旧正月、中華料理巡り!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
はんた。
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/30〜02/03
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●本文
「‥‥し、しまった。僕とした事が」
自分の迂闊さに悔やむ男、三原しげあきは脚本家である。しかし脚本家である以前に、中華料理好きの大食漢である。自他認めるそれは彼のプライドであり、またアイデンティティでもあった。
そんな彼が悔恨の情に駆られた理由は、新聞のテレビ欄にあった。
●旧正月 ●春節祭
彼は雑煮を食べおせち料理を堪能し正月を過ごして油断しきっていた。そう、過ぎたのは日本の正月。中国では旧暦によって節句を祝うので、正月はまさにこれからなのである。
「春節祭‥‥。中国のおせち料理を食べそびれた‥‥」
つまり三原は、折角のご馳走堪能の口実をみすみす逃してしまったのである!
「‥‥いや、まだ遅くない! 今からでも遅くは無いはずだ!」
自分にそう言い聞かせて自慢のミニバンに乗り込むと、大急ぎで(でも法定速度内)でスタジオに向かう三原であった。
「知ってます? 中国のお正月はこれからなんですよ。町では賑やかな催し物が、二月の頭くらいまであるみたいで」
「‥‥知っているが何か?」
番組制作に携わる男性スタッフに、笑顔で歩み寄る三原。男は、三原が言わんとしている事がなんとなーく分かりつつも、とりあえずこちらから言わずに様子を見る。
「催しといえば料理! というわけで、中華料理巡りの番組なんてやる予定ありません?」
「あるけど、お前は呼ばん」
「えええぇぇ!!」
三原の進言、一発却下。
「お前は脚本家だろ。それより、ドラマの次回の脚本書き上げてくれ」
ごもっともである。異論を唱える事が出来ず歯軋りする三原。
思考思考思考思考思考。
どうにかして、食べそびれた中華料理にありつける方法はないものか‥‥。
そうして、閃いた最終手段!
「‥‥じつは次回、中華街で夕食シーンがあるんですよ」
「何!?」
「僕は場末の中華料理店なら言ったことがあるのですが、本格的な所といったらなかなか‥‥。ここでもし中華街(と中華料理)巡りが出来たら、原稿作成の為の資料もゲット出来て番組も出来て一石二鳥かな、と」
「‥‥」
出た、最終手段、職権乱用! まぁ、彼が脚本担当するドラマは本当に、次に中華街が舞台なのだが‥‥それが本当に中華街を巡らないと書けないか、といわれたら、非常に苦しいところだ。
「‥‥どうです?」
しかし彼の目は訴えかける「中華料理巡りさせてくれないと、脚本書かん!」と。
弱気な彼は、実は内心びくびくしてもいるのだが‥‥。
「‥‥ま、いいだろう。その代わり、ちゃんとレポートしてくれよ」
三原しげあき、大のオトナが中華街食べ歩き許可に本気で満面の笑顔
「ありがとうございます! もう、任せてくださいッ、とりあえずおいしそうに食べる顔なら誰にも負けません」
「いや、ちゃんとレポートしろよ‥‥」
やっぱこいつ食いたいだけじゃないのか? と一抹の不安に駆られたスタッフの男は、増援を計画した。
●リプレイ本文
「皆さん、実は中国では旧暦によって佳節を祝うのが主流だというのは、ご存知ですか? 実は旧暦で言うと一月の末が正月になります。そして二月の初旬まで祝うそれを『春節』と言います。そう、まさに今が春節の真っ最中なのです」
「しかも今年は、中国が十数年ぶりに爆竹の使用を解禁‥‥よって中国の春節は大盛り上がり。この中華街も本場中国に比例して、例年のそれより賑わっているような感じがします」
まずは旧正月の説明をするのは笑顔をカメラに向ける二人、横田新子(fa0402)と紅雪(fa0607)だ。中華街の企画と言う事で紅雪の身を飾るのはチャイナドレス。
収録前、参加者から「服装は、全員が中華風の衣装で揃えても、華があるのでは?」という意見も出たが‥‥新子の服は普段とほぼ変わりないもの。理由を聞くのは、野暮だ。どうしても理由を知りたいのなら、新子の体格と紅雪のスリットを交互に見て、その後は各個の責任で判断しちゃってほしい。
「というわけで、賑わう通りの中華街を巡っていくメンバーを紹介です!」
兎にも角にも、出演者の紹介。
「いやー。どうも、三原です。今回は中華料理がお腹一杯食べられるという事で。張り切っていこうと思います」
「食べる事だけに集中しないでよ、三原さん」
「そうそう、ちゃんとレポートして番組として成立するようにしないとな」
「も、勿論だよっ」
体型が既に食いしん坊万歳な三原しげあきに、瀬名 優月(fa2820)と氷咲 華唯(fa0142)が一応、釘を刺しておく。
「美味しい物をお腹一杯食べられるのは幸せなことっすね」
「そうですね。美味しいものは万国共通でしょうし」
しみじみという伝ノ助(fa0430)と、ポーランド出身の歌手、ノイエ・リーテ(fa2817)。言いつつ、伝ノ助は周囲賑わいの各々を好機の目で見渡し、またノイエは自国の繁華街ともまた違うこの通りの異文化に触れていた。二人に、一角 砂凪(fa0213)は相槌を打つ。
「えーっと、これで皆集まっ‥‥アレ? 一人たりなくない?」
三原が言い終えたその瞬間、高笑いが響く。
「お〜っほっほっほ! ご機嫌麗しゅう、皆さん? わたくしのリアクションで素晴らしい番組にしてさしあげますわ!」
繰り広げられている龍踊りをバックにトール・エル(fa0406)が現れる。その龍踊りに合わせ紅雪が胡弓を演奏すると、ノイエも歌いだして一層雰囲気を醸し出す。これなんていうビップ?
「ま、美味しそうな顔だったら、僕がいれば心配無用だよ」
「仕事で中華料理が食べられるなんて幸せ♪ さなぎもおいしそうに食べる顔には自信ありますよ〜」
三原と砂凪は、歩いてきたトールに言う。砂凪は大丈夫そうだが、三原の眼は既に食欲によって淀んだそれなので、違う意味での心配がある。
「さて皆さん揃ったところで出発しましょう。お食事が私を呼んで‥‥、違いました、料理をしっかりと紹介していきましょー」
ここにも食欲を持て余す人が一人。新子がぽろっと本音を吐露しつつも、一同の中華街料理店巡りが始まった。
「美味しいけど、猫舌の人は注意が必要かな。これは」
「蟹玉炒飯にあんかけが乗ったものですね。ちょっと熱いのでヤケドしない様に、気をつけてくださいね」
華唯は感想に脚色しようとしない。強い思い入れや卓越した演技力があるわけでなければ、ありのままを伝える方が、自然だろう。傍らの紅雪はレンゲでそれを掬い、息を吹きかけると、
「はい。これでもう大丈夫ですよ?」
「あ、ああ。そこまでしなくても大丈夫‥‥でもまぁ、ありがとう‥‥」
料理を冷ますが、逆に華唯の頬を熱してしまう。そんな彼の様子に紅雪は首を傾げる。華唯は差し出されたそれを断るのも失礼と思い、紅潮しつつも冷まされた蟹玉炒飯を頂く。
「福建系といわれている長崎新中華街を除けば、日本の中華街はその多くが広東系と言われています。このお店も類に漏れず、様々な広東料理が並んでいます」
「でも、蟹玉炒飯みたいな結構身近? な料理もあったりするから、意外と気軽に入れそうっすね」
紹介を喋る新子と伝ノ助は、事前にネット等で中華の店情報や一般を調べておいたので、とりあえずはそれなり現状で苦労はしていない。苦労は寧ろ別。
「このお饅頭にような料理は小龍包と言います。食べ方の一つとして‥‥まず小さく切られた生姜に黒酢を付けて、それを――」
「あー、ごちそうさま。うん美味しかった」
「‥‥三原さん。説明手順無視して食べないで」
優月は嘆息を漏らしながら三原を諫める。三原は「いやーごめんごめん」と言いつつ、既に二個目に箸を伸ばしている。優月、更に深い嘆息。
「でも、サイズも一口に収まる位だし、ここの小龍包は中身のバリエーション豊富だから、女性にもオススメできるかも〜」
「そうですね。手頃な大きさなので、とても食べやすい一品ですよね」
砂凪が嬉しそうにそれを頬張り、小雪はレンゲに乗せ上品に食べる。やはり三原のように次々と腹に格納していく作業風景より、彼女らのような食事風景の方が、美味しさを見る者に鮮明に伝えることが出来るだろう。
違う意味でオイシイ事している者もいるが。
「ちょ、三原さん食べ過ぎッ。‥‥よーっし、あっしも負けてらんないっすよー!!」
「三原さんも伝ノ助さんも、そんな勢いで食べられて羨ま――じゃなくて、喉を詰まらせますよ」
新子が語尾を言い終える頃には小龍包は見事に伝ノ助の喉に詰まり、ドリフもかくやと言わんばかりのコントを披露してくれた。
「‥‥では、次のお店へ。あ、通りをご覧ください」
(「敢えてスルーなんて。見事なナレーターっぷりね、新子さん!」)
トールが感心している背後では、三原がもっと食べたい旨をアピールしているがそこは華唯ノイエが心を鬼にして強制連行。優月が一礼して、一同全員は店から出る。
「ご覧ください、この豊富な食品の数々を」
「うわー、本当に沢山並んでいるねぇ」
歓声をあげる三原。新子の向ける左手の先には、食材店。吊るされた豚のようなわかり易いものから、得体の知れないモノまで。‥‥とにかく色々。
「あら、これは何かしら? 何か、随分黒いような?」
トールは少しだけ見えた見慣れないそれを持ち上げる。
「ああ、それは蠍ですね」
「サ‥‥さそり!?」
紅雪の言葉が耳に入ると、手からポロっとそれを落とすトール。
「広東料理の特記するべき点の一つに、使用する食材の多様性が挙げられます。『飛ぶものは飛行機以外、四つ足は机以外、泳ぐものは潜水艦以外』と言われるほど、様々なものを料理に使うんですよ」
「へぇ〜、蠍まで調理しちゃうなんて凄いなぁ。でも、美味しいんだったら‥‥ちょっと食べてみたいかも」
新子の解説に砂凪は頷きながら、陳列されている蠍を見る。これが料理になるのだから、不思議。
「ん。少し遠くだが‥‥あこでもやっているな、龍踊り」
呟いた華唯の瞳には、まるで生きているかのような躍動を見せる龍踊りが映っている。同じくそれに見惚れていた優月は、はっ、と、何かに気付いたかのように龍踊りの方へチャイナドレスをはためかせながら走る。
「あれ、私達が挑戦してるみってのも、面白くないかしら?」
彼女が振り返りながら言ったその時、突如龍踊りは連携を崩して、動きを止める。関係者が急ぎ足で集まってくる。
「んー、知人から聞いた話でしかないんだけど、アレ、見た目以上に難しいらしいよ。なかなか調子を合わせられなくて苦労するって。‥‥ま、じゃあそういうことで、早く次の店に行かない?」
と、促す三原。多分龍踊りの難易度云々以上に、早く中華料理食べたいだけだな、と一同は気付きつつも、次の店へ!
「(どうしよ、新子さん。三原さん、まだまだマージン残しまくりっすよ。彼のキャパシティは、常人のそれを圧倒的に上回っているっす)」
「(私もそれ位に食べたい――じゃなくて、ホントどうしようかな。口頭で制止出来れば苦労しないのですが‥‥)」
「二人とも、どうしたの? 早く次のオススメ店に案内してー」
「「はいはーい!」」
伝ノ助、新子は小声で作戦会議中だった。小龍包を十数個程胃に搭載してもいまだ余裕綽々の三原の食欲に、メンバーの誰もが少なからず危機感を抱いている。彼がもし100パーセント中の100パーセントを開放したら、ノンストップで食べ続けるなんていう暴挙に出るかも‥‥そうなったら流石に番組として芳しくない。
「(お二人とも、大体この辺りの料理店情報は掌握しています?)」
作戦会議に、ノイエが首を突っ込んできた。伝ノ助は問いに対して首を縦に振る。
「(ちょっと案、思いつきました。ある意味諸刃なのですが、ええーっとですね‥‥)」
「三人して、何話しているの?」
なかなか来ない三人に三原が尋ねると、
「これから行く店を打ち合わせてやした」
「さ、それでは参りましょうか。三原さん、どうぞこちらへ」
伝ノ助と新子が促しながら、三原を店に連れ込んだ。
「ところでここは、何のお店かしら?」
ナレーターも司会も既に入店してそこにいないので、代わりにノイエが優月の質問に応えた。
「こちらのお店の名前は、激辛亭といいます。四川料理の専門店です。使用している香辛料は、契約した農家によって作られる、厳選されたものを用いているんですよ」
「げ、激辛‥‥」
愚直とも言える程ストレートなネーミングのそれに、動揺を隠し切れない優月。
「みぎゃぁぁぁぁぁあああああ!」
「‥‥なんだこの悲鳴は」
大体予想が付かないことも無いが、一応確認しに店に入り「やっぱり‥‥」と、予想通りの風景に溜息をつく華唯。
見てみれば、三原が口を押さえながら、悶絶している。どうやら香辛料効きまくった料理を、一気にかき込んだようだ。
「‥‥で、なんでお前まで悶えているんだ?」
「か、辛いっす‥‥。でも癖になる辛さとはこういうのなのでしょうか」
と言いつつ結局箸を止めない伝ノ助。結局食べるんだ、キミは。
「うーん、いかにも辛そうな色の料理だね。でも、少しずつ食べれば大丈夫かな?」
早速席に付いた砂凪は小皿で、赤々とした麻婆豆腐を取るためにターンテーブルに手を触れる。
「あ、砂凪さんっ。ちょっとタンマっす!」
「え?」
テーブルを左に回わそうとしていた砂凪を止める伝ノ助。ハイ、ここでテロップ!
●中華料理におけるマナーの一例
・ターンテーブルは右回しが基本
・ターンテーブルに食べ終わった下げ皿を乗せない
・器は持ち上げない(器を持ち上げる食文化は日本のみ)
・スープの器に口をつけて飲まない
「ということでやんす」
「へぇ〜‥‥。はーい、今度から気をつけまーす」
後学のためにも彼女はそれを真面目に聞き、そして改めてターンテーブルに手をかける。そしてちゃんと右回しで。
「‥‥これは何ですの?」
目の前に廻ってきた料理を訊ねるトール。『干焼明蝦』と書いてあるが何の事やら。紅雪曰くそれは「ガンシャオミンシャア」と読む、車海老のチリソースだとのこと。
「なるほど、エビチリって言えば御馴染みの料理だな」
そう言う華唯とトールはそれを皿に盛る。それもなかなか辛そうな色だったので、二人とも控えめな量で口にもってゆく。
「ん、見た目通り辛いけど、海老の旨みで――」
「このスパイシーな香辛料が演出する力強さと、美しささえ覚える海老の甘さが相成って口の中で広がる美味しさは、まさに天を飛翔する龍を彷彿とさせますわ!」
華唯の語尾を擦れさせる程の口上で述べられる、トールの好評。若干誇張表現なようにも受けられるが、嫌味は感じないので問題ないだろう。
本当に感銘を受けたのか、トールはその美味しさを踊りで表現すると言い、席を立った。
軽やかなステップと躍動感あふれる振り付けに、紅雪の胡弓が足され更にリズムを得て、ノイエの透き通るような歌声が重なれば、即興とは思えない優雅なショーとなった。
「だ、誰か、飲み物を‥‥!」
そんな舞を見れない、見る余裕のない三原。流石の食欲も、舌に残る強烈な灼熱感には勝てないようだ。
「はい、三原さんッ飲み物! とりあえずその辺にあった物を適当に持ってきたよ!」
「あ、ありがとう‥‥! 〜〜〜〜〜〜〜!!」
再び苦悶する三原。首を傾げる砂凪に紅雪が問う。
「砂凪さん、それ、何ですか?」
「えーっと、カタカナでしか書いていないんけど‥‥サンラータン、だって」
「それを漢字で書くと『酸辛湯』となります。酸っぱさと辛さを併せ持つ四川料理のスープです」
更にとろみもあったりします、と付け足した紅雪。
「そ、そうなんだぁ。あ、あはははは‥‥三原さん、大丈夫?」
とりあえず、今度はちゃんと水を汲んでくる砂凪。
そうこうしているうちに、時間だ。
「というわけで、春節のお祭りに賑わう中華街の様子は如何だったでしょうか。尚、正月という事で中国ではお年玉もこの頃です。というわけで番組から視聴者の皆様にプレゼントです。これまで紹介したお店のお食事券を‥‥」
優月発案の視聴者プレゼントの内容とハガキのあて先のテロップを解説しつつ、ちゃっかり杏仁豆腐を堪能している新子。ずっと食事を我慢していた彼女だったが、周りがあれだけ勢い良く食べていたのだ。しかも目の前に好物の甘い物が来たので、ついつい(躊躇無く)その器とスプーンを取ってしまったのだ。
と、いうわけで撮影は無事終了。隣国の異文化の一端に接しながら、最後は一同、好きな物を頼んでしっかりそれをご馳走になって帰ったとの事。