Allstar運動会冬 レースアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 姫野里美
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 01/22〜01/26

●本文

●犬ぞりVSクロスカントリー
 オフィスP。
 太平洋(おおだいら・ひろし)を有する、北海道のローカルプロダクション。
 そこに、東京の某事務所から、お仕事の依頼が回ってきていた。
「と言うわけだ。冬の運動会に、我ら道産子が指をくわえて見ている道理はあるまいっ。メンバーかき集めて参戦するぞ」
 プロデューサー藤田氏が、言い出したのは、唐突な一言だった。
「そりゃあ全然構わないって言うか、むしろ上等なんですが、なにやるんです?」
「いいか! 我が北海道では、色んな動物を使ったレースが盛んだ! その中でも冬にしか開催されない動物レースと言えばっ!?」
 これが画面ならば、『問題!』っと、テロップが流される事だろう。指名されたスタッフは、ぽんと手を叩いて、「あー、犬か」と答えている。
「うむっ。そう言うわけで、知り合いの牧場とその裏山の使用権を押さえた。お前ら、その犬ぞりを使って、クロスカントリーと勝負する企画を組み立てろ」
 ピンポーンと効果音付きのコメントで、支持をする藤田氏。
「って、勝てるわけないじゃないっすか!」
「アホゥ。そこは頭の使いようだ。あ、その山は普段冬季閉鎖になってて、化けもんも出るらしいから、気を付けて行くよーに」
 既に話を持ってきた事務所には、OK任せて! の返事を送ってしまっている! と、ふんぞり返る藤田氏。「決定かいっ」と呆れるスタッフくん、こう聞いた。
「で、大平さんどーすんですか?」
「無論連れて行くが、奴には例によって、何も知らせていない。壊さなければ、どっちに放り込んでも構わないから、好きなように使え」
 藤田氏のお墨付きに「いえっさー」と冗談っぽく答えるスタッフくん。ちなみに、金曜いいでしょうの場合、自宅で寝ていた大平くんを捕獲して連行するのは、定番のパターンなので、本人を含めて、文句は出てこない。
 で。
 そんなやりとりの直後、大平には内緒で、次のようなメールが、関係各位に流された。

【犬ぞりレースVSクロスカントリー】
 今度行われる冬の運動会で、レースに出てくれる御仁を募集。
 犬ぞりの方は、4頭立て1人乗りを 3台確保。裏山の冬季閉鎖口を出発後、越えた先にある牧場を目指す。
 残りの5人は、クロスカントリーで、牧場を目指す。
 ルートは特に問わないので、迷子にならない様に気を付けてゴールを目指して欲しい。
 なお、太平洋も参戦予定だが、例によって企画内容は全く告げておらず、『牧場をレポートする取材』としか知らされていない。
 壊さなければ良いので、適当に放り込むように。で、結果、そりと出走者奇数になっちゃいますけど、気にせず参加者は赤白半々に分けてください。

 なお、賞品には、『北海道の地酒+おつまみセット』が贈られるらしい。

●今回の参加者

 fa0430 伝ノ助(19歳・♂・狸)
 fa1137 ジーン(24歳・♂・狼)
 fa1634 椚住要(25歳・♂・鴉)
 fa2002 森里時雨(18歳・♂・狼)
 fa2163 アルヴェレーゼ(22歳・♂・ハムスター)
 fa2426 龍 美星(16歳・♀・竜)
 fa2680 月居ヤエル(17歳・♀・兎)
 fa2744 橘 遠見(25歳・♂・狐)

●リプレイ本文

「よーい、すたーとっ!」
 雪の中、藤田Dが旗を振り下ろす。と同時に、赤白双方は、それぞれの手段で、走りだしていた。
「さて、行きますか‥‥GO!」
 およそスポーツの名のつくものは、一通り得意な橘 遠見(fa2744)、飼い主に頼んで、ここ数日、散歩から餌やり、ブラッシングまで、一通り世話をした効果もあってか、犬ぞりも無難にスタートさせている。友好魅瞳を使って、好意を持ってもらった結果、犬達は、橘の言う事を、それなりに聞いてくれるようになったそうだ。
「ヤエルちゃん、犬ぞり組が先行するから、うちらは安全策をとるぞ」
「はーい。えぇと、地図では、このあたりが夏場の登山道になっているらしいんですけど‥‥」
 体力温存の為、序盤は確実に進める作戦にしたらしいアルヴェレーゼ(fa2163)。それを聞いて、貰った地図を広げる月居ヤエル(fa2680)。そこには、ジーン(fa1137)が調べたルートが示されており、周囲には、まるでハザードマップのように、色々と書き込まれていた。
「アタシは飛ばすけど、みんな無理しないでネ!」
 道を確かめていた二人の前を、そう言いながら、龍 美星(fa2426)が追い抜いて行く。それは、自分のチームに向けて告げられたセリフだったが、しっかり白組にも聞こえていたり。
「なんて奴だ! 見てろよ! 必ず追い抜いてやるからな!!」
 ご丁寧にも、わざわざおててを振りながらの姿に、アルは悔しそうにそう叫んでいた。
「あったよー。標識」
 その直後、道の端っこによけていたヤエルが、半分程しか見えていない標識を見つけて、そう言った。
「こんなに埋まってたんじゃ、役に立たないぞ」
 しかも、わざわざ探さないと分からない状態。ぶつぶつと文句をこぼすアルに、洋ちゃんがアドバイスしてくれる。
「ああ、なるほど。太陽を目印にするといいんだね。さすが地元っ子」
 言われた通り、天空を見上げるヤエル。と、うす曇の中に、陽の光。その光に照らされるように、『標識はここ』と言った調子で、矢印が設置されていた。
「い、意外な強敵出現ネ! そういえば北海道の子供は、冬はスキーやソリで学校に通うと、ミンメイ書房の本で読んだ事がアルネ‥‥」
 パワーで押していた美星、徐々に追いついてくる白組チームに、驚いている。
「ちきしょー。俺は同族にすらナメられているというのかーー!」
 その頃、頼むから走ってくれぇと、雪の降り積もった道で、転んだソリを起こす白組犬ぞり担当・森里時雨(fa2002)。だが、犬達は森里を馬鹿にしたような態度で、まったく言う事を聞いてくれない。そこへ、器用にソリを操っていた橘が、見かねてこう言った。
「そんなに騒ぐと、雪崩が起きますよ。ここはもう少し、犬の気持ちになりませんとね」
「んな事言ったってよぉ‥‥」
 どうしていいかわからない様子の森里。だが、橘が犬に慕われている事を思い出し、こうきりだす。
「そうだ! 橘さん、ちょっと先行してくれねぇッスかね?」
「え? まぁそれは構わないんですけど‥‥」
 怪訝そうな表情の橘。レースなのに、良いのだろうか‥‥と思いつつ、有利になるのは確かなので、言われた通り、ソリを走らせる彼。
「よし。ほーら、大好きなお兄ちゃんを追いかけろ!」
 直後、森里が命じたのは、言う事をあまり聞かないわんこ達に、その橘を目印にすることだった。どうやら、彼を牽引役兼餌に仕立ててしまったらしい。そんな彼に、追い抜かれてはたまらないと、伝ノ助(fa0430)は、かねて打ち合わせていた、ある作戦に討って出る事にした。
「橘さん、もうすぐ道が細くなるっす。そこで決めます!」
 崖際の道は、犬ソリが2台並ぶには向かない。そこで森里のソリを牽制し、一気に引き剥がしてしまおうと言う策だ。
「犬達に負担がかかりますけど‥‥頑張って下さいね!」
 橘がそう言って、犬達に声をかける。大好きな御仁に励まされ、犬達はスピードを上げた。その様子を見て、同じ赤組の美星、並走する形になっていたジーンに、びしぃっと宣言する。
「こっちも負けるわけには行かないネ! ジーンさん! 同じスタントマン同士、勝負アル!」
「望む所だ。闘争心が高いのは、何も犬達だけじゃないぞ」
 挑戦状を叩きつけられた彼、そう言って受けて立っている。やる気があるのは、犬達ばかりではなく、ジーン自身も同じだと。
「スポーツ能力では負けても、体力では負けないアル!」
 何しろ相手は白組最大の強敵。彼を倒せば、赤の勝利は間違いない。そう確信し、美星はジーンを煽るだけ煽り、ペースを上げて行く。
「あの崖際をつっきれば、近道ッスね!」
「インは渡さないっすよ!」
 森里をブロックする伝ノ助。3台の犬ぞりは、細くなった道に差し掛かり、その車間距離を狭めて行く。
 だが、近道となる崖の側を通った直後。
「ぐるぁぁぁぁっ!」
 真っ白な雪の中から、両腕を上げて吠える黒い生き物がいた。ぶつかってはたまらないと、伝ノ助、慌てて犬ぞりにブレーキをかける。
「「って、なんでこんな所に熊がいるんだーーーーー!!」」
 かくーんっと顎をはずさんばかりの森里達3人。そう、そこに居たのは、今時分は冬篭りでおねんねしている筈の、でっかい熊さんだったのである。

 さて、その頃、後発のクロスカントリー組はと言うと。
「あれ? ヤエルちゃん、その鈴は?」
 アルは、一緒に歩いていたヤエルの腰から、綺麗な音のする鈴を見つけて、そう尋ねている。
「うん。熊って、音がする方には来ないとか言ってたから、服に鈴を付けていこうかな〜と」
 可愛いし☆ と、見せびらかす彼女。確かに、フード付のウェアとあいまって、可愛いアクセントになっていた。
「うわぁぁぁっ!」
「今の悲鳴は!?」
 前の方で、雪の崩れる音と、何やらバトっている悲鳴。急いでそちらへ向かってみれば、伝ノ助が逃げようとするわんこ達をなだめている最中だ。
「お、落ち着くっす! あ、相手はただの熊っすよ!」
 そう言って、無理やり笑顔を作る彼。ニットキャップが不自然な形に膨らんでいる所を見ると、半獣化しているのだろう。程なくして落ち着きを取り戻す犬達だったが、逆に落ち着かないのが獣人様の方である。
「熊ぁ!?」
 アルが視線を凝らして見ると、逃げ惑うわんこ達を捕まえようとしている大きな熊がいた。
「よし、逃げるぞ。ヤエルちゃん」
「そ、そうだねっ」
 非戦闘要員な自分達では、足手まといになるだけだ。だが、くるりと踵を返して、来た道を引き返そうとした2人の真後ろで、吠え声。恐る恐る振り返ってみれば、雪煙を蹴立てて向かってくる熊さんの姿がある。
「止まって下さい! 熊は、逃げるのを追いかける癖があるんですってば!」
「んな事言ったって、素で勝てる気しねぇもん!!」
 橘に制されるものの、アルの足は止まらない。って言うか、止まったら熊パンチを食らってしまう可能性大だ。そして、『誇り高き愛玩動物』たるハムスター獣人の彼に、それを受け止める術はなかった。
「回りこまれちゃったよ!」
「あ、あははは。森の中、熊さんに出会ったってかー‥‥」
 が、戦闘能力が高い熊、調度段差になった所からジャンプし、逃げるアル達の前に立ちふさがってしまう。
「ど、どうしよう」
 ヤエルが、困惑したようにそう言った。フードで隠されている為、違和感はないが、頭には兎の耳が生えている。半獣化しているようだ。
「よ、よし! こうなったら奥の手だ!」
 顔を引きつらせたアルは、ウェアのポケットから、ある袋を取り出した。
「空港の土産物ショップで買った鮭トバだ! 熊と言え鮭! 鮭と言えばトバ! そう言うわけで、ほーれとってこい!」
 アルはそう言うと、鮭トバを熊の前にぶちまけようとした。ところが、である。
「かー‥‥」
 横から突っ込んできたカラスが、一声鳴くと、その鮭トバをかっさらって行ってしまった。
「うわぁぁっ。とんびに油揚げ攫われた! それ、高い奴なんだぞぉぉぉぉ!!」
 ひと袋千円の高級(?)食材である。怒鳴るアルに、熊はゆっくりと振り返り、唸って見せた。
「ね、ねぇ。あの熊、怒ってるみたいだけど‥‥」
「そ、そうみたいだな‥‥」
 どうやら、目の前で餌を取られた怒りを、アルとヤエルに向けているらしい。顔を引きつらせたアルが、二歩程後ずさりしながら、ぎこちなく和気穏笑を使った刹那だった。
「こっちだ! 3人とも!」
 そこへ、駆けつける橘。スピードを落とした彼に、ヤエルはぴょいっと飛び乗ると、こう言ってしがみついた。
「た、助かったっ。ごめん、ちょっと乗せてねっ」
「追いかけて来たッスよ!」
 伝ノ助が、そう指摘する。振り返れば、熊がこちらに向かってくる最中だ。そんな熊の前に立ちはだかる、学ラン姿の少年。
「任せろっ! 路上格闘家的に、相手に不足はねぇっ!」
 そう言うやいなや、彼のアンダーシャツがはじけ飛び、全身が見る見るうちに狼の毛皮へと覆われた。
「って、カメラ止めるアル〜!」
 獣へと変化する森里の姿に、美星があわててスタッフの方向へ走って行く。
「果てろ! 熊公!」
 彼の獣化が完了したのは、彼女がカメラの電源を叩き落とした直後だ。そんな事欠片も気付いていない森里、牙を向いて、段差からジャンプし、上段から熊の鼻面に一撃を食らわせる。その拍子で、森里が後生大事に抱えていたロケ弁が、宙へと舞い上がった。それは、放物線を描いて、熊の目の前に、ポロリと落ちる。しばらく臭いを嗅いでいたが、お気に召したらしく、器用に鼻先で蓋を開け、はぐはぐと食いついていた。
「こらぁぁぁっ! それは俺の保存食だ! 返しやがれぇぇ!」
 俺の貴重な保存食だっ!! と、引っぺがそうとする森里。しかし、食事の邪魔をされたくない熊さん、一声鳴いて、ぺしっとはたく。そのままフレームアウトする彼。
「おかしいな‥‥。いかにへたれないじられキャラとは言え、路上格闘技で鍛えている奴を、一撃で谷底に放り込むとは‥‥ただの熊じゃない」
 その様子を見ていた椚住要(fa1634)、ぼそりとそう言った。気付いたジーンが、熊の様子を良く観察する。と、そこには。
「要の言う通りだ。見ろ」
「あ、コア!」
ジーンの指摘に、美星がそう言った。見れば、物足りなさそうにしていた熊は、徐々にその姿を変え、熊とは言い難い姿形へと変化している。
「どうやら、遠慮はいらないみたいだな‥‥」
 要はそう呟くと、カメラが回っていない事を確かめ、裂いておいたウェアの背中に、翼を生やして舞い上がった。
「ここは、赤白無関係に協力、本気で戦って倒すアル!」
 美星も、赤い鱗に白い角を持つ竜の姿へと変わりながら、宣言する。と、ジーンが崖下を指差し、その身を躍らせる。
「あそこに、ちょっと広そうな場所がある。そこまでおびき寄せるぞ!」
 このまま放置していたら、山開きの際、犠牲者が出るだろう。それを避けるためにも、ここで倒しておくのが上策だと、彼は思った。
「橘さんは、非戦闘員を連れて逃げるアル!」
「出来ませんよ、そんな事!」
 美星がそう言うが、彼は首を横に振った。レースを優先したい気持ちは山々だが、少なくとも、退治を他人に任せて、その間に逃げると言う真似は、好きではない。
「だったら、安全な所で待機してろ! ち‥‥、熊が相手となると、武器が必要だが‥‥」
 ジーンがそう言って、手元を見た。しかし、相手を倒せそうなものは、1つしかない。そう‥‥持っていたストックである。
「これしかないか‥‥。多少間抜けなのは、目を瞑ってくれよ!」
 そう言って、留め金を取っ払って、棒状にするジーン。先の尖ったそれは、殺傷力がありそうだ。そう叫ぶと、ジーンはフェンシングの要領で踏み込み、熊の顎下から、突き上げる。
「がるぎゃあっ!」
 彼へと突進してくる熊。低く構えたその脳天へ、美星が中国武術の蹴りを叩き落し、コアへと一撃を食らわせる。こうして、熊NWは、芸人達に蛸殴りにされるのだった。

 レースの勝敗は、人数の揃っている赤組に、軍配が上がっていた。
「仕方ないだろ。ストックいかれやがったんだから」
 悔しそうにするアルに、ジーンがそう言った。彼が持っていたストックは、熊とのバトルで、不自然な形に折れ曲がっている。こうして、冷えた身体を程よく露天風呂で温めなおした彼らは、併設されている食事所で、軽く腹を満たしていた。
「温泉上がりに雪見酒か‥‥。ち、出来れば奢りで堪能したかったな」
「いやぁ、無事全員完走出来てよかったっすねぇ。がんばったっすよ、ワンコ達」
 ジーンが地酒を堪能しながら、そう言うと、伝ノ助が暖炉の前でぬくぬくしている犬達を撫でまわしている。が、あったまっている彼らを数えていたヤエルがこう言った。
「一人、足りなくない?」
「あ、そう言えば! ちょっと探してくるアル。きっと今頃、迷子になってるアル」
 森里の姿がない事に気付いた美星、カメラが回っていない事を確かめ、獣化して雪山へと戻って行く。
「‥‥犬とソリが逆転してるアル」
 見れば、牧場から少し離れた山の中で、すっかり意気消沈しちゃったわんこをソリに乗せ、獣化した森里が、自分でソリを引いていた。
 面白いから、しばらく放っておこうアルか‥‥と、ちょっぴり意地悪な事を考える美星嬢。
「うう‥‥。何でこんな目に‥‥。俺、無事に帰れるんだろか‥‥」
 そんな事とは露知らず、遥か遠いゴールを目指して、涙目になっている彼。
 頑張れ路上格闘家。負けるな路上格闘家。ゴールの先には、白い明日が待っている!!