メシどこか頼むアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 姫野里美
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 易しい
報酬 0.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/22〜10/25

●本文

 深夜、とある貸し会議室。入り口のプレートには「M企画会議様」と書かれている。そこで、番組表を片手に、頭を抱えているスタッフの姿があった。
「って、こう書いちゃったけど、誰がやるんだよ?」
「俺には、そんなヒマねぇぞ」
 ぼそぼそと会議を続けるスタッフ達。赤いペンで印を付けられた所には、『メシどこか頼む』と言う番組名が書かれている。しかし、どうやら話の口ぶりからするに、中身の進行状況が、あまりよろしくないようだ。
「よし、芸人に直接やらせよう。とりあえず予算はこれだけある」
 中の1人が、『ご予算』と言いながら、1万円札の入った封筒を取り出した。数えてみると、10枚ある。
「これじゃあ、ギャラで消えないか?」
「新人なんざ、万札一枚あれば余裕だろ」
 良く考えると、ずいぶん酷い話である。しかし、巷で溢れている番組では、『5000円でお釣りが来るバスツアー』など、よく組まれている話である。それを考えると、まぁ妥当な戦なのかもしれない。
「わかった。ちょっくら店に話を通してくる」
 納得したスタッフは、そう言うと携帯電話をコール。待ち受け画面の表示には、『味な店1』と書かれている。
 ところが。
「食い逃げダーーーーーー!!! おい、そこのアンタ、あの食い逃げ野郎を捕まえてくれ!」
「何でこうなるんだよっ!!」
「うるさい、成り行きだ!」
 電話口の向こうが、ずいぶんと騒がしい。通話ボタンは押されているようだが、反応は全くなかった。
「ぎゃーーー!」
「あんだ?」
 そこへ、響き渡る断末魔の悲鳴。
「もしもし?」
「た、大変だ! 食い逃げ犯が、食い千切られたぁぁぁっ!」
 ようやく繋がった電話。しかし、店主と思しきおっさんが、そう叫ぶと、突如電波が切れてしまうのだった。

●今回の参加者

 fa0230 アルテミシア(14歳・♀・鴉)
 fa0684 日宮狐太郎(10歳・♂・狐)
 fa0856 実夏(24歳・♂・ハムスター)
 fa1420 神楽坂 紫翠(25歳・♂・鴉)
 fa1690 日向 美羽(24歳・♀・牛)
 fa1701 華夜(18歳・♀・猫)
 fa1726 小鳥遊 日明(12歳・♂・蝙蝠)
 fa1733 ウルフェッド(49歳・♂・トカゲ)

●リプレイ本文

 連絡を受けたのは、ちょうど夜の帳に包まれた夕食時だった。そこで、アルテミシア(fa0230)は、その背に漆黒の翼を生やし、半獣の姿となったまま、現場へと急行していた。
「えぇと、確かこのあたり‥‥」
 付近まで来た彼女は、そう言って人目に付かないビルの屋上へと降り立った。そして、周囲を見回し、人のいない事を確かめると、意識を集中して、店を探す。彼女の視界に飛び込んできたのは、遠巻きに人だかりの出来ている店。
「まったく‥‥。なんで夕飯前に‥‥。後で‥‥店主に奢らせてやる‥‥」
 そこでは、客の1人だった神楽坂 紫翠(fa1420)が、一般市民を店から叩き出している。騒動が嫌いで、TV向きじゃない職業だと思った彼、普通に客としてここへきた際、巻き込まれてしまったらしい。
「ギギャッ!」
 店の中では、竜人と思われる小学生くらいの男の子が、コアを露出させたナイトウォーカーに、襲われていた。
「ち‥‥」
 荒事は得意ではないが、目の前で殺されようとしている少年を、見殺しにするわけにもいかない。そう思った神楽は、急いで、龍少年のもとへと向かう。
「そこまでですっ!」
 顔を上げたナイトウォーカーに、シアのアウトドアナイフが突き刺さる。
「ギギィ‥‥」
 新たな獣人の登場に、ナイトウォーカーは、うめく様に一声鳴くと、くるりと踵を返した。そして、店のガラスを蹴破り、外へと逃亡していく。残ったのは、痛そうにしている少年と神楽だけだ。
「おい‥‥。大丈夫か?」
「うん‥‥。でも‥‥」
 犠牲になったのは、少年をここに連れてきた大人の方だったらしい。死体が残っていない所をみると、先ほどのナイトウォーカーに食われたんだろう。
「ここにいると、色々とヤバい。お前も、手当てが必要みたいだし‥‥。聞きたい事もある。行くぞ」
 ちょっと強引だったかな‥‥と思った神楽だったが、少年は頷いて、彼についてくるのだった。

 翌日。
 撮影スタッフのウルフェッド(fa1733)と、ADの日向 美羽(fa1690)は、出演者を『機材搬入を手伝う』と言う条件で、愛車・モービルスパイクWに乗せ、現場へと赴いていた。
「成る程な‥‥。それで、傷の方は大丈夫だったのか?」
『ああ。今のところ、大した事はない‥‥』
 電話口の向こうで、そう答える神楽。夕べの騒ぎで拾った少年を病院に連れて行ったそうだ。手当てが終わり次第、店に戻るとの事。
「神楽さん、なんじゃって?」
「襲われていたのは、小龍と言う少年で、つい最近、こっちに出てきたらしい。田舎暮らしで世間知らずだったせいか、騙されてな。売り飛ばされそうになった所を‥‥と言った所だ」
 日宮狐太郎(fa0684)の問いに、そう答えるウル。彼によると、夕べ襲われた店には、芸能人もそれなりに来ており、少年もその1人だったらしい。とは言え、小鳥遊 日明(fa1726)やコタのように、TVでアイドルやモデル稼業に精を出しているお子様ではなく、格闘家を目指して、都会に出てきた所‥‥被害にあった模様。
「ふぅん。世の中には、悪い人がいっぱいいるんだねぇ。僕も気をつけなくちゃ」
 何しろ、こんなに可愛いんだしぃと、バックミラーにご自慢の容姿をうつしながらほざく彼。そんな彼を乗せ、一行はどたばたしながら、お店へついたのだが。
「まったく‥‥。騒ぎすぎだ‥‥」
 ウルに怒られる出演者達。車の中で、なにやら騒いでいたらしい。と、そこへ華夜(fa1701)が、顔を見せる。
「遅かったですね。先についちゃいましたよ」
「ちょっとな‥‥」
 車内でトラブってたんだ‥‥と、出演者をじろりと睨みつけながら、答えるウル。
「それで、現場は?」
「血塗れですよ。綺麗な店内が台無しです」
 彼女の案内で、店の通用口から、中へ入った所、白い床は、まるでどす黒い絵の具でも流したように、赤茶色に染まっている。
「食い逃げ犯だの、食い千切られただの、えらい物騒な話やなーと思ってけど、ほんまにスプラッタやなー」
「ギャラが一月のお小遣いと同じくらいだから、どんな仕事かと思ってたんだけど‥‥」
 実夏(fa0856)とコタが、交互にそう言った。これが、映画のワンシーンだったら、充分ホラーもので通用する。
「気を付けて下さいね。まだ、その辺りに潜伏している可能性がありますから」
 その中を、血溜まりを踏まないようにして、奥へと進む華夜。普通の女性なら、悲鳴を上げて卒倒しそうな光景だが、マイペースな彼女、その辺りの事はあまり気にならない模様。
「そう言えば、店員さんの姿が見えませんね。どこに行ったんです?」
「一応、休憩室の方に集まってもらってるらしいで」
 美羽の問いに、実夏がそう言って、『従業員専用』とプレートの張られた扉を指差した。
「とりあえず、話ぃ聞いてみっか‥‥」
 彼はそう言うと、ポケットからICレコーダーを取り出すと、その頭に獣の耳を生やさせる。種族と同じく、ハムスターのかわいらしい耳を。少しでもTVに出るチャンスを逃したくない実夏は、能力値を上げて、ちゃっちゃと片付ける方を選んだ模様。
「一体、何があったって言うんだ? 酔っ払って暴れたとかなら、怒るよ?」
 そんなわけで一行は、まずは聞き込みとばかりに、従業員に尋ねる事にした。日明がそう尋ねると、従業員は一様に首を横に振っている。
「どんな感じの人が、どう食いちぎったりしてたんです? どっちに逃げたのとか‥‥」
 美羽がそう尋ねようとするものの、ウルが首根っこを引っ張り、音声用のでっかいマイクを押しつけようとする。
「美羽はこれ持っていろ」
 怒られてしまった彼女に、フォローを入れたのは、ICレコーダーをぶら下げていた実夏だ。
「かまへん。録音はこっちでやっとる。俺の変わりに、色々聞いたってや」
 彼は、その音声収録の役目を交代し、美羽に聞き込み役をやらせている。
「ふむ‥‥。被害者は獣人だったと言う事は、やはりナイトウォーカーでしょうね‥‥」
 話を聞いた美和の顔が、今までのドジなADさんから、まるで探偵稼業のような態度へと一変する。
「話によると、そこの窓から逃走したらしいですからね‥‥。ただ、これだけ芸能人が集まってますし、臭いを嗅ぎ付けないとも限らない‥‥」
 華夜が、破られたままの窓ガラスを振り返りながらそう言った。ナイトウォーカーが出て行ったと言うそこは、無残にも粉々になっている。
 しかし、そこで問題が起きた。まるで、警察や探偵の様に、色々と聞いてきた彼らに、従業員がいぶかしみ始めたのだ。が、そこは新人とは言え、芸能人。
「お姉さん、お願い。僕、色んな事が知りたいの☆」
 コタが、友好魅瞳を使って、女性従業員に、うるうるとした眼差しで訴えかけると、彼女は『可愛い☆』とか言いながら、疑いの念を払拭してしまう。そんな中、事態を見守っていた華夜が、こう呟いた。
「それにしても‥‥、こうして外で襲われるのって、よく起こるのでしょうか‥‥」
 確かに、ここ最近、彼らは増殖していると聞く。と、そんな中、今までレコーダーに徹していた実夏が、厳しい表情を見せる。
「そうやな。頻繁とは言わへんが、なんやらガタガタしとるようやで」
 そう。彼の鋭敏な聴覚には、店の周辺で様子を伺う、不審な物音が、届いていたのだ。振り返ってみれば、そこにいたのは、目の血走った男。
「こいつは‥‥」
 明らかに雰囲気の違うそれに、警戒した様子のウル。と、男‥‥いや、男の姿をしたもの‥‥が、一番手前にいたコタへと迫る。
「わぁぁっ、何をするのじゃ〜」
「コタを離して下さい!」
 思わず素に戻り、じたばたと暴れるコタ。それを見た華夜が、鋭い爪を彼に躍らせる。ぼたりとコタを落とした男は、今度はたおやかな女性の方が美味そうと感じたのか、華夜に狙いを定めた。
「お待ちなさいっ!」
 腕が、不自然な形に盛り上がる。その刹那、響き渡る声。
「今度こそ、逃しませんわよ!」
 振り返ったナイトウォーカーに、シアの投げたナイフが飛んで来る。しかしそれは、ぺしんっと弾かれて、床に転がってしまった。
「きゃぁんっ、ナイフが〜」
 ぷうっと頬を膨らませながら、店内に乱入する彼女。と、その彼女のナイフを拾い上げながら、美羽が前へと出る。
「ここは、私が何とかしますから」
 撮影スタッフの中で、一番肉体的に自信があるのは、おそらく牛獣人の自分だ。普段から、ADとしてこき使われている体力は伊達じゃない。
「やたらと獣化を使うのは好きじゃないけど、この状況なら、しょうがないね」
 休憩室の扉をしめ、ジャンパーを脱ぎ捨てながら、日明がそう言った。その背中には、すでに蝙蝠の翼がある。
「どこへいくんや!?」
「ここじゃ、弾が撃ち込めないんだよ。清めの音を叩き込め! ってね!」」
 そのまま、外へと走り出そうとする日明に、実夏がそう尋ねると、彼は裏口を示して答えた。
「逃すわけには行きませんわっ!」
 日明の後を追うナイトウォーカー。それを、美羽達が追撃して行く。こうして、人目のつかない裏通りへおびき出された彼は、獣人達によって、ボコられるのだった。

 一行が戻ってくると、店内は騒然としていた。そんな中、シアは、出来るだけ大きな声で、見られてなんぼの商売だと言わんばかりに、こうきり出す。
「あ、あのっ!!! 取材、まだしてはいけないんですか‥‥?」
 と、そこへ、華夜が爽やかな笑顔で、店員達に説明した。
「実は今のは、あるプロモーションビデオの撮影なんですよ。ちょっと、ドラマ仕立てにしようってわけで。店長に、御協力願ったんです」
「店の名前は、テロップに入れておく。もし、何かあったら、ここに連絡してくれ」
 苦しい言い訳だったが、ウルも、M企画名義の名刺を取り出し、従業員に配って回る。こうして、一通り掃除を済ませた店内で、一行はようやく御馳走にありつけたのだが。
「うわぁぁ、美味しそうなのじゃ〜☆」
 料理を見て、今まで落ち着いていたコタ、尻尾をふらんばかりにして、大喜び。料金会社持ちって事で、口調が素に戻ってしまっている。
「こんな状態でよく食えるな‥‥」
「美味しい物は美味しくいただくのです。どんなスプラッタを見た後でも!」
 あれだけスプラッタな光景だったにも関わらず、まだレアーなお肉をパクついている華夜。頭とお腹は別物のようだ。
「でも、ひたすら食べてるだけ‥‥で、使えなく‥‥ないか‥‥?」
「言うな。そう言うのは」
 カメラを回していたウルが、途中で合流した神楽にそう答えている。確かに新人さん達、ただ食べてるだけで、あんまり面白い事を言ってはくれない。と、彼はため息混じりに、数枚のレポート用紙を、ウルへと差し出した。
「とりあえず、俺が調べた‥‥原稿だ‥‥。編集で使ってくれ‥‥。後は‥‥客に紛れてる‥‥」
 それには、取材の前に調べた、この店のお勧め料理や、内装の雰囲気などが、簡単にまとめられている。
「いいねー。すごく美味しいですよー。いい材料使ってますねー」
 それを元に、もう一度カメラが回る。今度はまともな事を言う日明。
「激辛ものはどれかしら‥‥。ああでもあんまり食べると、デザートが入らなくなっちゃう☆」
「‥‥大丈夫。おやつは別腹って言うし、あれだけ走りまわった後なら、何でも美味しいよ」
 しかし、影では、シアの要求に、そう答えているあたり、心からそう思っているわけではなさそうだ。
「ちょっと。さっきから食事の邪魔ですわよ。この‥‥」
 一方、真面目に仕事をこなそうと、面白おかしく喋り倒している実夏に、食事の邪魔をされたくないシアが、放送コードギリギリのセリフを、ばりばりと流している。
「あのー‥‥、あれ、放送していいんですか?」
「深夜番組に、放送禁止なんぞない。このままノーカットで撮影だ」
 不安そうにそう言う美羽に、ウルはカメラを回したままそう言った。そんな中実夏が、デモテープを片手に、こう申し出てくる。
「そや。俺の歌、番組の中でつこうてくれへんか? 主題歌なんて贅沢は言わへん。挿入歌とかでも、ええねん」
 ただの撮影スタッフの彼、そこでOKは出せないらしい。だが、編集の方には渡しておくと、約束してくれる。
「いいんですかぁ?」
「気にするな。泣くのは編集で、俺達じゃない」
 美羽が不安そうに尋ねると、ウルはきっぱりと、そう答えるのだった。