【退魔零AT】アルバム編アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 姫野里美
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 10.2万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 10/03〜10/09

●本文

 さて、ルーファスが『退魔ZERO・AT』の予告編番組制作に勤しんでいる頃、その依頼を持ってきたヒメ・ニョンは、ライブハウス柏木へと現れていた。
「今度は何を企んでいるんだ? え、おい」
 きちんとしたスーツ姿で、表玄関であるレンタルビデオ店から入ってきたヒメ・ニョンに、開口一番そう言うマスターこと、柏木博之氏。
「やーねぇ。人を妖怪変化みたいに。今日はまっとうな仕事の依頼よ」
「本当かぁぁぁ?」
 ころころと笑って、言い放つヒメさんに、いぶかしげな表情を崩さないマスター。そんな彼に、彼女は一枚の企画書を、カウンターに置いて見せた。
「疑い深いと、オトモダチ無くすわよ☆ 今日頼みに来たのは、こ・れ♪」
「えぇい、やたら☆だの♪だのつけるな。なんだこれ」
 それでもめげずにツッコミをいれつつ、企画書をひっくり返すマスター。それには『緊急特番! 退魔ZERO・AT〜滅びの龍鈴〜』と書いてある。加えて、幾人かの若い男女と、怪しげな背景。
「あたしが、原案に関わってる特番。正式版は映画なんだけど、スピンアウト番組作る事になったから、その主題歌をお願いしようと思ってね」
「なぬ!?」
 マスターの顔色が変わる。特番=TVで流れる=ビッグチャンスと言う構図には、そそられるものがあったようだ。
「何しろ最低1時間半は確定でしょ。そうなると、既存曲じゃ足りないし、下手すると、もう少し時間が増える可能性があるのよ。出来がよければ続編とか、考えてるし。それで、アルバム一枚作って欲しいの。いわゆるサウンドトラックって奴」
「そりゃあ願ったりだが‥‥。本当にそれだけか?」
 説明してくれるヒメさんを、イマイチ信用しきれないマスター。
「やぁねぇ。本当にそれだけよ。をほほほほほ!」
「なぁんか引っかかるが、まぁいい‥‥。募集をかけてみる」
 確かにその番組量では、主題歌の他、挿入歌、各キャラクター(この場合、術師5名+妖魔+星読み+敵ボスと言った所だろう)のテーマソング‥‥と、最低10曲は必要だろう。
「ありがとー♪ んじゃ、私はお仕事戻るわねん☆」
「だから! やたら☆だの♪だのつけるなつってんだろ! あー、ちょっと待て」
 言うだけ言って、さっさと帰ろうとするヒメ。そんな彼女のえり首をひっつかみ、マスターはこう要求する。
「せめて、テーマとか概要くらい教えれ。でないと、好き勝手作っちまう」
 その要求に『あー、それは困るわね』と呟いた彼女、しばし考えて、こう告げた。
「そうねぇ、放送枠がヨーロッパ向けだから、ちょっとオリエンタルな雰囲気を取り込んで欲しいって所ね。和楽のなんたるかなんて、向こう分かんないだろうけど」
 何しろ、寿司にソースかけちゃう人達だからねぇ‥‥と、肩をすくめるヒメさん。まぁ、彼女の言いたかったのは、ヨーロッパ人の考えるオリエンタルな雰囲気のメロディと、退魔ZEROの世界観にそった歌詞を‥‥と言った所だろう。
 こうして、マスターは常連達を通じ、こう募集をかけるのだった。

『退魔ZERO・AT〜滅びの龍鈴〜の主題歌及びサウンドトラックの仕事が回ってきた! 作りたい奴は前に出ろ!』

 なんだか戦争映画っぽい煽りなのは、数日前に見たロードショーの影響に違いない。

●今回の参加者

 fa0142 氷咲 華唯(15歳・♂・猫)
 fa0371 小桧山・秋怜(17歳・♀・小鳥)
 fa0595 エルティナ(16歳・♀・蝙蝠)
 fa0607 紅雪(20歳・♀・猫)
 fa1406 麻倉 千尋(15歳・♀・狸)
 fa1518 リュティス(14歳・♀・小鳥)
 fa1533 Syana(20歳・♂・小鳥)
 fa2248 栄里森 圭汰(20歳・♂・一角獣)
 fa2899 文月 舵(26歳・♀・狸)
 fa3934 三葉・美祢(13歳・♀・猫)

●リプレイ本文

 麻倉 千尋(fa1406)が作るのは、星読みのテーマだ。タイトルは『ほしのこえ』だそうである。
「うまい事まとまんないねぇ。短調だと、和楽器の音にあうかなと思ったんだけど」
 時折鈴や太鼓の音などを入れながら、神域のイメージを重視した荘厳な雰囲気を。と思い、声にならない音を多様しようとした彼女だったが、なかなか思ったとおりの曲にならず、難儀していた。
「星読みって、あれまんまでしたっけ?」
 同じようにBGM担当だったSyana(fa1533)がそう尋ねてくる。怪訝そうに首をかしげる彼女に、マスターがこう言った。
「ヒメが一枚噛んでるとすると、そのままにはしねぇと思うが」
「そうすると、男女両方で使えるようにしないとなぁ」
 考えてみれば、キャストが変わる可能性も、世界観だけを共有しているだけの可能性も充分ある。悩み始める彼女。
「今から曲変更か?」
「それもやむなしかなと思ってる。ただ、間に合わないから、お店借りるよー」
 大幅な変更を加えるとなると、録音に時間はかかるし、人に聞いてもらわなければいいものは出来ないと考えているまくらん。事務所でやる事を考えたが、材料の揃っているライブハウスの方がいいかもしれない。
「僕はスタジオでやった方がいいでしょうかねぇ。ライブハウスには、木琴とかパイプオルガンとかないでしょうし」
 と、シャナっちが、楽譜をてんこ盛りにして、そう言った。彼の作ろうとしているのは、番組内で作る1〜2分のBGMを4曲である。その内容を示す彼のメモには、こう書かれていた。

【友だちと】教室や部活動での友人たちとの和。のんびり間延びした感じのパイプオルガン伴奏の上に、軽やかな尺八のメロディーと木琴のリズム。

【勇気も少々】日常、緊張する場面で一歩を踏み出す勇気。途切れ途切れ、静かに箏の音が流れていく+ドラム、テンポ↑。ヴァイオリンで緊張感、箏とドラムが賑やかに煽る。

【討つべきもの】戦闘の激しい部分。琵琶を加えたロック。最初、ギターと一緒に激しく掻き鳴らすように。ドラムも速いリズム。琵琶とギターが交互に強い音で演奏し、交代の感覚を短くしていき、後半、また一緒の演奏になる頃に少しスロー。

【すぐそこに】大太鼓やホルンの大きな音で何か強大なものが現れ、鼓動が高鳴るような演奏で。速いリズム音と時折派手にシンバル。

「いやー、メリハリ出すのに、いろんな楽器用意した方がいいかなぁと」
 各楽器の演奏に関しては、鍵盤楽器系はシュレ、和楽器は彼自身、ブラスバンド系は文月、ギター系はケイが担当するようだ。
「そうすると、うちじゃ手狭だな。いっそ近所のガッコの音楽室に頼んだ方がよさそうだ。琵琶だの和太鼓だの尺八だの、さすがに店にも常備してねぇよ」
 それもそうだ‥‥と、納得するシャナっち。うなずいた彼は、先にスタジオで作成を開始するのだった。

 さて、その頃。リュティス(fa1518)と小桧山・秋怜(fa0371)は、DreamGardenと言うユニット名で、挿入歌を作成していた。
「それでそれで? アルバム製作ってどんな事をやるのかな?」
 今回、シュレに誘われて、ドラムとして参加していた三葉・美祢(fa3934)は、興味津々と言った表情で、シュレに問うた。
「僕達のやるのは、舞師のテーマソングと、挿入歌を作る事だよ」
「挿入歌のタイトルは『Eternaldream』にしようと思うんだけど、それでいいかな?」
 仕事の内容を告げるシュレ。リュティスの提案に、うなずく。こうして、三人は楽譜とそれぞれの楽器を片手に、製作に取り組んだわけなのだが。
「映画の佳境でかかるようにしたいんだけど‥‥」
 そう言って、曲のイメージをマスターに伝えるシュレ。が、マスター自身はそれに難色を示す。特番の方で挿入する事は可能だが、映画の方は彼もヒメも関わっていないので、どこで流すと言う指定は出来ないそうだ。
「マスター、ドラムって借りれる?」
 みーねが尋ねると、倉庫の鍵を渡してくれるマスター。普段はそこにしまわれているらしい。
「よかった。業者に頼むと、結構高くつくしね」
 ほっと胸をなでおろすみーねに、彼は『気をつけて運べよー』と告げる。こうして、彼女がドラムを運び込んでいる間に、シュレはすでに出来上がった楽譜を、リュティスへと手渡した。
「歌詞はそのまま書き込んで良い?」
「後で、全体版を別送付してくれればOK」
 さすがにユニットを組んでいるだけあって、このあたりの呼吸はぴったりだ。マスターにコピーを頼んだそれには、こう記してある。

ボクは護る 君と君の夢を
君とかわした約束を今こそ果たそう
いつかした 永遠の君との約束

An eternal dream
without waking up please

このボクのチカラ 君の為に使うよ
勇気を永遠の夢へと変えて

Through all eternity

 こうして出来上がったのは、アップテンポな曲である。緊迫したラストシーンに使えるようにとの事だ。
「この挿入歌で見ている皆がお話に入ってくれると良いんだけど」
 スタジオでキーボードを演奏し終えたシュレは、ミキシングを眺めながら、そう呟くのだった。

 さて、その頃栄里森 圭汰(fa2248)は、紅雪(fa0607)、シャナっち、氷咲 華唯(fa0142)と共に、登場人物達の曲を作っていた。
「ヒロイン三人だっけ?」
「いやー、それがマスターの話だと、そう限らないんだって。だから、性別関係なく作る必要があるらしいよ」
 圭の問いに、首を横に振るシャナっち。えー‥‥と、不満そうな声を漏らす圭。そんな彼に、今度は紅雪がこう進言する。
「そもそも、各キャラはインストですから、そう言う男性らしさ女性らしさは、あえて出さない方がいいのかもしれませんね」
 そう言って、曲のポイントをメモ書きする紅雪。それには、『陰陽師のテーマ:胡弓・神楽鈴・中国式古筝』『獣人のテーマ:中国式古筝』『首領のテーマ:横笛』『主題歌:胡弓』と書いてある。
「ヒメの本業は耽美作家だからなぁ。映画みたいにギャルゲーっぽくしたくないってとこかもな」
 歯に衣着せぬマスター。星読み含めたヒロイン4人。これで妖魔まで女だったら、まさしくギャルゲーである。
「どっちにしろ、僕の作る分は、男性曲でよさそうですね」
 シャナっちが苦笑しながらそう言った。と、それを聞いたケイ、こう告白する。
「それなんだけど、実は主人公のオーディション、応募してみたんだ」
「それは好都合。じゃ、念法師の曲は、ケイさんをイメージして作っておきます」
 それを聞いたシャナ、彼をモデルにテーマ曲を作り上げる事にしたらしい。一方、ケイの担当は、ヒロインとなる風喚師のテーマだ。
「ワイヤーアクションあるって話だったからな。風っぽいイメージの曲にしたいんだけど、短調でいいかなぁ。あれ、面白いメロディになるから、好きなんだよな」
 曲のイメージを口ずさみながら、そう話すケイに、同じくヒロインの一人である舞師のテーマを作っていたシュレが、こう申し出る。
「こちらがゆったりとした水のイメージですから、それと対比するように、テンポを上げてもかまわないと思いますよ」
 そう? と答えたケイ、おもむろにギターを引き始めた。それは最初、ミディアムテンポで静かに始まり、やがって風が集まるように、アップテンポで軽やかだけれども激しい感じへと変わっていく。が、音程自体はあまり高くなく、中程度の短調だった。
「獣人のテーマは、和太鼓を入れて、力強い感じですから‥‥」
 紅雪に手伝ってもらいながら、コントラバスを爪弾く圭。ところどころで、和太鼓のリズムを混ぜ込んでいる。と、そう言った圭に、紅雪はこう答えた。
「そうだ。曲の間に、式神を連想させるような効果を入れたいのだけど」
「それはありじゃねぇ? しかし、壮大な曲になりそうだな‥‥」
 さすがに中国楽器に造詣が深いだけあって、そこらへんの知識はあるようだ。紅雪の申し出に、そう言うマスター。彼女のイメージしたライバル陰陽師のテーマは、落ち着いた緩やかなスローなメロディの中に、中盤から終盤にかけて切ない悲しげな部分や激しい戦闘シーンを連想させるような部分を入れた曲に仕上げてある。どこか陰のある雰囲気と言う奴を、シャナっちの尺八と、神楽鈴でもって、対比的に演奏していた。そこにエルティナのバイオリンと、圭のフルートが加わって、これまでの中で一番深い曲に仕上がっている。こうして、アルバムは徐々にその形を現しつつあるのだった。

「さて、次は混沌のメロディを‥‥っと」
 すでにスタジオには、ウッドドラムをはじめとする、伝統楽器の数々が置かれている。その大半は、文月やシャナと言った和楽器経験者が演奏するものだったが、ギターやフルート等は、それぞれケイや圭が担当するようだ。
「あれ? 楽譜が多くない?」
 エルティナ(fa0595)が怪訝そうな顔をする。当初予定していた首領のテーマソングより、約2曲分ほど楽譜が多い。
「オーディションにあわせて、二曲余分に作ったんですわ。ほら、妖魔って、首領だけじゃなくて、配下もいるでしょう?」
 文月 舵(fa2899)が、その謎を明かしてくれた。彼女は、番組に出てくる他の妖魔達の曲も、作ってきたそうだ。
「今考えてんのは、爪牙が武闘派って事ですから、和太鼓を使おうかと。おなかに響くような、低音で勢いあるように作りましょうと思ってます」
 逆に耳目は、物腰の怪しい、柔らかい感じから、徐々に盛り上げていくらしい。彼女は、皆の前で曲を披露して見せた。序盤〜中盤までは、シャナっちの琵琶と、紅雪の胡弓による、ややスローテンポのオリエンタルな曲調。その後、シュレのピアノと、エルティナのヴァイオリンでその曲をリピートしつつ、徐々にアップテンポな曲の流れに変わっていくそうである。
「で、これに勝てるように祈るのが、舞師のテーマと。マスター、ピアノ貸してねー」
 さっさと鍵盤をたたき始めるシュレ。神楽舞をイメージしたその曲は、ところどころにみーねの鼓と、リュティスのコーラスが入る。優雅で華麗な印象を持った女性が舞うように。
「俺も仲間に入れてくれ。歌えるところは歌いたい」
 ケイがそう申して出来たので、シュレは、音域を調整して、ハーモニーを生み出す事にする。
「タイトルは、退魔の舞でいいよね」
 出来上がった曲に、シュレはそう書き込むのだった。

 いよいよメイン曲の収録となった。今回、曲に使用するのはクリスタルボウルと言う、水晶を利用した楽器である。が、さすがにそんなレアな楽器となると、簡単には手に入らないので、それらしき音源を使う事になった。
「主題歌のタイトルなんだけど、ZEROでいいかなぁ」
「って、何で俺に聞くんだよ」
 圭がマスターにそう尋ねている。眉をしかめる彼に、圭はこう言った。
「いや、いい案があればと思って」
「そこはお前らが決めれ。俺はあくまでもアドバイザーだから」
 ヒメの代理として、若いミュージシャン達を育成する立場のマスター。やはり自分が何か決めるよりも、作曲した当人に決めて欲しいようだ。
「じゃあこれで良いや。後は、少し全体練習した方がいいかな」
「ええ。大抵の曲は1時間くらいで演奏できると思いますけど‥‥」
 エルティナに、バイオリンの調子を尋ねると、彼女は楽譜を見ながら、そう答えてくれる。そこへ、まくらんがこう申し出てきた。
「女声コーラスが必要だと言う所には協力するよ。こちらも曲の完成に手を貸してもらうし、皆で磨き合っていい曲が作れるなら最高だね」
「とりあえず特殊な和楽器も多いから、基礎練習してて。その間に、曲仕上げちゃうから」
 そう答える圭。そして彼は、編曲担当のシュレと打ち合わせに入る。
「曲はノスタルジックにするんだっけ?」
「うん。和を重視して、アジア楽器も出来るだけ取り入れたいんだ」
 今入っているのは、圭のフルート、音源クリスタルボウル、バイオリン、ピアノ、アコーディオンと言ったところだ。これに、シャナっちの和楽器も加えると言うのが、シュレの考え方のよう。
「そのあたりは私がカバーしますね」
 紅雪がそう申し出る。アジア楽器担当は、彼女とシャナっちだけの為、中国楽器‥‥胡弓担当が彼女、琵琶担当がシャナっちとなった。
「そう言えば、メインボーカルは私でいいの? コーラスでもいいけど」
 まくらんが圭にそう尋ねた。と、彼は練習をしているエルティナに、その質問をまわす。
「エルティナの希望はあるのか?」
「ううん。私からは特に」
 首を横に振る彼女。協議の結果、男女ツインボーカルと言う事になった。
「出来上がり。いつか、人前で歌えるといいですね」
 エルティナが、そう言って歌詞カードを手渡す。そこには、こう書かれていた。

『0』と『1』 『闇』と『光』
こんなにも近いのに とても真逆だね

先へと進みだす 一歩があるのなら 
始まりは いつだってそこにある
ほんの少しの勇気と守りたい絆 
信じあう仲間が 傍にいてくれると 分かるなら
どんな相手にも 負ける事はないだろう

闇の中にある光を 今こそ掴み取れ
無限の彼方にある その身に眠る真実
未来(あす)への希望を『力』に変えて
踏み出す勇気を『魔法』に変えて
『ZERO』から 始めよう

「どうでもいいが、スローからアップテンポになる曲ばっかになったな‥‥」
 出来上がったメロディを聞いたマスター、そう感想を述べたと言う。