駄弁り場!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 はんた。
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 0.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/18〜12/22

●本文

 若者は今、混迷していると言ってよいだろう。
 増えるニート、フリーター。先行きの見えない低迷した景気‥‥。
 そんな少年少女は、今日も駄弁る場を求めて集まる! そう、ここが―


「で、タイトルここで入ります」
「‥‥スタッフの手配の方も、ちゃんと済んでいるか?」
「ええ、もちろんスよ。はい」
 ニキビ面の青年は、男に書類を渡す。それは現在、二人の前で流れている紹介VTRの番組『駄弁り場!』の企画書である。
 この番組は、これから社会に出るであろう若者(えてして学生)と、実際に働いている社会人との対話がメインの、やや教育色の強いトーク番組である。今回は、芸能界を目指す若者が集まると言う事で、受け答え側には芸能人が座ることになっていた。
(「なるほど、今度はしっかり‥‥、ん?」)
 男の目が、出演者の欄で止まる。
「‥‥おい、こいつは拙いんじゃないか?」
「そおッスか? 適任ですよ」
 そこに書かれていた人名は、『レビン・武村』。収録・私事問わず、相手をイジる彼の噂は色々聞いている。しかも、以前収録で若手の勢いに負けて「‥‥不完全燃焼気味」と楽屋で呟いていたという話も聞いている。
 確かに、社会を甘く見ているような輩には、彼の尋問はいい灸になるだろうが、将来の事を考えているが漠然とした不安を抱えている者がナジられるのは、さすがに可哀そうだ。
「たしか出演する学生って十数名だろ? こいつ一人じゃ対応しきれないかもしれないだろうから、出演者もう少し集めろ」
「了解ッス」

●今回の参加者

 fa0130 水上つばき(20歳・♀・蝙蝠)
 fa0595 エルティナ(16歳・♀・蝙蝠)
 fa0841 夕月ビリィ(21歳・♂・猫)
 fa1456 焼津甚衛(51歳・♂・鴉)
 fa1628 谷渡 初音(31歳・♀・小鳥)
 fa1718 緑川メグミ(24歳・♀・小鳥)
 fa2239 寒河江 薫(18歳・♂・鴉)
 fa2294 禁野 小竹(15歳・♀・鷹)

●リプレイ本文

「今日ってホントに、芸能人に会えるんだよね?」
「そうみたい。あ、そういえばあの人、見たことない?」
「え、私は知らなーい」
 カメラが回る前だというのに、テンションが高めの女子高生に指を刺されて、思わずギクリとする谷渡 初音(fa1628)。
「元気なのは何よりだよね。今日は何でもの答えるから、遠慮しないでね」
 そんな言葉が聞こえてきた方向を見てみれば、スーツ姿の銀髪の男。レビン・武村は爽やかな笑顔さえ浮かべて言う。
(「思った以上に、良さそうな人で‥‥」)
 聞いた噂によって、傍らに位置するレビンの発言を気にしていた初音だったが、自分の心配が杞憂に終わりそうで、ホっとしていた。その時‥‥、
「悪趣味な企画で、反吐が出る。どうせ、芸能界は我々専用の『見世物小屋の檻』だろうに」
 ボソリ。禁野 小竹(fa2294)の口から出てきた。
「今、『ワレワレセンヨウ』って言ったー? アノ人」
「そんな感じにも‥‥聞こえたかなぁ」
「え‥‥、そ、それってどういうことなんだろう?」
「さぁ、‥‥ちょっと意味深だったよな」
 思わず漏れた小言ではあるが、それは先程話していた女子高生の他にも聞こえ、若者達の不安を煽る結果となる。
「収録始まってないけど挨拶いいカナ? ドーモ。ボーカリストやってる夕月ビリィです。まだまだ出たトコの新人だケド、だからこそ皆には近い存在なんじゃないカナ。なんか、皆のオミヤゲになるようなイイコト言えればいいんだケド」
 どよめきだした周囲に、夕月ビリィ(fa0841)が爽やかな笑顔と軽い口調を以ってすかさず言葉をかける。開放的でちょっとセクシーな着こなしと胸元を数々の装飾品で飾る、中性的顔立ちの彼。知らない芸能人だけど、すかさずサインを求める女子高生。ちゃっかりしたものである。
「準備まだ出来てないのー? 待たす事って、あまり良い事じゃないわよー?」
「そうそう」
 笑いながら、ワザとらしくスタッフを急かすエルティナ(fa0595)と、それに頷くレビン。ぴたっと手を止め「え、俺まだサインの途中なんデスケド!」とビリィがこちらもまたワザとらしく怒ると、周囲から笑い声が聞こえてきた。
「そういえば、クリスマスに大規模な企画ありますよね、CMで見たんですけど」
 サイン用紙を受け取りながら女子高生が言うと、「うん、そういう企画もあるネ」とビリィはペンを指で玩びながら答える。
「楽しみにしているんですよ、アレ。国を越えてクリスマスを盛り上げるとか! あー、やることデカくて派手ですよねー」
「まぁ、そういう目立つ所だけが芸能界じゃあないんだけどね」
 何やらトキメいている彼女に、エルティナは苦笑しながら言うと、「え?」と随分頓狂な声を出す女子高生。
「そういった点も踏まえて、今日はお話しようと思うわ。皆、よろしくね」
「勿論、表舞台を目指している人もどうぞご遠慮なく‥‥ってこれは、もしかして、将来のライバルさんに力を貸す事になるのでしょうか?」
 水上つばき(fa0130)は和やかな笑顔と共に冗談めかしく喋った。
「ただ駄弁るんじゃなくて、可能性を広げる場、新しい知識を得る場になったら‥‥有意義な時間を過ごせたことになるかな‥‥」
 寒河江 薫(fa2239)は静かな口上で言葉を付け足す。そして、ちょっと騒がしくなりそうだった現場も静かになる。
 場は沈着を取り戻し、安心した初音。そんな彼女に‥‥。
「番組潰すつもりか‥‥小娘が。寝言は寝て言って欲しいものだ」
 今度聞こえてきた声は、紛れもなくレビンのもの。このボヤキは傍らの彼女にしか聞こえていないようだ。彼は相変わらず爽やかな笑顔だが、ビリィのそれと比べると、そこはかとなく‥‥作りモノっぽいような気も? 自分の懸念が、どーか杞憂で終わって欲しいと思う初音であった。


 そうして、暫くして収録が始まる。
「緑川メグミよ。メグと呼んで。舞台女優しているわ。後バイオリン奏者でもあるけどね」
 緑川メグミ(fa1718)は優美なドレスと煌びやかなダイヤに包まれた格好。女優や演奏者というより、どこかのセレブに見えてしまうその姿に、女子高生は見惚れる、と同時に羨ましさも含めて声をかけてきた。
「そんなメグさんは、やっぱりモテるんじゃないんですか? 芸能人の恋愛話聞きたいんですけどー」
 のっけから番組の意向より、どちらかというと自分の興味の範疇の話題を振る女子高生。
「そうね‥‥。初恋は近所の人‥‥素敵な人よ。相思相愛になったわ。けど親同士が再婚しあったから今では義理の兄よ‥‥」
 語尾の掠れ具合に物悲しさを汲み取った周囲は、「あちゃー」と心の中で気まずさを噛み締める。
「で、その人と今はどうなんですかー!?」
 そんな周囲の雰囲気お構いなし。『らしさ』全開で質問を続ける女子高生に‥‥、
「ハイハイ、あんまりそういう質問で困らせちゃダメだヨ。メグサンだってプライバシーがあるんだからネ。そういう質問するのは芸能リポーターだけにしてあげて!」
 メグミは一応続く解答を用意していないわけではないようだったが、それをさせるのも酷と判断し、ビリィが割って入る。やっと自分の出過ぎた行動に気付いたのか、申し訳なさそうにして引き下がる女子高生にビリィは「アリガト」という意味も含めたアイサインを送る。
「でもホント綺麗っすよね。やっぱ芸能界って儲かるんですか?」
「ああ、儲かるよ。『ちゃんと成功出来ればね』」
 メグミ、というよりメグミに身に付けられている装飾品を見ながら言った男に、レビンは敢えてストレートな言い方をする。微笑を携えたままだが、肝心な所をしっかり発音強めて言っている事から鑑みると、もうイジリ(本気)モードに入っている事が窺える。
「本気になればスグ成功できますって。デビュー半年位で売れてる芸人さんだっているでしょ。実は結構ラクショーなんじゃないすか?」
 男は若干眉間に皺を寄せて反論する。レビンはそれを見て、笑みを深くする。それは爽やかなものでは、無い。
「キミは今、何かやっているのかしら?」
「‥‥? フリーターやってますが何か?」
「‥‥そう」
 初音は職業ではなく、夢に向けて何か努力しているかを聞きたかったのだが‥‥。
 落胆する初音を見て、思わずメグミは言う。
「そうね。あなたなら確かに芸能界入りできるわ。一発屋としてね」
「一発屋‥‥て、そんなぁ〜」
「何の勉強もしなければ、それが当然の終着点。一発屋は局にとって丁度いい使い捨てなのよ。少し売れてそれでおしまい。そうなりたくなければ勉強して修行することね」
 冗談で『一発屋』と言われたと思った男はおどけた調子で言ったが、本気でそう言うメグミの言葉を聴いて、ぐうの音も出なくなった。
「努力しても無駄という事も、あるけどね」
 追い討ちをかけるレビンの口ぶりは、弱者を痛めつけるそれだ。
「もし本気の夢があるなら、そう思った瞬間からその夢に向けて何かしら動き出すものさ。今のキミは何をしている? 何をしてきた? そんな人間に掴める『成功』なんて、無いッ、あるわけが無い」
 男を完全な沈黙に至らす、レビンの口撃。彼は依然として笑顔であるが、場の空気は、重い。彼のコメントも、下手すると番組を潰しかねない威力を有している。
「ウワ、レビンサンの生イジリ! コワ〜!!」
 そんな雰囲気打開要員・ビリィ。突拍子も無くそう言って体を縮めて大袈裟に怯える仕草でおどけてみせると、周りから笑いがこぼれた
「自分をよく見つめてみて。必ず才能って潜んでいるものよ。後は辛そうタルそうと拒絶せず、いいなと思った仕事の内容をよく理解する事。スポーツだってルールを知った方が断然面白いじゃない?」
 初音が柔らかい言葉で、しめくくる。
「うーんトニカク、芸能界ってのも大変そうですね」
 女子高生の一人が(凄く大雑把に)総括した感想を言う。
「結局人を楽しませ笑わせる芸能界が『露出』してるから『面白そう』『楽して稼げそう』と思うのよね。で、逆に他の職種に魅力を感じない‥‥」
「その、他の職種についても聞きたいのですが」
「あ、私も私も」
 先程の女子高生に混じって、大学生の青年が聞いてくると、初音はエルティナにバトンタッチ。
「始めまして、私はエルティナ‥‥本業は作詞家だけど裏方のアルバイトとか色々とやっているの」
「え‥‥アルバイト、ですか?」
「そうよ。私は依頼があれば作詞活動をするけど、今は来る仕事って言っても殆どはインディーズバンドに頼まれるような仕事ばっかりで普段はアルバイトをしながら生活しているわね」
「えー、何か地味ですねー。思った以上に」
 言い方に若干の差異はあるものの、集まった若者達は皆少なからず、女子高生の言ったように思った。まさか、『芸能人』という定職にいながらも、兼業の必要があるとは。しかし、芸能生活だけで生活出来るのは、売れている者だけだ。特に、表舞台の役者達のように爆発的な人気高騰の機会は少ないエルティナのような立場の人間なら尚更。
「たしかに貴方達が夢見ているような派手な仕事は裏方にはないわ‥‥でも、私達裏方作業をする物がいなくちゃどんな芸能人だって光り輝く事はないの」
 そう、しかしながら裏方という支柱が無ければ、役者‥‥いやそれどころか舞台そのものが成り立たないのだ。
「日陰も日当たりも、どちらも『楽』だけの世界じゃあないよ。それでも『これになりたい』『諦めない』って本気で思えたら、きっとその人は本物」
「えと‥‥、薫さんは、どうして今の業界に入ろうと思ったんですか?」
「好きだから。バイオリンが好きで、弾くのが好きで。楽器に感じる一体感に背いて生きていく気には、なれなかった」
 薫の声量自体は小さいのだが、その言葉に、しばし若者達は聞き入った。
「俺は、きっかけは些細なもので十分だと思う。但し、そこから、『本物』になるには、想像を絶する苦労があるだろうけど‥‥」
 一拍置いて、「本当に頑張れるなら、追いかけてみるのも良いかも知れないね」と付け足す薫。
「そうですね。私も、やっぱり今やるべきことに躊躇して欲しくは無いです」
「そーそー。まずは始めなきゃ、今と何も変わらないよネ」
 続くつばきやビリィに後押しされてか、後ろの方に位置していた青年の一人が、ようようといった感じで口を開いた。
「僕はずっと憧れていた、カメラマンの仕事に就きたい思っています。高校卒業したら専門学校にいって勉強しようと思っています。だけど‥‥不安で」
「夢もあり、現在努力をしている人達の感じる不安はよく分か―」
「しかしいるんだよね、進学したりしても結局関係ない仕事に就く、って人」
 つばきはまだ途中だというのに、気にも留めず話し出すレビン。
「努力で全て解決できるのは週刊少年誌の主人公だけさ。センス、金銭問題、環境だって関係して―」
「でも、そこで歩みを止めたら何もならないでしょうっ?」
 今度はつばきが、お返しと言わんばかりにレビンの話を途中で折って、言い返す。先程までの柔和な様子から変化した口上に、レビンは口を一文字にする。
「それでもし例え、一つのやり方の道が閉ざされたとしても、他のやり方が残ってるかもしれない! 道は自分で作る物ですから‥‥と、若者の気持ちを代弁してみたつもりですが、どうだったでしょうか?」
 また、ふんわりとした丁寧なお姉さんに戻ってつばきは言うと、青年は無言で、しかし嬉しそうに頷いた。レビンもこれについては、これ以上言及しない。
「ん。俺はクラシックが畑だから、その分野で何か、ある? わかる範囲で答えるよ」
「あ、私、ピアニストになりたいんですけど‥‥」
 さりげなく新しい話題を振った薫に、専門学校在学中だというの女子生徒が質問する。

 そうして、その後はその職種に対する具体的な質問とその解答が交わされた。そんな真面目な話を踏まえつつも、途中、メグミの『義兄と某巨乳ADとの関係』等の秘話を挟んだりして、盛り上がりもみせる。再び沸いてきた『ラクショー組』は、メグミに加えエルティナも混じって叱責しつつも、最終的には皆の未来を応援する形で話を展開し、クリーンな雰囲気で収録が終了した。


「台詞、途中で切られましたけど、今回も不完全燃焼ですか?」
「いや、番組的にはあれはよかっただろう。別に気にしていないよ。『ラクショー組』の人間の情けない顔も拝めたし、今回はこれで、満足さ」
 ネクタイを緩めながら、楽屋で女性マネージャーと話すレビン。とりあえず遺恨はないようである。