止まる世界UNKNOWNアジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
葉月十一
|
芸能 |
3Lv以上
|
獣人 |
2Lv以上
|
難度 |
普通
|
報酬 |
6.7万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
10/22〜10/25
|
●本文
それは、何度目かの召喚だったか――――。
徐々にその周期が短くなっていることに、少年は怪訝な顔をする。
それだけ世界の崩壊が食い止められない程に進行しているということなのか、あるいは。
「‥‥そろそろ限界って事なのかな。やっぱり一人だけじゃ、足りないみたいだね」
小さな呟き。
直後、『救世主(メシア)』が選択された事を彼は識る。少年の脳裡に走る――電気信号。
が、彼の表情が晴れる事はない。
「一人、一人じゃ‥‥もう無理か」
少年の視線が、無数に連なるモニターの一角を見つめる。
そこには、徐々に身体の輪郭がぼやけていく少女が一人。朧に発光する身体が塵のように散っていくのも構わず、彼女は立ち上がる。その手に携えた剣を杖にして。
ふと、視線をずらせば、別のモニターの中には怯える身体を必死に押し殺し、それでも前へ進もうとする少年の姿。既に右腕はなく、その欠けた場所からは血ではなく、燐光が漏れていた。
そして、もう一度向けた先には、『獣』を倒して歓喜する少年達。
これから待ち受ける運命も知らずに。
「――そうだな。次からは、もう‥‥一人じゃなくてもいいよね?」
声で問う。
無数の数式の羅列が、少年の中に流れる。やがて導き出された一つの解。
少年の口元に、笑みが浮かぶ。
「了解。それじゃあ――選択肢は、二つだ」
そして。
「――ようこそ、救世主の皆さん。皆さんにはこれから、『世界』を救ってもらうから」
八人の少年少女達を前に、少年は静かに綴る。
未来の転換を前に少しドキドキするのを必死で押さえ、彼らの前に少年は八枚のカードを差し出した。
「選んでよ。あなた達に相応しい武器を」
●募集する配役
○集められた少年少女 8人
男女の性別に人数制限はありません。
ただし、年齢は13〜18歳の間に設定して下さい。これは役柄上の設定だけですので、二十歳以上の役者が十代を演じる事は問題ありません。
役柄の設定に関しては、自由に決めて下さい。それぞれの関係も顔見知り程度から幼馴染み、まったくの見知らぬ他人まで、特に制限はありません。ただし、血縁関係(兄弟、従兄弟など)は無しの方向でお願いします。
その他、詳しい展開については、『終わる世界UNINSTALL』『消える世界UNFORMAT』を参照下さい。
また、前回までの参加者は、前回と同じ役柄にしても大丈夫です。その場合、召喚された時点で以前の記憶を取り戻す形になります。勿論違う役柄を選んでいただいても構いません。
【設定に必須な項目】
役名/年齢(13〜18)
武器(後述の設定から選択):重複は無し
選択:『世界』を知るか、否か。加えて選択後の言動。
●設定
世界はこれまでに何度も滅びの危機を迎えています。
そのたびにそれを回避するための八人の少年少女が選ばれてきました。選ばれた彼らの役目は、具現化された『滅びの獣』を打ち倒すこと。
選択出来る武器は以下の八つ。
【剣】オーソドックスな前線で斬ることを主体とする
【槍】直線の鋭さとリーチの長さが有利
【斧】重量があって一番破壊に優れている
【弓】後方からの遠距離攻撃
【鞭】動きを封じるなどしたトリッキーな攻撃が可能
【鎖】自在に操ることであらゆる方向から攻撃出来る
【牙】拳を凶器とした肉弾戦を主とする
【玉】念じることで様々な魔法を放つ
(ここより下の設定はPC情報になりますが、演じる世界では知らない設定になります)
戦いの結果、滅びは回避され、一人の『救世主(メシア)』が選ばれます――文字通り『全てを背負う者』として(『救世主(メシア)』に選ばれる者は事前に数字で設定しています)。
選ばれた者は、全ての滅びとともに世界から削除(アンインストール)されます。痕跡もなにも残さず、周囲からは最初からいなかったものとして扱われます。
そして、残った者達は再び元いた場所へ戻ります。ただし戦いの記憶は断片でしか思い出すことは出来ません。
【今回の設定】
今までPC達が過ごしてきた『世界』は、『電子の方舟(サーバ)』に過ぎない事を知ります。別の世界からの襲撃によって、すでに終末を迎えてしまった『人類』は、最後の手段として魂を電子化して難を逃れようとしました。
しかし、執拗なる攻撃に度々『世界』は危機を迎えようとします。それを回避する手段として『救世主(メシア)』を選択し、『世界』を護る為の『壁(ファイアーウォール)』として戦う事を義務付けました――『魂(データ)』が疲弊し、消滅(フォーマット)する瞬間まで。
OP中に登場する少年は、『案内人(ナビゲーター)』であり、『世界(サーバ)』の『管理者(アドミニストレーター)』です。ちなみにNPCである一哉が演じます。
●リプレイ本文
●世界の終焉
『滅びの獣』――そう名付けられた存在がこちらに向かってくる。それを冷静に見つめながら、少女はゆっくりと弓を構えた。
「また‥‥ここに来てしまったのですね‥‥」
琴の口から零れた呟き。
隣に立つ香月巴は、別段気にした様子も見せず、すっかり手に馴染んでしまった分銅鎖を放った。前線で戦う仲間の動きを計算に入れ、放物線を描く軌道はいっそ合理的な程に。
「‥‥ああ、やっぱり気になる動きだわ」
「え?」
巴の言葉に振り返るも、彼女はそれっきり何も言わず。
琴自身、それ以上追及することはしなかった。そして――放たれた矢。
呻き声を上げて崩れ落ちるそれに、更なる追撃をするのは赤の特攻服に身を包んだ好戦的な少女。
「あっははは! 散れよ、このバケモンが!」
武田愛実と名乗った彼女。両手に持つ斧でトドメとばかりの容赦ない一撃。
(「だいたい、急にこんな世界に連れて来られて、世界を救うもなんもあったもんじゃねぇよ」)
僅かな返り血が頬に飛び、ニヤリと笑う愛実。
戦うことは好きだ。別に世界がどうなろうと関係ないが、戦えと言うのなら戦ってやるさ。
そう最初に宣言した彼女のスタンス通り、後先考えずに先陣を切っていく。その後ろ姿は、頼もしいというよりはどこか狂気じみていて。
「な、なんで彼女は‥‥おかしいよ‥‥」
後ろで少し怯えるヴィクター・アダム。
小心の彼が手にした武器は玉。そこから生み出した無数の氷の蛇を周囲に配置し、近付く敵を退けようとする戦い方だ。
今までに二人もの仲間が犠牲となって自分だけが生き延びたことに、罪悪感とともに安堵する自分が嫌で嫌でしょうがなかった。ましてや今回は‥‥。
「何を言ってるんですか。やらないとこっちがやられてしまうんでしょう? だったら、やるしかないでしょう!」
そう言ってヴィクターの背中を叩くのは、近所に住む幼馴染みのアイザック・ウィンザーだ。
まさか彼まで召喚されるとは思いもよらず、今までと違い自分がよく知る人間がいることに、ヴィクターの心情は今まで以上に複雑だった。
「行きますよ!」
「ちょっ?! アイザック!」
彼の心配を他所に、アイザックは無謀にも敵の真っ只中へ突っ込んでいく。手にした剣を無造作に振るい、敵を切り刻んでいく様子を、どこか羨望な眼差しで見つめていた。
「最初、ここへ召喚された時はすごく混乱していたくせに」
思わずそんな愚痴がヴィクターの口から洩れる。そんな彼に気付くことなく、アイザックは嬉々として目の前の敵を次々と撃破していく。
彼に追随するかのように、小笠原 悠月も敵へと突っ込んでいく姿があった。
幼い少年の両の拳には、可愛らしいパペット人形――その口に付いている牙こそが彼の武器のようだ。与えられた武器は、使用者のイメージで様々に具現化する。今回の使用者である悠月のイメージした武器は、どうやらそのパペット人形だった。
「ゆづきくんもいくよ〜!」
勢いをつけた拳は、そのまま『獣』の腹へ。
めり込む虎模様の人形がどこか滑稽なその様子を見て、愛実はただニヤッと笑うだけ。
「ほらほらっ、次いくよ!!」
雄叫びのように声を張り上げる彼女の後に続く前線。
その中にあって野上渉だけは、かなり落ち着いた戦いをする少年だった。体操部だという彼の動きは俊敏で、初めて手にした槍もまるで使い慣れた武器のように扱っている。
そして、他の仲間との連携を唯一考えた戦い方をしていた。
「‥‥不思議なものだな。まるでずっと使ってたような感覚だな」
世界を救うため。
そう言われて驚きはしたものの、「世界がなくなったら困るしな」と彼はあっさりと戦うことを決めた。それは元々の彼の性格ゆえか、或いは――。
「そっち行ったぞ!」
アイザックの声にハッと我に返る渉。
「任せろ」
すぐ目前に迫る『獣』を認めると、素早く槍を突き出した。
勢いづく前線とは裏腹に、後衛に位置する者達の動きは至極落ち着いたものだった。
放物線を描く鎖で敵を足止めする巴は、ただ自らも機械的に動く。相手の動きが酷く計算出来てしまうことを思い、激化する戦いとは裏腹に心は冷める一方だった。
「‥‥それじゃ、まるで」
リアルなゲーム。
そんな言葉が脳裡を過ぎるが、すぐに否定するように頭を振った。その考えを認めてしまえば、今此処にいる『自分』をも嫌な考えに当て嵌めてしまうことになる。
「きゃっ! ちょっと、急に来ないでよ! 怪我するじゃない」
言葉の上では慌てた感じだが、その獲物の動きは随分と落ち着いたものだ。
橘 和美――そう名乗った少女は、召喚された当初こそ戸惑いはしていたが、いざ戦いとなれば、その鞭を相手に絡めて身動き出来ずにすることに長けていた。
「世界を救え、なんてマンガみたいなこと、なんでしなくちゃいけないのよ、私が」
口を開けば文句だけ。
キツイ口調からハッキリした性格なことは、短い付き合いながらも巴には理解出来た。が、戦いの場となればそのさっぱりした言動は頼もしく映るのだ。
「そっち、お願いね」
「了解!」
戦いの中、一人違和感を感じる琴。
不安と言い換えてもいい。今回、召喚された折に選ばされたのは武器のみ。数字を選択することはなく、そのまま戦いの場へと引き摺りだされる形となった。
同じように、何度もここへ召喚されているヴィクターや巴も違和感が拭えないと言っていた。
(「いったい何が‥‥」)
その時、彼らの前に現れたのは最後の『獣』。
それを目視した途端、彼女は一人飛び出した。
「私が行きます! もしボスを倒した人が『救世主』になるなら‥‥」
「おっと、一人でいい格好させませんよ!」
好戦的に笑うアイザックが後に続く。
声にビクリと震えたヴィクターの様子が気になりつつも、彼は目の前の敵に夢中だった。同じように戦いに夢中の愛実も両手の斧を天高く掲げた。
「これでお終いにしてやるよ!」
「ゆづきくんも〜!」
牙の生えたパペットが空を貫く。
ほぼ同時に仕掛けられた攻撃を前に、立ち塞がる『獣』は断末魔の叫びを上げながらあっという間に霧散していった。
その様子を冷静に眺めながら、巴の表情は次第に険しさを増していく。
果たして次は誰が犠牲者になるというのか。案内をする少年に対して不信感を抱いている彼女にとっては、これからが本番のようなものだ。
「――さあ、出てきなさい」
歓喜する仲間達とは裏腹に、巴の鋭い声が響く。
その意味を知るヴィクターと事もまた、キツイ表情で次の展開を待った。
そして、姿を見せた少年。
「やあ、おめでとう。無事、『獣』達を倒してくれて助かったよ。さすがにこうも間隔が短いんじゃキツイかな、と思ったんだよね」
「な、なに? どういうこと?」
少年の言葉に和美が目を瞬く。
「御託はいいわ。それで? 今回の『救世主』は誰なのかしら?」
巴の問いに琴が名乗り出ようとするより早く、少年が静かに言葉を続けた。それは、自分達へ向けての問いかけで。
「――それなんだけどね。流石にそろそろ一人ずつじゃあ厳しくなってきたんだよね。それで君達に確認したいんだけど‥‥『世界』の『真実』を知る気はあるかい?」
誰もがハッと顔を見合わせる。
そして。
●世界の選択
気が付いた時、彼らは不思議な場所にいた。
さっきまでの荒野でもなく、自分達がいた世界とも違う。壁一面を埋めつくす機械類。見たこともないそれは、まさに自分達が思い描く宇宙船とでも言うべきか。
「こ、こは‥‥?」
呟いた渉に応えたのは。
『――方舟だよ。君ら自身を蓄積した『世界』を護る、最後の砦さ』
前面に広がる無数のモニター。そこに映し出されているのは、さっきまで自分達の前にいた少年。
「どういうこと?」
琴の言葉に、少年は語る。
既に自分達の世界は、別の世界からの侵略を受けて終焉を迎えていること。窮した人類は、魂を全て電子化する事にして『世界(サーバ)』へと避難したこと。
が、それでもなお度重なる襲撃があり、『世界』を護る為の『壁』が必要になったこと。
『その『壁』を選出するプログラムが『救世主』ということさ』
「――う、うそだ! 世界が‥‥終わってる? だとしたら、今の俺達は何だっつーんだ!」
ドン、と壁を叩いたつもりだった愛実の拳は、あっさりと壁を突き抜ける。
その衝撃に思わず茫然となる彼女。
『だから言っただろ? 今の君らはただのデータだよ。武器を持って、初めて現実に退ける力を発揮する。もっとも、僕自身この『世界』のただの『管理者』に過ぎないから、本当に戦いがあるのかどうかは分からないよ。僕はただ『世界』を維持していくのを最優先してるだけだから』
淡々と語る少年。そこにこもる感情は一切感じられない。
最初に感じた違和感はそこだったのか、と巴は軽く舌打ちした。
「それで? どうして私達だったの? どうして大人ではダメなの? それとも‥‥」
続けようとした言葉を、少年は軽く否定した。
『最初は頑張ってたみたけどね。結局、君らの世代の『魂(データ)』が一番強固な『壁』になるって解ったから、僕が除外したんだ』
「‥‥そう」
「あ、あれ? ヴィクターがいない?!」
きょろきょろと友人の姿を探すアイザック。
『ああ、彼なら元の世界に還ってもらったよ。知りたくないんだってさ』
薄情な友人だよね〜と何でもない事のように告げるモニター越しの少年。
「それで? 私達は何をすればいいの?」
『勿論――『壁』になって貰うよ。僕だって『世界』を護りたいんだからね』
「‥‥偽物の世界でも、確かにあそこは私の世界なのよね。それならば‥‥」
犠牲になったとしても、そう呟いた和美。
「――遅かれ早かれ消えることになる‥‥てことか」
伸びた前髪を軽く掻き上げ、渉もまた嘆息する。
どちらにしても真実を知った今、自分達の選択肢は一つしかないだろう。今更放り投げることもきっと‥‥出来やしない。
それでも。
「たとえ夢だとしても。皆が少しでも長く幸せでいられるのなら‥‥」
喜んで魂を捧げましょう。
初めは茫然としていた琴だったが、心を決めた今、その瞳に漲るのは確かな意志。
「むずかしいことはわからないけど、みんなの笑顔をまもる為なら、この命投げ出す覚悟は、あるよ!」
幼い悠月も決めた覚悟。それを意思表示するように言葉を紡いだ。
彼の言葉を聞きながら、その場にいる者達はそれぞれ葛藤しながらも心を決める。
『それでは皆さん、今後ともよろしく――』
モニターの少年が薄く笑うのを、一人、冷ややかな眼差しで巴は見た。
「‥‥果たして、いつまで『世界』が残っているのかしら」
くすり。
彼女の小さな微笑は、誰に届くことなく霧散した。
――一人、道を歩く少年は首を傾げる。
「‥‥あ、れ?」
いつも登校は一人だった筈なのに、今日は何故か隣が淋しい。まるでそこだけぽっかりと穴が空いてしまったかのように。
「変なの」
疑問はすぐに忘却され、少年はいつもの日常を送るのだった――――。
●キャスト
アイザック・ウィンザー/ノエル・ロシナン(fa4584)
野上渉(のがみ・しょう)/氷咲 華唯(fa0142)
武田愛実(たけだ・めぐみ)/リン紅原(fa1326)
琴/姫乃 舞(fa0634)
橘 和美/月 李花(fa1105)
香月 巴/芳稀(fa5810)
小笠原 悠月/仲間好色(fa5825)
ヴィクター・アダム/パイロ・シルヴァン(fa1772)
少年/如月一哉(fz1059)