【LH柏木】テーマリハアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 姫野里美
芸能 2Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 3.9万円
参加人数 10人
サポート 3人
期間 04/16〜04/22

●本文

●堕天使カフェは可能か否か
 さて、ライブハウス柏木では、簡単な飲み物等々も、頼めば出してくれる。いわば喫茶室の様な役割も果たしていた。だがそれは、マスターの思いつきで、時々妙な方向へ転がっていくのだ。
「おーい、唐突だが、お前らの知り合いに、芝居の得意な奴とかいないか?」
「なんすか、藪から棒に」
 いつもの様に、楽器片手にたむろっている連中に、そう声をかけるマスター。彼らが怪訝そうに尋ね返すと、彼はやおらこう続けた。
「実は‥‥今度、BLカフェってもんをやってみようと思ってなー」
「ぶっ」
 飲んでたハニーレモンジュースを吹く常連達。と、それを持っていた薄っぺらい小冊子で防御したマスターは、動機をこう話す。
「いやー、こないだ池袋でやってるって話を、小耳に挟んでな。ただ、絶対にうちの常連どもの方が、芸が細かいじゃん? だから、ちょっとやってみようかなーと」
 よく見れば、たった今バリアに使った小冊子は『チェーン展開をお考えのオーナーへ』とか書かれた案内状だ。
「別に止めやしないけどな、売れるのかよ?」
「そこはお前らの技量次第って奴さ」
 にやりと笑うマスター。その悪意たっぷりの笑みを見て、常連客は軒並み眉をひそめている。
「マスター、正直に言え。何でやろうと思った?」
「面白そうだから」
 ああ、やはし! と、でかい文字が躍ってそうな常連の背後。
「うっせーなー。芝居の延長だと思えばいいだろ。こないだTV見てたら、そう言うシーンあったし。それに、最近じゃ結構、そう言う危険な筋の入った曲、売れてるみたいだしなー」
「そら一理あるけどよー。いきなりってのは、厳しくねぇ?」
 マスターはそう言いきったが、かと言って、何もそう言う気のない兄ちゃんに、いきなり同性とイチャイチャしろと言うのは無茶すぎる。それは彼も考えていたらしく、腕組んでこう答えた。
「うーん、まずはリハからだなー」
 何をさせるつもりなんだろうと言った表情の彼らに、マスターはこう解説してくれる。
「いきなり同性口説けっつーたら、皆引いちまうだろ。まずはテーマを決めて、それに沿った内装と服、音楽を流せば良いんじゃないかな」
 つまり、彼が考えているのは、一種のテーマライブと言ったもののようだ。よくアーティストが、ライブやコンサートで行っている手法である。
「そう言うモンすかね。んで、肝心のテーマはどうすんです?」
「執事は結構あちこちで見かけるから、堕天使ってどうだ? 退廃的な感じで、黒い羽つけて、来た客をモラルに反した邪の道にひきずり落とす‥‥って言うのがテーマ」
 内装を黒で統一して、あちこちにドクロや羽やら茨やらを巻きつけ、悪魔的な感じにして、耽美な雰囲気を出そうと言う試みのようだ。確かにそれなら、コンサートと言っても差し支えはなさそうだ。
「まぁ俺も正直、どうやっていいかわかんねーし。そんなわけで、練習台になってくれそうな関係者、連れてきてくれや。リハ合わせてみて、本番に使うかどうか考えるから。あ、女の子も誘って良いぞ。ただし、従業員役で出る場合、男装してもらうけど」
 マスターとて、それが上手く行くとは考えていないらしく、まずは実際そう言う事に人が集まるのか、そしてライブハウスの面々で、定期的な運用が可能なのか。それを確かめたいらしい。
 そんなわけで、ライブハウス柏木では、BLカフェ開設の為の、リハーサルが行われる事になった。
 人、それをマスターの壮大な実験と呼ぶ。

●今回の参加者

 fa0244 愛瀬りな(21歳・♀・猫)
 fa0475 LUCIFEL(21歳・♂・狼)
 fa1126 MIDOH(21歳・♀・小鳥)
 fa1359 星野・巽(23歳・♂・竜)
 fa1420 神楽坂 紫翠(25歳・♂・鴉)
 fa1514 嶺雅(20歳・♂・蝙蝠)
 fa2484 由里・東吾(21歳・♂・一角獣)
 fa2837 明石 丹(26歳・♂・狼)
 fa2844 黒曜石(17歳・♂・小鳥)
 fa2899 文月 舵(26歳・♀・狸)

●リプレイ本文

 出来上がった内装に、目をぱちくりとさせるマスター。各テーブルには、キャンドルスタンドに花をあしらったものが置かれ、幻想的な雰囲気をかもしだしている。
「堕天使の誘惑に、トイレの飾りめいた造花じゃ、洒落になりませんしね」
 そう答える由里・東吾(fa2484)。キャンドルを飾る花は、生花だった。まぁ、確かに100円均一で売っているような花では、魅力も半減してしまうだろう。
「後、上の照明は、今回は切って置いてくれます? その為に、スタンド入れて、間接照明にしたんやし」
 文月 舵(fa2899)がそう言った。彼女の発案で、ステージの照明を移動して、その上にカバーを付け、ぼんやりとした光を演出している。
「こう暗いと、茨や羽の影に隠れた、使い魔達と、突然目があってしまうでしょう?」
 自慢げにそう言うユリ。見れば、あちこちに散りばめられた動物達の、目にはめられたガラス玉が、こちらを見つめているような雰囲気になっていた。他にも、寒色系の花々を使い、姫林檎やドクロのオブジェをアクセントにあしらって、怪しげな光景になっている。これなら、舵の言う『非日常的空間』を演出できそうだ。
「そろそろ時間だなー」
 白のゴシック系の衣装と、あちこちにシルバーピアスをつけた嶺雅(fa1514)、そう言って、半獣化する。
「お帰りなさいませ、お嬢様。今宵、我らが堕天使の宴へようこそ。こちらは、本日のお席でございます」
 同じく半獣化した姿で、燕尾服とシークレットブーツのMIDOH(fa1126)が、そう言って案内していた。
「僕達の宴、楽しんで行って下さいね」
 そこへ、耳横の毛だけを残し、後ろは一つでまとめた愛瀬りな(fa0244)が、特性ウエルカムドリンクを差し出す。服は、ゼブラ柄ロングジャケットにスーツ、白ネクタイにクロスモチーフのタイピンをつけ、手首にはシルバーブレス。
「えぇと、最初は誰でしたっけ?」
 一応、使い魔と言う触れ込みの彼女、マリアの耳元に顔を寄せるようにして、そう尋ねた。半獣化した姿はジャケットと同じく縞柄猫なので、クールな猫青年を目指しているようだ。容姿だけでなく、演技力も同じくらいある彼女、客の前で色っぽい流し目をして見せるなぞ、造作もない。
 あちこちで盛り上がる客の前に、一番手のレイガが、ピアノ伴奏の神楽坂 紫翠(fa1420)と共に現れる。と、彼はステージ上手よりで、レイガを呼び止めていた。怪訝そうな彼に、シスイは、自分が挿していた小さな花を一輪取り、胸元へ押し込んでみせる。ついでに、多少乱れた白シャツの蝶ネクタイを、まっすぐに直す。
「これで良い」
 耳元に顔を寄せながらそう言う彼の姿に、観客席から黄色い悲鳴が上がっていた。腐れ女子と言うのは、そう言うちょっとした仕草でも、妄想を膨らませるらしい。

今宵、貴方をsecret partyにご招待
チケットは勿論special
恭しく手を取り外へ連れ出すmidnight
満月の光に照らされて青白く光る貴方の首筋
そっと唇を寄せる 甘美な一時

 そんな彼が歌う曲は、ジャズロックと言ったものだった。歌詞が歌詞だけに、なんだか少し色っぽい気分になる。レイガ自身も、その詩を意識しているのか。気だるげな感じで、囁くように歌い上げていた。
 最後は囁くように歌ったレイガを、同じ事務所の明石 丹(fa2837)が、ステージからホールへ誘う。りなと違って、芝居能力ゼロなので、どちらかと言うと、手招きしていると言った程度だが、客も期待しているらしく、視線がレイガに注がれる。半獣化している彼、そこそこ演技力が上がっているせいか、顔を引きつらせる事もなく、その誘いに応じたわけなのだが。
「って‥‥、おい」
 ホールに下りた瞬間、明石にでこチューされる。彼のほうが数センチ低い為、ちょっとかかとを上げて、背伸びしたようにキス。
「これも演出ですから。それに、知らない相手にでこチューされるよりマシですしね」
「わかってるよ。女の子に無理やりチューなんて、頼まれても無理だぞ」
 この間、客にバレないように、囁き会話している為、彼女達には、まるで口説いているようにみえたようだ。
「大丈夫ですよ。僕が絡むのは、レイガさんだけですから」
 そんなレイガさんに、明石くんは、首根っこを押さえるようにして、引き寄せる。勢い、バランスを崩して、こけそうになる彼。攻受が逆になっている様な気もするが、ホールの観客からは、くすくすと、微笑ましい笑い声が聞こえているので、概ね受け入れられてはいるのだろう。
 ところが、ここで一つ問題が起きていた。
「なんだか、普通のライブとかわんねぇなぁ‥‥」
 厨房から、ホールとステージの様子を覗いていたマスター、ぼそりとそう言う。見れば、お友達にメイクを施してもらったりなさんが、舞台に上がっていた。クールな美青年をイメージしているらしい彼女の横では、歌にあわせて、マリアが何人かの客を舞台に上げ、頬にキスをする‥‥と言った演出をしていた。
「そうかなぁ? どことなく、怪しさが漂っていると思うけど。見た目はともかく、中身女の子だしさ」
 出番の終わった人は、順次ウェイターをやっている。その為、限定オリジナルカクテルを運びに来たレイガさんは、マスターの台詞に、そう言った。
「いや、そうじゃねぇんだ。お客入れて、ちょっと喋って歌う‥‥いつもやってる事じゃん」
「それもそうだけど‥‥」
 マスターには少し引っかかるらしい。だが、出演者本人達は、とても楽しそうに演奏している。

もう隠さないよ僕の気持ち
アイシテル でも 言葉だけじゃ表しきれない
だから今宵 抱かせてほしい
貴方の全てを‥‥

(「聞こえてますか? 私の歌、私の想い」)
 それでも、りなには好きな人に対する思いも込められているらしく、感情込めて歌っている。切なげに語る彼女の後ろで、コーラスをしているマリアはと言えば。
(「歯が浮く‥‥」)
 歌っている間は気になりゃあしないが、もしこれを面と向かって言われた日には、たとえ好きな相手だったとしても、口より先に手が出かねない。持ち込んだのは、アコースティックギターと、バラード曲『to be forever together』。常設してあるピアノと共に演奏するそれは、砂糖増量の甘い紅茶めいた歌詞だった。

君を抱き締めて 君が望むなら
君に約束しよう 100万回のloveColl

君と届けよう 君を愛する証を
100万本の赤い薔薇と共に

「ムードはあるんだが、もう少し工夫しねぇと、客が飽きちまいそうだなー」
 それでも、ボサノバ調の曲は、ポルトガル語で歌った為か、異国情緒に満ちている。まぁ、客にとっては、雰囲気より、それをネタに盛り上がれる方が、重要な様子。
「とりあえず、今はライブの延長線上のままで良いんじゃないかな?」
 カップルの親密度上げにも、一役買ってるらしいしさ‥‥と続けるレイガさん。その台詞に、マスターは要研究だな‥‥と言った表情。
 舞台では、引き続きシスイがピアノを演奏して、タキシード姿の星野・巽(fa1359)の伴奏を勤めている。色々と練習していたから、それなりに息はあっていた。本人曰く、まだまだ未熟者だそうなので、時々音程が外れてもいるものの、その分、声は腰にくる感じだった。

宵の明星 暁の堕天使
濡れた唇 微笑み浮かべ 俺を捕える

お前に出会ったのは 天の采配 運命の悪戯
体も心も魂も 俺のすべてを お前にくれてやる 
決して逃げられない 逃がさない 逃げる気も・ない

だから‥‥ここに

永久の幸せ お前と俺 共に落ちる事が出来たなら Heaven on earth
永劫の愛 俺とお前 共に行き着く事が出来るなら go to Heaven

 Heavenと言う名の彼の曲は、途中からアップテンポに変わっていたが、舵のバイオリンも加わったので、思いっきり弦楽二重奏である。その舵の衣装はと言えば、どこから見つけてきたのか、タンクトップタイプのセーターに、ファー付きのジャケットを羽織り、クビ元にもファーの付いたチョーカーを装備している。長い髪は後ろで一つに束ねていた。
「あれ? 舵ちゃんって、確か明石とコンビ組んでるんじゃなかったっけか?」
「ああ。確かこの後に出てくる筈だぜ」
 レイガの言う通り、舵嬢は、バイオリンからシンセに持ち変え、いつもどおり『アドリバティレイア』として、持ち歌をご披露中だ。ちなみに、明石の衣装は、襟ぐりの大きなVネックの黒シャツに、ボンテージパンツ。腕やら脚やらに、黒皮のベルトが巻かれ、ご丁寧にチェーンのぶら下がった赤の首輪付きだ。

外は雨、お好みなら 白い羽に手をかけて
引き寄せることもできる

さあ何が欲しい?優しくしてあげる
さあ何が欲しい?優しくしてあげる

 そんな彼らの歌う曲は、堕天使からの誘惑をモチーフに、ミディアムバラードに仕上げたそうで。
「しっかし、これ評判良かったら、どうするんだろう? 定期的にやるの?」
 出番の終わったシスイが、ウェイターをやりに戻ってくる。と、彼の問いに、マスターは厳しいなと言った表情で、こう言った。
「いや、今の状態じゃ難しいだろ」
 それが証拠に、客はネタ拾いとおしゃべり、それにウェイターのチェックにご執心で、あまり曲を聞いていない。もうちょっと積極的に迫らないと、受けないようだった。

 反応を見る為、BLカフェは2日目に突入していた。
「舞台設定に関しては、概ね好評‥‥と。しかし、若い女性と言うのは、色んな者が好みなんですね」
 それらしく半獣化した上、黒い鳥の付け羽を着用したユリが、ウェイターのフリをして、さりげなく客の様子をチェックしながら、そう呟く。
「ユリ、そんなところで壁の花をしていないで、こっちにきたらどうだい?」
 と、そんな彼を、黒曜石(fa2844)がホールへと誘い出した。フリルタイにクラシックなスーツ姿のユリとは違い、黒の姫袖ゴスロリに、ミニハットタイプのヘッドドレス、喉仏隠しのチョーカーに、レース手袋、10cm厚底ブーツ。雰囲気にそぐわない尾羽は、ロングスカートの中に押し込んでいる。
「え? い、いや私は‥‥」
 ユリ、困惑したように逃げようとする。しかし、基本的に『美しい相手』を選ぼうと言うクロに、声をかけられた事は、それほど悪くない容姿‥‥と言う証。
「やめておけ。その気のない奴に迫っても、はたかれるだけだぞ」
 彼が困っているのを見たシスイ、客の手前もあって、ちょっと厳しい口調でそう言った。ちなみに、堕天使のイメージなので、ウェイター中も、タキシード+白手袋で、半獣化中。
「ふん。ならば、キミが相手になるかな?」
 そんな彼を、腰の辺りで抱き寄せるクロ。打ち合わせの時、好きにしてOKっと言っていたので、遠慮なく迫って見る。
「って、俺かよっ」
「そのつもりで来たんだろ。だいたい、この方が盛り上がるみたいだし」
 スタッフ同士しか聞こえない会話の時は、気取る事もないだろう。開いた手で首根っこを押さえられ、不満そうにそう言うシスイに、クロは客に聞こえるよう、わざと大き目の低い声で『我慢しろ‥‥』なんぞと言ってみたり。中々離そうとしない彼に、シスイは諦めたように、身を預けていた。
「堕天使にあるのは美と誘惑だけ‥‥性別は無い。君達が男だと思えば、男だ」
 彼らの目の前で、客が男の子か女の子か分からない‥‥と言った会話をしているのを耳にしたクロは、低い声でそう言った。そして、くったりしたシスイの手を取り、舞台へと上げる。と、反対側にスポットライトがあたり、付け翼のLUCIFEL(fa0475)がライトアップされる。
「今宵の生贄は極上の獲物‥‥。ならば、そなたの為に一曲捧げようか」
 唯一つ欠点があるとすれば、容姿はそれなりに審美眼に敵うのだが、芝居力は欠片もないので、台詞が棒読みになってしまうところだろう。
「さぁ、麗しき生贄よ。主がお待ちだ」
 シスイを突き出すクロ。こっちもやっぱり芝居力はゼロ。台詞棒読み。
「さぁ今宵、背徳の宴に、堕ちるが良い‥‥」
 それでも、3人ともノリノリで、舞台中央で嘘っぽいキスシーンなんぞやらかしている。

瞳を閉じてこの翼に抱かれればいい
憂うことがあるなら全て消し去る

ただ此処に変わらぬ二人が在れば
そう儚い夢も永久に続くだろう

「まぁ‥‥、客受けしているみたいだから、良いか」
 その姿に、マスターはそう呟くのだった。
 結論:BLカフェをやる時には、役割とシナリオを決めて挑みましょう。