Produce――RECODING中東・アフリカ
種類 |
ショート
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担当 |
葉月十一
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
1.4万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
10/17〜10/23
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●本文
●レコーディング‥‥その前に
先頃。
ハイパープロジェクトが募集した新人アイドルオーディションは、紆余曲折を経た結果、女性一人に男性二人の合格者を出して幕を閉じた。
応募人数は多かったものの、如何せん最終オーディションが異国の地という事もあり、選考も難しかったようだ。もっともプロデュースを担当する須崎渉(fz0034)の指導の厳しさにも一因があるのかもしれない。
ともあれ、ハイプロにしては異色の組み合わせとなる構成は、業界関係の間では少なからず話題となっているようだ。
かくして、いよいよレコーディングへと突入するかと思われたが――
『え? 怪我?!』
電話口で驚く声に、苦笑を洩らす渉。
「別にたいした事じゃない。もうすぐ退院出来るから、レコーディングの方は影響がない筈だ。ただ‥‥」
続く彼の言葉に、電話口の向こうで更に大きな溜息が聞こえる。おそらく盛大に頭を抱えているだろう姿が目に浮かぶ。
が、伝えた事は冗談でもなんでもなく、かなり切羽詰ったものだ。
「バックバンドのメンバーを至急募集してくれ。さすがに一人じゃ、手が足りないんでな。後、歌詞も含めた曲の公募も頼む」
『曲も?』
「こちらでも幾つか作ったが、怪我で思うように捗らなかったんだ。さすがに一曲だけだと厳しいだろ、スポンサーへ持っていく時にな?」
通常、映画等の主題歌を作るとき、まずイメージにあった曲を何曲か製作しておく。それを監督なりスポンサーが気に入ったものを採用し、他は挿入歌になったり別の機会のものになったりする。当然お蔵入りもあるだろう。
それを見越した渉の発言に、向こうの彼女も返事した。
『そうね』
「別に合格した連中でも、歌いたい曲があれば構わないぜ」
ちなみに、今回映画製作サイドからの要望は、『オリエンタル』で『郷愁』を思い浮かべるイメージ。
スポンサーサイドからは、『80年代のアイドル』を彷彿させるイメージで、との事だ。
『あ、それと今回のユニット名はどうするの?』
「一応考えてはいるが、希望があれば言ってくれて構わない。それも含めて検討してみるさ」
『わかったわ』
そこまで伝えてから、彼は電話を切る。
そして、目の前のキーボードに視線を向ける。無理を言って病室に持ち込んだ代物だ。
「さて。やるからには、最善を尽くすだけだ」
●リプレイ本文
●退院
ゴン、と出会い頭に拳骨が直撃し、俺は思いっきり蹲った。
「いってぇー!?」
「ったく、誰が見舞いに来いといった?」
「だ、だってよぉ‥‥」
須崎のヤツ、本気で怒ってるみたいじゃん。やっぱ見舞いは菓子の方が良かったのか?
そんなことをぼんやり考えてると、更に頭を叩かれた。
「そんなことをしてる暇があったら、レッスンに集中しろ。後、歌いたい歌詞を考えておけと言ったよな? そいつはどうした?」
「え、歌詞‥‥?」
やべぇ、すっかり忘れてた。
だってしょうがねえじゃん。入院してるって俺、初めて聞いたんだもん。心配でそれどころじゃなかったんだーって言っても、多分気持ちが通じないんだろうなあ。
「まあまあ、須崎さんもそのぐらいでいいんじゃないかな? 彼だって心配だったわけだし」
横から死堕天(fa0365)が助け舟を出してくれて、須崎はようやく怒りを納めてくれた。ホッとした俺が軽く頭を下げると、ヴァレスのヤツは軽くウィンクを返してきた。
と、とにかくだ。
「俺、明日のレコーディングまでには作ってくるからっ! それまで決めるなよッ、絶対だからな!」
ビシッと須崎を指差してから、俺はダッシュでその場を後にした。
え〜とホテルにノートがあったから、それに書けばいいよな。確かテーマはオリエンタルで哀愁を誘う、80年代アイドルで‥‥。
「だぁぁ――っ! 俺、生まれてないじゃん!!」
――じゃーん、じゃーん‥‥。
西山貴紀(fa4283)の叫びがこだまのように響くのを、俺は苦笑しつつ聞いていた。
「なんだか彼、ホントに犬っころのようだね」
年下ながら、あの真っ直ぐな気性にはホント感心するね。獣化もしてないのにパタパタと動く尻尾と耳が見えるようだよ。
そんな彼の言動に、隣の須崎はやれやれと溜息をついていた。
「まったくあのバカは」
憎まれ口、に聞こえるけど別に嫌ってるって風でもないね。
まああの猪突猛進な性格なら、嫌う人間も珍しいし。俺も結構気に入ってるからね。やっぱり折角選ばれた同じグループだもん、仲良くしないとね。
「それでお前の方は歌詞、出来たのか?」
「当然。なんだったらここで歌ってみようか?」
「いや、後でいい」
即答で返されたけど、まあいいか。どうせベースがなければメロディも合わせられないからね。
あ、そうだ。これだけは言っておかなくちゃ。
「あのさ、今度のレコーディングだけど‥‥俺がベースを担当してもいいかな? 勿論歌の方もきちんとやるけど」
確かに、アイドルとして選ばれたんだから歌もきちんと歌う。だけど、やっぱり俺は楽器に触りたいよ。それにベースは俺の十八番だし。
怒鳴られるのを覚悟の上だったけど、須崎は別に気にした様子もなく、むしろ。
「別に構わないさ。どうせメンバーが足りないんだ。それなら機械の音より生の方がいいに決まってる」
あっさりOKを出してくれた。
‥‥へー生音に拘るなんて、さすがって感じかな。
●演奏
「アルケミスト(fa0318)‥‥アルミで結構‥‥よろ、しゅうに‥‥」
ぺこりとお辞儀をしてから、私は小さく溜息をついた。
やっぱりこういう場って緊張しちゃうかな。なんかプロデューサーの人の目付きがちょっと怖いから、なんだけどね。
でも、いつも仲良しのお兄ちゃんズが参加するって言うんだもの。折角だからついて来ちゃった。
「――緊張、してた?」
声をかけられたので振り向くと、MOEGI(fa4738)さんがすっと背筋を伸ばして立っていた。一つしか違わない筈なんだけど、すっごく大人びて見えるよね。
にっこりと笑う仕種も素敵。
あれ、でも少し緊張してるのかな、汗かいてるみたい。
「あははは♪ それじゃあ気合入れていってみよう♪」
「あ、お兄ちゃん」
「――お兄ちゃん?」
MOEGIさんに聞かれ、私はうんと頷いた。
「白鳥沢 優雅(fa0361)君。私がいつも仲良くしてもらってるお兄ちゃんなの」
「そう、なんだ」
「うん。他にもヴァレス君や焔(fa0374)君もいるよ。お兄ちゃん達と一緒に出来ればいいな〜と思って、今日は来たんだよ」
そんな会話の間にも、優雅お兄ちゃんはあらゆる楽器を優雅に弾こうとしてた。なんだか今日もやっぱりキラキラしてるね。私もお兄ちゃんに負けないように頑張らなきゃ。
でも――演歌歌っても大丈夫なのかな?
――ど、どーしよ〜!?
バックバンド募集って、まさか須崎さんのだったなんてッ! まあ、正確には彼がプロデュースするアイドルのバンドってコトみたいだけど、あたしにはそんなの関係ないよ。
やばいよ〜、へたっぴーなあたしじゃ、絶対足引っ張っちゃう!
「MOEGIさん?」
え? 内心泣き叫んでたあたしを不意に呼ぶアルミさんの声。
ふと周りを見回せば、全員があたしに注目してる。プロデューサーの須崎さんも。
マズイ、次はあたしの番か。
「す、すいません。MOEGIです、今回はギターを演りに来ました」
「‥‥それじゃあこれ、演ってみて」
手渡されたのは手書きの楽譜。
こ、これって須崎さんの字だよね。
と、いうことは彼の即興? ス、スゴイ‥‥あたしなんかいっつも似たような曲になっちゃうのに。後でアドバイスだけでも聞ければいいな。
あっとそんなこと考えてる暇なかったんだ。ええっと‥‥うわ、かなり難しいかも。
「――いきます」
いつもどおりクールを装ってたけど、さすがに今回ばかりはそんな余裕ないね。
でも、他の人達に負けないためにも、こればっかりは必死にならなきゃね。足なんて引っ張りたくないし。
そしてあたしは、意を決して最初の一音を爪弾いた。
「‥‥やれやれ、折角なんでも弾けるっていうのに、回されたのはパーカッションかい?」
まあいいさ。この僕はなんでも出来る人間だからね。それぐらい易々とこなしてみせるよ。それにこの優雅な発声を見込まれてコーラスも頼まれたからね。
ふふん、さぞかし優雅に華麗に踊ってみようじゃないか!
「――そこは踊るところじゃないよね」
「やあヴァー君、この僕の演奏をバックに君はさぞかし華麗に歌ってくれ♪」
どことなく呆れた声に聞こえたのは、きっと僕の気のせいだね。
溜息をついたようにも見えるけど‥‥うん気のせいだ。
「優雅お兄ちゃん」
和む笑みを見せるアルミに、僕もにっこりと笑い返した。
「アルミ」
「一緒に頑張ろうね」
「勿論だよ!」
たとえ歌詞がボツになっても決して気にしないよ、僕は。
「‥‥やれやれ騒々しいな」
休憩しに来た場所で、一人テンションの高い優雅を見て俺はゲンナリした。
相変わらず無駄にキラキラしてるヤツだ。いつもいつもよくあれだけ高いテンションでいられるもんだ。
「全くだね」
「ヴァレス‥‥」
聞こえた声に振り向けば、死堕天が肩を竦めていた。
「どうだった? ドラムは」
「どうもこうも‥‥明らかに人選ミス、だよな‥‥」
苦笑に溜息しか出てこない。
そもそも何故俺がこの場にいるのか理解に苦しむぞ。学生時代にドラムを齧った程度で、いきなりバックバンドは無理だろ。
とはいえ、一度引き受けた仕事だ。
「とにかく死ぬ気でやるしかねぇだろ。そっちこそどうなんだ、アイドルは。メンバーの片割れとはうまくいってるのか?」
「まあ、ね。貴紀、結構カワイイ性格してるからね。今もほら――」
「何度言ったらわかる! そこは息継ぎなしで一気に流せと言っただろうが!!」
「は、はいっ!」
死堕天の声を遮るような凄い怒鳴り声。‥‥なるほど、想像以上の厳しさだ。しかも、それに健気についてく子犬ってトコか。
「ほらね」
「確かに」
「――ヴァレス! ちょっと来い、一緒に合わせてみるぞ」
「はーい、わかりました〜。じゃあ、ちょっと行ってくる。お互い頑張ろうね」
「ああ」
そうだ。気を抜いてると、こっちが怒鳴られる立場になるからな。
●録音
「‥‥凄い厳しさね」
アイドルのバックバンドだから、と油断してる暇はなさそうね。手なんか抜いたら、すぐに首になりそうですね。
「キーボード、癸 なるみ(fa4068)!」
「はい」
「最初から通しで弾いてくれ。同時に、歌を一緒に合わせていく」
「わかりました」
手渡されたのは、本当に主旋律しかない手書きの楽譜。ホントに即興で書いたみたい。凄いですね。
あれ?
この曲って
「ああ。今回集まった曲の中でこれが一番映画のイメージに合ったからな。まずはこれからレコーディングする事にした。メロディの方は多少アレンジを加えたが、曲調はそう変わってない筈だ」
「あ、ありがとうござます!」
こんな嬉しいことってない。
こうなったら自分が出来る最高の演奏をしなくちゃ‥‥大好きな音楽ために、頑張ろう。
「他の歌詞や曲も、一先ずはストックとなるが、挿入歌などに使えないかどうか打診してみるつもりだ」
須崎さんが目で合図を送ってきた。そのまま私はキーボードを奏で始めた。それに併せて焔君のドラム、MOEGIさんのギターが被さる。
『この祈りが 天(そら)に届きますように』
伸びやかに広がる歌声。
死堕天君の低音と貴紀君の高音が織り成すハーモニー。
『燃え上がる赤い炎
天仰ぐ母の横顔
祈り紡ぐ人々の声
幼い頃信じていた楽園
今もまだ見つからない
遠い何処か夢見た幼い子供でも
いつか羽ばたいて
自分抱く母のぬくもり懐かしむ
その日は必ずくるから』
そしてサビ――アルミさんと優雅君のコーラスが重なって、私の想像以上に力強い祈りになっていく。
『忘れないで
人を愛する気持ち
何処に居ても
君は孤独(ひとり)じゃない
思い出して
君を待つ人居ること
離れてても
僕が一緒にいる』
ギターの音が消え、ドラムの音が止み、残るのは私のキーボードだけ。
『この祈りが
あの人に届きますように
揺れる炎に願うよ』
最後は語りかけるような二人の声。
そのまま余韻を残しつつ、ゆっくりと大気に溶けるように歌が終わった。
「‥‥ま、初めて合わせたにしてはこんなもんか。よし、一週間以内に完璧に仕上げるぞ!」
初めて通しで演奏した感動の余韻に浸る気分も空しく、須崎さんの声が部屋の中に響く。確かにこれぐらいで満足してたら駄目ですよね。
それじゃあ皆さん、一緒に頑張りましょう。