Allstar運動会冬 客席アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
はんた。
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
易しい
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報酬 |
0.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/22〜01/26
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●本文
Allstar運動会冬 客席
雪‥‥。それは、降れば降っただけ除雪という面倒な作業をもたらす。ゆえに大人の多くは、雪が好きではないはず。
だが、子供はというとその逆で、降れば降るほど喜ぶものだ。冷たく、まるで水を帯びているようなその綿は、あらゆる形になり、また風景を容易く純白に変える。
様々な競技が計画されている『Allstar運動会』においても、そんな子供達のための席が用意されていた。
ミニバン相応の排気音を響かせて、やってくるのはオデッセイアABSO。そしてコーナーで華麗なドリフト――と思ったら、スピン寸前。ただ圧雪路面に足をとられただけのようである。
中からのっそりと出てきたのは、ビールっ腹の男。
「どーも、三原です。今度、ここ何かするって聞いたんですけど」
脚本家、三原しげあきは、近くにいた咥え煙草のスタッフに話しかける。
「近々雪上運動会があるのは知っているだろ。ここで予定されているのは、かまくら作りや子供向けの催し物‥‥、まぁ、観客席的なものになるだろうな」
「へー、子供向けの、ねぇ。つまり競技者じゃなくても運動会に参加できるってことですね」
運動会の企画は前々から聞いていた。運動が得意では無いがそういったイベントに自分も参加したかった三原にそれは朗報だった。「ま、そういう事だ」というスタッフの言葉の後に、一歩前に出て言った。
「人手、足りてます? もし良かったら僕も出たいんですけど‥‥」
彼自身、子供は好きだ。いい仕事を見つけた‥‥と、内心で満面の笑みを作っていた‥‥その時だった。
ミニバンのそれよりけたたましいエキゾーストノートを響かせて、やってきたのはRX−78RZ。こちらは本当に華麗なドリフトでコーナーを抜けてくる。
中から出てきたのは、銀髪の男。
「どうも。あ、三原さんもこんにちは。今度の運動会で、人手が足りない企画があるから頼む‥‥と事務所から言われて来たのですけど」
レビン・武村。口先に手加減を知らない、やや毒舌のきらいがあるタレント。なんとも子供をあやすのが不似合いな男が出てきたものだ。
「や、やぁレビン君。あ、ここの仕事は、キミの好みじゃないと思うんだけど‥‥」
「私もガキの使いじゃありませんから。第一仕事を好き嫌いで選びませんよ。じゃ、内容を話してください」
レビンの噂を既に幾つか聞いていた三原は、それとなく彼を遠ざけようとしたが、軽く流される。
「それでは、説明だが‥‥」
そうして、レビンにも内容の説明がなされるのだった。
●リプレイ本文
喊声‥‥そして歓声。時に怒号、時に悲鳴、時に嬌声‥‥なーんてあるかどうかはさておき、盛大な賑わいをみせるAllstar運動会冬。各種目、白熱した展開を見せる中‥‥、
「何か作り終わった後には色々食べれるみたいだし、はりきるヨ♪」
外したピアスをポケットにしまいながら、嶺雅(fa1514)が言うと、
「そうだね、蜜柑とかも‥‥」
傍らに、寒河江 薫(fa2239)。スタッフ用の手袋に帽子、マフラー、防寒服をこしらえて、華奢とも言えるその細身は随分太くなっている。
「これは、なかなか重装備になっているな。なんていうか〜、重くない?」
「俺‥‥寒いの駄目なんだ‥‥」
両者、白く中性的な面であるが、なんとなく、薫のそれはより蒼白に見える。
「‥‥で、俺、かまくらって見るのもはじめてなんだけど。どうやって作るんだろ?」
「かまくらってのは――」
「そう、両方! あ、使える? うん、うん、いやいいよ。あたしが取り行くから。はい‥‥じゃあヨロシク!」
説明しようとした嶺雅の言葉を遮るほどの元気な声の主はラシア・エルミナール(fa1376)。彼女は携帯電話を顔から外すと、スタッフの集まるテントの方へ向かっていった。
「二人ともー、今回使う道具色々出すから手伝ってー」
聞こえてきた進藤翼(fa2677)の声の方を見てみれば、既にメンバーが準備にかかっていた。二人はそちらに向かう。
そこでは、キャブオーバー形状の車体から海斗(fa1773)がソリを引っ張り出していた。
「‥‥これは?」
「ああ、これは雪運び用のソリだよ」
海斗がそう言うものの、イマイチしっくりこない薫。
「あー、薫はどうやら今回が初めてみたいなんだ、かまくら作り」
「かまくらってのは簡単に言うと、雪で作るドーム上の建物ですよ。雪だけど、中は結構暖かいらしいですね」
アルミスコップを肩にかけながら紅牙 竜鬼也(fa1885)が説明すると、ぽんと拳を掌に当て薫は頷く。
「‥‥なるほど、つまりは積雪を用いた建造物」
「そうですね。だから結構使いますよ、体力」
言って翼がニカっと笑ってみせるも、薫の表情は晴れない。
(「俺‥‥下手な女の子より非力なんだけど」)
「本当に、綺麗な雪景色。雪遊びに、雪だるまに、すべり台作ったり‥‥あー、早く遊びたいな!」
「かまくらは田舎でもよく作ったけど、なんだか久しぶりだなぁ」
アンニュイなオ〜ラを漂わせる薫を他所に、テンションを上げている二人は、犬神・かぐや(fa0522)と、麻倉 千尋(fa1406)。かぐやにいたっては、興奮を治めきれず、その辺を駆け回る程のはしゃぎっぷり。
と、そんな一同の耳に、聞こえてきたのは、ミニバンの排気音。止まったそれから、下りてくる二人は、何やら言葉を交わしながらこちらに歩いてくる。
「いやー、ABSってイイですよね。おかげで今日、6ッ回は衝突事故防げましたね。しかも一昔前と違って、ABSはもう大衆的な装備になった。ああ、本当に私達はいい時代に生まれましたね」
「そ、そうだね、はははは――ごめん、気をつけるよ。‥‥あ、あれが今回同じ企画に出る人達じゃないかな?」
助手席から降りた、いたぶる様な口上で話す銀髪の男と、運転席から出てきた苦笑いの大男は、出演者一同の姿を見つけると、指差しながら近付いてきた。
「キミ達が、今回の企画一緒にする人達だよね? どーも、ご一緒する三原しげあきです」
「同じく、レビン・武村って者だけど、どうか宜しくね」
出演者も揃い、純白との戯れが幕を開ける。
「まずはこーやって、建てる位置に線を引いて‥‥」
「この調子なら、結構デカイ奴が作れそうだね。余力次第で、他にも色々作れるんじゃないかな」
集まった子供達に千尋は手順を教えながら、かまくらを一から作っていく。出演者の多くがかまくら制作側にいる事もあって、ラシアは考えを膨らませる。
(「ちょ、既にきついんだけど‥‥」)
こっそり千尋の説明に聞き耳を立てながら手伝っている薫には、余力などもう無いわけだが。
「あ、おねーさん。ここ手伝ってー」
唐突に言い出した子供。かぐやもラシアも、千尋さえ近くにいない。一体誰に? 女性スタッフは、誰もいない‥‥と、きょろきょろ見渡していたのは嶺雅だった。
「おねーさん手伝ってよー。これ、僕一人じゃ重いんだ」
辻褄の合わない会話に、嶺雅の頭の中でハテナマークが渦巻き中。
「もういい! こっちのおねーさんに頼むから!」
そう言って薫の方へ少年が向かった事により、ようやく頭の中の『?』が消えた。
(「間違えたのは子供だからかな。ま、別にコンプレックスがあるわけでもないから気にしないけどね」)
己の面容の中性さを再認識すると、これもまた中性的な声で謝りながら、少年の手伝いを買って出た。
「ん、なんだい? それは」
「皆に似せた雪だるま作っているの。ほら、武村さんのも!」
屈みこんで、何やら必死の様子なかぐやにレビンは問うと、彼女は屈託の無い笑顔と声で返してきた。
かぐやの作っているそれは小さめな物で、芸術的な一品‥‥というわけでもないが、特徴を掴んでいて微笑ましい物であった。
「いい出来していると思うよ、かぐや君」
「本当? 凄く嬉しい!」
「ちょっと私も手伝ってみていいかな? かぐや君みたいに上手く出来るかはわからないが」
「うん、じゃあ一緒に作ろっ。 あ、そうだ、滑り台作ってみてもいい?」
「ああ、いいんじゃないかな、面白そうだね」
滑り台制作許可が出ると、大喜びで雪へとダイブするかぐや。苦笑しながら、そんな彼女が起き上がるために手を差し出すレビン
かぐやの作った雪だるまの物珍しさにつられてか、ぽつぽつと人が集まりだし、それなりの人数を以って滑り台が作られていく。場所がかまくら作りの所と隣接していた所為もあるだろう。
「子供達も集まりだしたし、何だか楽しくなってきたね」
(「絶対何か‥‥あるような気が、する」)
かぐやをはじめとする、少年少女達に、爽やかな笑顔を振りまくレビン。あまりにも人がいい態度に、以前彼の本性(?)を垣間見た薫が、そこはかとなく怪しむ。
その確証は、聞こえてきた三原の声の方向に目を向ける事によって、得ることが出来た。
「ちょ、ちょっとタイ――む!?」
熊の姿に獣化している三原は雪球の集中砲火を受けている。ちなみに、三原の他にも、的役はいるのだが、完全獣化しているのは彼だけ。好奇心の塊である子供達の、格好の的である。
「みんな、ちょっと待って!」
そんな渦中に声をかけたのは海斗だった。彼の声を聞くと、不思議と手を休めて海斗の方を見つめる。
(「あまりの惨状に、見かねて制止してくれたのかぁ。キミは何て優しい子なんだ‥‥」)
三原が胸中を感涙によって濡らしている、そんな時。
「みんな、いい? こうして軽く握ってね‥‥」
(「え? ‥‥ちょ、海斗君?」)
明るい口調で彼は雪を多めに集め、それは海斗の両手の中で球体を成し。
「思いっきり投げてぶつける」
ばぐしゃあ!
「ぬぉわー!!」
明るい口調そのままで、それを思いっきり三原に投げつけてみせる海斗。
「これが当った時に雪球が綺麗に弾けるコツだよ♪ みんな、わかったかなー?」
「「「はーいっ!!」」」
「うそーーーー!?!?」
そうして戦況は悪化した! 射撃部隊には指揮官・海斗が加勢し、炸裂弾が容赦なく三原に振り注ぐことになる!
そんな激戦区の事情などお構いなし‥‥というか関わらないようにして、レビンはかぐややその周りの子供達と、作り終えた小高い滑り台を堪能していた。
「ちゃんと形をキレイに整えないとね」
「やっぱり見栄えは大事って事? いやー、カメラマンとしてはそうしてもらえると凄く助かりますね」
「見栄えも大事だけど、耐久性にも響いてくるから‥‥って、翼さん? いつの間にスコップからカメラに持ち替えていたの?」
風下に入り口を作り、形を整えている千尋に向けられるカメラは翼の物。気がつけば彼の行動は、力仕事から写真撮影にシフトしていた。彼のカメラには、モグラさながらの勢いの穴掘り姿な千尋や、無邪気な子供達の笑顔が収められている。
「にしても‥‥何だかんだで立派な物になったなぁ。もう仕上げ段階じゃん」
「田舎では、よく作っていたからね!」
ラシアの賛辞に、腰に手を当て誇らしげにする千尋。
「あ、でも何か足りないような‥‥あ、そうだ、空気穴っ」
「ああ! き、強度が‥‥!」
と、若干の悶着はあるものの、かまくらはそれなりにしっかりした物が完成しつつある。人数がいたおかげで、数個ものかまくらが並んでいる。
ラシアがスタッフと打ち合わせた結果、電気コタツやカセットコンロは借りることが出来た。それでも、一応雰囲気ということで茣蓙は敷いてある。
その頃、戦況は新たな局面を迎えようとした。
「‥‥も、もう無理」
各位の奮戦によって、ついに攻撃対象、三原しげあきの撃退に成功した。しかし、雪球を握った無垢なるソルジャー達には、まだ士気が漲っている。その眼は、次なる敵を探している。そして‥‥。
「えー! こっち向かってきちゃったよーー!!」
逃げ惑うかぐやとレビン!
「ちょっとー、かぐやさーん。的役だから、一応当たらないとー‥‥ぅぐわ!」
余所見していた竜鬼也に容赦なく掃射される、数多の雪球。数の暴力は、撤退も反撃も許さないのだ!
「中に何か入れたりきつく握って固い雪球作っちゃダメだからね?」
海斗は一応、的役を気遣って言うが、もうそーいう問題じゃない量の雪球が放り込まれている。辛くも逃げ延びたかぐやは、壮絶な風景に身を震わせている。
かまくらの中で雑煮を作るためのカセットコンロを用意中だったラシアも、思わず目を剥いて言葉をもらした。
「すごいなーアレ。もしかして、再起不能じゃないか?」
「ま、『子供は風の子』というくらいだから、大丈夫じゃないかな」
ラシアの隣に、いつの間にか座しているレビン。かぐや見捨てて戦線離脱してきやがった!
「あんたいつの間にッ」
(「‥‥どうでもいいけど、俺もこたつに入りたい。か、かまくらって、わりと温かいって聞いたんだけど。‥‥寒い」)
今さっきレビンに空席割り込みされたせいで、こたつに入りたくとも入れない薫。表情一つ変えずにいるが、内心では寒さにその身を震わせている。なかなか気持ちを言葉に出来ない性格は、時として損なものである‥‥と、ゆーことで、とりあえずスタッフから毛布を借りて、寒さを凌いでみる。
一方。
「おねーさん、もっと続けて〜」
「(だからお姉さんじゃないっつーの)じゃあ、ま、アンコールに応えるとするかな」
嶺雅のいるかまくらでは、子供達に童謡が歌われていた。千尋の作ったお汁粉も振舞われたりと、なかなか好評のようだ。
「あー、寒かったぁ。僕も暖まらせてー」
かまくらの中に、一戦終えた竜鬼也も入ってくる。
「じゃ、今度はみんなも一緒に歌ってみよー♪」
千尋が言うと、一様に声を揃えて頷く子供達。かくしてそこに、小さな合唱団が編成されたのだった。
「いけいけーぃ!」
「うわ、危ない!」
「ファイトー!」
「頑張れ赤組ー!」
「負けるなー、白組!」
目の前で繰り広げられる、様々な競技。激戦、名シーンの連続であるそれらは、見る者を漏れなく惹きつけた。
そうして時間が流れ、太陽の明かりが落ちてくると、アイスキャンドルの灯り際立ってくる。氷のランプシェードの中で揺れる火は、幻想的な景色を演出した。発案者である海斗も、目の前の風景に思わず溜息をもらす。
「じゃ、集合写真撮るよー。集まってくださーい」
翼のカメラによってその空間は裁断され、保存され、そして一枚の写真として具現化される。それは、目にした競技に勝るとも劣らない思い出となるのだった。
「いやー何事もなく、無事に終わったッスね〜」
「そうだな。さて、片付けも抜かりなく、だ」
もうあらかたの観客が帰った会場で、スタッフ達はテントやマイクなどの機器を撤収していた。
ずずずず。
「なんだアレ?」
そんな番組スタッフに、なんか毛布の塊っぽいモノが近付いてきた。
「‥‥毛布貸してくれてどうもありがとうございました」
ひょこっと中から顔を出したのは薫だった。‥‥鼻声である。
「いや、それやるから早く帰って寝ろ」
(「‥‥ところで、みんな」)
撤収も終わった会場で、雪の塊が動いた。
(「僕の事、忘れてない?」)
雪に埋もれたまま放置プレイな三原が其処に。まぁ、それでも後日、元気な顔でスタジオに出向いたのだから、随分頑丈なものだ。
若干一名の風邪患者と行方不明者(でも忘れられたけど)が出たものの、特に目立った問題も起きる事無く、Allstar運動会冬・観客席サイドは無事終了した。