
 弁天財  紅一点。投げ縄と鉄輪を手にした勇ましい神様
 布袋   袋を背負う、にこやかな神様
※各神に合わせた能力と武器(?)の使用をお願いします。
また役は必ず全部埋めて下さい。そして早い者勝ちではありません。どうぞ皆様で仲良くお決め下さい
袋の中のお年玉の額は70万円。勝った方のチームに進呈します。また健闘賞も別途用意をしてあります。

●今回の参加者

 fa0892 河辺野・一(20歳・♂・猿)
 fa1294 竜華(21歳・♀・虎)
 fa1465 椎葉・千万里(14歳・♀・リス)
 fa2671 ミゲール・イグレシアス(23歳・♂・熊)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)
 fa3622 DarkUnicorn(16歳・♀・一角獣)
 fa3797 四條 キリエ(26歳・♀・アライグマ)
 fa3822 小峯吉淑(18歳・♂・豚)
 fa4555 シトリー・幽華(29歳・♀・豹)
 fa5082 鷹飼・源八朗(19歳・♂・鷹)

●リプレイ本文


 TV局のフロア。貸し切りとなったここにチントンシャン‥‥ってな淑やかな琴の音色が流れた後、ドンっと現れたタイトル『特別企画 とにかく捕まえろ杯 ゲッツお年玉争奪バトルロワイアル』なる文字が踊る。しかし踊るのは文字ばかりではない。
 布袋役なはずのミゲール・イグレシアス(fa2671)が何故かサンタ姿で背負う袋に仕込んだCDから流れる某ロック歌手の曲に合わせ、陽気に巨体を揺らしながらカメラの前に現れた。
「イロハに諺の『ほ』ー、布袋さんの『ほ』! 意味は某有名な‥‥」
 いきなり他局のネタ発言をぶちかます。っと、突っ込み魂に火を付けたDarkUnicorn(fa3622)が、凄まじい勢いで走り込んできた。
「ミゲール、お主はサンタじゃなかろう。それは他局ネタじゃ、成敗!」
 ズバシィン!!
 あるお姉さんを彷彿とさせるハリセンアッタクが後頭部にヒット。誰もが技に震え上がるもそれ以上に、特殊メイクと称して額に角を生やし、血まみれのサンタガールという姿の方がもっと恐い。しかし河辺野・一(fa0892)にしてみれば、かなり突っ込み満載な彼女。寿老人に扮した彼が手に持つ瓢箪のついた杖を掲げながら、
「ミゲールさんは何故かサンタ姿でっと、もうそのネタは瞬殺されてますね‥‥。突っ込んだのはスプラッターなサンタのサタンガール‥‥? おめでたい日に返り血を浴びてるし、それに額の角はトナカイのじゃないし、さてどこからツッコミましょう‥‥」
「ふん、言いたいのはそれだけか、河辺野。わしは逃げ切って賞金を貰うのじゃ! 金が掛かっている以上、誰が相手でも容赦せん」
 頬紅で赤く染めた顔に困惑の表情を浮かべつつ問うてみる。
 が、DarkUnicornは答える代わりに挑戦的な言葉を吐くと隣で共に仁王立ちするトナカイの着ぐるみ姿のシトリー・幽華(fa4555)と逃走を図る。
「むははっ、現れたなサンタさん、むぁてぇ逮捕だぁ〜」
 それを追いかけようと背後から割って飛び出すのは、重い甲冑を身につけご丁寧に頬面まであてた毘沙門天だ。手にするラバー製の槍を振り回しながらなんとも直角的な動きで、彼女達を追う。
 押された薄絹の下にビキニ姿の弁天に扮した椎葉・千万里(fa1465)とお供鶴・鹿・桃と称した縫いぐるみを引きずって歩く福禄寿の小峯吉淑(fa3822)が顔を見合わせ、
「なぁ、誰やったん‥‥あれ?」
「さ‥‥あ、もしかして鷹飼・源八朗(fa5082)さんかも、弁天ちゃん」
 ? マークが浮かびまくる二人。勿論視聴者も同様だが、仮装する鷹飼さえ解れば問題なしという事でそのまま放送が続行される。
 ひと騒ぎが収まった所で河辺野がふいと隣に立つT氏に尋ねた。
「ねぇ、今回の『捕まえろ』は、クリスマスと新春初笑いのコラボだけど、時期が中途半端じゃない? まぁ、おめでたいお祭りが二組と言う事だからアリで。いいのかな?」
「甘いよ! 河辺野君。確かに微妙な時期の撮影だが、放映されるのは正月。お茶の間で家族団らんしている方々に楽しんで貰う為のVTRなのだよ。だからザッツオーラーイさっ」
 T氏は、カメラに映り込まないのが残念なほどニヒルな調子で答えるが、言っている事はやっぱりヤヴァめ。ノリで乗り切ろうというのがミエミエだ。押されて納得する河辺野はひと息付くと、先に行った毘沙門天の様子を半獣の能力でこっそりと窺いつつ、
「サンタ達は二組に分かれているみたいですね。ここは僕達もその通り動きましょう」
 的確な指示を出す。黙して見ていた恵比寿役のイルゼ・クヴァンツ(fa2910)は、付け髭の向こうから毎度ドタバタ過ぎなこの番組の継続はT氏の粘り勝ちだなと、しみじみ思いながら後を追った。
 ほんと憎まれっ子世に憚るとは、良く言ったモノである。


 河辺野と鷹飼に追れるDarkUnicornと幽華はニセの袋から妨害アイテムであるパイやバナナの皮を取り出しては投げていく。
「あちょちょーっ! フロアを汚すと罰金が科せられるー」
「食べ物を粗末にするとは、許さないぞ! 覚悟しろっ」
 酔拳宜しく奇声を発しながら杖で避けていく河辺野に対して、見えにくい頬面と固い甲冑をつける毘沙門は避ける事がままならず、彼の吐き出す熱血ヒーローチックな台詞は負け惜しみにしか聞こえない。それでもしぶとくひた走り接近を試みる。
 イルゼも竿を手に追いかけ投げるタイミングを探していた。
 二人のサンタチームは捕まるまいと、軽快に足を運び速度を上げる。
「お年玉のためじゃ! あまりしつこく追いかけ回すと女子に嫌われるぞ、それぇ!」
 ばぃん!
 足を速めつつ、追い打ちかけるようにDarkUnicornがパイを投げ、バナナの皮を落とす。計ったように毘沙門の顔に当たり、慌てたところにバナナの皮で足を滑らせ、漫画のようにつるりんと後ろにひっくり返った。
 ゴツっと鈍い音を立てて後頭部を強打する。
「うぅ、無念‥‥。先に行ってくれ、必ず追いつくさ」
「解った。うちに任しとき、そいやぁ!」
 痛みを耐えながら、最後までヒーローの心意気を捨てずに熱い台詞を並べる毘沙門天。椎葉は大きく頷くと手に持っていた浮き輪付きの長ゴムをカウボーイの要領で頭上でぶん回し、逃げる彼女達に狙いを定め投げつけた。
 浮き輪は一直線に幽華に向かう。が、彼女だって易々とは捕まらない。
 素速く袋からクリスマスリースを手裏剣のように投げ、軌道をズラした。そこにDarkUnicornがツリーならぬ白綿や電飾を施した和洋折衷な門松を置く。的を失った浮き輪は上手い具合にズボっと引っ掛かった。
「あぁ、駄目やったわ〜」
 悔しげな椎葉。だが彼女は大切な事を失念していた。そう、ゴムを付けた浮き輪は伸びきった時点で法則に従い戻って来るという事。
 ビヨヨ〜〜ン。
 間の抜けた音が響き、浮き輪は門松を抱え椎葉の元に帰還してくる。重みで加速の増したそれを椎葉は避ける間もなく腹にモロに受け、そのまま後方へ吹っ飛んだ。
「痛い‥‥。けど幸いなのは胸にあたらへん事やったわ。これ以上、貧相な弁天さんになったら切ないわぁ」
「そ、そうだね。けどビキニがずれない程はあるんだから自信持ちなよ‥‥」
 追ってきたカメラに向かって椎葉は切ない自虐ネタを披露。河辺野は温かい眼差しと頓珍漢なフォローを入れた。その一言が椎葉に追い打ちを掛けたのは言うまでもない。が、めでたい日と言う事で勘弁である。
 遁走する彼女達は角に差し掛かりコーナリングを見事に決めていく。一瞬、足がゆるやかになった幽華目掛けて、イルゼは大振りストレートで竿を撓らせた。釣り糸は空を切る音を立て飛んでいき、幽華の被るトナカイの角に巻き付いた。幸い怪我の無いように加工してある釣り針。無傷で幽華の動きを封じるかと思いきや。
 ずるり。
「うほ、サービスショットぉ?」
 興奮気味のT氏。だが残念。落ちたのはトナカイの被り物だけ。しかもまた中からトナカイの頭が現れる。幽華は事前に察知していたようで準備をしっかりしていたのだ。
 振り返り笑い素振りをするとDarkUnicornと共に角を曲がった。が、机の上で人形と一緒に膝を抱え待ち構えていた小峯に気付かず、彼の差しだした杖に足を取られ、揃ってつんのめり床に転がった。
「ふぉふぉ。ワシの武器は他の皆と比べるとパッとせんが、以外に役に立つものじゃ。南蛮渡来のさんたがぁるなお姉ちゃんもええのぉ〜。そぉれ、つーかまーえたーのじゃー!」
 長い頭を揺らし転がるDarkUnicornに小峯はウハウハでタックルを決め、捕獲成功させた。
 この光景はセクハラ以外のなにものではないが、T氏に抱きつかれるよりはマシのはずだ。だが捕った彼女の気は収まらない。
「ほう、わしを倒すとは‥‥。あっぱれじゃ。プレゼントを進ぜよう。名付けてメリ−クルシミマスじゃ」
「ぐぁぉ〜鼻が曲がるっ! こりゃぁ、年寄りは大切にするものじゃー」
 抱きしめられながらもDarkUnicornは小峯に向かって真っ赤な靴下を差しだす。否、それを鼻、目掛けて押しつけた。これは使いたくなかったと称する秘技。一週間、履き続けた靴下にくさやを突っ込んだスペシャルな物だ。
 貰った小峯は堪らない。鼻を押さえのたうち逃げ出す。その隙に彼女は懐に手を入れ小さなズタ袋を取り出すと、待ちかまえていた幽華にパス。受け取った彼女は真っ直ぐ廊下を走り抜けた。
 小峯は負け惜しみの一言を放ちながら、逃げていく幽華に鶴鹿桃を投擲。だが狙いが定まっていないのでまったく当たらない。
 河辺野は幽華の落としたトナカイの赤鼻を拾い上げると後を追うと、そこに立ちはだかるセパレートタイプのミニスカサンタコスに大きめなバストを押し込めた竜華(fa1294)。艶やかな微笑みを浮かべ河辺野に迫る。
「ハォ、格好いいお兄さん、ちょっと此方で休んでいかなぁい?」
「いえ、先を急ぐので!」
「そぉなの、ここにも袋があるんだけどな〜」
 思わせぶりに胸の谷間から取り出したのは幽華が持っているのと同一の袋。河辺野は奪うべく杖を身構え、酔拳で攻撃開始。
 竜華も身を翻し避け、中国拳法の足捌きと派手なアクションで廊下を動き回る。なかなか見応えのある映像に追いついたT氏とカメラマンが嬉しげに囃子立てる。
 押している河辺野。だが竜華の目論みに気付かず乗ってしまった。派手なとんぼ返りを切った彼女は、背後に用意した紐を手に掛け、引っ張る。
「日本の番組でイエスが×ってやりながら水を被せる奴あったじゃない? クリスマスっぽいあれ‥‥」
 ざばーっ。
 吊されていた盥がひっくり返り水が河辺野に降り注ぎ頭から浴びた。ついでにドッカーンっとタライも一つ。
「あらその恰好じゃ寒いわね? たしかそこの部屋に暖かい毛布とかあったわ入ってなさいな」
 作戦成功とばかりにほくそ笑む竜華。混沌としている河辺野の襟を掴み近くにある部屋に仕舞おうと、扉を開いたその時、
 ばさぁ!
「きゃぁ、何これ?」
 頭から振ってきた網に驚き、振り払おうとするが却って引っ掛かり動きづらくなる。
「やったー、引っ掛かった。さぁ出して貰おうか?」
 大黒天の黒頭巾に小槌ならぬ金槌を手にした四條 キリエ(fa3797)が、腰に手を当てにんまりと立っていた。先程から姿が見えないと思いきやあちこちでトラップを仕掛けていたらしい。T氏とカメラマンはその画を背後から撮ろうとすると、ビィンっとセコイ仕掛けの足かけに掛かってツッ転んだ。
「あ〜あ、何やってるの、ちゃんと足下見てよね‥‥ってうわぁ、逃げられたっ! 暴力はダメだよ暴力は、そういう手で来るならこっちだってぱぱぱぱ〜ん♪ スパナぁー!」
 頭をボリボリ掻く四條は冷たい視線。だが目を反らした隙に竜華はこっそりと網を爪で引き裂いた。慌てて逃げようとする四條にロッドと手にした竜華が襲いかかろうとする。
 四條もただではやられたくない。小袋に手を突っ込み某有名アニメの口調でスパナーを取り出すと脅しに掛かる。だがまったく勝ち目がない事をヒシヒシと感じたそこに、
「毘沙門天ダイナキぃック!」
「痛ぁい! 何するの」
「ワイは脱いでも凄いんやで! むほー。とったどー」
 復活した毘沙門天が助け船。不意を衝かれ倒れ込んだ竜華にサンタから布袋の薄布衣装に着替えたミゲールが、ダイナミックなアッタクをくりだした。ナインペタンや男性を嫌う彼はとっても幸せそうに竜華に抱きつく。
「捕まえちゃうからね? しまっちゃうからね」
 一歩間違えれば変質者な発言であるが、これはとある漫画の台詞らしい。そそくさと竜華を袋に仕舞おうとするが、あら不思議。中から椎葉と小峯が出てきた。ネタとして使う為、勝手に入り込んだらしい。
「ちょっと重いわね。退いて頂戴なっと! 最後は任せたわよA君、幽華」
「あいよー! 竜華さんっ」
 悶着の中、こそっと顔を出したA君に竜華は胸元の小袋を放り投げた。流石はバスケをやっている彼は狂い無くキャッチしながらも危うくドリブルへ運ぼうとするのを堪えて走る。
 実は分散していた現金。竜華とDarkUnicornから預かったそれを巧みなパスワークで追いかける河辺野やミゲール、そして毘沙門天から死守する。
 しかしここに刺客が一人じっと待機していた恵比寿役のイルゼだ。壁の後ろに隠れていた彼女は先程の策とは変わって走り込んできた幽華に飛びついた。こっちの方が勝算あると踏んだのだ。
「もう時間がないんだ! 目指せお年玉げっとー」
「それは私も一緒よ、A君パス!」
 咄嗟に幽華がA君に袋を投げた。一纏めになったお年玉を手に彼は、僅かな制限時間を逃げようとフロアを奔走する。
「最後のひと息、七福神も負けませんよっ」
 河辺野が先程拾ったトナカイの鼻を目にも止まらぬ速さでA君に向かって投げつけた。
 どこーんっ!
 ぴぃぃ〜終了!
 見事にA君の後頭部にぶち当たり、床に突っ伏する彼と終了の合図が同時に鳴った。
 そこにひょうこひょこ現れたT氏が勝者の発表。
「勝者な‥‥ナシ、引き分けだ! 参加賞は僕のものっと言うことでじゃ!」
「「「「え〜〜〜っ」」」」
 A君から賞金をぶんどるとシュタっと手を上げその場からすたこらさっさっと逃げるT氏。疲れ切った出演者達が文句を垂れるが、彼らに追う気力は残されていなかった。

● 
 後日、A君が賞金七十万円にプラス報奨金としてT氏のポケットマネーから三十万円を捻出させて、出演してくれた方々にお年玉として配ったことは言うまでもない。