【LH柏木】1人の為にアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 姫野里美
芸能 2Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/20〜03/24

●本文

 ライブハウス柏木。
 そこには、様々な音楽好きが集まっている。
 だがそれは、必ずしも陽気な音楽ばかりではない。
 時には、哀しい音楽も必要なのだ。

「特殊なライブ?」
「ああ。普段と逆の事をして欲しいんだ」
 ライブハウス柏木店長、マスターこと柏木博之氏は、いつもの通りたむろっているヴォーカリスト他、音楽好きな面々に、片っ端から声をかけていた。
「実は‥‥ジャスミンが、ホワイトデーで、男に手ひどく振られたらしくてなー、元気がない」
「そりゃ気の毒な‥‥」
 以前から、あまり良くない噂を聞いていた他の常連は、『とうとうやったか』と言った表情だ。ちなみにそのジャスミン‥‥無論、愛称だ‥‥と言うのは、店に出入りしている客の一人。何でも、彼氏にさんざんお金を巻き上げられた挙句、逃亡されてしまったと言う。しかも、相当酷い目に合ったのに、まだ恋心は抱いたままらしく、すっかり落ち込んでしまったのだ。
「本気でそう思ってる様には見えないぞ‥‥。時にお前ら。音楽と言うのは、人の心を潤わす魔法だよな?」
「そりゃあまぁ‥‥」
 マスターのセリフに頷く彼ら。そう思ってなかったら、ここにたむろってはいない。と、マスターはそんな彼らに、にやりと笑って、こう申し出た。
「と言うわけで、傷心のジャスミンちゃんを皆で慰めるべく、なんか失恋立ち直り用ソングを見繕ってきてくれ」
「って、俺らが演奏するのかよ!」
 ライブハウスにいるのは、何も自分で演奏したり、歌うのが得意な面々ばかりではない。驚く面々に、彼はこう続ける。
「誰もそんな事いっとりゃせんだろう。知り合いでも友達でもファンでも何でも良い。余り細かい事は言わないから、ジャスミンちゃんを励まして欲しい」
 まぁ、要は何でも良いから、傷心の女の子の気分を、向上させてくれとの事らしい。
「そうそう。あんまりびっくりさせるとアレだから、そんなに激しいのにしてくれるなよ。一週間くらい後に、彼女を呼び出すから、それまでになんとかしてくれ」
「あんまり期待はしないでくれよなー」
 そんなわけで、ライブハウス柏木では、急遽『失恋ライブコンサート』が企画されるのだった。

●今回の参加者

 fa0103 シグフォード・黒銀(21歳・♂・竜)
 fa0964 Laura(18歳・♀・小鳥)
 fa1126 MIDOH(21歳・♀・小鳥)
 fa1465 椎葉・千万里(14歳・♀・リス)
 fa2073 MICHAEL(21歳・♀・猫)
 fa2457 マリーカ・フォルケン(22歳・♀・小鳥)
 fa2778 豊城 胡都(18歳・♂・蝙蝠)
 fa2847 柊ラキア(25歳・♂・鴉)

●リプレイ本文

●打ち合わせ
 その日、マスターに集められた常連及び関係者は、ジャスミンちゃんを励ます為、曲作りに勤しんでいた。
「さて、今回の依頼は、失恋をした女の子を慰めようと言う企画ですわね」
 マリーカ・フォルケン(fa2457)が確かめる様にそう言った。と、豊城 胡都(fa2778)は頷きながら、こう答える。
「女性の悲しむ姿ほど、心痛めるものは有りませんから‥‥、早くジャスミンさんが元気な笑顔を見せてくれるよう、精一杯演奏させて頂きます」
 まだ、その相手であるジャスミン嬢は来ていない。まぁ、今面々がいる場所は、一応『関係者以外立ち入り禁止』の札がぶら下がっているミーティングルームだ。もし、打ち合わせ途中で来たとしても、どうにかなるだろう。
「長い人生ですもの、一度や二度は誰だって恋を失うことだってありますわよね。でも、それを乗り越えて少女は大人の女性へと成長していき、本当の愛を掴むのですわ。そのお手伝いのつもりで精一杯勤めさせていただきますわ」
 普段は他のナイトクラブにも出入りしているマリーカ、見た目は若いが、それなりに人生経験は重ねているらしく、どこか思い出すような表情で、穏やかに言った。
「普通のライヴと違って、一人のためにってのもいいね。ジャスミンさんが元気になれるように、精一杯僕ができる事するよ」
 その意見には、柊ラキア(fa2847)も同意らしい。そう言って、メロディライン作りに励む。関係者が獣人オンリーなので、遠慮気兼ねなく半獣化出来た。
「ジャスミンちゃん、とうとう失恋かぁ。キツいよね‥‥。で〜も〜! 酷い男のコトなんてキッパリスッキリ忘れちゃわないとっ! 次のイイ恋を見つけるためにもね♪」
「そう言うこった。で、早速だが担当表」
 あさっての方向へ拳を付き上げるMICHAEL(fa2073)に、MIDOH(fa1126)がそう言って、キャスティングボードめいたメモを手渡す。それには、それぞれの楽器の後ろに、名前が書かれていた。
「マスター、あのドラム使って良いんですか?」
「おう。好きに使え。ただ、皆使う奴だから、自前で持ってきたほうが良いかも知れねぇが」
 胡都の申し出に、そう言って頷くマスター。
「そのあたりは、ヘッドを調整しますよ」
 許可が出たので、早速テンションボルトを締めなおす胡都。分からない人の為に解説すると、ヘッドと言うのは、いわゆる太鼓の皮部分で、テンションボルトは、それを締めるパーツの事だ。
「ふむ‥‥。音程が違うだけで、ギターもベースも同じ様なもんだと思ってたが‥‥。弦が硬いなー。早弾きが出来ん」
 一方、練習に励んでいるシグフォード・黒銀(fa0103)は、ギターより格段に固く、太いベースの弦に、多少戸惑っている様子。
「ベースで早弾いてどうするよ。まぁ基本はどっちも同じだから、慣れればどうにかなるさ」
 これがアマチュアならば、硬くて弾けないとか言う話もあるが、痩せても涸れてもプロのギタリストだ。何度かリハを繰り返せば、問題なく扱えるだろうと、マスターは言ってくれた。
「曲順は、こんなもんで良いな?」
 その彼が、楽譜とにらめっこしながら、練習を開始するのを見て、ミドウはプログラムを確かめる。
「繋ぎにも曲を入れますので‥‥」
 歌付きは4曲程度だ。だが、Laura(fa0964)の主張によれば、その間にも、曲を入れるらしい。
「なに。って事は俺、休憩なし?」
「本職やれない代わりに、全曲出してやると言う親心だ。感謝しろ」
 練習していたシグに、ミドウはそう言い放つ。「それご褒美になってないぞ」と苦笑する彼だった。

●女だって怒りたい
 結局、特に演出等々は行わず、通常のライブと同じ形式で、演奏する事にした。
「普通のライブと違って、一人の為にって言うのも良いね。衣装は、こんな感じでいいかな?」
「おう。見事に普段とかわんねーぞ」
 そんなわけなので、柊の衣装は、私服そのままだ。首から提げたゴーグルも、好んで付けているシルバーアクセも、ジャスミン嬢が見慣れている通りである。
 最初は、『女だって怒りたい』と言う曲だった。軽快な明るい曲である。アタマはギターとドラムで激しく始まるそれは、♪=120と言うテンポより若干早いように感じられた。

前から約束していたのに
いきなり電話してきて「用で行けなくなった」ってありなの?
文句をぐっとこらえてCOOLに答える

だけど上げ上げ気分が一気にBLACK ICE ZONEまっしぐら
折角の休みをどうしてくれよう
このまま家にいるのもバカみたいだし 友達を誘って街に出よう
雑誌で人気のCAFEで一息着いていたら
楽しそうに他の人としゃべっている彼を見つけた

「結構激しいナンバーだな」
「ローラのハートは、激しいブラジル人なのさ。普段は控えめだけどさ」
 演奏前、ミドウが妹のローラを称して、そう言っていた事を、マスターは思い出す。彼女はこの曲では、ギター担当。他にミカがギター担当で、ベースはシグ、ドラムが胡都だった。
「この曲だと、ギターとベース、逆の方が良かった気がするけど」
「相談の結果そうなったんだ。本人の希望って奴さ。それに、ミカはベース持ってなかったし」
 ボーカルの柊は、次の次までお休みである。その為、マスターと一緒に、ジャスミンちゃんのお相手。その彼曰く、これはこれで、だそうである。

女だって怒りたい
あなたに便利な女ばかりの世の中じゃないのよ
バカにするのもいい加減にして

女だって怒りたい
数年後を見ていなさい
別れた事を後悔させてあげる
あなたより数段上の男を見つけてあげるから

「キーボード、殆ど飾りだな」
「仕方ないですよ。弾き語り経験ありませんし」
 一方、メインボーカルのローラは、一応首からキーボードをぶら下げてはいるものの、楽器演奏そのものは、あまりやっていないらしく、和音を弾くだけに留まっている。楽譜認識能力はそこそこあるらしいが、かと言って弾けるかどうかは別問題。
「ま、ピアノは本職の歌姫ちゃんに任せた方が正解だろうな」
 そのあとに控えるマリーカに、キーボード関係はお任せしたいマスターだった。

●オリビアを聞きながら
 次の曲は、有名な曲のコピーだった。
「メロディは‥‥アレか」
「流石にコピーは版権うるさいしなー」
 もっとも、そのまま歌えば、ジャスラックの皆様がうるさいので、マリーカは自身の母国語である、ドイツ語にアレンジして、しっとりと弾き語っている。
「じゃ、ジャスミンちゃん?」
 彼女が、ナイトクラブで聞いた様々な恋愛のエピソードを、歌に織り込んだのは、たとえ言葉が分からなくても、ジャスミンに届いたらしい。ぽろぽろと涙を流し始めた彼女に、側に張り付いていたミカが、おろおろと慰める。
「ごめん、なさい‥‥」
「良いのよ。謝らなくて」
 搾り出すようにそう言った彼女に、ミカちゃんは、よしよしと慰めながらこう言った。
「いっぱいお泣き。次まではシグと胡都が繋いでくれるから、ね」
「うん‥‥」
 自分の出番は、最後の曲だ。それまでは、ずっと側に居てあげようと、心に誓うミカ。そこへ、胡都の奏でるフルートの音が、悲しい響を乗せる。高く澄んだその音は、何もしていなくても、胸の辺りに込み上げるものを置いていく。
(「良かった。上手く行って」)
 心の整理は、涙の後に。そう思うマリーカだった。

●空色
 その胡都が演奏したのは、マリーカのピアノソングだけではない。続く柊作詞の曲も、彼のフルート担当だ。
「歌だけだと、ちょっとさびしいですからね。胡都さん、フォローお願いできます?」
「ええ、もちろんですよ」
 演奏順番は、泣いてすっきりした後に、しっとりと思い出に浸り。前向きに元気を出させると言うのが、コンセプトのようだ。

いつか出会える? 出会えない?
運命必然 全部越えて
散らず咲いて 咲かず散らず
キミの心にあるよ 想い全部こめて

からっぽな心 満ちていくよ
心に全部 満ちていくよ
哀しさなんて全部 吹き飛ばして
輝いて 青空に舞い上がれ

「ひっく、えっく」
 ジャスミンちゃんは、まだ泣きじゃくっている。見かねた柊は、舞台に上がる前、声をかけた。
「これ聞いて落ち着いてね」
「はい‥‥」
 こくん、と頷く彼女。優しく穏やかな曲を、胡都の吹くフルートの音色が奏でて行く。いわゆるバラードの部類に入る曲だったが、楽器のせいか、温かみがあった。
「って、音程微妙に外れてないか?」
「気にするなっ」
 ただ、胡都と柊の音楽レベルが合ってない為、音取りにかなり違和感があった事は追記しておく。

●スタート
 最後の曲は、全員参加でのセッションだった。内容は、ミドウがマスターからジャスミンと彼氏の馴れ初めを聞いて作ったものだ。ちなみに、ボーカルがローラと彼女、そして柊で、マリーカがピアノ。胡都がフルートで、チマちゃんがバイオリン、ミカエルがギターで、シグがベースである。
「それじゃあ、行って来るね」
「はい‥‥」
 ミカがそう言って、ジャスミンから離れている。頷いて、彼女を送り出すジャスミン。
「ずいぶんと、ハマってる曲だなー」
「おう。ミドウの奴、あれこれ聞いてったからな」
 内容は、彼氏とのラブラブな出会いから、別離と後悔までを歌ったもの。クラシック楽器との合奏も、それなりに絵になるもので。
「ポップスにクラシック楽器も、悪くないもんだな。俺は嫌いじゃないぜ。こう言うの」
 ジャスミンではなく、マスターの方が気に入ってしまったようだ。悲しげな所は悲しげに、明るい所は明るくと言ったメリハリをつけて弾いているので、当たり前と言えば当たり前ではある。

あなたと出会えたことで
きっと代えられない経験をしたのだと思う
二人の関係は終わってしまったけれど
次に会える時は笑ってもっといい関係で会えるかな?
その時私はきっと素敵な恋の報告をあなたにできると思う

二人の別れは神様が決めた私に必要なステップだったから
私は涙を拭いて進まなくっちゃいけない
‥‥‥‥‥‥新しい出会いの為に

「ま、子供らしい思考の賜物って所かな」
 そう呟くマスター。一つの楽器でも色んな音が出せるところ見てもろて、一方的に自分が悪かったていう気持ちか、らちょっと視点を変えて、楽な気分になって欲しいと言っていたチマちゃん。ジャスミンも、こう言った場所に出入りしているだけあって、そう言った知識はある。それを改めて思い知らされた形になっていた。
「ハーモニー‥‥か」
 男女の関係も、いわば共鳴。どちらかが欠けても駄目になる、ジャスミンちゃんがそう呟いたのを見て、椎葉・千万里(fa1465)は満足な気分になるのだった。

●元気を出して
 そして。
「はいこれ。プレゼント」
 演奏された曲を録音したCDを、ジャスミンに手渡す柊。
「恋ってのは、ハートがマトモなら誰にでも巡って来るのさ。『縁がない』と思っていたあたしにだって来たし。あんたにもっと相応しい男が見つかるさ」
 歌い終わったミドウが、そう言って彼女を励ましている。
「恋は盲目っていうけど、本当に盲目になったらダメなのよ。余計なお世話かもしれないけど、ね」
 ジャスミン一人が悪いわけじゃない。そう主張するミカに、いや、むしろ彼氏の方がいかんと、ダメ出しをしたのは、チマちゃんである。
「そやけど、ジャスミンさんの元カレさん、普通にダメ男やと思います。お酒とお金‥‥ダメダメです!お母ちゃんからの受け売りやけど、そないなお人とはお別れして正解です! 持ち逃げされたお金はお勉強代やと思たらよろし! です!!」
 金額にもよりのだが、まぁ多少高く付いたと思えば良いことだ。
「私も少し前に別れましたよ。今じゃ、元彼に『彼氏』ができてます。実際にパンチはしませんでしたが、かなり悩みましたよ。でも今は別れて正解だったと思います。ジャスミンさんも早く彼を忘れて、一緒に新しい恋を見つけましょう」
 ローラの場合、もっと事情は複雑そうである。それでも、笑顔を見せる彼女に、ジャスミンは小さく「ありがとう‥‥」と礼を言う。
(「元カレさんとの恋、自分のアカンかったトコと、彼氏さんのアカンかったトコと、ジャスミンさんが両方真正面から認めることができるようになった上で、乗り越えられるのんがベストやと思うで‥‥」)
 その姿を見て、チマちゃんは子供らしい感情で、そう思うのだった。