仁義なき漢−おとこ−達アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 葉月十一
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 01/15〜01/21

●本文

 その日。
 各プロダクション関係者達に向けて、一枚のファックスが流れた。
 その内容を読んだ者は、ある者は顔面が蒼白になり、ある者は見なかった事にしてそのままシュレッダーにかけられた。
 それは、とある映画に関する役者募集のお知らせだった。

『急募!
 映画『仁義なき漢−おとこ−達』において、街のチンピラ役の役者を募集します。
 理由は、当初予定していた役者達が諸事情により不可能となった為です。
 エキストラとはいえ、主演の藤原文吾と関わる重要な役どころ。
 流れとしましては、若者達がたむろするシーン→街で歩いていた藤原氏に因縁をつける→そのまま乱闘へと持ち込むシーンとなります。
 当然乱闘シーンは真剣勝負。その為、台本無しの全てがアドリブでの勝負です。その後チンピラ達が改心し藤原氏の下へ付くか、はたまたそのまま逃げ出すかは全て役者次第。舎弟となったあかつきには、再度別シーンにも登場することを確約します。
 我こそは、との気概がある若者の応募をお待ちしています。
 なお、照明や機材を扱うスタッフも若干名募集します。』

 藤原文吾主演の『仁義なき漢達』といえば、任侠の世界を描いた骨太な男達の映画だ。
 その迫真の演技の殆どが真剣勝負と業界中で噂されている。実際に怪我人も多く出ているのだ。
 今回の急な募集に関しても、おそらく当初の役者の怪我が原因だろうともっぱらの噂だ。だからこそ役者を大事にする大手プロダクション等は、すぐに切り捨てたのだろう。
 だが、若い役者にとってはこれはチャンスでもある。ここで演技を披露出来れば、後々の役者としての道も続くだろう。

 さて、どうする?

●今回の参加者

 fa0431 ヘヴィ・ヴァレン(29歳・♂・竜)
 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa0826 雨堂 零慈(20歳・♂・竜)
 fa1806 伝説の竜戦士(59歳・♂・竜)
 fa2188 The:FiveI’s(19歳・♂・蝙蝠)
 fa2340 河田 柾也(28歳・♂・熊)
 fa2341 桐尾 人志(25歳・♂・トカゲ)
 fa2582 名無しの演技者(19歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

●楽屋裏――憧れの対面
 ‥‥うう、キンチョーするなあ。
 目の前の扉にある『藤原文吾』のプレートを前に、僕の身体がガチガチに緊張していた。
「なんちゅーても、鳳映ヤクザ映画の看板役者やからな」
 隣にいる相方の桐尾 人志(fa2341)が気楽に声をかけてくるが、実際は足が僅かに震えてるのに僕は気付いていた。
 しょうがないよ。なんたって僕らがまだ子供の頃から仁侠映画で活躍なさってる大先輩が相手だもの。失礼のないよう頑張らないと。
「失礼します!」
「初めまして、石畠俊太郎です。普段はThe:FiveI’s(fa2188)ってリングネームでプロレスやってますっ。今回はよろしくお願いします!」
 挨拶を一緒に、と人志が誘ったプロレスラーの彼。
 僕と違ってきちんと鍛えられたガタイをしてるけど、傍から見ても分かるぐらいに少し気圧された様子だ。あんな大きな彼でも、やっぱり文吾さんの持つオーラには敵わないんだな。
 そんな事を考えてちょっと安心してると、文吾さんの視線がこっちを向いたから、僕は慌てて自己紹介をした。
「は、初めまして! 河田 柾也(fa2340)と言います。今日はよろしくお願いします!!」

「やっぱかっこええなあ〜、あん人にこれからボッコボコにやられるんかぁ」
 目の前にいた大物のオーラにすっかりヤラレタ僕は、楽屋に戻ってからうっとりといった溜息をついた。
 ふと、相方の柾也がこっちを変な目で見てるのに気付く。
「なんや?」
「人志、お前‥‥マゾだったのか?」
「なんでやねん!」
 思わずガックリきた一言に、つい突っ込んでしまった芸人の悲しいサガ。
 ‥‥じゃない、んなことしとらんと、付け焼刃とはいえちゃんと受身の練習もしとかんとな。何しろ相方と違ってこっちは天然のクッションないんやし。
「なあ、このスカジャンとジーンズでええか?」
「大丈夫だよ。僕と対になってるからチンピラのコンビに見える」
「ナイフの刃ぁ、潰してもろうたか?」
「勿論」
 いくら台本無しの真剣勝負っつうても、相手の文吾さんに怪我でもさせたら大変やしな。
 そうして鏡の前で色々とチェックしてると、後ろから柾也が声をかけてきた。
「なあ、この色紙どこにしま――」
「ちょぉ! 触んなや、せっかく僕がもろうたサイン!」
 挨拶に行った時、無理にお願いした文吾さんのサインを慌てて奪おうとし、僕らはもつれるように床に倒れる。
 丁度そこへ現れたのが、今日はスタッフとして手伝いに来ていた湯ノ花 ゆくる(fa0640)。
「お二人とも、そろそろ出番ですよ――あら?」
 彼女は僕らを見た後、ちょっとだけ頬を赤らめてそのままドアを閉めてしまった。
 な、なんやねん今の間は?!

●本番――襲撃の一幕
「すまんけど‥‥死んどくれや!!」
 先行した柾也と人志が勢いよく吹っ飛ばされたのを見て、我輩は逆上した演技を見せた。革ジャンにジーパンといったよくある不良の格好で殴りかかる。
 だが、想像以上に素早い動きであっさりとかわされ、文吾殿の拳が顔面へと入った。
「ぐぅっ!?」
「若造が‥‥粋がるんじゃねえ」
 静かに響く台詞を、我輩は倒れながら聞いた。うむ、さすがは文吾殿だ。
 と、感心ばかりしてられない。我輩もやるべき事をやらねばな。
 背中に隠しておいたナイフをおもむろに取り出し、ギラつく刃を彼に向ける。気付きながらも、彼はどこか挑発的な笑みを浮かべた。
 一瞬見惚れてしまったが、慌てて気を取り直す。
「なめんじゃねーぞ、こらぁ!!」
 両手でナイフを構え、少しだけ怯えた雰囲気のまま精一杯の虚勢を張る。‥‥ふむ、うまくカメラに収まってくれればいいが。
 が、文吾殿は平然と立ち、手の皮が切れるの構わずにそれを受け止めた。ハッと慌てた我輩の隙を突き、気がついた時には地面へと投げ出されていた。
「若えの。いっぱしの男が、んなもんに頼っちょるんじゃねえ」
 その貫禄は、我輩なんかとは比べもんにならないほど大きい。
 思わず名無しの演技者(fa2582)としての自分の演技も忘れて、我輩は文吾殿に見入った。手の中にあるゆくる殿から借りた妹役としての彼女の写真を握り締めながら。

「いくぞッ!」
 伝説の竜戦士(fa1806)――それが俺の名だ。
 ちったあ名の知れた役者だが、目の前にいる彼の大俳優藤原文吾にはまだまだ遠く及ばない。
 だが、そんな俺にも共演チャンスが訪れた。少しでも目立ちたい、そんな俺の心意気を見せようと、俺はトレンチコートをはためかせて、高層ビルの屋上に立った。手には二挺拳銃を構え、いざ飛び降りようとした時。
「カーット!!」
 な、なにぃ?!
「ちょっと、駄目ですよ。いくらなんでも、普通の人間は屋上から飛び降りたら死んじゃうんですから」
 監督の伝言です、とゆくるがやってきた。
「それで‥‥ちょっとこのシーンはカットに」
 言いにくそうに告げられ、俺はガックリと肩を落とした。

 人が減ってきたのを見計らい、僕は無言で藤原さんに近付いた。こうして見ると僕よりは小さいんだよね。
 でも、やっぱり出てるオーラは段違いだよ。全然、藤原さんの方が大きく見えるんだから。
「やぁっ!」
 乱闘へ持ち込もうと、まずはこちらから攻撃を仕掛ける。
 事前の打ち合わせどおり、藤原さんは僕の攻撃を受けてくれた。やっぱこの辺は全然見せ方が違うね。僕の方はそれなりに手加減してるけど、彼の演技はホントにやられてるように見えるもの。
「大したことないね」
 調子に乗った僕がなおも攻撃しようと彼を寝かせると、そのままジャンプしてエルボーを放った。その合図を読み取って、相手が避けたところへ僕の肘が地面へ激突した。
「ぐっ!」
 いくらプロレスラーとはいえ、マットじゃなく固い地面が相手だとさすがに痛みも強い。
 思わず顔を顰める僕に向かって、そのまま藤原さんの反撃を喰らった。
「ええ度胸しちょるの、若いの」
 ニヤリと彼が笑う。
 内心、格好いいと思いつつ、彼の攻撃にやられっ放し状態だ。トドメとばかりに撃ち込まれた蹴りに、僕はその場に転がった。

●本番――クライマックス寸前
「自分、なにぼーっとしとんねん! はよ、来んかい!」
 仲間である人志に突っ込まれても、俺は焦ることなく立ち上がった。
 きっと画面上では、すごくマイペースに映るんだろうな。ま、仕方ない。演技で性格を演じれる程上手くないし、このまま素で戦わせてもらうさ。
「‥‥ああ、なら行って来るぜ」
 背後で仲間がどやす声が聞こえるが、気にする風でもなく俺は手にした得物を構えた。
「おめえもやるっちゅうんか?」
「流れ者っつっても、一応仲間だからな。やらせてもらうぜ」
 遠慮なく棒を振り回し、相手を近付かせないよう攻撃する。さすがに修羅場を潜り抜けているだけあって、動きに無駄がない。
 こちらの攻撃をすれすれでかわす技術なんかさすがだな。
 が、さすがにこのままでは埒が明かない。目配せで合図すると、藤原氏の動きが僅かに遅くなり、一撃を食らわす事が出来た。
 だが、それも一瞬。
「ガハッ!?」
 調子に乗って一撃を繰り出そうとした瞬間を狙って、藤原氏の一発がもろに鳩尾に入った。
 倒れた俺を一瞥するなり、彼はリーダー役の雨堂 零慈(fa0826)の方へ歩いていく。その後ろ姿を見ながら、俺は最後に一言呟いた。
「やれやれ‥‥長らく戦場に立ってねえと鈍るもんだな、勘ってのは」

 ヘヴィ・ヴァレン(fa0431)が倒れたのを最後に、残るのは自分ひとりとなった。
「とうとう私一人か。いいだろう‥‥得物無しの一対一でどうだ?」
 読み耽っていた文庫本を放り出し、藤原氏を睨むように見やる。そんな自分の雰囲気にも尻込むことなく、彼はただそこに立っていた。
「若えモンがそう粋がるなや。ま、てめえらなんぞこの拳一つで十分じゃ」
 台詞一つ取っても、チンピラを挑発する事を心得ている。それに乗っかるように、私は思わず眉尾を動かした。
「どうした、かかってこいや」
「いくぞ!」
 挑発に飲まれるように私が蹴りを繰り出すと、彼は寸前でそれを避ける。すかさず次を仕掛けようとしたが、それより早く藤原氏の攻撃の方が早かった。
 彼は、私と同じような蹴りを――いやそれよりもっと力強い蹴りが腹に入る。ガクリと膝を付くと、迷わずもう一撃を喰らわされた。
「グッ!」
 のけぞり、倒れた私達を見て、彼は去り際に一言告げた。
「おうお前ら。そんなに暴れたけりゃ、ワシの事務所へ来いや。退屈だけはしちょらんからのう」
 そう言って浮かべた笑みを見て、まさに男惚れするなあと心の中で私は思った。
 撮影が終わったら、是非とも芝居のコツを聞いてみよう。

●撮影終了――熱い漢達の友情
「行くぜぇ、ヤロウども!」
「おおぉ!」
「危ねえ、親分!?」
 目の前で繰り広げられる男達の熱い演技に、ゆくるはすっかり感激してます! まさかこんな間近で、あの藤原さんの姿が見れるなんて。
 勿論、ちゃんとお仕事はしてますよ。怪我人が結構出ましたから、急いで応急手当もしましたし。特に前線でボコボコにされた河田さんや桐尾さんなんか、もう酷かったんですから。
 それでもなんだか嬉しそうなのは‥‥やっぱりちょっとだけ羨ましいかな。
「はいカーット! これで終了、みんなお疲れさん!」
 監督の声にスタッフ一同ほうっと安堵する。
 みんな結構ピリピリしてたから、終わったと聞いてホッとしたみたい。勿論ゆくるも安心したけど、まだ仕事はあるからね。お疲れ様の意味を込めて、みんなにお茶とメロンパンを配らなきゃ。
「おう、お疲れさん」
 え、今のひょっとして藤原さん?
 ど、どうしよう‥‥サインなんてお願いしたら断られるかな? でもやっぱり書いてもらいたいし。
「藤原さん、お疲れ様でしたー!」
 あ、共演者のみんなが挨拶してる。よし、これに紛れていけば大丈夫かも。
 そう意を決して、ゆくるは必死でお願いした。それこそこれ以上下がらないってぐらいに頭を下げて。
「あ、あの、藤原さん! サインお願いします!」
 だから気付かなかったのです。
 差し出した「ふんどし」に彼の顔が少しだけ引き攣ったのを。