ユビキリゲンマンアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
葉月十一
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
2.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
10/24〜11/02
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●本文
――ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたらはーりせんぼん、のーます‥‥。
誰でも一度はやったことあるだろう、約束のための他愛のない行為。その大半は些細な口約束が殆どだ。
けれど。
仮にその約束が、本人にとってはとても大切なものだとしたら?
その誓いが破られたとき、破った者に訪れるのは果たして‥‥。
「絶対だよ」
「ああ、絶対」
「約束ね」
「うん。約束だよ」
「――僕ら、離れ離れになっても友達だよね」
「うん」
子供達の声が響くのは、誰もいない小学校の校舎。
廃校が決まり、明日からばらばらになる彼ら彼女らが、最後にということで思い出の校舎に集まったのだ。懐かしい思い出に浸りながら、子供達は『約束』を口にする。
「毎年、この日に会おうよ」
「うん」
小指を差し出し、子供達はお決まりの言葉。
ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたらはーりせんぼん、のーます。
「ゆーび切った!」
静まり返った校舎に、元気な声が響き渡る。
そうして、子供達はそれぞれに帰っていった。来年また会えるという期待を胸に。
だが、結局彼らは再会を果たすことはなかった。
何故ならば。
一年後、学校は長雨により発生した土石流に飲み込まれたのだから。『約束』を信じ、一人で学校へ向かった少年を巻き込んで。
――それから、数年後。
彼らは、再び一同に会することになる。
きっかけは、同じく『約束』を交わした一人の死の報せ。小指を切り取られ、口の中には無数の針が詰められた状態で殺されていたという。
‥‥はーりせんぼん、のーます‥‥ゆーびきった――。
■■■ 主な配役 ■■■
・約束を交わした子供達:同じ村で育った幼馴染達。
・一人学校へ向かった少年:少し引っ込み思案な少年。
他、任意に。
●リプレイ本文
‥‥約束だよ。
‥‥うん、約束。僕ら、ずっと友達だよね。
‥‥ああ、友達だ。
‥‥また、ここで会おうね――。
●発端――亜子
「どうして‥‥」
弟の遺影の前で、あたしはいまだ茫然とするだけだった。
どうして?
どうしてあの子が死ななきゃならなかったの?
ただ友達に会いに行っただけなのに。『友達に会いに行く』って凄く嬉しそうだったのに。
「ノブ‥‥」
声にハッと振り向く。
弟の幼馴染みの子供達。年は離れてたけど、あたしもよく知っている子達だ。
誰の顔も青ざめてて、その中でリーダー格だった少年‥‥ショウくんが一歩前に出る。彼の手には、弟の好きだった百合の花束。
それが目に入った途端、あたしは思わず爆発した。
「どうして? どうしてあの子が死ななければならなかったの? あの子が廃校に行ったのは、貴方達に会うためよね!」
泣き叫ぶ。
だけど彼らは視線を逸らす。
どうして?
「ねえ、どうしてあの子だけが死んだの? どうして貴方達は生きてるの? どうしてあの子だけが!!」
「あ、あの日は‥‥だって‥‥凄い土砂降り、だったし‥‥」
顔を伏せたまま光ちゃんが呟く言い訳を、あたしは大声で遮った。
「――貴方達のせいであの子は亡くなったのよぉっ!!」
そして。
あたしは、そのまま泣き崩れた。
●第一の被害者――宇井木
カタカタカタ‥‥キーボードの音だけ響くオフィス。
私は、由比美紀。三流オカルト雑誌で記者だ。世間で起きる不思議な事件を、呪いや祟りにまつわる記事とするのが私の仕事。
と言っても、私自身そんなの信じてないけれどね。だってその方が雑誌が売れるんだし。
そんな私だったが、先日とても信じられないような事件と遭遇して以来、すっかり考えが変わってしまった。
それは、ある少年の変死事件から始まった――。
◇
――う、うそだろ?!
俺は目の前にいるヤツが信じられなかった。だってお前、死んじゃった筈だろ?
「な、なんで‥‥」
恐怖に震えながら、俺はこれ以上はないってぐらいに後ずさった。ガタン、と机が背中に当たる。
ハッと振り返れば、付けっぱなしのパソコンのモニターが目に入る。そこに表示されているのは、さっき偶然見つけたとある少年の死のニュースソース。
その名前に見覚えがあるのは当然だ。
だって、そいつは俺が田舎にいた時の幼馴染みで‥‥今、目の前にいるんだ。
「お、お前‥‥死んじゃった筈だろ! なんで」
『――約束、守ってくれなかったね』
「しょ、しょうがないよ! だって折角田舎が潰れて都会に出てこれたんだよ! すっごく嬉しかったんだから」
叫んでも、ヤツの姿が消えない。悲しそうに俺を見ているんだ。
俺は誰かに助けを求めようと、メールを打とうとキーボードに手を伸ばし‥‥すぐ後ろに感じた気配に体が固まった。
『――これで宇井木くんと一緒だね』
「ひぃぃ――ッッ!」
悲鳴は、塞がれた。口に埋め込まれた大量の針によって。
俺は最後の力を振り絞って、メールを送信した。
ただ一言。
『ノブ』とだけを打ち込んで。
●恐怖の連鎖――早瀬光
怖い怖い怖い怖いこわいこわいコワイコワイ‥‥。
押入れの中。
私は目を閉じて耳を塞ぎ、ただじっと蹲っていた。
最初、宇井木君が死んだって聞かされて私はドキッとした。その後、次々と同じ田舎の友達が死んじゃったって聞いて、いてもたってもいられなくてショウ君に連絡してみたの。
だっておかしいもの。死んだのは全員、あの時に約束をした人達ばかり。
「偶然だよ、偶然」
ショウ君はそう言って笑い飛ばしてた。
だけど、続く事件に誰かがノブ君の祟りじゃないかって言った時、彼、すごく悲しそうな顔だったね。それも当然よね、だってあんなに仲が良かったもの。
「‥‥アイツが‥‥ノブがこんなことするワケないじゃないか」
でもね、ショウ君。
多分。
今度ばかりは。
あなたが間違ってると思うの。
だって――彼、今、ワタシノメノマエニイルンダモノ‥‥。
『――光さん、見ぃつけたぁ』
小指が、痛いの。
ねえ、私。
何が間違っていたの‥‥?
●祀られていたモノ――???
私が猟奇事件を取材するうち、辿り着いたのはとある村での土石流事件。一人の少年を巻き込んだそれは、少年のいた校舎だけでなく、校庭にあった小さな祠さえも押し流してしまった。
その話を聞いた時には、オカルト雑誌にピッタシ、と私は喜んだのだが――。
◇
‥‥私が、いつから私としてそこにいたのか、私は知らない。
ただ私は、随分長い間眠りの中にあり、最近になって何故か目を覚ましてしまったということだけで。。
しばらく一人佇んでいた私は、不意に気付きました。一人淋しく震えている少年を。
それに触れた時、私もまた淋しいという感情を思い出してきました。
彼の感情は私の感情。
彼の記憶は私の記憶。
彼の無念は私の無念。
だから私は、彼の為に彼の欲するものを与えましょう。もう二度と彼が――私が淋しくならないように。
そして私は、彼の為に彼を邪魔するものを排しましょう。もう一度彼が――私が自由でいられるように。
●続く悲劇――早瀬光二
光の身体を抱き起こした時、それが酷く軽かったことを俺の腕は覚えている。
『助けて』
ああ、なんてことだ。
あの子は、ずっと助けを求めていたのに。俺は冗談のようにはぐらかしてしまった。
今でも耳に残る、妹の声。
それだけが俺の心に復讐の炎を宿す。
「妹さん、生き埋めになった少年との仲はどうだったの?」
事件を調べて回る記者がやってきて、そんなことを聞いてきた。
生き埋め? なんのことだ?
俺はわけがわからず首を捻る。
だが、通夜に来ていた妹の幼馴染みのショウは違ったんだろう。そんな質問をした彼女に対し、激昂するように叫んでいた。
「ふざけんなッ! ノブが恨んでるワケないだろ!」
――ノブ。
そうか、キミが‥‥ノブか。
ぬかるんだ地面の中、俺は見つけたそれを手にしたままその場に立ち尽くす。遠くから聞こえるのは、地滑りのような濁流の音。
「悪い、光。俺は‥‥」
お前の仇すら取れなかったみたいだ。
直後、俺は決壊した土石流の中に飲み込まれていった。
●最後の一人――白水ショウ
「――ノブ、来たぜ!」
あの時は来られなかった『約束の日』。
僕は流された校舎跡にやってきていた。つい先日も土石流が起こった事もあり、地面全体はまだぬかるみ状態だ。
そして、その土石流でもまた、光さんのお兄さんが亡くなった。僕は結局、誰一人救えなかった。宇井木も、光さんも、他のみんなも‥‥ノブも。
直後、僕の背後に気配を感じた。懐かしい友達の気配。
「ノ――」
「来てくれたんだね、ショウくん。これでまたみんな一緒だね」
もの凄い力で押し倒され、僕は恐怖に震えた。
駄目だ、ここで負けたら駄目だ。挫ける心を必死に奮い立たせ、僕は小さな缶箱を目の前に突き出した。
「違うだろ、ノブ。‥‥何やってんだよ。お前がしたかったのは、こんな事じゃないだろ?」
光二さんが亡くなった時に握り締めていた缶箱。
それは紛れもなくあの日、ノブが土砂降りの中持ってきた物。ノブの姉さんに確認したら、すがり付いて泣きじゃくってた。
『あの子があの日、出る時に持っていったものよ』
その中にあったのは、こいつの宝物の数々。それぞれに僕達の名前が書かれていたのは、きっと。
「あの日、僕達に渡したかったんだよな? だから、これを見つけて欲しかったんだろ?」
お前がみんなを恨むなんて、僕は信じちゃいない。
だってお前は、誰よりも優しかったんだから。
「約束、破っちまってゴメンよ。遅くなったけど‥‥」
●約束――ノブ
「――これからは毎年ここに来る。約束するよ。僕ら、友達だもんな」
ショウくんが目の前で笑ってる。僕の手が今にも首を絞め殺そうと手をかけているのに。
どうして?
どうしてそんな風に笑えるの?
彼の手には、僕が大事にしていた宝物箱。泥だらけになりながらも、それぞれに僕が書いた友達の名前が残ってる。
ああ、そうか。そうだったんだ。僕は。
『‥‥ゴメンね‥‥』
「ノブ!」
『ありがとう、ショウくん』
そして、もう一人の僕にも。
振り向いて、そこに見つけた彼女の姿に、僕はただ笑顔を向けた。
大丈夫。僕はもう、誰も恨んでなんかないから。ショウくんが思い出させてくれたんだよ。
だから。
『あなたも一緒に、行こう』
僕が手を差し出すと、その人は僕の手を握り返してきた。
そして、もう一度僕は振り返り――。
『――ばいばい、ショウくん』
◇
‥‥以上が、私が関わった事件の全てである。
勿論、彼らの死は変死扱いのままで、この記事を雑誌に載せる事で何らかの反響があるのは間違いないだろう。
だけど――。
「こんなの、記事になんて出来るわけないじゃない」
私はキーボードを打つ手を止め、小さく息を吐いた。
呪い、祟り、そんなのが本当にあるなんてビックリしたけど、それ以上に驚いたのは人の想いの強さに他ならない。
例え子供でも。
どんな他愛ない約束でも。
「‥‥信じるってのは難しいよね〜」
だから私は、ここに全てを記した後、これらの記事を封印する。
真相を誰の目にも触れさせないこと。それがこの事件に関わった私自身が出来る、彼らへの最大の供養だと思うから。
――――――記者:由比美紀。
●キャスト
白水ショウ:タブラ・ラサ(fa3802)
ノブ:武田信希(fa3571)
宇井木:ウィルフレッド(fa4286)
早瀬光:ヒカル・ランスロット(fa4882)
早瀬光二:七瀬・聖夜(fa1610)
亜子:白井 木槿(fa1689)
由比美紀:由比美紀(fa1771)
???:雪城かおる(fa4940)