中古車ブレイク怪獣作戦アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 はんた。
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/14〜12/18

●本文

「そろそろ車買い替えようと思っているんですけど、何がいいと思う? 広いけど走りも楽しめる車がほしいなぁ」
 楽屋でADにそんな事を話していたのは、脚本の三原しげあきさん。ふくよかなビール腹の三原さんでは、今乗っているセダンの車はたしかにちょっと狭そう。さらに、最近は三男も無事誕生し、ますます車が狭く感じざるを得ません。
 と、いう事で! 普段お世話になっている当番組から、極まる走り・極まる空間‥‥北海技研のオデッセイアABSOをプレゼント!
 でも、ただあげるのでは面白くないので‥‥。
 名付けて、『中古車ブレイク怪獣作戦』〜〜〜!!


「まんまじゃないか?」
「いや、視聴者に伝わりやすいキャッチフレーズの方がウケるッスよ」
 製作し終えた紹介VTRを長める二人の男。一人が、そこはかとなくその企画のネーミングセンスの無さを指摘するが、もう一人のは気にする気配もない。


 まず、三原さんを、大好物の中華料理のお店へと連れて行きます。そこで時間を稼いでいる間に、野獣の着ぐるみに全身を身に包んだスタッフ数名が登場。鉄板などで強化された着ぐるみで、とにかく殴る蹴るを繰り返して車をボコボコに! そして店から戻ってきた三原さんが驚いているところで、『ドッキリ』の看板を持って別スタッフが駆け寄ります。
 果たして三原さんは、どんな反応をするのでしょーか!?


(「強化された着ぐるみ、ってオイオイ」)
「というドッキリカメラの企画ッスよ。どおッスか?」
「まぁ、なんとかなるか‥‥。で、スタッフの手配は?」
「あ‥‥‥‥。まだス‥‥」
「馬鹿もん。早く集めんか」

●今回の参加者

 fa0210 龍田羅漢(35歳・♂・竜)
 fa0431 ヘヴィ・ヴァレン(29歳・♂・竜)
 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa1080 タイガーエース(24歳・♀・虎)
 fa1162 緋桜冬弥(26歳・♂・鷹)
 fa1674 飛呂氏(39歳・♂・竜)
 fa1713 玄穣(14歳・♀・豚)
 fa2074 ハンマー・金剛(18歳・♂・獅子)

●リプレイ本文

「どうもお疲れ様でした。今日は僕の奢りでいいスよ。ささ、なんでもどうぞ」
「いやぁ、後輩から奢ってもらうなんて悪いよ」
「いえ、入社から今まで、宴会とかでずっと奢ってもらいっぱしだったので、ここで返しておかないと僕の気がすまないッス」
「あ、本当? 悪いなぁ‥‥。じゃあ満漢全席」
「え‥‥」
「はは、冗談だよ。あ、そこのお姐さん、回鍋肉三皿」
「‥‥え」
「前菜だよ、前菜」
 前菜、という事は、『最低でも主食はまだ残っている』という事である。これから更に豊かさを増すであろう三原しげあきの腹と、貧しさに拍車をかけるであろう自分の財布を交互に見る青年。ちなみにこれは経費で落とせないので、マジで奢りである。
 三原とある程度親しいスタッフの青年が、中華料理屋で時間稼ぎをしている間、他の出演者も又、淡々と準備に勤しんでいた。
 青年はトイレに行くと言って席を外し、携帯を取り出し、連絡をとる。
「計画通りッス。これだけやってんスから、無事ブレイクしてくださいよー」

「任せておくのだ☆あたい達がボッコボコにするのだぁ〜」
 応じるのはタイガーエース(fa1080)。携帯を借りて、三原と一緒にいるスタッフと連絡を取る。
「ふむ、たまにはこういう依頼も面白いかもしれないのぅ。まぁ、折角の機会、全力でやらせてもらおう」
 言いながら、もとより隆々とした筋肉を有していた飛呂氏(fa1674)の肉体は竜への獣化を成すとその身を鱗で包み、尾もついてより戦闘的なフォルムを形成していった。他の参加者達も次々と獣化していく。
 今回の番組のキモは、車の破壊。いかに派手に、徹底的に、そして爽快にブレイクを成しえるかで、番組の良し悪しが決まるといっても過言ではない。故に、完全なる獣化は必須である。
「よしッ、壊します、とにかく車を壊します!」
「そうだねー。今日は思いっっっ切り破壊三昧だぁ〜☆」
 玄穣(fa1713)は直線的な性格を隠しもせずに言うと、エースはそれに言葉を付随させた。女子プロレスラーである彼女ら二人、気合は十分。ちなみに穣は黒いコスチュームに鷹マーク付きのベルト。つまり、どっかの戦闘員みたいな格好だ。
 同じ女子レスラーでも、そんな彼女達とは対照的なのが夏姫・シュトラウス(fa0761)。
「え、えぇーーっと‥‥(私がこんな所にいて、いいのでしょうか‥‥?)」
「おぬし、如何かしたか?」
「い、いえ! そのっ、なんでもありません、すいません!」
 もじもじしながら挙動不審な態度の夏姫を訝しがり龍田羅漢(fa0210)が声をかけるが、彼女は虎の獣人であるにも関わらず、小動物的なリアクションをとっている。
(「そんな調子で大丈夫なのだろうか」)
 夏姫の気弱な様子を見て、緋桜冬弥(fa1162)は一抹の不安に駆られる。
 しかし、大丈夫だ。そんな彼女だが、気弱な自分を克服する方法を持ち合わせていた。
(「これを被れば、私は‥‥」)
 夏姫の懐から取り出されたのは、虎のマスク。それによって生じる(原理は謎)強烈な自己暗示によって、彼女は不礼不遜不敵の三点セットを備えられた自信家へと変貌を遂げた。
「ま、一応バッテリー外したり、あと燃料系には気をつけておくか。‥‥ガソリン漏れたら危なそうだ」
「ふむ、そうだな。‥‥と、それがおぬしの得物か」
「ああ。できればもっと長さが欲しかったんだけどな」
 飛呂氏に問われると、ヘヴィ・ヴァレン(fa0431)は頷き、廃材置き場から頂いてきた鉄パイプの握りを確かめる。出来れば長さとある程度の直径が欲しい所だが、まぁ、タダゆえに贅沢は言えない。それに、素手のみでのブレイクではなく、武器を使う者がいても見栄えがいいだろう。
 色々な意味で、こちらも凄い武器を用意している。ハンマー・金剛(fa2074)は獅子に獣化し、被り物を用いて、大きな金槌を頭に乗せたような面容をしているではないか。
「それが‥‥おぬしの得物‥‥か?」
「ええ、もう『ハンマーライオン』といった感じ挑みましょう。目標は頭突き200発」
 飛呂氏に問われても、ハンマー金剛は爽やかな笑みを絶やさない。色々ツッコミ所は満載だが、一同、とりあえずツッコまない。この手の番組は問題さえ起こさなければ、とにかく、ウケればよかろうなのだ! ‥‥多分。

 雪が降り、それが道に残ると黒ずんだ雪を撥ねてどうしようもなく車が汚れる。三原のセダンも例に漏れず、汚れのせいでより年季の入った車という印象を受ける。更に、雪道なのにエアロパーツを外していない。フロントリップスポイラーにはヒビが見受けられた。因みに、車検は来年で切れる模様。
「番組の為に1台の車が尊い犠牲に‥‥俺から見れば勿体無いと言わずにはいられねえな」
 それは古めかしさを醸し出している車であるにも関わらず、ヘヴィは苦笑と共にマイペースに言う。言いながら、鉄パイプを正面に構える。
「HAHAHAHAHAーーーーー!!」
 そんな中で、夏姫が割り込むように疾走してくる。そして両足は地面から離れると、再び付くのは地面ではなく、車のドア。
 ベゴァ!!
 助手席側のドアはそのドロップキック相応の派手な音と共に陥没する。
 その音が開始の合図となった。
 羅漢の角は正面を捉え、槍に勝るとも劣らない鋭さを以って深々とグリル部分を刺し貫いた。
「けあッ!」
 掛け声の主は、飛呂氏。正拳、手刀‥‥まずは文字通り手始めに、手の技から繰り出す。ドアミラーはひしゃげ、ガラスにはヒビが入り、そして割れる。彼は武道の心得があるようで、それは演舞‥‥空手の形のようにも見える。
 殴る蹴るを繰り返す冬弥。踵の蹴爪はアルミホイールに縦一線の傷を付けたついでにタイヤをも引き裂いてパンクさせる。
 ガンガン、ガギィッガンガンガンガン‥‥ッ!!
 後方から、鼓膜をつんざく打撃音。ヘヴィの鉄パイプが鳴らしていた。初撃以降、凹みはエクボなんてレベルをとうに超え、トランクは整地されていない農耕地のような凸凹へと変容を遂げる。続く、掬い上げるような一撃はマフラーの口を塞いだ。これでもう排気ガスも出ないだろう。尤も、エンジンがかからないと思うが。
 ガシガシガシガシ‥‥ガシガシガシガシ!
 後部座席のドアは、ハンマー金剛が破壊中。自称『日本一頭蓋骨』な彼だが、さすがにこれは厳しそうである‥‥ってゆーか、頭突きの連発は流石に無茶があるというものだろう。既に頭の飾りはドア同様ボロボロ。でも、イイ画になるので止めない。
(「目の前で壊れ方が解れば練習になりそう!」)
 ガボン!
 ショッk‥‥もとい黒っぽい戦闘員姿の穣は、ソーンナックルのワイヤーでボンネットをズタズタにした後、ナイトウォーカー戦やプロレスリングで披露する予定の蹴り技を放っていく。ローリングソバット!  ドロップキック! ボンネットには、数多の蹄跡が刻まれていく。

『動作不良のパソコンを叩き壊してやりたい‥‥ッ』

 大切な物に対するもどかしさ。それは時として憎しみにすら為る‥‥そんな経験は、ないだろうか?
 車庫入れで神経をすり減らし、凹凸路面では段差を避ける。常に素早い状況判断に従事し、マナーの悪いドライバーの幅寄せに怯え、雪道ではABSのランプが付くたびに恐怖し‥‥。そうして、ドライバー達は自分の愛車を傷つけまいと苦心し、また、努力する。
 その堅忍から解き放たれ、ただひたすら車をブっ壊す! そこにあるのは、たしかにカタルシスなのかもしれない。‥‥まぁ、それを考えたら三原には少しの間、酷な役を買ってもらう事になるわけだが。
「せぇい!」
 飛呂氏の踵落し。もう内側も随分と破壊されたのだろう、黒くなったエンジンオイルがタレ流れる。もはや車は鉄屑寸前。
(「昔、ゲーセンの帰りに『ボーナスステージ』と称して本物の車を破壊したくなった事がいったい何度あった事か‥‥」)
 タイガーエースは懐旧する。数年前の、あの頃の自分。そして‥‥、金剛力増によって逞しさを増した今の彼女の肉体。
「あの日の(悪い)夢よ、もう一度」
 伝家の宝刀(?)、エースチョップ! とりあえず、実用性よりまず見栄え重視。連打連打、ひたすら連打。
「ン‥‥。夏姫から連絡が入った。撤収するぞ!」
 携帯を開いた冬弥がそういうと、獣化した破壊スタッフは早々と立ち去る。こころなしか、ハンマー金剛はふらつき気味だ。200回は無理だったようである。
 飛呂氏が最後にカメラに向け『押忍』と両腕を構え、去ると、破壊スタッフは全員撤収を完了させる。
 そうして場には、もはや車種の特定すら難しい鉄塊だけが残されたのだった。

「いや〜悪いねぇー。堪能させてもらったよ〜」
 爪楊枝を咥えながら、満腹の三原はご機嫌な様子で歩く。お会計の詳細は割愛するが、空いた皿の数が二桁であった事は報告しておこう。
「HAHAHAHAHAー!!」
「え?」
 突然の高笑い。出所は、電柱に登っている白装束から。
 夏姫を見上げてから、三原は異臭に気付く。
(「‥‥なんでエンジンオイルの匂いが?」)
 不安に駆られて、小走りで自分の車に向かう。すると‥‥。
「見ろ、車がゴミのようだ!」
 車に着陸しトドメを刺した夏姫は、冷徹な軍人のようでもあり、また、傲慢な王族のような口調で言う。
 咥えていた爪楊枝を落とす三原。悪戯にしてはあまりにも非現実的な風景のそれに、言葉を失い、また冷静な判断力を欠如してしまったようである。
「‥‥‥‥う、うわあああ!? え、何? 何これ!?」
 と、三原が錯乱気味のところに、オデッセイアABSO登場。かかっているBGMは、小林旭・往年の名曲ッ『自動車ショー歌』。演歌なのに重低音全開。ウーファーの調子は最高だ。
 ワケがわからなくなって夏姫を見てみれば、三原の眼に映ったのは、『ドッキリ!』と書かれた看板。
 ここで獣化を解いてある破壊スタッフが、拍手のもと歩み寄ってくる。
「どーも。お疲れ様でしたー!」
 パーティー用のクラッカーを鳴らし、花束を贈呈するハンマー金剛。その面は爽やかな笑顔‥‥と、赤。出血している。
「おわあ! だ、大丈夫かいキミ!?」
 頭突きし過ぎで額から出血していたハンマー金剛に、どこから取り出したかプラスチック製ヘルメットを慌てて被せる三原。
「いや、それ怪我した後に被っても意味無いだろ」
 冬弥のツッコミに周りが笑い出し、企画は無事終了したのだった。

「これ、本当にもらっちゃっていいの? っていうか、本当にもらっちゃうよ?」
「ああ、そういう企画だし。何より、あっちのセダンに乗る事はもうできねえだろうからな」
 ヘヴィに再三聞き返す三原。新車のオデッセイアABSOは純正エアロを装備し、ボディーはうっとりするほど艶が出ている。無論傷一つ無い。
 そして三原は、ピッカピカのミニバンを操縦して、家族の待つ家へ帰っていった。


 マスクを外して自己暗示をOFFにした夏姫が後日、赤面しながら収録中の非礼を詫びに行ったが、三原自身は全然気にしていなかった様子だ。むしろ、新車の事でお礼を言われたりして、夏姫は内心胸を撫で下ろした。