其の日暮しの、鳴く頃にアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
はんた。
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
1.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
10/02〜10/07
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●本文
彼らは明日の事は考えない。もし明日の事を考えるのだったら、犬の様に、人間に対して従順になれば良いのだ。
どこからともなく現れて、意外と警戒心が無いと思いきや、いきなりそそくさと立ち去ってしまう。
そう、かの者は猫である。
「あー、猫って暇そうッスよねぇ〜。一体一日、どうしているんスかねぇ」
ある青年が呟いた、その一言から全てが始まった。
確かに外で猫は良く見かけるものの、結局最後にはどこかへ逃げられてしまう。追おうと思えば追えるのだろうが、皆、大概はそこまでしようとはしない。
だが、ただ見ているだけで、無条件に保護欲に駆り立てられてしまう、ある意味反則的な可愛さを有する猫。
そんな猫の日常生態に興味が無い‥‥と言ったら嘘になるだろう。
きっと。
多分。
皆、そうだよね!?
「と言うわけで、一日、とにかく街に居る猫を追って猫を撮影すると言う、何とも奇特な番組が企画された」
プロデューサーと思われるその中年男は、心底頭を痛そうにして言った。
「街にいる猫にカメラを向け、その生き様を撮影するんだ。外に居るとはいえ、野良猫かもしくは家猫か‥‥はわからないが。とにかく、猫を撮るんだ」
なんとなく、口調がやっつけ仕事的な気がするのは、気のせい。‥‥多分。
「近付き過ぎては猫に逃げられるだろうが、遠すぎたら良い画が撮れない。というわけで、さじ加減が、結構微妙だったりする」
でもコレ、バラエティ番組なので、ただ撮るだけではなくて、何かアクションを起こしてほしい‥‥との事。
「あと、これなんだが‥‥」
ゴホン。と咳払いしながら取り出したのは‥‥なんか猫っぽい着ぐるみとか猫耳ヘアバンドとか。
「これらで猫になりすまして、猫に警戒されないように‥‥だとよ」
そんなモン装備しても、猫には人間とモロバレだ。勿論それは、彼もわかっている事。
多分彼も、まだ上部には逆らえない立場なのだろう。
というわけで、猫レポーター募集!
●リプレイ本文
斉藤 真雪(fa2347)が撮影現場の下見から帰ってくると、それは起こっていた。
「‥‥ちょっと‥‥視聴者さんドン引きしないといいんですけど‥‥」
蕪木メル(fa3547)、推定年齢27歳。今、彼の頭にあるのは今回の企画の必須アイテムにして、ある意味最終兵器。
「ニャ〜! あたいのに匹敵するくらいの、カワイイ耳がついてるニャ☆」
「う、うわぁ!?」
後ろからアヤカ(fa0075)に『ソレ』を摘まれ、思わず声を上げるメル。
ソレとは、最終兵器とは‥‥、そう‥‥!
「恥ずかしがる事なんて無いニャ! これは立派でカワイイ、ネコミミだニャ!!」
「う‥‥うわぁあああ!!」
それは、ネコミミである!
人はなぜネコミミに愛嬌を見出すのか!
人はなぜネコミミをつけるとカワイく見える(?)のか!!
明確な答えを、人類は未だに見出せていない。しかし、可能性の一つとしていえるとすれば‥‥ネコがカワイイからかもわからん。
「今回の撮影は、愛らしい猫達です。相手と同じ土俵に立って頂きます、メルさん」
「そ‥‥それはそうなんだけど〜」
真雪の言葉に、返すメルの顔は――羞恥心か――既に紅潮していた。
「大丈夫です、メルさん。ちゃんとカワイイから大丈夫です」
その声に、感情の色は淡く。
イルゼ・クヴァンツ(fa2910)にそうは言われるものの、三十路間近のメルとしては、中々微妙な心境であったりする。
「イルゼさんのもカワイイんだニャ〜。ちゃんとバランスとれているニャ☆」
「まぁ‥‥追跡を視野に入れているので、これくらいの‥‥ワリと簡素なネコミミ装備しかできません」
ネコミミヘアバンドと付け尻尾が、本来犬の獣化を成す彼女に付いている。これもなかなかのマッチ具合。
「尤も‥‥ごてごてしてるよりは、マニアックな人に受けるかもしれませんし‥‥受けても、あんまり嬉しくないですけど」
たしかに‥‥、とリュアン・ナイトエッジ(fa1308)が内心で苦笑するのだった。
「あ、メルさん。サマになっていて、むしろこーいう、違った仕事がメインになるかも?」
「ち、違った仕事ってなんだ〜〜〜!?!?!?」
同じく付けネコミミ装備の因幡 眠兎(fa4300)の言葉を真に受け、狼狽するメル。大丈夫、彼女なりの冗談だ。‥‥多分。
「自分みたいに、メルさんも猫の被りモンで出ればいいんじゃないっすか?」
「あれじゃ、聞こえてないみたいだね」
声をかけて歩み寄ろうとしたリュアンだったが、メルに親指を指す武田信希(fa3571)に止められた。
見てみれば、メルは耳を両手で塞いで何やら呟いている。自己暗示の世界だ、あれでは何も聞こえまい。
「た、たしかに‥‥。ところで、信希君はどうするんすか?」
「このネコミミカチューシャで。おいらにも、オトコノコの意地ってモノがあるから」
信希の頭にあるミミは、メルのそれより幾分かオモチャっぽい。よく考えれば、このネコミミの刑からの逃げ方は、いくらでもあるのだ。
「さて、準備万端のようですね。それでは猫巡りの当企画、スタートと行きましょうか」
(「この悶着にも動じずに、スタートを切り出すなんてッ。すごいぞ真雪さん、すごく‥‥マイペースだ」)
おっとりとはしているものの、カメラマンのそれは鶴の声。その影響力とマイペース具合に、信希はただただ、舌を巻くのだった。
「アヤカおねーちゃんの言う通り、どう見てもネコミミですニャ☆」
「俺は何も着けてない何も着けてない‥‥」
アヤカに同じく自前ネコミミの持ち主、ルージュ・シャトン(fa3605)の声も、自己暗示のメルには届かなかった。
『ふぅ。今日もいい天気』
『これは絶好の日向ぼっこ日和だわ』
『最近は、肌寒くなってきて‥‥私冷え性だからつらいわ』
秋空から降り注ぐ陽光を浴びる猫達の声‥‥っぽいけど、それは吹き替え担当の真雪の声。
撮影チームは早くも、電柱間近で屯している猫達に遭遇した。
「抜き足☆」
「差し足‥‥」
「忍び足ですニャー」
アヤカ、眠兎、ルージュのネコミミ三人娘、こそーりこそーりと歩み寄る。
するとそれに気付いたようで、猫達の首がこちらに向いた。
(「ホラ。怖がらなくていいんだよ」)
『何か余所者が居るけど‥‥誰かしら』
『この辺じゃ見ない顔ね』
メルはしゃが込むと、猫達を誘きよせるべくチチチと舌を鳴らしてみる。
すると‥‥
『興醒めだわ。行きましょう』
「アヤカおねーちゃんっ、ネコさん達が逃げていきますニャ!」
今まさに立ち去らんとしている猫達の背に、びしっと指差すルージュ。肩を落とすメルに、イルゼが何かフォローを言おうとした‥‥みたいだった、それは無言に終わった。
‥‥ぽてぽてぽてぽて。
「逃げる‥‥と言っても、嗚呼、猫特有の俊敏さがありません」
猫から少し離れた位置から言うイルゼの通り、一同は、その猫達の低速ダッシュっぷりに違った意味で驚愕していた。
多分この猫達は、外出中のセレブ(?)、それなり贅沢をしているイエネコなのだろうか。今のところ、野生のパワーが全然感じられない!
イルゼやリュアンの出番は、どうやらまだまだの様子。
「うーん。これは、あからさまにやる気の無い逃亡だね。でも、手間かからないからこれはこれで、いいのかも?」
「もしかしてこの先に絶好の日溜りスポットと、もっと多くのネコがいるかもしれないですニャ」
「このままついて行って、ネコ集会場を探すニャ☆ それでは、追跡開始だニャ〜」
そしてネコミミ三人娘が猫を追跡する! 徒歩で。
「この風景‥‥。なんとなく、端から見ると‥‥」
そこで言いかけ、イルゼは言葉を止めた。
猫数匹の後を歩く、芸能人数人。これは確かに、中々珍しい画。
そうこうしているうちに、辿り着いたのは『好評分譲中』と書かれた看板がかかった一帯。灰色の下地のところどころに、自由気ままに緑が発育している。数ヶ月経っているが、『好評』分譲中らしい。
「こんなところに、空き地あったんすね」
徒歩での追跡に正直物足りなささ感じながらもついて来たリュアンが言った。どこの街にも、喧騒を抜ければこう言う風景もある。
『ああ疲れた』
『もう、やってられないわ』
何か建築資材らしきものの上でヘタる猫達。セレブというより、家事に疲れてやる気をなくした専業主婦のようだ。
『よーっし、日向ぼっこだニャー』
ごろーん!
『ですニャー』
ごろろーん☆
『ああ、夕飯作るの面倒臭いわ』
でろーん。
(「できれば、こっち向いてほしいんですけど‥‥」)
映りを意識してくれない猫達。カメラを前にしても動じる事無く、毅然とした態度でダラケている。その媚びない姿は、まさに孤高のハンター! ちなみに今の猫の状態は、しなびた輪ゴムを彷彿とさせる。
なんだか思った以上に警戒心の無い猫。これを好機、と、メルが後ろから抱え込んで抱っこする。そして、おもむろにその手を猫の顔に近づける‥‥。
むにっと。顔の皮を絞り込むように!
「‥‥ブルドック」
野生を取り戻した肉球が飛んできた。
「ぐはぁ!?」
『まったく、失礼しちゃうわっ』
その猫は強烈(?)なネコパンチをメルに見舞って、彼の腕から飛び出した。
「よし、それではここから本領発揮! 猫追跡班第二陣、出動っす!」
「了解です。あの身の軽さは、一度勝負してみたいと思っていました」
「でもあまり警戒させな――」
「あ、冗談なので大丈夫です」
「りょ、了解っす」
「なーんて言っている間に、適度な距離離れしまいましたので、イルゼさん、リュアンさん。宜しくお願いしますねー」
真雪に言われて二人は思い出した。猫の背が、段々小さくなってゆく事に。
「あーっ。このまま逃げられたら意味無いっす!」
「それでは猫追跡班第二陣、出動‥‥」
駆け出すリュアンとイルゼ。二人に追いていかれては元もこもないので、カメラには映らない真雪はこっそり半獣化。
「待て待て待て〜〜〜っす!」
追跡者に気づいた猫は、走行コースを塀の上にチェンジ。まるで、ついて来れるか? と言わんばかりに。
「これくらい、武道家には朝飯前っすー!」
ガシガシよじ登り、塀の上をひた走る武道家リュアン。今は全身、猫のきぐるみだけど。
ちなみにイルゼ、普通に道を走っている。
次に猫は、現在休止中の工事現場に駆けていった。土管は直径役1m。中を、するりするりと走り去る。
「自分には、ほふくがあるっすよ〜〜!」
ほふく前進。リュアンもが、するりするりと移動する。
ちなみにイルゼ、工事現場は危ないので普通に遠回り。
そして猫は工事現場出入り口、散乱している機材の網目を縫うようにして駆け抜けてゆく。
「なら自分は‥‥これしかないっす!」
宙には跳び蹴りポーズでそれらを一発で飛び越える武道家リュアン! 勿論格好は、いまだに全身ネコきぐるみだ。
「これ‥‥なんてS○SUKE?」
リュアンのアクションの数々を目の当たりにして、思わず某チャレンジ系スポーツ番組を思い出してしまったイルゼであった。
それにしても相手の猫、イエネコの主婦(多分)にしては思った以上に走れる。やはり、まがりなりにも猫か。
しかしココに来て猫は、突然の方向変換。今まで直線的な動きであったそれとはうってかわって、右へ左へ‥‥まるでどこかに向かうかのように。
「ちょっと、つ、疲れたかも‥‥っす」
「それは、まぁ、きぐるみであそこまで派手に動きましたからね」
「これ‥‥、脱いでもいいっすかね?」
「多分、番組的には芳しくないと思います」
「た、たしかに‥‥そうっすよね‥‥」
さすがに、この番組のシンボルを脱ぎ払うわけにもいかなった。というわけで、リュアンはイルゼにバトンタッチ。
しかし、彼女も獣化無しではあまり長距離はもたないと思われる。イルゼは身軽さを利用して、道の最短距離を通って省エネに努める。
(「‥‥? それにしても、なんだかここ、見覚えがあるのはきのせいでしょうか?」)
猫を追いながらイルゼが浮かんだ、奇妙な感覚。所謂デジャヴのそれに不思議がっていた彼女であったが、答えは、意外な形で理解に結びついた。
(「あ‥‥この香りは、‥‥なるほど」)
そうして走りついたそこは、最初に来た空き地だった。
「あ、帰ってきたニャ」
「ほーら、死んでもいいって思えるくらい美味しい猫缶もあるよ〜」
その場でキリキリっと缶の封を切る眠兎。死んでもいいのは流石に嘘だが、確かにこれは上等な猫缶‥‥その匂いときたら、まさにキャット☆まっしぐら!
「こっちにはミルクもありますニャ。猫さん〜☆ こっちに来てニャ〜☆」
『‥‥ふぅ、疲れちゃったし、この辺で休むのも悪くないわね』
そうして猫は手招きする三人娘のもとへ。
「耳の後ろの毛がツルツルでいいですよ」
そう言うメルに耳を触られている猫は、しっぽを横に振りながら、目を細めている。喜んでいるようにも、嫌がって睨んでいるようにも見える。
ネコのそんな様子を見て、思わず瞳に雫をためるメルに、昔に何かがあったのだろうか。
『このサンマはオレのモノだ!』
『お前のサンマはオレのモノ。俺のサンマは俺のモノ!』
『ここは一番最初に食べ始めた俺のものだろ‥‥常識的に考えて‥‥』
焼きサンマを用意したアヤカの周囲には、新たに数匹の猫がやってきて、エサの取り合いをしている。
「あ、喧嘩はよくないニャ! 喧嘩するんだったら‥‥あげないニャ!」
アヤカはそのサンマを掴むと、天高く掲げ上げて没収。三匹の猫が、それに釣られるように、必死に取ろうと飛び跳ねる。全然届かないが。
(「最近は戦ってばかりだったから、こういうのも、たまにはいいのかも‥‥」)
眠兎は、先程の猫缶をあげた猫と馴染んでいた。彼女が後ろから抱きかかえても、警戒する様子は無い。
真雪がそちらにカメラを向けると、猫は眠兎に持たれている前足で手を振った。
「いや〜、平和だ。女の子と猫が戯れる風景って」
「さっきは誘導どうもありがとうございました」
「あれ、バレてた?」
イルゼが先程感じたデジャヴと匂いの原因は、今彼女の横にいる少年、信希にあった。
先回りした彼が、風上からさりげなくエサの匂いを流して猫をぐるっと一周させ、ほのぼのしながらエサを構える三人娘の場所へと戻したのだ。
「信希は猫と遊ばないんですか? 別にカメラに映っても問題ないと思いますが」
「あ〜いいよいいよ。うちは黒子に徹して、女の子が戯れる画像重視で。ほら、昔から子供と動物には適わないっていうじゃない? 」
彼の持論が正しいかは良く分からないが、まぁ無理強いするものでもないので、イルゼはそれ以上言い及ばない。
「でも、信希みたいな男の子がネコと遊んでいるのを見たいって言う人もいるかもしれないっすよ?」
「‥‥それは、ニョンの人だ」
リュアンの言葉に、心なしか無表情に答える信希。何か、思うところがあるのだろうか?
そして、ほのぼの有り、ドタバタ有りで一日中ネコを無事に撮り終えた一同。
「あー‥‥真雪さん。もう、猫の撮影は終わったんだよ」
「いやー、本当に可愛いですね。あ、凄いですね、この肉球の柔らかさ」
撮影を終え、カメラマンと言う呪縛からとき放たれた真雪の満喫は、まだ終わりそうに無い。多分、信希の声は耳に入っていないだろう。
(「本当にすごく‥‥凄くマイペースだ」)
信希が彼女のそれを再確認したのは、言うまでも無い。