男性禁制のステージ?アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 はんた。
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 1.3万円
参加人数 8人
サポート 1人
期間 08/12〜08/18

●本文

 周防翔太は、恐怖していた。

 
「じゃあ今度のライブは、男性バックダンサー数人呼ぶから」
「え‥‥お、男の人ですか?」
「そうだけど、何か問題でも?」
「いえ、何も‥‥無いわけではないんですけど‥‥」
「はは〜ん。そっかー。そうだよねぇ、翔太君も13とは言え立派な男の子。その気持ち、わかるよ」
「――!? ちょ‥‥何か、勘違いしていませんか!?」
「まー照れちゃって〜。まったく、可愛いんだからもー」
(「ホントに違うのに‥‥」)


 周防翔太は、その小柄な体を震わせて恐怖していた。
 母性本能をくすぐる様な、小動物的な彼。
 その愛らしい仕草や容姿が彼のセールスポイントの一つであるのだが、それが過去に一度、アダになっていた。ある日の夜道で、ヘンターイなおじさん達に遭遇した翔太は、あーんな事やこーんな事されて(主として視覚的攻撃)、キズモノにされた(カスリ傷)経験があるのだ。
 以後、それが彼のトラウマとなり、翔太は同性‥‥特に中年に対して恐怖感を感じる事ようになったらしい。
 今回の話だとバックダンサーとの事だが、翔太が今度のライブで歌う楽曲は、全体的にテンポが速め。そうなると、踊り手にはそれなりの運動量を要求することになる。
 歌っている自分の背後で、呼吸を荒げながら躍動している男性達‥‥想像するだけで、翔太のこめかみから嫌な汗が流れてきた。
「どうしても駄目か」
 心境を見透かした言葉だった。
「オーナーっ」
 振り返れば、翔太の後ろに長身の女性。彼が所属しているプロダクションの責任者だ。
「そんな体たらくでは‥‥困るな。まだ贅沢言える立場でもないのに」
「すいません」
 マルメンを咥えた口から、煙と共に出てくる言葉。
「これから、男と仕事しないわけにもいかないだろうに」
「‥‥すいません」
 翔太はただただ頭を下げるしかなかった。
 そんな様子の彼を見ると‥‥
「が、時間でどうにかなる事もあるだろう。今は、目先の事を優先するか」
 ‥‥罪悪感を覚えてしまうのは何故だろうか。
「え?」
「募集するって言っているんだよ、女性ダンサーを」
 自問しつつ、彼女は募集の告知を決めた。

●今回の参加者

 fa0075 アヤカ(17歳・♀・猫)
 fa1396 三月姫 千紗(14歳・♀・兎)
 fa1406 麻倉 千尋(15歳・♀・狸)
 fa1680 碓宮椿(21歳・♀・猫)
 fa2604 谷渡 うらら(12歳・♀・兎)
 fa3072 草壁 蛍(25歳・♀・狐)
 fa3158 鶴舞千早(20歳・♀・蝙蝠)
 fa3306 武越ゆか(16歳・♀・兎)

●リプレイ本文

「森里先輩からイロイロ聞いてるわよ。いつか克服できるから、強く生きてね! 大丈夫! 先輩なんか、あの時――」
「黙りやがれ! 忌まわしき過去を穿(ほじく)りマワすんじゃねえ! 穿りマワされんのは‥‥もう御免だ! 二重の意味で」
「きゃあー! 先輩ヤメテ殴らないで! ホラ、翔太君が怯えているわ!?」
 と言うか、自分はどうするべきか悩んでいる‥‥そんな様子の少年が今回のステージの主役、周防翔太。武越ゆか(fa3306)は、彼女の先輩と思わしき男性と何やら一悶着起こしているが、多分暫くすれば収まるだろう。
「わぁ‥‥かわいい子ね〜☆ 任せて! お姉さん達がしっかり踊ってあげるからね☆」
「あ、はい。どうか、お願いします」
 弾む声で言う鶴舞千早(fa3158)に、翔太は軽く頭を垂らす。
「さぁ、早速打ち合わせと行きましょうか」
「そうね、一度みんなで話し合って色々決める事もあるし」
 本日ノーマルモードの草壁 蛍(fa3072)なんかは悶着を普通にスルー。至って真面目に代役をこなす心積もりの様だ。彼女に相槌を打つ千早。
「話し合いの段階でしっかり決めておけば、練習も集中してできるからね」
 話に加わってきた碓宮椿(fa1680)。
 こう見てみると、自分より年上が多く集まっている事に翔太は気付いた。
(「こういう時は、改まった態度の方がいいのかな‥‥」)
「ニャ☆ 今回はあたいはダンサーニャ〜☆」
 と思った矢先、踊るような軽快なステップを踏むアヤカ(fa0075)が彼の視界に入った。
 彼女は翔太の視線に気が付くと、彼の前に来て一礼挨拶を済ませた後に、胸を張って切り出す。
「あたいこう見えても、ダンスは割と得意何ニャよ☆ お姉さん達にど〜んと任せるニャ☆」
「は、はい」
 特別改まらなくても、いいのかな‥‥と思う翔太。無邪気な明るさを見せるアヤカだが、話に聞く彼の『恐怖症』について、彼女なりに翔太には気遣っている。
(「オヤヂが苦手と言うことは、大人の女性にも慣れていない可能性があるニャからね‥‥これで、女性恐怖症にまでなったら、それこそBLの世界になっちゃうニャ‥‥こんなかわいい子をBLの世界に引きずり込ませてしまうのは芸能界の損失ニャしね!」)
 100パーセント的を射ているかは、さておきとして。


 まずは自分達が踊る楽曲を知らなくては、話が始まらない。
 というわけで、ライブで翔太が歌う曲を聴いているここは、打ち合わせ等に使われる一室。
 一同、パイプ椅子に腰掛けながら聞いていると‥‥
「夏も後半になったけど宿題どうよ?」
 同プロダクションの谷渡 うらら(fa2604)に、何の気なしに話しかける三月姫 千紗(fa1396)。うららの沈黙を『やっていません』という意味に受け取ると、「そか、私も」と返す千紗。
「そこぉ、これも仕事中って事で、私語は一応厳禁っ。だよ」
 柔らかい声色ではあるが、真面目な物言いの椿に、千紗はしゅんと縮こまり、素直に謝るのだった。
「‥‥ごめんなさい」
「まぁ、かれこれ結構経つわね。ちょっと一息入れてもいいんじゃないかしら」
 メンバーの最年長、蛍の言葉でメンバーは小休止に入る。
「それじゃあ、ちょっと休憩ですね。それにしても」
 軽く笑みを浮かべながら言う翔太。
「‥‥何?」
 千紗がぽつ、っと静かに聞くと、彼は何故か慌しい口調で応える。
「い、いやソノ、注意されるのがなんだか、学校みたいだな‥‥なんて、そう思っただけだよっ?」
 まるで弁解する様にして言う彼。
(「別に、そんなに気にしていないのに‥‥」)
「学校。あ、周防君って、学校はどうしてる?」
 そういえば、といった口上のうららに「普通に行っているよ」と翔太の声が返ってくる。
「あ‥‥普通でもないかな。最近忙しくなってきたから、普通の人よりは学校にいないかな」
 このコも多忙そうだな、と思う千紗。学生芸能人の夏にあるのは、夏休みではない。夏仕事だ。何かと乗っかれる企画の多い夏。稼ぎ時とも言えるので、コレばっかりはしょうがない。
「へぇえ。でも、学校行っているんなら、体育の先生とか‥‥マズくない?」
「そうなんだよ。特に、僕のところの先生毛深くて、筋肉で、オジサンで‥‥」
 仕事の事も大事だが、翔太のトラウマもまた重大な問題。彼の今後を考え、不安を覚えるうらら。この調子では後々、彼は絶対に損をする‥‥そう思うのは、うららだけではなかった。
「この間の変態にアンナ事されても何も変らず能天気にバカやってる人も居る事だし、荒療治する?」
 勿論ここでしっかりライブのミーティングを済ました後でだけど、と付け足して蛍が言い、打ち合わせが再開する。

 アヤカやうらら、ゆかに励まされて、翔太は蛍の『荒療治』に挑戦してみることにした。
 ‥‥の、だが。
「ああ翔太君、必死に耐えてる!」
「耐えてる、けど涙目! でも‥‥そこがむしろツボだニ‥‥じゃなくて、頑張るニャ! 翔太君」
「あの涙目は確かにポイントよ! あとはこれで、攻めが蛍さんじゃなくて、悪魔的な笑みを浮かべながら言葉をかける、長身のお兄さんなら最高!」
「そうそ‥‥って、違うニャ〜〜! だから、BL系に走っちゃダメニャ〜〜!」
「‥‥なんの話しているのよ、アヤカさん達」
 時折しゃがみ込んで瞳に雫を貯める翔太を横に、囁き合うアヤカとゆか。狂月幻覚を使い彼のリハビリに助力する蛍は、そんな二人にツッコミ。
 とにかく、翔太を見るにその効果と成長は牛歩の様子。
「まぁ、無理に短期間でやる必要もないわ。ゆっくり耐性つけられればそれでいいから」
「‥‥はい。どうも、気を使ってもらってすいません」
 しかし、急がば回れ。無駄に急ぐような事はせず、今日はここまで。
「アレな思いしたのは、正直可哀想と思うけど‥‥それを反面教師にすれば? 清々しい言葉や、堂々と礼儀正しい態度で人に接するようにしてみるとか」
「うん、人の振り見て我が振り直せ、だね」
 と翔太はうららに頷くものの、声のトーンは低い。頭でわかってはいるのだが‥‥といった心境なのだろう、今の彼は。
「もうっ、君もいずれはオジさんになるんだよ。ヘンタイさんと正反対のキュートで爽やかナイスダンディ、目指すのは如何?」
 腰に手を当てながら言う彼女の言葉を聞いて、翔太は斜め上を見て、暫し考え込む。
「きっとアレ、翔太君は成長した自分の姿を想像しているのよ!」
「カワイイからカッコイイへの変化ニャ? うーん、良い事のような‥‥惜しいような‥‥」
「だから何話しているのよ、って‥‥」
 何だか盛り上がっている女性陣をはさておき‥‥、翔太は照れているらしく、おぼつかない口調で喋り出した。
「じ、じゃあ‥‥ナ、ナイス、ダンディで‥‥」
「わかっていれば、よろしいっ!」
 幾ら遅くなろうとも、この矯正はきっと成されるだろう。

 それは、次の日のミーティングの時だった。
「あ、そだ。千紗、ゆか、うららんで組むうさ耳ユニットで一曲披露したいんだけど‥‥」
「うーん。でもこれは翔太君が中心になるステージにしなくちゃいけないよね。だから、ちょっと難しいかも?」
 うららの発案に、椿は難色を示す。お客も翔太のライブを見に来るわけだから、バックダンサーが出張るシーンは好ましくない。
「進んでいるか?」
 そんな時、彼のオーナーが様子見に来た。聞くだけならタダ、と思い切ってその旨をオーナーに問う、うらら。
「駄目だ」
 しかし返答は、歯に衣を着せない却下の言葉。
「あんなのでも、一応今回の主役だからな。主役の前に脇役がたったら――」
「間奏でなら、僕が引っ込んでも大丈夫じゃないでしょうか?」
 割って入ってきたのは、今回の主役だった。
「この前収録したばかりの新曲『CERVO』、途中に約二分の間奏があります。その時なら‥‥」
「お前、まだ販売もしていない曲を歌うつもりか」
「そういうの、サプライズって言って今流行っているんですよ?」
「歌えるのか‥‥?」
「‥‥歌います」
 翔太のオーナーは女性だが、彼よりも20cmは高いであろう身長。見下ろされながらも、翔太は、目を逸らさなかった。
 暫し翔太は沈黙のまま彼女と睨み合っていたが、やがて溜息と共に、彼女の方からそれを止めた。
「‥‥千紗、ゆか、うらら。『CERVO』の間奏パート時だけお前達が前に出てくる事を許可する。ただし、服装は指定の物のままだ。翔太は、歌い慣れていない歌でつまらん失敗をしないように。以上」
 踵を返した女性がドアを開け、そして確実に退室した事を確認してから、翔太は目から力を抜いた。
「ふぅ、怖かったぁ‥‥」
 へなへなとしゃがみ込む翔太。どうやら大分精神を削りながらハッタリだったようだ。
「あ、『CERVO』って、最初はそうでもないんだけど、いきなり加速感出てくる曲で、間奏ではテンポ速めのノイズミュージックみたいになるんだ。ちょっと踊りにくいかもしれないけど、これくらいしか間奏長い曲がなくて‥‥」
 頑固で、だけど弱気で‥‥それがいかにも子供らしいく見えて‥‥
「楽しみにしてるお客さんたちのためにも、自分のためにも‥‥ボク達と一緒に頑張ろうねっ♪」
 見上げる彼を撫で、微笑みながら椿は言うのだった。

「振付は早くがっちり肉体言語で覚えるわ」
「‥‥肉体言語?」
 体育会系のノリのゆかに、首を傾げる千紗。
「ようするに、体で覚えるってコトっ」
「ああ‥‥そういうコト」
 ここは実際のステージ同等の広さを持つステージ。
「そうね。ここで本番までに‥‥体に叩き込むわよ、全部」
 メンバー最年長の彼女に対して、一同頷く。
 今回集ったメンバー全てが、ダンスを本業にしている者ではない。
 やれるだけの事を、やるしなかない。
 そして、舞おう。明かり照らすステージの上で。
 皆で、舞おう。
 そのために、彼女達は額に汗しながら重ねる。練習のステップを。何度も何度も。それが、本当にピッタリと重なり合うまで。


 出番が、近付いていた。出番まであと一分‥‥あるだろうか?
 誇張で無く本当に、この数日間はメンバーにとってアっと言う間だった。正直、もう『本番のステージに立っている』という事が、信じられないくらいに。
 自信が無いわけではない。しかし、それと不安はまた、別問題。
「多少のミスはあって当然よ。その時は慌てず次のステップへ‥‥って、今更言うことでもないかしらね〜」
 緊張気味に控えていたメンバーに、千早のやんわりとした口調は救いだった。
「一生懸命練習して、今日を迎えられたわ。あとは――」
「みんなで楽しく踊るニャよー! 悔いの残らない、気持ちのいいダンスにするニャ☆」
「ああ、アヤカさんったら大事なところを持って行って‥‥」
 アヤカと千早とのやり取りを見終わった頃には、一同からだいぶ緊張は解けていた。
「そろそろ‥‥出番かな」
 千紗が言うと、ステージのアシスタントが手でカウントを示していた。
 ‥‥7・6・5・4・3・2・1――
 ボーイッシュな姿の女性達が、舞台に文字通り踊り出た。
 彼女達の舞踏に、翔太の声が重なる。
 曲調に合わせ、時にコミカルに、時にクールに。しかしどのシーンにおいても皆、快活に。
 一致してくる、ステップ。
 一致してくる、声と足。
 一致してくる、舞台と客席。
 皆が、流れる汗の事など忘れた頃、会場全体が一つとなっていた。
 この一体感の前では、多少のミスさえ瑣末な問題に思えた。


「それでは☆ ライブの成功祝いと、翔太君のこれからのオヤヂ恐怖症克服を祈って‥‥乾杯ニャー!」
 達成感とともにある打ち上げというものは、良い。
 これは、ノンアルコールではあっても十分に盛り上がれそうだ。
 そして、この気持ちを十分に分かち合えそうだ。