光と闇の黙示録/打上げアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 葉月十一
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 普通
報酬 0.3万円
参加人数 7人
サポート 0人
期間 10/25〜10/29

●本文

 ――Epilogue――

 少年は、ゆっくりと顔を上げた。
 真っ赤に燃えるような空を背景に、懸命に何かを掴もうと手を伸ばす。
 そこには何もない。
 だが、確かに何かがあるように、その指が握り締められる。
 そして――最初は微かに、だが徐々に広がっていき――少年は、笑った。

 大輪の向日葵のような表情で――――。

●撮影終了
「――はい、カットぉー! おっけー、お疲れ様。これで全編収録完了です。お疲れ様でしたー!」
 監督の声に、いっせいにわぁっと拍手の渦。
 その中心にいる少年――如月一哉(fz1056)は、その拍手を受けて感無量の涙を浮かべた。初めての大役を終えて、彼は今ようやく肩の荷が下りたようだ。
 ここは、鳳凰映像産業が誇る巨大セットスタジオの一角。一大ファンタジー映画と銘打たれた『光と闇の黙示録』は、ロケを除いてその殆どをこのセットの中で賄っていたのだ。
 そして、その映画も本日ようやくクランクアップ。
 出演者やスタッフの誰もがホッと肩の荷が下りたことだろう。
「皆さん、今日はこれから打上げを行いますので、都合のつく方は是非とも参加をお願いします」
 助監督の声に、スタッフは勿論出演者も何人かが顔を見合わせて笑顔を作る。やはりこういう場は、何度あっても楽しいものだ。
「あ、そうそう。言い忘れてたけどな、一応今回の映画のエンディングには、この打上げ風景が流れるからな。あまり羽目外すんじゃねえぞ」
 そんな監督の釘刺しに、各所でブーイングが起きたがそれもまたご愛嬌。
 そうして彼らは、ぞろぞろと引き連れて打ち上げ会場へと向かった――――。


●ファンタジー映画『光と闇の黙示録』打上げ参加者募集
 ファンタジー映画『光と闇の黙示録』は、子役である一哉主演(役名:神威暁)の連作映画です。そのクランクアップ記念ということで、スタッフ等と一緒に打上げに参加するメンバーを募集します。
 基本的に一連のVTRに出演していなくても、『こういう役で出ていました』『実はエキストラで』『撮影スタッフなんです』『この役者のマネージャーで』等、自由に決めて参加して下さって構いません。
 なお、参加者は以下の必須項目は必ずプレイングに盛り込んで下さい。これがない場合、
○映画/エピローグシーン:『覚醒者』にならなかった場合の各自の日常(映画出演者のみ)
○舞台挨拶の言葉/最後に行う舞台挨拶での言葉


●世界設定
 物語は、神話の時代から続く光と闇の争いを、中東を意識した神話に基づいた設定で構成されています。但し、あくまでも映画上の設定として用いられてるだけで、実在するものとは一切関係ありません。
○『光』サイド
 光の最高神アフラ・マズダーの守護の元、人々を闇の恐怖から守る為に人知れず戦う者達。長い年月を経て協力者の存在もありますが、戦うのはいずれも覚醒した者達だけです。
 なお、覚醒した際の力の源としては、『聖火』『水』『大地』『鉱物』『植物』『精神』『創造』の何れかとなります。
○『闇』サイド
 悪神アンラ・マンユの教えに従い、人々に悪徳をばらまいて世界の崩壊を目的とした者達。人々を闇で操り、堕落させ、やがては破滅へ導くためならばどんな手段をも厭わず、その為しばし歴史的大事件を引き起こして世界を震撼させてきた。
 彼らの力の源としては、『灼熱』『渇』『破壊』『死』『背徳』『悪意』『闇』からになります。
【追記・終章】
 なお、過去に於いて覚醒する者達は光も闇もそれぞれの源となる力と同じで七人だったが、近年は何故か同じ力の根源を持つ『覚醒者』が現れている。
 これは、力の中心である『神』が、より自分の力を高める為に力の根源を分散させた為である。
 そして今、その分けられた力は神の元へと集められていく。
○宝具
 覚醒した際に具現化された武器の総称。
 その種類は千差万別で、覚醒者達のイメージでその姿もまた変化する。名称もそれぞれによって異なり、覚醒者達によって命名される。

●今回の参加者

 fa1077 桐沢カナ(18歳・♀・狐)
 fa2772 仙道 愛歌(16歳・♀・狐)
 fa4548 銀城さらら(19歳・♀・豹)
 fa4909 葉月 珪(22歳・♀・猫)
 fa5461 榊 菫(21歳・♀・竜)
 fa5624 加恋(18歳・♀・兎)
 fa5719 相麻静間(8歳・♂・獅子)

●リプレイ本文

●EDクレジット――打上げ
 神威 暁:如月一哉(fz1059)

 神杜 静:榊 菫(fa5461)
 千歳:加恋(fa5624)
 セシリア:桐沢カナ(fa1077)

 静音:仙道 愛歌(fa2772)
 鬼麿(大伴蝉丸):相麻静間(fa5719)
 イリス:葉月 珪(fa4909)

 ――エピローグが終わると、映像はエンディングクレジットへと切り替わった。
 それぞれの役者の名前が役名と一緒に上へと流れていく。その後ろに映る映像は、役者を含めたスタッフ達の打上げ風景――。

 手にした手作りのチョコケーキを持って、カナは一哉の元へと歩み寄った。
「お疲れ様、一哉くん」
「あ、桐沢さん。わざわざ来てくれてたんですか?」
「ええ。まだ各エピローグのシーンが残ってたからね。それにしても初めての大役、頑張ったわね」
 笑顔で褒めるカナの言葉に、一哉は少し頬を赤らめた。ようやく肩の荷が下りたところへの褒め言葉に、少々照れているのだろう。
 くすり、と彼女は笑い、持っていたケーキを一哉へ差し出した。
「これ、良かったら食べてね」
「え、作ってきたんですか?」
「まあ、大したものじゃないけどね」
「そんな、ホントありがとうございます」
 元気よく礼を言う彼にカナは一度苦笑する。
「それじゃあ他の皆にも配ってくるね」

 ――挨拶回りをするカナの映像。
 そのまま流れるようにカメラが回り、やがて打上げ会場の片隅に群れる人だかりがズームされ――。

「ちょっ、ちょっと押さないで下さい。大丈夫ですよ、サインはきちんとしますから」
 壁の花よろしく、少し喧噪から離れて一息ついていた菫の元へ、押し寄せるスタッフ達。さすがに仕事中はマズいだろうと誰もが牽制していたが、今この場を借りて彼らは彼女へサインを求めていた。
 勿論、菫にしても別に嫌な気分ではない。
 普段男装をしている分、今日の衣装はエピローグで撮った巫女服姿だ。どことなく心が弾むのは、やはり自分も女性だからかもしれない。
「はい。これからもよろしくお願いしますね」
 にこりと笑う彼女。

 ――映像を通して見る笑顔に、観客も思わずホッと癒された気分になる。
 そして、再びカメラが切り替わると、その中心に立つのは――。

「――小さな手、背伸びしてくれた花冠‥‥」
 アカペラで歌い上げる加恋。
 本業が歌手である彼女の歌声は、そのふわふわしたイメージのまま聴く者の心に染み入っていく。
 先日発売されたサントラに収録されたボーナストラックの曲。だが、彼女の歌声のおかげでCDとはまた違ったイメージにスタッフ達には感じられた。
「いつか遠く目指す日が来ても‥‥忘れない」
 ふと顔を上げ、視線が周囲を見渡す。気付いたカメラに向かって、加恋はゆっくりと微笑んだ。

 ――映像は彼女のアップとなる。
 先程から流れているエンディング曲は、まさに打ち上げ会場で彼女が歌っていたもので、あたかも加恋が歌っているような演出を見せていた。
 そして、映画は徐々にフェードアウトしていく――。

●エピローグ――舞台挨拶
 拍手喝采の嵐が鳴り響く中、今回の映画に出演した役者達は、主演の暁を先頭に舞台中央へと進み出た。どの顔も満面の笑みを浮かべ、今回の映画が成功だったことに喜んでいた。
 そして、司会者の紹介とともに各自の挨拶が始まった。
 最初は今回同時上映された外伝の出演者の紹介から始まり、銀城さらら(fa4548)の番が回ってくると、彼女は緊張を落ち着かせるように一呼吸、小さく息を吐いた。
「今回、私は外伝に出させてもらったのですが、関係性がないとはいえ本編へと繋がる大事なお話です。特に私の演じるドゥルジは、本編では重要な役どころでもありました。そのため、演じるにあたって、やはり『静音様』の演技を参考にさせて頂いた部分がありますね」
 さららの感想に、当の役を演じた愛歌は頬を赤らめて苦笑する。
 更に彼女の挨拶は続く。
「とはいえ、勿論私も役者の一人ですから、それだけにつられることのないよう、自分なりの解釈で与えられた役を演じたつもりです。出来るならこの作品が、皆様にとって末永く愛される作品であるように願うばかりです」
 そこで言葉を区切り、優雅な所作でお辞儀をした。
 応えるように鳴り響く拍手。
 そのままマイクは次の出演者の手へ。外伝の方が終わると、一旦マイクは司会者の手へ戻り、そして本編の出演者の紹介へと移る。

 ――燦々と降り注ぐ太陽の光。
 多くの花が咲き誇る薔薇園の中、彼女はいた。袖のない白いワンピースが、彼女の清楚なイメージに似合い、被った麦藁帽子を軽く手で持ち上げながら咲き誇る薔薇たちを優しげに見守る。
 幼い頃から夢見ていたのは、沢山の花に囲まれて過ごす生活。
 ふと、一陣の風が吹く。
 それを追うように視線を向ける。首を捻る彼女だったが、それきり構うことはなく再び花たちの世話へと戻る。
 叶った願いが、誰の手によるものか気付くことなく――。

「――今日はたくさんのお客様に来ていただいて、本当に嬉しいです」
 そう言って、カナは挨拶を続けた。
「私が演じたセシリアは、戦いの中で生きるには優しすぎて戦いにはあまり向いていない性格なのかもしれませんが、その中に芯がしっかり通った女性として演じたつもり‥‥です」
 浮かべる少しの苦笑。
「ええと‥‥どうか皆さん、この物語を最後まで見届けてくださってありがとうございました」
 続けた言葉とともに、今度は恥ずかしげな微笑となり、赤い頬のまま静かに頭を下げる。
 その様子に観客も温かい拍手を投げかけた。

 ――とある密室。
 彼女は明らかに自分より年上と思われる女性を突き飛ばす。
 薄暗い部屋の中には、マスクをつけた者達が数名。その中にあって、彼女だけがどこか異彩な雰囲気を放っている。
「この夜会では、私が全てのルールを決めるのさ!」
 ゴクリ、と誰かが喉を鳴らす音が小さく響く。
 蔑む表情を張り付かせたまま、従う者達を見て彼女は満足げに微笑む。
 不意に、背後に潜む闇の中で気配を感じて振り向くが、そこに何もないのを見てとると、それっきり気にすることなく倒錯の世界へとのめりこんでいく――。

 舞台中央に立つ愛歌は、どこか恥ずかしそうな笑みだった。
 その理由を彼女はこう説明する。
「静音という役を頂いた時、実を言うと正直驚いたんですよね。いえ‥‥その、なんというか、普段の私と180度違うヒトなので」
 そんな科白に、観客からはうそー、と驚きの声が上がる。
 実際、先程流れていたエピローグシーンでもかなり際どいところまで演じていたので、観客にとって愛歌のイメージは、大人っぽい色気を持つ女性だと認識されていたようだ。
「まあ、それでも役ですから、体当たりで演じさせて頂きましたけれど。皆さんが楽しんで頂けたのなら、役者としては成功といったところですね」
 満足げに頷く愛歌に、同様の拍手が相次いで送られた。

 ――カソックに身を包み、彼女は静かに微笑む。
「全ては神のお導きです」
 太陽を浴びて金色に光る髪は、信者にとっては神の遣いに相違ないだろう。誰もよりも深い信心がありながらも、敬虔な態度を崩さない彼女こそ、神そのものだと認識している信者も多くいた。
「私ごときで手助け出来るのならば、喜んでお力になりましょう。あなたに神のご加護があらんことを‥‥」
 深く、頭を下げる。
 瞬間、脳裡に何かの声を聞いた気がするが、すぐに記憶は霧散し、彼女は再び宣教活動へと没頭を続けていく――。

 映画の中同様に、深くお辞儀する珪。
「最後まで応援して下さった皆さん、ありがとうございました。ファンの皆さんから頂く温かいファンレターには、本当に元気付けられました」
 何か大変だったエピソードは?
 司会者のそんな質問に、珪は少し考えた後でこう続けた。
「そうですね。砂漠などの屋外での撮影は本当に暑くて‥‥そんな中、私の着る黒い衣装は余計に暑さを増してしまい、汗だくになりながらも涼しげな表情で演技をし続けるのが一番大変だったかも知れません」
 苦笑する彼女に会場もどっと沸く。
「今回は、素晴らしい共演者の方たちにも恵まれ、沢山フォローして頂きました。長かった撮影も、終わってしまうとあっという間でしたね。少し惜しい気もしますが、ここは終わりを迎える事が出来てホッとするところですね」
 そこで一旦言葉を区切ると、珪はマイクを少し持ち替えて言葉を締めた。
「最後になりましたが、ファンの皆さん、共演者の皆さん、監督さん、スタッフの皆さん、本当にありがとうございました!」

 ――帰省した実家で、何故か巻き込まれた奉納舞。
「はあ? 巫女さんが足りない? そんなのもう忘れているんだけど、踊り‥‥」
 頼み込む父親に彼女が渋々ながらも了承すると、さっきまでの悲壮な表情が嘘のように嬉々として巫女服を用意する父親。
 謀られた、と思っても後の祭り。仕方なく鈴を手に持ってうろ覚えの踊りを舞う彼女だったが、意外とすんなり踊れる事に彼女自身驚いてしまう。
 そして舞いの中で、寄り添う風に懐かしい声を聞いた気がした‥‥が、すぐに鈴の音に紛れてしまう。
 やがて、舞を終えて一人佇む彼女は、どこか安堵の笑みを浮かべていた――。

「‥‥どうも、神杜静役の榊菫です。今回、初めての出演となりましたが、ここまで続けられたのは皆さんの応援のおかげだと思います」
 黒いチャイナドレスを着る菫は、普段のイメージと異なりひどく色っぽい印象だ。
「この話はここで終わりますが、みなさんの記憶に少しでも残ってもらえれば嬉しいです」
 そう言って最後を締め括ると、彼女は普段と違った大人の女性の笑みを優雅に浮かべ、静かに頭を下げた。

 ――どこにでもある学校の風景。
 カフェテラスの中、弾む会話を楽しむ彼と彼女。
 彼女は、友人から目の前の彼が自分を好きなのでは、と言われていたが彼女自身はまさかと思っていた。
 が、すぐにそれが正しい事を知る。
 彼が真っ赤な顔で薔薇の花束を差し出したからだ。
「あ、あのぉボク、貴女が好きです! ボクと付き合って下さい!」
 勢いつけて告白した割に、自信なさげな彼の態度。
 それに対し、彼女は一瞬驚きの表情をしたものの、すぐに笑顔に戻り、差し出された花束から一本を抜き出した。
「‥‥お返事です」
 次の瞬間、ぱあっと彼の表情が明るくなる。それにつられて彼女は声を上げて笑う。二人の笑い声が響く中、吹いた風が花弁を一枚、空へ散らした。
 赤いそれは、静かに舞い上がる。それを追う二人の視線。
 高く、高く、どこまでも遠くまで――。

 勢いよく話を切り出した静間。
「お話の中で蝉丸は死んじゃって千歳さんと結ばれなかったですけど、代わりに僕が加恋さんと‥‥なんてね?」
 にこっと笑う幼い少年の発言だったが、俄かに観客が色めき立つ。
 そんな静間の言葉に、加恋はただ笑うだけで応えはない。すぐにマイクが彼女に渡されると、彼女は一歩舞台の前に進み出た。
「今回、光サイドの『創造』の覚醒者である千歳を演じさせていただきました加恋と申します」
 そう言ってゆっくりお辞儀したことで、騒然となった客席がしんと静まる。
「芸能界に入って初めてのお仕事、初めての映画出演、と初めてづくしで私にとって大変思い出深い作品となりました。他の出演者の方々に演技指導していただいたり、お話させていただいたりと、撮影中も楽しい日々を送ることが出来ました。本当にありがとうございます」
 もう一度、彼女がお辞儀する。
 その時、一旦拍手が沸き上がった。その拍手が鳴り止むのを待ってから、加恋は最後の言葉を続けた。
「この作品は、神話に基づいたお話で、神話好きの方にも楽しんでいただけると思います。映画も音楽も美しく、何度映画館に通っていただいても飽きないと、私は感じました。どうぞ、末永くこの作品をよろしくお願いします」
 そうして、最後に彼女は深々とお辞儀をする。送られる拍手はやがて歓声となり、その中でマイクは最後に映画初主演を務めた一哉の下へ手渡された。
 受け取った一哉は、緊張した面持ちながらもしっかりとした声で言葉を綴っていく。
「長編作の初めての主演ということで、僕自身かなりのプレッシャーでした。でも、多くの諸先輩方やスタッフ、そしてファンの皆さんに支えられてきたからこそ、この作品を完結することが出来たと思います。今回の撮影中に学んだ多くのことを糧に、今後も頑張っていくことがファンの皆さんへの恩返しになると僕は考えています」
 まだ十三歳という年齢ながら、その挨拶はしっかりと仕事をこなしてきた役者としての彼そのもの。
 後ろに控える出演者達に見守られながら、一哉は最後にこう締め括った。
「皆さん、今日はこの映画を見に来て下さって、本当にありがとうございました」
 深く頭を下げる。彼に合わせるように、加恋達も一緒に深くお辞儀をした。
 一瞬の間。
 直後、湧き起こった盛大な拍手。鳴り止まない歓声の中、舞台は静かに幕を下ろしていくのであった――――。