光と闇の黙示録/音楽集アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 葉月十一
芸能 2Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 09/19〜09/23

●本文

『光と闇の黙示録』 Written & Composed & Arranged By Wataru Suzaki

近付いてくる 滅びの音色 一瞬の罠
運命の糸 絡みついて もう逃げられない
戦いの舞台は整えられてく 予定調和
さあ 運命のダイスは 今投げられた


光と闇が交差していく 本当の意味も判らないのに
虚構と現実 目を閉じたまま 一番最後に嗤うのは誰?


囁いている 記憶の欠片 夢現に
傾く天秤 零れ落ちて もう止められない
届かぬ声にそれでも張り叫んでる 道化のように
きっと 答えはそこに あると信じてた

光と闇が埋め尽くしてく 真実の鍵を隠したままで
最後と最初 背中合わせで 悲劇の幕が静かに開く


冷たい雨が世界を閉ざしていく 螺旋回廊
もう 帰る場所さえ 失くしていたのに



求めた未来 手を伸ばしても 手の中に残る真実は何?

             ――――映画『光と闇の黙示録』主題歌より


「――やれやれ、相変わらず無茶なスポンサーだな」
 受話器を手に取った須崎渉(fz0034)は、聞こえてくる内容に呆れとも苦笑ともつかぬ溜息を小さく零す。
『それはしょうがないのよ。だってほら、もう五回を数えるわけだし、そろそろ‥‥ね』
「確かにな。もう時期クライマックスだからその前に、ということだろう」
 これまでに渉自身、幾つか映画用に作った曲がある。
 が、基本的に映画でしか使用しておらず、どこにも楽曲としての発表はない。映画主題歌にしても、ちょうど映画が始まった時に自身がプロデュースしたアイドルで発表したくらいだ。
 これからクライマックスで盛り上げるにしろ、少しはその材料が欲しいというスポンサーの意向も解る。
「解った。改めてレコーディングする曲や新曲も含めて、スタジオとミュージシャンの手配を頼む」
『新曲も作るの?』
「ああ。アレンジは俺自身で行うが、新しい曲があった方がこれからも含めていいだろう。こっちは手配したミュージシャンに頼むつもりだ」
『解ったわ。こっちの方で手配しておくわ』
 それから幾つかのやり取りをしてから、渉は受話器を置いた。

●『光と闇の黙示録/音楽集』曲目リスト
 1.光と闇の黙示録〜メインテーマ
 2.胎動
 3.運命
 4.雑踏
 5.光のテーマ〜アフラ・マズター〜
 6.遺跡
 7.砂塵
 8.記憶
 9.彷徨
 10.闇のテーマ〜アンラ・マンユ〜
 11.鏡面
 12.欠片
 13.黙示
 14.未来
 15.少年
 16.この祈りが 天(そら)に届きますように〜Instrumental Mix〜
 (ボーナストラック)
 未定

●今回の参加者

 fa0597 仁和 環(27歳・♂・蝙蝠)
 fa0964 Laura(18歳・♀・小鳥)
 fa1851 紗綾(18歳・♀・兎)
 fa2847 柊ラキア(25歳・♂・鴉)
 fa2899 文月 舵(26歳・♀・狸)
 fa3861 蓮 圭都(22歳・♀・猫)
 fa4333 ナバル(24歳・♂・鴉)
 fa4790 (18歳・♂・小鳥)
 fa5307 朱里 臣(18歳・♀・狼)
 fa5812 克稀(18歳・♂・猫)

●リプレイ本文

●音合わせ
「おはようございます」
 都内某所にあるレコーディングスタジオ。
 その扉を開けて、仁和 環(fa0597)は幾分緊張気味な顔で挨拶をした。三味線奏者としての名声の高い彼だったが、映画のサウンドトラック収録は初めての事。加えて、今回集まった顔ぶれもかなり豪華で、自然と彼の中の負けん気が沸々と芽生えていた――勿論良い意味で、だ。
 周囲を見渡せば、既に各々で譜面を読み込んだり、楽器の調整を始めていた。
 チューニングを終えた克稀(fa5812)が、徐にサックスを吹き始めると、力強いメロディがスタジオ内に響く。管楽器の特徴だろうか、その音を聞くと何故か身を引き締めようという気になる。
 触発されるように、楽器に触りたくなった環がピアノの場所へと向かう途中。
「今回はどうぞ宜しゅうおたの申します」
 スタッフに挨拶しているのは、パーカッショニストとして著名な文月 舵(fa2899)。
 はんなりとした京都弁で穏やかな雰囲気を持つ彼女は、だがひとたび演奏に入ると躍動感溢れるリズムを刻む力強いドラマーに変わる。
 ふと彼女と目が合い、互いに挨拶を交わした。
「今日、ダンナは?」
「あそこやわ」
 舵が指差した先には、スタッフに混じって楽器の搬入を手伝う柊ラキア(fa2847)の姿。
「これ、どっちに運ぶー?」
「ああ、それは向こうの角へ」
 大きな声が響き、渉の指示に従ってラキアがドラムを運んでいく。
 演奏前に、と眉を顰める環に、舵はつい苦笑する。
「まあ、ラキちゃんは体力は有り余ってるからね。それに多彩なメンバーが揃ったんやし、今から収録が楽しみなんやわ」
「――そうだな」
 様々な音が飛び交うスタジオ。
 その一角から聞こえてきたのは、ファルセットを効かせたハミング。今回の収録で主にコーラスを担当するLaura(fa0964)と慧(fa4790)だ。
「やはりここはもう少し高くした方がいいでしょうか?」
「そうだね。僕自身少し高いから、その方がハーモニーはいいかもしれない」
「では、このフレーズからもう一度お願いします」
「うん」
 その二人の横では、今回ボーナストラックでのリードボーカルを担当する蓮 圭都(fa3861)が、何度も歌詞を読み込んでいた。
 時折、アコーディオンで主旋律を弾きながら、心情を合わせるように目を閉じたまま口ずさむ‥‥何度も、何度も。
(「凄いメンバーで、ホント緊張しちゃうわね。でも、やるからには私もベストを尽くして頑張らないと」)
 ひと段落終えたところで、Lauraが圭都に声をかけた。
「一度、通しで合わせませんか?」
「そうね、その方がいいかも」
 彼女が承諾すると同時に、慧がラキアを呼んだ。
「――柊さん、一度確認したいのですが」
 すっかり大道具係と化していたラキアは、額に流れる汗を拭うと、おう、と腕を上げる。その様子がなんとなく面白く、三人は顔を見合わせてつい苦笑を零した。
「歌詞、どんな感じかな?」
 傍らで心配そうに覗き込む朱里 臣(fa5307)。
 自分の書いた歌詞がそのまま採用と知らされ、少しドキドキしているのだ。映画を見た時に感じた姉弟の優しい思い出をイメージした歌詞は、どこか懐かしいイメージだと自負している。
 そんな彼女に、圭都はにこりと笑みを返す。
「ええ、大丈夫よ。私は一人っ子だけど、お姉さんってこんな感じかな、という気持ちで歌ってみるね」
「そう、よかった」
 ホッとした臣は、安心したように楽器の調整へと戻っていく。
 今回、ナバル(fa4333)とのツイン演奏が多いと聞き、彼としっかり音合わせをするために彼の元へ。そこには、同じくマンドリンセロを持った紗綾(fa1851)もいた。
「それじゃあ一通り合わせていようか」
 スタジオという閉じた一角、ナバルは既に完全獣化の姿をしていた。当然事前に許可を得ていたので、誰も何も言わなかったが。
「素敵なサントラになるように、あたしも全力で頑張りますね!」
「こちらこそ、宜しくお願いしますっ」
 全員が気持ちを一つに。
 紗綾の言葉に軽くお辞儀する臣は思った考えは、今この場にいる全員が思うこと。
 それらの様子を暫く眺めていた渉は、頃合いを見計らってパン、と一つ手を叩いた。
「よし、そろそろ始めようか。頼むぞ」
 その一声に、全員の表情が一気に引き締まった。

●レコーディング
「――では、始めてくれ。音のレベルはこっちで調整する」
 ミキシングルームにいる渉の声が、ヘッドフォンを通して聞こえてくる。
 それを合図に、舵がスティックを数度鳴らしてリズムを刻んでいく――――。

1.光と闇の黙示録〜メインテーマ
 先録りされた環のベースに合わせ、彼自身の声が乗る。加えてラキアのコーラスがギターの温かさとバイオリンの雄大さを醸す音色に乗って、深い闇を表現する。
 曲途中から入ったキーボードの高い音色に、Lauraと慧のコーラスが光の雰囲気を醸し出す。ヘッドフォンを通して流れてくる蓮のコーラスも、イメージを壊さないような形で。
 皆、メインとなる曲だから、と力強い演奏を心掛けていた。

2.胎動
 続く曲は、一転して二つのマンドリンによる力強いリズムで始まった。
 シェイカーで小刻みなリズムを重ね、克稀のサックスの音色が脈動感を出す。伴奏する形のピアノは主張することなく他の音色に溶け込み、ギターによる二重奏をより際立たせる。
 そして、最後に残ったコンガのリズムで幕を閉じた。

3.運命
 静かに、それでいて力強く紗綾のチェロの音色が響く中、バイオリンが主旋律を奏でていく。
 そのまま三つのギターが過酷な運命を、よりいっそう深く暗示するように音を出す。ドラムのリズムに合わせたピアノが最後に残り、断ち切るような形でサックスの管音を激しく鳴る。

4.雑踏
 最初にハーモニカの懐古めいた音。
 次に環のリュートが続き、アコーディオンの音色が街中のざわめきをイメージさせる。
 ギターの三重奏をそれぞれに響かせていき、合間合間に入るシェイカーのリズムがどこか軽快さを紡ぎ出した。

5.光のテーマ〜アフラ・マズター〜
 ピアノの音色から始まり、フルートの音色が重なる事でどこか宗教音楽な印象を与える。
 そのままキーボードの主旋律に併せて、二声のコーラスが天より射し込む光をイメージさせる。
 慧の紡ぐ「ラ」とLauraの「ア」のハーモニーが心地よく響く中、幾つもの弦の音色がいっそう神聖さを醸し出した。

6.遺跡
 柔らかいハープの音色。
 バイオリンの伴奏を伴ってサックスが主旋律を奏でる中、ギターによる三重奏が臨場感を表す。リズムに乗ったシェイカーが更に場を盛り上げるのに一役買う形となる。

7.砂塵
 シェイカーのリズムに合わせ、前半部分にはアコーディオンの音色が乗る。
 後半からチェロを引き継ぐと、ギターが荒れる風をイメージした伴奏を付ける。そのまま最後は、抑え目のハーブの音色で幕を閉じた。

8.記憶
 リュートとフルートの音色を伴奏に、チェロが安らかな音でバイオリンに寄り添う。
 時折入るマンドリンとドラムの強いリズムが瞬間の転調を促した。

9.彷徨
 出だしはサックスが力強く、徐々に弱くなる音と後退する形でバイオリンの二重奏が入る。
 不安げに揺らめく音色が強く激しくなるにつれて、ギターの音も被さってややヒステリックなメロディとなった。

10.闇のテーマ〜アンラ・マンユ〜
 チェロの迫力ある低音が、エレキギターの音と重なって闇を演出する。
 コーラスもまたより力強く、まるで地底から響くような男女混声が、それぞれ競うように音を重ねていく。
 そのまま、最後は最高潮の音をドラムとサックスでぶつかり合う様ににして締め括った。

11.鏡面
 どこか幻想的に響くピアノの音色。
 二重のバイオリン、三重のギターもそれぞれに一定の音をずらす事でどこか捩れた雰囲気を醸し出した。

12.欠片
 リュートの音色とハーモニカの音色、そしてアコーディオンが奏でる旋律が柔らかく響く。
 マンドリンやマンドリンセロも、今回は優しい音色を作って静かに世界を紡いでいく。

13.黙示
 深みある艶やかな音が、チェロとバイオリンによって紡がれる。
 更に伴奏するピアノに合わせ、ギターの音色がより荘厳なイメージで響く。そして〆られるサックスの音色。

14:ピアノ(仁和、紗綾)、ドラム(文月)、アコギ(ナバル、朱里、柊)、アコーディオン(蓮)、ハーモニカ(克稀)

14.未来
 二つのピアノが重なり合い、しなやかに広がっていく。
 それに合わせる形で三つのギターがそれぞれに折り重なり、アコーディオンの音が一つに纏めていく。それは明日を信じるような希望にも似たもの。

15.少年
 エレキギターで始まったそれは、三本のギターの音色に合わせて少年の力強さを示す。
 アコーディオンとハーモニカが時折入り、そして最後に紗綾が鳴らしたウィンドチャイムで輝きを表現した。

16.この祈りが 天(そら)に届きますように〜Instrumental Mix〜
 四人のハーモニーが、それぞれの音域で同じ歌詞を繰り返し紡ぐ。何度も、何度も。臣が奏でるキーボードの主旋律に併せる形で。
 やがて纏めるように最後の音を、ハープの柔らかい音が小さく弾いた。

●ボーナストラック
 緊張気味な面持ちで、メインマイクの前に圭都は立つ。
 さすがにリードボーカルとあっては、今までのような感じではいかない。
「準備はいいか?」
「は、はい」
「――ではいくぞ。」
 合図が送られると同時に、舵は静かに頷いてリズムを刻む。
 やがてナバルと臣のツインギターが前奏を紡ぐ。特に臣は自分が書いた歌詞だから、いっそう力がこもった演奏になる。
 そして、紗綾のバイオリンが柔らかくも切ないメロディが、ボーカルの圭都と同時に歌い始めた。


『回帰〜Nostalgic Orgel〜』 Written By Shin Akesato & Kei/Composed & Arranged By All Sttaf

小さな手 背伸びしてくれた花冠
まあるい夢 描く瞳が高い空を映す

白い雲も 茜の陽も 大切な宝物

『Tender smell and memories keep shining
even in the dark without any sound』

どこから来たんだろう
懐かしい風に乗る歌は
いつか遠く目指す日が来ても忘れない

「忘れない‥‥」


 ――環が演奏するリュートのノスタルジックなメロディに合わせて、圭都が優しく歌う。
 懐かしむように、それでいて慈しむように。
 やがてコーラスが入り、流れるように音を紡ぐLauraと慧とラキア。互いの持ち味を生かした声域を、ゆっくりと伸ばしながら音を重ねていく。
 やがて――一瞬音が途切れ。
「忘れない‥‥」
 そっと囁くように圭都が紡ぐ。
 そのまま後奏へ曲が移り、三人による英詩のコーラスが繰り返されていく。徐々にテンポが落ちる中、舵による鉄琴がオルゴールの音色を奏でていく。
 ゆっくり、ゆっくりと。
 タイミングを見計らっていた紗綾は、渉の合図を確認すると、「キィー」と蝶番を軋ませながら、オルゴールの蓋を静かに閉じた。

『――ぱたん』


「よし、オッケーだ。皆、お疲れ様!」
 渉の声に、全員が安堵の息を吐いた。
 一気に緊張がとけると同時に、彼らはいっせいに立ち上がる。
 そして。
「お疲れ様でした〜!」
 誰もがにこやかな笑顔で無事収録を終えた喜びを噛み締めるのだった。