追撃! トリプル・猿アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 はんた。
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 1.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/05〜11/10

●本文

「迫撃! トリプル・猿」

「キキ、ウキキー! ウキキキッキーィ(摩周、ノレテガ! 偏西風アタックを仕掛けるゾ)」
「「キキ」((了解!))」
 疾走する三つの影。
「あ、俺のたい焼きが! か、返せ!」
 まるで時代劇の忍者のような機敏な動きで連携して通行人から食料を奪うのは、三匹の猿だった。


「まだ捕まっていないらしいスね、あの猿」
 最近巷を騒がせている存在がある。猿だ。住宅街に猿が逃げ込み、通行人・住民に悪戯などを繰り返している。
 わりとありがちな事件ではあるが、それが話題になっているのは理由がある。その猿は最近街に移動してきたサーカス団『黒井サーカス』のスターである、大地君、摩周君、ノレテガ君なのだ!
「‥‥まてよ、これネタにできないか?」
 たしかに今回の犯人である猿は、それなり有名な存在だ。
「相手はサーカスのスターっスからねぇ。事件のレポート、ついでに追って捕まえたり出来れば尚更盛り上がるかも」
「よし、じゃあ早速スタッフ集めるぞ。おい、手配手伝え!」
「了解スよー」

●今回の参加者

 fa0017 緑野・夏樹(21歳・♂・狸)
 fa0151 蒲羽 健太(28歳・♂・パンダ)
 fa0200 影山志狼(22歳・♂・狼)
 fa0230 アルテミシア(14歳・♀・鴉)
 fa0310 終無(20歳・♂・蛇)
 fa0683 美川キリコ(22歳・♀・狼)
 fa1609 七瀬・瀬名(18歳・♀・猫)
 fa1674 飛呂氏(39歳・♂・竜)

●リプレイ本文

「しかしまぁ、ありきたりといえば、ありきたりだよなぁ」
「ソノマンマの見た目の方が、撮る側としてはやりやすいですけどね。パっと見、面白そうに見えますし」
 餌を手に取り苦笑する影山志狼(fa0200)。横にいる終無(fa0310)は、とりあえず現状では撮影の事を考えている様子。
 罠に用いられる餌は、ずばりバナナ。現在作っている罠は、それの誘惑に導かれた者を大きな笊によって待ち構え、バナナを取った相瞬間手を封印するという、壮大且つ大胆ッ、そして何より‥‥シンプルな物だ。
 その罠に睡眠薬でも仕込んでおけばより効果的とは思ったのだが、ここにいる芸能人の中に、医者はいない。用量用法がわかならい。自殺にすら使えるそれを、気軽な気持ちでは使えない。
「えーい、とりあえず目薬でもブっかけとこかー」
 蒲羽 健太(fa0151)がポケットから目薬を取り出すと、ご飯にかけるフリカケの様に付けてゆく。たしか何かの雑誌に、目薬は睡眠薬になるような事が書いてあったような‥‥、専門知識外の知識など、この程度。
「ん、アルテミシアさん、それは?」
「この町のちょっとした名物のバナナクレープ♪猿被害で厳しいところを、無理をイって作ってもらいました」
 七瀬・瀬名(fa1609)が聞くと答えるアルテミシア(fa0230)は、名物(かどうかは定かではないか)のバナナクレープに、今まさにカブり付かんとしていた。まさにその時!
「キ、キキゥキー!(いいか、バナナは手を出すな。まずはクレープだ、行くぞ!)」
 突然だった。猿の声が聞こえたのは!
「キー(おう)」
「ウキキ(行くのかよ)」
「「「偏西風アタック!!!」」」
 罠が露骨過ぎたか、はたまたバナナクレープの方が美味しそうに見えたか。三匹の猿が、アルテミシア‥‥の持っているクレープ目掛けて疾走してゆく。「あ、一列に並ぶワケじゃなんだ」とカメラを用意しつつ何となくそう思う終無。そう、なんとなく。
 先行してきた猿がアルテミシアに急接近を試みる。しかしアルテミシアとて猿一匹の動きを見切れないわけではない。身構えてその手の軌道を読み、なんとか回避に成功する。が、しかし既に頭上に影。飛来する猿と共に足元にも、低い姿勢で間合いに踏み込んできた猿がいた。結果、クリームたっぷりのバナナクレープは三匹の連携によって盗られてしまった。
 ――ヒュゥウン!
「キ、ウィキキキ、ゥキ!(ま、あの黒い奴も大した事ないな――う!)」
 あとは逃げるだけ〜、そんな猿だったが、後ろから飛んできた銀光が身を掠めると、戦慄した。振り返れば、今はにっこりとした笑顔のアルテミシア。尤も、ナイフを構えながらのその笑顔は、和める様な類のモノではないが。
「一口くらい待ちましょうよ‥‥空気読めないんですか、この下等生物?」
 アルテミシアの手には既に二本目のナイフの投擲準備が成されていた。必要以上に身を翻した姿勢で投げ、スカートを宙で踊らせる。‥‥明らかに『見せる事』を意識している。
「イイっ、イイよシア君! あ、でも、気持ちもう少し脚を開い―」
「の、呑気な事言ってないで、終無さんもアルテミシアさんを止めて下さい!」
「ああっだから、ノリノリでシャッター切まくっている場合じゃないっスー!」
 アルテミシアは一応猿ではなくクレープを狙ってはいるが、射撃の腕に幾らか自信があろうとも動く標的、ましてやそのサイズなら当てる事は難しい。そして相手はまがりなりにもサーカス団の華。ナイフが当たってしまってからでは遅いと、瀬名と夏樹でアルテミシアの制止に努める。終無は、我関せずと言わんばかりに、撮影に没頭しているが。
「そうこうしている間に、逃げちゃったわね」
「あ」
 美川キリコ(fa0683)に言われて見てみれば、既に猿の姿は消えていた。
「しっかしアイツら、バナナじゃなくてクレープの方に一目散に飛び込んでいったなぁ。目薬使い過ぎて、臭いでバレてもうたんやろか?」
 うーむ、と悩ましい口調で健太が呟くと、
「単にバナナクレープの方が美味しく見えたか、もしくは罠を看破されたのかもしれないっス」
 と、夏樹がフォローを入れる。そうは言っても、罠が破られたという事実は事実だ。
「こうなったら実力行使。わし等の出番だな」
「しかしなかなかの連携だったな。俺達も要連携と言った所か」
 身を乗り出してきた巨躯は、飛呂氏(fa1674)。同じく実力行使を試みる志狼は、目の当たりにした相手の連携に、少なからず危惧の意を表している。
「でも、とりあえずは現場のレポートが必要ね」
「そうだね。集められる情報の中には、捕縛の手掛かりになるものがあるかもしれないし。あ、私もレポートのお手伝いをするよキリコさん」
「ありがとう瀬名。それじゃあ、頑張っていくよッ!」


「じゃ、被害にあった様子のありのままをお願いしまっス」
 それを聞くと、被害にあった青年が頷く。
「それじゃいくよ。3、2、1‥‥っ!」
 終無が手で合図を出すと撮影が開始される。
「今、話題の黒井の三連星が逃げ回っている住宅街にやってきましたー。それでは、早速、被害にあった男性から、お話を伺ってみましょう」
 そう言うキリコにマイクを向けられると、男は状況、盗られた食べ物、猿達の連携‥‥それらを淡々と語りだした。
 次々とインタビューを繰り返していくキリコ。被害者の反応もそれぞれで、こちらに聞こえるほど悔しそうに歯軋りする者もいれば、かの有名な黒井サーカス三連星に逢えて嬉しそうにしていた者もいたりした。
「しっかしまぁ、最近は猿でも、贅沢してるんやなぁ」
 数々のインタビューを聞いて、感心するように呟く健太。証言によると、猿達は先程のバナナクレープ同様、美味しそうな菓子を主な標的として狙いを定めているらしい。
「サーカス団にいる時に、お客さんから色々オヤツを貰っていたみたい。団長も甘やかして、それを特に止めなかったみたいだよ」
「あ、瀬名はん。サーカス団のインタビューは、もう終わったんかいな」
「夏樹が事前にアポとっていてくれたおかげで、スムーズに進んだのでな」
 サーカス団へのレポートへ向かった瀬名、飛呂氏、そして夏樹が現地レポートをしている組と合流し、そこでまた話し合う。が、出てくる案は、ただ一つ。
「インタビューで多くの証言を得た場所で、餌を用いて囮を用意して捕縛しましょう」
 終無の言葉に、一同が頷く。
「では夏樹君、囮用の菓子の買出しを―ん?」
 終無は、言いかけた所で止まる。アルテミシアの、訴えかけるような視線を感じたからだ。
 終無は、シアの頭を撫でながら溜息交じりに言った。
「後でバナナクレープ奢ってあげますから‥‥」


「で、なんスか、これ?」
 夏樹の現在の装備。工事用安全ヘルメット、虫取り網、そして‥‥餌。
 問い掛けられた健太は、ただただ、サムズ・アップ!
「無理っスよーー!? 自分、弱いんスから!」
 健太の意図に気付き、講義申立てる夏樹であるが、もう今更だ。遅い。
「高がエテ公に夏樹はんが後れをとるワケが無いがな。ここでカッコ良ぉ捕獲出来たらこの番組のヒーローは、あんさんに決まりやで〜」
「猿に逃げられるどころか良いようにあしらわれて馬鹿にされた上、返り討ちにあって笑い者がオチっスよーーっ!?」
「あ、敵だよ。猿三匹、二時の方向から進入してくる」
 覚悟未完了の夏樹に、瀬名の冷静な現状報告は残酷に響いたのかもしれない。
「キキ、ウキキー。ウキキッキキー(摩周、ノレテガ。もう一度偏西風だ!)」
「「キキ」((了解))」
 猿達の連携は、正確、かつ変則的だった。今度は三匹一気に飛びかかり、
「あ、ああーー!」
 夏樹は勢いで押し倒され、あっさり餌を奪われてしまった。
「夏樹はんの魂よ、電波に飛んで、永遠のテレビの中で漂いなはれ‥‥」
 倒れている夏樹に(無責任にも)そう言うと、スタジオから借りてきたハリセン片手に健太は猿に向けて駆けてゆく。しかし、健太一人ではいささか分が悪い。それを感じ取ってか、逃げつつ振りかえる猿の表情は、嘲笑にさえ見えた。
「待て!」
 その叫びの音源に、その場の皆、猿までもが視線を移した。そこにいたのは、
「地域を騒がせる猿達め! その横暴もこれまでだ!」
 ヒーロー物のスーツを着込んだ志狼。しっかりマスクもしている。
「今日こそ黒井サーカスに戻ってもらうぞ。大地君、ノレテガ君、摩周君!」
 『黒井サーカス』の刺繍が入った作業服を着ている飛呂氏。色が白なのは、仕様だ。
「さぁ、今現場には突如として現在逃走中の黒井三連星が現れました! 今、捕縛が試みられるようです!」
 捕縛組は衣装が統制されていないせいで怪しさ全開だが、キリコは敢えてツッコミを受け付けぬ姿勢で、実況を敢行する。
(「ヨシ。じゃあ迫力ある絵、頼むよ」)
 カメラの位置には、既に終無がいる。
 ハリセン持った私服男性、ヒーロー、そして作業員。彼らにただならぬものを感じ、嘲笑を崩して必死になって逃げる猿達。
 しかし、間合いはすぐに詰められる。半獣化した志狼は、更にその能力によって一時的ではあるが脚力を高めている。その速度を持ってすれば、猿にも容易に追いつける。
 跳躍。
 突然陽の光を遮られた猿は、反射的に回避体勢をとる。
「く、外したか」
「ウ、ウキキィキー(お、俺を踏み台にするつもりか!?)」
 勿論手加減をしてはいるが、それでも猿には強力な志狼の蹴り。それを避けた猿は、明らかに動揺している。
 踵は、既に振り上げられていた‥‥高々と!
 飛呂氏の踵が、落ちてくる。猿が避けてくれたからいいものの、ソレ、当たればいくら手加減するつもりでも、怪我は免れないだろう。
「今のカカト落とし、イイよ! カッコイイ! もうバンバンきめてください!」
 踵落としをバンバンきめてしまっては、猿が再起不能になってしまうので、とりあえず健太はハリセンで応戦。流石に三回連続で避ける事は叶わず、顔面にハリセンが命中した猿は、それで体勢を崩し、スタッフに取り押さえられた。
「キ、キキ、ウ、ウキキー(ま、摩周が、や、やられた)」
「ゥ、ウキキィキ!(し、信じられん!)」
 仲間が捕まった事により、残った二匹は、より一層、その必死の度合いを高めて逃走する。そう、必死になって。人目が無いのを幸い頭上で羽ばたいているアルテミシアに気付かないくらい、必死になって。
「油断大敵です」
 そう言ってアルテミシアは手から網を投げ落とす。猿は網に絡み、そして駆け寄ってきた飛呂氏らによって無事、捕獲された。
「あ、見てください! たった今、たった今ッ捕まったようです!」
 キリコが実況しながら走ってきたのは、間もなくの事だった。

「いい絵も撮れたし猿も獲れたし、良かったと思いますよ、今回」
「しいて言えば、最後の一匹を逃してしまったのが、残念といえば残念かしら」
 収録も終わり、撤収作業の中、キリコと終無が話していた。あの後、三匹目の猿を追ったのだが、結局狭い道に逃げこまれ、追跡を断念せざるを得なかったのだ。
「でも、あいつらは三人いてこそ真の力を発揮できるんだ。一匹だけになったら、近いうちに捕まると思うぞ」
 借り物ということで、志狼は自分の使ったスーツに解れ等ができていないかチェックしながら言った。
「しかし、一匹だけになってしまったら寂しくなって、自分から帰るかも知れぬな」
 飛呂氏がタオルで汗を吹きながら話していた、その時だった。
「みなさーん」
 向こうから声が聞こえてきた。これは、夏樹の声だ。夏樹は息を切らせながらも、手に持っている封筒を、出演者に渡していった。
「何やコレ? ‥‥って、銭?」
「出演料とは別に、黒井サーカスの団長さんからです。『ウチのスターを帰してくれて、どうもありがとう』とのことっス」