光と闇の黙示録/第一章アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 葉月十一
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/26〜06/01

●本文

 ――Befor A few years――
「‥‥ッ、ここは――」
 意識を取り戻した俺は、ぼんやりとする視界の中でゆっくり体を起こした。
 そうして考える事、数秒‥‥自分に何が起きたのかようやく思い出し、慌てて周囲を見渡した。
「み、皆は――ッ!?」
 叫んだ声が無情に響くが、誰の声も返ってこない。焦る思考が今までの事を走馬灯のように思い返す。
 新たに発見された遺跡の報。調査隊が編成され、俺はその一員として抜擢された。
 そして、場所へ向かう途中に巻き込まれた砂嵐。視界すらも閉ざされ、息苦しさから意識を失い――――。
 ‥‥ちょっと待て。
「ここは一体、どこなんだ?」
 何故すぐ気付かなかったのか?
 外で砂嵐に巻き込まれた自分が、どうしてこんな場所にいる? こんな立派な祭壇とも呼べる建築物の中に。
「まさか‥‥ここが‥‥」
 新しく発見された遺跡だというのか。
 そっと石組みの床や壁を触ってみる。石自体に年代は感じるものの、まるで最近出来上がった建物のようだった。
 俺は今の状況も忘れて、思わずそれらに見入る。
 それは、考古学者としての本能みたいなもので。
「ん‥‥?」
 不意に何かの声が耳に届いた。
 最初は空耳かと思ったが、よくよく聞いてみると確かに人の声だ。それも泣き声のような。
「誰か、いるのか?」
 こんな場所にいったい誰が。ひょっとしてはぐれた仲間だろうか。
 俺は警戒しつつも、声が聞こえる方へ向かった。奥へ行くほど声はだんだんと大きくなる。
 そうして、祭壇の前にある石扉の前に立った時、それは自動的に開いていった。まるで俺自身を迎え入れるかのように。
「――これはッ!?」
 古い石室の中。
 中央に台座があるだけで、他には何もない。その台の上には大きな声で泣きじゃくる赤子が一人、無造作に寝かされていたのだ。
 何故こんなところに赤ん坊が?
 驚き、目を瞠る俺に構わず、赤子は更に狂ったように泣き叫ぶ。狭い石室の中で響き渡る泣き声を、だが俺は不思議と耳障りに感じなかった。
 静かに腕を伸ばす。
 まるでそうする事が決められていたように。
 抱え上げ、胸元へと引き寄せる。すると、赤ん坊はさっきまでの泣き声が嘘のように腕の中でうとうとと眠り始めたのだ。
「‥‥仕方ない、か」
 何がどうなっているのか分からないが、こんな場所に赤ん坊一人置いておくワケにはいかない。ひとまず安全な場所へ連れていかなくては。
「とりあえず、この遺跡から出る事が先決だな」
 俺は赤ん坊を腕に抱えたまま、急ぎその場を後にした。

 ――――男の後ろ姿を見守る女の視線。
 口元に静かな笑みを称え、いつまでも彼らを見送った。
「‥‥そう、彼を選んだのですね。どうか今世こそは――」
 続く言葉は声にならず、凭れた背の壁を真紅に染めて彼女はゆっくりと倒れた。看取る者も誰も居ないまま。


「――――ッ!」
 男はハッと目を覚ました。
 先程まで見ていた夢を思い返し、思わず頭を振る。
 なんだって今あんな夢を‥‥この子を拾った時の夢なんか‥‥。
 伝う汗を簡単に拭い、目の前で昏々と眠りに付く息子を見る。
 身寄りのないこの子を引き取ってからもう十数年――その間、平穏無事に育ってきたと思ったのに、何故こんな事件に巻き込まれなくてはならないんだ。しかも一緒に巻き込まれた娘の方は、いまだ見つかっていないという。
「‥‥どうして‥‥」
「ん――と、‥‥さん‥‥?」
 聞こえた声に思わず顔を上げると、うっすらと目蓋を開いた息子の姿が目に入った。
「暁、気が付いたか!」
「姉ちゃん、は‥‥?」
 息子の言葉に言葉を詰まらせる男。
 それでも男は、息子を安心させるための言葉を投げかけた。
「心配するな。あの子は無事に決まってる。だから、今はゆっくりと休め」
 そっと頭を撫でてやると、息子は安心したのか再び目を閉じて眠りの世界へと落ちた。ほう、と息を吐き、男は脱力した体で椅子にもたれかけた。
「――どうしてこんなことに」
 静寂な病室の中、男の呟きが無情に響く――――。

●出演者募集
 ファンタジー映画『光と闇の黙示録』は、子役である一哉の初主演作品(役名:神威暁)になります。物語はようやく始まりを迎え、そして徐々に様々な思惑が動き出そうとしています。
 今回募集する役柄は、以下のとおりです。

・『光』サイドの覚醒者
 光の力を操り、闇を打ち払う者達です。
・『闇』サイドの覚醒者
 闇の力を操り、世界を闇で覆うとする者達です。
 どちらの覚醒者も、事故や戦いに巻き込まれて瀕死の状態から覚醒する者、天から啓示を受ける者、悪の誘惑に飲まれた者、生まれながらにして覚醒している者など、力に目覚める方法は様々です。
 覚醒の際、戦うための力を一つだけ得る事が出来、またそれにあわせた武器も一つだけ具現化する事が出来ます。
 前回登場の覚醒者
 『光』サイド:植物、聖火、水
 『闇』サイド:死、闇、不明(未覚醒者)

・神威暁の父親、他周囲の人々
 父親は三十代後半が望ましいです。その他、友人など適宜に決めて頂いて構いません。また、覚醒者としての設定を付随していただいても結構です。
 ただし、父親に関しては覚醒者ではなく、一般人とします。

・『光』、あるいは『闇』サイドの協力者
 あくまでも一般人ですが、後々覚醒する者として設定しても構いません。

 前回参加者は、そのまま役柄を継続する事が望ましいですが、死亡した事にして新たな役として登場しても構いません。
 また前回参加していないからといって、今回覚醒者となれないことはありませんので、気楽にご参加下さい。

●世界設定
 物語は、神話の時代から続く光と闇の争いを、中東を意識した神話に基づいた設定で攻勢されています。但し、あくまでも映画上の設定として用いられてるだけで、実在するものとは一切関係ありません。
・『光』サイド
 光の最高神アフラ・マズダーの守護の元、人々を闇の恐怖から守る為に人知れず戦って来た者達です。当然、長い年月から協力者の存在もありますが、戦うのはいずれも覚醒した者達だけです。
 そして、彼らは最大で七人までと決められています。
 なお、覚醒する力の源として、『聖火』『水』『大地』『鉱物』『植物』『精神』『創造』の何れかとなります。
・『闇』サイド
 悪神アンラ・マンユの教えに従い、全ての人々に悪徳をばらまき、世界の破滅をと目的とした者達です。人々を闇で操り、堕落させ、やがては破滅を導くためならばどんな手段をも厭わない為、その行動はしばし大きな事件として度々世界を震撼させてきました。
 彼らもまた、七人しかいないとされており、力の源として『灼熱』『渇』『破壊』『死』『背徳』『悪意』『闇』からになります。
・宝具
 覚醒した際に具現化された武器の総称。
 その種類は千差万別で、覚醒者達のイメージでその姿もまた変化する。名称もそれぞれによって異なり、覚醒者達によって命名される。

●今回の参加者

 fa0509 水鏡・シメイ(20歳・♂・猫)
 fa1077 桐沢カナ(18歳・♀・狐)
 fa2772 仙道 愛歌(16歳・♀・狐)
 fa4131 渦深 晨(17歳・♂・兎)
 fa4133 玖條 奏(17歳・♂・兎)
 fa5575 丙 菜憑(22歳・♀・猫)
 fa5582 巴 円(22歳・♀・ハムスター)
 fa5624 加恋(18歳・♀・兎)

●リプレイ本文

●集う者達――Assembled
 病院の静かな廊下を、カツカツとヒールの甲高い音だけが響く。
 誰にもすれ違うこともなく、やがて足音は止まり、代わってドアをノックする音が聞こえた。
「‥‥どうぞ」
 応える声に、病室の扉がゆっくりと開かれた。
「失礼します」
 現れたのは、ストレートに伸ばした銀髪が特徴的な女性。手には大きな花束を抱え、浮かべる表情に笑みはない。
 病室にいた男は、彼女の姿を確認するなりホッと肩の力を抜いた。
「セシリア、お見舞いに来てくれたのか」
「ええ。暁さんのお加減、如何ですか?」
「外傷の方は大した事ないそうだ。今はぐっすり眠ってるけどな」
「すいません。私が迎えに行っていながら、あんな事故に巻き込まれてしまって‥‥それにお姉さんの方も」
「君のせいじゃない。ただ、運が悪かっただけだ」
 セシリアの言葉を遮り、男は疲れきった顔で苦笑を浮かべる。父親として、二人の子供のうち一人でも助かったのだから、と言い聞かせているのだろう。
 そんな思いを察し、彼女も口を閉ざす。内心の後悔を隠すように。
 同時に、家族をも巻き込む『闇』のやり方に怒りすら湧き上がる。
(「‥‥いったい、彼らは何のために暁さんを」)
 ふと、手に持つ花束を思い出す。
「お花、生けてきますね。花には、人を元気付ける作用があるんですよ」
 殊更明るく振舞う事で、少しでも気持ちが落ち着けば。そんな気遣いをしつつ、セシリアは花瓶を持って病室を出た。
 その彼女の視界に映る二つの人影。
「どうでした?」
 声をかけた青年の名は、神楽紅輝。セシリアと同じ覚醒者の一人だ。もう一つの影――紅輝の兄、氷雅は、押し黙ったまま窓の外をぼんやりと眺めている。
 見知った二人に、セシリアは幾分顔を曇らせてゆっくりと首を振った。
「暁さんの方はひとまず無事です。ですが、お姉さんが行方不明のままですから、お父さんの方はかなり沈んでいます」
「そうですか‥‥」
 姉の方をを守りきれなかったのは、紅輝自身も同じだった。
 後悔に思わず唇を噛み締める。そんな弟の姿に窓際へ寄り掛かっていた氷雅が、ゆっくりと近付いて肩に手を置いた。そのまま無言で見つめる彼に、紅輝は僅かに肩を竦める。
「分かってますよ、兄さん」
 互いに言葉はなくとも、氷雅の言いたい事は分かった。後悔するのはいつでも出来る。今は、自分達にやれる事をするだけだ。
「では、この花を生けてきますので、それからお二人の事を護衛として紹介しますね」
「お願いします、セシリアさん」
「‥‥頼む」
 そうして、流し場へと向かうセシリアの後を、二人は連れ立って歩き出した。

 場所は変わって病院の外。
 先程の病室を覗き込む影が一つ――その身に闇を纏った少女、楓。
「‥‥アレがあの子の父親かぁ」
 退屈そうにあくびを一つ。そのまま視線を父親から、ベッドに寝ている少年へと移す。
 別段、変な様子はない。どこにでもいるただの人間だ。
「‥‥ん〜別に普通‥‥」
 瞬間、彼女の脳裏に蘇る先日の出来事。
 少年が纏うオーラに圧巻され、自分は手も足も出なかった。その時の事を思い出すだけで思わず拳を握りこんでしまい、イヤな汗が吹き出しそうだった。
「面倒だけど‥‥少し様子を見ようかな〜」
 そのまま楓は、ちょうど病院へ入っていこうとする女性の方を見た。茶色い髪が印象的な、明るい感じの女性だ。
 と、女性は入る直前で立ち止まり、ゆっくりと振り返った。そのまま楓と視線が重なる。明らかに彼女には自分が見えている。
 闇を纏ったこの身は、普通の人間に見える事はない。本来なら驚くべき事だ。
 だが、彼女のことはよく知っている。何しろあの男の命で神威姉弟に近付いた仲間なのだ。
「せいぜい気をつけてね〜真里菜」
 聞こえる距離でないと知りつつ、のんびりと声を掛ける楓。
 そして――聞こえていない筈なのに、彼女が真里菜と呼んだ女性は、まるで応えるかのようににっこりと笑みを浮かべた。見る者が見れば、どこか背筋の寒くなるような笑顔を。


●覚醒――Destiny
 荘厳な遺跡を目の前に、女子大生の千歳は感嘆するように溜息をついた。
「やはり実物は、素晴らしいですね」
 ここまで来て本当によかった、と彼女は心から思う。
 昔から中東の美術や遺跡に興味を持ってはいたが、まさか海外旅行をしてまで訪れようとは自分自身考えられなかった。
 従来大人しい性格の千歳は、未だに自分の起こした行動に少なからず驚いている。まるで何かに惹かれるように、誰かが呼んでいるかのような気持ち。
 そんな事をぼんやりと考えているうち、ふと気付けば周囲に人気がないことに気付いた。
「あら、何時の間にか人の姿が‥‥」
 周囲を見渡せば、見たこともないような遺跡風景。
「もしかして迷子になってしまったのかしら?」
 そんな不安が過ぎると同時に、千歳の背筋にゾクリとした悪寒が走った。それは、昔から彼女の身に迫る危険を報せる警告。
 ハッとして、その場所を抜けようと駆け出す千歳。
 だが。
「おやおや。何処へ行くの? 子猫ちゃん」
 突如耳に飛び込んできた声。
 警鐘の鳴る頭で思わず振り向けば、妖艶な微笑を浮かべる女性の姿。手には死神を彷彿させる巨大な鎌が握られ、唇のルージュはまるで血のように紅く映えている。
「まさかこんな場所まで入れる輩がいるとは思わなかったよ。この静音様の結界を堂々と潜るなんて‥‥あんた、何者だい?」
「あ‥‥あ‥‥」
 恐怖に慄く千歳。
 小刻みに震える足は一歩も動けず、言葉もまた発する事が出来ずにいる。自らを静音と呼んだ女性は、そんな彼女の反応に気を良くして思わず舌なめずりをする。
「ふふん、可哀想に。怯えてるのね。そうね、それなら‥‥私の可愛い坊や達がかわいがってあげるわ!」
 勢いよく振られた大鎌。大気が裂け、『死』の気配が周囲に充満する。
 歪められた残忍な笑みを浮かべる静音の前、蠢くように現れたのは死を忘れたアンデッド達。常人では静止すら出来ないそれらの群れに、千歳の声無き叫びが上がる。恐怖のあまり涙が後から後から溢れてきた。
 だが、殆ど気絶したい程の恐怖である筈なのに、千歳の中の何かが必死で歯止めをかけている。
(「‥‥こ、こんなに怖いのにどうして‥‥」)
 ゆらりと蠢くアンデッドの群れ。取り囲まれ、既に逃げ場はない。
 その時。
「――やあ、お嬢さん」
 緊迫した雰囲気の中、酷く場違いな声が響いた。
 驚く千歳が振り返ると、アンデッドの群れの中をこちらへ近付いてくる人影。灼熱の太陽が照り付ける中、黒いスーツに身を包んだ長い銀髪の青年。
「どういうつもりだい、ファウストの坊や」
「静音様、ここは一つ私にお任せを」
 ファウストと呼ばれた青年は、凄む静音の前でも涼やかな顔を崩さない。そのことに彼女は軽く舌打ちすると、
「‥‥まあいいさ、ここは坊やに譲るよ」
 渋々といった感じで僅かに身を引いた。彼女に合わせるよう、取り囲むアンデッド達も一歩後ろへ下がった。
 その反応に満足を得たのか、再びファウストは千歳の方へ向き直る。
「あ、あ、あなた‥‥」
「自己紹介がまだでしたね。私は偉大なる神アンラ・マンユに仕える者、ファウストと申します。どうでしょうお嬢さん、貴女が今持っているスケッチブックを譲って頂けないでしょうか?」
「え、あ、その、ど‥‥どうして‥‥」
 あくまでも紳士然とした態度のファウスト。
 だが、千歳の中で鳴り響く警鐘は今も続いている。むしろ彼が現れてから余計に酷くなっている。
 彼女の手の中にあるスケッチブックは、ここに来て遺跡を模写したものばかり。何故彼がこれを欲しがるのか分からないが、本能がコレを渡してはならないと告げていた。
「い‥‥イヤです!」
 強く、ハッキリと。
 そのまま殆ど反射的に千歳は逃亡を図った。その場にいては駄目だと叫ぶもう一人の自分に従い。
「そうですか。では、仕方ありませんね。実力行使とさせて頂きますよ」
 あくまでも表情を変えず、ファウストは右手を横に伸ばした。
 そこに装着されている白銀の爪が妖しく光ると、彼の背後に従っていた人間達が一斉に千歳へと襲い掛かった。
 アンデッド達が群れる壁と、迫る理性を無くした暴漢達。
 逃げ場は、どこにもない。
「きゃぁぁぁ――――っっ!!」
 もうだめだ、そんな絶望に押し潰されかけたその時。
「――ッ!?」
「ちぃ、まさか‥‥」
 二人の目の前で、千歳の体から光が溢れ出したのだ。発する閃光は、文字通り光の糸となり、彼女を取り囲んでいた連中に巻きついていく。
 やがて、動きを止めた人間達は、意識を無くしてその場にバタバタと倒れていった。
 そして、光の糸に絡め取られたアンデッド達がゆっくりと元の土くれへと還っていくのを、静音はただ茫然と眺めるしかなかった。
「そう‥‥覚醒者だったってワケかい。ファウスト、あんた知ってたのか?」
「薄々とは‥‥どうやら私の目に狂いはなかった。それにしても予想以上の力ですが」
「ふん、抜け抜けと。それで怪我をしちゃあ世話ないね」
 よろめくファウストに肩を貸す静音。
 想像以上の光の洪水の中、その中心にいる千歳の方を見る。
「今回は見逃してあげるよ、子猫ちゃん」
「‥‥いずれまたお会いしましょう。覚醒者のお嬢さん」
 そう言い残して、二人はその場から姿を消した。
 やがて――光の糸が消えると、静寂が周囲を包み込む。殆ど朦朧としたまま、千歳はゆっくりと地面へ倒れこんだ。
「‥‥今の、は‥‥いったい‥‥」
 もはや理解すら出来ない現象に、残された彼女は霞んでいく意識の中で考える。その結論が出るより前に、彼女の意識は深く闇に沈んだ。

●予定調和――Wheel of FORTUNE
「――――ッ」
「あ、暁くん気が付いた?」
 覗き込む真里菜に、一瞬身を竦める暁。
 だが、次の瞬間彼女の事を思い出し、ホッと安堵する。
「ねえ、わたしが誰だか覚えてる?」
「え? 真里菜さんだろ? 確か最近姉ちゃんと友達になったっていう」
「えへへ、正解。ほらね、友人だって言ったでしょう」
 そう言った暁の答えに、真里菜は満足そうに頷いて後ろを振り返った。そこには、暁の父親の他にセシリアや紅輝、氷雅の面々が立っていた。
 当初彼らは、見舞いに来たといった真里菜の言葉を不審に感じていたのだ。それでもセシリアはあまり疑ってはいなかったが、紅輝に至っては最初から警戒心バリバリだった。
 それで暁が目を覚ますのを待って、その辺の確認を、といった提案がなされた訳だ。
「それじゃあ暁くんも目を覚ました事だし、わたしそろそろ帰るね」
「え、もうですか?」
 呼び止めるセシリア。
 本当はもう少し暁と話したかったが、目の前にいる二人の事が気にかかる。光の側の人間だとすれば、下手に動けば命取りになりかねない。
(「ひとまずファウストさんに報告しておこうかな」)
 そんな内心を、彼女はにっこりとした笑顔の下に隠す。
「うん。お姉さんの方がいなくなって心配したけど、ボディーガードも居るなら安心ですね」
「ボディーガード?」
 初めて聞く言葉に暁は目を丸くする。
 それに気付いた父親が、セシリアの提案でボディーガードをつけてくれる事になったと説明した。紹介された二人は、改めて暁に向かって挨拶する。
「‥‥神楽氷雅だ」
「兄さん、素っ気無さすぎ。神楽紅輝です。よろしく、暁くん」
「えっと‥‥こちらこそ」
 ぺこりと頭を下げる暁。
「それじゃあ暁くん、また来るから」
「あ、うん。見舞い、ありがと」
 そのまま退室する真里菜を見送ると、セシリア達は改めて父親に今後の方針についての相談を持ちかけた。
 そんな会話を、最初は物珍しく聞いていた暁だったが、次第に退屈になってきたのか窓の外をぼんやりと眺めだした。
 そして。

「――ッ!」
 視線が合い、楓は思わずビクッとする。
「まさか‥‥見えてるの?」
 が、次の瞬間には目線は外れ、そのまま様子を見ていたら再び眠りに就いたようだ。さすがにこれ以上続けても、あまり進展はないだろう。
 そう考え、楓はさっさと切り上げようと腰を上げる。退屈そうに欠伸を一つ、そのまま闇へ姿を沈ませようとして、彼女の耳に何かが聞こえたような気がした。
 だが、気分的にどうでもよくなっていた彼女は、あっさりとそれを無視するのだった。


 一陣の砂混じり風が、投げ出されたスケッチブックをぱらぱらと捲る。
 やがて、とあるページがあかれて風が止まる。

 そこに描かれていたのは――――暁少年の姿‥‥。

●キャスト
 神威 暁:如月 一哉(NPC)
 父親(NPC)

 セシリア:桐沢カナ(fa1077)
 神楽 紅輝:渦深 晨(fa4131)
 神楽 氷雅:玖條 奏(fa4133)
 千歳:加恋(fa5624)

 静音:仙道 愛歌(fa2772)
 楓:丙 菜憑(fa5575)
 真里菜:巴 円(fa5582)
 ファウスト:水鏡・シメイ(fa0509)