休日の過ごし方アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
葉月十一
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
0.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/27〜05/31
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●本文
「カーット! 今日の撮影は終了!」
「お疲れ様でしたー」
スタジオに響く監督の声を合図に、その場にいた者達は皆一様にホッと一息ついた。口々に交わされる挨拶に、一人、また一人で出演者達は控室に戻っていく。
既に時刻は日付を越えた時間。
誰の顔にも疲労の色がありありと見える。大人ですらそんな状況ならば、その場でのただ一人の子役である少年の疲労もかなりものになるはずだ。
「一哉君、大丈夫?」
マネージャーの労わる声に、少年は平気だと笑顔を向けた。
「大丈夫だよ、これくらい。僕だって一人の役者なんだから」
とは言うものの、やはり顔色の悪さは隠せない。長年連れ添ったマネージャーの目から見れば一目瞭然だ。
流石に心配になった彼女。
幸いにも明日は撮影もなく、他の予定も入ってないオフの日だ。この機会に少しでも少年を休ませてあげなければ。
日付もちょうど週末で学校も休みとなれば、同級生の友達とだって遊べるはずだ。
「とりあえず明日はオフですから、キチンと休んでくださいね。ほら、お友達と遊んだりも出来ますよ」
「え‥‥あ、うん」
学校の友達、と聞いて少年の表情が僅かに翳る。
が、先を歩くマネージャーはその様子に気付かなかった。彼女の後ろをついて歩く少年は、聞こえないように小さな溜息を零す。
役者としての仕事に明け暮れた日々を過ごすうちに、少年と学校の友達との距離はどんどん開いていった。久しぶりに会っても、ただ挨拶をするだけでどことなくそっけない。
心配かけたくない少年は、その事を誰にも――マネージャーにも言わなかった。
ふと、ポケットに手を入れる。取り出したのは、仕事用にと渡された携帯電話。そこには色々な仕事で知り合った業界の人たちの連絡先が入っている。
ひょっとしたら‥‥。
「一哉君、早くいらっしゃい!」
廊下の先でマネージャーが呼ぶ。
どうやらタクシーを待たせているみたいだ。
「今行くよ」
荷物を肩に担ぎ、少年は急ぎ彼女の元へ向かう。手の中に握り締めた携帯。
ダメで元々、かけるだけかけてみよう。
「僕と遊んでくれる人、いるかな〜?」
●リプレイ本文
●出発
レンタルした車を慎重に運転しながら、俺は待ち合わせ場所へと向かった。
今日は、子役で有名な一哉クンからの折角のお誘いだ。他の連中から事前の打ち合わせで知ったけど、どうやら学校の友達との接し方がわかんなくなっちゃのカナ。
ま、今日は俺らと遊んで、次から頑張ればイイサ。
遊び道具も十分準備したからナ。グローブにボール、ドッチボールと‥‥と、飲み物もあったっけ? 手を伸ばしてクーラーボックスを確認する。
うん、大丈夫だ。量も十分だし、あ、勿論アルコールはないからネ。
おっとそろそろ待ち合わせ場所ダナ。目印の角を曲がる前、俺はバックミラーで自分の格好を確認した。俺もそれなりに知られてるからナ、きちんと変装しとけば一哉クンとの事もバレる事もないよネ。
「お待たせ〜」
車を到着させ、俺は勢いよく挨拶だ。
「おはよう、ちょうど時間ぴったしだよ」
出迎えてくれたMIDOH(fa1126)さんがにっこりと笑みを向ける。その手には十人前はありそうなお弁当箱が。
おお、美味そうダナ〜って、マテマテまだ早いヨ。今日はみんなと一緒なんだから少しは我慢しないと。
ふと横を見ると、一哉クンがこっちを不思議そうな顔で見ていた。そういえば初対面だよネ。
「おはよう一哉クン! 遊ぶコトと食べるコトなら俺に任せてナ!」
やれやれ、のっけからのテンションに一哉がちょっと引き気味じゃないか。
あたしはやれやれと溜息をつきながら、椿(fa2495)と一哉のやりとりを眺めていた。ちょっと怯えた表情を浮かべているが、特に嫌がっていないようなので別段口を挟むことはしない。
そういえば、さっきも朝の挨拶のときに新月ルイ(fa1769)が変なちょっかいを出してたよね。
「‥‥確かに美少年って感じだけどね」
まあ、彼のおかげで一哉の変装もうまくいきそうね。今日は「困った弟」みたいな感じに扱うから、その覚悟でね。
「それじゃあ、そろそろ出発しようか。この時間なら、うまく渋滞も抜けられるよね」
「了解ダヨ」
椿の返事を合図に、他のメンバーもいっせいに車へ乗り込む。
最後に乗ろうとした一哉を振り返り、あたしはにっこりと微笑んだ。
「一哉、今日は声をかけてくれてありがとうね。まさか電話がかかってくるとは思わなかったから嬉しかったよ」
「あ、うん。‥‥以前、教えてもらったのがまだあったから」
どこかはにかみながら呟く一哉に、そっと頭を撫でてやる。
「今、中一だろ? 今度は学校の友達でも誘ってみたらどうさ?」
それだけ言い置いて、あたしは中へ入った。とりあえず今はまだこのぐらいでいいかな。後は今日を楽しく過ごしてからだね。
●見守る母(?)
うっふっふー、美少年との休日よー。
最初は、確かにちょーっとテンションが高過ぎて引かれちゃったけど、今はなんとかテンション抑え気味よ。
この公園ならみんなで一緒に遊べるから便利よね、それに人もそれほど多くないし。
「うーん、風が気持ちいいわー♪」
で、あたしが何をしてるのかっていうと、一哉くん達が遊んでる様子をスケッチよ。さすがに写真はお互い芸能人だから敏感になってると思うし、これならお母さんのように見守れるわ。
最初は硬かった彼の表情も、谷渡 うらら(fa2604)ちゃんや葵(fa3294)ちゃんといった同年代の子と遊んでるうちにだんだん笑顔になってきたわね。
うん、一哉くんの最高の笑顔が見られてあたし、し・あ・わ・せ♪
葵ちゃんの男装姿も見事に決まってるわ。さすがね、あたし(自画自賛)。
それにしてもみんな元気ねぇ。そんなに駆け回ってて大丈夫なのかしら。まあ、転んで擦り傷作ってもそれが勲章みたいなものだし、大丈夫よね。
「うぅ〜お腹減った」
「‥‥あらあら、椿くんたら。もうバテたの?」
「あはは、さすがに子供達の体力には敵いませんヨ」
あたしに比べたら彼もまだ若いと思うけど、まあいいわ。
「みんな、そろそろお昼にしようー!」
ちょうど聞こえたMIDOHさんの声にあたしはスケッチブックを閉じた。さーて午後からも張り切って描くわよ。
●ランチタイム
「ねえねえ、このクラブサンド、どうかな?」
自分が手作りしたサンドイッチを、うららんは勢いよく差し出したの。だって折角頑張って作ったんだもん、やっぱり少しは食べてもらいたいよね。
自分では自信作だと思うんだけど。
「じゃあいただきまーす」
パクリ、と一口。
カズ君――まだ心の中だけだけど、いつかは面と向かって愛称を呼べればいいな――が遠慮なくうららんの作ったものを食べていく。
「ど、どう‥‥かな?」
「うん、美味しいよ。わざわざ作ってきてくれてありがとう」
「そ、そんなことないよ、これぐらいどうってことないから」
思いがけない笑顔を向けられ、ついぶっきらぼうになってしまった。思わずそこらにあるお弁当を手当たり次第に口にしていた。
あ、姫月乃・瑞羽(fa3691)の作ったこのハンバーグ、美味しい♪
「当然です。今日のは会心の出来なんだ、味の方は保障するよ」
「MIDOHさんのも美味しいな。俺には、こんな手の込んだのは無理だな」
苦笑するブリッツ・アスカ(fa2321)さんにマリアさんが照れてるのを見て、うららんは思わず「当然ナンバーワンですから!」と言いたかったのをグッと堪えた。
●午後のひととき
午後からはチーム戦ということで、俺たちは手加減無しの勝負を挑んだ。
「ふう、やっぱり強いですね、アスカさんは」
ヘトヘトといった様子で一哉くんがこちらを見上げる。
年少者相手に多少の手加減をしていたから、こちらはそれほど疲れてはいなかったが、それでも最後は負けず嫌いな性格のせいでかなり本気モードになってしまった。
その事を反省していたのだが、特に一哉くんが悔しそうな顔をしていないのでホッと胸を撫で下ろす。
「そっちこそだいぶいい動きしてただろう。さすがだね」
「いやぁ、やっぱり体が思うように動かなくて」
苦笑する一哉。最初に会った時よりは、随分すっきりした顔だ。
多少なりとも体を動かしたのは、やはり正解だったようだ。
「どうだ、もう一勝負してみるか?」
「いいんですか?」
「子供が遠慮するもんじゃないさ」
「じゃあ、お願いします!」
‥‥ん?
立ち上がった拍子に頬に触れた水滴に俺は顔を上げた。どんよりとした雲が空一面を覆っている。
「一雨、くるか?」
呟いた直後、雨足はゆっくりと強くなり始めていった。
「皆さんこちらへ!」
呼びかけの声に振り向いた先には美笑(fa3672)さんが立っている。彼女が指差した先にあるのは一軒のゲームセンター。
「‥‥ふう、どうやらあまり濡れなくてすんだな」
「美笑、ありがとう」
「いえ、そんな。それよりタオルのほう、足りてますか?」
アスカさんや瑞羽さんにお礼を言われ、私は慌てて否定した。元々この公園に来ることが決まった時に周囲の環境を調べていたからですし。
タオルをみんなに渡したところでふと視線に気付く。
振り返れば一哉君が私の方を見て、うっすらと顔を赤くしていた。
「あっ」
見れば、自分の服が濡れてうっすら透けてしまっていたの。私は真っ赤になりつつも、急いでパーカーを羽織った。
気を取り直して。
「一哉君、よかったらこのダンスゲームを一緒にやりませんか?」
「そうそ、よかったら私がお手本を見せるね。よく見ててね」
「あ、瑞羽さんたら」
もう、本当は殆どやった事がないのに。
ああ、動きがそうではありませんよ。もっとこう音に反応して動かないと‥‥あ、転んだ。
「あ、あはははっ、これ結構難しいね」
「しょうがないですね。それでは、私がまず踊ってみますね」
そう言ってから、私は躊躇うことなく「上級者モード」のボタンを押した。
「へえ‥‥凄いね」
「うん」
美笑の踊りに感心する私の隣で、一哉も同じような相槌を打った。さすがにゲーマーを名乗るだけのことはあるね。
すっかり魅せられたのか、一哉が次々にリクエストする曲を彼女は次々にこなしていく。なるほど、普通に踊るのではなくてちゃんと他の動きも入れているのね。私も、こういうところは見習わないとね。
さすがに一旦の休憩を入れる美笑。
一哉の様子を見れば、どうやらこのゲームに興味を持ったようでやりたそうだった。私は彼女にそっと目配せすると、小さく頷いて受け取る。
「どうです? 一緒にやってみませんか?」
「えーでも難しそうだよね?」
「大丈夫、初心者モードもありますから」
「やってみたらどうですか?」
一瞬躊躇う一哉の背を、私はそっと押してみる。
同年代の友達と遊ぶのなら、このぐらい普通ですからね。一般的な休日を少しでも覚えてもらわないと。
「ほら、頑張って」
言って、私は彼の背中を本当に押してみた。
●解散
「‥‥あの、今日は皆さんありがとうございました」
「ねえ、今日は楽しかった?」
男装して同じような格好のボクがそう尋ねると、一哉君は満足げに大きく頷いた。最初に会った時に比べてすごく嬉しそうな表情をしてるから、きっと楽しんでくれたんだよね。
僕の後から他の人達も口々に今日の感想を一哉君に聞いてるみたい。
ほら、やっぱりみんな心配してるんだよ?
ボクも一応芸能人の端くれだから、ちょっとはその気持ちも分かる気がするんだ。
だからまた羽を伸ばしたくなったら、また誘ってね。勿論、その時は一哉君の友達も紹介してもらいたいな。
「手品、きっと一哉君なら上手く出来るよ」
今日教えたばかりの簡単なマジックの事を口にすると、彼は少し照れてるみたい。
「ホントに今日は‥‥ありがとう」
「今度はきっと、一哉君の友達も一緒にね!」
ボクの科白はここにいるみんなの意見だから――大丈夫、すぐに学校の友達とだって一緒に遊べるよ。
元気よく手を振る一哉君を見送って、ボク達も今日のところは解散した。
「お友達とうまくいくといいなぁ〜」