【LH柏木】D・V・Dアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
姫野里美
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
11/06〜11/10
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●本文
話は、とあるビデオ店から始まる。
名前は、『ライブハウス柏木』。
表玄関は、どこにでも良くあるビデオ店だが、店長が文字通りライブハウスのオーナーを兼ねており、店の横にある路地を入ると、ちょうど裏手に小さなライブハウスがある。
店長は、そこで、駆け出しの芸能人が出した、インディーズのプロモーションビデオを預かり、来た客に無償で貸し出していた。ゆえに、普段から、音楽好き連中の溜まり場になっている。
「あれ? ここにあったDVDは?」
その為か、時々モノがなくなる事があった。ある日、バックヤードのテーブルに置いてあったDVDが、姿を消していたのである。
「いや、中ちゃんが友達に貸すとか言って、持ってったけど」
店は、従業員もまた、音楽好きが少なくない。気に入ったプロモビデオを、借りて帰る事も、よくある話だ。故に、他の従業員は、何の気負いもなく、店長に報告している。
「又貸しかよ。まぁ、良いけどよ。俺も貰った奴だし」
困ったようにそう呟く店長。明日来たら、聞いておかなくちゃなーと呟く。しかし、事件は、そんな『なんでもない日常』から始まったのである。
そう。その日を境に、DVDを借りて行った青年が、店に出てこなくなってしまったのだ。
「今日も休みか‥‥」
「どうしたんだろうな。いったい」
並んだタイムカードの空白に、困惑しきりの従業員達。以前は、社交的でしっかりした青年で、無断欠勤なんぞ、考えられない性格だったのだが、ここの所、すっかりなりを潜めている。
「無断で辞めてく様な奴じゃないと思ってたんだが‥‥、お前なんか聞いてる?」
「いや、何も聞いてないっすよ」
店長、いつもシフトを同じにしてきた店員に、問いただして見たものの、その御仁も首を横に振るばかりだ。
「仕方がない。探しに行ってきてもらうか‥‥」
何か、重大な事件に巻き込まれたか、重病で唸っている事を危惧した店長は、とりあえず、行ってもらえそうな知り合いに、連絡を取るのだった。
●リプレイ本文
マスターの顔は広い。
その広い顔の1つに引っかかった高邑静流(fa0051)は、借りていたビデオの返却をかねて、店頭のマスターを尋ねていた。と、入り口のドアベルが鳴り、革ジャンにギターを携えた氷咲 華唯(fa0142)が、顔を出す。
「よう、マスター。こないだ貸してたDVDの感想を聞きに来たんだが‥‥」
どうやら、問題の御仁に貸したDVDの元の持ち主らしい。
「さようなら中‥‥。エエ奴やったのに‥‥。お前の事は、多分忘れへんで‥‥。つーか。ベタなホラーの死にフラグ立て過ぎや。狙ってんのか、アイツ」
しかし、店の中では時雨・奏(fa1423)が、遠い目をしていたりと、かなり取り込み中だ。
「ちーす。俺のこないだのライブ、焼けてるー?」
そこへ、LH柏木をプロモ活動に利用中の1人、赤川・雷音(fa0701)が、以前撮ったライブ映像を受け取りに来た。
「おや、お客さんですか。初めまして。ライとはsagenite−サージェナイト‥‥通称SN(サナ)としてユニットを組んでいるCarnoと申します」
相方のCarno(fa0681) は、マスターの前にいたケイに、そう言って挨拶する。と、服までお揃いの仲良しっぷりをアピールされて、指を咥えている半ズボン少年、小鳥遊 日明(fa1726)。
「仲良さそうだなぁ。なぁ、俺今、フリーなんだけど、俺も2人のプロダクションに入れて貰えない?」
「構わないと思いますけど‥‥。どうかな。皆にも聞いてみないと」
プロダクション・オーナーのカルがそう言うと、短く頷くライ。と、カウンターの横からトーマス・バックス(fa1827)が、たどたどしい日本語で、首を突っ込んでくる。
「あ、ドーモ、トーマスと言いマス。ヨロシクですネ」
「何、面白そうな話? あたしも仲間に入れて欲しいんだけど」
同じ様に話に入ってくるMICHAEL(fa2073)。次々と顔を出してくる常連達に、ライが閉口したように言った。
「こんだけいれば、充分に用が足りそうだな‥‥って、カル、何をやってる」
「だって、うっとおしかったし〜」
気がつくと、ほったらかされたカルが、彼の長く綺麗な金髪を、編み編みしていたり。ぶつくさ言いながら、髪を帽子の中へと押し込むライ。やっぱり仲の良さそうな2人の姿に、日明少年が心底うらやましそうに「いいなー」と呟くのだった。
「で。中さんだっけ、行方不明になったのって。まずは、彼が借りて行ったDVDがどんなものだったのか、確認させてもらっていいかな?」
静流がそう尋ねると、ケイは『ヤバイものなんか渡すか』と言った風情で、こう答えた。
「どんなのもへったくれも、この間ここでライブやった時の映像だよ。それを、中さんに預けて、焼いてもらったんだ」
「その中さんの、容姿と住所わかります? どんな雰囲気を持つ方かも知りたいんですが‥‥」
カルの申し出にに、マスターはファイルから、履歴書をコピーしてくれた。と、静流がこう言い出す。
「そうだ。交友関係どうなってるかわかる? 心当たりがある人がいればいいんだけど‥‥」
マスターが他の従業員に尋ねると、何人かが人間関係を教えてくれる。それによると、ごくごく標準的なお友達はいたようだ。
「まずはそっちに向かった方が良いかもしれないね」
何人かの住所を聞き出したミカは、誰かと一緒にそっちへ行こうと提案する。
「いや、それほど交友関係は広いほうじゃなかったはずや。たぶん、これだけありゃ充分やろ」
奏がそう言って、メールアドレスと住所を、カタカタとプリントアウトしてくれた。
「じゃあ、皆で行った方が良いかな」
「いや、ここで家に直行すると、第二の被害者決定や。ケイ、お前さんのDVDは、他に流しとんのかい?」
そう言うミカに、奏は首を横に振った。その彼に尋ねられて、ケイはこう答える。
「ああ。俺はそっちを当たってみる」
もしかしたら、他に被害が出ているのかもしれない。ミカが『未成年1人じゃ大変だから、あたしもついていくね』と、助力を申し出てくれた。
「じゃあ、ボクはここで待機してる。もし、彼がここに戻ってきて、全部取り越し苦労だったよって事になったらみんなに連絡しなくちゃいけないだろ?」
もう1人の未成年は、何かあった時の為に、留守番をする事にしたようだ。熱心に訴える彼に、マスターは許可を出してくれるのだった。
と言う事で、色々と調査をする事になった。
「さて。家のほうは、最終日の夕方に、皆で行くって言ってたしな。俺は中って奴が行きそうな場所を探してみるか‥‥」
そう告げるケイ。もっとも、夜はうろうろしていると補導される危険性がある為、昼間に訪ねるしかないのだが。
「げ、就業時間夜になってる」
とあるクラブの前で、がっくりと肩を落とすケイ。そう言ったいわゆる大人の遊び場と言うのは、未成年の彼にとっては、立ち入りの出来ないエリアなようだった。
「後で、あたしがもう一度来てみるよ。あ、電話だ」
一緒に行動していたミカが、そう言ってくれる。と、そこへ携帯の着メロが鳴った。見ると、静流である。
「他に借りてたDVDもあったようだけど、主にネットで落としてきたとか、そのレベルみたいだねぇ」
その彼が調べてきた所によると、他のレンタルビデオ店には、あまり出入りした形跡はないが、DVDの購入率が高い為、あちこちからダウンロードしてきたようだ。
「もしかして、俺のDVDもそのルートで感染‥‥」
一応、事務所を通して、自分のプロモビデオを公開しているケイ。不安そうにそう言う。
「かもしれないね。今、カナがそのスジで調べてくれてる。そう言えば、DVD流した先で、事故とか起きてないか、聞いてくるように言われたんだけど」
「うーん、望みは薄いかな」
静流が、電話で受けた指示を告げると、ミカは肩をすくめて首を振る。彼女が聞いてきた限り、拡大している様子はなかった。
「ふむ‥‥。なら、奴の住んでる周辺に切り替えようかな。何か新しい情報がつかめるかもしれないし」
だいたい方向性が特定できた静流、今度はそのダウンロードしてきたブツに、興味を示した者へと絞り込もうと言う魂胆だろう。
「店から繋げば、バッテリー代諸々がタダや。わし、賢い〜♪」
その頃、連絡を入れた奏は、店の電源と回線を使って、似たような事件が起きていないか、調べていた。
「真面目な話、奴のサボりで迷惑受けた身としては、ヤキいれとかんと」
そう言って、ネットニュースを片っ端からめくる奏。そこへ、ミカとケイが、店へと戻ってくる。
「こうして見ると、考えられるのは、DVDがヤバいもので、事件に巻き込まれた‥‥のかな」
「俺のDVDは、そんなヤバいモノじゃないぞ」
一緒にネットニュースを眺めつつ、そう言うミカに、頬を膨らませて抗議するケイ。
「だったら、DVD機器の中に、NWが潜んでいて、感染してしまったって所だね」
「確か、中の奴は家のパソコンで再生してるって聞いたしな。ネット媒体で、パソごと感染してたっちゅーんは、ありうる話や」
ナイトウォーカーは、およそ情報媒体であれば、何にでも取り付く。今回も、偶然が重なって、感染してしまった可能性が高かった。
「まぁ、単純に病気で動けないって事も考えられるけど。それはそうと、静流はまだ? 用があるって、先に出てったけど」
「さっき電話もろて、ご近所に聞き込みしてくるゆーてたな」
ミカの問いに、メールを眺めつつそう答える奏。と、それを聞いたマスターが表情を曇らせた。どうやら、彼の迷子常習犯ップリを心配しているらしい。
「ここ、どの辺りになるんだろう」
そして、その頃の静流は、地図をくるくると回しながら、現在地点の特定に苦労していたり。
「あー、ヘルプメールが来とる。お、DVDプレイヤーが中古品らしいで。ほな、ご褒美あげとこか」
それでも、なんとか中が買ったジャンクパーツ屋を見つけてきた静流に、優しいかなっちは、その周辺の地図を、転送してくれるのだった。
数日後。
「話を聞いた限りデハ、DVDの中古を手に入れて、借りた日から出てコナクナッタみたいだカラ、DVDより、その機械の方に、ナイトウォーカーが潜ンデタのカモ‥‥気ヲ引き締めないトネ」
そう言うトーマス。既に、全員携帯電話の番号は交換してある。と、程なくして、道の向こうに、少しくたびれた感じのアパートが見えてきた。
「ポストにも新聞の類はないな‥‥。居るには居るようだが‥‥」
ライの指摘どおり、郵便受けは綺麗だし、電気のメーターはぐるぐると勢い良く回っている。
「でも、カーテンは閉めっぱなしですね。あ、そこの方、ちょっと良いですか?」
周囲を見回した相方のカルは、ちょうど出て来た近所のおばさんに、友人として尋ねてきた旨を伝え、近頃の様子を聞いて見る。が、近所づきあいの希薄な現代人の事、挨拶はするが、それ以上の事はわからないらしい。管理人に尋ねようにも、塀の所に『御用の方はこちらまで』と書かれたプレートがあるきりで、管理人がいる風情はなかった。と、そんな2人に、ミカがこう言った。
「ねぇ‥‥これ、開いてるよ?」
眉をひそめる彼ら。見れば、表玄関の扉が、ほんの少し開いている。そこへ、やっぱり道に迷っていたらしく、静流が到着。
「あれ? 何か物々しいねぇ」
雰囲気が違う事に気付いたのだろう。夕暮れで、あまり人がいない状態だと知った彼は、注意深く半獣化する。背中に、青い翼が生えた。
「NWの可能性が高くなってきましたから。まぁ、あまり大事な状態でない事を祈りたいものですが」
「何も無いといいんだがな」
包囲網を縮めるべく、裏へと回りこむSN。そんな中、奏が軽く息を吸い込み、大声を張り上げる。
「こらー! サボり魔ー! でてこおへんと、無断欠勤の迷惑料で、貴様のお気に入りの新品の通勤用原付を強制徴収するぞー。つか、二十歳超えたら大型二輪くらいのらんかいー! だから女がおらんのじゃー」
ものすごい言われようである。挑発めいたそのセリフに、入り口の扉がゆっくりと開く。と、写真よりもかなりやせこけた青年が、姿を見せた。顔色の青い彼に、奏がこう怒鳴りつける。
「ぶっ倒れとるんやったら、連絡くらいさせへんかい。だいたい、無断欠勤ってどういうわけや? 事情を聞かせてもらおうやないか」
話で聞いていたより、声に覇気がない。普段はもっと明るい青年だった筈なのだが。その様子を注意深く見守っていたケイが、ぼそりとこう言った。
「気を付けろ。いつもの中と違うぞ‥‥」
何がどう違うと言うのはわからないが、なんとなく違和感がある。そう囁かれて頷いた奏は、後ろ手にメールを発信しながら、こう言った。
「まぁ、立ち話もなんやし、茶店でも行って、ゆっくり話を聞こうやないか」
奏がそう誘うと、大人しく付いて来る彼。向かうは、あまり迷惑の掛からない建物。こんな時の為に、周辺地理は調査済みだった。
さて、その頃。
「マスター、俺のビデオもそのうち置かせて貰うからね」
店にあるCDを視聴したり、好きな番組のビデオを眺めて、いつか自分も! と夢見る日明。と、折り良く、そこへカルとライから、メールが入る。
「あ、呼び出しだ。ちょっと行って来るね」
『NW出現』と書かれたそれを見て、日明は表に止めてあったマウンテンバイクを使い、指定された場所へ向かう。
「ここなら、店も近いし、話やすいやろ。中‥‥いや、中の皮ァ被ったNWさんよ」
ちょうど、奏が呼び出した中に、ずばりと正体を言い当てた所だ。今まで様子がおかしかったのは、NW感染の影響だったのだろう。とたんに、人の言葉を話さなくなった彼。その身体が、異形へと変形する。
「やっぱりそう言う事やったんやな。せやけど、そう簡単に殺れるとは思わへんほうがええで!」
彼が指をならすと、竹林のあちこちに現れる、他の面々。彼らは、NWを取り逃がさないようにと、取り囲む。
「‥‥良いのデスか? カナっちさん」
「しゃあないやろ。もう死んどるよーなもんやし」
トーマスのセリフに、表情を消したまま、そう言う奏。
「そうデスか‥‥わかりマシタ」
辺りに人が居ない事を確認し、トーマスはその力を発揮する為、獣化した時と同色の、白い耳と尻尾を生やす。
「変身はあんまり好きじゃないんだけどね! うわっ」
すでに背中に翼を生やし、ジャンパーを脱ぎ捨てた日明が、虚闇撃弾を放つものの、逆に攻撃を食らいそうになってしまう。と、拳にバンテージを巻いて固めたトーマスが、彼の前に立ちはだかった。
「下がっててクダサイ。荒事はワターシの仕事デスから」
そう言うやいなや、お得意のフットワークを活かし、NWに、強烈なパンチをお見舞いするトム。つかず離れずと言った拳のラッシュに、NWの意識がそちらへと集中する。
「今だよ! 日明くん!」
油断したNWのコアに、瞬速縮地で移動したミカが爪を叩きこむ。同じ様に、コアへと虚闇撃弾を打ち込む日明。
「本気でサヨナラ、か。中」
断末魔の悲鳴を上げて絶命するNWに、奏は悲しそうにそう呟くのだった。