原付ツーリングアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 姫野里美
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/10〜07/14

●本文

●おでかけしようよ
 7月に入り、そろそろ学生達は、期末テストに呻く頃。だが、それが終われば、楽しい夏休みが待っている。そんな中、千葉県の地方ローカル局が、夏休み向けの旅行番組を作成する事になった。
「てか、なんだこの条件は」
「仕方ないじゃないスか。スポンサーの意向なんですから」
 頭を抱えるスタッフAB。今回、番組資金を出しているのが、某バイクショップと言う事で、その内容には、バイク寄りな制限がついていたのだ。
 手元の要望書には、こうある。日帰り原付ツーリング‥‥と。
「原チャか‥‥。まぁ、確かにあの辺には、原チャリ小僧が多いんだが‥‥」
 何でも、排気量49cc以下のバイクを使い、日帰りで遊びに行ける場所を紹介してくれとの事だ。まぁ、夏休みを利用して、免許を取りに行く学生も多いから、ソレにあわせて番組を制作し、スポンサーショップで買ってもらおうと言うのが、魂胆の模様。
「とりあえず、安全運転で行ける距離なら、警察の人も文句言わないでしょう」
「うむ。まぁ時速25kmで、国道走らず裏道行って、片道1時間程度の道程で、どっか観光地を‥‥ってトコだなー」
 そう言う初心者向けバイクツーリングなので、原付法定速度の30kmさえ、危険なスピードになる可能性はある。それに、ここらへんの大きな国道は、人が原付でも、邪魔扱いをして、いきなりバックミラーを当てるとか言う凶行に出る恐れがあるので、うっかり走れない。普通、ドライブと言うと、2時間に1回休憩だが、初心者は集中力が続かない可能性もあるので、半分の時間にしておけと言う事らしい。
「スタート地点はどこなんだ?」
「松戸です」
 一瞬、言葉を失うスタッフさん。まぁ、特急も止まる主要駅の一つではあるのだが。
「なんでそんなマイナーな場所を‥‥」
「スポンサーの意向ですってば。どうも、あの辺は原付だけでなく、バイク人口が多いから、って事でしょうね」
 そのせいか、上野にはバイク街がある。しかし、あのあたりは交通量も多く、初心者には危険な可能性もあるので、あえて県内でももっとも東京に近いエリアをチョイスしたのだろう。
「わかった。とりあえず、募集をかけておこう‥‥」
 納得したスタッフは、そう言って、キーボードを打ち始める。
『松戸駅出発、原付で巡航速度25km、片道1時間程度の範囲で観光できるツーリング番組を作ります。ネタ持ち込み、レポーター、実際に走る人、スタッフとか出演者、是非お願いします』
 そして後日、そんな募集が、芸能関係者に流されたと言う‥‥。

●今回の参加者

 fa0160 アジ・テネブラ(17歳・♀・竜)
 fa0769 凜音(22歳・♀・一角獣)
 fa1236 不破響夜(18歳・♀・狼)
 fa1747 ライカ・タイレル(22歳・♀・竜)
 fa3092 阿野次 のもじ(15歳・♀・猫)
 fa3158 鶴舞千早(20歳・♀・蝙蝠)
 fa3175 下心充(22歳・♂・一角獣)
 fa3502 水無月鈴(16歳・♀・小鳥)

●リプレイ本文

『ふいに空いた手帳の予定、家でのんびりも良いけれど、ふらりとバイクに乗って気ままな旅に出てみませんか?』
 松戸駅が映し出され、画面端に、語り:水無月鈴(fa3502)と表示される。その後、カメラは大きくひいて、松戸駅を映し出していた。
「ぐっもーにん〜ヒメミツ☆ お天気! 快晴! ツーリング日和。野に咲く可憐な華、風に吹かれてのいっちゃんです。今日は雲一つない青空! うん素敵」
 紫の薄手Tシャツに、大き目のオーバーオール、んでもって白のハーフサイズのヘルメットに、ゴーグルを携えた阿野次 のもじ(fa3092)が、カメラの方を向きながら、御空を指差している。ちなみに、この時期、お日様は欠片も出ていなかったりするのだが、あえて気にするな。
「うんうん。天気が良い日に出かけるって気持ちいいのよねー」
 その証拠に、凜音(fa0769)も横で頷いている。画面隅に『晴れ?』とツッコミが入っていた。
「そんなわけで、私達はここ、松戸に来ておりまーす!」
 そんないっちゃんが紹介したのは、8月末で閉館の某博物館。妙にテンションの高い彼女。高すぎて波浪警報が鳴っている。
「では、意気込みを聞いてみましょう」
 いつの間に着替えたのか、GマントにGハンマー装着、高台にのり、凛々しくも雄雄しい『気合凛々』ののぼり旗付きで、銅像のように仁王立ちになっているいっちゃんに、リオがそう言って、マイクを向ける。
「松戸だけに、待つ!」
 一瞬、真冬並のブリザードが吹き荒れる。
「‥‥‥‥はい、ありがとうございました」
 10秒後、思わずあさっての方向を向いて、そう答える彼女。
「えぇと、今回は二手に分かれるんでしたよね」
 軽く自己紹介を終えた彼女に、リオがそう尋ねる。と、鶴舞千早(fa3158)はスタッフからフリップボードを受け取り、カメラの前に表示してみせる。
「はい。あたいは手賀沼フィッシングセンターの方です」
 それには、今回の出演者が記されていた。千早といっちゃんの他、アジ・テネブラ(fa0160)、不破響夜(fa1236)、ライカ・タイレル(fa1747)、んでもって下心充(fa3175)がいる。
「私達は、葛西臨海公園ですねー」
「あそこなら、デートコースにもなりますから」
 葛西臨海公園に向かうアジとライカが、そう言って、地図を確かめる。東京23区対応の、ロードマップだ。その中でも、環7を避け、国道6号を選択する二人。
「大きい道ですけど、隅の方を交通の邪魔にならないように運転すれば大丈夫でしょう。まぁ、大きなトラックとかが怖いかもしれませんが‥‥気を付ければ良いんじゃないかな」
 最初の説明では、国道通行するなと言われていたのだが、さっくり無視する千早‥‥いや、出演者達。
「よぉし、それじゃ、出発!」
 そう言うと、早速持ち込んだトパーズ色のチョビッツに跨るいっちゃん。バイクにも気合旗を装着済みである。その画面には、『よいこは真似しないでね☆』とテロップが流されているのだった。

 だが、そう判断した水戸街道組だが、思いがけず恐怖の体験をする事になった。
「ねぇ‥‥。なんだか、おっそろしい速度でぶっ飛ばしているように見えるんだけど‥‥」
 葛西臨海公園ルートを選んだライカ、顔を引きつらせて水戸街道を眺めている。何しろ、片側3車線の上、危険物を満載したトラックが、高速道路並のスピードで、排気ガスを撒き散らしながら、ぶっ飛ばしているのだから。
「しかも交通量多いですし‥‥」
 それだけではない。アジが指摘した通り、通常の乗用車に各種バイクと、モーターショー並の車が、走行しているのだ。
「だから国道禁止って言ったんだねっ」
「だ、大丈夫っ。途中でちょっとづつ休憩していけばっ。御弁当も水筒も持ったしっ!」
 顔をひきつらせていっちゃんが、無駄に元気良くコメントすると、ライカはカメラに自分の荷物を見せびらかしながら、力強く宣言する。
「この時期、暑いですからね。水分補給はしっかりしておきましょう。これなんか、便利ですし」
 アジが、ドリンクホルダーに入れられたペットボトルを紹介する。そこへ鈴が、持ち込んだ品々を紹介するVを入れた。その後、ライカは何事もなかったかのように、荷物を放り込んでいる。
「耐熱性のものは、シートの下、もしくは荷物入れへ。そうでないものは、対策をして、バックパックに入れてしまいましょう」
 ちなみに、彼女の持ち込んだサンドイッチは、念の為保冷剤を投入して、背中へ収めていた。
「それじゃあ、皆さん私について来てね」
 運転慣れしているらしいライカ、のんびりとそう言ってスクーターを出発させる。服装は、パンプス。紺キュロットスカート。銀糸の刺繍入り長袖白ブラウス。風防無しのメットに、ライダーズゴーグル。黒皮手袋と言う、どこか高原のお嬢様めいた格好だった。
 しかーし。そんな明らかにお嬢様なお姉ちゃんが、走るとどうなるか。
「煽られる、行列できてる!」
 画面には出てこないが、のんびり走っていた所、後ろからぴったりと追走する車が続出。おまけに、時々工事中で、道が平坦じゃなかったり、巡航速度25kmでも、かなり怖い。その上、信号をなかった事にしようとするじいちゃんが出没し、小学生は集団でぶつかりそうな距離だ。
「こ、怖かった‥‥」
 ようやく、国道を抜けた頃には、さすがに3人とも、精根尽き果てていた。ライカに追走していたいっちゃん、すっかり怯えきっている。
「ここからは、車の量も多くないし、景色も良いから、もう大丈夫ですよ」
「一方通行多いけどねー」
 アジとライカが交互にそう言った。川沿いは、歩行者の多い住宅街と言う事もあって、通りづらい所もある。それでも、川を吹き抜ける風は、冷却効果を伴って、緊張で火照った体を、心地よい温度まで下げてくれる。
『おや? 少し疲れたのか休憩でしょうか』
 少し走ったシーンを流していた彼女達に、鈴がそうナレーションを入れた。見れば、その風に吹かれて、カメラの中で、一息ついているアジ。
「しかし‥‥。ホント、長閑なところですねー」
 遠くに、江戸川を流れる船が見える。まるで、時代劇そのままの光景に、アジはこう注釈を入れた。
「あれが有名な矢切の渡しですね。もう少し先に、新葛飾橋があるんですが、それを渡っていくと、葛飾柴又の帝釈天があるんですよね‥‥」
 その台詞に、再びVが入る。3人が走行したルートと共に、リオが紹介しているのは、柴又帝釈天の住所と入場料、そして、周囲に広がる商店街だ。最近では、銅像や観光ガイドもいるそうである。
「うーん、ちょっと寄り道して行ってみたい感じもしますね」
「そうね。柴又街道の方が、水戸街道よりは良いんじゃないかな。ちょっと遠回りになりそうだけど」
 再びメットを被るアジに、ライカがそう言った。と、鈴がすかさずナレーションを入れる。
『寄り道も旅の楽しみ。3人は、柴又を回る事にしたようです』
 そして、再びルートマップが映し出された。この間に、帝釈天付近へとバイクを留めた3人は、ある有名なお団子屋さんでもって、それぞれ買い食いに走っている。
『美味しそうですね〜。では、この間に、手賀沼チームも覗いて見ましょう』
 そんな彼女達の姿を映しつつ、ナレーションの鈴は、もう一方のチームへと、カメラを向けるのだった。

 さて、その頃、手賀沼フィッシングセンターへと進んだ充、響夜、千早は。
「この前はじめてスクーターを買ったから、楽しみだわ〜☆ まだ慣らしが終わってないから、ゆっくり走らなくっちゃ〜」
 オイルを補充し終わったバイクを引き回しながら、そう言う千早。ヘルメットからバイク、それに着ている服装まで真紅で揃えている彼女を見て、響夜も、薄手カーディガンを羽織る。
「ちゃんと長袖に長ズボン着用にしないとな。転んだら大変だし」
 そう言う彼女のヘルメットは、ごついフルフェイスである。
「何か暑そう‥‥」
「えー、日焼け怖いし。それに、あれよりは良いと思う」
 千早にそう言われ、露出する肌に、日焼け止めを塗っていた響夜が指し示したのは、1人だけ少し離れた場所で、念入りに身支度をしている充である。彼は、彼女達が自分を向いた事に気付くと、通称カメラ目線で、にっこりと笑い、こう言った。
「私がミリ単位でも怪我をしたら、世界の半分が嘆き悲しみますから」
「さ、さて! 今回のポイントですが‥‥」
 その台詞を、最後まで聞かず、レポーターのリオは、さっさと話を切ろうとしたのだが。
「安全の為には、フルフェイスの方が良いのですが、それでは私のビューティフルな顔が隠れてしまいます。ですが、皆さんには、ぜひとも安全な格好でお願いしますね」
 響夜とは逆に、スクーターもライダースーツも、白一色で統一している充。ただし、ハーフカットのヘルメットにだけは、白地に赤いバラが咲いていた。
「と、とりあえず。道を確かめながら行かないとね!」
 充の言う『半分の1人』に、強制的にさせられてしまった千早、そう言ってヘルメットを被る。走りだしたそれを映し、鈴が再びナレーション。
『さて、ここでバイクの紹介です。今回は、チョビッツと、ZEO50を用意しました』
 彼女が紹介した画面には、使用したバイクが映し出されている。簡単な性能紹介の後、彼らもまた、目的地へと向かったのだが。
「なぁ。スピード早くない‥‥か?」
「ってか、抜かしてくトラック、絶対80km越えてる! 越えてるって!」
 大きな国道途中で、ルート確認を兼ねて、休憩に寄ったコンビニ。その窓辺からは、高速道路並の速度で通行中の危険物マーク付きの車が行き過ぎていった。地図を片手に恐怖におののく千早と響夜。だが、それを見た充は、『これさえ覚えればOK! 原付ルールブック』とか銘打たれた本をぱたりと閉じながら、こう宣言する。
「周りが早いからと言って、制限速度を越えては行けません。ここは、安全運転でいかないと」
 そして彼は、制限速度は時速25km以下、ありとあらゆるルールを遵守しろと告げる。そこに、周囲の状況が入る余地はない。
「うわー。下心さんが、珍しくまともな事言ってる」
「ふふ。決して『下心様は真面目で素敵な方』などという評価を狙っているわけではありませんよ」
 千早の台詞に、ちちちと指先を降りながら、そう答えるが、オチはしっかり、世界の半分を目当てに、強烈にアピールしている。
「「やっぱり」」
 周囲に透過光が飛び散っているような充の姿に、千早と響夜は、声をそろえてそう呟くのだった。

 そんなわけで、幾つかの危険なルートを経て、一行はようやく最終目的地へとたどり着いていた。
「よ、ようやく着いたね‥‥」
 メットを外し、バイクから降りたアジが、ほっとしたようにそう告げると、待ち受けていたリポーターのリオが、「知らない人の為に説明しますと、こんな感じです」と、公園内の施設を紹介する。2つの川に挟まれた、水族館と、人工渚を擁する、かなり広い公園だった。
「わーい☆ 海だ海だ海だ〜!」
 いっちゃんが、砂浜でビーチバレーに興じている子供を見て、早速乱入している。そんな彼女を、アジは苦笑しながら、引き戻した。
『あら、何か見つけたのでしょうか?』
 鈴がそうナレーションを入れると、アジが遠くに見えた、あるアトラクションを指差した。
「葛西臨海公園と言ったら、やっぱりアレですよね、大観覧車」
 それから彼女は、その観覧車を中心に、主要な施設を紹介して回る。
「ここは、水族館もあるので、デートにはぴったりです」
「このように、ピクニック気分も味わえるので、幅広い年齢に楽しんでもらえると思います」
 ライカがその間に取り出した『おやつ』は、柴又で買ったお団子だ。
『なるほど。週末は家族でツーリングと言うのも、乙なものですね。では、もう一つの方はどうでしょうか』
 鈴のナレーションと同時に、画面が切り替わった。フィッシングセンターにたどり着いた3人の方である。
「さーて、釣るぞ〜」
「うーん、私もやってみたいけど、釣れなさそうだ〜」
 やる気満々の千早に対し、ちょっと自信なさそうに、餌をつけている響夜。
「釣りについては初心者ですから、色々と教えてくださいね」
 一方、充はと言うと、『センターの人からアドバイスを受ける』と言う名目で、スタッフの女性に声をかけている。
「ふふ、決して『下心様は女性に優しいフェミニスト』などという、ラブコールを狙っているわけではありません」
 狙っているようです。と、隅っこにテロップが流れる中、再びリオが画面に登場し、こう解説してくれる。
「なお、つった魚は、すぐにバーベキューで食べる事も可能ですよ」
 で、その間に、3人はそれぞれ釣りの成果を得たようで、それぞれ御土産に持ち帰るシーンが、映し出されていた。
「さて、今回の経費ですがっ、こうなっております!」
 最後までテンションの高いいっちゃんが、そう言って、フリップに書いた今回の予算を示してみせる。入場料やおやつ代、ガソリン代等々を含めても、大した事のない金額になっていた。
『電車や飛行機で遠くへ行く旅も良いですけれど、ゆっくり走って何時もは見逃していた何かを見つける旅も良いですね‥‥今度のお休み、旅の主役は貴方かもしれませんよ?』
 今までの光景を振り返る映像を流しながら、鈴がそう言って、番組を締めくくるのだった。