Produce――映画主題歌中東・アフリカ

種類 ショート
担当 葉月十一
芸能 1Lv以上
獣人 フリー
難度 難しい
報酬 1.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/10〜08/16

●本文

●告知
 その日、ハイパープロジェクトのオフィシャルホームページ上で新人アイドル発掘のためのオーディションを実施する事が発表された。
 ハイパープロジェクト――通称ハイプロ――は、言わずと知れた女性アイドル達を中心とした新鋭のプロダクションだ。ここ数年で急速に発展し、その勢いは波に乗っている。
 常に新しい事へチャレンジする姿勢からか、今回の告知もその内容がいつもと多少違っていた。
『応募資格は、中学生以上の歌うことが好きな人で、プロアマは問わず』
 これだけなら今までのオーディションと変わらないが、次に記された一文が業界内でもちょっとした話題となった。
『今回の審査は、ミュージシャンである須崎渉(fz0034)が実施します。合格者は、彼の手によるプロデュースを受ける形になるます』
 須崎渉と言えば、年末の紅白歌謡ショウにも出演した事のある有名なミュージシャンだ。
 つまり今回の告知は、彼にとっての初プロデュースということになる。

●連絡
「――だから。なんで俺がアイドルをプロデュースしなくちゃならないんだ」
『言ったでしょう? 今回の映画のスポンサーが、大のアイドル好きなのよ。だから、どうしても主題歌はアイドルに歌わせて欲しいって言われてるのよ』
 電話の向こうで宥めるような声色を使う担当に、渉は大きな溜息をついた。相手が困惑しているのは分かるが、自分の方もきっとしかめ面をしているだろう。
 もともと受けるつもりのなかった映画音楽の仕事だった。
 だが、今回の仕事を持ってきたプロデューサーの女性には、昔色々とお世話になっていたこともあって『好きなようにやらせてくれる』という条件で引き受けた。
 だからこそ映画の舞台でもある中東まで、彼はわざわざやって来ているのだ。
『お願いよ。もうプロジェクトの方も動き出してるの。このままだと、折角見つけたスポンサーが‥‥』
 言葉を切る彼女。
 続く言葉を予想し、渉はもう一度溜息を吐く。
 仕方ない――内心でそう呟くと、彼は受話器を握り直した。
「‥‥わかった。とりあえず、そのプロデュースの件は引き受けた」
『ホントッ?』
「ただし、使い物にならないと感じたらすぐ切り捨てるからな」
 容赦ない言い分に、それでも電話の向こうの彼女は、それでもいいからと口添えした。
「ああ、それと――オーディションのための合宿をここでやる」
『え、ええ?! ちょ、ちょっと須崎クン、待っ――』
 彼女の言葉が終わらぬ内に、渉はあっさりと電話を切った。

●今回の参加者

 fa0053 ナイルキアハーツ(27歳・♀・鴉)
 fa0348 アレイ(19歳・♂・猫)
 fa0365 死堕天(22歳・♂・竜)
 fa0371 小桧山・秋怜(17歳・♀・小鳥)
 fa2178 リアラ(11歳・♀・猫)
 fa2903 鬼道 幻妖斎(28歳・♂・亀)
 fa3623 蒼流 凪(19歳・♀・蝙蝠)
 fa4283 西山貴紀(15歳・♂・犬)

●リプレイ本文

●謝罪
「本当に申し訳ありません」
 目の前にいる不機嫌な男を前に、僕――小桧山・秋怜(fa0371)は深々と頭を下げた。
「ったく‥‥どういうつもりなんだ? 土壇場でキャンセルなんて」
「本当にゴメンなさい」
 もう一度、僕は謝る。
 だが、須崎渉(fz0034)の機嫌はよくなるどころか、悪化する一方だ。とはいえ、今回はこちらに非があるので謝るしか手段はなかったんだよ。
 今回のオーディションに、保護者として付き添ってきたのに、肝心の保護する人間がいないのでは話にならない。僕は身の置き場のなさに小さくなるだけ。
 そうして、十分はそうしていたかな。
 不意に彼が沈黙を破った。
「――まあいい、来ないんなら仕方ない。おい、お前‥‥」
「シュレです」
「秋怜か。確かキーボードが弾けると言ったな」
「はい」
「ならこの合宿の間、少しバックを手伝え」
 思わぬ言葉に、僕は耳を疑ったよ。
 それは、僕にとってみれば願ってもないことだったしね。今回このオーディションに出向こうと思った理由のひとつでもあったから。
「は、はい。僕でよかったらよろしくお願いします。色々勉強させて貰いますね」
 須崎さんのプロデュースする手腕が、僕とどう違うのか。
 そのあたり、この後の活動の参考に出来ればいいんだけどな。間近で見る事で少しでも気付ければいいんだけど。
 彼はそれだけ言うと、最終選考に残った人達が集まる部屋へと向かっていった。僕は少し送れて彼の後をついて行く。
「あ」
「ん? なんだ?」
「いえ、なんでもありません」
 そういえば西山貴紀(fa4283)が彼の事を呼んでいたけれど‥‥後でもいいかな。

●合宿
 息つく暇もない合宿生活。
 それは、俺が考えていたのよりかなりハードだった。発声ひとつにしても、出来なければ何度も繰り返す。
「アレイ(fa0348)、違う! 何度言わせればいい」
「は、はい」
「全然伸びてないぞ」
 くっそー、懸命にクールを保とうとしても、疲れに負けて全然駄目だ。
 曲のイメージが伸び伸びしたものだと思っていた俺は、無理な高音に頼らずナチュラルを目指そうとした。
 だが、ここに来て発声はまだまだだったと自覚する。
 何度須崎の怒鳴り声を聞いたことか。
 そして。
「――そうだ。やれば出来るじゃないか」
 ようやく合格点が出たのは、すでに夕方だ。隣で同じように怒鳴られていたナイルキアハーツ(fa0053)も、汗だくになってへばり込んでいる。
 ははっ、アイドルになるのも楽じゃないな。

「‥‥はあ‥‥」
 今日一日の練習が終わって夜の休憩時間。
 わたくしは、外出許可を得て外へと出ていた。故郷から程近いこの場所の自然に身を置きたいからでした。
「今日も一日が無事に終わりましたわ。なんとか皆様とも、緊張せずに話せるようにはなりましたが‥‥」
 須崎様の怒鳴り声を思い出し、思わず身震いが走る。
 本当に、わたくしのような者がア、アイドルとしてやっていけるのでしょうか? この地の平和のためを、と思い応募をしてみたものの、やはりわたくしには合っていないのではないでしょうか。
 俯くな。前を見ろ。もっと背筋を伸ばせ。自信を持って、堂々と歌い上げろ。
 言われ、指摘された言葉は、常に気にしてきた自らの欠点。なんとか受け入れようと頑張ってはみるのだが、はたしてきちんとこなせているのかと聞かれれば、わたくしには自信がありませんわ。
 見上げた空は、どこまでも果てしなく――心を自由にしてくれる。乾いた風にすら心地よさを感じた。
 そうして大地から感じるまま、わたくしは思いつくまま口ずさむ。
 故郷を思い、自然を思い、そして自らが願う平和への思いを乗せて。少しでも気持ちを解放出来るような、大きな翼をイメージして。
 ――パチパチパチ。
「え?」
「いいじゃねえか。なかなか正々堂々としててよかったぜ」
「須崎様」
 拍手の音に振り返れば、そこには須崎様がいました。相変わらずぶっきらぼうな態度ですが、どうやらわたくしの歌を褒めてくれたようです。
 どことなく恥ずかしさを感じて、思わず顔が赤くなってしまう。
 そのまま彼は背中を向けると、
「その調子で頑張ればいいぜ」
 片手を上げて立ち去って行った。
 残されたわたくしは、しばらくその場で固まったままでした。

「‥‥ふむ」
 さて‥‥困りました。
 私は元々、偏った知識や学識に頼った生き方しか出来ませんでしたが、さすがにこれからはそれではマズイ、と思って今回の機会に応募してみたのですが。
 やはり人間、慣れない事はするものではないですね。
 体力だけは人並み以上の自信はありますが、それ以外となると‥‥さっきから、須崎さんに怒鳴られてる一方です。
「ったく、なんだって譜面も読めないんだ!」
「歌や踊りは、人並み程度なら出来ますよ」
「まず、これを覚えろってんだ」
 はあ、申し訳ない。
 今後はもう少し、幅広い視野を持った生き方をした方がいいということですね。
 隣にいる蒼流 凪(fa3623)さんも私の同じような考えで、その点で言えば少しは交友範囲も広げられたでしょうか。

 隣で怒鳴られている鬼道 幻妖斎(fa2903)さんを見ながら、次は自分の番だと思わず背筋を正す。
「とは言っても、私にうまく出来るかしら」
 愚痴を言っても始まらない。
 何の因果か最終選考まで残ってしまったのだ。
 そもそもは、濡れ場専門のチョイ役から脱皮したくて応募したこのアイドルオーディション。まさかこんなところにまで来る事が出来るとは夢にも思っていなかった。
「世の中不思議ですね」
 思わず零れた呟き。
「次、蒼流いくぞ」
「は、はい!」
 とりあえず今は、与えられた課題をこなすだけですね。

 俺は思いっきり息を吸い込んで深呼吸を繰り返した。
 今更ながらに馬鹿な事をしたっていう自覚はあるが、抑えられなかったんだからしょうがない、と自分を慰めてみる。
「あーあ、なんだってあんなこと言っちまったんだろ」
『‥‥あんたが普段歌に込めてる想いを教えて欲しいんだ。俺、あんたが好きだから‥‥て、歌が好きって意味だからな! と、とにかく誘ったんだから絶対来いよ!』
 顔が真っ赤にして言った、というか叫んだ科白を思い出し、俺は頭を抱えて蹲る。
 が、それでなかったことに出来る訳もなく。
「意気込みだけは誰にも負けないんだがなー」
 主題歌ってのにはあまり興味なかったけど、アイツのプロデュースで歌えるならって事で応募したオーディションもいよいよ最終選考だ。
 よもや中東にまで来るとは思わなかったけど、ようやく掴んだ一緒にいられるチャンス。ここで逃してなるもんか!
「なんだってやってやるじゃん」
 アイツはまだ来る気配はない。
 その間に、と俺は思いつくままのメロディで歌い始めた。
 すごく近くにいるのに、届かぬ存在。どれだけ見つめ続けても、それは叶わぬ夢であるかもしれないのに。
 必死で込めたキモチ――俺の今の感情。
 歌い終えた俺が息を整えていたところ、唐突に聞こえた声。
「西山貴紀、だったか。十代でそこまで歌えればたいしたもんだ」
 げっ、いつの間に来てたんだよ。
 ていうか、今、名前呼ばれた? やべえ、なんか嬉しい。
「だが、まだまだ荒削りだ。もう少し抑えることを覚えなければすぐにバテる。まあ、無鉄砲に突き進めるのは若い証拠か」
 唐突なアドバイスにビックリしながらも、俺は顔を赤くしつつ彼の言葉を素直に聞く。
「お、俺はあんたのようになりたいんだ。あんたの傍で歌えるように――」
「もう遅い。ガキはそろそろ寝る時間だ」
「あ、ちょっと!」
 俺の頭をクシャリと触って言葉を遮り、アイツはそのまま引き上げていった。
 あっという間の出来事に呆然と見送る俺。
 な、なんだよ‥‥全然話なんか出来なかったじゃねえか。
「ま、いっか。こうなったら絶対に受かってやるぜ」
 俺は決意も新たにこぶしを握り締めた。

「――では、お前で最後だ。死堕天(fa0365)、と言ったか」
「よーし、ようやく俺の出番だね。それじゃあ思う存分やらせてもらうね」
 長かったオーディション合宿も、今日が最終日だ。
 今まで散々課題曲を歌ってきて、今日がフリースタイルっていうんだから張り切って頑張らないとね。
 俺は、今日のためにと作ってきた歌詞に自分の声を乗せていく。自分らしく培ってきた力を、精一杯ぶつけながら。
「大きな翼は空を掴み
 羽ばたけば潮風の波に乗る
 まだ見ぬこの想いの先に見えるもの
 探しに行こう


 穏やかに流れる雲に飛び乗り
 白く柔かなベッドで寝てみたい
 「あの頃は子供だった」なんてそんな事言わないで
 僕らはまだ夢追い人

 夏の空に咲き誇る火の花は焦る人の心を後押しする
 湧き上がるボルテージ最高潮さぁ走り出せ止まるな振り向くな真っ直ぐに

 大きな翼は空を掴み
 力強い羽ばたきは空高く舞い上がる
 真夏の空から照らそう暑いスポットライト
 季節(ショー)はまだ始まったばかり――」
 そして、歌詞の方は一転して冬のものへと変わり。
「――よし、そこまでだ」
 全てを歌いきり、俺は大きく息を吐いた。
 ふう、やっぱりこういう場で歌うのは、少し緊張するみたいだね。うわー掌が汗でびっしょりだ。
「それでは各自の部屋へ戻っていろ。合格者には、直接俺が赴いて告げるから」
 須崎の言葉を聞いて、他の参加者同様に俺も自分の部屋へ向かった。

●発表
 暫しの時間を経て、渉が向かった先は三ヶ所。
「ホントですか? 本当にわたくしが?」
「ああ。そのひたむきなお前の思いと発声なら、この映画ともマッチする筈だ」
 感激に顔を上げ、笑みを浮かべるナイル。
「‥‥俺が?」
「そうだ。ヴァレスの意気込みを、今回の曲にぶつけてもらいたい」
 そして。
「ま、マジか?! マジで俺でいいのかよ!」
「まだまだ荒削りだが、その熱い勢いがあれば多少の無理もきくだろうからな」
 オッシャーッ、と雄叫びを上げる貴紀の姿に、昔を思い出して苦笑する渉がいた。

 ひとまずのメンバーは決まった。
 後はレコーディングとなるわけだが、渉のスケジュールの都合により来月頭からという形となった。