デリバリーは甘くないアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 姫野里美
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/13〜02/17

●本文

●神戸川崎秋葉原地獄の配達要請
 バレンタイン。
 それはバンアレン帯のお誕生日でも、バレンタイン少佐のご奉仕日でもなく、ヲトメの夢と希望を乗せた、公式野郎一本釣りデーである。
 そんないかにもな日に、ここライブハウス柏木でも、ひと騒動起こっていた。

「突然だが、手伝えお前ら!」
 いつもの様に、遊びに来ていた常連連中は、店に入るなり、マスターに捕獲されていた。
「はぁ!? いきなりなんだよ、マスター!」
「配達だ。今俺は、バレンタインチョコ代作で激烈に忙しい。俺の代わりに、ちょっくら回って欲しい所がある!」
 いつもの三割増しでテンションが高いマスター、そう言う。彼の手元には、何故か夜行バスのチケットが数枚置かれていた。
「これは‥‥もしや、これに乗って、デリバリーに行けと」
「もちろんだ。新幹線代出せるほど、うちに資金はねぇ。が、頼まれごとなら、やらなきゃならん。そんなわけで、お前らには、神戸までこれを届けて欲しいっ」
 どんっと甘い匂いを漂わせる巨大な物体。それは、板チョコと言うには、あまりに巨大すぎるチョコレートの塊だった。でかくて重くて運び難そうなそれに、常連達が顔をしかめる中、マスターは届け先を壁のコルクボードに貼り付ける。
「何々‥‥神戸‥‥川崎‥‥って、むちゃくちゃじゃねぇか!」
「それを承知で頼んでるんだ。頼むから何とか行ってくれんか。でないと、資金がこねぇ」
 文句つける常連に、情けない声で頼み込むマスター。どうやら、運転資金の提供を申し出てくれる代わりに、そんなややこしいデリバリーを頼まれたらしい。
「投資の代償かよ‥‥。なんだか面倒な仕事だなぁ‥‥」
「だからお前らに頼んでるんだよ。ただ問題は、対象の届け先が、昼間は仕事であちこち講演会回んなきゃいけないそうで、捕まりにくいそうなんだ‥‥」
 マスターの話では、10時から夕方の4時までは、市内の市民センターをぐるぐる回っているので、中々捕まり難いそうだ。まぁ、その後はスタッフと懇親会やるそうなので、そこがチャンスだと言えばチャンスだそうである。
「あと、バレンタインには、ライブ枠あけとくから、きちんと戻ってくるよーに」
「何ぃ!?」
 横暴である。つまり、高速バスで東京を出発し、10時から4時までにタイムアタックをかけるのを繰り返し、翌々日には、ハウスへ戻って来いと言う事だ。
「ああ、それと、相手は有名人だから、誰かに狙われるかもしれないそうだ」
 オマケに、移動中は襲撃にも備えなきゃいけないとかで、スタッフがピリピリしているらしい。
「付かぬ事をお伺いしますが、デリバリーの相手はどなたで?」
「耽美評論家のヒメ・ニョン先生」
 マスターの回答に、常連客から悲鳴が上がる。つまり、出来るだけ美形男子に偽装して、デリバリーしなきゃならんかもしれない上に、気に入ったら食われかねない危険な配達先のようだった。

●今回の参加者

 fa0406 トール・エル(13歳・♂・リス)
 fa0475 LUCIFEL(21歳・♂・狼)
 fa1385 リネット・ハウンド(25歳・♀・狼)
 fa1719 風和・浅黄(20歳・♂・竜)
 fa2002 森里時雨(18歳・♂・狼)
 fa2599 若宮久屋(35歳・♂・狸)
 fa2618 天羽司(27歳・♂・蝙蝠)
 fa2665 野々村・子虎(14歳・♂・虎)

●リプレイ本文

 闇雲に探しても仕方がない。そんなわけでLUCIFEL(fa0475)が取り出したのは、プリントアウトされた、ヒメさんの講演予定だ。
「詳しいな。俺、ガッコで調べて見たんだけど、そもそも使い方よくわかんなくて」
 びっしりと書き込まれた予定表を見て、感心したように森里時雨(fa2002)が言う。自宅にパソコンを持ち合わせていない彼は、学校のパソコンを使って調べようとしたものの、知識不足でろくな情報が集まらなかった模様。
「一応、公開されている情報はこんな感じだが、ここに小さく『あくまで予定です』って書いてあるんだよなぁ‥‥」
 ルシフが、ホームページから手に入れたらしい予定表を見ながらそう言った。それには、隅っこに小さく注釈が書かれている。
「この手の公演会だと、終わった後に打ち上げやるのは、常識ですわね。さすがに公開されてませんけど」
 トール・エル(fa0406)も、何度か仕事が終わった後の打ち上げに、招かれた事はある。大なり小なり差はあるが、概ね間違ってはいないだろう。
「移動は俺達と違って、新幹線だろうから、交通の便の良い所だと思うよ。忙しい人みたいだから、携帯電話切ってるなんて、ありえないだろうし。あ、これ一応、マップね」
 若宮久屋(fa2599)が、そう言って駅周辺ポケット地図を差し出した。自分達と違って、豪勢に新幹線往復だろうから、その時刻に間に合うように行動するだろうと言う理論だ。
「最初は神戸か‥‥。そう言えば、こんなもの見つけたんだけど」
 仲間が調べて来た情報を、携帯にメモりつつ、リネット・ハウンド(fa1385)は持っていたあるコピー用紙を差し出した。それには、『某有名芸能関係者』と銘打ちつつ、イベント会場での人員整理等々の募集がかかっている。条件を見た風和・浅黄(fa1719)は、ぼそりとこう尋ねる。
「イベントスタッフの求人? どこでこんなものを‥‥」
「役所の近くにあったハローワーク」
 そう話すリネット。彼女も自分なりに、何かないか調べて来たらしい。相談の結果、運搬組とスタッフ組に分かれる事になった。お互い連絡先を交換し、バスへと乗り込んだ森里は、財布の中身を確かめながら、ぼそりとこう言う。
「どうでもいいんだけど、これ全部有料なんだよな‥‥。マスターから、チケットもらえねぇかなぁ‥‥」
「そんな財力あったら、俺らはこれに乗ってねぇだろ。チケット代欲しけりゃ、手伝え。ただでさえ大きいチョコを、厳重に梱包してあるんだから」
 厳重に梱包されたチョコレートを、バスの中へと運び入れる若宮とルシフ。店で見た時より、かなりゴツい姿形になっているそれに、眉をひそめる森里。
「なんか、重量倍になってねぇか?」
「仕方ないだろ。壊したら大問題だし」
 何しろ、3日3晩の長丁場である。気温の低い冬季とは言え、バスの気温を考えると、油断は出来ない。そんなわけで、預かったチョコレートには、融けないよう断熱ラッピングとドライアイス、緩衝材を仕込んで、持ち運びの際に壊れないよう、細心の注意を払っている‥‥と、ルシフは語る。
「台無しになったら、ヒメの雷が落ちかねん。そんなわけだから、我慢しろ」
「へいへい」
 そんなわけで、一行は大荷物を抱えたまま、仕事へ向かうのだった。

 さて、神戸駅へと降り立ったバス組は、ルートを検索していた。
「ふむ。ここからだと、30分くらいだな。こんな閑静な住宅街で、何を話すんだか‥‥」
「閑で静かな住宅街だから、悪巧みできるんだろ」
 それによると、周辺は、団地と公園以外は、目新しいものはない、ごくごく普通の住宅地である。分かりやすい道程なので、一行はそんな事をくっちゃべりながら、会場へと向かったのだが。
「これは‥‥」
 眉をひそませるトール。そこにはでっかく金文字で『関係者以外立ち入り禁止』と書かれていた。
「チョコは修復中らしいしな‥‥。どうする」
 現場で出迎えたリネットがそう尋ねた。しかし、入れないのでは仕方がない。トールがため息をつきながら、こう提案する。
「諦めて何か美味しいもの食べに行きましょう。ポートアイランドあたりで、神戸牛でも☆」
 表情が、明らかに他人にたかろうと言う魂胆見え見えだ。むろん、そんな高価な品物に手を出す余裕は、他の連中にはない。
 そして。
「結局、神戸では捕まらなかったね‥‥」
「行き先は分かっていますから、先回りをした方が良いと思いますわ」
 そんな事をやっているうちに、すっかり取逃し、川崎へとやってきた一行。若宮の言葉に、一応、出没先は把握しているので、先にそっちに向かって、待ち伏せをした方が得策ではないかと、そう主張するトール。
「とか言って、美味しいケーキが食べたいだけだろう」
「ぎくっ」
 ルシフに突っ込まれ、顔色を変えるトール。まだそこまで内心を押し隠せるほど、演技力は高くないようだ。
「川崎は、けっこう入り組んでるから、面倒だよねぇ‥‥。こう言う時、バイクが使えたらよかったんだけどさ‥‥」
 地図を見ると、道は複雑になっている。そう呟く若宮に、ルシフはこう提案した。
「ふむ。次の講演会場は、秋葉原だそうだから、その間の移動なら、ご自慢のマシンも使えると思うぞ」
 自分もバイク乗りだ。彼の気持ちは良く分かる。
「そうか。なら俺は、先に移動させてもらうよ。二手に分かれてはさみ撃ちってのも、オツなもんだろ?」
 そんな同類の提案を受け入れ、若宮は川崎ではなく、秋葉原で決着をつける事に、意欲を見せるのだった。

 ところが、そうは問屋が大根おろしだった。
「この状況は、上手い事、入れてよかったと取るべきか、悪かったと取るべきか‥‥」
 秋葉原に到着した一行が見たのは、某CDショップ脇に並ぶ人々の群れだった。
「俺、浮いてねぇか?」
「スタッフ権限で入れるんだ。我慢しろ」
 その中で、スタッフとして入った森里は、自身の服が学ランなのを省みて、そう呟くが、リネットのセリフに、渋々人員整理へと赴く。
「うぉわぁぁぁ! お前ら走るな動くな暴れるなぁぁぁ!!」
 だが、若いファンのパワーと言うものは大きいもので、普段から総合格闘技に親しんでいる森里でも、まるで雪崩を食らったかのように、押し流されてしまう。そのまま会場の向こう側へと、彼が消えた直後、拍手の音が中心部から聞こえた。
「お、来たみたいだな」
 そう呟くアサギ、スタッフ面して、控え室へ向かうと、ちょうど化粧を直しているヒメ・ニョン女史に、深々と挨拶している。
「講演のお手伝いをさせて頂く風和です。よろしくお願いしまーす」
 当人は、ちらっと視線を走らせたが、一言『よろしくね』と、にこやかに答えるのみだ。
「へぇ、もうちょっとおばはんかと思ってたけど」
「若作り度極まれりって感じだけどな」
 パーソナルデータを見ると、明らかに年相応の顔をしていない。が、そんな事は日常茶飯事だし、人の事は言えないアサギが、釘を刺すようにこう忠告。
「聞こえたら食い殺されるぞ。チョコ届くまで、ここに釘付けとかなきゃいけないんだから」
 修理中のチョコは、ただいまルシフが運搬中だ。もう少しで届くと連絡があった為、それまでは彼女をここに留めておく必要があった。
「そういう事なら任せろっす! こんな事もあろうかと、ヒメ先生が立ち寄りそうな店で、プレゼントを調達して来たッス!」
 いつの間にか復活した森里、自身満々に、男の子が2人描かれた小冊子を取り出す。
「無料配布って書いてあるぞ」
「い、いやだって、買うのは気が引けたしッ」
 なんでも、ヒメ・ニョンが立ち寄りそうな本屋で、あらかじめ手に入れてきたそうだが、あまりにも怪しすぎる本ばかりだった為、購入は避けたそうだ。
「あら、そんな事なら、私に言ってくださればよかったのに」
「って! トール! お前いつの間に!!」
 それを差し出そうとした刹那、そう言って来た御仁が居た。見れば、メイド服姿のトールである。
「街自体はそれほど大きくないからね。こいつで何とか追いついたんだよ」
「それに、ここならば、こう言う姿形でも、絶対に文句言われませんもの☆ むしろ写真撮られてしまいましたわ♪」
 若宮が、表の愛車を指し示しながら、そう解説する。それを受けて、トールは反獣化したまま、くるりと回って見せた。確かに、秋葉原と言う特殊なエリアは、人がリアルな耳を付けてようが尻尾を生やしていようが、誰も文句を言わない街だ。
「いたいた。やっぱ、ここまでついて来てたか。ほら、チョコレートのデリバリーだぜ」
 そこへ、ルシフが修復の終わったチョコレートを配達に来る。
「皆様、ここが正念場。本気で捕まえに行きますわよ!」
 ちょっとだけパワーアップをしたトールは、ここで勝負を決めるつもりのようだ。
「最前列に陣取ってた奴の話だと、この辺のメイド喫茶に行きたいとか言ってたらしいぜ」
 アサギの話では、ネタと言う事で、協議の結果、一部スタッフと見物に行く予定らしい。
「ちょうど良いですわ。このままメイドさんごと、チョコをデリバリーしてしまいましょう!」
 そう言うとトールは、そのまま講演会場へと殴りこみに行く。彼が声をかけたのは、講演が終わって、ヒメが控え室へと戻ってきた直後だ。
「やっと見つけましたわよ。観念しなさい!」
 まるで、どこぞのヒーローが、悪役を追い詰めたような物言いである。びしぃっと指先を突きつけて、ポーズを決める彼に、アサギが「あー‥‥、実は‥‥」と事情を話している。頷いたヒメさんは、トールにあわせるように、ころころと高笑い。
「ふふふ。とうとう追いつかれてしまったようね。この私をそこまで慕うとは、良い度胸と褒めてあげましょうッ」
 まるで、どっかのヒーローショーである。まぁ、お互い演技力は大した事ないんだが、そこはそれ、本人達が楽しんでいるので、問題はない。
「ノリの良い姐さんだなー。トール、どうみてもメイドなのに」
「話によると、別に美形男子だけじゃなくて、お姉様と義理の妹でも行けるらしい」
 森里のセリフに、そう答えるアサギ。どうも『耽美評論家』とか言われながら、実は両刀のよーだ。
「をーほほほ。残念ながら、メイドにチョコを渡されるほど、落ちぶれてもいませんわ!」
「負け惜しみを‥‥な、ならばこれはどうです!?」
 ヒメのセリフに、トールはメイド服のリボンに手をかけた。そして、早着替えの要領で、セパレートの上下を脱ぎ捨てる。中から現れたのは、いわゆる『ゴスロリのプリンススタイル』衣装だ。
「顔、真っ赤ですわよ」
「だって男の子の格好なんて、慣れてなくて‥‥。でも、ここまでやったんですから、いいかげんにどこにも行かないで下さる?」
 普段、女性として生活している為か、こう言った男の子衣装は、かなり気恥ずかしいようだ。もじもじとした表情で、そう訴えるトールに、ヒメさんは怪訝そうな表情を浮かべている。
「え? 私、差し入れ断ったりなんて、してないけど‥‥」
「何ぃ!? けど、スタッフの1人が‥‥」
 アサギが驚いた表情を見せた。それを聞いてトール、こう尋ねる。
「どうやら、その方が不審人物みたいですわね。どこに行ったかわかります?」
「おう、そいつならさっき、打ち上げ場所を予約しに行くって、出てったぜ」
 森里、まさかそれが怪しい人物だなんて思ってもいなかったらしく、あっさり逃亡を許してしまったようだ。
「何でとめなかったんだよ」
「不可抗力だろ!」
 若宮に詰め寄られる森里。と、その直後、別の部屋から悲鳴が上がる。「おのれ! レディを狙うとは不届きな。世の全てのレディに代わって、成敗してくれるっ」
 それが女性のものだと判断したルシフ、彼女達を守るのは、自分の使命とばかりに、急いでそちらへと向かった。
「大丈夫か! お嬢さ‥‥」
「きゃーーーー、えっちーーーーー」
 しかし、扉を開けた瞬間、覗きと勘違いされたらしく、すかこけーんっと色んなモノが飛んで来る。
「いくらなんでも、女子更衣室に、そのまま入って行く馬鹿があるか! 私が追い出すから、迎え撃っておけ!」
「お、おう!」
 中で着替えていたらしいリネットに言われ、ルシフは急いで迎撃に回るのだった。

 結局、NWには逃げられてしまったものの、何とかチョコを届ける事が出来た。
「わたくしから、皆様へのプレゼントですわ。遠慮する事はありませんわよ。おっほっほ!」
 ヒメだけでなく、参加した男性陣にも、トールから義理チョコが配られている。
「ありがとう、リトルレディ。お礼に、俺の熱い愛のロックを聞いてくれないか?」
「ええ、よろしくてよ」
 そんなトールに、ルシフはお返しの意味も込めて、持ち歌の『ココロの調律者(チューナー)』をご披露中。
「おい、アレ中身男‥‥」
「しっ。余計な事は言わなくて良いの」
 森里がそう突っ込もうとすると、それを止める女性の声がした。見ればそこには、同級生の姿がある。
「って、なんでお前らここに!?」
 真っ青になる森里。どうも、学校でヒメの動向を調べた際、うっかり履歴を消し忘れ、『ボーイズラブに興味がある野郎』認定を受けてしまったらしい。
「ご、誤解だぁぁぁぁ!!」
 すっかりモデルにされそうな勢いに、森里はやっぱり弄られ王と化すのだった。
 合掌。