光と闇の黙示録/第四章アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 葉月十一
芸能 2Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/26〜07/30

●本文

 ――全ては定められていた事なのか‥‥

 乾いた風は砂塵となって大地を疾る。
 幾重にも舞う砂埃の中を、微動だにせず立つ人影がひとつ。羽織るコートを風に靡かせて、少年はただ見据える。口元に凶々しい笑みを浮かべながら。
 そして、少年を囲むように七つの影。
 いずれも同じような格好をして、少年に付き従うかのごとく黙したまま。
 彼らの立つ場所は、すでに崩れた廃墟。見渡す限りの瓦礫の山の上、彼らはただ佇む。
 じゃり、と砂を踏む足音。
 一歩進んだ少年は、見る間にその身を闇を纏う。鋭い眼差しはあらゆる憎悪を孕み、ただ天を見据える。
 それを合図に七つの影達も――ある者は立ち上がり、ある者は笑みを浮かべ――闇を纏った。
 そして。

「――さあ始めようか。あいつへの復讐劇を」

 呟きは、風に舞って消えていく――――。


 暁は、ただ茫然と立ち尽くしていた。
 ようやく会えた姉は、いきなり攻撃をしてきた。驚く自分の前で次々と起こる人間ばなれした戦い。そして姉は去り、その場に残された暁。
 慰める人たちを振り切って病院へ戻ると、今度は父が攫われたと聞かされた。
 何かに襲われた病院はパニックとなり、建物もあちこちが壊されていた。父の病室へ飛び込んだ暁が見たものは、ぽっかりと空いた穴と、父のいなくなったベッドだけ。
 なんで? なんで? なんで?
 渦巻く疑問に暁は飛び出す。制止する声にも振り返ることなく彼は走った。
 ただ無我夢中で走る中、次々と脳裏を過ぎる幻影ともとれる光景。わけのわからないまま走り、走り、走り続け‥‥気が付けば、暁はとある遺跡の前にいた。
 今まで見たこともない遺跡――いや、遺跡と呼ぶには真新しすぎるその建造物は、まるで暁を誘うかのようにぽっかりと一つの出入り口を示している。
 何も考えられなくなっていた暁は、本能に促されるまま、その遺跡へと入っていった。

 彼は知らない。
 そこは、かつて遭難した父が迷い込んだ遺跡である事を――――。

●出演者募集
 ファンタジー映画『光と闇の黙示録』は、子役である一哉主演(役名:神威暁)の連作映画です。
 記憶をなくし、闇に捕らわれた姉。そして父親までも闇に攫われるという事態。その中で暁自身にも変化が訪れようとしていた。時折見る夢。途切れる記憶。断片的なそれらの事象は、暁の心にゆっくりと降り積もろうとしていた‥‥。

 今回募集する役柄は、以下のとおりです。

○『光』サイドの覚醒者
 光の力を操り、闇を打ち払う者達です。
○『闇』サイドの覚醒者
 闇の力を操り、世界を闇で覆うとする者達です。
 どちらの覚醒者も、事故や戦いに巻き込まれて瀕死の状態から覚醒する者、天から啓示を受ける者、悪の誘惑に飲まれた者、生まれながらにして覚醒している者など、力に目覚める方法は様々です。
 覚醒の際、戦うための力を一つだけ得る事が出来、またそれにあわせた武器も一つだけ具現化する事が出来ます。
■前回までに登場した覚醒者■
 『光』サイド:植物、聖火、水、創造、大地(死亡)、精神(未覚醒者)
 『闇』サイド:死、闇、背徳、破壊、悪意、灼熱

○神威暁の家族
 現在、PCが演じたものとして父と姉がいます。
 今回、節目という形で家族のどちらかが死亡する予定です。PCが演じる場合、どのような展開かを希望するか製作会議にて話し合い、プレイングに記述をお願いします。出演者がいなけば、NPCが演じる形で展開します。
 また、家族に関しては、あくまでも一般人で『覚醒者』ではありません。
○『光』、あるいは『闇』サイドの協力者、その他友人知人等
 あくまでも一般人ですが、後々覚醒する者として設定しても構いません。

 前回参加者は、そのまま役柄を継続する事が望ましいですが、死亡した事にして新たな役として登場しても構いません。
 また前回参加していないからといって、今回覚醒者となれないことはありませんので、気楽にご参加下さい。
【追記】
 今回、展開上かなりハードな内容となります。本章までは希望しない限り演じる役が死亡する事はありませんでしたが、次回からはプレイング次第で死亡する展開となりうる事をご了承下さい。

●世界設定
 物語は、神話の時代から続く光と闇の争いを、中東を意識した神話に基づいた設定で構成されています。但し、あくまでも映画上の設定として用いられてるだけで、実在するものとは一切関係ありません。
○『光』サイド
 光の最高神アフラ・マズダーの守護の元、人々を闇の恐怖から守る為に人知れず戦う者達。長い年月を経て協力者の存在もありますが、戦うのはいずれも覚醒した者達だけです。
 なお、覚醒した際の力の源としては、『聖火』『水』『大地』『鉱物』『植物』『精神』『創造』の何れかとなります。
○『闇』サイド
 悪神アンラ・マンユの教えに従い、人々に悪徳をばらまいて世界の崩壊を目的とした者達。人々を闇で操り、堕落させ、やがては破滅へ導くためならばどんな手段をも厭わず、その為しばし歴史的大事件を引き起こして世界を震撼させてきた。
 彼らの力の源としては、『灼熱』『渇』『破壊』『死』『背徳』『悪意』『闇』からになります。
【追記】
 なお、過去に於いて覚醒する者達は光も闇もそれぞれの源となる力と同じで七人だったが、近年は何故か同じ力の根源を持つ『覚醒者』が現れているという。
 それが何を意味するものなのか、『覚醒者』達の間では様々な憶測が漂っている。
○宝具
 覚醒した際に具現化された武器の総称。
 その種類は千差万別で、覚醒者達のイメージでその姿もまた変化する。名称もそれぞれによって異なり、覚醒者達によって命名される。

●今回の参加者

 fa0509 水鏡・シメイ(20歳・♂・猫)
 fa1077 桐沢カナ(18歳・♀・狐)
 fa2446 カイン・フォルネウス(25歳・♂・蝙蝠)
 fa2772 仙道 愛歌(16歳・♀・狐)
 fa5461 榊 菫(21歳・♀・竜)
 fa5624 加恋(18歳・♀・兎)
 fa5719 相麻静間(8歳・♂・獅子)
 fa5820 イーノ・ストラーダ(23歳・♂・狐)

●リプレイ本文

●崩壊の序曲
「ん、あの少年は?」
 何かに呼ばれたかのよう遺跡へと立ち寄った神杜 静。
 そこで彼女は、見知った顔を見つける。先日から何度となくすれ違い、気になっていた暁少年だ。
「妙だな、様子がおかしい‥‥」
 静が見ている前で、少年はふらふらと遺跡の中へ入っていく。覚束ない足取りは今にも倒れそうに見え、彼女自身何故か心配が胸中に芽生えていく。
 染みのように滲む不安は、彼女を咄嗟に突き動かす。
「――仕方ないな」
 そのまま少年の後を追って、遺跡の中へと足を踏み入れた。
 その様子を、二つの視線が見つめていた事に気付かず。
「‥‥なるほど、こんな所にあったのですか」
 抑揚のない呟き。
 長い銀髪を風に揺らしながら、ファウストはただ冷たく見据える。彼の傍らには一人の少女。虚ろな瞳は、ただ従うだけの傀儡に堕とされた証。
「別に彼女に報せる必要はないでしょう。あの子ももうすぐ来るみたいですから」
 微かに浮かぶ笑み。
 ふと――何故か今、幼い頃に聞いた『声』を思い出す。あの日から今日まで、自分を突き動かすのはその『声』の導きだけ。
「さあ、行きましょうか。貴女の大切な弟さんのもとへ」
 そして彼らもまた、大きく口を開けた遺跡へと一歩を踏み出した。

●語りえぬ真実
 闇の一室。
 ベッドに横たわる男の傍らに立つ一人の女。残忍な笑みを浮かべた彼女は、まるで接吻けるかのように耳元へ唇を近付け、甘い囁きを吹きかける。
「さあ、話して貰おうか。あの少年の――貴方の息子の秘密とやらを」
 睦言のような誘いに、男はただ促されるまま口を開く。
 そのまま――静かに言葉を紡ぎ始めた。
「あの子は‥‥鏡のようなものだ」


「――――!」
 聞こえてきた声に、千歳はハッと息を詰める。
 そっと覗き込んだ場所にいるのは、先の騒乱に巻き込まれた時に遭遇した二人だった。
(「ベッドに括り付けられているのは‥‥確か、与太郎さん。女性の方は以前襲ってきた‥‥静音さん、だったかしら」)
 彼女はそのまま身を潜めると、ただ聞こえてくる声に耳をすませる。
「鏡? どういうこと?」
「光にあらば闇の主の力を宿し、闇に身を置けば光の主の力を宿す‥‥私はそう夢で告げられた」
(「闇の主? 光の主? いったい何の話を‥‥」)
 ホテルに戻って、ただ闇雲にスケッチブックに鉛筆を走らせた千歳。
 その時出来上がった建物が、まさか本当にあるとは思わずに街へ出て、彼女はそれを見つけた。何も考えず入ったその場所でまさかこんな場面に出くわすなんて、と身震いをせずにいられない。
 先の恐怖が彼女の中に蘇り、思わずギュッと両腕で自らを抱きしめた。
「ただその魂に安穏を‥‥私はそう託され、絶えず見守ってきたのだ。何にも属せず、なんでもない日常を送れる日々を願って」
 与太郎の声はまるで経典を読み上げているようで、なんの起伏もなく、そこに情は感じられない。
 だが。
「――不可侵を破ったのはお前達だ、覚醒者ども。もう‥‥何もかもが遅い‥‥」
 その言葉にだけは、彼の精一杯の意思が込められているように千歳は感じる。
 早く助けなくては。
 そう何度も思うのだが。
「‥‥怖い」
 彼女の身体は恐怖に震えるばかりで一歩も動けない。
 ひとしきり聞くべき事を聞いた静音は、ゆっくりと身を起こす。
「なるほどねぇ。他にも何かあるようだが、それはあの子を捕まえてゆっくり調べるとするよ。それより――」
 闇の中、彼女の刃が一閃する。
 咄嗟に感じた殺気に、千歳が反射的にその場と飛び去る。すると、今まで彼女がいた場所が激しい音を立てて崩壊した。
「迷い込んだ子猫ちゃんを、可愛がってあげないとね」
 愉悦に歪む笑みを浮かべた静音は、対照的に青ざめる千歳を高圧的に見下ろす。
 直後――両者の間で閃光が走った。

●遅すぎた者達
「やれやれ、やっと着いたか。えらく時間食っちまったな‥‥手遅れでなけりゃいいんだが」
 空港に降り立った青年――カインは、ぼやくように呟いた。
 カジュアルな格好に身を包み、ノリの軽い今風の若者のように見える彼だったが、その眼は真摯な意思を感じさせるものだ。
 そして、口元に浮かべた笑み。
「まあ、何とかする為に俺が来た訳だし、な」


 光の矢が大気を貫く。
 が、それより早く巻き起こった灼熱の炎が防ぐ。
「そこ、どいてくれないかな。僕、急いでるんだから」
「いいえ、どきません!」
 余裕めいた鬼麿の言葉にも、セシリアは一歩も引くつもりはなかった。
 具現化した彼女の宝具『聖樹弓ウルヴァヌス』も、何度となく行われた激しい戦闘で損傷が激しい。それは即ち、彼女自身の力もかなり消耗している事を意味する。
 だが。
「何があっても‥‥暁さんは‥‥」
 何度倒れても、セシリアは立ち上がる。
 それは、『覚醒者』としての使命だけでは決してなく、これ以上暁少年を悲しませる事がないようにとの願いがそこにはあった。
「ホントしつこいなあ。いい加減にしないと、静音様に怒られちゃうよ」
 鬼麿にとって、敵よりも仲間である静音の方が怖い存在だ。これ以上、徒に手間取っていては何を言われるか分からない。
 だから、彼は一気に攻勢へと躍り出た。
「今度はこっちからいくよ!」
 手に持つ骸扇を振り上げ、溜めた力を放つように一気に扇ぐ。今までの比じゃない灼熱の業火が、波のようにうねってセシリアを襲う。
「――ッ! きゃぁっ!?」
 咄嗟に弓を前に突き出したが間に合わず、砕けた弓と一緒にセシリアの身体は宙へ投げ出された。
 そのまま地面に倒れた彼女を見て、鬼麿が僅かに息を継ぐ。
「フン、僕の邪魔をするのがいけないのさ」
 そんな言葉を言い捨てると、彼は遺跡の中へ入っていった。
 ‥‥僅かに残った意識でその後ろ姿を見送るセシリア。なんとか起き上がろうと奮い立たせるが、指先一つ動けない。
「‥‥暁、さん‥‥」
 力ない呟きが風に消える。
 ほぼその直後、ようやく遺跡へと到着したカインが倒れるセシリアを発見する。

●封印
 それは酷く奇妙な光景に思えた。
 暁少年に追いついた静は、目の前にいる彼の姉という女性を観察する。一目で操られていると分かるぐらいに虚ろな表情。
「姉ちゃん!」
「待て」
 叫ぶ彼を、彼女は懸命に押し留める。
「さあ、暁くん。私達と共に行きましょう。貴方のお姉さんもそれを望んでいます」
 女性の後ろに立つ青年――ファウストと名乗った彼の、演技じみた態度にも彼女は少し怪訝に感じる。
 肉親を操り、暁少年を手中に入れようとする。
 作戦としてはよくある手段だが、どこか歪な感じが否めない。そして、彼を懸命に守ろうとする自分自身にも、静は奇妙な違和感を感じていた。
 それは、未だ覚醒に至らないための傍観者に過ぎない彼女の本能が、警鐘を鳴らしていたのかもしれない。
「少し落ち着いたらどうだ?」
 だから、気付かなかった。暁少年を背中に庇った時、彼の口元が僅かに笑みを浮かべた事に。
 そして――ファウスト自身も徐々に苛立ちが募っていた。なかなかこちら側に歩み寄ろうとしない暁に対して。
 作戦は完璧だ、と自負する彼にとって、これ以上時間をかける事は好ましくない。
「‥‥分かりました。どうやら、この程度の生温い方法ではダメなようですね」
 それは、『背徳』の意思に従うファウストだからこその結論。
「何を――」
 静が、暁が、その意図に気付くよりも早く、彼は実行する。
 倫理も、道徳心も、持ち合わせる必要がなかった彼の、下した決断は一刃の凶器となって暁の姉の胸を貫いた。
「――姉ちゃんッ!!」

 直後。
 遺跡中が闇に満ちる――――。


 何度となく斬り結び、そのたびに劣勢となっていく千歳。
 それを妖艶な笑みで追い詰めていく静音。
 が、そんな死闘の最中、飛び込んできた一羽の鴉。それは静音の周囲を一つ旋回すると、静かに彼女の肩へ降り立った。
「‥‥ふうん、鬼麿が何か掴んだのかい。あの男が何か仕出かしたのか」
 一瞬の真顔。
 が、すぐにいつもの笑みを浮かべると、彼女はそのまま千歳に目もくれず立ち去っていく。
「仕方ない。パーティはお預けだよ、お嬢ちゃん」
 そう、言い残して。
 その場に残されたのは千歳、そして。
「‥‥あの子は封印‥‥日常の金型。ああそれが‥‥消えたのか」
「え?」
 与太郎から聞こえた呟きに、彼女はハッと向き直る。
 未だ虚ろな催眠の中の彼の言葉の意味を考え――それを、理解した。彼があの子と呼ぶのが誰なのか、そして今何が起きてしまったのかを。


 膨れ上がる闇に、セシリアの意識は完全に覚醒した。
「お、おい。まだじっとしてた方が」
 カインの助けを借り、なんとか遺跡の中まで入っていたが、これ以上先へ進むと危険な事はわかっていた。
 いまや遺跡中に満ちる闇の気配。
 それは、『覚醒者』以上の存在を示している。
「ま、同じ植物の『覚醒者』の誼だ。君の気のすむまでやりなよ。あ、終わったらデートしない?」
 そんな中で軽口を叩くカイン。
 身体の痛みも忘れ、思わずセシリアは苦笑する。
 だが、ようやく辿り着いた遺跡の奥で、彼女は信じられないものを見て驚愕に身を凍らせる。
 床を染める真っ赤な血。その上に横たわるのは、無残に引き裂かれた少女の姿。
「こりゃあいったい‥‥お、おい、大丈夫か?」
 部屋の隅で気絶する静に気付いたカインが、咄嗟に駆け寄って呼びかける。僅かな呻きが聞こえたから死んではいないようで、幾分ホッとする。
「‥‥っ」
「おい、いったい何があった?」
「‥‥彼、が‥‥」
 血の海の向こうには、青年が一人。その斜め後ろに、小柄な少年が横たわっている。
 そして、ちょうど真ん中――セシリアが真っ直ぐ見つめる先には、一人の少年が静かに佇んでいる。その少年の名を、彼女はおそるおそる呼んだ。
「‥‥暁、さん?」
 その声に反応して、少年がゆっくりと振り返る。
 そこにいるのは、いつもと変わらない彼。
 ホッとして駆け寄っていく彼女。
「駄目だ、セシリア! もうその子は――」
「え?」
 カインの声に振り向こうとした矢先、セシリアはズンと強い衝撃を胸に受けた。
「‥‥え?」
 おそるおそる見下ろせば、暁の腕が自分の胸を貫いていた。血に染まる手が掴んでいるのは、白い球体。グッと力を込める事で、それはいとも容易く砕け散った。
 セシリアは、その時初めて知る。
 彼が砕いたのは自分の力の源だということを。
 だが、同時に悟る。
 今この場に同じ能力を持つ『覚醒者』がいたことの意味を。それはカインも同じで、砕けた光が自分の中に宿るのを悲痛とともに悟った。
「‥‥チッ、代わりがいやがったか」
 違う口調。異なる雰囲気。
 暁がもはや別の存在になってしまった事を彼女は理解したが、それでも最後に一つだけ彼に伝えたかった。
 貫かれた身のまま、彼女は少年の身体を抱きしめる。
「くっ、何を――」
「どうか‥‥どんなに辛いことが、あっても‥‥生きて‥‥下さい、ね‥‥」
 刹那――目を瞠る彼に、まだ大丈夫な事を確信して、彼女の意識はそこで途絶えた。
「セシリア!!」
 カインが叫ぶ。
 だが、今飛び掛ったところで為す術がないのは、彼自身よく分かっている。ここは静かに堪えるしかない。
 そうする間に、目を覚ましたファウストが少年の前で静かに傅く。
「我が神――よくぞお目覚めで」
「ふん。ヤツら、小賢しい策を弄しやがって。ま、結局は俺の方が上ってことだ」
「仰るとおりで」
 どこか芝居がかったファウストの動き。
 カインの目には、まるで暗示がかかったかのようにすら見える。
「所詮、ヤツらはこの程度。俺を止められることなんか出来やしねえんだよ」
「仰せのままに」
 そうして。
 血に染まった腕を振り上げた暁とそれに付き従うファウストの姿は、ゆっくりと闇の中に消えていった。一瞬だけ振り返った悲痛な表情をカインの視界に残して。


 震える鬼麿の姿を見つけ、静音は首を傾げた。
「鬼麿‥‥どうしたんだい?」
「し、静音様!」
 血相を変えた彼にますます困惑する。
「な、なんなんだよ、アイツ‥‥いったいなんで‥‥」
「落ち着きなさい。いったいどうしたの?」
 叱責するも、鬼麿が零す言葉はしどろもどろで要領を得ない。ふと、ファウストがいたことを思い出し、彼の事を聞いてみるも。
「し、知らないよ、あんな奴! いきなりアイツに従順になっちゃってさ。なんか変なんだよ。静音様、僕アイツが怖い!」
 叫ぶ鬼麿に、静音の困惑は増す一方で。
「‥‥どうやらおかしなことになってきそうだねぇ」
 彼女はそう呟くと、目の前の遺跡をじっと見上げた。

●キャスト
 神威 暁:如月 一哉(NPC)
 神威 春香:NPC
 神威 与太郎:イーノ・ストラーダ(fa5820)

 セシリア:桐沢カナ(fa1077)
 神杜 静:榊 菫(fa5461)
 千歳:加恋(fa5624)
 カイン:カイン・フォルネウス(fa2446)

 静音:仙道 愛歌(fa2772)
 ファウスト:水鏡・シメイ(fa0509)
 鬼麿:相麻静間(fa5719)