光と闇の黙示録/第二章アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 葉月十一
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/14〜06/18

●本文

 ――Into the dreaming for where――
 ‥‥これは夢だ、とすぐに理解した。
 見たこともない景色。
 見たこともない建物。
 見たこともない人々。
 まるで映画でも見ているような、まるっきり他人事のようにこの目に映るのに。

 ――何故だろう。僕はこれを知っている気がする‥‥。

 中央には、円形の舞台。
 それを取り囲むように集まった人々。群集の心理なのか、歓声とも怒号とも取れるざわめきが、徐々に広がり、一帯を包み込む。
 彼らは、まるで感情を全てぶつけるかのように、中央に立つ少年へ向けて叫んでいる。そんな悪意とも言うべき波を一身に受け、それでも少年は微動だにしない。
 隣に立つ大人の男が巨大な剣を構える。
 彼らより少し離れた舞台の脇。同い年ぐらいの少年が縛られたまま、屈強な男達に押さえつけられていた。
 必死で足掻く少年。
 だが、大人の力は強く、子供の力ではどうにもならない。
 少年が何かを叫んだ。
 すると、中央の少年が静かに振り返り、もう一人の少年に向かって優しい微笑みを見せる。そして少年は、静かに言葉を紡いだ。

 次の瞬間、舞台の上が鮮血に染まる。

 いっそう強くなる喚声。まるでうねりのように大気を震わす。
 血溜まりの中、浮かぶそれは既に生命のないただのカタマリ。
 茫然と。
 少年の体から力が抜ける。
 だが、剣を持つ男の放った言葉が少年の耳に届いた時、得も言えぬ感情が一気に爆発した。

 だから――僕は――俺は、全ての憎しみを込めて叫んだ。

『――絶対、お前達を――――』

 直後。
 世界は業火の中で暗転した――――。


「‥‥あれ?」
 暁は目を覚ました時、何故か自分が泣いている事に気付いた。思わず頬に手を当てると、すっかり濡れている。
 が、彼は何故自分が泣いているのか分からなかった。
「変な夢でも見たのかな〜?」
 呟き、窓の外を見た。すっかり更けた夜空は、満点の星が瞬いている。
(「‥‥早くしないと」)
 ん?
「あれ、何が早くしないと? ‥‥わっけわかんね」
 きっとこんな事考えるのも、変な時間に目を覚ましたせいだ。
 うん、そうだ。だからもう一回寝ちゃえばいい。そして起きたら‥‥姉ちゃんを探しに行くんだ。
 そう結論付けた暁は、もう一度眠ろうと勢いよく布団を頭から被るのだった。

●出演者募集
 ファンタジー映画『光と闇の黙示録』は、子役である一哉が主演(役名:神威暁)する連作映画です。
 主人公である暁の元へ、まるで導かれるように集まって来る覚醒者達。やがて物語は一つの分岐点へと差しかかろうとしていた‥‥。

 今回募集する役柄は、以下のとおりです。

・『光』サイドの覚醒者
 光の力を操り、闇を打ち払う者達です。
・『闇』サイドの覚醒者
 闇の力を操り、世界を闇で覆うとする者達です。
 どちらの覚醒者も、事故や戦いに巻き込まれて瀕死の状態から覚醒する者、天から啓示を受ける者、悪の誘惑に飲まれた者、生まれながらにして覚醒している者など、力に目覚める方法は様々です。
 覚醒の際、戦うための力を一つだけ得る事が出来、またそれにあわせた武器も一つだけ具現化する事が出来ます。
 前回登場の覚醒者
 『光』サイド:植物、聖火、水、創造
 『闇』サイド:死、闇、背徳、破壊(未覚醒者)
・神威暁の父親
 今回は話の展開上、かなりのキーパーソンに成りうる存在です。年は三十代後半が望ましく、覚醒者ではなく一般人となります。前回はNPCが演じる形となりましたが、特に構わずに立候補していただいて構いません。
・『光』、あるいは『闇』サイドの協力者、その他友人知人等
 あくまでも一般人ですが、後々覚醒する者として設定しても構いません。

 前回参加者は、そのまま役柄を継続する事が望ましいですが、死亡した事にして新たな役として登場しても構いません。
 また前回参加していないからといって、今回覚醒者となれないことはありませんので、気楽にご参加下さい。

●世界設定
 物語は、神話の時代から続く光と闇の争いを、中東を意識した神話に基づいた設定で構成されています。但し、あくまでも映画上の設定として用いられてるだけで、実在するものとは一切関係ありません。
・『光』サイド
 光の最高神アフラ・マズダーの守護の元、人々を闇の恐怖から守る為に人知れず戦って来た者達です。当然、長い年月から協力者の存在もありますが、戦うのはいずれも覚醒した者達だけです。
 そして、彼らは最大で七人までと決められています。
 なお、覚醒する力の源として、『聖火』『水』『大地』『鉱物』『植物』『精神』『創造』の何れかとなります。
・『闇』サイド
 悪神アンラ・マンユの教えに従い、全ての人々に悪徳をばらまき、世界の破滅をと目的とした者達です。人々を闇で操り、堕落させ、やがては破滅を導くためならばどんな手段をも厭わない為、その行動はしばし大きな事件として度々世界を震撼させてきました。
 彼らもまた、七人しかいないとされており、力の源として『灼熱』『渇』『破壊』『死』『背徳』『悪意』『闇』からになります。
・宝具
 覚醒した際に具現化された武器の総称。
 その種類は千差万別で、覚醒者達のイメージでその姿もまた変化する。名称もそれぞれによって異なり、覚醒者達によって命名される。

●今回の参加者

 fa1077 桐沢カナ(18歳・♀・狐)
 fa2772 仙道 愛歌(16歳・♀・狐)
 fa3020 大豪院 さらら(18歳・♀・獅子)
 fa4909 葉月 珪(22歳・♀・猫)
 fa5461 榊 菫(21歳・♀・竜)
 fa5624 加恋(18歳・♀・兎)
 fa5719 相麻静間(8歳・♂・獅子)
 fa5820 イーノ・ストラーダ(23歳・♂・狐)

●リプレイ本文

●予兆――a BAD OMEN
 事件から数週間。
 暁の精密検査も無事終了し、退院を翌日に控えた日。
 ボディーガードの二人が別件で一時的に離れなければならなかった為、今はセシリア一人が暁の護衛に付いていた。
「いよいよ退院は明日ですね、暁さん」
「うん。これでやっと姉ちゃんを探しにいけるよ。ホント退屈でしょうがなかったんだぜ」
「ええ、そうですね。これでお父様も少しは‥‥」
 安心しますね、と言いかけたセシリアは、片付けをしていた手をふと止めて窓の外へと視線を移した。奇妙な胸騒ぎが自分の中から沸き起こる。
「セシリアさん、どうかした?」
 気付いた暁が声をかけると、彼女は慌てて誤魔化すように笑みを浮かべた。
「あ、いえ‥‥なんでもありません。すいません、急用を思い出したので少し席を外しますね」
「う、うん」
「退屈だからといって一人で出歩いたりしないで下さいね」
「わかってるよ」
 気持ちの良い返事を受けながら、病室を後にするセシリア。彼を一人残すことに不安を覚えつつも、逸る気持ちを抑える事が出来ない。
 それは、『覚醒者』としての予感。
 周囲に誰もいないことを確認し、セシリアは素早く力を解放した。右手の中、織り成す光が弓の形を成していく――『聖樹弓ウルヴァヌス』と名付けた彼女の宝具だ。
 そうして駆けていく彼女の後ろ姿を、見つめる視線が一つ。
 黒いフードを目深に被り、僅かに覗く唇が艶やかな笑みを形作る。そのままセシリアの姿が見えなくなった後、ゆっくりと振り返り病院の――とある一室を見上げた。
 刹那、一陣の風が吹いて長い黄金の髪を揺らす。
「‥‥私は大いなる神アンラ・マンユの啓示を受けし者、イリス。神の思し召しにより、『貴方様』をお迎えに参りました」
 誰にとも聞かせるでもない呟きが、静かに風に四散した。

●共鳴――sympathizer
 ガクリと膝をつき、肩で荒く息をするカーテローゼ。信じられないとでもいうような眼差しに、対峙する静音は満足そうな笑みを浮かべている。
「こ、これが闇の力なの‥‥」
「可愛いわね、あんたの力はこの程度なの?」
 取り囲むアンデッドの群れ。
 かつて怪力無双の美しき乙女、と謳われた『大地』の『覚醒者』たる彼女。
 だが今は、その勇姿は見る影もなく、迫る闇の前に地面へ膝を屈するばかりだった。何物をも砕いてきた宝具『アズライル』さえ、跡形もなく砕けて残骸を残すばかり。
 それでも。
「ここで引くわけにはいかないのよ!」
 チラッと視線が走った先には、怪我を負って蹲った暁の父――神威与太郎の姿。彼を無事に逃がすまでは、その決意だけがカーテローゼを奮い立たせた。
 振り絞る力。
 そのまま突っ込もうとした矢先。
「ふふふ、お馬鹿さんね」
 目の前に迫る静音。恐怖は、風を切る音と共に訪れる。
 避ける間もなく、カーテローゼの身体はバッサリと切り伏せられた。
「ぐわぁぁぁ!!」
 最後の絶叫を、静音はまるで心地よい音楽のように聞く。スケアクロウの刃を濡らした鮮血を、大きく振り回すことで拭った。
「あはは、流石は静音様ですね」
 感嘆の声を上げたのは、彼女を姉と慕う少年、鬼麿。手に持つ扇で放った灼熱の業火で、与太郎本人を傷つけた張本人だ。
 そんな賞賛にも、まして倒れた相手にも一瞥することなく、彼女は再び与太郎の方を向いた。
「如何かしら? 私の言うことが聞けなければ‥‥あんたも同じ運命ね」
「‥‥ワシ好みの綺麗な姉ちゃんに誘われるのは嬉しいんだがなぁ。生憎と息子が待ってるからな、断らせてもらうな」
 痛みを堪えつつ、皮肉混じりに応える与太郎。
 妖しい笑みを浮かべた静音の表情が、一瞬曇る。
「静音様の誘いを断るなんて‥‥ねえ、こいつ殺しちゃってもいいですか? 静音様」
 が、鬼麿の声が聞こえた事で、すぐさま表情を元に戻す。
 自分の言葉を待つ鬼麿が、期待に満ちた視線を向けている。それに対して、暫く考え込む振りをしようとした、その時。

 ――カラン。

 ハッと三人の視線が、物音が聞こえた方を向く。
 するとそこには、恐怖の色を浮かべた千歳の姿があった。
「あ‥‥こ、これは‥‥どうして‥‥」
「ふん、またアンタかい。子猫ちゃん」
 青褪める彼女の目は、血の海に横たわるカーテローゼを凝視している。
(「これは‥‥現実?」)
 沸き起こる恐怖に身体の震えが止まらない。
 ただ彼女は知りたかっただけだ。先日遭遇した事件で起きた、自分の身体から発する光がなんだったのか。そして、残されたスケッチブックに描かれた自分では描いた覚えのない絵。
 自分の中の力。自分の中の記憶。自分の中の気持ち。
「あ、あなたは‥‥」
「君! 逃げなさいッ!」
「今度は容赦しないよ」
 現れた他人に、与太郎は自分の怪我を省みる事なく叫ぶ。
 だが、それより早く静音が動く。スケアクロウと思念が同調すると、微動だにしなかったアンデッドが再び動き始めた。一瞬遅れる形で、当然ながら鬼麿も彼女を襲おうとした。
 が。
 その瞬間、千歳の中の何かが弾けた。
「――ッ!」
 自身が驚くよりも早く、彼女は動いた。
 それは、殆ど本能とも言うべき衝動。アンデッドの手を逃れた千歳は、与太郎の目の前にまで走った。そのまま彼女の身体から溢れる光の奔流が、編み込まれるように盾を作り出す。
「なっ?!」
 鬼麿が驚くのも無理はない。
 絶対の自信を持って放った筈の業火が、いとも容易くその盾によって防がれたのだ。
「君‥‥」
「あなたは私が守ります」
 そうしなければならない、と千歳を突き動かす何かが囁く。
 それが何なのかは、今はまだどうでもいい。ただ、もうこれ以上、誰かが傷つくところを見たくないと思っただけで。
「ちぃ、忌々しいねぇ」
 迸る光の糸は、静音が操るアンデッド達をも次々と土に還していく。
 先程の鬼麿の攻撃が防がれたとなれば、後は直接の攻撃しかないが。
「‥‥少し面倒ね」
 と、呟いたその時。
 どこからともなく放たれた一閃の矢が、彼女目掛けて一直線に飛んできた。
「静音様、危ない!」
 気付いた鬼麿が、咄嗟に静音を庇うように身を乗り出す。そのまま矢は彼の肩を貫き、そのまま凭れかかるように倒れた。
 彼女はそれを当然のことと受け止めつつ、冷静に矢を放った張本人を探し出す。
 程なくして姿を現したのは、弓を携えて光のオーラを身に纏ったセシリア。彼女の登場で戦局は一気に逆転した。少なくとも静音自身はそう悟った。
「潮時ね」
「静音様‥‥申し訳、ありま」
「黙りなさい。私を守った事、少しは評価してあげるわ」
「‥‥ちっくしょう‥‥!」
 静かに囁く彼女の表情は、普段に比べて幾分柔らかいもの。
 だが、それに気付かない鬼麿は、悔しそうに歯噛みするだけで。やがて砂塵渦巻く中、二人はいつの間にか姿を消していた。
「――いなく、なった‥‥?」
 弓を構えたまま、茫然と呟くセシリア。
 やがて、千歳の作った光の盾も消え、再び静寂を取り戻した遺跡の陰から姿を見せる青年が一人。
「ったく、なんだったんだ今の音?」
 緊張を解きかけていた二人は、慌てて身を硬くしかけた。
 が、彼は何かに気付いたようにハッとなり、彼女らの警戒をよそにどんどん近付いてくる。思わず身構える二人だが、それを無視して青年が目指したのは千歳の背後にいた与太郎のもとだった。
「おい、大丈夫か? ちょっと見せてみろ!」
「――え?」
「博士っ!」
 この時点で、二人はようやく与太郎の意識がない事に気付く。特にセシリアは、まさか彼が巻き込まれていた事に酷く後悔していた。
 慌てて抱き起こそうとするのを、青年が押し留める。
「よせ、下手に動かすな」
「あ、あなたは」
「俺は神杜静、不肖ながら医者をやってるが、ここじゃ応急処置ぐらいしか出来ないな。早く病院に運んだ方がいい」
「わ、わかりました。あ、あなたも一緒に」
 セシリアの呼びかけに、千歳は一瞬戸惑いはしたものの、素直に同行することにした。何故か彼女について行く事がいいように思えて。
 そしてそれは、その場に居合わせる羽目になった静もまた、同じように感じたのであった。

●傾く天秤――unbalanceBALANCE
 意識が戻らないまま病院へ搬送された与太郎。
 彼に付き添う形でセシリア、千歳、静も同行したが、搬送された病院が知人の入院先だと気付き、静は一足先にその場を失礼することにした。
「ま、見舞いに行ったところで、どうせじっとしてないだろうな〜あいつ」
「あの、今回はありがとうございました」
「ん? ああ、気にするな。いつものことだ」
 丁寧にお礼を述べるセシリアに軽く手を挙げ、彼は病室の方へと歩いていった。
 その後ろ姿を見送った途端、今度は千歳の方がその場に崩れ落ちる。どうやら張り詰めていた緊張が切れ、疲れが一気に噴出したようだ。
「だ、大丈夫ですか?」
「ええ。ちょっと‥‥少し横になっていれば平気ですから」
 幾分青ざめた顔で、だがしっかりと受け応える彼女。
 ホッと安堵するセシリア。その後、自分も少しこの場を離れる事を説明した。
「彼の息子さんがここに入院しているのです。ですから、連絡の方をしておかないと」
「それなら私に構わずに」
 千歳の言葉に、多少後ろ髪引かれつつも暁の病室へ向かう。実のところ、病院に入った時から妙な胸騒ぎがしてならなかったのだ。
 走り去るセシリアの後ろ姿を見送りつつ、千歳はゆっくりと目蓋を閉じる。振り下ろされた大鎌が鮮血に染まる様を、脳裏に思い浮かべながら。

 ――それは僅かに見えた影。
 殆ど直感とも呼べるそれに従って追いかけたセシリアの目に映ったのは、黒いローブにフードを深く被った女性と、その隣を歩く暁の姿。
 そして、女性が纏う気配は明らかに闇のもの。
「その人についていってはダメです‥‥っ! 暁さん、お願い止まって!」
 だから、彼女は思わず叫んでいた。
 それに対し、その女性――イリスは慌てる様子もなく、落ち着き払った物腰でゆっくりと振り向く。微笑みを浮かべる唇は、まるで血のように紅い。
「――神に背きし者がお越しのようですね」
 一瞬、悪寒が背中を走ったが、構わず暁のところへ駆け寄ろうとするセシリア。
 しかし、その行く手を阻むかのように一般人が次々と立ち塞がった。
「ちょっ、この人達は」
「この者達は私に従いし者、貴女は罪無き一般人に危害を加えるおつもりですか?」
「‥‥っ!?」
 何をするでもない。
 ただ行く手を塞ぐ、それだけ。
 だが、ウルヴァヌスを構えようにも狙いが上手く定められない。万一にでも外し、傷つけてしまったら‥‥。
「さあ、参りましょうか」
 虚ろな目の暁の手を取り、再び歩き出した二人。
「待って!」
 もはや彼女の声は届かず、追いかける叫びも空しく響く。

 ――だが。
 次の瞬間、窓の外から射し込んだ一条の光が、暁の身体を貫いた。

 思わず怯むイリス。
 その強烈な煌きは、まるで誰かの命の輝きを示しているようで――セシリアが気付いた時には、暁の瞳にも強い光が戻っていた。
「暁さんっ!」
 一気に飛び出した彼女は、この一瞬とばかりに光の矢を放つ。さすがに避けられはしたものの、イリスと暁との距離を離す事には成功した。
 ハッと振り向く彼女に対し、セシリアがその間に割って入る。
「おい、こっちから大きな音がしたぞ!」
「一体何事だっ!」
 騒ぐ声と近付いてくる足音。
 その中に彼女のよく知る光の気配も幾つかあった。
「どうやら人が増えそうですね。もう少し彼とお話したかったのですが‥‥そろそろ失礼致しましょう」
 その事はイリスも感じたらしく、彼女はあっさりと身を引こうとした。追いかけるかどうか迷いつつ、セシリアもまたこの場は暁を守る事に専念した。
 互いに譲れぬ最後の一線を、彼女らはしっかりと見極めているのだ。
「それでは暁様、再びお会いする事を楽しみにしています」
 そう言って立ち去った彼女と入れ替わるように姿を見せたのは、先程別れた静だった。
「‥‥貴方も覚醒者?」
「ん? なんのことだ? しっかしなんだこれ、どうすんだよ?」
 彼の目に映ったのは、一部が壊れた病室の廊下。
 雨風が辛うじて凌げるぐらいに半壊した病院。
 そんな呆れる一報の彼とは別に、セシリアは急いで暁の無事を確かめようとして‥‥双眸から大粒の涙が静かに流れているのを目撃した。
「さ、暁さん‥‥?」
「――‥‥大地(アールマティ)、が‥‥」
 自分が泣いている事にすら気付かず。暁が小さくポツリと呟く。
 そんな彼の言葉を反芻しながら、セシリアは一先ずの無事にホッと胸を撫で下ろしてギュッと抱きしめた。
「‥‥良かったです‥‥本当に」

 ――今はただ、それだけで。

●キャスト
 神威 暁:如月 一哉(NPC)
 神威与太郎:イーノ・ストラーダ(fa5820)

 セシリア:桐沢カナ(fa1077)
 千歳:加恋(fa5624)
 カーテローゼ:大豪院 さらら(fa3020)
 神杜 静:榊 菫(fa5461)

 静音:仙道 愛歌(fa2772)
 イリス:葉月 珪(fa4909)
 鬼麿:相麻静間(fa5719)