ひな祭り3・3パニックアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 姫野里美
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/01〜03/05

●本文

●替え歌脅迫状
 この時期、どこに行っても必ずひな祭りの歌が流れている。
 ホワイトデーと共催される事も多いこの時期、雑誌やテレビも、おんにゃのこのお祭にかこつけた活動を、余す事無く行っていた。
 事件がおきたのは、そんなひな祭りイベントの撮影時だった。
「なんだこれ‥‥」
 現場に届いた荷物の中に、奇妙な封筒があった。それには、ひな祭りの歌にならぞえた歌詞らしきものが、記されている。そう‥‥いかにもと言った新聞の切り抜き文字風に。
「明かりをつけましょ、爆弾に‥‥? おい、誰だよ。こんな手の込んだイタズラしやがったのは‥‥」
 チーフの1人が、それを仕掛けた御仁に、説教を食らわせようとしたその時である。
「うわぁっ」
 ぼんっと言う、いささか情けない音と共に、撮影用セットの1つである、大きなひな壇の明かり‥‥いわゆるぼんぼりが、激しく炎上した。
「やべぇ! 他のセットに燃え移る前に、さっさと消化しろ!」
「ってか、出演者は退避ー!」
 騒ぎになるのは当然である。幸い、撮影用に消火用具を揃えていた為、事なきをえたのだが、頭を抱えたのは、責任者のディレクターだった。
「脅迫状の通りに、ぼんぼり爆弾‥‥。だとすると、次は毒の花で、最後は5人ギャングか? 子供の替え歌じゃねぇんだぞ〜!」
「てか、今時どこからギャングを連れてくるんですか。うちはお笑いじゃないんですよ」
 寝不足なのか、目の下にクマを作っている現場監督。何でモデル撮影に、ここまで手間取るのか、本人も不思議で仕方がないようだ。
「んな事ぁわかってる。くそー、モデルは怖がって逃げちまうし‥‥。どうしたらいいんだ!」
「もう一度、募集をかけるしかないですよ‥‥」
 二人揃ってため息をつくディレクターと現場監督。
「しくしく‥‥お金かかりゅ‥‥」
「めそめそ‥‥仕事ふえりゅ‥‥」
 まぁ、それぞれ事情もあるだろうが、納期までもうすぐなので、あまりわがままは言っていられない。
 そんなわけで、心臓の強いモデルと、とっさの対処が出来て安全が確保できるスタッフが、追加募集されるのだった。

【状況1】
 3日前に1度、同じ文面のパソコン製脅迫状が3通届いていた。差出人はなく、消印は大阪・埼玉・名古屋とバラバラ。

【状況2】
 最初はイタズラだと思っていたが、突然小火騒ぎが起きている。爆弾ではなく、配線の異常加熱が原因だったらしい。

【状況3】
 モデルを送っていた某大手事務所が、安全の為と称して、手を引いてしまった。控えているのは、ひな壇の撮影。必要なのは、内裏雛・姫雛から、左右大臣に至る合計12役から数人。内裏・姫・3人官女は、ある程度の容姿が必要だが、それ以外は、誰が何をやるかを含めて、いっさい不問らしい。

 これらを踏まえて、お仕事して欲しいそうである。

●今回の参加者

 fa0244 愛瀬りな(21歳・♀・猫)
 fa0262 姉川小紅(24歳・♀・パンダ)
 fa0892 河辺野・一(20歳・♂・猿)
 fa0922 亀山 綾(18歳・♀・亀)
 fa1435 稲森・梢(30歳・♀・狐)
 fa2361 中松百合子(33歳・♀・アライグマ)
 fa2640 角倉・雨神名(15歳・♀・一角獣)
 fa2648 ゼフィリア(13歳・♀・猿)

●リプレイ本文

「ふあぁぁぁ。流石に眠いで‥‥」
 徹夜明けの眠い目をこすっているゼフィリア(fa2648)。本業は曲芸師だが、今回の目的は、ひな祭りを狙う不届き者のあぶり出しである。そんなわけで、亀山 綾(fa0922)の助手と言う形で、ディレクターに現場お泊りを頼み込んだもの、結局不審者は現れなかったようだ。
「毎日出てくるわけじゃないみたい。でも、心強いお兄さんお姉さん達も一緒だし、大丈夫だよねっ」
 いつ襲われるかわからない。同じユニットの愛瀬りな(fa0244)に、不安さを打ち払うように言う角倉・雨神名(fa2640)。
「そうね。何かあったら、私の所に来なさいね」
 そんな彼女の手を握り返しながら、りなちゃんはそう忠告する。そんな不安さを抱えながら、協議した結果、それなりに有名なりな嬢ではなく、同じユニットのうかながお雛様の大役を務める事になった。まぁ、NW潜伏の可能性に加えて、主役級と言う大抜擢である。笑顔がぎこちなくなってしまうのは、仕方あるまい。
「しかし、これだけ人数がいると、どれが本命だか分からないですねー」
 その一方で、周囲を見回す姉川小紅(fa0262)。彼女達モデルや裏方ばかりではなく、美術や大道具小道具、ひいては弁当屋に至るまで、様々な者達が出入りしている。この中から、犯人を特定するのは、かなり難儀だ。
「ええ。疑いたくはないけど、用心する事に越したことはないですから」
「なるべくなら、使わずにお仕事を終えたいのですけどね‥‥」
 ため息をつくりなと河辺野・一(fa0892)。彼の手元には、万が一に備えて、木刀が置かれている。
「うにーーー。これどうやって着るのー」
「そこから先は、百合子さんやってもらいましょうね」
 沈んだ気持ちを、わざと吹き飛ばすかのように、何着もの衣装を持ってくるうかな。それを見て、稲森・梢(fa1435)は、着付けをスタイリストの中松百合子(fa2361)へとバトンタッチする。
「とりあえず下着姿になったら、座ってて。後は私がやるから」
「んじゃ、俺は別部屋っすね。年の為、これ持って行きますから、小道具さんに、鞘に仕込んで貰いますよ」
 河辺野アナは、女性陣が着替え終わってからのようだ。持っていた木刀は、お内裏様衣装の太刀として、持ち込む予定。
「大丈夫かしら。私、皆と比べて、見た目が弱いから‥‥」
「その辺は、うちらの腕で何とかするから、大丈夫や」
 小紅は、りなや梢に比べて、容姿に自信がないようだったが、その辺りはメイクと撮影方法でなんとかすると、綾は約束してくれる。
「けど、男装して右大臣ってのも、捨てがたいのよねー」
「それも面白いわね。だったら、ちょっと宝塚テイストな感じを取り入れてみましょう」
 見栄え上の問題で、駄目なら男装して右大臣を‥‥と希望する小紅。まぁそれも良しと言うことで、彼女は『若くて女の子受けしそうな右大臣』と言う事になった。
「撮影用の衣裳とは言え、重いわねぇ。とっさに動けるかしら‥‥?」
 半分ほど着付け終わった梢がそう言った。何しろ、花嫁衣装と余り変わらない重量である。
「ゼフィリアが、衣装つけずに回ってるから、大丈夫やろ。それに、一応半獣化しても目立たなくしてあるんやし」
 カメラをセッティングしながら、そう言う綾。1人、衣装は着ずに動いているゼフィリアは、ひな段の後ろで、見張りについている。
「だと、良いけれど‥‥。姫様が動けないのが、気になりますわ‥‥」
 女優らしく、お雛様とお内裏様に仕える侍女‥‥と言うコンセプトを作って、撮影に挑む梢は、そう呟くのだった。

 モデル達が着替えとメイクを行っている間、裏方は準備の傍ら、スタッフ達の動向を探る事にした。
「ここまでは順調やけど‥‥、まだまだ油断は出来へんなぁ‥‥。あー、そこもうちょっと右や右ー!」
 モデル達の顔が良く見えるよう、周囲の装飾品を、邪魔にならない位置へとずらしている。その1つが、ターゲットの1つとなっていた可能性のある、大きなぼんぼりだった。
「小火騒ぎを起こしたぼんぼりってのは、アレか‥‥。見た所、普通の品だが‥‥」
「どうやろな」
 人の背丈と同じほどあるそれには、太いケーブルや配線が繋げられている。その1つをつまみ上げて、ゼフィリアが綾にこう尋ねる。
「なぁ、こう言うの‥‥自然に起きる可能性ってのは、あるんか?」
「詳しい事は専門外やけど、ショートして小火ってのは、たまぁに発生しとるみたいやで」
 小道具とカメラ、扱う機材は違えども、機械を扱うと言う部分では同じだ。負荷がかかれば、熱を帯びると言うのは変わらない。
「ふむ‥‥。そうすると素人でも出来そうやけど‥‥。確実に発火させるなんて事は、素人にも可能なん?」
「それは難しいと思うで。少なくとも、工業系の知識が必要やと思うし」
 彼女の更なる疑問に、首を横に振る綾。偶然にショートしたモノが引火‥‥と言うのは、こう言った場所でなくとも聞く話だが、それを確実に‥‥となると、専門知識が必要だろう。例えそれが、きちんとした学び舎で得た知識ではなくとも。
「配線弄る必要ありか‥‥。ここの配線は、誰でも触れるんか?」
「うんにゃ。そもそも、スタジオには入れるのが、関係者ばっかやし」
 その上、出入りできるのはスタッフだけ。だとすると、答えはおのずと絞られてくる。
「脅迫状が舞いこんだそうだから、やっぱり関係者に恨みを持ったものの仕業かもねぇ」
 その時、セットの桜と橘を持ってきた百合子がそう言ってきた。
「何かわかったん?」
「あたしがさっき聞いた話じゃ、心当たりはないそうよ」
 ゼフィリアに首を横に振る彼女。何でも、世間話がてら、関係者とトラブルがないか確かめた所、そう言った事実はなかったそうだ。
「だったら、あの脅迫状は一体何を狙ってるんやろ」
「ただの脅しかもしれないわね。後は‥‥最初の小火が既にぼんぼりとか」
 最初に脅しをかけて怖がらせ‥‥と言うのは、聞かない話ではない。本命を隠す為の囮と言うのは、誰しもが考える話だ。
「そうすると、次は毒の花かいな」
「私もそう思って、セットの桜と橘は、ナマモノを手配しておいたわ」
 百合子がそう言って、搬入中の花束を指し示した。流石に植木は手間とお金がかかるので、無理だったが、それらしき花束は、出入りの花屋から調達する事が出来た。そこへ、アシスタントの女性が、メイクが終わった事を報告してくる。
「お、来た来た。お雛様の登場や」
 ややあって、姿を見せたモデル達は、見事な変身振りをとげていた。
「はーい、女雛様通るよ〜、ぶつからないようにねー」
 そう言って、うかなの手を取り、ひな壇へと連れて行く百合子。その衣は京友禅。薄紅の桃の花をあしらった唐衣。薄桃の表着、春を意識した色合いで。頭の飾りは、獣化がバレにくいよう、額を軽く隠すデザインの菱形縦長。檜扇には、水に浮かべた蓮の花が書かれていた。
 ちなみに男雛、は女雛と同じ京友禅で、紫苑に菊の花丸の直衣。
 後ろに続く3人官女も、揃いの赤い袴を身に付けている。梢は赤に光沢を抑えた銀刺繍の表着に赤の袴。座り官女のりなは、眉をコンシーラーで隠し、白に光沢を抑えた銀刺繍、赤の袴。
「豪華な列やなぁ。そや、この姿も写真撮っとこ」
 この豪華な並びを、画像に収めておかない手はない。凝った衣装やセット、華やかな祭りの雰囲気は、ひな壇抜きでも、充分に絵力がある。それをフィルムに収めないのは、カメラマンとして許されないだろう。
「うわ、皆がまぶしいっ」
「そう言う小紅ちゃんも凛々しくきまっとるでー」
 1人、男装姿の小紅がそう言ったのを見て、彼女はシャッターを切った。右大臣は青に橘の柄。烏帽子をつけた装束は、まるでどこぞの舞台衣装だ。
「小さい頃、飾って見るだけでお祝いするお雛祭り、自分がお雛様になれるなんて思わなくて嬉しいなぁ‥‥」
 そのこんな素敵なお祝いしてくれてありがとう‥‥と言う気持ちを表現するように、とびっきりの笑顔を浮かべるうかな。
「宮様、良かったですね」
 感無量と言った表情の彼女に、保護者の様にそう言う梢。そこへ、綾がレンズを向ける。
「今の私は、宮様の侍女ですから、そのつもりでお願いしますね」
「んじゃ、ちょっとそれっぽいポーズでも取ってくれると嬉しいんやけど」
 梢が、そう注文をつけると、綾ちゃんはその『宮様と御付の侍女』通りのイメージで、撮影中のスナップ写真を撮ってくれるのだった。

 撮影は、順調に進んでいた。もしかしたら、セットから差し入れまで、念入りにチェックする綾や、常にぼんぼりに張り付いているゼフィリアの姿に、諦めたのかもしれないと思いつつ、りながこう呟く。
「うーん。現場で事故っていうと、NW絡みかなーって思って、戦闘用の武具を用意したけど、NWには脅迫状を出して警戒させる理由が無さそ」
「五人囃子は、何かトラブル抱えてなかったの?」
 百合子がそう言うが、例の手を引いた事以外、トラブルらしいトラブルはなかったようだ。
「うー、やっぱ内部犯なのかなあ‥‥」
「そう考えるのが妥当だと思いますよ。奴等は情報を集めて獣人を誘う、それを考えるとこうやってメディアを妨害することは不利益なんですよ。爆弾と書いてあったが、実際はボヤ。犯人の目的は雛壇のモデルを狙ったものではなく、撮影側に対する意図があるのでしょう」
 お内裏様姿のまま、そう言う河辺野アナ。
「5人ギャングは直接妨害‥‥ちゅうことなんかなぁ」
「脅迫状の情報に乗っかって誰かに感染したのかも‥‥」
 休憩中なので、色々と考え付く。そんな中、河辺野アナはこう言った。
「考えられるとすれば、なるべく目につきやすいものに仕込んでくるのでは?」
「どれも派手で目に付くけど」
 セットを見回し、そう言う梢。普通の雛飾りの、10倍はある大きさだ。見栄えと言う点では、どれも一級品である。
「えーと、確か雛壇での並び方は、左近の桃、右近の橘‥‥でしたね。左大臣さん、音とか、座った感じとか、何か変わった様子はありませんか?」
 大臣役のモデルに、そう尋ねる河辺野アナ。だが、彼は首を横に振る。
「狂言ならいいのだけれど‥‥。妨害やNWの襲撃も無く、撮影が早く終わるといいわね。雛飾りを長く出しておくと、婚期が遅れるっていうし」
 これ以上婚期の遅れたくないらしい梢、ちょっぴり遠い目をしていた。
「大阪、埼玉、名古屋‥‥。消印は3日ごとか‥‥。あれ?」
「どした」
 その間、出された脅迫状の写しを比較していたりな、ある事に気付く。
「スタッフのスケジュールが、一致してる」
 着替えている間、ここ数日の予定を聞き出していたりな。有名どころのモデルさんに聞かれて、口ごもる奴もあまりおらず、すんなりと確かめられたのだが、その1人が、消印のある場所でずっと仕事をしていたと言うのだ。
「それやな。どいつや?」
「ADの1人だって」
 しかも、獣人でなくとも乱入出来る末端の人間。それを聞いて、「確かに、NWが潜みやすそうな奴だ」と納得するゼフィリア。
「でも、もう10日も経ってるのよ? いい加減、正体現しても良さそうなものじゃない」
「そのあたりは、本人に聞いて見たほうがええやろな」
 梢の台詞に、ターゲットとなるADを見つめるゼフィリア。
「どうか戦闘にならないことを、祈るばかりです。モデルも人形も、『顔が命』ですから♪」
 梢はそう言うが、そうも行かないようだ。じっと、装飾品を観察していた河辺野は、何か仕込めそうなものを探す‥‥。
「歌の順番なら、五人囃子の笛‥‥。違うっ! そんなトコに、目立つような発火の仕掛けはできない。太鼓だ!!」
 彼が気付いたのは、空洞の開いていそうな、五人囃子の太鼓だ。
「穏便にすむに越したことはないのですが‥‥。そうも行かないようですね」
 良く聞けば、カチカチと時計のような音が聞こえてくる。出演中のりなもそれに気付いたようだ。
「皆、気ぃつけや。一に被写体、二にカメラ、三四が無くて五に自分や!」
「言われなくてもっ!」
 何とか処理しなくては‥‥と、ゼフィリアがそれを奪おうとする。だがそうはさせじと、立ちはだかるAD。そう‥‥件の。
「しまった! 華ーーーーー!」
 りながそう叫んで、誘眠芳香を使う。いっせいに鼻をつまもうとする彼らだったが、1人出遅れたのがいた。
「え、えっ。わぁん、動けないよぉ〜」
 重装備のうかなちゃんである。
「りなさん! 雨神名さんをお願い!」
「OK!」
 そのうかなを、りなに押し付けるように、梢が割って入った。侍女の役目は、主である姫を、身を挺して守る事だから。
「スタッフは獣人とは限らん。とりあえず誤魔化せ!」
「効くかどうかわからないわよっ」
 対NW戦のある綾が、周囲を見回しながらそう叫ぶ。りなの力で、大半のスタッフはばたばたと眠っていたものの、起きている奴が居ないとも限らない。なので、狂月幻覚で誤魔化す事にする。
「飛操火玉っ!」
「集水流弾!」
「接近戦だってありますわ!」
 人が見ていなければ、どうと言う事はない。ADの化けたNWが、袋叩きにあったのは、その直後。
 なお、退治が終わった後は、ひな祭りパーティが催されたそうで。
(「りなさんや皆さんのような、素敵な大人になれますように☆」)
 りなや小紅が、白酒片手に大人の飲みっぷりを見せる中、うかなはこっそりと祈るのだった。