【退魔零AT】滅びの龍鈴アジア・オセアニア
| 種類 | ショート |
|---|---|
| 担当 | 姫野里美 |
| 芸能 | 4Lv以上 |
| 獣人 | フリー |
| 難度 | やや難 |
| 報酬 | 27万円 |
| 参加人数 | 7人 |
| サポート | 0人 |
| 期間 | 10/20〜10/26 |
●本文
●現代版八郎物語その日、ルーファスは日本スタッフとヨーロッパスタッフを交え、こう指示をしていた。
「ベースは、日本の東北部にある伝説だ。都市部より、そちらの方がより日本らしい風景が取れるからな」
彼が主張するに、話の筋となるのは、八郎潟の八郎と言う、東北地方に伝わる伝説である。ざっと説明すると、いわなに象徴される『共有物』を一人で食べてしまった‥‥すなわち占有してしまった主人公が、その代償として龍の姿に変えられ、あちこちをさまよう羽目になると言うものだ。最終的には老夫婦を大切に扱った事で、安住の地を得ると言うストーリーである。
これを、現代版に置き換えて‥‥と言うのが、今回の退魔のシナリオだ。ここは、主人公を獣人少年として扱えば、解決するだろう。
「ロケに関してだが、１００％日本の‥‥と言うわけには行かない。それだと、日本のドラマ業界がうるさいからな。そこで、半分はヨーロッパでの撮影パートを織り交ぜたい」
ストーリーの見せ場は、宿敵である南祖の坊との一騎打ちである。この南祖の坊は、退魔ストーリーでは妖魔となる。ただ、もともとの神話では、何故主人公の妨害をするのかが明確ではない為、ここに主人公を狙う何らかの理由をつけ、彼が立ちふさがる障害を操る黒幕として描きたいとの事。そして、ルーファスはそこにヨーロッパらしさを織り交ぜたいとの事で、戦闘シーンそのものは、ヨーロッパでのロケを考えているようだ。
「この間の予告編では、普通に敵を倒してしまって、風土がどうのとか、心理描写だとか言った、ドラマらしい部分が欠けていた。これではタダのアクション映画にしかなっていない」
八郎伝説には、いくつかの分かれたストーリーが存在する。実際の神話では、八郎が安住の地にたどり着くまでを書いているが、その後日談として、田沢湖の辰子姫と言う恋人に会いに行って、宿敵とリターンマッチをすると言う展開もある。そしてさらに、その宿敵も地元では神様として奉られている為、いわゆる『ダークヒーロー』として描かなければならない。そのあたりを踏まえ、ルーファスは関係者にこう言った。
「俺は別にその作品を踏襲したいわけではなく、新しい設定での番組が作りたい。それを心してくれ」
つまり、八郎潟の八郎伝説をそのまま現代に置き換えて演じるのではなく、そこにオリジナリティを加えたいとの事だ。
「ここに、今回の仕事のリストがある。このうち、実際に日本で行うのは、ドラマパートの撮影と、問題映像の撮影となる。また、脚本のベースは向こうに任せるが、演出指導等々は、俺が現場で指導する。以上だ」
そう言って、メールを流すルーファス。こうして、ＳＰ番組は、いくつかのチームに分かれて、製作を進める事になるのだった。
●第３章〜龍鈴の行方〜
主人公である龍の獣人は、何らかの形で、『龍鈴』と呼ばれるものを所有していると言うのが設定だ。だが今回、神話のすべてを放映するわけには行かないので、前編は十和田湖に眠る龍鈴を守りつつ、妖魔である南祖の坊からの追っ手を退けて脱出‥‥と言うラストにし、後編でのさまざまな障害を、龍鈴持ちし主人公を付けねらって、妖魔南祖の坊が差し向けた刺客にしたいと、ルーファスは説明する。
「神話では障害は三つある。後日放映して欲しいと言う要望があったんでな。このあたりは紹介編っぽく、調整したい」
なお、その障害と言うのは、以下の三つ。
１：作ったダムにねずみが穴を開けて決壊し、湖がなくなってしまう。
２：小さな池を見つけて住んだところ、地元の神様に反発食らってたたき出される。
３：河を南下している間、犬の大群に追いかけられ、目撃された住民に石を投げられるなどして、心がすさむ。
この３つをそれぞれ配下の妖魔とし、１つ目はねずみの様に素早い妖魔の策略により、逃げる羽目になり、二つめは堕落した神を名乗る妖魔に策略をかけられ、三つ目は、狼の化身である妖魔により追い出されると言う設定だ。この辺りは、耳目と爪牙と言った、オーディションで募集した妖魔でもいいだろう。
この後、神話では八郎潟に流れ着き、老夫婦の愛情に触れ、そこに安住の地を得るわけだが、ここはその場所を退魔ゼロの基地である神室川学園に置き換え、彼を助ける老夫婦を、学園生徒＋星読みとしたいとの事である。
「たどり着くまでに、主人公だけと言うのも問題なのでな。主人公がさ迷っている間、何らかの出演案を織り込んでもかまわない。その辺は、スタッフの裁量だ」
そう言うルーファス。例えば、星読みの指令を受けた生徒達が東北へ向かい、彼をひそかに護衛すると言った形である。
「生徒役は共通じゃなくてもかまわないんですね？」
「ああ。生徒数の多い学校だ。星読みの命により、皆で手分けして護衛と言う形でもまったく構わん」
それに、ヨーロッパ人にとって、日本人の顔立ちの差がわかりにくいのは、日本人がドイツ人とイタリア人の区別が付きにくいのと同じである。
●リプレイ本文
後半は、成長した八郎改め八樹が、神室川学園までやってくるまでを描く。ただ、ルーファスが戻ってくるまで、三田 舞夜（fa1402）が脚本原案を担当する事になった。「順番、逆じゃないですか？ これ」
「総合的に、話がまとまればいいらしい。まぁ、物語としては、ＯＰ前に悪役が何か企むのもありだろう」
オーディションの時のまま、妖魔・爪牙役として、台本を読んでいた虎真（fa0862）の感想に、マイヤーはルーファスからの指示書を片手に、そう答えた。まず撮影するのは、妖魔達が八樹を追い詰める為、策を練るシーンだ。
「可能なら、ボスもやりたかったんですけどねぇ」
「今後も続けるらしいからなー。まずはボスの存在は隠匿しておいて、前線指揮官からご登場って所だろう」
虎真の希望に、そう答えるマイヤー。まぁ、今回の脚本は、前哨戦をメインとする為、そこまで本質をえぐりこんだ話にはしないそうだ。
「それじゃ、会議シーンいきまーす」
ソレイユ（fa4871）が声をかける。暗闇を表現する為、カメラにフィルタを取り付け、カチンコが鳴った。
「で？ 奴は今どこにいるんだっけ？」
「村を追い出された後は、すさんだ生活を送っているようだ」
虎真の問いに、普段は爽やかだが、今回はぼろをまとい、堕落した神を名乗る風見・雅人（fa0363）が、そう報告する。ここには、ＣＧで、町の悪い連中とつるんでいる八樹の姿が、空中に映し出されるはずだ。
「ふむ‥‥。今ならば、事故に巻き込まれたとしても、奴らは気付かんな‥‥」
にやりと笑ってみせるマイヤー。人狼の妖魔と言う役柄の為、既に半獣化し、その口元からは、鋭い牙が覗いている。
「奴はいまだ、龍鈴を持っているはず。それを回収してくれば、権現様もお喜びになるに違いない」
そう命じるマイヤー。と、爪牙役の虎真が、立ち上がりながらこう言う。
「なるほど。では、私は奴を狩り出せばいいわけですな」
「約束は、違えぬよう、重ねておくぞ‥‥」
カメラの向こうに姿を消す彼を負って、堕神役の風見がそう続け、闇が深くなり、フェードアウト。
さて、一方迎え撃つ学園生徒の方はと言うと、予告編の学校と同じ状況にする為に、教室の一部を借りて、ロケを行っていた。
「制服、きついところがあったら、言ってくださいね」
オーディション会場から借りてきた制服を、役者達に配るソレイユ。今回は、サポート役に徹しているようだ。
「設定、こんな感じでいいか？」
鏡を見て、制服の襟を直している氷咲 華唯（fa0142）。用意された学生証には高岡・亮太（たかおか・りょうた）と書いてある。まじめな学生と言う設定で、普段の黒猫のような衣装から、学生服に着替えていた。クラスは念法師なので、いつでも武器が取り出せるよう、カメラの向こう側に、偽物の日本刀が用意されている。
「あんまり真面目そうに見えないけどね」
そう言ったのは水葉 椎（fa4058）。役名は麻績・篤史（おみ・あつし）と言って、水操師だそうだ。自分の名前に水が入っているので、水を操る術師にしたそうである。ちょうど、髪の毛も茶色い。
「余計なお世話だ。お前こそ、調子にのってドジるなよ」
「はいはい。わかってますよ」
ニヤリと笑って、ケイがそう言うと、椎も肩をすくめるようにして返す。早速役になりきっていると言った所だろう。
「この分やと、うちが気張らへんでも、大丈夫そうねんな」
関西弁のまま、そう言ったのは、男子制服を着た十六夜 勇加理（fa3426）である。学生証には、時津風 龍雄と書いてあり、一見すると、細面で長髪の美少年だ。
「つか、そのままの口調で出る気か？」
「まさか。ボクは女顔の美少年って設定なんだし。東京弁でしゃべるよ」
ケイに指摘され、標準語に戻す彼女。女顔の美少年が、苦難に立ち向かう姿をうつして、女性ファンを獲得しようと言う魂胆のようだ。
「まぁ、同性ファンが多いんは、前からやし」
その姉御肌な性格からか、女性ファンの多い彼女、言葉にさえ気をつけていれば、真面目・お調子者・綺麗系と、三拍子揃いそうだ。
「うーん、このままの調子だと、妙な勘違いをされそうだなー」
並んでいると、ヒメの本に利用されそうである。だが、そんなケイに、共演者達はこう言ってのけた。
「まぁ、視聴者とファンが増えるのは、良い事だと思うぜ」
「こっちはそれが狙いだし」
どうやら生徒側の役者には『耽美上等！』と言う単語が浮かんでいるようである。
一方、妖魔組の役者達は、主人公八樹を、住処から追い出すパートを撮影していた。
「ねずみのぬいぐるみは、これで全部？」
「取り囲むよりは、目に付くところに置いてくれ。後、野次馬さん達も映してかまわないから」
ソレイユにそう指示をするマイヤー。そのぬいぐるみが置かれた家には、『八樹は厄害を呼ぶ』『この町から出て行け』と書かれた紙が、いたるところに貼り付けられている。噂を流してから、獣嘯術を使い、ネズミの下級妖魔を操って、八樹の住む家を襲撃すると言う設定だ。
「風見さーん、かがり火の用意はいいですかー？」
「いつでもＯＫですー！」
幻術使い役の風見が、そう言って、火を煽る。焦げ臭い匂いが立ち上る中、虎真演じる爪牙が、路地裏の袋小路で、自前の特殊能力の爪を見せびらかし、回り込むようにして、高笑いを響かせる。
「生きてても仕方ないだろ疫病神！」
そう嘲笑する彼の爪には、絵の具と糊で作った作り物の血が、べったりと張り付いていた。
「貴様のしでかした事は、ここに居る住民達が証人だよ。くくく‥‥」
爪牙の後ろには、そう言って、路地に伸びる影を指差す風見がいる。設定では、幻術と変身能力を使って、八樹に濡れ衣をかぶせ、周囲からの不信感を煽らせる予定なのだが、生憎と彼にはそう言う能力がない為、被っていたぼろ衣をはずし、町の住民に変身したと言う設定で、素顔のまま、悪役笑いをしていた。
「はい、カット！」
マイヤーがそこで声をかける。
「うーん、もう少しバトった方がいい気がするんですが‥‥」
「後半でどんぱちやるから、今は追い詰めるだけの方が、すっきりすると思うぞ」
あまり前半から飛ばしすぎると、まずいだろうと言うのが、彼の原案だった。こうして、八樹の目撃談を映したネット画面が撮影され、それを見ていた神室川の生徒‥‥すなわち亮太、篤史、龍雄の三人に、お呼び出しがかかる。彼らが向かったのは、生徒会長室と書かれた、重厚な作りの部屋だ。逆光で、本人の顔がしかとは分からないようにして、マイヤーは生徒達に命を下す。
「星読み様からのお告げだ。龍の血を引く少年が、自暴自棄になり、街中で騒ぎを起こすらしい。妖魔が糸を引いている可能性が高い。至急保護してくれ」
頭を垂れる生徒三人。こうして、物語はＢパートへと進むのだった。
ＣＭ明け、八樹を保護するべく、三人は星読みの命に従い、舞台となる鎌倉の背景から、別の町へと向かっていた。
「うーん、八樹自身が災厄を起こす、ということは本人には伏せておいた方がいいかな」
移動シーンの最中、そう提案する亮太。
「どうだろうね。例え伏せておいても、起こる時は起きるしぃ。それに、星読みサマだって、そう言ったわけだろ？」
軽い調子で、背中を電車のソファに預ける篤史。本来、ＺＥＲＯでは、現地まで転移を行えるのだが、ここは三人のキャラクター性を伝える為、あえて移動シーンを撮影している。
「お前はー、真面目にやる気があるのかよ」
「ありますよー。でなきゃ、八樹を助けになんかいかないですから」
亮太に怒られても、まったく顔色を変えない篤史。これも、いわばボケツッコミの間柄である事を表現する為の、重要なシーンだ。そして、しばらくそんなやり取りをした後、龍雄に「二人とも、いい加減にしてください。喧嘩していたら、八樹さんを助けられませんよ？」と抑えられ、シーンは八樹が追い立てられる場面へと移る。
「へー、あれが八樹か。ホントに龍なんているもんなんだなー」
感心したようにそう言う篤史。台本には、『八樹は厄害を呼ぶという噂が流れ、実際に村で色々な厄害が発生。八樹は大きなトラブルが自分に起きる前に放浪の旅に出る』とある。が、そこは、後で合成するので、今は誰もいなかったりするのだが。
「しかし、相当嫌われているな」
「いや待て。何かおかしいな‥‥。いかに龍とは言え、ここまでの仕打ちをうけるなんて、ありえない‥‥」
コンビニさえ入れない状況に、眉を潜ませる篤史と亮太。
「くくく。そうだ‥‥。お前に居場所などない‥‥」
一方、彼をそこへ導いているのは、自分の生み出した幻術で、テリトリー内へと誘導している堕神‥‥風見だ。
「精々、死ぬなら『鈴』を使ってからにしてくれよな」
満足そうにそう言い、サディスティックな笑みを顔に貼り付けて、カメラの向こうへと消える爪牙。その姿を目撃した亮太は、忌々しげにこう言う。
「どうやら、この騒ぎには、妖魔が糸を引いてるらしいな」
「分かってらぁな。保護するぜ」
軽い調子だが、やるべき事は心得ていると言う設定なので、姿を消した爪牙を追いかける三人。それに気付いた彼は、建物の影に潜んでいた堕神に、こう命じた。
「余計な真似をしやがる。連中が追いつく前に、鈴を使わせちまおうぜ！」
彼が「足止めはしておく」と短く言って、闇に潜む。直後、歪む空間。とは言え、照明が少し落とされた程度なのだが。
「まずい‥‥！」
その歪んだ空間の中で、爪牙に襲撃される彼。まだ自分の力に気付いていないのか、近くに居たドライバーに助けを求めるが、返礼は空き缶。運悪くステンレス性のそれは、彼の額に傷を作る。
「あーっはっはっは！ それでいい、それでいいのさ！ さぁて、仕上げと行こうかぁ！」
「居場所なら、我らが作って進ぜよう」
そこへ、爪をひらめかせる爪牙。周囲を包囲するよう、彼を蔑む人々の幻が浮かび上がる。
「さぁ‥‥。龍鈴を使え‥‥」
そそのかす爪牙。八樹が、それを使うのを見届けようと言うのだ。設定では、龍鈴は大規模な雨雲を呼び嵐や轟雷を操る道具で、形状は柄に鈴が嵌めこまれた短剣の退魔法具。使用は印を結んで精神統一する必要がある‥‥なのだが。
「止めろ八樹！」
そこへ、彼を庇うように走りこむ亮太。次いで、篤史と龍雄。彼らは、八樹を守るように三方を固め、そしてこう言う。
「よう。だいぶやられてるようだな？ ドラゴンボーイ☆」
軽口を叩く篤史に、亮太が「ふざけてるんじゃない」と注意する。
「我々は君を保護しに来た者だ。ここにいては、君の為にもよくない。同行してくれないだろうか？」
彼がそう続けるが、首は横に振られてしまう。どうやら、彼らにつく気はないようだ。
「聞き入れてもらえないか‥‥」
すっかり人間不信に陥っているのだろう。そして、それを引き起こした張本人である爪牙は、歯軋りしながら、ゆっくりと獣人化する。
「ふん。貴様らに、龍鈴はわたさねぇぜ！」
彼は、手に持った何か白いものを放り投げた。台本には、『人間の歯から、獣の牙が出現』とある。その直後、篤史の表情から、笑みが消えた。
「ここで引いたら、俺達がここに来た意味がなくなる‥‥」
亮太はそう言うと、八樹の方を振り返り、力強く約束してくれる。
「大丈夫だ、お前のことは必ず守ってやる」
妖魔の好きなようには絶対にさせないし、本気であることを伝えるためにも。
「ちっ。余計な真似を‥‥」
応戦する爪牙。が、敵役なので、三人がやる気を見せると、２〜３発受けたところで、退場となる。
「精々その鈴、首に付けときな！ お守りが分かり易いようにな！！！」
最後には、爪牙が捨て台詞を残すのがお約束だ。瞬速縮地でカメラの無い所に移動し、消えたような演出する。そしてその直後、亮太は八樹にこう言った。
「今すぐに信用しろなんて言われても、無理だとは思うが、安心して暮らせる場所くらいなら、提供できる。一緒に来いよ。俺達の学園に」
こうして結局、八樹は神室川学園へ向かう事になる。それは、彼らが自分の為に、命がけで戦ってくれたからだった。
