拝火教――潜む蛇中東・アフリカ

種類 ショート
担当 葉月十一
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/28〜06/01

●本文

 中東――アクロポリス遺跡。
 イランの誇る最大の遺跡であるその一角では、先日まで日本の映画会社による撮影が行われていた。
 勿論、全ての使用が許可されていたのではない。メインから少し離れたところにあるごく一部の遺跡だけだ。当然一企業だけでは許可は難しく、その裏で動いたWEAの尽力があったからに過ぎない。
 そうしてロケが無事終了し、続編の撮影が待たれるまでの間、本来なら誰も立ち寄らない筈だったのだが‥‥。

「――ああ、悪ぃな。わざわざこんな所まで来てもらって」
 空港まで出迎えたのは、先の映画音楽を担当した須崎渉(fz0034)。
 今、彼の前にいるのは、その映画のプロモーション撮影の為に集められた人材だ。渉自身が打診した先はWEAであり、人選は全て任せている。
 早速、とばかりに彼は撮影先の場所を説明し始めた。
「前に撮影があった場所の近くに集落があってな。そこでの景色が今度の映画音楽とマッチしそうなんだ。とりあえず、まずはそこへ移動してから詳しい話は説明する」
 付いて来い、とばかりに先頭を行く渉の背に、集まった面々は互いに顔を見合わせ苦笑する。
 彼らはただ撮影の為だけに集められたワケではない。WEAから指示を受けた際、秘密裏に、と念を押された事項があった。
 曰く、遺跡近辺で何度かNWらしき存在が確認されたとの報告がいっている。未だ表立っての被害はなさそうだが、今回の撮影場所が場所なだけに十分に注意を払う事。そして、NWを発見次第退治するように、そうWEAからの依頼も含まれていた。
 当然、その集落に住む人々の安全も確保しなければならない。
 あくまでも秘密裏に。
 そう明言され集まったが故、何も知らされていない渉の行動に苦笑を零したのだった。

 だが、この時点で彼らはおろか、WEAですら気付いていなかった。
 集落へ辿り着いた時、既にそこは無人と化していたことを――――。

●今回の参加者

 fa0154 風羽シン(27歳・♂・鷹)
 fa0203 ミカエラ・バラン・瀬田(35歳・♀・蝙蝠)
 fa1522 ゼクスト・リヴァン(17歳・♂・狼)
 fa1890 泉 彩佳(15歳・♀・竜)
 fa2025 御剣緋色(18歳・♂・竜)
 fa3800 パトリシア(14歳・♀・狼)
 fa5387 神保原・輝璃(25歳・♂・狼)
 fa5745 ブレイズ(19歳・♂・竜)

●リプレイ本文

●異変
「やれやれ、やっと着いたのネー」
 重いレフ板をよいしょと車から降ろしたスタッフのミカエラ・バラン・瀬田(fa0203)は、疲れを発散するかのように大きく息を吐いた。そのまま、長時間の移動で固くなった手足を思いきり伸ばし、動かせる自由を満喫する。
 そんな彼女の様子に、カメラマンの風羽シン(fa0154)は微かに苦笑を洩らした。
 何しろ今回のスタッフでは彼女が最年長。自分でも少々うんざりする道程を、自分より年上の彼女がキツいと愚痴るのも当然だ。
「須崎、こっちの機材はどこへ――どうした?」
 呼びかけた本人は、少し先に行った所で立ち尽くしていた。険しい表情に様子がおかしい事を察し、シンはすぐ傍へと駆けつける。
「‥‥村の様子が変だ」
「変?」
「ああ。‥‥人の気配がない」
 彼の言葉に、シンもハッとして村の方を向く。
 耳を澄まし、注意深く辺りを探る。確かに村からは何の物音も聞こえず、動く人影はどこにも見えない。
 渉の言うとおり、人の気配をまるで感じさせない村。
 二人の徒ならぬ様子に、他のメンバーも急いで集まった。
「妙だな。いくら真昼間の暑さで動きたくないからって、全然物音しないって事ないだろ」
 今回の撮影で折角のダンスを披露出来ると張り切っていたダンサーのゼクスト・リヴァン(fa1522)は、出鼻を挫かれた感じで軽く舌打ちする。もっともそれは、獣人としての彼の本能が異変を感知し、微妙に高揚しているのかもしれないが。
 出鼻を挫かれたと感じるのは、下見に来ていたアイドルの泉 彩佳(fa1890)も同じだった。
 とはいえ、落胆する気持ちを表に出す事なく、彼女は一縷の望みを口にする。
「まだ誰かがいるかもしれませんから、アヤがまず調べてみるね」
「どうやって?」
 周囲を警戒しながらゼクストがそう問うと、彼女はただニコリと笑った。
 そして、視線を隣に立つブレイズ(fa5745)へ向けると、彼は任せろと言わんばかりに頷いた。守る事を、守れる力を欲するブレイズにとって、誰かを守るということは己のアイデンティティにも等しい。
 だから。
「心配すんな」
 言葉から伝わる安心に、彩佳の身が素早く半獣と化す。
 そのまま視線を上空へ向け、認識出来る最遠点を見据える。そして――地上を。
「どうだ、何か‥‥」
 見えるか?
 そう尋ねようとしたシンの前で、彩佳の顔色が徐々に青褪めていく。
「大丈夫デスカ?」
 気遣うミカエラに、だが彼女は上を向いたままで。
「ヒドい‥‥みんな、死んでる‥‥」
 ポツリ、呟いたその言葉だけで、その場にいた全員が理解した。既にこの村に生きている人間はいない、と。
「ヤツらは!?」
 思わず逸る気持ちが抑えきれず、ブレイズが激昂する。
 だが、彼女は静かに首を横に振った。
「上からだとちょっと‥‥建物の中や木の影もあるし」
「地道に探せということですね」
 見習いADとして付いてきていたパトリシア(fa3800)が、周囲の警戒を解くことなくそう断じた。当然他の者に異議はない。
「では、とっとと終わらせマショウ」
 こういう事件のキャリアが長いミカエラの提案で、彼らは三つの班へと別れる。ちょうどゼクストの持参したトランシーバーがあり、各自の連絡はこれで行う事となった。
「まさかこんなところで役に立つとはな」
「備えあればってヤツだよね」
 苦笑する彼に、少しでも場を和まそうとする彩佳の声が返った。
 一連の準備の最中、ブレイズ一人が渉の前に立ち、この場に留まるよう伝えていた。
「須崎さんは有名ミュージシャンなんだから、怪我なんかしたらそれこそ大変だろう? だから」
「‥‥わかったわかった。俺は大人しくここにいるさ」
 そんな二人のやり取りを背景に、全員の準備がようやく整った。どの顔も真剣そのもので、油断は微塵も感じられない表情だ。
 傘の柄を持ったパトリシアが、決意を込めてスラッと細身の刀を抜いた。
「では、いきましょう」

●衝突
「‥‥にしても、生き残りが誰もいないってのが‥‥ああ、くそっ!」
 思わず突き出した拳を、御剣緋色(fa2025)はすぐ傍の岩壁へ叩き付ける。
「よせ、物に当たるな」
 そんな彼をシンが宥めるが、彼もまた悔しさを胸を痛めていた。
 注意深く見て回った村の家屋。そこに広がる無残な光景は、目蓋を閉じればすぐにでも思い返せてしまう程だ。被害者のあまりの多さに、己の無力を嘆きたくなる気持ちも分かる。
「殆ど‥‥あっという間だったのでしょうね。逃げ惑う暇すらなく」
 パトリシアの目に映る食卓の風景。既に数日経過したと見られるそれは、乾燥した地域だからだろうかそれほど異臭はない。
 が、それが余計に空しさを覚えるのだ。
「そんなヤツら、絶対倒さないと‥‥」
 そう呟く緋色達、獣人らの警戒は続く。
 双眼鏡を覗き込むシン。音と臭いに警戒を強めるパトリシア。そして、砂地の上に立つ緋色が最も注視したのは、大地の下。
「――ッ?!」
「緋色さん、そこから離れて!」
 叫ぶパトリシアよりも早く、緋色は背中の翼を羽ばたかせて中へと舞った。
 その数瞬遅れで地面より飛び出してきたのは、蛇の胴体から幾つもの節足を生やした、蛇でない頭を乗せたNW――――。

 コールの鳴るトランシーバー。すぐに受信した神保原・輝璃(fa5387)は、その内容に険しい顔を浮かべた。
「向こうが当たりか。ブレイズ、彩佳」
 仲間の名を呼ぶと、二人ともすぐに半獣化のまま駆け出した。
 特に、ブレイズの方は今回が初めての実戦らしく、かなり気負った節がある。便利屋として幾つもの事件に関わってきた輝璃から見れば、少々危なっかしい感じだ。
「まあほどほどに面倒は見てやるさ」
 先行する連中には聞こえない程の小さな呟き。
(「とはいえ、無論俺だって切り抜ける事には、いつだって手一杯だからな」)
 精々自分の身は自分で守れ。
 手にしたライトバスターが、そんな彼の意思に呼応して淡く光を放ち始めた。

「遅れて悪ぃ! 状況は?」
 勢いよく飛び込んだゼクストの問いに、答えとして返ってきたのは目の前の光景。
 緋色の放った拳を、蛇の体が捻じ曲がってかわす。そのまま締め付けようとしたが、それより早くパトリシアの一閃が防いだ。
 無論、叩き斬れる程相手の体躯は小さくない。何しろ蛇の胴体部分だけで小学生程度の太さがあるからだ。
 二人の攻撃が休む間は、完全獣化したシンが飛び回って気を引き付けているようだ。
 そして、同じく応援に駆けつけた彩佳達は――もう一体の蛇型NWとの対峙を余儀なくされていた。
「――二体デスか!」
 上空からの声は、翼で移動してきたミカエラのもの。
 見上げたゼクストと彼女の視線が絡み合う。互いの意思を殆ど直感的に理解すると、すぐさま二人はそれぞれの班への加勢に加わった。
 ゼクストは先の緋色達の元へ。
 そしてミカエラは、NWの攻撃を腕の鱗で受け止めたブレイズの元へ、真上から一気に急降下した。
「ミカエラさん!」
「ここは任せて。早く獣化をネ」
 殆ど掴み合いの様相で、地面をゴロゴロと転がる一人と一匹。NWの剥き出しの牙が襲い掛かろうとするのを、間一髪で彼女はかわす。
 舞い上がる砂煙。
 僅かに視界を覆い、一瞬彼女らの影を見失った輝璃。
 が、すぐに発見すると俊敏脚足で一気に間合いを詰める。そのまま力を込めて蛇の体をミカエラから蹴り剥がした。
「おいおい、人の生活費を削り取る気か」
 口は悪いが、要は依頼料分の仕事はさせろと言っているのだろう。クスリと苦笑を零すミカエラに、輝璃は一瞬顰め面となった。
 が、すぐに二人はNWへと向き直る。
「コア、見つけマシタ! ヤツの腹の部分ネ」
 直後、一歩前に踏み出す彩佳。完全獣化を終えた竜の姿で立ち、そのまま大きく息を吐き出した。波光神息――光の波動がNWに向かって一気に放たれる。輝璃が蹴り上げたのが功を奏したのか、剥き出しになった腹に浮かぶコアへと直接ダメージを与える。
 ひび割れていく音。そこへ、トドメを刺すようにブレイズの拳がコアへと直撃した。
「これで終わりだ、虫野郎ッ!」
 叫ぶと同時に、グシャリと何かが潰れる音がして――NWはそのまま動かなくなった。

 彩佳の放った波光神息は、もう片方のNWにもダメージを与えていた。目に見えて動きが鈍った相手に、緋色が追い打ちをかける。
「逃がすかよ、償いはきっちりしてもらうぜっ!」
「当然だ」
 挟み撃ちの形でゼクストが、退路を断つように立ち塞がる。
 そのまま掴みかかると、反射的に伸ばした爪を振るい、生えた節足の一本を切り裂いた。反対側を手にしたナックルで緋色が攻撃する。
 逃げ場を失い、一瞬逡巡するNW。
 が、次に起こした行動は、再び地中へと逃げる手段。当然それは予想された事。
「逃がさないと言いましたよ」
 一気に間合いを詰めたパトリシア。仕込み刀で素早く斬り込む様は、流れるように清廉で。袈裟懸けに斬り捨てると、そのまま彼女は足で蹴り倒す。
 そして、土煙の向こうから伸びてきた緋色の腕が、ガッシリとNWの頭部を掴む。逃げようと暴れる相手に構わず、そのまま彼は自らの角を思いきり叩きつけた。
「‥‥終わったな」
 ゆっくり地面へ降り立ったシンは、既に息絶えたNWの姿を見つめていた。


「‥‥祭壇の火が消えている‥‥」
 渉の前にあるのは、この村にあった祭壇の残骸。
 以前訪れた時、村の人間に決して消えないと説明されていた炎は、今はもうない。あれほど温かいと感じられた場所は、ただ冷えた石組の家屋となっていた。
「おーい、須崎! どこいるんだよ!」
 自分を呼ぶ声に、そういえば黙って動き回っていた事を思い出す。さすがにマズイか、と渉は急いでその部屋を後にした。