光と闇の黙示録/第三章アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 葉月十一
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 1.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/03〜07/07

●本文

 ――Who Are You――
 薄暗い闇の中、一人佇む少年。
 彼を取り巻くように宙に浮かんでいるのは、七つの光の球。そのうちの一つが急速に光を失い、そして――少年の身の内へと取り込まれた。
「大地(アールマティ)が‥‥死んだ‥‥」
 ポツリとした呟き。
 と、同時に少年の瞳から零れた一滴は、頬を伝って静かに流れる。そのまま地面へ向かって落ちると、少年の立つ場がまるで水面のように波紋を広げた。
「ハッ、だから言ったんだ。てめぇの使いは弱っちいって」
 突如聞こえた言葉は、波紋の向こう――水面に映る少年から。
 天地逆の格好で立つ少年は、とても同じ顔とは思えない程の邪悪な笑みを浮かべ、同じように周囲を球体が取り巻いている。
 ただしこちらは光ではなく、薄闇よりもなおも濃い闇色。加えて七つではなく、それ以上の数が彼の周りを浮遊していた。
「所詮、一人で育てるには限界があるんだよ。分けちまって同じように成長すれば、一つに戻した時は二倍になるんだしな」
「でも‥‥それじゃあ、死んだ時の悲しみが増えるよ」
「あぁ? 所詮、駒に過ぎない連中に同情してどうする。俺が力を得られりゃ、それでいいんだよ!」
 語気荒く、少年が怒鳴る。
 何も言い返せないもう一人の少年。
「そんなに嫌ならそこで大人しく見てな。そうすりゃあ俺のが片つけてくれるからな」
 伸ばした掌に浮かぶ球体。
 少年がもう一つの腕を伸ばしてその球体に触れると、それは一瞬で二つに増えた。以前より小さめで、幾分闇色が薄れてはいるが。
 やがて、水面のように少年を映していた地面は徐々に消え、再び何も映さなくなった。
 そうしてどれだけの時間が過ぎたのか。
 身内から零れた光の球体を、少年は両手でそっと包み込む。
「お願い‥‥どうか‥‥」
 目を閉じ、何かを祈るかのような姿勢で。
「‥‥僕を、止めて‥‥!」
 光の球は、彼の手の中で静かに二つへと増えた――――。


 不意に誰かが呼んだような気がして、暁は思わず振り返った。
 が、見知った顔がいるわけでもなく、そこには行き交う通行人ばかり。一人で緊張してるのかな、そんな風に考えて、思わず溜息をつく。
 照りつける太陽はジリジリと肌を焼き、舞う砂塵は目を覆わんばかり。ここは今まで過ごしてきた平和な日本とは違う。
 それなのに、暁はそんな光景にどこか懐かしさを覚えてしまうのだ。
「黙って出てきちゃったけど‥‥きっと、多分オレと一緒だと迷惑かけるんだよな」
 姉の失踪。父の重体。
 信じたくはないけれど、きっとこれは自分のせいなのだ。それならば、自分ひとりで姉を探した方が、これ以上誰にも迷惑をかけないですむ筈だ。
「姉ちゃんはオレ一人で探し出してみせる!」
 そう決意する暁。
 だが、彼はまだ知らない。これから待ち受ける過酷な運命について。

 熱砂の風が、嵐の予感をつれて吹きすさむ――――。

●出演者募集
 ファンタジー映画『光と闇の黙示録』は、子役である一哉が主演(役名:神威暁)する連作映画です。
 姉に続き、父親まで重傷を負うという事件が発生し、暁はようやく自分が原因ではないかと思い始めた。これ以上誰にも迷惑をかけられない、と考えた暁は、誰にも告げずにいまだ行方の知れない姉を探しに一人で街へと繰り出したのだが‥‥。

 今回募集する役柄は、以下のとおりです。

・『光』サイドの覚醒者
 光の力を操り、闇を打ち払う者達です。
・『闇』サイドの覚醒者
 闇の力を操り、世界を闇で覆うとする者達です。
 どちらの覚醒者も、事故や戦いに巻き込まれて瀕死の状態から覚醒する者、天から啓示を受ける者、悪の誘惑に飲まれた者、生まれながらにして覚醒している者など、力に目覚める方法は様々です。
 覚醒の際、戦うための力を一つだけ得る事が出来、またそれにあわせた武器も一つだけ具現化する事が出来ます。

 前回までに登場した覚醒者
 『光』サイド:植物、聖火、水、創造、大地(死亡)、精神(未覚醒者)
 『闇』サイド:死、闇、背徳、破壊(未覚醒者)、悪意、灼熱

・神威暁の家族
 現在、PCが演じたものとして父と姉がいます。
 姉の救出をメインとして展開しますが、製作会議によっては特に出演する必要がなければ登場しませんし、またNPCになる形でも構いません。ただし、家族に関してはあくまでも一般人で『覚醒者』ではないものとします。
・『光』、あるいは『闇』サイドの協力者、その他友人知人等
 あくまでも一般人ですが、後々覚醒する者として設定しても構いません。

 前回参加者は、そのまま役柄を継続する事が望ましいですが、死亡した事にして新たな役として登場しても構いません。
 また前回参加していないからといって、今回覚醒者となれないことはありませんので、気楽にご参加下さい。

●世界設定
 物語は、神話の時代から続く光と闇の争いを、中東を意識した神話に基づいた設定で構成されています。但し、あくまでも映画上の設定として用いられてるだけで、実在するものとは一切関係ありません。
・『光』サイド
 光の最高神アフラ・マズダーの守護の元、人々を闇の恐怖から守る為に人知れず戦う者達。長い年月を経て協力者の存在もありますが、戦うのはいずれも覚醒した者達だけです。
 なお、覚醒した際の力の源としては、『聖火』『水』『大地』『鉱物』『植物』『精神』『創造』の何れかとなります。
・『闇』サイド
 悪神アンラ・マンユの教えに従い、人々に悪徳をばらまいて世界の崩壊を目的とした者達。人々を闇で操り、堕落させ、やがては破滅へ導くためならばどんな手段をも厭わず、その為しばし歴史的大事件を引き起こして世界を震撼させてきた。
 彼らの力の源としては、『灼熱』『渇』『破壊』『死』『背徳』『悪意』『闇』からになります。
【追記】
 なお、過去に於いて覚醒する者達は光も闇もそれぞれの源となる力と同じで七人だったが、近年は何故か同じ力の根源を持つ『覚醒者』が現れているという。
 それが何を意味するものなのか、『覚醒者』達の間では様々な憶測が漂っている。
・宝具
 覚醒した際に具現化された武器の総称。
 その種類は千差万別で、覚醒者達のイメージでその姿もまた変化する。名称もそれぞれによって異なり、覚醒者達によって命名される。

●今回の参加者

 fa0509 水鏡・シメイ(20歳・♂・猫)
 fa1077 桐沢カナ(18歳・♀・狐)
 fa2772 仙道 愛歌(16歳・♀・狐)
 fa4131 渦深 晨(17歳・♂・兎)
 fa4133 玖條 奏(17歳・♂・兎)
 fa4137 ☆島☆キララ(17歳・♀・犬)
 fa5461 榊 菫(21歳・♀・竜)
 fa5582 巴 円(22歳・♀・ハムスター)

●リプレイ本文

●Mind control――喪失
 ――クスリ、と彼は笑った。
 それはとても冷たく、酷薄そうで、私は思わず怯えてしまった。
「ああ、すいません。怯えさせてしまいましたね。大丈夫、何も心配することはありませんよ」
 そう言うと、もう一度彼は笑みを浮かべる。
 先程と違い、今度は柔らかい印象だ。私はホッとして、全身の力を抜いた。どうやら自分で思う以上に強張っていたみたいだ。
「あ、あの‥‥」
「大丈夫、私達は春香さんの味方なんだから」
 ファウストと名乗る彼の元へ私を連れてきた女性――真里菜。目が覚めた時、心配そうに私を覗き込む彼女の姿が、私の中の最初の記憶。
 そう――私は自分が何者なのか、全てを忘れてしまっていた。
「本当に探しましたよ、春香さん。私達には、貴女の力が必要なのです」
 覚束ない足取りの私に向かって、手を差し伸べてくれる彼。
 何もわからない私は、ただ戸惑うばかりで。
「さあ、ファウストさんの手を取って」
 彼女の声に促され、私はおそるおそる手を伸ばす。
 心の中に渦巻く不安や混乱も、二人の声を聞いているうちにだんだんと掻き消えていくみたい。まるでさっきまで怯えていたのが嘘のよう。
「私達は仲間です。‥‥この世界の、未来の為に――ともに戦いましょう」
 私は彼の言葉の意味を、理解することなくその手を取る。
 途端、何か心地よい感情が一気にあふれ出し。
「‥‥それでは行きましょうか。大切な弟を救い出すために」
 二人の目が怪しく光った事にも気付かぬまま、私の意識は闇に落ちた――――。

●Escape――逃走
「――あれ? おい、そこの少年!」
 不意に呼び止められた暁が慌てて振り向くと、そこにはスラッとした細身の女性が立っていた。ご機嫌そうに抱えているのは、見るからに高そうなお酒だ。
「あんた‥‥確か」
「少年、一度病院で会ってるよな。こんなところでどうした?」
「別に。なんでもないよ」
 いささか乱暴な物言いだったが、彼女は別段気にしなかった。
「そうか? まあ、少年がそう言うなら。ただ一人歩きするなら、あまりふらふらせず周りに気を配った方がいいぞ」
 元来さっぱりした性格ゆえか。
 それとも高級酒を手に入れご機嫌なせいか。
 そう言った後、彼女はわさわさと暁の頭を撫で回した。
 普段子供扱いされるのを嫌う暁だが、何故かこの時の彼女の行為を嫌だとは思わなかった。それは彼女の言い回しのおかげなのか――あるいは。
「わかった。気をつけるよ」
 軽く頭を下げると、暁はそのまま振り返りもせずにその場から立ち去る。それを暫く見送ってから、彼女もまた歩き出そうとして――二人の男とぶつかった。
「あ、ごめんなさい」
「‥‥悪い」
「いえ、こちらこそ」
 彼女が言葉を返すようも早く、男達の姿は素早く脇をすり抜けていった。
 まるで何かを追いかけているように急ぐその姿。一瞬、あっけに取られたもののすぐに自分には関係ないと思い返す。
 これから待つ至福の一時を思い描き、彼女はその場を後にした。
「――兄さん、セシリアさんへの連絡は? きっと心配してる筈ですよ」
「‥‥既に済んだ。こっちに向かうそうだ」
「じゃあ俺らは、彼を見失わないように‥‥」
「闇の連中にもな‥‥」
 すれ違った二人の会話を耳にすることなく。


 聳え立つ遺跡を前に、セシリアはじっと考えていた。
 暁少年を何度も狙う闇の勢力。一体彼らは何故あそこまで執拗に彼を連れ去ろうとするのだろう。
 彼女の目の前には、新たに発見された一枚のレリーフ。光と闇――アフラ・マズダとアンラ・マンユを対極にその戦いが描かれている。
 それだけならば、過去の文献と同様にただの伝承。
 だが、現実に自分達は光の加護を受けて覚醒している。
「‥‥私達は何かとても大切な事を、長い戦いの間に取りこぼしてしまったのではないかしら‥‥?」
 どうして自分達は戦うのか。
 光が光である理由。闇が闇である理由。
 善だから。悪だから。
 はたしてそもそもの始まりはなんだったのか‥‥それすら、長い戦いの歴史の中で埋もれてしまっているのではないか。
 そんな物思いに耽る彼女の意識を断ち切るように、携帯電話が着信音が突然鳴った。別に驚きはしなかったが、何故か一つ息をついてから、彼女は受話ボタンを押す。
「‥‥はい、セシリアです。あ、氷雅さん。どうですか、見つかりました? ――――え?!」
 受話器の向こうから告げられた内容に、セシリアは思わず携帯を落としてしまった。


「さあ、パーティの始まりだよっ!」
 本来静かな筈の病院が、この時ばかりは騒然となっていた。
 逃げ惑う人々が、我先にと出口を求めて殺到する。怯えて泣き叫ぶ者、怒号を放つ者、その場に蹲る者など、その様子はまさに阿鼻叫喚だ。
 無理もない。
 突然、烏に似たアンデッドの大群が病院を襲ったからだ。ただの鳥ならまだよかった。死の色を乗せた異形の姿を見たからこそ、人々はパニックに陥ったのだ。
 その様子をただ一人、楽しげに窺う女性――静音の姿があった。
「‥‥ここだね。ふふ、随分探したよ」
 アンデッド飛び交う中を平然と歩き、彼女は一つの病室の前に立つ。舌なめずりしながら微笑む姿は、大人の色気を感じさせるほどにセクシーだ。
 手に持つ巨大鎌――スケアクロウを振るうと、まるで壁が豆腐のように簡単に切り刻まれた。その奥には、ベッドの上で静かに眠る男がいる。未だ意識の戻らない暁の父親だ。
 ふふふ、と彼女はもう一度笑う。
 その細身の身体のどこにそんな力があるのか、大の男一人を彼女は軽々と担ぎ上げた。そうして一度息を吸い込む。
 病院の中、充満する死の気配。それは彼女にとっては極上の美酒にも等しい。
「それでは行きましょうか、お父さん。家族のところへ」
 姉は既にこちらの手の内。
 父親も手に入れたと知れば、あの子もきっとこちらへやってくるだろう。そう考えると何故か静音は楽しげな気持ちになる。
「さあ‥‥早くおいで」
 そんな呟きを残し、彼女の姿はゆっくりと闇へ消えた。


「これって確か‥‥」
「あの人の仕業でしょうね」
「ま、しょうがないかぁ」
 眼下で繰り広がる病院の光景に、真里菜は小さな溜息をついた。ファウストも軽く苦笑を零しつつ、後ろに立つ春香の方へ振り返った。
「この様子では、弟さんはもうここにいないでしょうね」
「おとうと?」
 虚ろな瞳で彼の言葉を繰り返す少女。
「そ、暁君っていって、春香さんの弟だよ。二人はすっごく仲が良かったんだから。ホントは会わせてあげたかったんだけど、此処にはもういないみたい」
 残念そうに肩を落とす真里菜。
 見る者が見れば、どこか芝居がかった雰囲気を察しただろうが、今の少女には疑問に思う事すら思いつかない。
「では探しに行きましょうか。貴女の弟さんを」
 ファウストがそっと少女を抱き寄せる。
 肩に添えられた右手。そこに光る白銀の爪。それが何を意味しているのか、少女は気付かない。
 そうして三人は病院を後にした。

●Contact――遭遇
「――姉ちゃん!!」
「暁くん、駄目だっ!」
 叫んで飛び出そうとした暁を、紅輝が咄嗟に腕を掴んで止める。ぐいっと後ろへ引っ張ると、兄である氷雅がそのまま庇うようにして前へ出た。
「くすくす、ほら春香さん。あの子が弟の暁君だよ」
 隣に立つ女性に、二人は見覚えがあった。姉弟の知り合いだと言って病院へ見舞いに来た真里菜という女性だ。
 やはり闇の連中でしたか、と紅輝は軽く舌打ちする。
「やっぱり暁くんのお姉さんは貴方達が‥‥!」
 弟の言葉に合わせるように氷雅の視線も鋭さを増す。
 そんな緊迫した空気の中、真里菜は平然といつものように振舞う。あれが私の弟、と呟く春香の背を促すように押した。
「ほら、春香さん」
「‥‥暁」
 そのまま、春香は暁のもとへ駆け寄ろうとする。
 だが、身構える紅輝と氷雅の雰囲気に圧倒されて近付けない。
 その時、彼女の脳裏に蘇ったのは、ファウストの『光は敵』という言葉。弟との逢瀬を邪魔する彼らは、自分の敵。それならば自分のするべきことは。
「――姉ちゃん?!」
 ハッと目を瞠る暁。
 彼らの目の前で春香が取った行動は、手にしたナイフで二人を攻撃するという事。そこに理性や道徳といった感覚はなく、彼女はそれが当たり前の行動だと認識していた。
 咄嗟に後ろへ引いて身をかわしたものの、僅かに掠った切っ先が紅輝の右腕に赤い一筋を刻む。
「なにか‥‥術、なのか?」
 操られている、といった感じではない。
 そこには、確かに彼女の意思が感じられるからだ。
「紅輝」
「心配ない。掠り傷ですよ、兄さん。それより‥‥」
「ああ」
 再び煌くナイフが二人を襲う。
「姉ちゃん、止めろよ!」
 動揺する暁が叫ぶ。
 だが、今度はわかっていた為に簡単にかわした。そのまま闇雲にナイフを振るう春香だが、一般人と覚醒者の差は歴然で、一つたりとも当たる事はない。
 さすがに不利を感じた真里菜は、彼女を援護するように自分もナイフを取り出した。
「こういうのあんまり得意じゃないんだけどなぁ」
 二人の攻撃を、彼らは防戦一方でかわす。
 さすがにこのままでは埒が明かないと思った紅輝は、氷雅の方へ目配せする。こくりと頷く兄を確認すると、彼は一気に攻撃へと転じた。
 身をかわしつつ春香の背後へ回り、手の中の短剣の柄部分で彼女の背中を打つ。勿論手加減はしてるつもりだが、気絶させるぐらいの力を込める。
「ぁっ!?」
「春香さん!」
 慌てる真里菜の一瞬の隙を突き、氷雅は鉄扇を彼女の首元へ突きつけた。その本気の殺気に、彼女はさすがに動きを止めた。
「大人しくしてもらいましょうか」
 紅輝の言葉に、真里菜は悔しさに歯噛みする。にじり寄ってくる二人になす術もない。
 その時、彼女は見た。
 暁の口元が僅かな笑みを浮かべるのを。
 紅輝と氷雅は背を向けていた為、それに気付く事なく――彼の足元から浮かんだ黒い球が自分目掛けて飛んでくるのを――彼女だけが見た。
「え‥‥」
 途端、湧き上がってきたのは――力。紛れもなく自分の力。
「何?」
「しまっ――」
 慌てる二人。
 その前で真里菜は、その背に光り輝くオーラの翼を具現化していく。強烈な闇の波動が一気に広がり、周囲の一切を悉く破壊していった。
 その覚醒がようやく収まる頃、そこには春香の身体を抱え上げる真里菜の姿。
 紅輝と氷雅は、衝撃から暁を守るので精一杯だった。
「ま、真里菜さん‥‥」
 驚愕に震える暁。
 そこに先程の笑みはない。あれがなんだったのか真里菜は知らない。
 だが。
「暁君、ゴメンね。この人たちに春香さんは渡せないの。会いたければ私の所へ来なさい」
 それだけを言い残し、彼女は飛び去った。
 後に残されたのは茫然とする少年と、悔しげに拳を握る二人の男。

「‥‥ふふ」
 一連の光景を見守っていたファウストは、不気味な笑みを浮かべる。
 彼の思惑どおりの展開に、その心中はかなり楽しげだ。
「もっと私を楽しませて下さいね」

 飛び去っていく影を、ハッとしながら見送るセシリア。
 既に射程外ということもあり、彼女に出来る術は今はない。
「‥‥春香さん、暁さん」
 離れ離れになってしまった姉弟を思い、悲しげな表情を浮かべながら。


「――‥‥?」
 すれ違った瞬間、何か違和感を感じた少女を静は振り返る。
 が、すでに人ごみに紛れたようで見つからない。
「‥‥まあいいか」
 奇妙な違和感は彼女の中に沈殿する。気付かぬうちに‥‥来るべき日のために。

●キャスト
 神威 暁:如月 一哉(NPC)
 神威春香:☆島☆キララ(fa4137)

 セシリア:桐沢カナ(fa1077)
 神楽 紅輝:渦深 晨(fa4131)
 神楽 氷雅:玖條 奏(fa4133)
 神杜 静:榊 菫(fa5461)

 静音:仙道 愛歌(fa2772)
 真里菜:巴 円(fa5582)
 ファウスト:水鏡・シメイ(fa0509)