新春ドラマSPアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 初瀬川梟
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 01/13〜01/17

●本文

〜ドラマ『心に降る雪』キャスト募集〜

●メインキャスト
・鈴谷理緒(17)‥‥受験を間近に控えた高校三年生の女の子。明るくて負けず嫌い。
・前村亮(19)‥‥自元の大学に通う、理緒の恋人。優しく温厚。
・羽田猛(18)‥‥理緒のクラスメート。根は優しいが、ぶっきらぼうな態度のため誤解されやすい。

●ストーリー
 理緒は2年前から、ひとつ学年が上の亮と付き合っていた。
 昨年、亮は地元の大学に無事合格。その後も交際は続いている。そして理緒は亮と同じ大学に進学すると決めていた。
 が、理緒はそれほど勉強が得意ではない。
 亮に時々教えてもらっているのだが、彼も最近授業が忙しいらしく、あまり頻繁には会えない。
 そんな時、理緒は愛犬レオの散歩中に偶然クラスメートの猛と出会う。いつもはぶっきらぼうで冷たい感じのする猛だが、彼は実は動物が大好きで、レオの前では普段とはまったく違う無邪気な笑顔を見せた。それをきっかけにして、理緒は猛から勉強を教わるようになる。
 負けず嫌いな理緒と歯に衣着せない猛は、互いにぶつかり合いながらも、次第に仲を深めていった。

 そのうち理緒は、自分の心が揺らいでいることに気付く。
 亮に会っても、上手く笑えない。
 猛から勉強を教わっていることも、何となく言い出せない。
 別にやましいことなんかないはずなのに‥‥
 そんな理緒の変化に気付きつつも、温厚な亮はわけを尋ねることができずにいた。

 そして、ついに年の瀬。
 いよいよあと少しでセンター試験だ。
 最後の追い込みに入らなければいけないのに、どうしても集中できない理緒。そんな彼女の元に2通のメールが届いた。

『一緒に初詣に行って合格祈願しよう』

 それは亮と猛からの、ほぼ同じ内容のメールだった。
 果たして理緒の選ぶ道は――?

●今回の参加者

 fa0201 藤川 静十郎(20歳・♂・一角獣)
 fa0443 鳥羽京一郎(27歳・♂・狼)
 fa0814 水月夜(16歳・♀・狐)
 fa0911 鷹見 仁(17歳・♂・鷹)
 fa1276 玖條 響(18歳・♂・竜)
 fa1385 リネット・ハウンド(25歳・♀・狼)
 fa1679 葉月竜緒(20歳・♀・竜)
 fa2543 結城 始(16歳・♂・獅子)

●リプレイ本文

−CAST−
・鈴谷理緒‥‥水月夜(fa0814)
・羽田猛‥‥結城 始(fa2543)
・前村亮‥‥玖條 響(fa1276)
・氷室千耶‥‥藤川 静十郎(fa0201)
・山野辺涼子‥‥葉月竜緒(fa1679)
・鈴谷愛理‥‥リネット・ハウンド(fa1385)
・征矢英臣‥‥鳥羽京一郎(fa0443)
・監督/鷹屋陣‥‥鷹見 仁(fa0911)


 愛犬レオの散歩中に偶然クラスメートの猛と出会った理緒。
 普段は愛想もなく、とっつきにくい印象の強い猛だが、実は動物が大好きという意外な一面もあった。
 子供のように無邪気にレオと遊ぶ猛‥‥そのことをきっかけにして2人は会話を交わすようになり、それが縁で、理緒は猛に勉強を教えてもらうことになった。
 しかし勉強を教える時の猛は、レオと遊んでいる時とは別人のように厳しく、とにかく問題点があれば容赦なく指摘した。
「この程度の問題も解けないなら諦めたほうがいいな」
「そこまで言わなくてもいいじゃない」
「嘘を言ってる暇はない。このくらいは自分でできるようになってもらわないと困る」
 挑発するような猛の言い方にムッとして、理緒は躍起になって問題と向き合った。言われっぱなしは悔しいし、何より、できなければ理緒自身が困るのだ。
「分かんないよ〜‥‥」
「自分で考えろ!」
 冷たく突き放すようなことを言う猛だが、それでも理緒を見捨てて帰ろうとはしない。自分だって大切な時期なのに、何だかんだ言いつつ結局は付き合ってくれている。
(「言葉はキツイけど‥‥でも、本当は優しいんだよね」)
 そう考えて、理緒は少し落ち着かない気分になった。胸の奥に芽生え始めた気持ち‥‥それを振り払うために、理緒はとにかく勉強に打ち込むことにした。
 そんな理緒を見て、猛は猛でこんなことを考える。
(「こんなに必死になるんだから、よほど大事な目的があるんだろうな‥‥」)
 その目的が何なのか気にならないではないが、敢えて訊こうとはしなかった。自分は頼まれて勉強に付き合っているだけであって、目的が何であろうと関係ない‥‥そう自身に言い聞かせて。


 一方その頃。
「最近理緒ちゃんの話を聞かないが、ちゃんと会ってるのか?」
 親友の千耶に突っ込まれて、亮は苦笑を浮かべた。
「授業のほうが忙しくて、なかなか‥‥。でも連絡は取ってるから大丈夫」
「忙しいって‥‥お前な」
 それほど深刻そうではない亮を見て、千耶は思わず溜め息を零した。亮は昔から夢見がちなところがあり、会わなくても想いは途切れないと信じているらしい。
「信じる心は御立派だが、理緒ちゃんは大事な時期なんだ。もう少し考えてやれ」
 最後にぽつりと付け足した「俺に言われるようじゃ終わりだがな」という言葉の意味は、亮にはよく分からなかったようだ。彼は、今度はにっこりと笑って答えた。
「そうだね、何とか時間を作ってみることにするよ。ありがとう、千耶」
「‥‥どういたしまして」
 次の授業の教室へ向かう亮の背中を、千耶は複雑な表情で見送った。
 秘めた想いは、今も胸の内にある。
「まったく‥‥あの子を悲しませるようなことだけはするなよ‥‥?」


 久々に亮から電話がかかってきたのに会話が弾まなくて、理緒は自分でも戸惑っていた。
(「変だな、猛といる時はこんなじゃないのに‥‥」)
 そう考えて、ますます居心地が悪くなる。
『元気ないけど‥‥受験勉強で疲れてるの?』
「‥‥そうかも」
 気のない返事。それを「かなり参っているのだろう」と解釈し、亮は深く追求しようとはしなかった。
『もう少しだから頑張って。近いうちにまた勉強みてあげるよ。予定がはっきりしたらまた連絡するから』
「うん‥‥」
 少し前までは亮に会えるのが嬉しくて仕方がなかったのに、今は心が晴れない。
 元気のない理緒を心配して、姉の愛理が声を掛けてきた。
「理緒、具合でも悪いの?」
 姉に相談してみようか‥‥そうも思ったけれど、8年間も離れ離れに暮らしていた妹に突然恋の相談なんかされても困るだろうと思って、結局は言えなかった。
 そして彼女は迷った挙句、親友の涼子に相談してみることにした。涼子は少々不良っぽいところもあるが、理緒にとっては頼れる姉貴分のような存在だ。しかし、
「私、猛君に勉強教えてもらってるんだよね」
 と理緒の口から告げられた時、涼子は内心どきりとしていた。彼女にとってもまた、猛は気になる存在だったのだ。それを理緒には悟られないよう、できるだけ平常心を装って答える。
「猛? あの愛想のないやつかい?」
「うん‥‥でも動物好きで、意外と優しいところもあるんだ」
「‥‥もしかして気になってる、とか?」
「そうみたい‥‥。私には亮がいるのにさ、どうしたらいいと思う〜?」
 わざと冗談めかして笑う理緒だが、それが精一杯の強がりであることは、涼子には分かっていた。
 本当なら理緒はライバルだが、大切な親友でもある。だから涼子は自分の想いを閉じ込めたまま、こう言った。
「理緒、あたしはあんたの事が一番大事だし、心配だよ。自分の気持ちに正直になるといい‥‥後悔するような生き方だけはするんじゃないよ」
 果たして亮を選ぶのか、猛を選ぶのか、それは理緒次第だ。ただ、どちらを選ぶにせよ、理緒には幸せになって欲しいと涼子は願っている。そのためならば自らの想いを諦めることも厭わない。
(「損な役回りだね‥‥。でもあんたが幸せなら、あたしはそれでいい」)
 内心で苦笑しながらも、涼子は親友をそっと見守っていた。


 猛もまた、迷っていた。
 最近は自分の勉強もそこそこに、理緒に付きっ切りだ。何故自分がそこまでするのか、自分でも分からない‥‥いや、気付かないふりをしているだけなのかもしれない。
「お前、最近ちっと変だな。もしかしてコイをしているのかな?」
 親友の陣にからかわれて、猛はむすっと黙り込む。
「お、図星?」
「うるさいな、席に戻れよ」
 邪険な言い方だが、陣は猛のそういう態度には慣れているので、さらりと受け流す。
「らしくねぇぜ? うじうじ悩むくらいなら当たって砕けろ‥‥ってか、とっとと玉砕しろ」
「‥‥最後のは余計だ」
 あまりにも単刀直入な陣の言葉に、猛は思わず苦笑してしまった。さばさばとしたその態度は、変に気を遣われるよりも快い。ようやく元の調子に戻った猛を見て、陣もにやりと笑った。
「ま、せいぜい頑張れよ」


 そして、いよいよ2学期最後の日がやって来た。
「成績は上がったけど、志望校までは一寸足りないねぇ。もう一頑張りというところかな」
 愛用の万年筆で成績表をチェックしながら、担任の征矢が告げる。
 焦る理緒の心を落ち着かせるように、ゆったりと流れるクラシックの音楽。征矢は穏やかな微笑を浮かべ、優しく言い聞かせた。
「センター試験も間近だからね。冬休み、大事だと思うよ。家で集中できないようなら、図書館とかを使うのもいいんじゃないかな」
「はい‥‥頑張ってみます」
「鈴谷くんは努力家だし、最後の最後で底力を出せるよ。ラストスパート、気を抜かないようにね」
 音楽教師というだけあって、征矢の声には心に染み入るような不思議な響きがある。彼の言葉に励まされて、理緒は音楽準備室を後にした。
「どうだった?」
 廊下で待っていた猛に声を掛けられ、理緒は気丈に笑う。
「‥‥まだ時間はあるし、最後まで諦めないよ」
「そうか‥‥明日、図書館で特訓でもするか?」
 征矢にも図書館の利用を勧められたばかりだったので、理緒は猛の好意に素直に甘えることにした。
 この時はまさか、亮からも同じ誘いが入るとは思わなかったのだ。
「ごめん‥‥今は勉強に集中したいから」
 一緒に図書館に行こうという亮の誘いを、理緒は断った。
 先に約束をしたのは猛だからというのもあるが、今は亮に会う勇気はなかった。会えばきっと動揺してしまう。そうしたらきっと勉強なんか手につかなくなる‥‥それが怖い。
『‥‥一番大事な時期だものね。俺は応援するくらいしかできないけど、頑張って』
 優しい亮の言葉が痛くて、理緒は別れの挨拶もそこそこに、逃げるように電話を切ってしまった。
「私‥‥亮よりも猛のほうが好きなのかな」
 ぽつりと呟いてみたが、いくら考えても明確な答えは見つからなかった。


 誘いは断られてしまったが、どのみち自分も用があったので、亮は千耶と共に図書館を訪れていた。
 しかし、そこには――見知らぬ少年と共に参考書を手に取る理緒の姿があった。
 理緒のほうも亮の存在に気付いたらしく、驚きと困惑とが入り混じった表情のまま硬直してしまっている。
「どちらさんだ?」
「‥‥ひとつ上の先輩」
 理緒はこう答えたが、ただの先輩でないことは、彼女の様子を見れば明らかだった。
 千耶のほうも何となく状況を察し、何も言えずに立ち尽くす亮に代わって助け舟を出す。
「久々だな、理緒ちゃん。今日は友達と勉強会?」
「は、はい」
「羽田猛です」
 礼儀正しく一礼する猛。理緒との関係については、敢えて何も言わない。
 いや、言わないのではなく‥‥言えなかった。自分でもよく分からなかったのだ。
 クラスメート? 友達? それとも‥‥
「ほら亮、ぼーっとしてないで行くぞ。勉強の邪魔したいのか?」
 猛の思考は、千耶の声によって遮られた。ふと顔を上げると、亮が千耶に腕を掴まれ、半ば引きずられるようにして去ってゆくのが見える。
「‥‥俺たちも行こう」
 理緒は黙って頷いたが、こんなことがあった後では勉強に身が入るはずもなく‥‥結局ほとんど成果が上がらないまま、2人は図書館を後にしたのだった。


「だから言ったろ、『もう少し考えてやれ』とな」
 やや呆れたような千耶の言葉に、亮は何も言えず俯く。しかし、
「理緒ちゃんを疑う訳じゃないが、お前が淋しい思いをさせているなら――俺も遠慮はせんぞ?」
 と真顔で言われ、さすがに慌てて反論した。
「遠慮しないってどういう意味だ? 俺‥‥いくら千耶でも、理緒だけは譲れないからな」
「‥‥冗談を真に受けるな、阿呆。そう思うのなら、本気で愛想尽かされる前に何とかするんだな」
 素っ気なく言って、くるりと踵を返す千耶。亮はその背に向かって「ありがとう」と呟いたが、千耶は振り向くことなく、そのまま去っていった。


 それから、あっという間に大晦日が訪れた。
 年が明ければ、いよいよセンター試験。それなのに、理緒は勉強に集中できない日々が続いていた。
 その様子を見て、元気がないのは勉強のせいだけではないのではと心配になり、愛理は口下手ながらも妹にアドバイスを送った。
「高校も中退して、家出までして、どうしようもない姉だなって理緒は思うかもしれないけど‥‥でも私は自分の選んだ道を後悔はしてないの。やれるだけのことはやったから、今も満足してる。だから理緒も、後悔だけはしないように頑張って」
 涼子にも同じことを言われたのを思い出し、理緒はその言葉の意味について考えた。
 後悔しないために必要なこと‥‥それは、自分の気持ちをはっきりさせること。自分が本当に望んでいることは何なのか、それを見極めなければならない。でもそれができなくて、理緒はこうして悩んでいるのだ。
 自分の本当の気持ち‥‥
 そう考えている時に、メールの着信音が鳴り響いた。
 受信したメールは2件、差出人は亮と猛――奇しくも、内容は2通ともほぼ同じだった。

『一緒に初詣に行って合格祈願しよう』

 その文面を見た瞬間、理緒は自分が何のために今まで必死に勉強してきたのかを唐突に思い出した。
 合格‥‥そう、亮と同じ大学に合格して一緒に通うためではないか。
(「なんで今まで忘れてたんだろう‥‥こんなに頑張ってきたのも、全部亮のためだったのに‥‥」)
 会えない時間が続いたせいで、目的を見失ってしまっていた。
 心に降り積もった雪が、気持ちを覆い隠してしまっていた。
 本当はずっと寂しかったのに、その想いを素直に伝えられず、不安ばかり募って‥‥だからこそ、猛と共に過ごす時間は心地好かった。安心できた。そのことに気付いた時、理緒の瞳からは涙が零れ落ちた。
「‥‥ごめんね、猛‥‥私、ずっと酷いことしてた‥‥」
 猛に抱いた淡い想いが、決して偽りだったわけではない。それでも、やはり理緒にとって一番大切なのは亮だった。
 人を好きになるというのは理屈ではないからこそ、時に悲しみを生み出してしまう。
 そして、何もかも手に入れることなど、決してできないのだ。
 だから、理緒は泣きながらメールを打った。
 想いを断ち切るために。そして、想いを伝えるために。


「今さら勝手な事言うけど、会えなくて寂しかった‥‥」
「そうだよね‥‥離れていたって平気だって勝手に思い込んで、理緒の気持ちを置き去りにしてた‥‥。これからはもっと我侭言ってくれていいから」
「うん‥‥」
 お互いの想いを確かめ合い、共に合格を祈る理緒と亮。
 一度は途切れかけた2人の絆は、今こうして再び固く結びついた。


 その陰で、想いを諦めた人もいる。
 想いが叶わなかった人もいる。
 そのすべてを包み込むように、雪は静かに降り積もる。
 小さな想いの芽も雪に埋もれ、今は冷たい眠りについているけれど、やがて春の訪れと共に再び命の輝きを取り戻すはず。
 だから猛は、遠くからそっと理緒に別れを告げた。


「‥‥さよなら」