【人形遣い】雨竜の祠ヨーロッパ

種類 ショート
担当 姫野里美
芸能 フリー
獣人 3Lv以上
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/25〜08/29

●本文

 ここ最近、次々と見付かるオーパーツ。彼が見つけた宝珠もその一つだった‥‥。
「ふむ。この角度で当てると、浮かび上がると言うわけか‥‥」
 宝珠を固定し、光を当てていたルーファスは、浮かび上がった画像を見て、そう呟いた。大きく拡大されたそれは、周囲の光景からして、アジアや中東、南北アメリカ圏ではない。そう見て取った彼は、あるDVDを再生する。
「やはりな‥‥。秘宝は、隠されるモノだが、こんな所にあったとは‥‥」
 次々とモニターを占拠する画像。その一つに、ルーファスは目を留めた。拡大すると、その一部が映し出される。刻まれた模様は、宝珠に浮かび上がるモノと同じだった。
「ここに、手がかりがあるようだな。完全体ではなさそうだが‥‥。調べて見る必要はあるか」
 そう言って彼は、仕事の予定を確かめる。そこにはとあるドキュメンタリーの仕事が入っていた。
「遺跡そのものは、地方の遺跡か‥‥。民間研究者の奮闘‥‥として演出は出来るな‥‥。だが、視聴者は謎解きと冒険を求めるもの‥‥。好奇心を満たす構成にしなければな‥‥」
 その遺跡は、一般にはただの集落の跡地として認識されていた。だが、大部分は事情があって、埋もれている。そこには、人の子の知らぬ秘密があるらしいが、問題が一つあった。
「‥‥個人所有か。これだな、問題は」
 遺跡は何も公立のものばかりではない。例えば、今回の様に、個人で所有する土地の中に、遺跡が発見される場合もある。そんな時、どうするのかと言うと。
「気難しそうな老婦人か‥‥」
 持ち主に交渉するわけである。だが、ルーファスは少し困った表情を浮かべ、その持ち主のデータを見ていた。正直、彼自身はあまり交渉が得意ではない。
「あの地は、余所者が足を踏み入れてはならぬ場所です」
 その老婦人は、頑なに首を横に振っていた。彼女曰く、その遺跡は、彼女の一族にとって『聖域』であり、立ち入ってはならぬ『禁忌』だと言うのだ。
「あの場所には、先祖が封印した魔物が眠っている。むやみに足を踏み入れれば、魔物が目覚め、再び災厄が訪れるでしょう」
 荒唐無稽な話だったが、それなりに理由もある。彼女の話では、その魔物はまだ生きていて、雨の日になると、ここから出せと言わんばかりに、うめき声を上げるんだそうだ。そして、そのうめき声は、ここ一月ばかり、大きくなっているとの事。
「何か封印されていると思って間違いないな‥‥。伝説を考えると、さしずめオーパーツと言った所か‥‥」
 そう呟くルーファス。老婦人の話では、その魔物は、倒された後、体はその地に封印され、頭ははるか東方の地に運ばれたらしい。伝説の話から、封印された魔物がNW、持っていた心臓と頭がオーパーツだと判断する彼。
「手に入れれば‥‥、研究も進むな。だが‥‥、相手が相手だ。何か考えなければな‥‥」
 いくら調査といえど、むやみに封じられた扉を開けるわけには行かない。
「仕方ないな。誰かに頼むか‥‥」
そこで彼はしばらく考えていたが、ややあって、WEAにあるメールを送るのだった。
 そして。

『ヨーロッパにある遺跡の放映権を確保し、ドキュメンタリーのロケを名目に、封じ込められたNWから、オーパーツだけを手に入れて来い』

 そう、NWは倒せるなら倒せばいい。もし出来ないのなら、再び封じてしまえば良い。欲しいのは、NWの首ではなく、奴が抱えたオーパーツなのだから。

●今回の参加者

 fa0565 森守可憐(20歳・♀・一角獣)
 fa1886 ディンゴ・ドラッヘン(40歳・♂・竜)
 fa1890 泉 彩佳(15歳・♀・竜)
 fa2446 カイン・フォルネウス(25歳・♂・蝙蝠)
 fa2830 七枷・伏姫(18歳・♀・狼)
 fa3017 葵・サンロード(20歳・♂・猫)
 fa3392 各務 神無(18歳・♀・狼)
 fa4038 大神 真夜(18歳・♀・蝙蝠)

●リプレイ本文

 彼らが屋敷の門戸を叩くと、立派な応接室へと通された。とりあえずは、客として迎え入れてくれるつもりらしい。その主人を待つ間、カイン・フォルネウス(fa2446)は女性にアプローチ。
「お嬢さん、貴女の銀の髪、まるで雪の如く美しい」
 まずは森守可憐(fa0565)。
「貴女のその微笑みはまるで妖精のようだ‥‥」
 ついで泉 彩佳(fa1890)。
「智と武を兼ね備えた貴女は宛ら銀髪の戦乙女‥‥」
 最後に、長い髪をアップにしてまとめ。真面目さを印象付ける為に、パンツルックの黒いスーツに身を包んだ各務 神無(fa3392)に、である。
「問題の宝珠はこれか‥‥。なるほど、確かに風景はここと良く似ているな」
「綺麗ですね。なんだか、引き込まれそうです」
 一方、七枷・伏姫(fa2830)は、ルーファスから渡された資料を、興味深そうに眺めている。交渉に参加したくても、文言の思いつかない葵も、写真に浮かび上がるクリスタルめいた珠を、そう評していた。
「貴方達ですか。封印の祠を破ろうと言うのは」
 そうしているうち、杖をついた白髪の老婦人が現れる。鶴のような‥‥と言った表現の似合う彼女、普段から使っていると思しきソファーに腰掛け、値踏みするような視線を投げかける夫人に、ディンゴ・ドラッヘン(fa1886)は窓の外を指し示しながら、こう訴える。
「この辺りの景観はとても素晴らしい。この地を記録に収めずにいるのは、とても惜しいのです‥‥。どうか、許可を頂けないでしょうか?」
「ここ、とっても綺麗だよね。私達、遺跡を荒そうってわけじゃないんだ。ただ、大切な遺跡を、長く後世に残しておきたいだけ」
 娘役のアヤが、父親役のディンゴをフォローするように、そう言った。窓の外から見える景色を、とても気に入ったように振舞う彼女。今回、老婦人に説明しているのは、世界の名もなく埋もれていく遺跡を後世に伝えていく番組と言う事になっている。
「遺跡にもとても惹かれるところはありますが、それよりも、この自然を取材したいと思っています」
 そんな彼女の台詞に後押しされ、今度は可憐もねだるように告げた。だが、老婦人は不機嫌そうな表情で、こう答える。
「残そうと言うのなら、触らなければ良い。風景を撮るのなら、なおの事です」
 どうやら彼女は、その遺跡に足を踏み入れられるのを、嫌がっているようだ。その頑固ぶりに業を煮やした七枷が、我慢できなくなったように、こうきり出していた。
「そうはいくまい。一ヶ月ほど前から、魔物の声は大きくなっているのだろう? よくはわからないが‥‥。もし、それが何らかの警告ならば、封印が弱くなっている可能性が高いのではないか?」
「あれは、500年は持つと言われる封印です」
 そんな事はない。と言いたげな老婦人。しかし、七枷の意見は違っていた。
「それだけあれば、魔物が力を蓄えるには充分だろう。危険な事になっている可能性は低くない。それが中で騒いでいるのなら、封印が弱まっている可能性がある。一度ちゃんと確認するべきではないのか?」
 言葉につまる老婦人。と、その彼女に、アヤはルーファスが持っていた宝珠を見せる。
「ここに、とある方が手に入れた品があるの。これ、この辺りだよね? これは、東の果てにある小島で見付かったの。たぶん、言い伝えに出てくる、魔物の頭の方です」
 アヤの説明に、何か考え込むようなため息をもらす老婦人。と、ディンゴが静かにこう提案する。
「何でしたら、遺跡を映像には決して映さず、風景のみを撮るというのでも構いません」
「封印されてるものを恐れるならば、それらを再封印して不安を取り除く為に、我々も尽力します」
 交渉が得意ではない大神 真夜(fa4038)も、同意するように申し出た。後ろで葵・サンロード(fa3017)がうんうんと頷く中、可憐が女性の手を取り、こう訴えた。
「この怪物が森に侵入する事を拒むという事は、この地は彼のモノなのでしょう‥‥。人の手が届かない自然の尊さをこの取材を通して、この地をこの自然のままに残せるよう訴えたいとも思っています。収録では遺跡はこの地には無いものとして、この自然がどれほど貴重であるかだけを収録したいと考えています」
 その説得に、しばし悩んでいた老婦人は、静かに告げる。
「‥‥私は、長の一族が末裔として、この地を守る責務があります。もし、魔物が何らかの害を為そうとするのなら、あなた方に身代わりになってもらわざるを得ません。それでも構いませんか?」
 少し、口調が大人しくなっているのは、理解を示してくれた証拠なのだろう。
「構いません。どうか‥‥お願い致します」
 頭を下げるディンゴ。可憐もそれに習う。と、女性は手を叩いて、ある品物を持ってこさせた。
「ではこれを。許しを与えた者への証です」
 テーブルベルに良く似たそれには、屋敷の玄関に掲げられていた者と同じ紋章と、小さな宝石が飾り付けられている。
「御婦人、もし一族の言い伝えや伝説が、詳しく残っているのなら、教えて欲しい。文献が残っているようなら、閲覧させて欲しいのだが」
 七枷がそう言うと、老婦人は図書館の場所を教えてくれるのだった。
 そうして、一通り伝説を調べた一行は、撮影機材を手に、例の遺跡へと向かっていた。伝説によると、魔物は昔から水辺に住んでいて、生活用水を確保しようとする住民に襲いかかっていたそうだ。研究では、洪水を表していたのだろうと書かれていたが、それにしては謎な部分も多かった。そして、およそ500年ほど前、中世末期。世の動乱を煽るように、魔物は人々に生贄を求めた。時の勇者は、神出鬼没の魔物を、酒と踊り子でおびき寄せ、眠らせてから切り殺したと言う。しかし、魔物は不死の力を持っており、再生してしまう。故に勇者は、その身をバラバラにして封印したのだと言う。
「半分は誇張だろうな。だが、記述されてから五百年‥‥。これだけ時間が立っていたら、封印しても長くは持たないと思う」
「俺もそう思う。どこかに、遺跡の封印方法が書かれていれば良いのですが‥‥」
 パソコンに取り込まれた資料の写しを見て、各務がそう言うと、カインも、周囲を見回しながらため息をつく。封印の具体的な方法に関して共通するのは、何らかの光る物体を使用している事だ。おそらく、それがオーパーツなのだろう。預かった宝珠も、そして彼らが所持する別のオーパーツも、鈍く輝くものは少なくないから。
「私達が倒すに至らないのなら、封印も已むを得ないけど、討ち滅ぼす気概で臨まないとね‥‥」
 各務がそう言った。どれだけの強さかはわからないが、時の勇者は、単独で倒したらしい。幾つかの文献に出てくる女魔導師も、実際の戦闘には関わっていなかったと言う。現代人と中世人では、体の作りも違うとは思うが、話し半分でも、複数人数でどうにかなりそうだ。
 その直後だった。
「雨‥‥? 何か音がする」
 怪訝そうに耳を澄ますアヤ。確か外は、快晴とは言わないまでも、雨が降る天気ではなかったはずだ。
「いえ‥‥見てください。あれを」
 半獣化して、明かりのない洞窟に光を翳した葵がそう言った。見れば、鍾乳石から滴り落ちる水滴が、洞窟内に反響するような音を立てている。そんな中、彼女は崩れた紋章を見つける。
「あった。この紋章。鈴に付いているのと同じだ」
 石造りのその紋章には、ベルの宝石の場所にくぼみが掘ってある。それは、貰ったベルと同じ形だった。
「なるほど。これは鍵か。ならば、遠慮なく使わせてもらおう。皆は少し下がっていろ」
 最年長のディンゴ、そう言ってベルを手にした。
「さーて、鬼が出るか蛇が出るか‥‥。何にしろ最悪なのが出るんだろうな」
 くぼみに嵌めようとする彼の後ろで、女性陣達だけをおさえ込んでいるカインも、そんな事を呟いている。
「油断するな。既に奴が目覚めている可能性もある」
 ゆっくりと開いて行く扉に、ディンゴはそう言った。と、その後ろでアヤもこう忠告する。
「感染している動物は、間違いなく水辺の生き物だと思うよ。無理そうなら、撤退。再封印でね」
 既に彼女は半獣化している。それを見た可憐も、だ。ただし彼女は半獣化どまり、カインは完全獣化の上、手には消音機付拳銃と八握剣を持ち、構えている。
「開いたぞ」
 同じ様に完全獣化したディンゴが、暗い穴を見てそう言った。
「何も居ない?」
 しかし、葵の視力でも、封印の地には誰も居ない。がらんとした空間だけだ。一瞬、気の抜ける彼らに、七枷が悲鳴じみた警告を叫んだ。
「いや‥‥天井だ!」
 その叫び声と同時に、天井から降ってくる巨体。
「レディに指一本触れさせはしない!」
 落ちてきたのは、丁度可憐の真上。手にした消音機付き拳銃で、その身を弾き飛ばす。
「結構、頑丈だな‥‥」
 結果を見て、そう呟くカイン。確実に命中したにも関わらず、それでもピンピンしている魔物。おそらく、元はトカゲか何かだったのだろう。白い姿は、暗闇に適合したゆえだろうか。
「正直、戦闘は苦手なんだが‥‥。四の五の言ってる場合じゃなさそうだ」
 ソードを取り出す葵。が、申し訳程度に構えるものの、剣が壁にぶつかってしまう。
「ここじゃ狭すぎるなぁ。表に引き寄せた方が良いかも知れない」
 自分がそれほど優秀ではないと悟った彼、邪魔にならないよう。出口の付近まで下がる事にする。追いかけてこようとする白トカゲ。
「食らえっ!」
 同じ様に完全獣化したまぁやが、白トカゲに虚闇撃弾を撃ちこむ。装甲と素早い動きで、カスほどもダメージは入っていないが、闇色の光弾は、目くらましになると信じて。
「うわわっ。効いてないのかよっ!」
 だが、白トカゲは躊躇う事無く、その爪を振り下ろした。元々、洞窟に適応している彼ら。視覚より嗅覚や聴覚に頼っているのだろう。
「コアは、どこだっ!」
 俊敏脚足を使って、その爪を回避する七枷。同時に、ある筈のコアを探す。
「手傷を与えて、スピードを落とせっ!」
 それでも、避けるのは紙一重と言ったところだ。その様子に、そう叫ぶまぁや。威力があろうがなかろうが、その手から、闇の光弾を飛ばし続けていた。
「伝説の話を、言葉そのままに取るのなら、胸部にオーパーツがあると推測するが‥‥。さて」
 スパルトイの剣でもって、その爪を弾いていた各務、そこにある筈の品を探す。だが、俊敏脚足で駆け抜けたその腹には、コアしか見当たらない。
「背中にもないよっ!」
 翼で天井近くを飛んでいたアヤがそう叫ぶ。壁を縦横無尽に走り回る白トカゲ、前足にも背中にも、それらしき影は見えなかった。
「体内に隠されているのかも知れない。倒してから考えるぞっ!」
 攻撃を仕掛けあぐねているアヤに、各務はそう叫んだ。「おっけー☆」と答える彼女。まぁやが闇の光弾を打ち込んでいる反対側へと回り込む。
「いっくよぉ!」
「心得た」
 同じ様に各務も、白トカゲの側面へと回り込んだ。そして、アヤは空中から手にしたナックルで、各務はスパルトイの剣を、コアめがけて振り下ろす。
「ちっ。やはり丈夫だな‥‥」
 それでも倒れない白トカゲ。タフな動きに、苛立った様子のまぁや。と、それまで、彼女達が攻撃する為の牽制役に回っていた七枷が前に進み出た。
「任せろ。私がなんとかする。お前は引き続き、奴を牽制しててくれ」
 まぁやは頷くと、たたっと白トカゲに近付いて行った。闇の光弾を使うより、吸触精気を試みるようだ。
「いいぞ。そのままひきつけていろっ!」
 戦っているのは、ほぼ中央。それを視認した七枷、一旦後退して敵との距離を取る。布を巻いてカモフラージュしていた日本刀を振りぬき、突きの構えをとる。
「今だ!」
 彼女はそう叫び、目を見開くと同時に、白トカゲに走りこんだ。そして、間合いに入ると同時に、俊敏脚足を使い、渾身の突きをコアに放った。
「避けた!? なら!」
 しかし、相手もコアに当てられてはたまらない。避けようと身体をそらす魔物に、七枷は足への負担を承知で踏みとどまる。
「く‥‥っ」
 その面が、苦痛で歪んだ。しかし、それでも構わず、手にした刀で、白トカゲを逆薙ぎに切りつけていた。と、その腹から、まるで内臓が見えるかのように、脈打つオーパーツが見える。
「あれが心臓ですね!」
 そのオーパーツを視認したディンゴ、それ目掛けて一気に懐に飛び込む。そして、血まみれのオーパーツを左手で掴み取り、引き抜くと同時に右の拳打を叩き込む。白トカゲがうめき声を上げた刹那、素早くその前を離れる彼。
「カイン様、これを頼みます。私は引き続き奴めの相手を」
 血まみれのそれを、カインへと手渡すディンゴ。
「了解!援護するんで、頑張って下さい、師匠!」
 一方の彼はと言うと、オーパーツを傍らに置き、手にした八握剣を投げつける。当たったかどうかは確かめて居ないが、その隙に距離を取り、拳銃を構える。
「破っ!!」
 その間に、相手の懐に踏み込み、重い踏み込みと同時に、白トカゲの腹部分に、左の拳を叩き込む。呻いたトカゲが、爪を躍らせた刹那、それを左手で引き寄せ、右の踏み込みと同時に右肘を叩き込む。たまらず、白トカゲが怯んだ瞬間、彼は左手を離し、両手をみぞおち付近に叩き込んで、突き飛ばしていた。
「これにて決着です!」
 起き上がって来た白トカゲに、手刀を振り下ろす彼。こうして、魔物の心臓は無事、依頼人ルーファスの許へと届けられるのだった。