【LH柏木】逃走商品アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 姫野里美
芸能 フリー
獣人 3Lv以上
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/24〜04/28

●本文

 ライブハウス柏木の周囲には、それなりに商店街がある。そこは、近所の奥様連中が通うスーパーから、コンビニにクリーニング店、花屋から医者、和菓子屋にファミレスまで、街から出なくてもどうにかなる品揃えを誇っていた。
「ペットの捜索?」
「うん。正確に言うと、商品なんだけどねー」
 その、商店街仲間から、相談を持ちかけられているマスター。なんでも、商店街の一角にあるペットショップから、トカゲが1匹逃げ出したそうだ。
「それ、結構大事なんじゃないのか?」
「いやぁ、イグアナは草食だし。なんでこんな事になったんだか、さっぱり分からないんだよ」
 そのペットショップの店長曰く、最近は爬虫類を飼う御仁も少なくないそうなので、ブリーダーから、グリーンイグアナを仕入れたそうだ。ところが、ある夜を境に、それまで大人しくキャベツを食べていたイグアナが、急に凶暴になり、とうとう檻を叩き壊して、逃げてしまったそうだ。
「けっこう仕入れ代がかかってるし、このままってわけにもいかないだろ? ちょっと手伝ってくれないか?」
「しょうがねぇか。確かに野放しに出来ないし」
 何か思うところがあったらしいマスターは、そう言ってペットショップの頼みを引き受けてくれる。その真意がわかったのは、呼び出された常連連中が、話を聞いた時だった。
「一般人に話すわけにいかねーから、黙ってたんだが、どーもNWくさいと思ってな。それまで大人しかった奴が、急に凶暴になってってのは、よくある話だし」
 そう言うマスター。
「もし、そいつがNWだったら、倒さなきゃなんないんだが、その時には、既に死んでたって事にしとく。一般人に被害出る前に、なんとかしてくれや」
 若干困った表情で、そう頼む彼。こうして、商店街を中心にした、トカゲ擬態NWの捜索が、秘密裏に始まるのだった。

●今回の参加者

 fa0371 小桧山・秋怜(17歳・♀・小鳥)
 fa0625 羅刹王修羅(21歳・♀・竜)
 fa0892 河辺野・一(20歳・♂・猿)
 fa1137 ジーン(24歳・♂・狼)
 fa2002 森里時雨(18歳・♂・狼)
 fa2830 七枷・伏姫(18歳・♀・狼)
 fa3115 (22歳・♂・鷹)
 fa3120 (14歳・♀・狼)

●リプレイ本文

 その日、依頼を受けた関係者は、ベースとなるライブハウス柏木で、待ち合わせをしていた。と、河辺野・一(fa0892)が、表のビデオショップで、店内の掃除に勤しんでいたらしいマスターに、こうきり出す。
「あの、NWとの戦場に、LH柏木を貸して頂けないでしょうか?」
 彼の申し出に続けて、ジーン(fa1137)が「防音設備、照明完備、広さ、逃走経路の少なさ。こっそり戦うには持ってこいだしな」と理由を言う。他にあまり戦闘の出来そうな場所がない事を知っているマスターは、二つ返事でOKしてくれた。なお、普段の貸し出しは、開いている日は周知するが、特定の連中への周知は行わないらしい。
 しかし、場所を押さえても、目標となるイグアナを見つけなければ、話にならない。サーチペンデュラムを起動させる都合もあって、一行は、仕入れたと言うペットショップへ、事情を聞きに行った。
「行動パターンとか好みのものとか‥‥あるのだ?」
 苺(fa3120)がマイクを向けながら、店主に尋ねると、好物はキャベツ。だが、植物の他、小動物や昆虫等も、多少は食べると答えてくれた。
「ふむ‥‥、見かけた試しがない。とすると、昼間は動き回らずに、日光浴などして、じっとしていると思います」
 隣のクリーニング屋さんで、話を聞いてきたらしい河辺野がそう言った。と、ジーンが別の事を尋ねた。
「店主、イグアナが凶暴化した夜、変わった事はなかったか?」
 案の定、泥棒騒ぎがあったそうだ。取られた物はなかったが、その日を境に、イグアナがおかしくなったとの事。苺と森里時雨(fa2002)が、写真の提供を申し入れると、店の人は、サイトの画像をプリントアウトしてくれた。
「出来るだけの情報は手に入れたんですから、動かないうちに、サーチかけてみましょう。お願いできます?」
 河辺野の台詞に、苺がダウンロード地図の上で、サーチペンデュラムを起動させる。6分後、それはライブハウスの上で、ぴたりと止まった。
「ここで手頃な餌を探していてくれれば、楽なんだが‥‥」
 そう言うジーン。普段から獣人の出入りが激しい場所だ。潜んでいる可能性は充分にある。
「いないのだー」
 しかし、店中あちこち探して見たが、イグアナのイの字もなかった。がっくりと肩を落とす苺ちゃんを、飆(fa3115)はこう行って励ます。
「精度はさほど高くないからなぁ。もう1回やってみよう」
 彼もまた、サーチペンデュラムを持って来ている。と、今度は少し離れた場所にある、T字路を指し示していた。日当たりのいいそこには、真新しい花屋がオープンしていた筈だ。
「温度管理といい、保護色といい調度良さそうですね‥‥。もしくは、あそこにあった自販機のウラ。暖かいですから」
 河辺野が、好条件が揃っている事を告げる。かなり奥行きの広い店だと記憶していたジーン、街並の確認を兼ねて、そこへ向かうことにする。
「ふふふ、移動なら任せろッス! 路上は慣れてるッスから! あ、これ一枚借りて行くッスねー」
 森里は持ち込んだMTBでそちらに向かうようだ。後ろの荷台に、鴉避ネットが収まっていた所を見ると、それで捕獲するつもりなのだろう。
「隠れられる場所は多そうだ。写真撮っておこう」
 が、そこも外れだったようだ。結構大人数で移動している為、目立つ事を畏れたツムジ、店の人に断って、働いている商店街の人々を、ファインダーに納めている。
「集会場みたいなのは、ないのだ?」
「案内板だと、市民センターみたいなのはあるみたいだけど、大通りの向こう側で、遠いでござるよ」
 地図を覗き込んでいた苺の問いに、そう答えたのは、半獣化を隠す為、ゆったりとした長袖の服にジーパン姿で、スカーフを頭に巻いた七枷・伏姫(fa2830)である。
「人目につきにくい、人通りの少ない場所で、8人の人間が、ある程度動き回れる広さを持つ場所‥‥。中々難しいでござるなぁ」
 ややげんなりした表情の彼女。どうやら、イグアナ捜索と併せて、もしNWと化していた場合の、戦場も確保しなければならないようだった。
「一番はLH柏木を使わせてもらうことだけど、場所によってはそこまで遠いとかもあるだろうしー‥‥。公園とか、駐車場とか、廃ビルとかー‥‥? あれ? 商店街にビルってのもおかしいのだ?」
 しかも複数である。そう言う苺だったが、気づいた通り、見える一帯に、使われていなさそうなビルはない。もし、あったとしても、鍵がかけられているだろう。
「普通の駐車場は、夜は埋まってるでござる。スーパーの駐車場か、駅から少し離れた公園でござろう」
「公園じゃ、逃げ道多いし‥‥。駐車場だと、守衛がいる可能性も高いけどな」」
 伏姫の理想に、現実を口にするツムジ。こうして、幾つかの候補地を絞りながら、手分けしてイグアナの行方を探し、1日は過ぎて行くのであった。

 さて、イグアナ捜索は、午後になっても続いた。サーチペンデュラム片手に、あちこち巡っては見たものの、路地裏や公園で子供が遊んでいたり、表通りは意外と車や自転車が通行していたり、駅前には交番があったりと、どこかしらに人がいた。
「それにしても、イグアナさんいないのだー。うーん。この5箇所のどれかだと思うのだー」
「いや‥‥。この場合、詳しくないから、失敗したんだと思うが‥‥」
 印を付けた地図を眺めて、落ち込んでいる苺をそう言って励ますツムジ。彼が使った感覚では、写真だけではなく、実物を見ないと、良く知っている扱いにならないようだ。
「町の人の話じゃ、見たことないそうですから、上のほうにいるかもしれないね。河辺野さんの話だと、木登りも得意そうだから」
「けど、あっちも見てきたッスけど、木の上ってカンジしないっス。何かもっと詳しいこと、分からないッスか?」
 店から話を聞いて出てきた、シュレの台詞に、首を横に振る森里。MTBでひと回りしてきたが、植えられている街路樹は、どれも申し訳程度に葉っぱが生えている程度で、イグアナが隠れるには、あまり向かない木々ばかりだったそうだ。
「イグアナは、日光浴で温度を蓄えます。夜は蓄えたそれで睡眠するんですが‥‥。話を聞く限り、夜活発なようですから、関係ないでしょうね」
 そう言う河辺野。ただ、に感染しているとなると、そんな爬虫類の基本行動範囲には収まらない可能性もあったりするのだが。
「日光浴‥‥日当たりの良い場所‥‥そうだ! 屋上ッス!」
 何か思いついたらしい森里、ぽんぽんとマンションの屋上へ上がりこむ。
「いた!! けど、あんな端なのだー」
 同じ場所から、周囲を探していた苺が、緑色の物体を見つけて、大声を上げる。見れば、確かにトカゲらしい生き物が、腹が減ったとばかりに、動き出していた。
「頑張って、柏木までおびき寄せるのだ!」
「マスター! coolなLIVEを頼むぜ!」
 電話ごしに、発見の報告を聞いた森里の指示で、ライブハウス柏木に、冷房が機動する。皆がイグアナをおびき寄せる頃には、中は冷蔵庫だろう。
「いいか。俺達がついてる。獣人が徒党を組んだら、NWも警戒して出てこないからな。出来るだけ、1人でLHまで誘導するんだ」
「わ、わかった。やってみる」
 ジーンに促され、携帯片手に頷く小桧山・秋怜(fa0371)。徒党を組んでは、向こうも警戒する。その為、イグアナをおびき寄せる囮を用意し、ジーン達格闘班が護衛すると言う事になった。
「来たっ」
 程なくして、路地の向こう側から、目を光らせたイグアナが、近付いてくる。しかし、見た限りは、すでに実体化後なのか、分からない。
「追い詰めるのは可愛い子ヤギさんとかが良かったのぅ‥‥。まぁ、この際文句は言ってられんが‥‥」
 そんな彼に、少し距離を置いた状態で張り付く修羅。竜族の彼女、半獣化しても目立つ為、まだ人の姿を保っている。
「出来るだけ、生け捕りにしたいんだけどな‥‥。いくらNWに取り付かれてるって言っても、イグアナに罪は無いもんね」
 出来るだけ傷付けたくないらしいシュレ、そう呟いていた。捕獲方法を思いつかないまま、森里が目印代わりにセッティングした駐車場コーンの側を歩く。黄色いテープの張られたそれは、ぱっと見た限りは、どこぞの工事現場だ。万が一、人が現れた時も、夜間工事と偽って追い返せるよう、ジーンが潜んでいる。と、シュレが、ある公園の広場に、さしかかった時だった。
「ん‥‥? 何か音がするのだ?」
 首を傾げる苺。それに従って、河辺野が耳を傾ける。それは、イグアナが潜んでいると思しき植込みの中から聞こえた。
「まさか‥‥。この脱皮は成長のためじゃない‥‥! 実体化だ!!」
 警告する彼。ばりばりと、まるで卵の殻でも砕く様な音。きっかり10秒聞こえたその直後、植え込みからシュレに向かって、大きさが一割ほど増した翠の影が、突っ込んでくる。
「きしゃあ!」
 鳴かない筈のイグアナが、雄叫びらしきものを上げた。見れば、イグアナはすっかりその姿を、虫のような姿に変じさせている。慌てて、俊敏脚足を発動する伏姫。その為、イグアナが突っ込んでくる前に、シュレをかっ浚う事が出来ていた。
「大丈夫でござるか?」
「あ、ありがとう」
 礼を言うシュレ。しかし、NWイグアナバージョンは、そんな事には構わず襲い掛かっていた。
「柏木まで遠いでござるが‥‥、出来ない距離じゃないでござる。人もまばらだし、なんとかするのが上策でござろう」
 その姿に、そう言って伏姫は、折りたたんだままの特殊警棒を、ひと振りで展開してみせるのだった。

 シュレと言う、柔らかくて美味しそうな餌に釣られたNWイグアナは、あらかじめピックアップした公園や路地を経て、ライブハウス柏木の駐輪場へ乱入していた。
「食らうのじゃ!」
 羅刹王修羅(fa0625)が日本刀を振り下ろす。だがそれは、NWの甲殻に、半分ほど受け止められてしまう。何とか傷は負わせたものの、軽傷程度だ。逆に、角の突進を食らって、ダメージを負ってしまう彼女。
「硬いのぅ‥‥。体が小さい分、鎧に覆われてる割には、素早いし‥‥」
 二本ほど余計に生えた腕で、伏姫も攻撃を受けていた。こちらも、NWの角を警棒越しに受け止める羽目になっている。オマケに、体を覆う分厚い甲殻のせいで、ナイフではかすり傷しか与えられていない。
「僕は、戦うのがそれほど得意って訳じゃないから、皆の援護をする方がいいよね」
「あの固さでは、おぬしのナイフは役に立つまい。下がってるでござるよ」
 申し訳程度にクリスナイフを手にしているシュレだったが、戦う事が得意ではない彼、伏姫に押しのけられている。
「いちごん参上! とりゃぁぁぁっ!」
 そこへ、俊敏脚足で踊りこんだ苺ちゃんが、手にしたダークで、切りつける。半獣化した彼女は、上手い事NWに武器を当てていた。
「路上格闘には慣れてるぜ! 食らいやがれ!」
 カッと四方から、ステージ用の強烈なスポットライトが当てられる。一瞬、視界を奪われたイグアナに、森里がネットを投げつけ、その上から、メリケンサックで頭部を殴打する。
「あたた‥‥、半獣化程度じゃ、カスも与えられないって事か‥‥」
 が、彼もその甲殻をぶち抜けなかった。どうやら、本来持っている鱗が、実体化により、さらに強化さているようだ。
「この分じゃ、翼は使えないし‥‥。殴るしかなさそうだな」
 天井を見上げてそう言うツムジ。いくつもの照明機材がぶら下がったそこで、時速30kmのスピードを出せば、マスターにどやされるでは済まないだろう。
「あの甲殻だと、鼓膜も覆われてそうですね」
 本来のイグアナに、外耳はない。が、今回の場合、外殻にカバーされているらしい。そのせいで、物理攻撃も効きづらくなっているようだった。
「牙より、あの角がやっかいだな‥‥。完全獣化するしかなさそうだ」
 ジーンが仕込み傘に手をかけながらそう言う。イグアナと言う事で、噛み付きと尻尾の一撃を気にしていたが、今回は大丈夫そうだ。その代わり、NWの頭部には、実体化により、大きな角が生えている。修羅も伏姫も、苺を庇ったツムジも、その角で手傷を負わされているのだ。
「俺が囮になるッス!」
 それでも、森里は本職とばかりに、ナックルを叩き込む。べこべこと叩かれたNWは、うっとおしいとばかりに、彼を弾き飛ばしていた。その間に、ジーンは狼の姿へと完全獣化する。
「頭にアレがあるとすると、コアは心臓だ! そこを狙え!」
 雪色に見間違う白銀の狼となった彼は、そう言うと、コアと思しき場所へと狙い定める。獣の膂力で振り下ろされたそれは、その部分を的確に捉えていた。不利を悟ったNWイグアナは、くるりと踵を返し、ライブハウスの外へと逃走を図る。
「そうはさせないでござる!」
 動きが鈍ってきたイグアナに、一旦大きく距離を取り、伏姫は、弓を引き絞るように体を捻ると、NWへ向けて全速力で突進する。
「とりゃあああ!」
 そして、間合いに入った所で、より威力の高い警棒で、思いっきり突きを入れていた。渾身の力を込めた一撃を食らわされたコアは、今まで累積されたダメージもあって、粉々に砕け散ったのである。