恐怖のナマハゲアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 姫野里美
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/03〜02/07

●本文

 節分。
 この時期、東北は秋田県では、毎年伝統の行事として、各地で『ナマハゲ神事』が行われるのが慣わしだ。
 知らない人のために説明すると、ナマハゲ神事と言うのは、子供の無病息災を願い、また悪霊を払う為、『ナマハゲ』と言う化け物を、子供のいる各家に送り込むと言う行事だ。
 で、そのナマハゲ、子供を脅しまくって泣かせるのが、神事のお仕事。子供が泣けば泣くほど、悪霊も災いも逃げていくらしい。
「と言うわけで、私は次回、ナマハゲ神事の取材に行く事になりました。ああ、まっとうなお・仕・事☆」
 お目目にハートマークを浮かべつつ、そう言っている洋ちゃん。だが、世の中そう甘くはなかった。
「って、せっかく人がナマハゲやってるのに、ぜんぜん子供驚かなくなってるじゃないか!!」
 地元の資料館から、装備一式を借りてきた洋ちゃん。しかし、現代っ子の子供は、その程度じゃまぁぁぁったく驚かなくなっていたのだ!
「いやー、やっぱ駄目でしたか。最近、子供がゲーム慣れしちゃって、こう言うのじゃ、顔色ひとつ変えないんですよー」
 あははは‥‥と、申し訳なさの欠片もない棒読みで、そう話す係の人。子供はと言えば、せっかく登場したナマハゲに、ティッシュの丸めたのだの、その辺に落ちてた小枝だの、果てはカチンコチンに固めた氷みたいな雪をぶつけてきたりと、まるで怖がっちゃいない。
「くそう! こうなったら、そう言うクソ生意気なガキ‥‥いや、子供が、泣いて謝るような、激烈に怖いモンを用意してやろうじゃないのさ!」
「お願いしますねー」
 にやりと笑って、そう応える係りの人。そこはかとなく企み風味なのは、気のせいじゃないかもしれない。

『子供が悪夢にうなされそうなナマハゲを作るから手伝ってーー』

 珍しく洋ちゃんからメールが入ったのは、言うまでもない。

●今回の参加者

 fa0427 チェダー千田(37歳・♂・リス)
 fa2340 河田 柾也(28歳・♂・熊)
 fa2341 桐尾 人志(25歳・♂・トカゲ)
 fa3072 草壁 蛍(25歳・♀・狐)
 fa3306 武越ゆか(16歳・♀・兎)
 fa4044 犬神 一子(39歳・♂・犬)
 fa4361 百鬼 レイ(16歳・♂・蛇)
 fa4776 アルヴィン・ロクサーヌ(14歳・♂・パンダ)

●リプレイ本文

 その日、金曜いいでしょうのOPは、いつもと違っていた。何故か、北海道キー局の企画会議室が映され、その直後、どこかの中央管制室みたいな画像が映り、壁には大きく世界地図が掲げられていた。

 ナレーションの草壁 蛍(fa3072)さん曰く。

2007年、世界のナマハゲは絶望的状態に立たされていた!
発達したヴァーチャルリアリティの恩恵は、子供達に恐怖への耐性をつけ。
世論の関係上、一線を越える事を封じられたナマハゲはただの変なオッサンに成り下がるばかり。
しかし伝統行事保持の為には恐怖のナマハゲの存在は必須だった!
日本文化の為に技術者達が立ち上がる!

『ナマハゲの恐怖を! 子供が悪夢にうなされそうになる程の恐怖を!!』

 どどーんっと言う効果音と共に、ナマハゲ開発部の戦いが始まった‥‥。
「必要なのは恐怖と絶望のアピール。そして一切の外敵に屈しない外装」
 映し出されるのは、ナマハゲ衣装を作成する犬神 一子(fa4044)と百鬼 レイ(fa4361)。
「物理的暴力への回帰。恐怖を実感させるには命への危機感を募らせるしかない」
 持ち込まれる大量の血のり。
「試作品の完成。だがこの衣装を纏えるヨゴレ芸人は!?」
 ぷいっと横を向く武越ゆか(fa3306)。
「大丈夫だ。我々には太平洋やチェダーやまいむ☆まいむがいる!」
 びしぃっと指先を突きつけられる4人。直後、タイトルがブラックバックに出現。

 プロジェクトXYZ 【挑戦者たち】
 〜恐怖を呼び覚ませ! ナマハゲを作ったヨゴレ達〜

「先に根回し済ませましょう。ガッコの予約って取れてます?」
「明日の午前中に、子供が授業受けている隙を狙って、アポとっとります」
 チェダー千田(fa0427)の問いに、桐尾 人志(fa2341)が予定表を見ながら、そう教えてくれる。
「よし、では計画は明朝9時。我々の恐ろしさを、世の子供に教え込んでやろうではないか」
「「「らじゃー!」」」
 河田 柾也(fa2340)が、悪の秘密結社の幹部調で音頭を取る。こうして、通称『ミッション・ザ・NAMAHAGE』は、開始されるのだった。

 数日後。
「はーい。自分だけはヨゴレじゃない‥‥。確信もって言える、応援バラドル武越ゆかです!」
 学校の前で、レポーター気分でマイクに自己紹介をたれながすゆか。
「今日は、節分の夜に迫り来る最凶モンスターなまはげを、良い子の皆と一緒に迎え撃とうと思います☆」
 そう言って、てくてくと皆の集まっている体育館へ、カメラの藤やんと共にむかうゆか。持ち込んだ携帯ゲームをやったり、転がっていたボールを蹴り飛ばしたり、追いかけっこをしている子供を捕まえて、彼女はこうマイクを向ける。
「皆は勿論良い子だから、なまはげなんて怖くないよねっ♪」
「てか、ナマハゲって近所のおっちゃんじゃん」
 確か、かーちゃんの知り合いのなんとかさんが‥‥とか、ミもフタもない台詞のオンパレードだ。が、彼女はまったく話を聞かずに、子供達の応援に回る。
「え? ちょっと怖い? 大丈夫! 大平さんと、ゆかの応援が付いてるわよっ!」
 そんな暴走気味なゆかちゃんに、ため息をつきつつ、子供の中に紛れていたアルヴィン・ロクサーヌ(fa4776)が、藤やんから手渡されたフリップを読み上げる。
「えぇと、ルールは以下の通りです」
 それによると、ナマハゲ達は、それぞれ以下の方法で、採点されてしまうそうだ。

 どれくらい恐怖があったかの『恐怖点』。
 どれくらい造形に難易度があったかの『技術点』。
 どれくらい古式にゆかしいものが出来たかの『伝承点』。
 どれくらい嘆美であったかを示す『ヒメニョンポイント』。

「以上4点から評価しようと思う」
 最後の1点が非常に謎だが、まぁ細かい事は気にしないであげるのが、優良視聴者と言うものだ。
「そんなわけで、こちらのお宅では、丁度ナマハゲ神事の真っ最中です☆」
 ゆかが実況がてらそう言って、体育館の入り口を指差す。
「あ、怖〜いなまはげさんが襲ってきました!」
 ドライアイスと共に出現したのは、股間にミニナマハゲをつけた、今話題の全身タイツファッションに身を包んだ洋ちゃんである。
「ってか、誰だ! この寒いのに、ミニナマハゲお面なんか、設定したのはーー!」
 真っ青な顔してわめきたてる彼。話は数時間前にさかのぼる。
「あれ〜?洋ちゃん、この衣装着たいっつー顔してねェ〜?」
「いや着たくない! 断じて着たくないぞ!」
 チェダーに強引に服を脱がされ、あーーーっと言う間に、衣装チェンジをさせられてしまったそうな。
「坊やがんばれっ! 泣くなっ! 例え、眼に玉葱の汁が入ったって泣いちゃ駄目!」
 勘違いゆか、ケタケタ笑い転げている小学生を、そう言って励ます。アルの「いやこの場合、受けちゃって笑い泣きでは‥‥」と言う台詞は、聞こえちゃいねぇ。
「えいっ! 鼻の穴にも玉葱詰めちゃえ☆」
 逆に、隠し持っていたたまねぎの欠片を詰め込み、さらに滂沱の涙を流させていた。
「ゆかお姉ちゃん、洋兄ちゃん、共に0点っと‥‥」
 注目されていないのをいい事に、こっそりランキングをつけるアル。こうして、子供達は、順番に校舎を回ってもらうと言う、真冬の肝試しみたいなナマハゲ神事が開催されるのだった。

 アルヴィンの組になった。一行は、ゆかや洋ちゃんも引き連れて、まずは男子トイレへと向かう。
「あれ? 電気つかないよ?」
 普段なら、すぐに明るくなるトイレだが、この日に限っては、まったく点かない。体育館は問題なかったので、停電ではないはず‥‥だが。
 その直後、銃声と金属を蹴り飛ばしてミンチにするような効果音が響いた。突然の事で、驚く子供。聞こえてくるのは、エフェクトたっぷりの意味不明な単語だ。
「ォゥワレ‥‥宿題せぇへんらしいのォ?」
 現れたのは、サングラスに白スーツ、光りモンアクセ、太眉&顔面傷メイクで『そっちの人』風衣装を着たチェダーである。一応、申し訳程度にナマハゲのお面を被っちゃあいるが、斜めに被って顔は丸見えである。
「悪い子かァァン? お母ちゃん泣いとんぞコルァ」
 子供、口あんぐり。どう答えていいかわからず、きょとんとしている。
「約束守られへんようなら‥‥また来るけぇのォ? ナマハゲがなァ」
 ライターの火をちらつかせ、子供に迫るチェダー。が、子供はむしろどう対応していいかわからないようだ。
「チェダー、伝承点は0‥‥っと」
 まぁ、ある意味仕方のない事である。
「次はこちらの教室。お邪魔しm‥‥な、何ぃ! あのなまはげは伝説の‥‥!」
「知っているのか? ゆか?」
 説明しようっ。この場合、誰かが驚いたら、そう言わなければならないのだ。
「古代中国に維寧苛という男が‥‥。彼の頭は生の禿であり、以降鬼面を被り悪童を追う者をナマハゲと‥‥」
 ばーい、罠姪書房『パケ代の恐怖』より。無論、そんなネタで騙されるほど、最近の子供は馬鹿じゃない。
「嘘はいけないよ、ゆかお姉ちゃん」
 呆れたようにそう言うアル。と、その直後。
「泣く子はいねがぁ‥‥」
 お決まりの台詞と、はさみを鳴らす共に、廊下の向こうから現れるナッキー版ナマハゲ。
「うわー。こないだやったゲームそっくりーー」
 目を輝かせて、そう評すアルヴィン。そのナマハゲはと言うと、のっぺりとした顔立ちで、口は頬の中ほど辺りまで裂けていて黄色い歯をギラリ☆
 無機質な笑みを浮かべて、その手には、包丁ではなく、高枝切りバサミを装着していた。刃先は規定により潰されている筈だが、所々に血のりを塗りつけ、牙にも食紅で赤くデコレーションが施されていた。
「モケケケケ!」
 その無表情なまま、奇声を上げるナッキー。そのまま、高枝切りバサミをふりあげつつ、ダッシュをかける。
「モケケケケ!」
 そのまま、追い掛け回す彼。しかし、ナマハゲお面は、前が見辛いらしく、対象者は手当たり次第と言う奴だ。
「って、なんで俺までーーー!?」
 で、その結果、洋ちゃんが足を引っ掛けられて、顔面強打してしまった。
「うーん。芸術点と恐怖点はいいけど、伝承点今ひとつだねー」
 アルヴィンはそう点数表に書き込む。まぁ、そもそも『ホラー映画に出てくるような奴』を意識していたので、伝承点が低くてもやむなしと言った所だ。
「あー、びっくりした。ん? ノックの音です。なまはげもノックするんですね♪」
 ようやくはさみ魔人ナッキーから逃げ出したゆか、駆け込んだ教室の扉を叩く音に、無警戒で笑顔の応対に出る。
 が。
「きゃああああ!!」
 悲鳴と共にフェードアウト。どうやら食われたらしい。
「よ、様子見てこようか‥‥」
「そうだねー‥‥」
 やれやれ‥‥と言った表情を浮かべながら、アルヴィンは一緒にいる少年達と共に、そぉっと顔を覗かせる。
「はい、どーも。まいむ☆まいむの太い方、コーダでございます。本日は、ナマハゲ神事取材に、秋田県のとある学校にお邪魔しておりまーす」
 目を丸くするアルヴィン。いつの間にか、ゆかがコーダくんに化けていた。
「では、早速学校の生徒さんに、話を聞いてみましょうっ!」
 彼はまったく気にせず、マイクをある人物にさしだす。
「いや、そいつは学校のの生徒じゃ‥‥」
 ないんだけど‥‥と言いかけるアルヴィン。見ればコーダくんは、銀色タイツに身を包み、まるで某宇宙人みたいなコスチュームに身を包んだキリー君に、マイクを向けていた。
「いやー、お手伝いとは感心ですねー」
「普段はしないんだよなー」
 同行していた学校の担任に話を振られ、大人しそうに頷くキリー。混乱した表情の子供に、コーダくんはこう尋ねた。
「この後、どういう流れなんですか?」
「学校一周して、何かが起こるらしいですよ。ねぇ?」
 まるで、アルヴィン達がいないようなそぶりである。しかもリトルグレイ・キリー、時折彼らの方を向いて、ニタァリと笑う。
「いや、そいつ本人じゃないってばー!」
「では、我々もお供しましょうか。いいよね?」
 アルヴィンの台詞にも、まったく耳を貸さず、彼らはキリーくんを先頭に、ナマハゲ神事の続きをはじめる。
 その直後だった。
「けしゃしゃしゃしゃ!」
 けたたましい奇声を上げながら、ケラミノにハバキ、鬼の面をつけ、鉄仮面と鎖帷子を着込んだ蛍さん、隠れていた子供を追いかけに回る。伝統的なナマハゲスタイルだが、一つ違う所は、鬼の面に小型拡声器を仕込んで、大声度数を上げている。
「もけけけけけ!」
 さらに、振り切ったはずのナッキーまで合流し、2人して廊下を駆けずり回っていた。
「おぉっと、ナマハゲチーム、どうやら学校を制圧して、子供達の居場所を奪っているようです!」
 それを見たコーダ君、併走しながら実況に入る。とは言え、相手は有名ムチャ女王様なので、あっという間に振り切られてしまう。
「捕まえた‥‥」
 そして、見失ったと思ったその時、後ろから声をかけられる。ぎくーりと振り返ったその耳元へ、けたたましい笑い声。
「けしゃしゃしゃしゃしゃしゃっ!」
 実際は、見えないように腕をまくっているだけなのだが、子供達から見れば、妖怪大声女に捕まっているように見えただろう。
「うわぁぁぁぁ! ぎゃああああ!!」
 コーダくんの方も、大げさに騒ぎながら、べりべりと偽皮膚をはがさせている。と、近くの子供が、1人意外な事を言い出した。
「お、おい! そこのコピー星人! て、手伝えっ!」
「は、はいっ!?」
 指定したのは、なんと自分のふりをしていたはずのキリーくんである。戸惑う彼を、蛍さんの前に突き出し、本人は彼女に、立てかけてあったモップを振り下ろす。
「おっちゃんを放せーー!」
「ふんっ!」
 もっとも、蛍さんはプロなので、子供の一撃なんぞ、あっさりコーダ君シールドで防御してしまう。そして逆に、後ろの方で不気味な笑みを浮かべる御仁を呼び込んでしまった。
「ほほう。いい度胸だなぁ‥‥」
 低い声音で言いながら現れたのは、鬼の仮面とミノを被り、右手に包丁、左手に木の桶と髪を掴んだ生首を持った犬神だ。
「ボスだ」
 ごくっとつばを飲み込むアルヴィン。技術点には満点を振って良いだろう。包丁には血糊。桶には血がたぷんたぷんと入っており、桶の縁には剥いだ人の皮。桶の中から切り取られた火傷した手が顔を覗かせていると言った、リアリティばっちりのシロモノである。
「わるいごはいねがぁ‥‥」
 どすを聞かせた声で、持っていた生首を放り出す。まるでボールのように転がったそれは、なんと洋ちゃんの生首である。まぁ、誤解のないように付け加えておくが、全て犬神さんが作った、限りなく精巧な小道具だ。
「わるいごの皮ははがねえとなぁ‥‥」
 逃げようとした少年を、その膂力に物を言わせて捕まえてしまう犬神。さすがに衣装の裏側で半獣化しているので、子供どころか大人の力でも、振りほどけないに違いない。
「は、放せー。このやろーーー!」
「お前と同じわるいごの皮だぜぇ」
 じたばたと暴れる子供に、犬神は桶に仕込んだ偽の皮を、ぺーたぺたとなすりつける。気持ちの悪い感触に、悲鳴を上げる子供。
「うわぁぁ、やめろぉぉぉぉ!」
「あーあ、泣いちゃった。恐怖点満点っと」
 自分じゃなくて良かった‥‥と、気を失ったお友達を見て、用具箱の影に隠れつつ、そう思うアルヴィンだった。