梅の花、一輪咲いてもアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
極楽寺遊丸
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
なし
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/15〜03/17
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●本文
季節は春。
まだ厚手の上着が手放せない季節のハズだが今年に限り、なぜか訪れが早くホワホワとしたなんていう、ポップな表現がよく似合う暖かな日差しが降り注いでいる。
そんな陽気に触発されたのか、綻び始める花達。
畦道に這うように咲くとても小さな青い花のオオイヌフグリから始まり、南風に揺れる黄色い菜の花に香り立つ沈丁花‥‥。
一際、春の到来を感じさせるのは瘤だった黒い枝に咲く白梅。独特の甘酸っぱい香りが鼻孔を擽る。
様々な姿と彩り、そして香りを放つ花達が襟を合わせて散策する人々に新しい季節の到来を伝え、重い上着を脱ぐようにと急かし始めたようだ。
さぁここはひとつ、皆さんも花達の誘いに応えて春を満喫してみませんか?
花見というにはやや早い時期。ですが日本古来、花見と言えば梅だったようで。かの平安貴族達は雅なお花見を楽しんでいたようです。
彼らのように俳句や唄。甘酒や団子などを楽しむ、まったりのんびりなお花見をどうぞ。
■まったりとした梅のお花見に参加して下さる方を募集致します。
散策するのに丁度良い季節となりました。ということで、梅を見に出掛けませんか?
場所は局に近い都内の植物園。
その昔、江戸時代に御薬園として造られたという日本で尤も古く由緒正しい場所です。
広大な敷地は雑木林や小さな山。そして大小様々な池や神社があり、ここでは世界あちこちに咲く花が植えられ季節に合わせ楽しむ事が出来ます。
また美しい日本庭園の傍に植えられた白梅、紅梅、八重にしだれと様々な梅が見頃を迎えてます。
ここでのんびりと散策や俳句や唄を捻るのもヨシ、甘酸っぱい梅の香りに包まれて昼寝や読書を楽しむのもヨシ。
和み気分で過ごしてみてはいかがですか?
■用意されているモノと注意事項
皆さんに和を楽しんでいただきたいため、草団子やみたらし団子、善哉などの食べ物とお茶と甘酒を用意してあります。
お花見と言いましても、ワイワイ騒ぎ賑わう事は少なくお酒などは控えめにお願いします。
また、食べ物を持ち込む際は節度を弁え、ゴミ等はお持ち帰りでお願いします。
ではゆったりまったり和の休日をお楽しみ下さい。
●リプレイ本文
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普段から朝の速報番組で天気予報ロケやドラマロケなどに使われる、都内TV局に近い植物園。本日、館長の計らいで局に勤める人達へ貸し切りとなっている。
朗らかな春の休暇を楽しむべく、スタッフやディレクターと共に八名の男女が参加した――。
十種千本にも及ぶ梅の花達が見頃を迎え、黒く瘤だった枝は凛とした美を携えている。ふわりっと風が一つそよぐと、小さな花弁を揺らし、藍白色の空に甘酸っぱい香りが流れた。
その香りを綺麗に筋の通った鼻で受け止めたのは、いつになくラフなスタイルの壬 タクト(fa2121)。
良く着るカチッとしたタキシードではなく、ざっくり編まれた袖の長めな白いセーターにデニムという恰好で園内を歩き回っていた。その腕には暑くなったのであろう、着ていたジャケットを軽く掛けている。
「梅の花見なんて初めてかも‥‥」
最近、米国での活動と生活が長い彼は、私用で電話をくれたディレクターに誘われた梅の花見に興味を覚え、帰国したのだ。
ゆったりと和の休暇を楽しむ壬。
白や薄紅、紅色と小さく可愛らしい花弁がそれぞれに付く枝を自分の方へ軽く引き寄せては、その愛らしい姿、香りを堪能しほぅっと息を付いた。
「‥‥きゃ‥‥ぁ‥‥」
小さな悲鳴が耳を掠め、ふぃっとそっちに目をやる。そこには根に躓き、よろめいたLOTTA(fa2831)が幹に捕まっていた。
ヨーロッパから来日してきたばかりの彼女。日本の文化を知る為とスタッフに誘われ、購入したばかりの和装でここに来ていた。だが不慣れな足袋と草履、ぴっちり閉じる裾は歩き辛く、足が上がらなかったせいか、ちょっとした根の瘤を跨げなかったのだ。
壬はフッと一つ笑み、LOTTAに近付き手を差しだす。っと、隣からも彼のモノでない手が一つ。見れば同じように明石 丹(fa2837)も端正な顔に笑みを浮かべ、
「お嬢さん、根が出ているところもあるので、足下にお気を付けて‥‥」
「あ、ありがとうございます‥‥。あ‥‥は、初めまして、私、LOTTAです。よろしくお願いします」
降り注ぐ優しく甘い声にLOTTAは吃驚するが、二人の手を取り体勢を直す。そしてふんわりとウェーブの掛かった自慢の髪を揺らしお礼と一緒に挨拶を口にした。
「このまま一人で歩くのも良いけど、また躓いたら危ない。あそこの休憩所で一度、休みましょう。僕でよければ、あそこまでエスコートをさせてください」
流石は普段タキシードを着こなす壬。彼の紳士な言葉にLOTTAは軽く頷くと、
「いいのですか? ではお願いします。でも一つお願いをしたいのですが‥‥休憩所に行くのを遠回りして頂いても構いません? よろしければ三人でお花見をしてみたいのです」
大きな瞳で二人にエスコートを願い出た。
勿論、レディの申し出を断るのは野暮。明石と壬は快く了解し、新たにLOTTAに向かって手を差しだす。紳士に引かれ歩き出す薄紅梅色の着物姿のLOTTAは、ちょっぴりお姫様気分を味わった。
●
また一度、風がそよぎ紅梅の香が空に舞う。柔らかな色の空に良く映える紅色の八重の花弁をパチリパリチと、デジカメに収めていくのは一見、男性と見間違う容姿の榊 菫(fa5461)だ。
ボディーガードという職業柄、そう思われる方が有利なのであろうか、彼女は引き締まった体に黒いシャツ、上着を肩から引っ掛け、無造作に結んだ金糸の髪を春風に任せながら、気に入った梅を見つけては次々とシャッターを切っていく。
「ま、自分としては桜の方が好きなんだが‥‥早咲きの梅も風情があるかもなぁ」
フッとファインダー越しではなく直で梅を見、ポツリと呟く。その顔は花に負けないほど凛とした美を備えている。
「んー、動いたからお腹空いたな‥‥」
一つ大きく伸びをすると、脇に抱えていバッグからシートを取り出し広げて座る。人の気配を感じ、顔を向ければ少女一人の手を優しく引く二人の紳士が目に入ってくる。
榊は微笑みあう彼らに標準を合わせカメラのシャッターを切った。そして朝、少し早めに起きて作った弁当を広げ食べ始めだす。
ふいと心にいつも護衛で気を遣いすり減らしている事を思い出し、たまに一人で居るのも楽だな。っと、卵焼きを頬張りながら思った。
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朗らかな春の陽光。
花ではなく人の頭ばかり見る事のない、ほぼ貸し切り状態の園内を歩く明石、壬、そしてLOTTA。
貸し切りとなった園内ということで、人目を気にする事なくゆっくりと過ごす事のできる時間に明石は、普段の過密スケージュールの息抜きが出来て、嬉しそうだ。
だが、ふぃとその端整な顔を曇らす事がある。
それは今日別行動をしているバンドメンバーの事。休暇を楽しむ彼とは裏腹に働いているだろうと思われ、少しばかり良心が痛む。
だが、梅を含む様々な花達の馥郁たる香りが立ちこめる中で、一時それらを忘れ、深く呼吸すると、
「大空は 梅のにほひに かすみみつつ――」
流石は歌い手。口をついて出た美しい春の句を一つ呟くように詠み、そろり目を閉じる。瞼の裏から梅‥‥春を満喫し、日差しの温かさに昼寝の誘惑も感じた。
「明石さん、こっちに綺麗な日本庭園があります」
「あ、はい今行きます」
が、それは勿体ないと思い返すように瞼を開くと明石を手招きし呼ぶ声。明石はLOTTAと壬の方へゆっくりと足を進め、日本庭園へ向かった。
目の前に広がる芽吹き始めた木に手入れの行き届きいた松。丸く刈られる躑躅達は花が付くには少し早く濃緑の一色だけ。
石に囲まれる大きめな池を覗けば赤白の錦鯉らが優美に尾を揺らし泳いでいた。
平坦ながらも広大な庭園の構図。色々な風景を縮景とした庭の美しさに三人は驚嘆するも楽しげな足取りだ。
あまりの嬉しさからかLOTTAは無意識にハミング。
「‥‥フ〜ンフフフン♪ あ、いけない。すみません、つい楽しくって‥‥」
「いいや、大丈夫だよ。僕もだから‥‥ららら〜〜♪」
優しげに微笑みLOTTAをフォローする壬。彼もリラックスしてか彼女と合わせ唇から音を乗せる。
周囲を歩くスタッフ達は、即興で合わせる二人の歌声に耳を傾け嬉しげに笑んだ。
「そろそろ一周したようですね。あそこにある休憩所に行きましょうか」
明石は目の前に見えてきた純和風の庵を指す。三人はそちらに歩みを進めた。
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一度も純和風の家に住んだ事はないのだが、お寺や神社。そして茅葺きの庵と、和な空間に、何故だか穏やかな気持ちでひと息つけると思う明石。
赤い布が掛けられた長椅子に腰を卸した三人の前に着物姿の天音(fa0204)が、声を掛ける。
「一周して疲れたじゃろう。和菓子とお抹茶をどうかな? 花見という事で酒も用意しておるぞ」
「ありがとうございます。いえ、お酒の方は喉の事を考えると控えさせてください」
明石は天音の申し出をやんわり丁重に断る。うむっそうか、と納得した彼女は早速用意していた茶器で抹茶を点て、お団子やよもぎ餅を綺麗に平皿に盛ると彼らを丁重な仕草でもてなす。
「さ、どうぞ。和の一服を楽しんでくれ。あぁ、堅苦しい茶の作法などは抜きじゃよ」
「‥‥良かった。あまり解ってなかったのでどうしようかと思いました。お花は綺麗だし、お団子は美味しいし、お花見って素敵」
「歩き疲れた時に甘いモノ。良いですね、お茶と良く合い美味しいです」
「庭園の中で綺麗な梅を見ながら、美味しい物を楽しむ‥‥本当に贅沢だなって思います」
お茶会のような雰囲気にやや緊張をしたLOTTAを解すように天音は優しく声を掛ける。安堵して団子を食べ始める彼女。
その様子を見、明石もお茶をそっと口に含み、団子を取る。壬は目の前で咲き誇る紅白、薄桃の梅の花弁で出来た一山を眺め一服入れた。
もてなしがひと息付いた天音は自腹で購入してきたらしい越乃寒梅なる高級な日本酒を冷やで一献。三人と並び、ゆったりと流れに身を任せて梅観賞を始めだす。
その後ろで和菓子と天音の点ててくれた茶を、某番組スタッフと共に楽しむ豊浦 あやね(fa3371)。
長寿教育番組のメイン司会のお姉さんとして知られる彼女は、番組終了後、ようやく訪れたオフに愛用のハリセンを家に置き、ひと息吐きに訪れたらしい。
紅梅を見ながら、
「梅の花、一輪咲いても‥‥って、豊玉宗匠の発句やな。さながらうちはこっちやろ‥‥桜花 散りてこそ皆‥‥。なんて言うても番組最終回で行った京都で、ええ具合に咲いてましたけど、ロケで東奔西走してましたさかいゆっくり見る余裕もありませんでしたわぁ」
目の前の梅同様に豊浦はスタッフとのお喋りも楽しむ。
「それに当然の事なんやけど、長期に渡る番組レギュラーもひと段落付いて物寂しいものがありますわ。ま、今日はひとまずのお休み‥‥次のお仕事はどうするかとか、そういう話には取り合えず目を逸らしてやね。って、ほんま綺麗やねぇ」
ふぅっと梅に魅せられながらも話し疲れたのか、ひと息吐く。
いつになく、まったりのんびりした時間。ホコホコの陽が背中を温める。
「あ〜〜たまにはええですね『花より団子』とは言いますけど、花も団子もどっちも最高やわ。あ、意味は名誉などよりも役に立つものの方が良い事やね。ホンマお日さんもぽかぽかと気持ちええわ‥‥」
どうも長年の番組の癖が抜けないらしく、ついつい諺を披露してしまいスタッフ達からクスリと笑われてしまう豊浦。だが気にせず、団子を食べ、茶を啜るとふんわり睡魔が降りてきた。
「あ‥‥あかん。のんびりし過ぎて眠ぅなったわぁ‥‥わふぅ‥‥」
口を押さえ欠伸。だが次の瞬間にはウトウトと船を漕ぎ出していた。
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さて場所は少し離れた東屋。時折吹く風の背に乗り訪れる甘酸っぱい梅の香が、じっと座り人を待つ弥栄三十朗(fa1323)の鼻に届く。
彼の前に並べられている使い慣れたお茶道具一式と梅の花見に相応しい注文品の茶菓子。
今が盛りの梅を愛でる企画を知り、彼はすぐにマリーカ・フォルケン(fa2457)の元に訪問着一式と一緒に着付けのできる人間を手配しておいた。
「‥‥先生、ご招待を有難うございます」
待ち合わせの時間ピッタリにマリーカが現れた。
彼の送った東雲色の着物を纏うマリーカは慣れない和装の所為か、やや落ち着かない様子。気付いた弥栄は優しく声を掛ける。
「ようこそ。茶道では一期一会という考えがあります。あなたとこうして居られるも天の采配と思い、この一時を大切にしたいと考えている。我が侭ですが、お付き合い願えますか」
「‥‥はい。喜んで」
すぐに茶の準備に取り掛かった。マリーカは暫らく黙し、彼が見せる優美な手の動きを脳裏に焼き付けるよう見入る。
それは彼女なりに弥栄を知り、共に居る時間は自分にとって貴重なものと考えているよう。
静かに移ろう時は、湯の沸く音と茶と点てる茶筅の音だけが響く。
そう長くない時ではないハズだが、ただただ黙するだけのマリーカを見やる弥栄。
彼は思う。和文化に付き合わせるという事は、彼女を退屈させるやも知れない。だが、何かを感じ今後に活かせればいい。それに自分を解って貰う良き機会だとも。仮に彼女が苦痛に感じたのならまた他に逢瀬の時を持てばいい。
‥‥っと。
ようやく弥栄の手にあった茶碗が、マリーカの前に差し出された。
茶道を知らない彼女はそのまま碗を手にするが、弥栄はそっと止め菓子を食べるよう促す。彼女は弥栄の言う通り甘い菓子を食べ、抹茶を口に含む。
良く混ざった抹茶は苦みは少ないが、それでもやはり苦い。困惑するマリーカに、
「おや、駄目でしたか‥‥。白湯をどうぞ。しかし‥‥なんですか、ざわつく空気から離れたいと思う事が私にはあり、このような静かな空間に身を置く。それは新たな創作の切っ掛けともなるのです」
懐紙と湯を入れた椀を出す。彼を理解していない事を悔いたマリーカは、ポツリと一言。
「‥‥ごめんなさい。たぶんわたしは先生が感じている日本の静かさ、美しさの半分も理解出来ていないと思います。でもこうして先生と一緒に梅を見られた事に感動してます。本当です」
「気持ちを聞けて良かった‥‥。そうだ折角ですから梅園を散策しましょう」
弥栄は彼女の本心を嬉しく受け止め、次に梅園へと連れ出そうと草履を履く。マリーカも後に続くが辺りを見渡し、彼の前に素早く回り込むと軽い接吻をした。咄嗟の事に驚きの隠せない弥栄。
「‥‥有難うございます。こうして先生だけの持つ居場所へ連れてきて下さった事、けして忘れません。あ、ど、どうしても先生とこうしたくて‥‥ご迷惑‥‥でした?」
抑えきれなくなったマリーカ。弥栄が優しく抱いてくれると信じ狡猾なのを承知で口吻たのだ。フッと笑う弥栄は彼女の手を握り、
「‥‥寒くありませんか? マリーカ。こっちへ」
くぃっと腕を引く。その拍子にマリーカは彼の腕の中。耳元で響く声に薄桃色の梅花のような淡い思いを抱いた。
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夕暮れ。日が傾き風が冷たくなりだし、そろそろ梅の花見も終演。
お昼を食べ終え、ごみもきちんと処分した榊は、梅の花を仲睦まじく見る男女にそっと遠くからシャッターを切る。
庵で微酔い加減の天音。お団子を食べる壬は、花が好きな祖父達を思い、
「いつかお爺ちゃんやお婆ちゃんも連れて来てあげたいな」
と呟く。隣でこくりとそうしたら素敵ね、と頷くLOTTA。
お土産用の写真を幾枚かデジカメに収めた明石は、ん〜っと大きく伸びをして、
「春告げる園で充電して、また明日から良い歌を届けられるようにしたいなぁ」
っと言うと、うたた寝をしていた豊浦もこくりっと大きく船を漕いだ。