拝火教――過去の虚栄中東・アフリカ
種類 |
ショート
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担当 |
葉月十一
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
1.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
06/28〜07/02
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●本文
広大な砂漠が広がる中東地域。
そこには、かつて栄華を極めた数々の遺跡が、乾いた風に晒されながら今なおその様相を遺している。その多くは重要文化財に指定されて国が管理したり、時にはWEAによって厳重に管理されたりする物もあった。
当然、その中には既に発掘が終了し、観光スポットになっている遺跡もあるのだが‥‥。
「ようやく許可が取れたのよね」
集まったスタッフを前に、プロデューサーの女性がそう口火を切った。
彼女が今回企画した映画のロケ地として、中東のとある遺跡が候補に挙がっていた。当然、事前に撮影許可の申請をしていたのだが、なかなか許可されずにきていた。
撮影の日数も迫っていたこともあり、半ば諦めかけていたのだが、つい先日、ようやくその遺跡近辺の撮影許可が下りたのだ。
「そうは言っても、さすがにすぐ役者達を向かわせるワケにはいかないからね。貴方達スタッフが先に行ってもらって遺跡周辺を少し調べて欲しいのよ、危険がないかどうか」
彼女自身、それほど危ない場所を選んだつもりはない。
遺跡とはいえ、その建造物の殆どが過去の争いかなにかで壊されてしまっているような場所だ。一説によれば、とある宗教で使われた祭壇のようなものがあるという話だが、定かではない。
「さすがに命に関わるような危険はないと思うのよね。砂漠のど真ん中とかいうワケではないし、近くに街だってあるのだから。とりあえず遺跡の崩れやすそうなところとか、足を踏み外したら危ないな、みたいな場所をチェックしてくればいいわ」
遺跡は、祭壇のような物を中心として完全に円を描くように柱や壁が配置されている。かつては地下への通路もあったようだが、今は完全に埋まって塞がっているらしい。
そうして彼女は、集まったスタッフ達に中東までの航空券を手渡した。
「とにかく気をつけて行ってらっしゃい。何かあったら現地のWEAまで連絡することね」
何故、とスタッフの一人が問う。
すると彼女はさらりと答えた。
「だって、その遺跡WEAが管理してるのよ。撮影許可だってそこから取ったんだから」
●リプレイ本文
●打ち合わせ
「そもそも製作する映画というのは、どのような内容かしら?」
広げられた遺跡の見取り図を前にした打ち合わせの途中フゥト・ホル(fa1758)が発した問いに、自分は日本を発つ前にプロデューサーから聞いた内容を伝える事にした。
口下手な自分が上手く伝えられるか不安だが。
「‥‥まだ、正式には決まっていないようだ。ただ、拝火教をモチーフにした脚本らしいから、なるべく全体を確認して欲しい、とのことだ」
「ではその遺跡というのは、そもそも拝火教の遺跡ということでしょうか?」
フゥトの言葉に、自分は静かに頷いた。
そうして、自分は数種類の資料を差し出した。それは自分がWEAに問い合わせて確認したものだ。
「ゾロアスター教の遺跡か。どんな感じなんだろう?」
少し大柄な体の藤田 武(fa3161)が、ワクワクしながらそう口にした。自分も、普通の遺跡ならばきっとワクワクといった気持ちになっただろう。
だが、WEA管理の遺跡と聞き、また最近になって広まったNWの噂の時期に、少しだけ警戒もあった。
そんな自分の感情が表情に出たのだろう。隣にいた高邑雅嵩(fa0677)が軽く胸を張った。
「なあに、遺跡調査ならそこそこ経験も積んでるんで、多少は任せとけって」
俳優を名乗る彼だったが、聞けば最近遺跡巡りの日々だったらしい。多少の自信を見せる笑みに、自分も肩にかかった力が少し抜けるのを感じた。
「じゃあ、まずは周辺からの調査って事でいいか?」
俺は、自分で用意した遺跡の見取り図を指差しながら、他の仲間に確認した。まあ、地図と言ってもホントに簡単なモンだけどな。どうせあちこち書き込む事になるんだし。
特に異存がないのを確認し、俺は今回持っていく物を確認した。
「ええっとガス検知器とソナーと‥‥それから水だな」
「水ですか? わたくしも持っていきますが?」
手持ちの荷物の中、水筒を指差した河辺野・一(fa0892)が聞いてきたのを、俺は小声で説明した。
「基本的に飲み水ってのは重要だけど、俺の場合はな」
「‥‥ああ」
語尾を濁した意図をうまく察してくれたようだ。
さすがアナウンサーだな。見た目は幼く見えてもその辺の機転の良さはいいみたいだ。
「そろそろ着きますわね。服装はこんな感じでいいかしら?」
ゆったりとした衣服に身を包んだ稲森・梢(fa1435)。
どこか嬉しそうにはしゃぐ彼女。どうやら普段着たことのない服装がどこか舞台衣装のようで、少し気持ちが高ぶっているらしい。
と、そんな事を言ってる間に現地に到着したみたいだな。
「んじゃ、そろそろ行こうか」
別段先頭を切るでもなくそう言ってから、俺は広げられた見取り図を畳んで遺跡へと足を向けた。
●調査――安全確認
ぼんやりと遺跡を眺めながら、僕は思った。
「ストーンヘンジに似て‥‥へんな」
ファインダー越しの景色は、キチンと測られたように並ぶ石の列。来る前に聞いた印象からそんな想像をしてたさかい、多少の落胆はあった。
そうは言ってもあまり目にしたことのない遺跡には違いあらへんしな。
「中央のこの大きい岩が、祭壇っちゅうわけやな」
「ラスカルさん、こっちの写真も頼む!」
「了解やー」
呼んだ声は若宮久屋(fa2599)さんやな。
僕は、手にしたカメラを持って彼の元へ急いだ。当然走るなんて事はせず、きちんと摺り足でゆっくりとや。
僕のカメラで崩れかかっている場所を収め、それで地図に加えて印を付ける。そんな事をさっきから繰り返してるわけやが、さすがにこれで粗方収まったんやないかな。
こうして見る限り、遺跡自体も痛んでいる様子はなかった。WEAの保存状態がよかったんやな。
その時、突風が吹いて砂埃が舞った。
「うわぁっ、わったった!」
僕は慌てて飛びそうになったバンダナを押さえた。
七氏(fa3916)さんらがこの辺一帯を立ち入り禁止にするって言ってたんやけど、万が一にも半獣になってる姿が見られたらあかんからな。
そんな事を考えてた次の瞬間、誰かの声が耳に届いた。
「こんなところで何をサボっているのかしら?」
不意に聞こえた声に、わたくしは慌てて振り向いた。
そこに立っていたのは、よく見知った女優の梢さんです。その彼女がわたくしをじっと睨むように見ていたのですから、わたくしは慌てて首を横に振りました。
「ち、違いますよ。別にサボっていた訳ではありません」
「‥‥では何を?」
「円形に並ぶ柱の影と、その位置関係を調べてる為に眺めていたのですよ。拝火教のシンボルは火の他にも光というのがありますので」
急いで弁明をしたのですが、どうやら少しだけわたくしの行動は早かったようです。
つまり。
「川野辺アナ、今はまだ遺跡の危険を調べる方が先ですわよ。調査はそれからよね」
「いえ、ですから‥‥大方の場所は調べ終わったので、少し早いとは思いましたが遺跡の方をですね‥‥」
言えば言うほどドツボにハマッていくようで、なんだか情けなかったのですが。
それでも言い訳じみた事を続けようとした矢先、一陣の突風が吹き抜けて砂塵が巻き起こった。
「きゃっ! ‥‥もう、なんなのかしら、いったい」
「大丈夫です‥‥あっ!」
砂を払う彼女よりも、わたくしの目はある一点を見つけて思わず声を出していた。
それは祭壇と思しき岩の下。妙に不自然に盛り上がっている場所に、明らかに人為的な痕跡があるのを、わたくしの目は確認出来ました。
どうやらさっきの突風でそれを覆っていた砂が飛ばされたみたいです。隣を見れば、稲盛さんもそれに気付いたようで、わたくしと同じ場所を凝視しています。
「地下への通路、かしら?」
彼女の呟きに頷くでもなく、わたくしはその場所へと急いだ。
●調査――地下への扉
「こんなもんかな。これ以上は無理みたいだし」
「ほな、ちょっと撮らしてな」
そう言って僕が掘り出した入り口付近を、蕪木ラシェイル熊三郎萌(fa4042)が丁寧に写真に収めていく。
その様子を眺めながら、僕らはこれからの事を相談し始めた。
「拝火教の教義からいけば、光がWEAで闇がダークサイドって考えますよね。そうなると、地下が一番怪しいですよね」
一さんの言葉には、僕も賛同だね。
ここに来る前に僕も色々調べてみたけど、なんとなく両者の関係って似てるんだよね。
「やっぱり儀式でもしないといけないですかね。例えば羊を生贄を捧げるとか」
僕がそう言った途端、全員の視線がこっちを向いた。
ちょ、ちょっとなんですか、その期待に満ちた目は!
「とはいえ、アライグマを生贄に捧げるってのはナシですよ」
「武君、誰もそんな事は言ってないわよ」
クスクスと苦笑するフゥトさん。
が、すぐに笑いを収めて思案げな顔になる彼女。
「とはいえ‥‥これ以上、進めるにはどうすれば‥‥」
「火と太陽の光をうまく活用すればあるいは――」
僕がそう言いかけた直後、奇妙な音が周辺一帯に響き渡った。
フードで半獣の格好を隠したまま、私は一さんの説明を聞いていたの。彼が見つけたのは、太陽の光が届かない場所――どの時間帯でも柱や祭壇の影となる場所。
それはちょうど祭壇の真下、先程見つけた入り口と正反対側。
「何か隠されているモノを見つけるとすれば、火が必要かもしれませんね」
「拝火教では、火や光を聖なるものとして崇めていたのですよね。でしたら‥‥」
彼の説明に私は手のひらをすっと差し出し、軽く念じた。
程なくして火の玉が出現し、辺りをわずかな光で照らす。どこか舞台の上に立っているような感覚に、思わず私は微笑を浮かべた。
「これでどうかしら?」
私がそう呟くと、ちょうど反対側で奇妙な音が響いてきた。
何かしら? そう思っていたところへ、向こう側で写真を撮っていたラスカルさんの声が上がってきたの。
「皆さん、こっちに来て見てや!」
ラスカルさんに呼ばれた先で、わたくしは先程埋まっていた入り口がぽっかり口を開いているのを見たわ。
「これは‥‥ッ!」」
驚くわたくしと同様に、他の人達も皆一様に驚いているようね。一人、雅嵩君だけはどこか確信めいた笑みを浮かべていた。
最初から分かっていたのかしら?
「いや‥‥そうじゃないが、色々調べてたらこの地下って空洞になってるみたいだからさ。そうなると地下への入り口が普通あるんじゃないかと思ったんだよ」
彼の説明に、わたくしもなるほどと頷いたわ。
それにしても‥‥この事をWEAはご存知なのかしら?
知っているのならまだしも、知らないのならこれ以上は危険ではないかしら。今、なにやら怪しい組織が動いてると聞いているし、一度確認したほうがよくない?
そうわたくしが相談を投げかけると、炎を灯していた梢さんも賛成してくれたわ。
「そうですね。やはり、これは私たちにとって発見になりますから、一度WAEへ報告を上げておいたほうが無難ですわ」
「‥‥そうだな。今回の遺跡は、例の暗号と関係なさそうだが‥‥連絡した方がよさそうだ」
普段無口な七氏さんも口数少なく賛同してくれたし、やはり一度戻った方がよろしいですわね。
全員の意見が纏まったところで、自分達は一度引き上げる事を決めた。
「本当なら少し入ってみたかったけど、今回は事前調査だけの予定だしね」
そう自分に納得させてみる。
本当は、中東へ来て初めての遺跡調査ということで、少し期待もあったんだよね。まあ、今回はあまり戦闘に従事する人がいなかったし、ここら辺が妥当なところかな。
「無駄に命を危険に晒したくないからね」
ホッと息をつくスタッフの武さんを見て、自分も肩の力が抜けるのを感じた。どうやら少し緊張していたみたいだね。
梢さんが火を消すと同時に、音を立てて入り口がゆっくりと塞がっていく。
改めてその仕組みを見て、自分は少し感心したね。火の有無で扉を開け閉めするなんて、いったいどういう原理なんだろう?
「それではいったん引き上げましょう。WEAの中東支部まではわたくしが案内致しますわ」
エジプト出身というフゥトさんの案内で、自分達はその場を引き上げる事にした。暗くなりつつある周囲を見て、自分はもうこんな時間だったんだと気付く。
だから気付かなかったんだ。
入り口が完全に閉まるよりも早く、小さな影がそこから出ていったことに。