幻想の王国で愛を語ろうアジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
姫野里美
|
芸能 |
3Lv以上
|
獣人 |
フリー
|
難度 |
普通
|
報酬 |
7.9万円
|
参加人数 |
6人
|
サポート |
0人
|
期間 |
12/25〜12/29
|
●本文
クリスマス。
恋人達が浪漫に身を焦がし、子供が夢を膨らませる‥‥そんな一日。
おおよそキリスト教の入っている国ならば、商売根性の多少はあれど、まぁ楽しく過ごす一日だ。
ここ、LH柏木でも、それは同じである。だが、マスターは少々頭を抱えていた。
「どうしたんです?」
「いや。実は‥‥この間のチャリティライブと、ネタがかぶっちまうなぁと思ってな。場所は違うんだが」
そう言って、彼はプリントアウトしたメールを見せる。それには、こう書いてあった。
●演奏会のお誘い●
クリスマスイベントを行っている当園では、園内の舞台で、演奏を行ってくれる方を探しています。
当日は、クリスマス特別番組の撮影も入りますので、当方のクマと共演していただき、楽しいステージにしてもらいたいと思っております。
どうかよろしくお願いいたします。
「これって、こないだのチャリティライブと、あまり変わらないッすね」
「だろ? 何か一ひねり欲しいんだが、いい案思いつかなくてなぁ」
頭を抱えるマスター。舞台で歌を流しつつ、愛を語るとゆーんは、それなりに浪漫ではあるのだが、やるほうは面白くないらしい。そらそうだ。
「この、撮影ってのはナンです?」
「こないだ、ヒメがちらっと言ってたが、クリスマスをロマンチックに過ごそうシリーズだと思うぞ。ほら、よくバラエティで中継かかる奴だ」
お家で見ているカップル視聴者や、遠隔地でなかなか行けない方にも、それらしき雰囲気を送ろうと言う企画である。時期になると、ミニサイズから特番枠まで、あちこちでやっている。
「ああ、カップルか‥‥。まぁ、俺にはあんまり関係ないっすけど」
「なんだ。お前もシングル組みか?」
もっとも、それすら関係ない奴もいるのだが。マスターも、その時期はクリスマスライブをやるので、忙しい。
「いや、俺は馬が恋人なので‥‥」
「‥‥当てたら奢れや」
ちなみに、その時期は競馬の〆デーなので、ボーナス片手に鉄板コースもいるようだ。
「それはともかく、一応張り出しとくが、何かこないだのやつと、一線を画すような舞台にしたいもんだなぁ」
「ただ歌ってるだけじゃ、浪漫もへったくれもないですからねぇ」
頷くマスター。
「とりあえず、またどうにかしてくれや。あと、今回はドラムとピアノはないと思ってくれ。園内をパレードしながら演奏する都合があるからな」
故に、あまり大きな楽器は、無理そうだ。まぁ、世の中には携帯用打楽器もあるので、その辺は工夫すればどうにかなるようだが。
【ファンタジーランド公演のお誘い。まぁ、タダで入れると思って、カレシカノジョ持ちは、クマのぬいぐるみにクリスマス祝いをさせるステージを作ってくれ】
なお、練習場所に、LH柏木を提供する用意はあるらしい。
●リプレイ本文
●打ち合わせ
その日、パレードに参加する面々は、LH柏木に集まり、打ち合わせを行っていた。
「………仕事か」
もっとも、その1人である磐津 秋流(fa5271)は、皆が練習している間に、ランド側とパレードに使う着ぐるみ等々の、細かい打ち合わせに出向いているのだが。
「僕、クリスマスシーズンの、夜の雰囲気って、大好き」
へにゃんと頬を緩ませてそう言う四菱ベンジャミン(fa5286)。普段は、それなりに22歳男の子なのだが、こう言うムードのあるものには、弱いようだ。
「ファンタジーランドか‥‥。そういえば昔、娘と来たことあるな‥‥」
まだ子供が小さな頃を懐かしむように、縞榮(fa2174)がそう言う。と、アメリカ人のミレル・マクスウェル(fa4622)は、ちょっとうらやましそうに、こう答えた。
「私、アメリカのなら行ったことありますけど、日本のは初めてですね。楽しそうなところですけど、今回はお仕事ですから」
その割には、あちこちにあるアトラクションに、興味津々と言った顔つきだ。その姿に、家族の事を思い出したらしいサカエパパは、こんな風に呟く。
「嫁さんは忙しくて後から来たっけな‥‥。今は娘も忙しいから来れないだろうな‥‥また一緒に行きたいなあ‥‥」
「…あとでプライベートで来ることを誓って! とにかくよろしくお願いしますっ!」
ぺこりと頭を下げるミレル。楽しむのはお仕事が終わってからと言う事で、彼らは自分達のパートを決め始める。
「私はそうだな‥‥一番得意なサックスで演奏することにしましょう。パレードをしながら観客をも巻き込んでの演奏会‥‥という感じになるでしょうか?」
サカエパパがそう言った。これなら、携帯性にも優れているし、なによりバンドの素材としても充分だ。
「俺の使用楽器は、飾り付けたピアニカです。ここで、音合わせと行進の練習して、いいんですよね?」
「ああ、狭いから、あんまり出来んかもしれんが、好きに使ってくれ」
柊の葉っぱと、金糸で縁取られた赤リボンを結びつけたピアニカを見せながら、駒沢ロビン(fa2172)が確認を取る。確かに、小学校の教室一つ分しかないライブハウスでは、大型楽器やテーブルセットを全て除けたとしても、ちょっと動きづらいかもしれない。
「僕は、小学校の鼓笛隊で使ったやつだな。名称、小太鼓? でいいのかな」
どこからか借りてきたらしい、ブラスバンド用の太鼓を、ハーネスにぶら下げるベニー。と、マスターはヴァッツ向けのメールに、持込リストと称して、数と名前を明記して行った。
「あとは、木琴を合わせられる機材があればいいだけどな‥‥。こっちだと重そう」
台座つきのシロフォンを軽く叩きながら、自身の希望を告げるベニー。とりあえず、大型楽器は後回しにして、先に小型のものを決めることにしたようだ。
「私はこれがよさそうですね」
高川くるみ(fa1584)が、そう言いながら、ショルダーキーボードを肩に担ぐ。かなりずしりと食い込む重量なそれを見て、ベニーがレッツチャレンジとばかりに、シロフォンを台座からはずす。
「それが大丈夫だとすると、こっちも負けてらないな。肩痛そうだが、頑張るか‥‥」
が、中身はウサギさんの彼、2分も歩かないうちに、へたり込んでしまった。
「無理するなや」
「そうですよ。獣人化しないと大変ですし。私もうさみみ付けておきますから」
見れば、くるみの頭にも、おもちゃの耳がついている。自前ではなさそうだ。
「いえ、大丈夫‥‥。そうしておこうっと」
気を張って、木琴も持ち上げようとしたベニーだったが、腕が上がらない。このままでは、太鼓の演奏にも支障が出てしまうので、あっさり諦めて、半獣化してしまう。
「で、練習の方ですけど、歩きながら行いましょうか。本番前に身体を慣らしておかないと、大変ですよね」
パレードともなれば、LH柏木の狭いステージとは違って、結構な距離を歩く事になる。念の為に言うと、ファンタジーランドは、某野球場数個分の広大な面積を誇っているのだ。
「ねーねー。こういう風にしたら、可愛いと思うんだけど」
そこへ、ベニーが本物の耳が付け耳っぽく見えるよう、フードを被って見せた。
「アレにあわせると、曲調は基本的に明るく楽しいものの方がよいですよね。クリスマスはやっぱりおめでたい日ですから」
くすっと笑って見せながら、くるみはそう言って、定番クリスマスソングを練習し始める。ただし、ちょっぴりアレンジを加えて。
「そうだ。クマ役は‥‥そこの競馬に行きたそうにしているお兄さんでどう?」
店番しながら、競馬新聞にチェックを入れていたバイトくんを、すかさず御指名するロビン。
「曲はクリスマス系やマーチを中心に、メドレーという感じでしょうか? 即興で歌を乗せられるような伴奏も練習しておきましょう〜」
俺かよっ! と言うクマ兄の文句なんぞ、かけらも耳に入れず、ピアニカの演奏を開始する彼。
「‥‥ま、がんばれや」
気の毒そうにそう言って、生贄になったバイトくんの代わりに、仕事へ戻るマスターだった。
●パレードに愛を込めて
さて数日後。打ち合わせと練習を終えた一行は、従業員専用の入り口から、舞台の裏側にある控え室へと通されていた。
「さすがに市販の飴は駄目だったが、代わりにこいつを手に入れてきた。入り口で配っている奴と同じものだそうだから、安心して配っていい」
ヴァッツがそう言って、樹脂製の入れ物に入った小さな袋を、ミレルへと手渡す。中には、金属製のピンバッチが収まっていた。メリークリスマスと書かれているそれは、クマのイメージらしく、はちみつの小瓶があしらわれている。
「配るのは、ミレルさんと、クマさん頼みますね」
「はーい」
元気良く返事するのは、蜂の着ぐるみを着たミレル。良く見れば、ピンバッチの入った入れ物は、蜜壷の形をしていた。どうやら結局、巻き込まれたバイト君は、そのままクマの着ぐるみを着せられ、連行させられたようだ。
「パレード中、ずっと演奏しっ放しだと、倒れちまうからな。花火のスケジュールに合わせて、適時休憩してくれ」
そう言って、タイムテーブルを見せるヴァッツ。園の方も、それは考えていたようで、一周したら、別のエリアの休憩所へ向かうよう、指示されている。
「メリークリスマース☆ 僕達と楽しく歌いましょう♪」
そう言って、パレードの先導をするように、ぶんぶんと踊りまわるミレル。足元についたローラーブレードが、移動力の鍵だ。と、彼女は人ごみから離れた場所で、カメラに囲まれているある人物を見つけ出した。
「あ、そこいく綺麗どころつれたおにーさん! 良く見りゃ、太平洋さんじゃないですか! どうです一曲」
「い、いや俺はっ!」
どうやら、別の番組ロケで来ていたらしい太平洋。傍に2人ほど綺麗どころがいるのを見ると、どこぞのデートロケのようだ。
「ほらほら、お連れのお嬢さんも興味津々ですし、どうぞどうぞ。定番ソングなら、洋ちゃんも歌えるでしょ?」
ミレルが洋ちゃんに誘いをかける。その情報を、親戚の子から聞いていたロビンは、こう囁いていた。
「…ソロでも構わないですよ? 愛を歌ってくれるなら」
「だ、だから歌はっ」
下手糞だからいやじゃあとうめく洋ちゃんに、意地でも逃げられてなるものかと、ミレルは「じゃあ、ダンスでも☆ 一緒に踊りましょう♪」と、小首をかしげてアピール中。その耳には、ぴょこりとリスの耳が映えている。蜂なのに。
「クマとリス‥‥。ジョーク?」
「はっ! そ、そう言うわけじゃっ!」
あくまでもパレードを盛り上げる為ですよぅ。と主張するミレル。歌や演奏は得意じゃないから‥‥と言うのが、彼女の言い分だ。
「ジョークでも良いじゃないですか。彼女の為に、愛の歌でも歌ってくださいよ」
「し、仕方ないなぁ」
マイクは無しで勘弁‥‥と、歌の輪へと加わる洋ちゃん。だが。
「わー、十人並み」
ロビンが呆れたようにそう言った。マジで歌下手糞である。いや、それはちょっと語弊があった。単に『一般人並』なだけなのだ。
「賑やかな曲なら、ごまかせるかもしれませんね。ちょっとアレンジしてみましょう」
と、その音痴っぷりを見て、他の観客も輪に加われるよう、テンポを上げるくるみ。雰囲気を見て、即興演奏を加えるのは、自分の力を上げるのにも、重要だと思ったから。
だが、それを聞いて、栄パパが困惑したようにこう言った。
「え、変えるの? これ以上早くしたら、体力もつかなぁ‥‥」
まぁ、その辺のアドリブは、上手く折り合いをつけなければ、プロ失格である。仕事終わっても、筋肉痛と疲労で2〜3日は動けなくなる事を覚悟しつつ、次第にジャズっぽくなってきたクリスマスソングに、サックスを合わせる。
「ほら、チャンスだよ♪ さん、はい!」
雰囲気の出てきたそこで、ベニーが洋ちゃんをたきつける。
「あ、ミレルちゃん。渡す飴は一つだけだよ?」
「はぁい☆」
ヴァッツの指示で、手渡されたのは蜂蜜のど飴。もちろん、一つだけである。しかし、そんな事をしなくとも、カップルはあちこちでラブらぶな雰囲気になっていた。
「うーん、もしかして愛の歌を歌うメンバーがいた方がよかったかなぁ」
「親戚の子の話では、ヒメ先生と楽しくディナー中だってさ」
くるみに、そう教えるロビン。と、彼女は「それなら」と言い置いて、カップルに相応しい、スローテンポの曲へとチェンジする。
「2人の為にも、ムードのある曲を演奏しなくちゃね」
「手がふさがっているなんて言い訳は、効かない様にしてあげるよ」
曲調から、雰囲気を察したベニーが、あわせるようにテンポを落としてくれた。
「うみうみ。これでばっちりだ」
ラブソングを歌える御仁を確保できなかった為、何か目新しい要素を‥‥と思ったロビンの計画にも、愛を語れるバラードは、お気に召した模様。
「あ、花火」
その曲が終わった直後、カップルを祝福するように、打ちあがる花火。ヴァッツが、園のスケジュールとあわせたゆえの演出だった。
「幸せそうなカップル‥‥には見えない奴もいるな」
その彼に、そう言われた洋ちゃんは、なんだかロケ中のトラブルがあったらしく、ぎゃーすかとわめいている。どうやら、綺麗どころだと思ってデートしていた相手が、実は男の子だと言うドッキリにあっちゃったようだ。
「まぁ、楽しく演奏できれば良いんじゃないか?」
その光景に、サカエパパがそう告げると。
「そうだな。仲間と過ごすクリスマスは、良い思い出になるしな」
ヴァッツも、満足そうに頷く。
こうして、ファンタジーランドでの演奏会は、賑やかさと幸せとを、来園者の思い出ページに刻み込むのだった。