そんな宴会でえーんかいアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 はんた。
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや難
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/04〜05/06

●本文

「はわわわ‥‥どうしよう〜」
「そんな『はわわ』なんて、漫画でしか聞かないような台詞を言っちゃって。ま、なんとかなるさ」
 RX−78を走らせる運転手の彼とは対照的な、不安そうな面持ちなのは助手席の女性。
「それに‥‥真衣ちゃん、お酒は強い方でしょ?」
「レビンさん、そっちの心配じゃありませんってば! 今回の宴会の、メンツについてですよ〜」
 助手席の女性は、向井麻衣という名のシンガーソングライター。運転手はタレントのレビン・武村。
 時間的な前後はあるものの、分かりやすいように順を追って説明しよう。

 これから数日後、一つの宴会が計画されている。それは最終回も迎えたとあるドラマの打ち上げである。
 だが、この時期に終わる番組というのも、些か季節はずれな感が否めない。そう、そのドラマは、いわゆる『打ち切り』なのだ。原因は決して、作品のクオリティの問題ではない。要因は、カメラの外の世界の話だった。監督へのスキャンダルや、ロケ地におけるスタッフの悪辣なマナー違反等が某週刊誌に掲載されたのだ。
 しかし、それのどれもが根も葉もない嘘。でたらめのゴシップもいいところである。
 名誉毀損でその週刊誌を訴えよう! と唱えた者もいたが、それでは騒動という名の火に油を注ぐだけ。監督の指示のもと、各位はそのドラマの収録に集中し、質で信用を取り戻そうと尽力した。
 ということでそれからも収録は続いた。各人は怠惰することなく、己で成せる最高の仕事をした。しかし、結果だけ言ってしまえば、視聴率の低下は止められず、擦り付けられた謂れ無き汚名を返上することは叶わず、そのドラマは不自然な最終回を強いられたのだ

「広いですね。これなら20人は座れそうですね」
「この広さは‥‥まずいな」
そこは、和食料理中心の居酒屋。味の評判はなかなか。
真衣が宴会を行う奥の座敷を見渡し呟くと、レビンは顎に指を這わせ呟く。
「どうしてですか? 十分だと思いますよ? この広さなら」
「真衣ちゃん。大は小を兼ねない場合だってあるのさ。今回この宴会に参加出来る番組スタッフは10人前後だ。他の多くは、何かしら理由をつけて欠席を申し立てている」
 ちなみに、ここは監督の希望の店であり、又、既に連絡が行渡っているため、場所の変更がきかないという事を付け加えて、彼は話を続けた。
「尤も、こんなきまずい終わり方した番組の打ち上げなんて、極力参加したがらないだろうからね、普通は」
「あー、そうですか。(なるほど、三原さんがなんであんな忙しそうな『フリ』していたか、納得できた)」
 真衣は、急用を理由に辞退した某脚本家の姿を脳内に浮かべる。
「よし、こうなったら‥‥。誰か呼ぼう。誰でもいい、真衣ちゃんも適当に声かけて。友達多いでしょ?」
「‥‥いいんですか? そんな適当で。打ち上げなのに関係無い人呼んだら、まずいような‥‥」
「宴会やる人間ってのはね、結局は大人数で酒が乗ったテーブル囲む口実がほしいだけなんだよ。ドラマのファンだったとか、無理矢理に理由を作ってしまえばいい」
(「凄く‥‥強引な‥‥」)
「それとも、何か? 気持ち沈んでいる少人数で、全然ノらない宴会にする? ああ、そういえば今回の騒動で監督の遠藤さんは酷くご立腹らしいよ。その時は真衣ちゃん、相手ヨロシクね」
「ちょ、そ、そんな〜。無理ですって! 私だって、お酒飲んだら結構キャラ変わるので無理ですよ〜」
「というわけで増援が必要だね。一般的なオードブルに鍋物、そしてビール。これらが心地よく喉を通過出来るように、お互い尽力しようじゃないか」

●今回の参加者

 fa0088 ハグンティ(59歳・♂・熊)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa2057 風間由姫(15歳・♀・兎)
 fa2174 縞榮(34歳・♂・リス)
 fa2340 河田 柾也(28歳・♂・熊)
 fa2341 桐尾 人志(25歳・♂・トカゲ)
 fa2677 進藤翼(17歳・♂・鷹)
 fa3503 Zebra(28歳・♂・パンダ)

●リプレイ本文

「おかしいな。ジェームズ・ボンドもシャーロック・ホームズも、呼んだつもりは無いんだけどね?」
 遠回しの口ぶりが鬱陶しい。そんなレビン・武村に対しても、河田 柾也(fa2340)は面を濁さずに返す。
「無いに越したことはないのですが、万に一つ、可能性が無いとも――」
「無いね。万にゼロ、だ」
 断言した後、レビンは微笑を浮かべながら言葉を付け足していく。
「そのため私が幹事になって決めた、知己が営む、そういうお店に。‥‥どうやら私の説明不足で、キミ達には不要な気苦労をかけてしまったようだ。どうか心配する事無く、宴会を楽しんでほしいよ」
 今回、番組の打ち上げと言うことでメンバーが集められたわけだが、件の騒動には、誰もが第三者の害意が感じずにはいられなかった。そのため、盗聴等を警戒し、諸々の準備を整えようとしていたのだ。その懸念に対して、柾也、相方の桐尾 人志(fa2341)、それにZebra(fa3503)も、集まって具体的な思案をしていた。特に柾也に至っては諸準備に自腹を切る覚悟でいたのだが‥‥、どうやら杞憂との事。
「まぁそれなら‥‥ただの飯ということで楽しませて、頂きますよ?」
 柾也が愛想の良い笑顔で確認すると、待ち構えていた「どうぞ」の声が返ってくる。
 件の話には裏があるのだろうがとりあえず今は、単純に純粋に、タダ飯にありつけそうだ。後はこの食事を、如何に有意義な時間に出来るかだ。


 ここが打ち上げの宴会会場。
「やぁ久しぶり、車なんでそれほど呑めんが良いのか?」
「いいですよいいですよ、全然! それより来てくれて、ありがとうございますっ」
 向井真衣は頭を下げて、自らが呼んだ人間、ハグンティ(fa0088)を歓迎する。
 そこはどうということはない居酒屋の座敷ではあるが、木造りの感を全面的に出している内装と、やや光をおさえたオレンジの照明が、店内を柔らかな雰囲気で包んでいる様だった。
 場所としては悪くないところなのだが‥‥。
「どうも、お疲れ様でーす」
 ぽつぽつと集まってくる参加者に対し挨拶をする、風間由姫(fa2057)。
「‥‥どうも」
 返ってくる言葉。由姫のそれと違い、とても活力が無い。
「ぁ‥‥。こんばんわー」
「‥‥‥‥」
 こちらは、一瞥するだけで一言も口から出さない。真衣が事前に連絡を入れているので、彼女ら番組外達参加者の存在も、スタッフは知っているはずなのだが。
「こ、こんばんはっ。えっと、今日は――」
「‥‥ああ、どうぞよろしく」
 返答は抑揚の無い、声。
「うう、空気が‥‥。空気がいちじるしく、悪いです」
「確かにこれは‥‥なんか雰囲気がくらいな」
 涙さえ浮かべてそうな、弱々しい呟きの由姫を見て、縞榮(fa2174)は少し思い返す。‥‥呼ぶなら、嫁の方が適任ではなかっただろうか、と。
 空気はまさしく葬式かと思うくらい沈んだものだった。
 ナンダ?
 これはオカシイのではないか?
 そう、彼はシンプルに『タダでご飯が食べられる』。そう聞いていただけだった。
「はいぃ!? 宴会で、タダでメシ食べさせてくれるんじゃないんですか!?」
「そうだよ、勿論タダ。この宴会について、私は何一つ嘘を言っていない。キミも特に何も聞いてこなかったしね?」
 隅でのやりとりは、進藤翼(fa2677)とレビン。
「そりゃ確かに聞いていませんけど――」
「さて、皆さんお集まり頂いた頃でしょうか?」
 宴会の幹事は、翼のコメントを華麗にスルー。もうこうなると、かえって素直に諦めがつくと言うもので‥‥。
(「‥‥タダより高いものはないってこういうことですかね‥‥」)
 あれ、目から汗が止まらないや‥‥。顔を皆から背けながら、ひっそり涙の翼をよそに、レビンが開会宣言を進める。
「――というわけで、まずは乾杯といきましょう。それじゃあ乾杯の音頭は‥‥オープニング担当だった真衣ちゃん」
「え、私ですか!? ちょ、なんでイキナリ‥‥えーとあー。ま、まぁですね‥‥」
 しどろな様子の真衣を哀れみながらも、人志は皆に飲み物を配っていく。未成年には勿論、見た目で酒でない事がわかるものを。レビンはああ言ったのの、もしかしたら来店客の中に‥‥害意の主がいるかもしれない。また、一般の客だとしても変な流布が起きたら厄介だ。
「‥‥と、とりあえず飲みましょー! うん、では乾杯っ」
 真衣による苦しいスタートによって、威勢悪く一同のグラスが掲げ上げられた。
「‥‥どうやら酒じゃない奴が多いな」
(((「ギクっ!」)))
 ノンアルコール・ドリンクを注がれたグラスを持つ手が、一様に動揺する。
 今回の宴会、未成年も少なくない。しかも、それを監督の遠藤克己、その人に言われると、また一段とばつが悪く感じる。それにしてもこの監督‥‥いかにもとっつきにくそうな中年といった面容。
「私は一応、車で来ているので」
「まぁ、別に無理強いするつもりはないですが‥‥」
 ハグンティはそれなりの理由があるので特別謂われはないのだが、どこか言葉を濁す克己。
「とりあえず向井さん、一曲いかがです?」
 これ以上空気が悪くなる前に。真衣に、用意していたマイクと本を差し出す柾也。
「こっちはいつでも機材準備は万端さかい、じゃんじゃん番号言ってや〜」
「おお、了解だよ‥‥ってキリー君、いつの間に!?」
 いつの間にか機材の前で人志がスタンバっているではないか! 思わず柾也が素でツッコミを入れてしまう。
「それでは真衣さん、ご一緒したりしてみません?」
「あ、ベスちゃん。うん、そうしてもらえると凄く助かるー」
 現状打破のため、真衣とともに立ち上がったベス(fa0877)。ちなみにベスは、頭上にも毛髪が一本立ち上がっている。
「‥‥ハイハイそして番号を入れましてー、と。あコレ、シャイニングっ娘の2004年版メドレーやー。この頃のも、宴会では定番の名曲がテンコ盛りやね」
「なんならキリー君も混じって、歌ってみたらどう?」
「僕が女のコの曲歌おうとしたら、高い声無理やし、相当なもん聞かされる事になるで? 宴会でそんな事してえーんかい?」
「そんなボケ、三文漫才師でも言わないっ」
 ええ全くそんな三文漫才師でも言わないようなギャグを言いまして‥‥柾也と人志の即興漫才が終わった頃に丁度イントロが終わり、ベスと真衣とで歌いだす。
 アップテンポで明るい歌だというのもあるが、年頃の女子二人が歌うと、周囲のスタッフはそれにつられるかのように表情を明るくして‥‥中には手拍子を送る者も出てきたりする。決して悪いと言っているわけではないが‥‥単純な男達である。
 一方、克己の周辺。この男は相変わらずのしかめっ面だった。翼はもう敢えて言及せず、単身鍋に箸を走らせている。
「本当に、打ち切りになってしまって残念だなと思っている」
「うーむたしかに。カメラワークと言い、良い仕事してると期待してたんだが、残念だねぇ」
 Zebraとハグンティで呟くように、そこはかとなくドラマの話題に触れ‥‥
「そーですね。撮影視点は斬新でしたし、個人的にはもっとその辺が評価されるべき作品だと思ったんですけどねぇ」
 翼がそれを膨らませると‥‥
「‥‥わかるかね、その次元の話が!」
 監督はビールを一気に空にして語り出した。思った以上に克己の食いつきが良い。
 そこからはもう、克己は、39歳の少年だった。収録に対して‥‥意気込み、留意点、苦労、評価、そして次へ‥‥聞かなくても見境無く話してくる。
 ただし、飲んでいる物とそのペースは十分大人なので、お酌している由姫は大変だ。
「それなら、‥‥大変な労力を費やしながら撮影されていたんですね」
「それでも、撮影していると苦労を苦労と思えないんだよ、不思議と」
 注ぎながら、由姫は改めて実感する。本当にこの人は、今の仕事が好きなのだな‥‥と。
「ハイおつかれ」
 メドレーを歌いきって席に戻った真衣。彼女の喉を気遣って、榮は注がれていた烏龍茶を差し出す。
「いやー、やっぱり若いコの曲って、ペース早くて大変ですね」
「こら、なに年寄りみたいなこといってるんだい、二十代」
 そうですね、と笑いながらいうと、真衣と榮で改めてグラスを触れさせ合う。
「はいはーい。それでは、続けて歌いまーす!」
 一方、ベスはアンコールに応え引き続きマイクを握る。次も真衣の言う『ペースの早い若いコの曲』のようだ。
「なるほど、さすがだね。それなら頭のソレも、元気なのが納得出来る」
「ぴぇぇっ? これはドライヤーにあてても、すぐ一本だけ起きて来ちゃうんですようっ」
 レビンに言われて、頭のソレを押さえたベスであったが、まるで重力から抗うかのように、再び天井に向く‥‥そうソレはアホ毛。ベスはその後も執拗にアホ毛ネタでレビンに弄られるわけだが、それで確実に場は明るくなっているので、まぁ‥‥よしとしよう。
「さて、そろそろテーブルが片付いてきた頃だろうか?」
 今、由姫がぱくついている野菜スティックを平らげれば、オードブルが一皿空く。それを片付ければZebraのためのステージが出来上がる。
 まずはカード。よくシャッフルされたものが卓上に広げられ、スタッフの一人が引いたそれを当てる。他にも、コップの中のコイン移動やハンカチを使った浮揚モノ等々、典型的なマジックを展開するZebra。単純なものではあるが、酒の巡りとテンションの上がり具合も手伝い、盛大にウケる。
 そんな中‥‥
「おい、おまえ‥‥」
「ぴ?」
 丁度ベスはエビフライを掴んだところ。なんと彼女は一人、彼のマジックをよそに料理をつついていた。
「そんな悪い手は‥‥イケナイな」
「ぴよ? な、何ですかこれわ〜〜!?」
 そんなベスの手首を掴んで、Zebraは上から何やら怪しい箱をセット。
「そんな手には上から剣とか色々、とにかく色々、ザクザクと」
「ぴえぇえ〜〜〜!?」
 そして最後にギロチンをさくっと落とす。
「ハイところがご覧の通り、ベス嬢には、切り傷も刺し傷もありません」
「あれ? ホントだー!」
 Zebraが深々と頭を垂らし箱からベスの手を出してみれば、台詞通り、無傷で出てくるベスの手。彼女も自分自身の手を不思議そうに眺める。
 拍手で場が盛り上がっているところで、トドメに人志考案のジャンケンハリセンバトル開始。
「あとヘルメットとかも用意して〜‥‥、もうルールは不要やね? よーするに、ジャンケンして負けた奴ハリセンでしばくアレやー!」
 それで場の雰囲気は最高潮に。ここの連中は件の騒動によるストレスを溜め込んだ者達だ。終盤はルール無視して、大笑いしながらお互いをハリセンで打ち合っていた。レビンが店の主人に掛け合って、事前に防音襖を設けていたので、他の客への迷惑も最小限にすんでいるだろう。
「さて‥‥と」
 盛り上がっている周囲の様子を満足そうに眺めると、レビンは席を立つべく腰を上げ――
「ドーコ〜行くんですかぁ? レビンさぁん?」
 ――ようとしたところで、真衣が彼を呼び止める。
「いや、少々トイレに‥‥って、何!? 真衣ちゃん酒臭――」
 パァーーン!
「あははははー! 自分だけ逃げようとしたって駄目なんですからねぇ〜」
 笑いながらレビンをメッタ打ちにする彼女。おや? 真衣のようすがおかしいようだ‥‥。
「真衣さん、なんだか進化を遂げてしまったような変貌ぶりですが、一体何かあったんですか?」
「おかしい、私は彼女に、ひたすら烏龍茶しかすすめていなかったのだが‥‥」
 困惑している由姫と榮。そんな二人に、ハグンティが近づき尋ねてきた。
「ところでお二人、私の注いでおいたウィスキーは何処へいったか‥‥どちらか知りませんかね?」
「え‥‥だってハグンティさん。車で来たからって‥‥」
「いやぁ、超回復力でアルコール抜けば大丈夫かと思って最初に注いでいたんだが、なくなってしまってね」
 ああ納得。つまり何かの間違いで榮がキープしていた烏龍茶が、そのウィスキー‥‥と。
「キミが泣くまで、殴るのをやめなーい♪」
「ちょ、何する――だ――」
 途切れ途切れに言葉を口にするものの、それは今の真衣には届かない。
「真衣さん、その辺でご容赦を‥‥」
「この向井真衣、容赦せーんっ」
 榮は真衣を見守り、そして由姫はレビンとともに巻き込まれた翼に合唱。
「なるほど。コレなら無傷ではすまなそうだな」
 と、冷静に呟くZebra。とりあえずなんとなく、止めないでおく。
 そうこうして騒ぎ、最後で記念撮影を済ませ‥‥やがて宴会は御開きとなった。

「まだまだ勉強中ですけど、いつか監督のドラマに呼んでもらえませんか?」
「機会があれば、な」
 店を出た後、ベスは克己を見上げながら言う。
「だから‥‥、頑張ってくださいね♪」
「二十余年も後輩に言われんでも、わかっている」
 笑いながらベスの頭に掌を乗せる克己。
 一方。
「じゃあまぁ、私がタクシーで送っていくので‥‥」
「判りました。宜しくお願いします。写真は後日、俺から直接渡しますね」
 泥酔している真衣と共にタクシーに乗る榮を見送った翼は、手元の集合写真に視線を落とす。
「みんな、この上なく笑顔だな」
「ですね。何はともあれ楽しい宴会になってよかったですよ、ホント」
 写真を見ながらZebraも翼も、一安心。写真にもこれと言ってスキャンダル要素は映っていない。


 帰り道‥‥。
「正常な宴会だった証拠になる。もし謂れ無きデッチ上げがあったら、これで」
「まぁ、万が一に無くとも、億が一にはあるかもしれへんからなぁ」
 二人は、胸からICレコーダーを取り出した。