戦いを求めて南北アメリカ
種類 |
ショート
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担当 |
はんた。
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや難
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報酬 |
なし
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/14〜04/16
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●本文
ある者はスポットライトの元、ある者は舞台の外から、エンターテイメントを世に送り出すため日々芸能活動に勤しんでいる存在‥‥獣人。それぞれがそれぞれの場で才能を光らせ、この業界の住民として渡り歩いていっている。
『隠れ家』としての芸能界。しかし今ではそれを第一に、それを生きがいにしている人も少なくない。
だが、中には大きな『力』を有している者もいる。それのために生きている者もいる。
大きな『力』を持つ者で、それを解放させたくない者など、いない。程度に差はあれど、それらは皆、自分の能力をなんの気兼ねも無く発揮できる機会を窺っている。
『力』は、平等ではない。望まぬ者には与えられない。求めるからこそ、それが得られる。だからこそ、それを行使したい。理由さえあれば、今すぐにでも。
WEAの息がかかっていて一般人は立ち入る事の出来ない‥‥そんな場所があるという。それは人目に付かない山奥。そこには何も無い。だだっ広いだけのそれは天然の闘技場。
そこに集い、行われる事はただ一つ。殴り合い。WEAが、己の敷く戒律に背く者が出てきた場合を想定して、対獣人の経験を積める場所を提供しているんだとか‥‥いないとか。噂については詳しく知らない。
とにかくそこは、闘争本能を解き放てる場として存在していた。
噂に聞く試合場。スポットライトも喝采も報酬も無い‥‥そんな地へ足を向ける時、帰路につくまでその獣人は一時的に肩書きを変える。
芸能人から、闘士に。
●リプレイ本文
何も無い。そこはまことに、何もない。だから当然、得るものは何もない。
ならば躊躇わず、拳を握れ。
Awai・Sigure VS Beowulf
「日頃のストレス、此処で発散させて貰うよ?」
「負けても泣くんじゃねぇぜ、嬢ちゃん」
 ̄ ̄Are you ready?__ ――Go!!
猫の野生を半身に宿し、その場でステップを踏む沫依 時雨(fa3299)。軽い足取りからは、相応の機動力が予想される。
時雨と同じく、半獣化を済ませているベオウルフ(fa3425)はじりじりと間合いを詰めていた。半歩づつ、半歩つづ‥‥そして大きな一歩! 同時に放たれるミドルキック。
爪先は、時雨のいない空間を斬った。回避した時雨が既に側面で拳を構えている。全身の毛が逆立つのを、ベオウルフは実感出来た。
ミドルを放っていた足を地に付けると瞬時に軸足を変え、左の回し蹴り。
突如迫る脚に、時雨は本能的ともいえる反応で大きく跳ぶ。直撃は免れたものの、肩に赤い擦り傷が出来ている。
バックステップの着地姿勢、屈んだ様な状態の時雨に間髪入れずにベオウルフが接近する。そのままローをかませば勿論足の甲は顔面へ直行だ。
だが、そこで不自然な『間』が僅かに発生する。
一瞬生じた間隙に立ち上がった時雨は、その手の爪を伸ばす。『爪』使用制限は六分。
ベオウルフは上段に構え、振りかぶられた彼の腕からストレートが今まさに時雨に放り込まれようとしている。拳の軌道を注視する時雨。鋭利な刃と化した時雨の爪でそれを受ければ相手にダメージを与えられるだろうし、かわして懐に潜り込めば、カウンターでその身を抉ることも出来よう。
だが、眼前の拳が急停止をしたのに気付いたのと同時に、腿に痛覚を覚える。打ち付けられた、ベオウルフの足の甲。ローキック――フェイントを交えたローキックだった。
格闘の技術そのものは、ベオウルフの方が上だ。再び同じ箇所に迫るロー。紙一重で時雨は繰り返されるそれらをかわしてゆく。直撃はしていないものの、時々それらは時雨の身を掠るのであながち無駄撃ちでも無いと思うベオウルフ。
(「えーと、何はともあれ‥‥まずは機動力を削いでギブアップさせる戦法で‥‥」)
「っョし、そろそろ‥‥飛ばしていくよ!」
「――あ?」
べオウルフのキックが、避けられる。今までに無く大きく――今までに無く迅く。
「もらった!」
耳に彼女の叫びが聞こえた瞬間、既に一つのシルエットが肉薄していた。伸びる、白爪‥‥斬撃!
か細い猫手は、逞しい狼の手にがっちり掴まれていた。
時雨の腕をおさえながら、ベオウルフは口を開く。
「‥‥ギブアップだ」
二つの爪先には赤い点が生じており、点から下に向けて、線が引かれる。あとは時雨が手首を少し返せば、彼の腹を掻き、首の血管に爪を進入させるだろう。
「おやおや、それでも君は戦闘種族の狼なのかい? か弱い猫をまだ倒せないなんてね」
(「ま、女のコ相手にして悩みながらやっても勝てるわけないか。真剣勝負なんだし」)
Asagi・Kazanagi VS Sentarou・Daigo
「宜しくお願いしまーす♪ 頭ひとつ分違うのかー‥‥。正面突破は辛いかな」
「オレが‥‥相手になろう」
 ̄ ̄Are you ready?__ ――Go!!
両者、半獣化を済ます。
まずは奇襲に対する警戒。一定の間合いをとり、見入るように相手の出方を窺う風和・浅黄(fa1719)。今対面している相手‥‥醍醐・千太郎(fa2748)。重心を落とし、太い両手が前に構えられその身を守れば、さながら難攻不落の要塞さえ連想させる。
先手は浅黄のロー。牽制の意味合いが強いそれは深く踏み込んだものではないが、それはまがりなりにも竜獣人の蹴り。ダメージが蓄積しないわけではない。
ヒットの瞬間、タックルに出ようとした千太郎。その踏み込む一歩を、冴え渡る浅黄の視覚が捉える。反射的にバックステップを踏めば、再び一定の間合いが出来る。
続く下段攻撃。千太郎の構えは、段々と蹲るように低くなる。それと逆に、鋭さを増す浅黄のロー、ロー、ロー‥‥低空タックル! 風切る巨躯に、驚愕の表情の浅黄。
攻め手は突如の交代を強いられた。千太郎は両腕でガードした姿勢のまま、ローキックに突っ込む形で体当たりを敢行したのだ。
迫る千太郎の姿を捉えた。しかし、眼に体の反応が追いつかない。
捉えられた! が、瞬間、浅黄は無理に払おうとはせず、より一層接近する。お互いの吐息を確認し合える程の距離だ。
そこから浅黄は上半身だけ捻り、肘鉄を千太郎の顎に見舞う。
脳が揺らぐ、感覚。脳が、昏倒へと誘惑する。倒れ‥‥苦痛からの開放‥‥いつの間にか快楽が手招きしている。抗う術は、精神力のみ‥‥。
抗った!
一瞬生じた隙に抜け出そうとしていた浅黄を、千太郎は地に叩きつける。浅黄にとっては、強く打った肩以上に、手痛い現状‥‥マウントポジション。
上から殴打、殴打、殴打。今までのお返しと言わんばかりに千太郎は殴り続ける。ガードを続ける浅黄だが、段々とそれも限界を迎えそうだ。
大きく拳を上げる千太郎。彼の筋肉が一回り肥大したのが見える。金剛力増‥‥こんな状態のマウントパンチなど、制限時間の六分を待つまでも無く倒れてしまう。
もうすぐに振り下ろされるであろう、拳。それまでに、それまでに生じた僅かな時間で、脱出する。さもなくば、もう‥‥。
「大丈夫か?」
軍配は、千太郎に上がっていた。
治療を受けている浅黄に、声をかける千太郎。無骨な面持ちのままではあるが、心配そうに彼を見る。
「WEAの方々のおかげで、まぁなんとか‥‥。あー、そんな顔しないで下さい。これはお互いの全力の結果ってことで!」
激戦の後とは思えないくらい、浅黄の笑顔は涼しく、朗らかなものだった。
Masakazu・Date VS Radial
「相手は、あんたかッッ」
「‥‥‥‥」
 ̄ ̄Are you ready?__ ――Go!!
ブレスを警戒していたラディアル(fa2917)の目に映ったのは、角だった。その身を貫かんとしている、鋭き角。
半獣鳥人は、背に己の身体より一回りか大きい翼を現すと、宙へ羽ばたく。半獣の竜人である伊達正和(fa0463)も両翼を広げると、それを追う。
羽ばたき、加速すると、正和は弓矢もかくやと言わんばかりの角突撃を繰り出す。
それが矢だとするならば、ラディアルは弾丸の如き、だろうか。
目にも留まらぬ動きで正和の攻撃をかわすと、そこに翼による加速を威力に加えたラディアルの拳打が放り込まれる。
脇腹の痛みに歯を食いしばりながらも、正和は反撃する。しかし踏ん張りの利かない、ましてや慣れない空中では腰の入ったパンチは繰り出せない。ラディアルはそれに対して、若干身を引いてのガードをしただけで事足りた。
ラディアルの踵が、正和を墜落させる。土埃を膨らませたそれに、ラディアルは急降下する。
目の追いつかない、鷹の姿。こんな相手に、熟練したわけでもないディフェンス・テクニックが如何程役に立つものか。つーか俺は声優、相手はプロボクサー。でも、やらんよりましか!
様々な思考が一瞬のうちに正和の頭の中を駆け巡る。それらが処置し終わる前に、鷹の拳は繰り出されていた。
最小限の、首の動き。ラディアルのフックは正和の頬にめり込む。上出来だ、テンプルに貰うはずだったそれを逸らせただけでも。おかげで、まだ意識がある。
格闘技術も機動力も身長も、ラディアルが正和より上回っている。となれば残されるのは‥‥。
「うううらぁぁああッ!!」
ラディアルの筋肉と骨が、悲鳴をあげる。抱きつくようにして正和が仕掛けるのは鯖折り。膝を付かせる相撲の決まり手のそれではなく、背骨の破壊を目的とした鯖折りだ。
正和に残された活路は、体力勝負だけなのだ。
不慣れな蹴りや頭突きで必死にもがくラディアル。両腕も纏めて締めつめられているこの状態で、ボクサーの彼が出来る事はそれくらいだ。
しかし正和も余裕と言うわけではない。既に彼には少なくない量のダメージが蓄積している。
ここで前述の誤りを訂正する。これは体力勝負ではない。気力の勝負。お互い意地の張り合い。我慢比べ。
やがて、幕引きが見えてくる。抵抗に耐え切れず、正和が鯖折りを解いたのだ。
瞬間、迫るのは下から顎にくる右アッパー。しっかり腰が入っていて、重い。やっぱり相手はプロボクサーだ‥‥、痛覚、鋭い感覚であるはずのそれが、やがて鈍く‥‥曖昧になってゆく。
そして緞帳が下ろされた。
Thomas・backs VS Hammer・Kongou
「KOかギブアップまで続ける‥‥私はギブアップしないケドね」
「命の取り合いになるかもしれませんが‥‥承知しました」
 ̄ ̄Are you ready?__ ――Go!!
人狼が、風を切る。右に左に、素早く。それでいて不規則、されど正確!
完全獣化を果たしたトーマス・バックス(fa1827)は接近と同時に腕を伸ばす。待ち構えるのは、獅子。同じく完全獣化のハンマー・金剛(fa2074)。
筋骨隆々とした獅子の獣人は、ガードの腕を上げる。迫るトーマスの右を悠々と受け――
「ッ!?」
何故か、足指から痛みが走る。勢い良く間合いを詰めたトーマスの足の裏が、ハンマー金剛のそれを踏みつけていたのだ。
今度の痛みは、顔面。自然とガードが下ったハンマー金剛の頬に、惚れ惚れするほど綺麗な右フックが入った。
「ダラダラと時間をかける気はッ無イ!」
喉、鳩尾、レバー。ハンマー金剛に対し、人体の急所と言われるところに、可能な限りの連打。終盤の畳み掛けのような、凄まじい勢いでトーマスは殴り続ける。その台詞通り、時間をかけるつもりは無い‥‥いや、かけることが出来ないのだ。ハンマー金剛の体力は、トーマスのそれを圧倒的に上回っている。長期戦になればなるほど、トーマスの勝率は下ってゆく。
命中、命中、命中命中命中。拳打の嵐を繰り出し、トーマスは一気に勝利への階段を登る。下ってゆく、ハンマー金剛の体勢。このまま一気に、あともう少し‥‥あともう少し! 後もう少しで頂へ着く。すなわち、‥‥勝利へ。
だが、頂はまだまだ遠い事を、トーマスは身を以って知る事になる。
低い姿勢は、今まさに爆発的な跳躍力で突進してきたタックルの、踏ん張りの為だった。
顎を引いた低空突撃で砲弾と化したハンマー金剛に、上からトーマスが握り拳を打ちつける。勢い止まる気配無し。今度は両手の掌底で、相手の耳を思いっきり叩く! 勢いが弱まった気がしないでもないが、依然タックル止まる気配無し。吹っ飛ばされ、地面に背を強く打つトーマス。
急いで立ち上が――る前に、ドテっ腹にハンマー金剛の足が叩き込まれる。無作法なサッカーボールキックは、無慈悲にトーマスの意識を蝕んでいった。気を抜けば途絶えてしまいそうな意識の中で、トーマスは思う。何でこんな力が残っているのか、なんで――ハンマー金剛の体を見て、すぐに自らの問いに答えを見出した。
(「そういえば獅子の獣人には‥‥獣毛やら霊包神衣なんて能力が、あるンだ‥‥っけか」)
ボクサーとしては不本意だが、トーマスは脚で地面スレスレを薙ぐ。足払いに体勢を崩されたハンマー金剛は、相手を逃がしてしまう‥‥が、すぐに追撃する。
トーマスを襲う、獅子の爪。足を限界まで酷使して、それを避けると同時に空いた脇腹を突く。間髪入れずに、テンプル、喉。ここなら、獣毛でカバーも出来まい。ハンマー金剛の顔が、トーマスに向く。好機、相手の顔上唇の上、人中に拳を叩き込む。更に顎へ。更に―――
トーマスの思考が、止まった。爪を伸ばしたハンマー金剛の斬撃によって、止められた。まるで、体から漏れ出した赤に意識を持っていかれたようだった。
至急WEAの回復要員が駆けつける‥‥と同時に、ハンマー金剛の膝が地面につく。彼とて、あれほどの打撃を受けて、平気なわけが無かった。
握り拳。開けてみても何も無い。当たり前だ。固く握られたそれに、何か入る道理があるか。
相手を倒すための握り拳。その手に、決して得られるものはない。
だが‥‥。
開いていた手に再び力を込めて、握り拳。今は、その力強さを感じるだけで、十分だった。
そして、闘士達は芸能界へ帰っていった。