ムシノシラセヨーロッパ

種類 ショート
担当 葉月十一
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/26〜08/30

●本文

 ヨーロッパの古い街並を眼下に見つめながら、須崎渉は小さく溜息をこぼした。 
 突然送られた来た手紙は、WEAからのものだった。
 内容は、地方の街で行われる音楽祭へのゲストとして参加して欲しいという依頼だったが、実のところ受け取った当初からなんとなく嫌な予感があった。
 とはいえ、常日頃から便宜を図ってもらっているWEAが相手だ。
 そこからの要請では、さすがに無碍に断る訳にもいかない。仕方なくスケジュールを切詰めると、渉はヨーロッパへ旅立つべく機上の人となった。
「やれやれ、連中も人使いが荒いぜ」
 渡された地図に視線を戻し、もう一度目的地を確認する渉。
「そういや、発見されたアレもこの近くだったか」
 つい先日。
 ヨーロッパで誰も知らなかった遺跡が発見された事は、彼の記憶にも新しい。もっとも近くとはいえ地図上でのことで、実際には結構な距離があるのだが。
 そんなことを考えながら路地を歩いていた渉は、目の前に見える古びた洋館を前に立ち止まった。資料と照らし合わせ、どうやらここが目的地だと確認する。
 今回の音楽祭の主催者の家らしい。
 周囲の様子を伺うが、別段怪しい様子はない。
 が、昼間だというのに妙に静かなのは気になるところだ。
 そういえば、と。ここに来るまで誰にもすれ違っていないことに気付く。いくら田舎町とはいえ、人通りがないなんてありえない。
「どうやら‥‥予感が的中したようだぜ」
 どうする?
 いや、躊躇っている時間はない。こうしてる間にも嫌な予感がどんどん膨らんでいく。多少腕に自信があるとはいえ、さすがに自分ひとりでは対処出来ようはずもない。
 扉から離れた次の瞬間。
 その硬い扉を破って姿を見せたのは、やはりナイトウォーカーだった。元が人間だと分かるのは、ボロキレとなった衣服の残骸からだ。
 おそらくこの館の主人のものだろう。生前はかなり鍛えていたことが、そのゴツイ体格からも見て取れる。
 軽く舌打ちした彼の目に、こちらへ近付いてくる人影が映った。
 おそらく音楽祭の参加者なのだろう。
「ちっ、おい逃げろ!」
 殆ど本能的に上げた叫び声に気付き、影は――逃げるどころかこちらへ向かってくるではないか。
 思わず目を見開いた、その隙を逃さずナイトウォーカーが拳を叩き込んできた。
「――くっ」
 強烈な一撃を食らい、ガクリと膝をつく渉。
 次の攻撃を覚悟した彼の前に、先ほどの影がナイトウォーカーと対峙するように立ち塞がった。その気配に、どうやらこの連中も同じ獣人か、と納得して――渉は意識を失った。

●今回の参加者

 fa1077 桐沢カナ(18歳・♀・狐)
 fa2429 ザジ・ザ・レティクル(13歳・♀・鴉)
 fa2670 群青・青磁(40歳・♂・狼)
 fa3293 Even(22歳・♂・狐)
 fa4077 槙原・慎一(17歳・♂・鷹)
 fa4218 ゲオルグ・フォルネウス(37歳・♂・蝙蝠)
 fa4283 西山貴紀(15歳・♂・犬)
 fa4401 昴流(16歳・♂・竜)

●リプレイ本文

●アラシノマエブレ
「どうやら私は、突然の戦闘にはつくづく縁があるらしい‥‥」
 NWの前に立ちはだかるゲオルグ・フォルネウス(fa4218)。
 彼のそんな嘆きにも似た呟きを聞きながら、俺は倒れて意識を失った須崎渉(fz0034)を見下ろした。
「なんだコイツは! 結構な体格をしているが、案外見掛け倒しか?」
 いつもの狼の覆面の下、小さく嘆息すると彼を抱き起こそうとした西山貴紀(fa4283)が何故か顔を真っ赤にして噛み付いてきた。
「し、仕方ねえだろッ! 彼は普通のミュージシャンなんだぜ?」
 どうやらコイツの追っかけのようだが、まあなんにせよ放っておく訳にもいかねぇよな。
 一先ず、相手の気をそらす事が専決か。
 そう思って懐のナイフを取り出そうとしたが、それより早くゲオルグが動いたみたいだ。
「とりあえずここは我々に任せろ。彼のこと、頼んだぞ」
「了解した。なあに、すぐ戻ってくるぜ」
 その身体を抱え上げてみたが、意外と軽いな。ちゃんと飯食ってんのか?
 と思っていたら、また横から貴紀が喚きだした。
「お、俺が運ぼうと」
「その体格的でか? 無理だ」
 俺が即座に否定すると、さすがにグッと押し黙った。まあ、状況判断は出来るようだな。
 さて、とりあえずどこへ運ぶかだが。
「こっちだよッ!」
 逡巡する俺を呼ぶEven(fa3293)の声。どうやら先に人目の付かない場所を探していたようだ。
 迷っている暇はない。
 俺は、急いで彼の元へと走った。

 群青・青磁(fa2670)さんが須崎さんを下ろすのを見て、隣にいた西山さんはホッと息を吐いた。
 まあ、仕方ありませんね。なにしろ憧れの人がこんな目に合ってる訳ですから。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ただ、気を失ってるだけだから」
 安心させるように言うと、彼はなんとも複雑な顔になった。おやおやなんだか微笑ましいね。
 と、そんなことよりも。
「どうでした?」
「ん? ああ、とりあえずWEAには連絡がついたぜ。医療班と事後処理班を回してもらう事は出来た」
「そうですか」
 群青さんが取り出した携帯で伝えた事項に、向こう側でもかなり慌てている様子だね。
 今回の招待‥‥WEAが全て把握した上で送りつけたと思ったんだけど、そうでもないのかな。まあ、どちらにしろ後で皮肉の一つでも伝えてみようか。
「では西山さん、彼のことお願いするね」
「おう。アイツの事は俺に任せておけって」
 緊張した面持ちで答える西山さんに、群青さんがまた余計な事を言い放った。
「ま、気を失ってるからって変な悪さ、すんじゃねぇぞ」
「ばっ! な、なに言ってんだよっ!」
 真っ赤になる彼に苦笑しつつ、僕はソニックナックルを嵌めて皆のところへ急いだ。

●タタカイノナミ
「あーもう! これじゃ音楽祭の仕事、キャンセルかな?」
 手にしたオートマチック銃をぶち込みながら、あたしは思わずそう嘆いた。
 折角のお仕事だったのに、ホントNWがこっちで大量発生してるって噂、ホントだったんだね。
 とりあえず今は目の前の敵を倒すのが目的ね。
「ただでさえ、最近お財布が厳しいってのに、ムダ弾撃たせないでよ!」
 思わず叫んだグチに、隣にいた桐沢カナ(fa1077)さんがクスッと笑った。しょうがないでしょう、こっちだって生活かかってるんだから。
 そんなことを考えながら、前線にいる槙原・慎一(fa4077)君やゲオルグさんを援護するため、あたしはNWの人の形が残った部分――手足を狙った。
 半獣化なら、射撃もそこそこ得意なんだよ。
 さすがに甲殻で覆われてるから、あまりダメージは与えられないみたい。
 だけど、少しずつ向こうの動きが鈍ってるようだね。この調子でガンガンいっちゃおうか。
「弾をケチる余裕なんてないもんね」
 早くしないと、他の人が来るかもしれないし。
 そうなったら色々とマズイよね。サイレンサーで音消してるとはいえ、街中で銃を乱射してるあたしなんか特に。
「危ない!」
 誰かが叫んだ。
 え、と思うよりも早く、NWの腕があたし目掛けて迫ってくる。
 うそぉ、と思わず目を瞑った瞬間――。

 一瞬の隙を突いてザジ・ザ・レティクル(fa2429)に迫ろうとしたNW。
 まずい、そう考えるよりも早く身体は動き、私は左脚の回し蹴りをお見舞いした。
 さすがに硬い甲殻に覆われている相手。多少の衝撃でもビクともしなかったが、時間稼ぎにはなったようだ。
 不敵に笑う私は、NWの背後に視線を向ける。
 振り返るよりも先に、青磁と慎一の二人が背後から切り付けた。その様子を見届けた後、私はバランスを崩して倒れたザジに手を差し伸べた。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう」
「まったく我が家のある欧州に、こうも面倒ばかりが多発するとは‥‥NWめ」
「――あ、あのう‥‥怒ってます?」
 カナに尋ねられるまでもなく、確かに私は腹を立てていた。これでは家族団らんが出来るのは一体いつだ、と問い質したいぐらいだ。
「とりあえず狙うのはコアだな」
「それでしたら、あのう‥‥あそこに」
 そう言って彼女が指差したのは、かつてそれが人間の男であった時の一番大事な場所。鍛えようにも鍛えられない部分。文字通り急所であったところに、NWの急所でもあるコアが燦然と煌いていた。
 少し恥ずかしそうにするカナ。
 ザジも同じように少し頬が赤い。
「やれやれ、悪趣味だな」
 だが、狙わずにはいられまい。なにしろヤツラは、コアを叩かない限り消滅しないからな。
 私は意を決して、一息に間合いを詰めた。

「うわっ!?」
「油断するな!」
 青磁さんの叱責する声が響く。
 うー、分かってるよ。わかってるけどさ、こういう事件って僕、初めてなんだよね。オマケに目の前の相手は、妙に筋肉がついたマッチョなヤツだしさ。
 それにその身体を覆う甲殻が硬いのなんの。
「くっ、さすがに‥‥」
 ベースが鍛えてるから強いのか、それとも元々の強さがこれぐらいなのか。
 今の僕には判断がつかなかった。
 とはいえ、今ここでこいつを見逃す事の重要性ぐらい解ってるつもりだよ。なんとか早く仕留めないとね。その間にも、敵の動きを止めるべく、青磁さんがガリッと音を立てて剣を口の中に突き立てた。
「さすがに口の中までは殻に包まれていねぇだろ」
 まるで悪役みたいな科白だよ。
 うわ、痛そうー。
 思わず顔を顰めた僕の耳に、 ゲオルグさんの指示が飛ぶ。
「ヤツのコアを狙え」
「て、どこだよっ?」
 僕がそう叫ぶと、彼は黙ってすっと指差した。
 その場所は‥‥まさに文字通り急所だった。
「あ、あはは‥‥」
 思わず遠い目になりかけたけど、僕は気を取り直して剣を構えた。
 狙うは――コアの場所。

 幾つもの火の玉が手のひらの上で踊る。
 さすがに単発で当てても効果は薄そうだから、これぐらいならコアにダメージ与えられるかな。
「これでも喰らえ」
 ゲオルグさんの蹴りがその場所にクリーンヒット。
 さすが、ゲオルグさん。元アクション俳優って話だけど、結構さまになってるね。
 おっと、見惚れてばかりいられないね。カナだって獣人の端くれだもん‥‥頑張らなきゃね。
「カナさん、いくよ!」
 ザジさんの合図で、カナ達はいっせいに攻撃を仕掛けたよ。カナが火の玉でザジさんが虚闇撃弾の闇の玉ね。
 弾は一直線にコアへと直撃した。
 勿論、それだけじゃあまだまだダメージが足りなかったけど、Evenさんが手持ちのナックルで強かに拳を叩き込んだみたい。
「場所が場所だが、さすがに止むを得ないね」
 そう呟く彼の気持ち、なんとなくわかるな。今のでヤツの動きが完全に鈍ったみたい。
 よーしもう一発。
「カナ、いきまーす!」
 複数の火の玉を操り、カナは一気にぶつけてみた。
 その時。
「‥‥グ、ゲッ」
 NWが奇妙なうめき声を上げたんで思わず後ずさったんだよね。だってなんか気味悪かったんだよ。
 だけどそんな声にも怯まず、カナの目の前でゲオルグさんは華麗な動きでNWのコアを蹴り上げたの。なんかとっても格好良いなぁ。
 次の瞬間――ぼんやりと光っていたコアは、カナ達の前で見事に砕け散っていった。

●シジマノウタゲ
「はあぁぁ」
 盛大な溜息。いったい何やってんだろうな、俺。
 せっかくこんな所までついて来たのに、アイツの姿探してたらいきなりこんな事件に巻き込まれ。
 そりゃ、助けて褒めてもらいたい‥‥じゃねえ、仲良くなれたらってのは思ってたけど。他に何が起きるかわかんねえから、俺は周囲をきにしつつもアイツの寝顔を眺めていた。
 とりあえず応急処置はしといたけど、あれから一向に目を覚まさねえ。やっべぇ、なんか悪い方にばっか考えが回っちまう。
「なあ、早く目ぇ覚ましてくれよ。‥‥だって来月、一緒に仕事すんだろ‥‥」
 零れた呟きは、思ってる以上にか細くて。
 思わず握った手にグッと力を込めた途端、アイツの目がうっすらと開いたんだ。
「――‥‥っぅ、ここは?」
「気が」
「ほー気がついたか」
 いきなり背後からの声。慌てて振り向くと、青磁が覗き込むように立っている。当然他のメンバーもそこにいて。
「よかったー気がついたんだね」
「NWの方は心配ないよ。同胞が倒れてるのを見過ごしちゃ、義にも劣るからね」
 これは女性陣の声。
 口々に出る心配そうな声に、アイツは最初目をパチパチさせてたけど、すぐに無愛想になって俯いたんだ。ちぇー、こういう時ぐらいお礼言ってもバチ当たんねえんだぜ。
 俺がそんなことを思っていると、不意にアイツは顔を上げて。
「‥‥とりあえず助けられたみたいだから、礼は言わせてもらう。ありがとう」
 う、うわー! うわー!
 ど、どうしよう‥‥別に俺一人に言ってるワケじゃねえのに。や、やべっ、尻尾揺れるな!
「べ、別に礼なんていらないぜ!」
「ほう、ならこの揺れてる尻尾はなんだ?」
 徐にゲオルグが、半獣化状態の俺の尻尾を掴む。その間にも先っぽはパタパタと動くのが止まらない。
「ち、違うってば!」
 真っ赤になって否定しても、結局は俺の気持ちはバレバレで。
 しばらく仲間達の笑い声が響き続けた。