雪ダルマ量産計画アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 姫野里美
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/13〜02/17

●本文

●ギネスブックを狙おう
 2月の厳寒期。
 この時期、札幌は白一色に包まれる。その有り余って唸っている雪を使って、行われる一大イベントがあった。
 そう。雪祭りである。
 だが、それと共催されるイベントの1つに、世界記録を狙おうと言う壮大なイベントがある事は、あまり知られていない。
 そのイベントの名は、『雪ダルマ世界一』と言った。

「だめだ。全然足りん!」
 オフィスで、スケジュール表と各種資料を見ていた藤田D、唐突にそう叫んだ。
「当たり前ッスよ。メインメンバー、全員ステージイベント行ってるんですから」
「うぅむ。この時期は洋ちゃんも稼ぎ時だからなー」
 彼が見ているのは、雪祭に出演する所属俳優の予定表だ。だが、どこも雪祭関連のイベントに出演中で、開いている奴なんぞ欠片もいない。
「仕方がない。他のメンバーに頼むか‥‥」
 そう言って、募集文章をひねり始める藤田D。仕事内容は記録更新に向けて、雪ダルマを製作する事。しかも、目標数は1万個。サイズも明確に決められており、けっこう面倒な作業だ。
「けど、ひたすら雪だるま作ってるだけの仕事に、人来ますかねぇ‥‥」
「そこなんだよ。なんかもう1つ、イベントつけないと、黙々と作業するだけになっちまうしなー」
 寒い中、ただ黙々と雪ダルマ作りにせいを出す仕事なんぞ、華がない。せっかくのお祭、おまけに金かけて人員を募集するのだ。せめて、自分の給料分の利益くらいは、稼ぎたい。
「よし、こうしよう。とりあえず、雪ダルマ製作のアルバイトを雇え。その後、それとは別に、その雪ダルマ作りをイベントにしてくれる企画屋を募集しよう。夕方くらいには、Vが出来ているくらいのもので頼むってな」
 しばらく考えた後、藤田Dは、雪ダルマ製作バイトの人数を若干減らし、その分、企画案の募集へと予算を回す事に決定する。指示書を受け取ったスタッフは、「わかりました。んじゃ、連絡回しときます」と、動き始めるのだった。

●今回の参加者

 fa0085 一二三四(20歳・♀・小鳥)
 fa0402 横田新子(26歳・♀・狸)
 fa0430 伝ノ助(19歳・♂・狸)
 fa0922 亀山 綾(18歳・♀・亀)
 fa2340 河田 柾也(28歳・♂・熊)
 fa2341 桐尾 人志(25歳・♂・トカゲ)
 fa2600 HAKASE(18歳・♂・一角獣)
 fa2870 UN(36歳・♂・竜)

●リプレイ本文

「カレー博の会場やと思ったのに‥‥」
「いやー、なかなか可愛くて楽しげな企画じゃないですか。ねぇ? 皆さん」
 泣き濡れる桐尾 人志(fa2341)を他所に、そう言って、話題を他の芸人さんに振る河田 柾也(fa2340)。と、眼鏡を直しながら、HAKASE(fa2600)がこう言った。
「ギネスに挑戦できるなんて楽しそーだね♪ ひたすら雪ダルマを作るなんていう、意味があるのか無いのか解らないよーな内容でも、記録に挑むってゆーと燃えるから不思議フシギ」
「余計なお世話じゃあ!」
 微妙にとげのある言い方に、即座にコーダがツッコミを入れる。
「そんなに怒るなって。体力に自信は無いけど、世界記録の樹立を目指して気力だけで頑張るよー」
 突っ込まれたHAKASE、頭を抱えながら、そう答えてくれる。と、そこへ参加していた面々が、次々と挨拶してくる。
「アーティストのUNだ。宜しく頼む。体力要員としての参加だ。参加したからには精一杯やらせてもらう」
「ふむ。こりゃまたごっついお仕事で。一丁気張ったろうやないの!」
 UN(fa2870)と亀山 綾(fa0922)は、やる気満々のようだ。ちなみにアン、防寒対策を兼ねて、コートにマフラー、ニットキャップに手袋、靴には滑り止め金具を装備している。その様子に、コーダも張り切った表情を見せながら、こう宣言する。
「よっしゃ、舞台でイベントやってる先輩方のためにも、頑張って記録目指しましょう!」
 が、相方のキリー君は、かなり遠い目をしていた。
「つぅか、なんで皆そんなにやる気満々やねん‥‥。1万やで、1万!」
「目標一万個‥‥か」
 同じ様に遠い目をしているのは、伝ノ助(fa0430)だ。それを見たキリー君、がしっと抱きついて、めーそめそと大げさに泣き始める。
「うう、伝さん。俺の苦労を分かってくれるのは、伝さんだけやー」
「えぇい、くっつくなうっとぉしい!」
 当然、蹴り飛ばされる彼。それでも絡んでくるキリー君を、コーダに押し付けた伝ノ助は、ある提案をする。それを聞いた藤田D、物は試しと思ったらしく、必要だと思われるホワイトボードとペンを渡している。それに、すらすらと募集要項と宣伝文句を書き上げる伝ノ助。

『飛び入り歓迎! 第1回 金いい主催 ゆきだるまコンテスト』

 放送局を書くと、後でこってり絞られそうだが、番組の企画としてなら、細かい事は言われないだろう。
「寒いはずなんに汗だっくだくやね、こりゃー! みんなー! 汗ちゃんと拭いてやらんと、後で風邪引くでぇ、注意してぇなぁ!」
 亀山が雪玉を転がしながら、早速作っている観光客に呼びかけている。
「うわ! た、たすけてー」
 ところが、雪に慣れていない横田新子(fa0402)は、一二三四(fa0085)がカメラを回した瞬間、はしゃいで雪上で転んでしまったらしい。つるんと滑って、まるでソリに乗ったお子様の様に、突撃した先は、ホワイトボードの側で雪ダルマ作っていた伝ノ助。
「うひょわぁぁぁぁっ」
「と、止まらないよぉぉぉっ」
 転び方を知らない新子ちゃんと彼、アンがせっかく積み上げた雪山へと突っ込んでしまう。おまけに新雪が頭のてっぺんへとおまけの様に落ちていた。
「そこ、人間雪ダルマはカウントされないよー」
「「好きでなったんじゃないですっ」」
 もみくちゃにされるように、全身雪だるまになってしまった新子と伝ノ助、雪を取りに来たHAKASEに、そう突っ込まれ、声を揃えて反論している。
「さて。このままじゃ、さみしーのぅ。よし、味噌ラーメンにジンギスカーン! よいしょー!」
「ってか、それは雪ダルマにあわないんでは!?」
 その伝ノ助、雪ダルマの上に、ラーメン丼や、特性鉄鍋を乗っけていた亀さんに、そう突っ込んでいる。
「終わったら、北海道のうまいもんたーんと喰いに行くんやー! それ、カニー! ほっけー! どすこーい!」
 さすがに、ナマモノをそのまま乗っけるわけにはいかないので、雪ダルマの上に設置されたのは、オモチャのカニとほっけだ。
「雪ダルマと言うより、雪像っすね。こりゃ」
 それはそれで面白そうだと思った伝ノ助、雪ダルマに他のパーツが付けられるよう、笠やバケツは言うに及ばず、何故か耳やら尻尾やらまで用意し始めた。
「まぁ、その手元にある雪ダルマを見る限り、人の事言えないんじゃないか? あそこの兄さんもやってるみたいだし」
「いや、これはこのほうが、見栄えがいいかなって。ねぇ?」
 HAKASEがちょっと離れた方向を指し示すと、まるで他の観光客同然に振舞っている、見慣れたもじゃもじゃ頭が見えた。
「なにぃ。大平センセ、いつのまにっ!」
 そくざに、マイム☆マイムの2人が、駆け寄ってくる。
「あ、おはようございます太平大先生! 大先生、サインもお願いしておいてなんなのですが‥‥皆様も一体ずつ、お作りになってみませんか?」
 コーダくんが、何やらボードを隠し持ちながらそう言った。彼が、出来上がったそれを目玉にしようと言っていた事を思い出した新子は、出来たばかりの雪像パーツを指し示しながら、こう勧める。
「パーツはこの通り、沢山用意しておきましたから、すぐに出来ますよ」
「記念撮影用のカメラも、ありますよ」
 ふみちゃんが持ってきたのは、近くのカメラ店で観光売りされているポラロイドカメラだ。
「でもこれ、どうやって使って良いかわからないよー。他に知っている人いないかなー」
 その絵面を撮影するため、亀さんがカメラを回している事に気付いた新子は、即座に仕事モードに切り替えて、きょろきょろと周囲を見回している。そこへ、HAKASEが雪だるまのパペットを取り出し、彼女の横から、こう挨拶した。
「こんにちは。僕は雪ダルマのスノゥくんだよ。それじゃ、知っている人に聞きに行こう!」
 パペットの短い手が、作業中の雪山を指し示す。そこでは、スコップを片手に、伝ノ助がこう言っていた。
「雪球を転がす時は、小さい子供さんを潰したりしないように十分気を付けるっすよー」
「ふむ。いびつにならないよう、丁寧に成形しなければな‥‥」
 その横では、アンが積み上げた雪を丸め、玉を量産している。いや、玉だけではない。伝ノ助なんぞは、まるで粘土細工の要領で、どちらかと言うと、スノーマンな造形だ。
「なるほど。ただの雪ダルマだとつまらないし、色々付けて見ると面白いカモね!」
 その光景に、HAKASEはパペットのスノゥに、そう喋らせている。簡単ながら、雪ダルマ記録の紹介画像が撮れた亀さんは、かじかみかけた指先に、こう言った。
「しかし‥‥。流石に量が多いなー。このままだと倒れそうやし‥‥なぁ?」
「えー。やるんですか?」
 同じ様にカメラを構えていたふみが、少々不安そうにそう言った。そのカメラの録画ボタンが点滅していないのを確認し、亀さんはこっそりと半獣化してみせる。
「亀は耳が無いからばれんと思うんやけど」
「背中‥‥思いきり膨らんでますよ‥‥」
 ふみちゃんが指摘した通り、亀さんのウェアは背中に出現した甲羅のせいでパンパンに膨らんでいる。
「そこ、邪魔だぞ」
「ぐふっ!」
 おまけに、通りすがりにアンが、運んできた雪をその背中にどさどさと放り込み、埋めてしまうのだった。

 雪だるまづくりは長い。1日では中々終わらない為、2日目に突入していた。
「力無いお人らは、雪玉作るとこまでにしといた方がええでぇ。ある程度数が出来たら、上に乗せるんは任せてぇな。そん歳でギックリ腰持ちになりたないやろ?」
 だいぶ慣れてきたらしい亀さんが、子供にカメラを向けながら、そう言った。そのカメラを引いて行くと、コーダが、持ち込んだサイズ確認用リングを片手に、走り回っている。防寒対策を兼ねて、熊の着ぐるみを着用していたが、これが子供にはかなり人気がある模様。
「皆、リングでちゃんとサイズ確認してる? ほら次はどこだ〜?」
「UNはんと河田はんも気ぃつけてな。重いもん持ち上げる時は、腰でなく、脚で上げるんやで」
 そんな彼に、アドバイスする亀さん。基本裏方な彼女、重い荷物は割りと運ばされている。カメラの機材は、かなり重量があるのだ。
「コーダ、こっちにも雪のせてぇな」
 そんな中、ママさんダンプ‥‥説明すると、雪国に特有のでっかいスコップだ! 女性でも軽く扱えるからそう呼ばれているらしい‥‥で、雪を運んでいた相方・キリーくんがそう声をかける。
「おう、たっぷり乗せたるわい」
 そのコーダ君がキリーくんの頭に載せたのは、顔と同じくらいありそうな雪玉だ。
「って乗せすぎじゃああ!」
「えぇい、文句を言うな。はよ運べ!」
 お笑い芸人、相方に容赦はない。傍から見ると、まるで苛めのよーなツッコミを食らっていると、それを何かの大道芸と勘違いしたのか、人が集まってきた。
「コーダくん。これはチャンスですな」
「俺もそう思ってたところや」
 その様子に、まいむ☆まいむの2人は、きらんとおめめに怪しい星を宿らせて、頷きあう。
「ふみちゃん、カメラ頼むわ」
「ちょい着替えてきます」
 うなずくふみ嬢。彼らが何やらはじめると聞いて、チャンスを逃してなるものかと思ったらしい。ほどなくして、金色の派手なウインドブレーカーと、ラメ入り巨大蝶ネクタイに軍手と言ういでたちから、どっかの工事現場のおっさんのような格好へとチェンジしたキリーくん、ふみちゃんの合図に、こう喋り始める。
「さて、雪ダルマと戯れるお子様もいますが、世はばれーんたいーん! 多くのアツアツカポーを横目にスノウマンと戯れる僕等。内容はさておき、太平さんも仕事ってのが救いですが!」
 後で編集した画像には、キリーの足元‥‥ちょうど画面右下に、洋ちゃんの『バレンタインなのに仕事の人』と言うテロップと、かの御仁の映像が入る。
「が、まだまだ人員はたらへん。そうや! ここは人材派遣会社、オフィスPに電話をしよう!」
 ぺっぽぽっぱっと、やたらでかい携帯電話を鳴らして、アルバイト要員を呼び出すキリー君。ところが。
「俺を呼んだのは誰じゃーーー」
 雪山の向こうから、ガオーーーっと現れたのは、熊の着ぐるみを来たコーダくんである。
「って、なんで熊が出てくるんねーん!」
「冬篭りしてて暇なんや! 嫁は子守でかまってくれへんし‥‥」
 めそめそと、雪の地面にのの字を書く熊。その背中には、何故か『ぷぅ』と書いてある。
「どこのご家庭も大変やなぁ。ではせめて、このらぶらぶマフラーで、ペア雪ダルマをっ!」
「コントはそこそこだけど、意外とカップルに人気ねー」
 人寄せには成功したまいむ☆まいむが、カップルと思しき何人かに、100円ショップで買って来たマフラーと、いかにもお手製と言った感じのハート型ボードを手渡している。名前の入れられるそれは、記念撮影用に、中々の人気の模様。おかげで、撮影班のふみちゃんや亀さんは、喋るヒマもない。
「‥‥何だろう、目から熱い水が‥‥。悔しくなんかないやいっ」
「コーダ‥‥泣くな。僕達には多くのファンがおるやないかっ」
 その様子を見て、今だロマンスに縁のないらしい漫才コンビは、滝涙を流しながら、がしりと抱擁。まぁ、実際ファンがどれほどいるかってのは、激しく不明なのだが。
「気を落とさないで下さい。はい、これ。バレンタインのチョコ」
 そこへ、ふみちゃんが綺麗にラッピングされた板チョコを差し出した。
「ありがとうふみちゃんっ!」
「俺らの味方は君だけや〜」
 まるで救いの女神様に会ったような表情を浮かべるまいむ☆まいむの2人。だがふみ嬢は、これくらいは当然と言った表情で、こう告げる。
「いえいえ。今の映像で、チョコ代すっかり賄えましたし、お互い様ですよ」
「「え」」
 固まるコーダくんとキリー君。さっきの抱擁シーンが、一部趣味人に好評だったと知ったのは、収録後の事だった。

「これだけ動くと、気持ち良いな」
 ある程度作り終えたアンが、雪の中にひっくり返っている。普段は冷たい雪原も、適度にあったまった体には、とても心地良い。
「風邪ひきますよー。こんなこともあろうかと、汁物を作っておきました」
 そこへ、皆が雪だるまを作っている間、料理していたらしい新子が、湯気の立つ豚汁を、彼へと差し出す。
「甘酒も用意してありますよ」
 HAKASEが指し示した先では、作ったばかりの甘酒を、まいむ☆まいむの2人が、配りまくっていた。
「いやー、ようけ作ったもんやねぇ! 絶景かな〜! ほらほら河田はんも桐尾はんもHAKASEはんも笑ってぇな! 芸人やろ、きばってぇなぁ 膝が笑って顔が引きつってたらしゃあないでぇ!」
 その様子を映す亀さん。甘酒の周囲にも、雪だるまがびっしりと並べられていた。
 ところが。
「あー、それがですね‥‥」
 新子がこそこそと亀さんにある事を囁く。
「えぇぇぇ! 雪だるまじゃと、認定されないってぇ!?」
 それによると、ギネスブックには、雪だるまではなくスノーマンでないと認められないらしい。
「しーっ。本人達は気付いていないから、このまま終わって万歳三唱って事で。ね?」
「なんか、嵌められた気分や‥‥」
 がっくりと肩を落とす亀さんに、しょんぼりした心持ながらも、盛り上がりを落としたくない新子さん。
 こうして、記録には程遠かったけれど、芸人さん達の姿は、専用HPに、特集組まれて掲載されるのだった。