横浜中華街春節祭・出演アジア・オセアニア
| 種類 | ショート |
|---|---|
| 担当 | 姫野里美 |
| 芸能 | 1Lv以上 |
| 獣人 | 1Lv以上 |
| 難度 | 普通 |
| 報酬 | 1万円 |
| 参加人数 | 8人 |
| サポート | 0人 |
| 期間 | 01/28〜02/01 |
●本文
●旧正月日本の正月は既に終わり、成人式もとうに過ぎた。人々はいつもの生活に戻り、またあわただしい毎日が始まっている。
だが、お隣中国では、年末はこれから。正月もこれからだ。それは、日本と違い、太陰暦で進行していたからである。むろん、横浜にある中華街も、例外ではない。何ヶ月も前からＨＰで告知をし、駅にはポスターを張るなどして、アピールしていた。特に、３月には新しく女神廟が着工されるとあって、ここらでがっぽりと資金を集めておきたいと言う思惑があるようだ。
しかし、芸能に関わる事には、獣人がつきもの。そして、獣人いるところ、ナイトウォーカー在り。人々の中に、ＮＷが紛れていないとは、言いきれない。
それでなくとも、毎年荒っぽい祝い方で知られる春節祭。頭を痛めた実行委員会は、警備、そしてイベントと広報に、人員を増強する事にしたのだった。
●出演
今年の春節は、ちょうど日曜日に重なると言う事もあって、イベントやパレードなども行われると言う。雇われた彼ら芸能人が放り込まれたのは、そんなパレードの一角だった。
仕事の内容は、実行委員会支給の制服を着て、竜の飾り物を持って、中華街中を練り歩く事。観光客が大勢来る時間に、パレードして欲しいこと。それ以外は、各自春節にちなんだ大道芸を披露して欲しいそうだ。
なお、その一部始終はきちんと記録され、後で広報担当にまわされて、レポートとして掲載されるらしい。
そのレポートを作成するのも、彼らに回された仕事のひとつだった。
年明けの瞬間は、爆竹等々が鳴らされる。その時期を狙って、ＮＷが現れるかもしれない。
正月が、大騒ぎになるのは、新でも旧でも変わらないようだった。
●リプレイ本文
一通り挨拶を済ませた一行は、指定された控え室へと集まっていた。種類こそ違えど、祝いの祭りである事は間違いない。その為、彼らはうきうきとした表情で、衣装を替えている。「ぴー‥‥」
と、上着を脱いで、着替え始めた龍 美星（fa2426）の、豊かな胸をじーっと見ている存在があった。ベス（fa0877）である。熱く注がれた視線に、彼女が気付き、振り返ったその時である。
後ろから両側を抱えるように、ふくらみをつつくベス。
「な、何するカーーーー！？」
「ぴゃー、本物だぁ。いーなー」
驚いて胸をかくす美星に、彼女は悪びれた様子もなく、うらやましそうにそう言った。困ったいたずらに、美星は「ベスもそのうち大きくなるアル」と慰めている。と、そこへガチャっと扉が開いて、実夏（fa0856）が入ってきた。
「おーい、騒がしいけど、着替え終わっとんのか？」
「「「あ」」」
えー、この時点で着替え終了しているのは、蘭童珠子（fa1810）さんと富垣 美恵利（fa1338）さんだけである。他は、下着を付けているか付けてないかの差はあれど、概ねちょっと恥ずかしい格好。
「し、失礼しまし‥‥」
あわててくるりと踵を返そうとする実夏。
「ぴゃーーーーー！！！！！ えっちーーーーーー！！」
「俺は何もしとらへーーーん！！」
が、見てしまったのは確かな為、そこに女性陣‥‥ベス、唯澄、美星のお仕置き３点セットが降り注いだのだった。
数時間後。
「あははは！ そりゃあ災難だったねぇ」
数グループに分かれて、中華街へと散って行った一行。その中で、頭にたんこぶをつけた実夏は、ＨＡＫＡＳＥ（fa2600）に大笑いされていた。
「笑い事じゃあらへんがな。なんでＮＷでもあらへんのに、ボコられなあかんねん」
単純にタイミングが悪かっただけやねん‥‥とこぼす実夏。と、彼はまだ笑いが収まらない様子で、くすくすと笑いながら、大通りの方を指し示した。
「まぁその分は、向こうが埋め合わせしてくれると思うよ。レポート、もう始まってるみたいだし」
遠坂 唯澄（fa2584）が、ちょうど賑やかな場所に向けて、カメラを回している最中だ。いつものコントラバスは持っていないところを見ると、控え室に置いてきたのだろう。
「はーい、ちょっと話良いかなー☆」
レポーター役は彼女ではなく、美恵利のようである。スリットの深い色気たっぷりのチャイナ服を着ている彼女。良く見れば唯澄も同じ衣装だ。その為、彼女達の周囲には、若い男性を中心にたくさんの人が群がっており、中々賑やかな様子だった。意図的にそうしているようにも見受けられるが、唯澄がＮＷ対策をどうのと話していたので、彼女の作戦なのだろう。孤立すれば狙われるのは、自明の理と言う奴だ。
「そやな。ほな、仕事にとりかかろうやないの」
その姿を見て、実夏は看板を掲げた。道具一式は準備会から借りたものだ。反面、売り上げも全ては準備会へ収めるのだが。そこへ、美恵利がマイクを向けてくる。笑顔で自分の担当たるフェイスペインティングをアピールする実夏。それを見て、唯澄はこう呟いた。
「今のところ、不穏な動きはないようだな‥‥」
「これだけ賑やかだからね。そうそう仕掛けてくる事もないだろうし」
同じ様にレポート係として、大道芸の様子を紹介していた富士川・千春（fa0847）が、騒がしい街中を見て、そう言った。
「それにしても、ずいぶんと‥‥だな」
「レポーターとして、魅力を上げないといけませんしね。彼女みたいに、アクロバティックな動きが出来るわけではありませんし」
美恵利がマイクを向けた先では、チャイナドレスの上に、男性ものの上着を重ねて、武人らしく衣装を着こなした美星が、演武を披露している真っ最中だ。
「アイヤー！ はイッ！！」
武の型とバック転などの軽業技能をあわせ、アクロバティックな動きを表現している美星。本場の中国武術に、主に男性陣から感嘆の声が上がっていた。
「はいはーい。そこで盛り上がっているお兄さん方、フェイスペインティングはどうや？ 柄はどれでも５００円やでぇ」
人数が集まった所で、実夏がそう勧誘していた。柄には竜や獅子、蓮の花など、縁起物らしいものが揃っている。
「今なら、手品もつけちゃう☆」
注目が集まった所で、やはりレポート役として、撮影に回っていたＨＡＫＡＳＥが、ここぞとばかりに竜のパペットを取り出し、喋るペットのフリをさせている。
「はーい。じゃあこの子にお願いできるかしら」
そこへ、おそろいの衣装を着たおタマさんが進み出る。いわゆるサクラ役だが、実夏は快くキーちゃんのほっぺに小さな蓮の花を描いた。
「わわ、くすぐったいヨ！」
頬にシールを張られて、人形の口がかぱりと開く。と、おタマさんは、くすくすと笑いながら、大道芸めいた芝居を始めた。
「我慢してね。お祝いらしく、華やかに行きたいもの。ね、キーちゃん☆」
『誰がキーちゃんだ！ ボクはフレデリック・ジョージ・キンヴァルフ３世だってバ！』
人形は、とてもご立派な名前らしい。彼は、おタマさんに「はいはい、分かってるから。お客さんにご挨拶して？」と促され、偉そうな態度で一礼する。それを、デジカメでＨＡＫＡＳＥが写真に収めていた。写真技術は素人同然だが、自分の目で見て良いと思ったものを記録した方が、後で作成するレポートに活かしやすいと考えているようだ。
「新年のごあいさつは、シンニェンハオって言うそうよ。キーちゃんも覚えておいてね☆」
頷くキーちゃん。前フリを済ませたおタマさんは、ＨＡＫＡＳＥのカメラに向けて、笑顔を浮かべながら、観客へこう言った。
「もうすぐカウントダウンが始まりますから、皆さんもキーちゃんと一緒に練習しましょう〜。せーの、新年好〜☆」
実夏もＨＡＫＡＳＥもそれに混ざり、声をあげている。遊園地のパレードめいていたが、実際行われるので、違和感はなかった。
『その調子で、本番も元気良く盛り上げるノダ〜！』
キーちゃんがそう言う中、ぱちぱちと拍手が鳴っている。なお、一連のやりとりは、唯澄と美恵利のカメラに、収められるのだった。
そんなわけで、レポートと大道芸に追われる中、時間は刻々と過ぎて行った。
「そろそろ時間アル。カメラ回して良いアルか？」
「もちろんよ☆ 可愛く撮ってね」
大道芸衣装のまま、デジカメを向ける美星の前で、美恵利がチャイナ服をふわりと舞い上がらせる。魅惑の脚線は、充分視聴に耐えうるものだ。
「僕はお客さんの方を撮ってる。スタッフの体当たり取材レポって事にしといて」
「わかったアル〜」
先ほどとは違い、ＩＣレコーダーを手にしたＨＡＫＡＳＥは、見物客の皆様に、突撃インタビュー。意見徴収も、重要なレポート要素だ。
「楽しそうだなー」
その最中、唯澄がベスに声をかけた。「うん、こう言うお祭はたのしーよ？」とこくびを傾げる彼女に、唯澄はこう続ける。
「いや、そうじゃなくて、だ。楽しむより、もっと盛り上げた方が良くないか？」
「ぴゃ？」
怪訝そうな表情を浮かべるベスに、彼女が持ちかけたのは、この後に控えるカウントダウンイベントの事。
「ベスも歌手だろう。ライブに興味ないか？」
「ぴゃー。あるあるー♪」
提案に目を輝かせるベス。そんな彼女に、唯澄はこう言った。
「１人でいると狙われる。２人で居たほうが安全だし、仕事もやりやすくなると思ってな」
歌うなら、伴奏は任せてくれ‥・・と申し出る彼女。コントラバス伴奏のソロと言うのも、悪くないと言うのは、以前の仕事で実証済みだ。それに、出来るだけ１人ではいない方がいい。そう思って。
「そうかも。あ、ねーねー、中華まん食べたくなーい？」
「まだまだ色気より食い気か‥‥」
しかし、当の本人は、自分の出番よりも、大きな肉まんが魅力的なようだ。その姿に、苦笑する唯澄。ライブは１人で出た方が良さそうだ。
「さぁ！ ５分前やでー」
実夏が呼びに来る。それを受け、唯澄は頷いて、愛用のコントラバスを手に、舞台袖へと上がった。
カウントがゼロになった瞬間、派手に爆竹が鳴り響く。安全の為、特設ステージ上だけだったが、それでもバチバチと光と音が飛び散る姿は、壮絶なものだ。そんな中、独特の音楽と共に、ステージ上から、巨大な竜の張りぼてが登場する。
『わー、でっかいドラゴンが出てきたよ！？ おねーさん』
「あれは竜舞って言って、お祝い事のある時に踊る、中国伝統のダンスなのよ」
子供が見ていた事もあって、キーちゃんと共に、それを解説するおタマさん。見れば、先頭の玉はベスが持ち、頭の部分を美星が担当して、竜を動かしている。後ろのほうは実夏が担当し、周囲では京劇風の女性貴族らしき衣装を着た美恵利が、優雅に舞っている。キーちゃんとおタマさんは、対照的なスローペースのダンスを見せながら、そのダンスに参加する。新年らしく賑やかな様子を、ご覧下さい☆ とレポートしながら、千春がその由来について解説する。
「新年好〜。説明するよ☆ その昔、年末になるとニェンニェンと鳴いて村を荒らしにくる怪物、年獣がいたんですって。その年獣を追い払うために、年獣を模した面と爆竹で威嚇して追い払ったんだそうです」
「だから、ああやって爆竹を鳴らすんだ」
ＨＡＫＡＳＥがレコーダー片手に相槌をうっている。と、彼女は指を振りながらこう続けた。
「そそ。すると、村に豊作が続いたことから年獣と爆竹で豊作を祈願するようになったそうですよ。ニェン×２☆」
最後は中国語っぽい挨拶で締める。と、そこへどこからか現れた獅子舞が、口をカパつかせながら、乱入してきた。
「わわわっ。何事！？」
「噛まれた人は、幸運に恵まれるそうですよー」
次々と軽く頭にかぶりつかれる観客達。それを、幸運な行事だと説明するＨＡＫＡＳＥ。
「ホント？ ラッキー。でも、なんか変な感じー」
噛まれた頭を撫でると、少し湿っている。これがそういう事なのかなぁと首を傾げる千春を見て、演奏の終わった唯澄が呟いた。
「‥‥おかしいな」
「何が？」
他のスタッフに竜舞を交代していた実夏が聞きかえすと、彼女はあちこちで物色するかのように、人々の間を彷徨っている獅子舞を見て、こう答えた。
「あの獅子舞、予定にあったか？」
「そう言えば‥‥」
はた、と表情を厳しくする実夏。今回、全ての大道芸は、何時からどの辺りでやるのか、申告されている。だが、それによると、この時間に獅子舞は予定されていなかった。
「注意しておいた方が良いな。どうやら、動き始めたようだから」
「わかった。皆にも連絡しておく」
唯澄の指示に、実夏は携帯のメールを送信する。
「まあ何事もないのが一番ではあるのだが‥‥な」
そんな彼らの姿を見ながら、それでも唯澄は、そう呟くのだった。
「なるほど、予定にない獅子舞アルか。それは怪しいアル」
話を聞いた美星は、竜舞を他の面々に任せ、その謎の獅子舞を追いかけていた。
「今、どの辺りにいる？」
「関帝廟あたりに入って行ったよ。この時間、どこも人で溢れてるけど、警戒しておいた方がいいね」
唯澄が確かめると、ＨＡＫＡＳＥが中央にある廟を示した。と、そこへ美恵利から「見つけましたわ」と報告が入る。
「今一番近いのは‥‥と」
ＨＡＫＡＳＥの携帯には、各要員の現在位置が、遂次入ってきていた。それによると、謎獅子舞に最も接近しているのは、美星だ。
「ちょうど向かってるアル‥‥いたアル！」
「って、ちょっとま‥‥」
連絡を受けた彼女、電話口でそう答えている最中、その謎の獅子舞に追いついたらしい。放り出される音がして、遠くからこんな声が聞こえてきた。
「事件は現場で起こってるアル！ 皆が来るまで、１人で頑張るヨ！ ちぇぇスト！」
「‥‥キィ？」
美星の強烈な回し蹴りが炸裂する。その刹那、獅子舞の口から漏れたのは、明らかに人外の声。
「これ以上お祭り邪魔させないヨ！」
相手が美星１人だと気付いたＮＷ、まるで本物の獅子がそうするかのように、喉笛めがけて飛び掛る。元は人だとは思えない跳躍力を見せたそれを、美星は押し倒される形で受け止めた。
「負けないアル‥‥」
それでもなお、ＮＷは彼女の喉笛を掻っ切ろうと、牙を向く。張りぼてのそれは大した事はなかったが、美星はその中に並ぶ鋭い牙を、確かに見た。
「美星さん、援護するよっ！」
そこへ、ベスが空からキックをお見舞いした。しかし、軽い彼女の身体では、あえなく避けられてしまう。
「虚闇撃弾！」
バランスを崩したそこへ、千春が闇の玉を飛ばした。狙い違わぬそれは、ＮＷを弾き飛ばす。３対１を見て取ったＮＷは、その瞬間、くるりと踵を返した。
「逃げるなアル！ わぷっ！」
美星が回り込もうとするが、そのＮＷは構っていられないとばかりに、彼女を突き飛ばして、廟の向こう側の路地へと消えてしまう。
「不利だとわかって逃亡したな。多少は賢い奴と言うところか。だが、しばらくは仕掛けてこないだろう。後は警備の連中に任せよう」
「可能な限り、こちらで対処したかったんだけど‥‥」
駆けつけた唯澄が、追いかけようとした千春を押し留めた。残念そうに呟く彼女に、唯澄はこう諭す。
「非戦闘員も多いからな。本職の方が、上手く処理してくれるだろうよ」
「そうだね‥‥」
納得した表情を見せる彼女。こうして、新年イベントは無事終わった‥‥かに見えた。
が、控え室へ戻った一行を待っていたのは山ほどの作文と言う名の、レポートだったのである。
