IDOL Audition【中東】中東・アフリカ

種類 ショート
担当 葉月十一
芸能 2Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 不明
参加人数 7人
サポート 0人
期間 08/06〜08/10

●本文

●次世代アイドル募集
 ハイパープロジェクト――通称ハイプロ――のオフィシャルホームページ上で、その告知は発表された。
 女性アイドル達を中心とし、かつては勢いに乗っていたそのプロダクションも、最近ではアイドル達のジャンルの細分化に伴い、徐々にだが翳りが見え始めていた。
 その打開策として練られたのが今回のオーディションだ。

『Global Artistic New Generation IDOL』――通称『GANG』。

 すなわち、『Global(世界的)』で『Artistic(芸術的)』な『New Generation(新世代)』のアイドルを発掘しようというプロジェクトだ。そのため募集も日本――アジアだけに留まらず、欧州、中東、南北アメリカにまで広く手を広げた破格の募集だ。
 そして、各会場ごとの予選を突破した1〜2名の者達が、本選を経てGANGのメンバーとして選ばれる形となっている。
 その応募要項は以下の通りだ。

○GANGオーディション募集要項
 中学生以上の歌う事が好きな者で、プロアマ及び男女問わず。
 プロとしての活動があれば簡単な経歴を明記すること。
 各会場ごとに歌詞の一節が提示されます。それに自分なりの歌詞を付け加えて予選会場で歌って下さい。その際、曲に対するイメージや曲調、歌い方などは確実に明記すること。
 今回のオーディションに対するあなたの意気込みをどうぞ。
 なお、本選を突破して見事選ばれた皆様は、職業が『GANGハイプロ』となります事をご了承下さい(予選の段階では職業欄は変更しません)。

○歌詞【中東会場】
 遠く 遠く 遥かな未来(あす)へ 僕の想いを伝えてよ
 いつか いつか 必ず届く そう信じたい現実(いま)を Flying Away

 審査・プロデュース――須崎渉(fz0034)

●今回の参加者

 fa1406 麻倉 千尋(15歳・♀・狸)
 fa2573 結城ハニー(16歳・♀・虎)
 fa3584 花田 有紗(15歳・♀・リス)
 fa4339 ジュディス・アドゥーベ(16歳・♀・牛)
 fa5302 七瀬紫音(22歳・♀・リス)
 fa5719 相麻静間(8歳・♂・獅子)
 fa5939 祥月 暁緒(19歳・♀・兎)

●リプレイ本文

●控え室
 多数の参加者が集まったGANGオーディション中東会場の予選も、いよいよ大詰めを迎えていた。
 残ったのは、この場にいる七名のみ。
 この内の僅か一、二名だけが本選へと進む事が出来るのだ。どの出場者の顔にも皆、不安と緊張が入り混じりしている。
 ある者はもう一度振り付けを確認し、ある者はじっとして集中を高めている。メロディを確認するようにハミングする者、小さくギターを弾く者、服装のチェックをする者など、皆緊張を和らげようと必死だ。
 その様子を控え室の付けられたカメラでしばらく観察する須崎・渉(fz0034)。
「――よし、それじゃあ最初の者を呼んでくれ」
 その言葉を合図に、控え室の扉がゆっくりと開かれた――。

●麻倉 千尋(fa1406)――ダンスサウンド
「朝倉千尋です。よろしくお願いします!」
 うわっ、あたし緊張してる?
 でも、ここまできたらやるしかないよね。
 そう思って、あたしは今までの経歴を次々と説明したよ。ミュージカルやゲームキャラのCD、それを自分で作った歌で歌ってきたことを。
「‥‥なら、今回の志望動機は? 自分で楽曲が作れるなら、それでいいんじゃないか?」
 須崎さんたら意地悪いなぁ。
 でも、きっとこれもこっちの反応見る為なんだよね。そう思って、あたしは自分の気持ちを素直に答えた。
「他の人が作った『世界』を歌ってみたくなったんです。自分では表現出来ない、自分以外の人の感情が入った曲を」
 これが今のあたしの素直な気持ち。等身大の自分を見て欲しい――だから、今日だって制服のままで来たんだし。
「じゃあ、歌ってみてくれ――君の歌を」
「はい」
 頷く。
 流れてきたのは軽快な電子音。須崎さんの過去の楽曲を、あたしがソフトで自分流にアレンジしたもの。

『夢の翼は 今はまだ小さくて 僕を支えるのがやっとで
 今は昔の 遠い日の約束 忘れた訳じゃないよ

 青いガラスで 眩しさ遮ったのは 目を逸らす為じゃなくて
 手の届かない だけれどそこに見える 目標(ユメ)見据える為』

 可愛らしさよりも、爽やかさを強調した曲調に合わせてあたしは踊る。
 今までの仕事で培ってきた経験をここで出さなきゃ、現在のベストを見てもらわなくちゃ。

『雨に打たれ 風に煽られて 目的地は未だ遥か遠く
 だけど何も 恐れる物はない あなたとの誓い胸にある限り――』

 サビに入る一歩手前、あたしは勢いよくターンした。その一瞬、制服のスカートが風に乗ってひらりと舞う。

●結城ハニー(fa2573)――アメリカンポップ
 アイドルというからには、明るさを全面に押し出さないとね。
 そう考えた私のチョイスした衣装は、60年代のアメリカを意識したフレアミニのワンピース。これなら普段の色っぽさも少しは出せるんじゃないかしら。
「結城ハニーです。歌に関して本格的な活動経験は御座いませんが、よろしくお願いします」
 いつも以上に丁寧な言葉。
 やっぱりこういう時は礼節を守らないとね。
「君は、どんな感じの歌が歌いたい?」
「聞いて貰えて人を元気にするような、そんな歌を歌っていきたいです!」
 須崎さんの質問に緊張する中、私は精一杯の笑みでそう返したわ。
 そうして。
 ようやくインタビューが終わり、いよいよ歌ね、と意気込む中に流れてきたのは、明るいポップス調のメロディ。
 私は、ティーンへの応援歌のような感じで歌い上げた。

『――強く 強く 信じる心を 君の気持ちを伝えてよ
 いつか いつか 必ず届く そう信じたい夢を Feel Dream』

 サビの最後に自分の言葉を乗せて。

●花田 有紗(fa3584)――異国情緒
「こんにちはぁ。花田有紗っていいますぅ、宜しくお願いしまぁす」
 ハナはぁ、ホントはアイドル目指しているのですけれど、今までずぅっと別の仕事ばっかだったもん。今回のオーディションで、やっとアイドルとしてやっていけるかなぁ
「なら、歌の方に自信は?」
「えっとぉ、歌とか音楽はまだまだ上手じゃないですけどぉ、精一杯頑張ってみますのぉ」
 度胸試しってのはぁ、さすがに言えないよねぇ。
 でもでもぉ、ホントに頑張るんだよぉ。だってその為に衣装だって地域に合わせて黄色いサリーにしたんだもぉん。
 うふふ、太め隠しにもなるかなぁ。
 あ、曲が流れてきちゃった。早く歌わなきゃ。

『遠い遠い 異国の地に迷う私
 あなたとのさよならを忘れる為に来たのに
 更に心迷い 涙が乾いた風に晒されても 頬を伝うの』

 曲調はミドルテンポな異国情緒たっぷりの音。
 それにハナの歌を合わせていくのぉ。弦楽器が奏でる切ないメロディだから、ハナにとっても歌いやすいかなぁ。

『ねぇお願い 遥かな未来 私の想いを伝えてよ
 いつかいつか 必ず届く 私のこの想い
 そう信じたい現実を Flying Away』

 ――歌詞、ちょっと変えてみたけど大丈夫だよねぇ?

●ジュディス・アドゥーベ(fa4339)――翼の想い
「ジュディス・アドゥーベ、十六歳です」
 ドキドキしながら私は一礼する。
 最近ようやく一人前のアイドルとして認められてきた私に訪れたチャンス。なんとしてでもものにしなくては。
 そんな気負いを持ちながら、私は次々と聞かれる質問に笑顔で答えていった。
「歌ではあまり目立った活動は出来ていませんでした。でも、今回のチャンス、私は精一杯頑張って今後に飛躍出来れば、と思っています」
 そして私は、もう一度頭を下げた。
 それから須崎さんの指示で、私はスタジオ内のヘッドフォンをつける。流れてきたのは、ミディアムテンポのポップスだ。

『静かに過ぎる 平穏な日々
 示された道を 望まれたままに
 「みんなと一緒」 ただそれだけで
 正しいことだと 信じ込んでいた』

 力強く、伸びやかに。
 私は自分の言葉をメロディに乗せる。

『いつからだろう? 本当の僕に 気づきはじめたのは
 どうしてだろう? 周りの全てが 無意味に見えるのは

 遠く 遠く 不確かな未来(あす)に 輝きだした僕の夢
 たとえ たとえ 一人きりでも 追いかけてみたいから Flying Away』

 ただ一羽、青空を飛ぶ鳥になった気持ちで私は歌う。どこか淋しさがのぞく感じで、掠れた感じの声音で。
 少しでも歌詞の中の心情が誰かに伝わるように。

『――群れを離れて たった一羽で 空を行く鳥を見た
 朝焼けの空 駆ける翼に 僕の願いを託して――』

 こんな感じでどうでしょうか?

●七瀬紫音(fa5302)――Flying Away
「普段は効果音メインの七瀬紫音です」
 元気のいい挨拶、やっぱりこれが好印象のポイントよね。
 私は、挨拶の言葉どおり、普段はあまり歌を歌わない演奏者だからね。やっぱりそういう部分のアピールから入らないと。
 今回だって、ギターの弾き語りで勝負しようと思ってるから。
 勿論、歌がメインだって事は承知してるから、楽器は効果音程度のつもりよ。そもそも今日が初弾きなんだしね。
「どうぞよろしくお願いします♪」
 一礼した後、私は用意したギター片手にマイクの前に立つ。
 よし。
 まずは、一音――。

『遠く 君が 遠く 想う
 遥かな未来(あす)へ 僕の想いを伝えてよ』

 私は、ハッキリと伝わるように言葉を綴る。
 そのまま最後は余韻を残し、一拍置いて次へ繋げた。

『翔び立とう いつの日か 届くよう
 その瞳に住む 誰かを想う 君を切なく見つめ
 君を泣かせても 伝えたい この想い 振り払い
 翔び立とう いつの日か 届くよう』

 強く、弱く、高く、低く。
 流れるように声を乗せ、私はハッキリと一音ずつ歌い続けた。
 イメージするのは、いつも傍にいた相手がいつか離れてしまうような、少し切ない気持ち。私にもいつか、こんな気持ちを体験する時があるのかな、なんて一瞬頭を過ぎりつつ。

『いつか 君に いつか 届く
 そう信じたい現実を Flying Away』

 ギターで最後の音を弾き、ゆっくりと音の余韻を私は聞き入る。
 そして。

『いつか君の傍に‥‥』

 私の声で、少しは切なさが伝わればいいんだけれど。

●相麻静間(fa5719)――マーチ
 ううーん、最終予選に残った男性って僕一人なんですよね。
 ‥‥なんだか余計に緊張します。
 蝶ネクタイに半ズボン、ちょっと意識してみた格好だけど、大丈夫ですよね?
「相麻静間、八歳。精一杯頑張ります!」
 僕が用意したのはマーチっぽい感じのもの。これなら僕にだって歌いやすいし。

『――遠く 遠く 遥かな未来(あす)へ 僕の想いを伝えてよ
 いつか いつか 必ず届く そう信じたい現実(いま)を Flying Away』

 よし、次からだ。
 これが僕のイメージした歌詞です。

『さあ 飛び立つのさ Sailing Sky
 心の翼広げて Eternal Wings』

 う、ちょっとスペル間違えちゃってたけど、まあいいや。

●祥月 暁緒(fa5939)――幸色
 新人である私が、今この場に立てる事はきっと幸運な事なんですよね。
 それならば、精一杯頑張るだけです。
「小さい頃から歌が好きで、歌い続けてきました。歌を聴いた人も、自分自身も、どちらもが幸せになれる歌を紡いでいきたいです」
 私は緊張しながらも、胸に秘めたありったけの熱意を言葉で綴った。新人だからといって気後れしないように。
 じっと見つめる須崎さんの視線を、私はただ真っ直ぐ受け止める。
「‥‥それじゃあ始めてくれ」
「どうぞ宜しくお願いします」
 一礼し、私はヘッドフォンをつける。
 流れてきた曲は、私がイメージした過去と未来へ伝えるようなスローテンポ。

『久遠に過ぎ去った過去(きのう)へ伝えたい
 思ってるより 幸せな僕です‥‥』

 徐々に明るく、早くなるテンポに合わせてリズムを取る私。着ている白いワンピースも同じように揺れていた。

『ありふれた日常の中 もがいて
 「特別」になりたかったんだ
 つまらない憧れ ナイモノねだり
 隣の芝生は ホント青いね

 夢見ることは大切なPower
 でも 増えすぎたら背負えない
 大事なものは ちゃんとCan You See?
 掌の中のぞいたら
 思い描く色 あったよ』

 私は精一杯声を上げて、伸びやかに歌った。
 一音一音大切にして、今この場で歌える幸せをも気持ちに込めて――だから、今歌える事が本当に楽しい。

『DA・KA・RA
 遠く 遠く遥かな未来(あす)へ
 僕の想いを伝えてよ
 どんな色も キミ次第だって――』

 きっと、将来はグループで歌う筈。そうなると、きっと隣には誰かがいるのよね。そんな気持ちを持って私は歌ってみた。
 そうして――最後。
 私は放てる限りに声を高く伸ばして、歌の終わりを締め括った。

●最終選考発表
「それでは最終選考を発表する」
 テレビカメラの前、渉はいつもと違い真剣な表情を向ける。
 基本的にこのオーディションの風景は、ハイプロのHP上で流れるため、あまり無愛想にするなと上からお達しがきていたからだ。
「その前に一つだけ。今回、落ちたからといって落胆することはない。今回はこちらの求めるものと合致していなかっただけで、それぞれに個性ある者達が集っていた。その事を忘れないで今後とも頑張って欲しい――」

 ‥‥彼の前向上を、七人は控え室のテレビの前で固唾を飲んで見守っていた。
『――まずは一人目。その発声からくる歌唱力は、他の群を抜いていた――祥月暁緒』
 テレビから名前を呼ばれた瞬間、暁緒は思わず目を見開いた。
「わ、たし‥‥ですか」
 信じられないといった表情で周囲を見渡すと、それぞれにおめでとうの声が上がる。
 続いて、渉が二人目の名前を発表する。
『続いて二人目。随分と迷ったが、今後の成長に期待を込めて選出した――ジュディス・アドゥーベ』
「‥‥あ、ありがとうございます」
 呼ばれたジュディスは、向こうに見えていないと分かっていながらも深々と頭を下げた。
 その時、彼女のさらさらストレートヘアがふわりと揺れ動く様を、後日HP上で見た一般視聴者にひどく印象づけた事を彼女は知らない。
 本来ならここで発表は終わる筈だった。
 が、更に渉は続ける。
『本来なら歌だけで評価する予定だったが、その独自の音楽センスと周囲への協調からもう一人選出する形に決定した。三人目――七瀬紫音』
 挙げられた名前に、それまで笑顔で他の合格者を見守っていた紫音は、思わず「うそ‥‥」と呟きを洩らした。
『今回の選出は、あくまでも本選への切符を手に入れたに過ぎない。それまでは、よりいっそう努力して自分を磨いて欲しい――』